【文献】
Nakamura, Y. et al.,Contact Time and Temperature Dependencies of Tack in Polyacrylic Block Coploymer Pressure-Sensitive Adhesives Measured by the Probe Tack Test,Journal of Adhesion Science and Technology,NL,Koninklijke Brill NV.,2012年04月16日,26(2012),231-249
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゴム試験部材を所定路面に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力の計測を、前記接触時間を異ならせて複数回実行するステップと、
複数の計測結果に基づき、前記引力に対応する粘着力と接触時間との関係式を算出するステップと、を有し、
前記ゴム試験部材を押しつけるときの速度及び引き剥がすときの速度を異ならせて前記引力の計測を複数回実行する、ゴムの粘着試験方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、小さな接触子を用いているため、ミクロなオーダーでの粘着力評価しかできず、部位毎の差異が大きく、精度が低いと考えられる。また、粘着力は、真実接触面積の変化の影響を受けるが、上記計測方法では、真実接触面積の変化が考慮されていない。さらには、接触子の押しつけ時間が変化するとゴムの緩和特性により真実接触面積が変化するため、押しつけ時間を正確に管理する必要がある。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的では、真実接触面積の変化も考慮したゴムの粘着試験方法、及びゴムの粘着試験システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0008】
すなわち、本発明のゴムの粘着試験方法は、ゴム試験部材を所定路面に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力の計測を、前記接触時間を異ならせて複数回実行するステップと、複数の計測結果に基づき、前記引力に対応する粘着力と接触時間との関係式を算出するステップと、を有する。
【0009】
このように、試験対象のゴム試験部材を路面に押し付け引き剥がすので、ゴム試験部材よりも小さい接触子を用いる場合に比べて、ゴム試験部材全体での粘着力の評価が可能となり、精度の高い粘着力評価が可能となる。
さらに、接触時間を異ならせて複数回計測し、引力に対応する粘着力と接触時間との関係式を算出するので、接触時間による真実接触面積の変化を考慮した凝着摩擦の評価が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
ゴム粘着試験方法は、ゴム試験装置を使用する。ゴム試験装置は、ブロック状のゴム試験部材Wと、平板状の模擬路面12と、を少なくとも2方向(X方向、Z方向)に相対移動可能に構成されている。そのために、ゴム試験部材Wを模擬路面12に押し付けてから引き離す粘着計測動作、及び、ゴム試験部材Wを路面10に押し付けた状態で路面方向(X方向)に沿ってスライド移動させる摩擦動作を実行することが可能である。ゴム試験部材Wは、土台11に取り付けられており、土台11には3方向の力を検出するためのロードセル等の圧力センサが取り付けられている。本実施形態では、模擬路面12が固定され、土台11が動作するように構成されているが、逆に模擬路面12が動作するようにしてもよい。
【0013】
本発明のゴムの粘着試験システムは、上記ゴム試験装置1と、ゴム試験装置1による計測結果を記憶する測定結果記憶部14と、計測結果から粘着力を特定する粘着力特定部15と、粘着力と接触時間との関係式を算出する関係式算出部16と、を有する。ゴム試験装置1を制御するコントローラは、ゴム試験装置1の駆動を制御する駆動制御部13が設けられている。本実施形態では、コントローラに、測定結果記憶部14と、粘着力特定部15と、関係式算出部16とを設けているが、これに限定されない。測定結果記憶部14、粘着力特定部15、及び関係式算出部16のうちの少なくとも1つが別の装置に実装されていてもよい。なお、本実施形態では、システム化しているが、人がゴム試験装置を操作して引力を計測し、粘着力特定部15及び関係式算出部16が実行する処理を人が行ってもよい。
【0014】
上記システムを用いたゴム粘着試験方法の一例について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
【0015】
まず、ステップST1において、ゴム試験装置1が摩擦工程を実行する。摩擦工程は、ゴム試験部材Wの一面全体を路面10に所定荷重にて押し付けた状態で路面方向(X方向)に沿って所定回数スライド移動させる。本実施形態では路面10はドライであるが、ウエット路面にて摩擦を行っても良く、評価対象とする路面状態を再現することが好ましい。路面10にてゴム試験部材Wを摩擦することで、熱によりゴム試験部材Wの接触面が性状変化し、粘着層が形成され、粘着力が向上する。本実施形態では、試験装置1が、ドライ路面にて300kPaにて15回スライド動作させた。荷重やスライド移動させる回数は適宜変更可能である。なお、摩擦工程は省略することも可能である。路面としては、実路面、試験路面、平板、凹凸に加工された路面等が挙げられる。
【0016】
次のステップST2において、ゴム試験装置1が粘着計測工程を実行する。粘着計測工程は、ゴム試験部材Wを所定路面12に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力を計測する。所定路面としては、実路面、試験路面、平板、凹凸に加工された路面等が挙げられる。条件としては、ドライ又はウエットのどちらも設定可能である。本実施形態では、金属板を用いた。粘着計測工程で用いる所定路面と、摩擦工程で用いる路面とは同一でも異なっていてもよい。
【0017】
次のステップST3において、計測した引力データに基づき、引力に対応する粘着力を特定する。例えば、
図3に示すように、引き剥がし時に作用する引力の最大値F
maxを粘着力としてもよい。このようにすれば、簡素な処理で粘着力を算出可能となる。
また、同図にて斜線で示すように、引き剥がし時に作用する引力を時間積分した値を粘着力としてもよい。計測した引力の値を0軸を基準に時間積分する。時間積分した値は図中にて斜線で示す面積に相当する。このようにすれば、引力の最大値F
maxだけではなく、時間変化も含まれるので、ノイズの影響を受けにくくなり精度が向上する。なお、ゴム試験部材Wを路面12に押し付ける方向をZ方向としており、検出された力Fzが正である場合には押圧力であり、検出された力Fzが負である場合には引力となる。
【0018】
ステップST2の引力の計測は、接触時間を異ならせて複数回(N回)実行する。Nは2以上の自然数であればよいが、多い方が好ましい。本実施形態では、0〜10秒で形成しているが、これに限定されず、種々変更可能である。なお、ステップST3の粘着力の特定は、引力を計測する毎に行ってもよいし、全ての計測が終了した後に一括して実行してもよい。
【0019】
全ての計測が終了した後(ステップST4:YES)、ステップST5において、複数の計測結果に基づき、引力に対応する粘着力と接触時間との関係式を算出する。具体的には、
図4A及び
図4Bに示すように、一つの計測結果を、粘着力をy軸、接触時間をx軸としてプロットし、プロットされた各点を近似式を用いて近似することで、関係式を算出する。本実施形態では、対数近似して得られた近似式を関係式としている。y=αln(x)−βである α、βは係数である。近似方法としては、最小二乗法を用いている。粘着力は接触時間に応じて対数的に変化するので、対数近似が好ましい。しかし、対数近似に限定されず、例えば線形や多項式で近似してもよい。
【0020】
図4Aは、引力の最大値F
maxを粘着力とし、粘着力と接触時間との関係を示す図である。図中の丸印が或る配合ゴムの計測結果であり、図中の菱形が別の配合ゴムの計測結果である。図中の線は対数近似式を示す。
図4Bは、引力の時間積分値を粘着力とし、粘着力と接触時間との関係を示す図である。
図4Aと同じ傾向を示していることがわかる。
【0021】
上記実施形態では、ゴム試験部材Wを路面12に押し付けるとき、及び引き剥がすときの速度が全ての計測にて同一にしているが、これを種々変更してもよい。ゴム試験部材Wを押し付けるときの速度及び、引き剥がすときの速度を異ならせて引力の計測を複数回実行すれば、ゴムの接触時間を異ならせるのと同様の評価が可能となる。
【0022】
<変形例>
図2の例では、ゴム試験部材Wが接触する路面は同一であるが、
図5に示すようにしてもよい。すなわち、引力の計測を接触時間を異ならせて複数回実行するステップ(ST2、3、4)を、複数の異なる路面に対して実行し(ステップST40)、接触面積と計測した引力とに基づき定まる単位面積あたりの粘着力の平均値を特定するステップ(ステップST41)を更に含み、単位面積あたりの粘着力の平均値と接触時間との関係式を算出する(ステップST5)。
【0023】
ステップST40において、引力の計測を複数の異なる路面に対して実行するとは、路面全体を別の路面に変更することでもよいし、路面のうち接触領域を変更することでもよい。
【0024】
ステップST41において、単位面積あたりの粘着力の特定とは、或る接触時間且つ或る路面にて引力を計測し、そのときの接触面積と引力から単位面積当たりの引力(粘着力)を計測し、更に別の路面にて同じ接触時間のもとで引力を計測し、そのときの接触面積と引力から単位面積当たりの引力(粘着力)を計測することが挙げられる。その他の方法としては、横軸に接触面積、縦軸に粘着力をプロットし、傾きを算出することで傾きを、単位面積あたりの粘着力として特定することも可能である。
【0025】
ステップST5において、粘着力の平均値と接触時間との関係式を算出している。これは、
図2の例と同じである。
【0026】
以上のように、本実施形態のゴムの粘着試験方法は、ゴム試験部材Wを所定路面12に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力の計測を、接触時間を異ならせて複数回実行するステップ(ST2、ST4)と、複数の計測結果に基づき、引力に対応する粘着力と接触時間との関係式を算出するステップ(ST5)と、を有する。
【0027】
このように、試験対象のゴム試験部材Wを路面12に押し付け引き剥がすので、ゴム試験部材Wよりも小さい接触子を用いる場合に比べて、ゴム試験部材W全体での粘着力の評価が可能となり、精度の高い粘着力評価が可能となる。
さらに、接触時間を異ならせて複数回計測し、引力に対応する粘着力と接触時間との関係式を算出するので、接触時間による真実接触面積の変化を考慮した凝着摩擦の評価が可能となる。
【0028】
本実施形態では、関係式は、対数近似して得られた近似式である。
このようにすれば、粘着力は接触時間に応じて対数的に変化するので、粘着力と対応する接触時間との関係式の再現性を向上させることが可能となる。
【0029】
本実施形態では、引き剥がし時に作用する引力の最大値F
maxを粘着力とする。
このようにすれば、簡素な処理で粘着力を算出可能となる。
【0030】
本実施形態では、引き剥がし時に作用する引力を時間積分した値を粘着力とする。
このようにすれば、引力の最大値だけではなく、時間変化が含まれるので、ノイズの影響を受けにくくなり精度が向上する。
【0031】
本実施形態では、ゴム試験部材Wを引き剥がすときの速度を異ならせて引力の計測を複数回実行する。
このようにすれば、ゴムの接触時間を異ならせるのと同様の評価が可能となる。
【0032】
本実施形態では、引力の測定の前に、ゴム試験部材Wを路面10に所定荷重にて押し付けた状態で路面方向に沿って所定回数スライド移動させる摩擦工程を実行する。
このようにすれば、実際のタイヤ走行時のゴム表面を再現でき、凝着摩擦の評価精度を向上させることができる。
【0033】
図5の例では、引力の計測を接触時間を異ならせて複数回実行するステップ(ST2、3、4)を、複数の異なる路面に対して実行する(ST40)。さらに、接触面積と計測した引力とに基づき定まる単位面積あたりの粘着力の平均値を特定するステップ(ST41)を更に含む。関係式を算出するステップST5は、単位面積あたりの粘着力の平均値と接触時間との関係式を算出する。
【0034】
例えば、ゴム試験部材Wのサイズが異なる場合は同じ路面の場所に接触させることが出来ず、凹凸のある路面では接触領域が異なり比較できないことがある。ところが、単位面積あたりの粘着力に換算することで、接触面積を考慮した粘着力により比較可能となる。
【0035】
本実施形態のゴムの粘着試験システムは、ゴム試験部材Wを所定路面12に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力の計測を、接触時間を異ならせて複数回実行するように、試験装置1を制御する駆動制御部13と、
複数の計測結果に基づき、引力に対応する粘着力と接触時間との関係式を算出する関係式算出部16と、を有する。
【0036】
このシステムを使用することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0038】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。