特許第6962762号(P6962762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962762
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/34 20060101AFI20211025BHJP
【FI】
   B60R19/34
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-186748(P2017-186748)
(22)【出願日】2017年9月27日
(65)【公開番号】特開2019-59403(P2019-59403A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 茂洋
(72)【発明者】
【氏名】金谷 庸平
(72)【発明者】
【氏名】北 恭一
(72)【発明者】
【氏名】正保 順
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−155981(JP,A)
【文献】 特開2007−283868(JP,A)
【文献】 特開2009−061845(JP,A)
【文献】 特開2006−205933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両幅方向両側において車両前後方向に延びる一対のサイドメンバと、
該サイドメンバより前方に配置されるバンパリインフォースメントと、
前記サイドメンバの前端と前記バンパリインフォースメントとの間に設けられるクラッシュボックスと、を備える車両前部構造であって、
前記クラッシュボックスは、略直方体状の本体部と、該本体部の車両幅方向の両側面から下方に突出した突出板とから構成され、
前記突出板の下端縁部は、前記サイドメンバの下端から前記バンパリインフォースメントの下端に向かって延びており、
前記クラッシュボックスの車両幅方向の両側面には、少なくとも一つの溝状のビードが車両上下方向に沿って凹設され
前記ビードは、前記突出板の下端縁部から前記本体部の車両上下方向の中央部へ向かって延びている、
車両前部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両前部構造であって、
前記バンパリインフォースメントの後側面と前記クラッシュボックスの前側面との間には隙間が形成されている、
車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造、特に、サイドメンバとバンパリインフォースメントとの間に設けられるクラッシュボックスの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バンパ取付部が開示されている。このバンパ取付部では、フロントサイドメンバとバンパリインフォースメントとの間にクラッシュボックスを配設し、クラッシュボックスとバンパリインフォースメントとの間にブラケットを配設している。そして、ブラケットの車両前後方向の軸圧縮強度を、クラッシュボックスおよびバンパリインフォースメントより高くしている。これにより、車両前部における衝突エネルギの吸収が、クラッシュボックスおよびバンパリインフォースメントに加えてブラケットによっても分担して行われるため、クラッシュボックスの設計の自由度が拡張すると記載されている。
【0003】
また、特許文献1の図3を参照すると、フロントサイドメンバの下端とバンパリインフォースメントの下端との間に車両上下方向の高低差があり、その高低差を埋めるようにクラッシュボックスの下面が車両後方から前方に向かって斜め上方に延伸して形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−283868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、クラッシュボックスは、その形状がバンパリインフォースメントとフロントサイドメンバとに依存するため車種ごとの専用品となり、コストが高くなっていた。また、上記のようにフロントサイドメンバの下端とバンパリインフォースメントの下端との間に車両上下方向の高低差がある場合に、バンパリインフォースメントに別部材を連結するとともにクラッシュボックスの大型化で対応した場合にも、コスト高と重量増加を招くことになる。
【0006】
本発明の目的は、クラッシュボックスについて、車種間での汎用性が向上し、コスト低減と重量増加の抑制を図れる、車両前部構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両前部構造は、車両幅方向両側において車両前後方向に延びる一対のサイドメンバと、該サイドメンバより前方に配置されるバンパリインフォースメントと、前記サイドメンバの前端と前記バンパリインフォースメントとの間に設けられるクラッシュボックスと、を備える車両前部構造であって、前記クラッシュボックスは、略直方体状の本体部と、該本体部の車両幅方向の両側面から下方に突出した突出板とから構成され、前記突出板の下端縁部は、前記サイドメンバの下端から前記バンパリインフォースメントの下端に向かって延びている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両前部構造によれば、本体部と突出板とを一体的に押し出し成型した後、組付車種に応じて突出板を所望の形状に切断することでクラッシュボックスを作製できるため、種々のサイドメンバとバンパリインフォースメントとの組合せに適用できる。したがって、複数の車種に対する汎用性が向上し、コスト低減を図れる。
【0009】
また、フロントサイドメンバの下端とバンパリインフォースメントの下端との間に車両上下方向の高低差がある場合でも、バンパリインフォースメントに別部材を連結したりクラッシュボックスを大型化させたりすることなく適用可能になり、これによってもコスト低減と重量増加の抑制を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態である車両前部構造を含む自動車ボデーを示す斜視図である。
図2】本実施形態の車両前部構造を拡大して示す側面図である。
図3図2におけるX−X線断面図である。
図4】従来例の車両前部構造を示す、図2と同様の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。また、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態である車両前部構造80を含む自動車ボデー100を示す斜視図である。図1に示すように、自動車ボデー100は、アルミニウム合金等の金属材料によって構成された骨格構造を備えている。自動車ボデー100は、フロントピラー104よりも前方の前部骨格101と、後部骨格103と、フロントピラー104と後部骨格103との間の車室110を構成する車室骨格102とを備えている。
【0013】
前部骨格101は、サイドメンバ10と、バンパリインフォースメント40と、クラッシュボックス50と、車室骨格102とエンジンルーム108とを区画するダッシュパネル105と、フロントピラー104と、フロントピラー104に連結されて車両前方に延びるアッパメンバ106とを含んでいる。サイドメンバ10には、図示しないエンジン、モータ等の駆動源が搭載される。
【0014】
サイドメンバ10とアッパメンバ106の間には、前部車輪の懸架装置が収納されるサスペンションタワー107が設けられている。また、サイドメンバ10の後端部17は、ダッシュパネル105の表面に沿って下方向に延び、車室骨格102の下側の面に配置されているアンダリインフォースメント109に接続されている。
【0015】
ここで、本実施形態の車両前部構造80は、一対のサイドメンバ10と、バンパリインフォースメント40と、クラッシュボックス50とを備えている。
【0016】
サイドメンバ10は、自動車ボデー100の車両幅方向両側において車両前後方向に延びる強度部材である。バンパリインフォースメント40は、自動車ボデー100において車両前部に取り付けられる図示しないバンパを内側(すなわち車両後方側)から補強する強度部材である。バンパリインフォースメント40は、車両幅方向に延びる長尺部材で構成される。本実施形態では、バンパリインフォースメント40が車両前方側へ凸状に湾曲した形状に形成されている。
【0017】
クラッシュボックス50は、サイドメンバ10の前端とバンパリインフォースメント40との間に左右それぞれ設けられている。クラッシュボックス50は、車両前突時に潰れることによって衝突荷重を吸収する衝撃吸収部材である。クラッシュボックス50はサイドメンバ10の前端にそれぞれ固定され、バンパリインフォースメント40は車両幅方向の両端部がクラッシュボックス50にそれぞれ取り付けられている。
【0018】
図2は本実施形態の車両前部構造80を拡大して示す側面図であり、図3図2におけるX−X線断面図である。図2では、サイドメンバ10だけが断面で示されている。
【0019】
図1および図2に示すように、サイドメンバ10は、車両幅方向の断面が略矩形状の中空閉断面構造を有する。サイドメンバ10の前端14の周囲には、断面L字型のフランジ15が例えばスポット溶接等により固定されている。フランジ15は、サイドメンバ10の外周面から車両上下方向および車幅方向両側に略垂直に突出して設けられている。
【0020】
図2に示すように、バンパリインフォースメント40は、縦長の長方形状をなす中空閉断面構造を有する。本実施形態では、バンパリインフォースメント40は、車両前後方向に延在する補強リブ42が内部に設けられて、内部空間が2分割された構造を有している。また、バンパリインフォースメント40は、サイドメンバ10より前方に配置され、下端が、サイドメンバ10の下端より上方に位置する。バンパリインフォースメント40の上面は、次に詳述するクラッシュボックス50の前端に固定された側面L字型のブラケット52に例えばスポット溶接等によって取り付けられている。
【0021】
なお、本実施形態ではバンパリインフォースメント40の下端がサイドメンバ10の下端より上方に位置する場合について例示するが、これに限定されるものではない。本実施形態の車両前部構造は、バンパリインフォースメント40の下端がサイドメンバ10の下端より下方に位置する場合に適用されてもよい。
【0022】
本実施形態では、バンパリインフォースメント40の後側面とブラケット52の前側面との間に隙間Sが形成されている。このような隙間Sを形成することで、バンパリインフォースメント40に入力される軽い衝突荷重を隙間Sで吸収することができ、クラッシュボックス50の変形を抑制できる。ただし、このような隙間は必須ではなく、バンパリインフォースメント40がクラッシュボックス50に接触して組み付けられていてもよい。
【0023】
図2および図3に示すように、クラッシュボックス50は、略直方体状の本体部54と、該本体部54の車両幅方向の両側面から下方に突出した突出板56とから構成される。本体部54および突出板56は、例えば、アルミニウム合金等の金属材料を押し出し成型することによって一体に形成される。
【0024】
本体部54の後端58の外周面には、フランジ60が車両上下方向および車両幅方向に突出して設けられている。このフランジ60がサイドメンバ10のフランジ15に例えばスポット溶接等されることで、サイドメンバ10の前端にクラッシュボックス50が連結固定されている。
【0025】
クラッシュボックス50の本体部54は、上壁54a、下壁54b、右側壁54c、および、左側壁54dが一体に形成されて、略長方形状の中空閉断面構造を有する。また、突出板56は、本体部54の右側壁54cおよび左側壁54dが下方に延出するように板状に形成されている。
【0026】
本体部54の右側壁54cおよび左側壁54dには、それぞれ溝状をなす複数のビード62が凹設されている。本実施形態では、3つのビード62が右側壁54cおよび左側壁54dにそれぞれ形成されている。
【0027】
図2に示すように、左側壁54dに形成された3つのビード62について説明すると、各ビード62は車両前後方向に間隔を置いて形成され、それぞれ車両上下方向に沿って延びている。また、各ビード62の上端は本体部54の車両上下方向の略中央部に位置し、下端は突出板56の下端縁部57まで延びている。なお、右側壁54cに形成されたビード62についても左側壁54dの場合と同様である。
【0028】
このように形成されたビード62は、車両前突時に衝突荷重がバンパリインフォースメント40に前方から入力したとき、クラッシュボックス50の上部Jと下部Kとで車両前後方向での潰れモード(または座屈モード)を同等にするために設けられる。本体部54および突出板56にビードを形成しない場合、クラッシュボックス50の下部Kは、突出板56が両側面から下方に突出して形成されていることで剛性が高くなっているため、上部Jに比べて車両前後方向に潰れにくくなる。したがって、上記のようなビード62を形成してクラッシュボックス50の下部Kを車両前後方向に潰れ易くすることで、車両前突時にクラッシュボックス50が上部Jおよび下部Kで同等に潰れるようにすることができ、衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0029】
なお、ビード62は、上述したように、クラッシュボックス50の車両前後方向における潰れ具合を上部Jと下部Kで同等にできるように設けられていれば、その数、上下方向長さ、前後方向幅、側壁に対する凹み深さ等は適宜に変更可能である。
【0030】
図2に示すように、クラッシュボックス50において、突出板56の下端縁部57は、サイドメンバ10の下端16からバンパリインフォースメント40の下端44に向かって延びている。本実施形態ではサイドメンバ10の下端16よりバンパリインフォースメント40の下端44が上方に位置するため、突出板56の下端縁部57はサイドメンバ10の下端16から斜め上方に向かって直線状に延伸形成されている。
【0031】
車両前突時に衝突荷重がバンパリインフォースメント40に前方から入力すると、ブラケット52が変形することで隙間Sが無くなり、バンパリインフォースメント40がクラッシュボックス50の前端面に接触する。このとき、バンパリインフォースメント40の最上部Fに入力した衝突荷重は、本体部54の最上部を介して、サイドメンバ10の前端の最上部Gに伝達される。また、バンパリインフォースメント40の上下方向中間部Dに入力した衝突荷重は、本体部54の中間部分を介してサイドメンバ10の前端の中間部Eに伝達される。さらに、バンパリインフォースメント40の最下部Aに入力した衝突荷重は、本体部54の最下部を介してサイドメンバ10の前端の下部Cに伝達されるとともに、突出板56を介してサイドメンバ10の前端の下部Cから最下部Bの間の部分にも伝達される。このようにして、バンパリインフォースメント40に入力した衝突荷重を、車両上下方向に関してサイドメンバ10の前端の全面に伝達することができる。
【0032】
ただし、突出板56を介して衝突荷重がバンパリインフォースメント40からサイドメンバ10に介して伝達される構成としたことで、サイドメンバ10の前端において中間部Eと下部Cおよび最下部Bとで伝達荷重に差が生じ、クラッシュボックス50の上部Jと下部Kとの潰れ方に違いが生じる。このような潰れ方の差が生じないように、本実施形態のクラッシュボックス50ではビード62を形成したことは上述したとおりである。
【0033】
本実施形態の車両前部構造80において、クラッシュボックス50の本体部54は、上壁54aおよび下壁54bは互いに平行に形成され、ビード62が形成される前の右側壁54cおよび左側壁54dは互いに平行に形成されている。すなわち、本体部54は、車両前後方向に関して同じ大きさの矩形断面を有している。また、クラッシュボックス50の突出板56は、図2に二点鎖線で示す三角状部分70を切断することでサイドメンバ10の下端とバンパリインフォースメント40の下端とをつなぐように形成されているが、切断前の下端縁部は本体部54と平行に、すなわち本体部54から同じ突出長さで形成することができる。したがって、本体部54の車両前後方向の断面形状が同じ大きさであり、且つ、突出板56の突出長さを同じに形成できるため、クラッシュボックス50を金属材料を押し出し成型することによって製造でき、例えば鋳造等の他の方法で製造する場合に比べて製造コストを低減できる。
【0034】
図4は、従来例の車両前部構造80Aを示す、図2と同様の側面図である。サイドメンバ10の下端とバンパリインフォースメント40の下端との間に車両上下方向の高低差Δhがある場合、サイドメンバ10の前端全面に車両前突時の衝突荷重を入力させるために、バンパリインフォースメント40の下に別部材41を溶接等で連結するとともに、その高低差Δh分だけ高さを大型化したクラッシュボックス50Aを用いることがあった。しかし、この場合には、別部材41の追加やクラッシュボックス50の大型化によって、コスト高と重量増加を招いていた。
【0035】
これに対し、本実施形態の車両前部構造80によれば、本体部54と突出板56とを一体的に押し出し成型した後、組付車種に応じて突出板56を所望の形状に切断することでクラッシュボックス50を作製できるため、種々のサイドメンバ10とバンパリインフォースメント40との組合せに適用できる。したがって、複数の車種に対する汎用性が向上し、コスト低減を図れる。また、別部材の追加やクラッシュボックスの大型化が不要になり、これによってもコスト低減と重量増加の抑制を図れる。
【0036】
なお、本発明に係る車両前部構造は、上述した実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲内において種々の変更や改良が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0037】
10 サイドメンバ、14 前端、15,60 フランジ、16 (サイドメンバの)下端、17 後端部、40 バンパリインフォースメント、42 補強リブ、44 (バンパリインフォースメントの)下端、50,50A クラッシュボックス、52 ブラケット、54 本体部、56 突出板、57 下端縁部、58 後端、62 ビード、80,80A 車両前部構造。
図1
図2
図3
図4