(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962784
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】水平多関節型ロボットの原点復帰方法
(51)【国際特許分類】
B25J 9/10 20060101AFI20211025BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
B25J9/10 A
G05B19/18 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-214689(P2017-214689)
(22)【出願日】2017年11月7日
(65)【公開番号】特開2019-84627(P2019-84627A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】猪股 徹也
【審査官】
樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−090383(JP,A)
【文献】
特開平03−131494(JP,A)
【文献】
特開平05−088720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10
G05B 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、基台に対して直列に2本以上した連結したアームと、最先端の前記アームに対して連結するハンドとを備え、ワークの搬送に使用される水平多関節型ロボットの原点復帰方法であって、
搬送の動作中及び原点復帰の動作中に前記水平多関節型ロボットの座標の記録を継続して実行し、
原点復帰の要求が入力したときに、前記要求が入力したときの前記水平型多関節ロボットの座標が前記記録された最新の座標から所定の範囲内にあるかを判定し、
前記所定の範囲内にあるときは、原点復帰の軌跡を計算して前記搬送の方向とは反対方向に前記水平多関節型ロボットを原点まで移動させ、
前記所定の範囲内にないときは、前記ハンドと前記最先端のアームとの関係を示す値が基準値以内であるかを判定し、前記基準値以内であれば前記ハンドを閉じて前記水平多関節型ロボットを前記原点まで移動させ、前記基準値を超えるときはエラーを返し、
前記水平多関節型ロボットの動作範囲を複数に分割した領域ごとに前記基準値が設定されている、
原点復帰方法。
【請求項2】
直交座標系を用いて前記水平多関節型ロボットの座標を記録し、前記関係を示す値は前記ハンドと前記最先端のアームとの開き角度であり、
前記開き角度は、前記ハンドが前記最先端のアームに連結する連結点において、前記ハンドが前記連結点から延びる方向と前記最先端のアームが前記連結点から延びる方向とがなす、180°以下の角度である、請求項1に記載の原点復帰方法。
【請求項3】
円筒座標系を用いて前記水平多関節型ロボットの座標を記録し、前記関係を示す値は、前記円筒座標系の中心と前記ハンドとの間の距離である、請求項1に記載の原点復帰方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの搬送などに用いられる水平多関節型ロボットの原点復帰方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造工程では、半導体ウエハなどのワークを、ワークを収納するカセットとワークに対して所定の処理を実行するワーク処理装置との間で搬送する必要がある。このとき複数のカセットに対してワークをロード/アンロードできることが必要とされており、そのために、複数のアームを互いに回転可能に連結するとともに、モータなどの回転力をアームに伝達して伸縮等の動作をさせるようにした多関節型ロボットが用いられている。ワークが収納される複数のカセットとワーク処理装置と多関節型ロボットとによって1つのワーク搬送システムが構成される。各カセットは、ワークを棚状に積載載置するものであり、これによって1つのカセットに複数のワークを収納できる。カセットの一例としては、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)スタンダードE47.1に規定される正面開口式カセット一体型搬送、保管箱であるFOUP(Front-Opening Unified Pod)などがある。ワーク搬送システムの構成の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されたワーク搬送システムでは、複数のカセットを水平面内で1列に配置し、この複数のカセットの並びと対向する位置にワーク処理装置を配置し、カセットの並びとワーク処理装置とによって挟まれた細長い空間に水平多関節型ロボットを設置している。
【0003】
ところで多関節型ロボットでは、動作中に何らかの理由で原点復帰を行なわなければならなくなることがある。この原点復帰動作においてもロボットのアームやハンドが周囲の平面や機器に衝突しないことが求められる。そこで特許文献2は、下腕の姿勢が上腕の原点位置に影響を与える構造を有するロボットを原点復帰させるために、上腕とした腕との相対角が一定に保持されるように上腕を駆動しながら下腕を原点復帰させることを開示している。特許文献3は、ロボットの移動位置ごとに原点復帰用移動情報を予め用意しておき、原点復帰が要求されたときにその時点でロボットが到達している移動位置に対応した原点復帰用移動情報に基づいて原点まで移動し、原点復帰することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5199117号公報
【特許文献2】特開昭62−24304号公報
【特許文献3】特開平4−167102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1などに記載される多リンクの多関節型ロボットは、多関節であるがゆえの動きの自由度を有しており、狭い作業空間への設置が求められる半導体製造工程など広く用いられている。しかしながら、動きの自由度が高い分、正しい動作経路及び正しい姿勢で原点復帰動作を行なわないと、原点復帰動作中に周囲の壁面や機器に衝突する恐れがある。特許文献2に記載される方法は、特定構造のロボットのみに限定されるので多関節型ロボットには適用できず、特許文献3に記載される方法は、ロボットの自由度が高い場合には用意しなければならない原点復帰用位置情報の量が膨大となるので、多リンクの多関節型ロボットに適用するのは現実的でない。
【0006】
本発明の目的は、2本以上の直列に連結されたアームと最先端のアームに取り付けられたハンドとを有する水平多関節型ロボットにおいて、周辺との衝突の恐れなく安全に原点復帰するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の原点復帰方法は、基台と、基台に対して直列に2本以上した連結したアームと、最先端の前記アームに対して連結するハンドとを備え、ワークの搬送に使用される水平多関節型ロボットの原点復帰方法であって、搬送の動作中及び原点復帰の動作中に前記水平多関節型ロボットの座標の記録を継続して実行し、原点復帰の要求が入力したときに、前記要求が入力したときの前記水平型多関節ロボットの座標が前記記録された最新の座標から所定の範囲内にあるかを判定し、前記所定の範囲内にあるときは、原点復帰の軌跡を計算して前記搬送の方向とは反対方向に前記水平多関節型ロボットを原点まで移動させ、前記所定の範囲内にないときは、前記ハンドと前記最先端のアームとの関係を示す値が基準値以内であるかを判定し、前記基準値以内であれば前記ハンドを閉じて前記水平多関節型ロボットを前記原点まで移動させ、前記基準値を超えるときはエラーを返
し、前記水平多関節型ロボットの動作範囲を複数に分割した領域ごとに前記基準値が設定されている。
【0008】
本発明では、現在の座標が記録された最新の座標から所定の範囲内あるかどうかで、ロボットが通常の搬送動作などの途中で停止してそのまま姿勢を変化していないかどうかを判定できる。ロボットが搬送動作の停止後に姿勢を変化していないときは、そのまま搬送動作を逆行することで、安全に原点復帰できる。搬送動作の停止後にロボットが姿勢を変化させているときであっても、ハンドと最先端のアームとの関係を示す値と比較される基準値を適切に設定しておくことで、比較的簡単なプログラム処理を用いつつ、安全に原点復帰できるようになる。
【0009】
本発明において、ロボットの座標として例えば直交座標系と円筒座標系のいずれかを用いることができる。直交座標系を用いるときは、関係を示す値として、ハンドと最先端のアームとの開き角度を用いることできる。直交座標系を用いるロボットの場合、アームに重なるようにハンドを回転させるときに周囲との衝突がおこりやすく、開き角度が大きければその分、衝突が起きる可能性も高くなるので、基準値として開き角度を用いることにより、安全が保証できる場合にのみ、人手を介さない原点復帰を行なわせることができるようになる。円筒座標系を用いる場合には、関係を示す値として、円筒座標系の中心からハンドまでの距離を用いることが好ましい。円筒座標系では、円筒座標系の中心からハンドまでが遠いほど衝突がおこる可能性が高くなるので、基準値として円筒座標系の中心からハンドまでの距離を用いることにより、安全が保証できる場合にのみ、人手を介さない原点復帰を行なわせることができるようになる。
【0010】
本発明においては、ロボットの動作範囲を複数に分割した領域ごとに基準値を設定
する。ロボットの原点とハンドあるいは最先端のアームとの距離に応じ、原点復帰の際に衝突の起こりやすさが異なるので、ロボットの動作範囲を複数の領域に分割した上で、領域ごとに基準値を異らせることにより、基準値を超えてエラーとなる可能性を低減しつつ、安全に原点復帰を行わせることが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2本以上の直列に連結されたアームと最先端のアームに取り付けられたハンドとを有する水平多関節型ロボットにおいて、周辺との衝突の恐れなく安全に原点復帰することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】水平多関節型ロボットの構成例を示す図である。
【
図2】ロボットコントローラの構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施の一形態の原点復帰方法を説明するフローチャートである。
【
図5】本発明の実施の一形態の原点復帰方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、本発明の実施の一形態の原点復帰方法が適用される水平多関節型ロボット(以下、単にロボットともいう)について説明する。本実施形態の原点復帰方法が適用されるロボットは、2リンク以上の、すなわち基台に対して2本以上のアームが直列に、いずれのアームもその一端を中心として水平面内で回転可能であるように連結し、かつ、最先端のアームの先端にはハンドが水平面内で回転可能に接続したものである。アームやハンドの回転は例えばモータによって駆動されていてもよい。基台と基台側のアームとの間に昇降機構などが設けられていてもよい。
図1は、本実施形態の原点復帰方法が適用されるロボットの構成例を示しており、(a)は3リンクの水平多関節型ロボットを示し、(b)は2リンクの水平多関節型ロボットを示している。ここでは2リンク、3リンクの水平多関節型ロボットを示しているが、本発明に基づく原点復帰方法は、4リンク以上の水平多関節型ロボットにも適用可能なものである。
【0014】
図1(a)に示す3リンクの水平多関節型ロボットは、基台1と3本のアーム2〜4とハンド5を備えており、基台1に対して第1アーム2の一端が回転可能に連結し、第1アーム2の他端には第2アーム3の一端が回転可能に連結し、第2アーム3の他端には第3アーム4の一端が回転可能に連結し、第3アーム4の他端にはハンド5の一端が回転可能に連結したものである。図中の一点鎖線は、それぞれの連結箇所における回転の中心軸を示している。ロボットを駆動しロボットの動作を制御するためにロボットコントローラ10が設けられており、ロボットコントローラ10にはケーブル16を介してティーチングペンダント15が接続している。ティーチングペンダント15は、ロボットのティーチングに際して作業者によって使用されるものであり、例えば、ジョグ(JOG)動作指令が入力される。原点復帰指令もティーチングペンダント15を介してロボットに与えられる。
図1(b)に示す2リンクの水平多関節型ロボットは、
図1(a)に示す3リンクの水平多関節型ロボットから第3アーム4を取り除き、第2アーム3の他端にハンド5の一端が回転可能に連結したものである。なお、
図1(a)に示す3リンクの水平多関節型ロボットでは、特許文献1に記載されるように、第2アーム3と第3アーム4との連結軸の中心線の移動軌跡が所定の直線に規制されるように、第1アーム2と第2アーム3とがリンク機構を構成していてもよい。基台1に対する基台1に最も近いアーム2の連結軸の位置を原点と呼ぶ。
【0015】
図2は、ロボットコントローラ10の構成を示している。水平多関節型ロボットにおいてアーム2〜4やハンド5は、いずれもサーボ制御されるモータによって回転駆動される。そのため、ロボットコントローラ10は、ロボット内のモータ(不図示)に対するサーボ制御回路であるロボット制御部11と、ロボットに対する指令入力などに基づいてサーボ指令を生成してロボット駆動部11に出力するとともに必要な演算等を実行する演算部12と、演算部12での処理等に必要となるデータなどを格納する補助記憶部13と、ティーチングペンダント15との通信インタフェースとなる通信部14と、を備えている。サーボ制御を行うので、ロボット駆動部11は、ロボット内の各モータに接続し、かつ、各モータに付属するエンコーダから位置情報が入力される。特に本実施形態において、演算部12は、エンコーダから入力する位置情報に基づいて、ロボットの各部の座標を認知でき、かつ、その認知した座標を補助記憶部13に格納する機能を有する。ここでロボットの各部の座標は、例えば、直交座標系あるいはロボットの中心からの中心角と距離によって表される円筒座標で表される。
【0016】
次に、原点復帰動作について説明する。
図3(a),(b)は、それぞれ、
図1(a),(b)に示した3リンク及び2リンクの水平多関節型ロボットの原点復帰動作の一例を示している。ここでは、アーム2〜4やハンド5を動かし旋回させることができる細長い空間として動作範囲40が設定され、ワーク21を収納するカセット20が動作範囲40に接して設けられ、ロボットはカセット20に対してワーク21をロード/アンロードする場合を考える。ワーク21のロード/アンロードを行うとき、ハンド5は、カセット20の位置における動作範囲40の境界に対して直交する方向であるロード/アンロード方向に移動し、ワーク21をカセット20に対して搬入/搬出する。このとき、アーム2〜4は、一貫して動作範囲40内に留まっている。
図3(a)において符号61は、ワーク21のロード/アンロードを行なっている途中の3リンクの水平多関節型ロボットを示しており、符号62は、原点復帰位置にあるロボットを示している。3リンクの水平多関節型ロボットの場合、原点復帰位置では、アーム2〜4とハンド5とが相互に重なり合い、この重なり合ったものが作業空間の長手方向に対して直交するように整列する。同様に、
図3(b)に示す2リンクの水平多関節型ロボットの場合、符号63は、ワーク21のロード/アンロードを行なっている途中のロボットを示し、符号64は、原点復帰位置にあるロボットを示しており、原点復帰位置では、アーム2,3とハンド5とが相互に重なり合い、この重なり合ったものが作業空間の長手方向に対して直交するように整列する。
【0017】
原点復帰動作は、任意の位置・姿勢にあるロボットを原点復帰位置に移動させる動作である。原点復帰位置とは、単に位置を示すだけでなく、
図3において符号62,64で示すようなロボットの姿勢を含めて表現したものである。ロボットを原点復帰位置に移動させることを単に「原点に移動させる」ということもある。原点復帰動作では、ロボットのアーム2〜4やハンド5が周囲の機器や壁面に衝突しないようにすることが必要である。例えば
図3において符号61,63で示されるようにワーク21のロード/アンロードの途中であってハンド21の先端部がカセット20の内部に入り込んでいる状態から原点復帰を行う場合には、原点復帰位置となるように一様にアーム2〜4やハンド5を動かしたのでは、ハンド5がカセット20や周囲の壁面に衝突するおそれが高い。
【0018】
原点復帰の要求は、例えばティーチングペンダント15に対する作業者の操作によって入力される。原点復帰が要求されるときのロボットの状況としては、
(1)通常のワーク搬送の動作中に、ロボットが自然停止あるいは緊急停止し、停止時の位置や姿勢をそのまま保っている場合、
(2)ロボットのサーボ制御がオフにされた状態で手動動作がなされるか、あるいはサーボ制御はオンのままであるがジョグ動作が行われ、その結果、本来の搬送経路から外れており、姿勢も本来のものから変化している可能性がある場合、
の2通りが考えられる。
【0019】
本実施形態の原点復帰方法では、(1),(2)の状況ごとにそれぞれに対応した処理を行うことで、周囲の機器や壁面に衝突したり干渉したりすることなく、安全に原点復帰を行えるようにする。そのためには、まず、原点復帰の要求が入力したときにその時点でのロボットの状況が(1),(2)のいずれかを判別できる必要があり、そのためにロボットは、通常の搬送中あるいは通常の原点復帰の動作中において、ロボットの各部分の位置の座標を常にロボットコントローラ10内のメモリすなわち補助記憶部13に記録し続ける。
図4は、座標を記録するために演算部12が、ロボットの動作中に常時実行する処理を示している。まず、ステップ101において、現在、サーボ制御によってロボットを駆動しているかどうかを判断する。サーボ制御を実行していなければそのまま処理を終了し、サーボ制御を実行しているときは、次にステップ102において、ロボットは現在、通常の搬送動作中であるか原点復帰の動作中であるかを判断する。通常の搬送動作中でも原点復帰の動作中でもなければ、そのまま処理を終了し、通常の搬送動作中あるいは原点復帰動作中であれば、ステッ103において、現在の座標をメモリ(補助記憶部13)に記録して、ステップ101に戻る。このようにして、サーボ制御が実行中であって、かつ、通常の搬送動作あるいは原点復帰動作を行なっているときであれば、ロボットの位置の座標が時々刻々と補助記憶部13に書き込まれることになる。ロボットにおける位置を記録するための座標体系として、XY直交座標系などの直交座標系と、中心からの中心角と距離とによる円筒座標系があるが、現在の位置の記録にはどちらの座標系を用いてもよい。
【0020】
図5は、ティーチングペンダント15などから原点復帰指令が入力したときの演算部12の処理を示している。原点復帰指令の入力を受けて原点復帰の動作を開始すると、演算部12は、まず、ステップ111において、その時点でエンコーダなど入力する位置情報によって表されるロボットの現在の座標が、メモリ(補助記憶部12)に最新に記録された座標とほぼ一致するかどうか、具体的には現在の座標がメモリに記録された座標から所定の範囲内にあるかを判断する。所定の範囲内にあるときは、上記の(1)の状況、すなわち通常のワーク搬送の動作中にロボットが停止し、そのままの位置と姿勢を保っている状況であると判断できる。そこで、停止した搬送の経路をその搬送についてのティーチングデータに基づいて逆行すれば原点復帰位置にまで戻れるので、ステップ112において、逆行して原点復帰位置となる経路を計算し、ステップ113において、その計算された経路に基づいて搬送方向と反対方向にサーボ制御によってロボットを駆動し、最終的に原点までロボットを移動させ、原点復帰動作の処理を終了する。
【0021】
これに対し、ステップ111においてロボットの現在の座標がメモリに最新に記録された座標から所定の範囲内にはないときは、上記の(2)の状況であるといえる。このときは、そのまま原点復帰動作を行うとアームかハンドが周囲の機器や壁面に衝突する可能性が高いと考えられる。ところで、水平多関節型ロボットの場合、アーム2〜4はそのロボットのために確保された空間である動作範囲40(
図3参照)内のみを移動し、ワーク21のロード/アンロードのためにハンド5だけが動作範囲40の境界より外側に突出することができるようにすることが一般的である。このことは、ハンド5が最先端のアーム(2リンクのロボットであればアーム3、3リンクのロボットであればアーム4)と重なった状態であれば、その状態は安全な姿勢であり、その状態からアームだけを回転させて原点復帰したとして周囲の機器や壁面との衝突は避けられると考えられる。そこで演算部12は、ステップ116において、ハンド5の開き角度、すなわちハンド5と最先端のアームとがなす角と予め定めた基準値とを比較して開き角度が基準値以内であるかを判断し、基準値以内であれば、ステップ117においてハンド5が最先端のアームに重なるようにハンド5を閉じ、さらにアームの相互間の角度も小さくなるように各アーム2〜4を閉じ、ステップ118において原点復帰位置まで移動して原点復帰動作の処理を終了する。一方、ステップ116において開き角度が基準値を超えるときは、そのままでは原点復帰動作は危険であるとして、演算部12は、ステップ121においてティーチングペンダント15に対してエラーを返すことにより作業者に警告して、原点復帰動作の処理を終了する。この場合は、作業者が手動で原点復帰を行うことになる。
【0022】
ステップ116においてハンド5の開き角度の判定に用いる基準値は、ロボットの位置が直交座標系で記録されるときには、文字通りに角度値を用いることが好ましい。これは、直交座標系で制御されるロボットの場合、アームに対してハンド5が開いているほど、周囲との衝突が起こりやすいからである。ロボットの位置が円筒座標系で表される場合、この基準値には、角度値の代わりに、円筒座標系の中心からハンド5までの距離を示す値を用いることが好ましい。円筒座標系の場合、円筒座標系の中心からハンド5が離れているほど衝突が起こりやすいからである。直交座標系と円筒座標系のいずれの場合も基準値は小さい方がハンド5やアーム2〜4の衝突を避けるために有利であるが、エラーとなって作業者が手動で作業を行わなければならなくなることが多くなる。3リンクの水平多関節型ロボットにおいて座標を直交座標系で記録する場合、基準値は、例えば40°以下の値であり、20°程度とすれば衝突の可能性が十分に低減されて作業性が向上する。衝突の可能性をできるだけ排除するためには基準値は例えば5°とされる。
【0023】
ロボットのアーム2〜4やハンド5が周囲の機器や壁面と干渉するかどうかは、原点からハンド5までの距離が短いか長いかによっても変わってくる。ハンド5が原点に近い位置にある場合には、遠い場合に比べ、干渉は起こりにくい。そこで、原点からハンド5までの距離に応じて、基準値を変化させることができる。実際には、原点からの距離に応じて動作範囲40をいくつかの領域に分割し、領域ごとに基準値を定めるようにしてもよい。その場合、原点に近い領域には遠い領域に比べて大きな基準値を設定する。そして、ステップ116において基準値と比較するときは、まず、ハンド5の座標に基づいてどの領域の基準値が適用されるかを判定し、続いて、開き角度を判定された領域の基準値と比較すればよい。領域ごとの基準値も例えば補助記憶部13に格納される。
【0024】
以上では、水平多関節型ロボットが2リンクあるいは3リンクのものであるとして本発明の原点復帰方法を説明したが、本発明の方法は、4リンク以上の機構を有する水平多関節型ロボットにも適用可能であり、その場合も、通常の搬送や原点復帰動作のためにロボットをサーボ駆動しているときにロボットの位置をメモリに常時記録し、原点復帰の要求があったときの現在位置とメモリに記録された最新の位置とを比較することによって、原点復帰の要求があったときのロボットの状態が、通常の搬送経路上にあるのか、あるいは、ジョグ動作あるいは手動操作によって移動させた後の状態であるのかを知ることができる。
【0025】
[実施形態の効果]
以上説明した実施形態によれば、2リンク以上の水平多関節型ロボットがアームを伸ばした状態からそのロボットを安全に原点復帰させることができる。また、アームを畳むことに安全が保証できないときは、原点に復帰せずにエラーとすることによって、原点復帰のためにアームやハンドが機器や壁面に干渉することを防ぐことができる。また、
図3及び
図4に示す処理は、比較的簡単なソフトウェアプログラムで実現することができるので、本実施形態の方法を実装するためのコスト上昇を抑えることができる。
【符号の説明】
【0026】
1…基台、2〜4…アーム、5…ハンド、10…ロボットコントローラ、12…演算部、13…補助記憶部、15…ティーチングペンダント、21…ワーク、40…動作範囲。