(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高周波誘導により熱プラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記熱プラズマにより発生したガスを通過させて冷却するチャンバーを備えた、高周波誘導熱プラズマ装置を用いて、前記熱プラズマを利用して粒子を生成又は加工する際に、生成又は加工された粒子を回収する高周波誘導熱プラズマ装置であって、
前記チャンバーは、上部の透明石英2重管製水冷チャンバーと、下部のステンレス2重管製水冷チャンバーからなり、
発生した前記熱プラズマに対して、前記熱プラズマの周囲からガスを噴射するスリットリングと、
前記透明石英2重管製水冷チャンバーと、前記ステンレス2重管製水冷チャンバーとの間に設けられ、前記プラズマ発生部から離れるほど開口が狭まるように内壁面がテーパー状の傾斜面で形成されたステンレス2重管製水冷テーパーチャンバーと、
前記ステンレス2重管製水冷チャンバーに対して着脱可能であり、前記ステンレス2重管製水冷チャンバー内に設置され、耐熱性を有し、前記生成又は加工された粒子を回収する粒子回収部と、
前記チャンバー及び前記粒子回収部を通過したガスや粒子を冷却する冷却部と、
前記冷却部で冷却された粒子を回収するフィルターで構成された回収部と、
を備え、
前記ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバーの下面の開口は、前記ステンレス2重管製水冷チャンバーの内径よりも小さい
高周波誘導熱プラズマ装置。
【背景技術】
【0002】
高周波誘導熱プラズマ装置は、プラズマトーチ内にある絶縁管の中にプラズマ用ガスを供給し、絶縁管の周囲に設けた誘導コイルに高周波電力を供給することにより、誘導加熱の原理に基づきプラズマ用ガスを励起して熱プラズマを発生させている。
この熱プラズマは、ガス温度で数千度〜1万5千度程度の超高温になっていることが知られており、その熱プラズマの中心に、粉末や液体やガスを導入すると、瞬時に蒸発或いは溶融する。そして、プラズマトーチの下段に水冷チャンバーを設置することにより、蒸発或いは溶融した粉末や液体やガスが急冷されて、過飽和により固相化する。
【0003】
この高周波誘導熱プラズマ装置を用いることにより、金属などの微粒子をプラズマ中で蒸発させてナノ粒子を作製すること(例えば、特許文献1を参照)、複雑な形状の微粉末をプラズマ中で表面を溶融させて球状化する加工をすること、コアシェル構造の粒子を作製すること、などが可能である。
【0004】
ここで、高周波誘導熱プラズマ装置を用いてナノ粒子を作製する従来の構成を、
図11に示す。
図11に示す高周波誘導熱プラズマ装置100は、RFプラズマトーチ10と、チャンバー(21,22)と、冷却部30と、回収部40とを備えている。
【0005】
RFプラズマトーチ10は、絶縁管12と高周波発振機13と誘導コイル14を備えている。誘導コイル14は、絶縁管12の周囲に設けられ、高周波発振機13から高周波電力が供給される。RFプラズマトーチ10には、粉末供給器11が接続され、この粉末供給器11から、原料の粉末とキャリアガスであるAr(アルゴン)などのガスが、プローブ15を通じて、絶縁管12内のプラズマ中心へ供給される。
このRFプラズマトーチ10の拡大図を、
図12に示す。アルゴンなどのプラズマ用ガスを
図12中矢印で示すように絶縁管12内に供給すると共に、高周波発振機13から誘導コイル14へ高周波電力を供給することにより、誘導加熱によってプラズマガスを励起させて、絶縁管12内に熱プラズマPを発生させることができる。そして、粉末供給器11から原料の粉末とキャリアガスを、プローブ15を通じて供給することにより、熱プラズマPの中で粉末を蒸発させることができる。
【0006】
図11に示すように、チャンバーは、上部の透明石英2重管製水冷チャンバー21と下部のステンレス2重管製水冷チャンバー22とが接続されてなる。
チャンバーの上部が透明石英2重管製水冷チャンバー21であって透明であることにより、高周波誘導熱プラズマ装置100の外部からプラズマの状態を観察や監視することができる。
【0007】
冷却部30は、チャンバー内を通過したガスやナノ粒子等を冷却する。冷却部30は、貫通孔32を有する4枚の冷却板31,33を用いて構成されている。冷却板31,33は、銅などの熱伝導の良い金属と水冷構造で形成されている。
この冷却部30の冷却板31,33の構成を、
図13に示す。
図13に示すように、中央に1つの貫通孔32が形成された円形の冷却板31と、周縁部に4つの貫通孔32が形成された円形の冷却板33とが、
図11に示したように、交互に配置されている。これにより、上下に隣接する冷却板31と冷却板33で貫通孔32の位置が変わるので、ガスの流路を長くすることができ、冷却板31と冷却板33の放熱によって、ガス及びガス中のナノ粒子を十分に冷却することができる。
【0008】
図11に示すように、回収部40は、管内に、例えば布製のフィルター41を設けて成り、このフィルター41によって、冷却部30で冷却されたナノ粒子を回収することができる。
回収部40の後段には、真空ポンプ51が接続されており、この真空ポンプ51によって、ナノ粒子を回収した後のガスを排気することができる。
【0009】
図11に示した高周波誘導熱プラズマ装置100において、得られるナノ粒子のサンプルの挙動を、
図14に示す。
図14に示すように、得られるナノ粒子NPのサンプルは、透明石英2重管製水冷チャンバー21及びステンレス2重管製水冷チャンバー22の内壁、それらの後段の冷却部30、回収部40のフィルター41に、トラップされていく。このように様々な箇所に付着したサンプルは、各部位毎に分解しハケやヘラなどで一箇所に集めて、最終的に袋などへ回収する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る粒子回収機構について、図面を参照しながら、下記の順で説明する。
1.本発明の概要
2.第1の実施の形態(粒子がナノ粒子、粒子回収部がフィルター)
3.第2の実施の形態(粒子が球状化粒子やコアシェル構造の粒子、粒子回収部がカップ)
4.変形例
5.実験
【0019】
<1.本発明の概要>
本発明の
高周波誘導熱プラズマ装置は、高周波誘導により熱プラズマを発生させるプラズマ発生部と、熱プラズマにより発生したガスを通過させて冷却するチャンバーを備えた、高周波誘導熱プラズマ装置を用いて、熱プラズマを利用して粒子を生成又は加工する際に、生成又は加工された粒子を回収するものである。
そして、本発明の
高周波誘導熱プラズマ装置は、スリットリングと、
ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバーと、粒子回収部と
、冷却部と、回収部とを備えている。
チャンバーは、上部の透明石英2重管製水冷チャンバーと、下部のステンレス2重管製水冷チャンバーからなる。
スリットリングは、発生した熱プラズマに対して、熱プラズマの周囲からガスを噴射する構成である。
ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバーは、
透明石英2重管製水冷チャンバーとステンレス2重管製水冷チャンバーとの間に設けられ、プラズマ発生部から離れるほど開口が狭まるように
内壁面がテーパー状の傾斜面で形成された構成である。
粒子回収部は、
ステンレス2重管製水冷チャンバーに対して着脱可能であり、
ステンレス2重管製水冷チャンバー内に設置され、耐熱性を有し、生成又は加工された粒子を回収する構成である。
冷却部は、チャンバー及び粒子回収部を通過したガスや粒子を冷却する。
回収部は、冷却部で冷却された粒子を回収するフィルターで構成されている。
そして、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバーの下面の開口は、ステンレス2重管製水冷チャンバーの内径よりも小さい。
【0020】
本発明において、回収の対象となる粒子は、高周波誘導熱プラズマ装置で生成又は加工されて作製された、金属や化合物(例えば、酸化チタンや窒化チタン)などのナノ粒子、球状化粒子、コアシェル構造の粒子、などである。
例えば、原料の粉末として金属粉末を使用し、プラズマ用ガスをアルゴンやアルゴンに水素とすれば、金属のナノ粒子を作製することができ、プラズマ用ガスを酸素や窒素とすれば、金属酸化物や金属窒化物のナノ粒子を作製することができる。
例えば、複雑な形状の微粉末を、熱プラズマ中で表面を溶融させて球状化する加工を行うと、真球に近い球状化粒子を作製することができる。
例えば、コアとなる粉末の周りに、熱プラズマ中で蒸発させた別の材料を成膜させることで、別の材料でシェルを形成することにより、コアシェル構造の粒子を作製することができる。
【0021】
(スリットリング)
本発明の粒子回収機構のスリットリングは、上述したように、発生した熱プラズマに対して、熱プラズマの周囲からガス(スリット用ガス)を噴射する構成である。
例えば、高周波誘導熱プラズマ装置のプラズマ発生部の後段に、高周波誘導熱プラズマ装置の中心軸を囲うように、リング状の筐体から成るスリット用ガス供給部を設ける。そして、このリング状の筐体の内周の壁面に、熱プラズマに対して所定の方向へガスを噴射するスリットリングが形成された構成とする。
【0022】
スリットリングから噴射する、スリット用ガスとしては、アルゴンなどを使用することができ、好ましくは不活性ガスを使用する。
【0023】
スリットリングは、スリット用ガスが所定の方向に噴射されるように、リング状の筐体の内周の壁面の全周に亘る、所定の向きの開口として形成する。
スリットリングからスリット用ガスを噴射する、所定の方向としては、水平方向、もしくは、チャンバーの側に向かう斜め方向、などが挙げられる。
このうち、チャンバー側に向かう斜め方向にガスを噴射するように、スリットリングを形成した場合には、熱プラズマによって生じたガスの流れを、チャンバーの下方向に誘うように強制変化させることができ、ガスの拡がりを抑制することができる。
なお、プラズマ発生部の下方にチャンバーが設けられている構成の高周波誘導熱プラズマ装置では、「チャンバーの側に向かう斜め方向」は、斜め下方向になる。
【0024】
本発明の粒子回収機構のスリットリングは、上述したプラズマ用ガスの供給方法がRadial或いはTangentialのいずれである場合でも、適用することが可能である。
特に、Tangentialの場合には、ガスがチャンバーの内壁付近まで拡がり易いため、スリットリングを設ける効果が大きい。
【0025】
なお、上述したプラズマ用ガスの供給方法のRadialとTangentialは、例えば、プラズマ用ガスの供給口の開口の向きなどにより設定することができる。この場合、採用する供給方法に応じて、供給方法に対応する向きの開口を有する供給口を設置する。
さらに、例えば、供給口をプラズマ発生部に対して着脱可能な構成としたり、Radial用の供給口とTangential用の供給口を共に設けた構成としたりすれば、RadialとTangentialを切り替え、あるいは、同時に使用することが可能である。
【0026】
(テーパー部)
本発明の粒子回収機構のテーパー部は、上述したように、チャンバーの中間部に設けられ、プラズマ発生部から離れるほど開口が狭まるように傾斜面が形成された構成である。
テーパー部は、プラズマ発生部から離れるほど開口が狭まる構成であるので、テーパー部の前段のチャンバーの内圧を上げることになり、ガスの流れをプラズマ発生部から離れる向きに加速させることができる。これにより、テーパー部よりも後段のチャンバーへと、ガスと作製された粒子が吸い込まれる。従って、テーパー部の前段のチャンバーの内壁部への粒子の付着を抑制することができ、また、テーパー部の後段のチャンバーに設けられる粒子回収部に粒子を集めることができる。
なお、プラズマ発生部の下方にチャンバーが設けられている構成の高周波誘導熱プラズマ装置では、「プラズマ発生部から離れるほど開口が狭まる」傾斜面は、下方ほど開口が狭まる構成となる。
【0027】
そして、チャンバーの中間部にテーパー部を設けることにより、チャンバーの後段にテーパー部を設けた場合と比較して、チャンバーの内壁部への粒子の付着の抑制と粒子回収部における粒子の集約の効果を大きくすることができる。
【0028】
より好ましくは、テーパー部が冷却機構を備えている構成とする。
これにより、作製された粒子や高温のガスがテーパー部でも冷却されるので、冷却機構を備えていない場合と比較して、後段の粒子回収部を高温から緩和させることができる。
【0029】
(粒子回収部)
本発明の粒子回収機構の粒子回収部は、上述したように、チャンバーに対して着脱可能であり、耐熱性を有し、生成又は加工された粒子を回収する構成である。
耐熱性を有するように、粒子回収部を、ステンレスのように、ある程度高い融点の金属などを用いる。
【0030】
回収する対象の粒子がナノ粒子の場合には、メッシュを有するフィルターで粒子回収部を構成する。
【0031】
回収する対象の粒子が球状化粒子やコアシェル構造の粒子の場合には、粒子を収容するカップ状に粒子回収部を構成する。
【0032】
本発明の粒子回収機構は、各種の高周波誘導熱プラズマ装置に適用することができる。
高周波誘導熱プラズマ装置としては、例えば、高周波誘導熱プラズマの発生部を1つ有するタイプ、或いはDCジェットと高周波誘導結合型のハイブリッドタイプ、2つ乃至3つの高周波誘導結合型プラズマが直列に配置されたタンデムタイプ等が挙げられる。
【0033】
また、本発明の粒子回収機構を適用する高周波誘導熱プラズマ装置としては、プラズマ発生部の下方にチャンバーが設けられている構成が好ましいが、プラズマ発生部とチャンバーがその他の配置である構成としてもよい。
特に、回収する対象の粒子がナノ粒子の場合には、粒子の回収に重力を利用する必要がないため、プラズマ発生部とチャンバーが水平方向に配置された構成や、プラズマ発生部の上方にチャンバーが配置された構成も、可能である。
【0034】
<2.第1の実施の形態(粒子がナノ粒子、粒子回収部がフィルター)>
本発明の粒子回収機構の第1の実施の形態を適用した、高周波誘導熱プラズマ装置の概略構成図を、
図1に示す。
本実施の形態は、高周波誘導熱プラズマ装置でナノ粒子を生成して、生成したナノ粒子を粒子回収部で回収する構成である。
【0035】
図1に示す本実施の形態の高周波誘導熱プラズマ装置1は、
図11に示した高周波誘導熱プラズマ装置100と同様に、RFプラズマトーチ10と、チャンバーと、冷却部30と、回収部40とを備えている。
本実施の形態の高周波誘導熱プラズマ装置1は、さらに、スリット用ガス供給部60と、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70と、粒子回収部80とを備えている。
【0036】
RFプラズマトーチ10は、
図11の高周波誘導熱プラズマ装置100のRFプラズマトーチ10と同様の構成である。
さらに、RFプラズマトーチ10の直下に、詳細を後述する、スリット用ガス供給部60が設けられている。
RFプラズマトーチ10は、絶縁管12と高周波発振機13と誘導コイル14を備えている。誘導コイル14は、絶縁管12の周囲に設けられ、高周波発振機13から高周波電力が供給される。RFプラズマトーチ10には、粉末供給器11が接続され、この粉末供給器11から、原料の粉末と、キャリアガスであるAr(アルゴン)などのガスが、プローブ15を通じて絶縁管12内のプラズマ中心へ供給される。
【0037】
チャンバーは、上部の透明石英2重管製水冷チャンバー21と下部のステンレス2重管製水冷チャンバー22とを備えており、これらの間に、詳細を後述する、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70が設けられている。チャンバーの上部が透明石英2重管製水冷チャンバー21であって透明であることにより、高周波誘導熱プラズマ装置1の外部からプラズマの状態を観察や監視することができる。
【0038】
冷却部30は、
図11の高周波誘導熱プラズマ装置100の冷却部30と同様の構成であり、貫通孔32を有する4枚の冷却板31,33を用いて構成されている。冷却板31,33は、銅などの熱伝導の良い水冷された金属で形成されている。
【0039】
回収部40は、管内に、例えば布製のフィルター41を設けて成る。回収部40の後段には、真空ポンプ51が接続されており、この真空ポンプ51によって、ナノ粒子を回収した後のガスを排気することができる。
【0040】
(スリット用ガス供給部)
スリット用ガス供給部60は、RFプラズマトーチ10の直下に設けられている。
図1の高周波誘導熱プラズマ装置1のRFプラズマトーチ10とスリット用ガス供給部60の拡大図を、
図2に示す。
図2に示すように、スリット用ガス供給部60は、高周波誘導熱プラズマ装置1の中心軸を囲うリング状に設けられた筐体と、この筐体の内周(高周波誘導熱プラズマ装置1の中心軸側)の壁面に設けられたスリットリング61と、スリット用ガスを筐体内の空間に供給する供給管62を備えて成る。
【0041】
スリットリング61は、スリット用ガスが所定の方向に噴射されるように、リング状の筐体の内周の壁面の全周に亘って、所定の向きの開口が形成されて成る。これにより、高周波誘導熱プラズマ装置1の中心軸付近の熱プラズマに対して、熱プラズマの周囲全体からスリット用ガスが噴射される。
そして、供給管62からスリット用ガスを筐体内の空間に供給することにより、スリット用ガスが
図2中の矢印に示すように、筐体の内周の壁面に設けられたスリットリング61を通じて、高周波誘導熱プラズマ装置1の中心軸付近の熱プラズマに向かって噴射される。スリット用ガスの噴射によって、熱プラズマからのガスの流れを回転流から層流に強制変化させることができる。
噴射するスリット用ガスの流量は、必要に応じて設定するが、例えば、プラズマ用ガスの流量に対して、その2〜4倍程度と多くすることにより、ガスの流れの強制変化の効果を高めることができる。
【0042】
スリットリング61の形態とその形態のガスとナノ粒子の挙動を、
図3と
図4にそれぞれ示す。
図3は、スリットリング61の一形態を示すRFプラズマトーチ10とスリット用ガス供給部60の拡大図である。
図3に示す形態では、スリット用ガスSGが斜め下方向に噴射されるように、スリットリング61が形成されている。
図4は、スリットリング61の他の形態を示すRFプラズマトーチ10とスリット用ガス供給部60の拡大図である。
図4に示す形態では、スリット用ガスSGが水平方向に噴射されるように、スリットリング61が形成されている。
また、比較対照として、
図15に示した高周波誘導熱プラズマ装置100のRFプラズマトーチ10の拡大図を、
図16に示す。
なお、いずれの場合も、ナノ粒子NPの挙動は、プラズマ用ガスの供給をTangentialとした場合で示している。
【0043】
図16に示すように、
図11に示した高周波誘導熱プラズマ装置100では、スリットリング61を備えていないので、RFプラズマトーチ10から透明石英2重管製水冷チャンバー21に出ると、ガスの流れが拡がる。このため、ナノ粒子NPが透明石英2重管製水冷チャンバー21の内壁付近に向かっている。
【0044】
これに対して、
図3に示す形態では、スリットリング61から斜め下方向にスリット用ガスSGを噴射させることにより、熱プラズマPからのガスの流れを回転流から下向きの層流に強制変化させることができるので、ガスの拡がりを抑制することができる。
【0045】
また、
図4に示す形態では、スリットリング61から水平方向にスリット用ガスSGを噴射させることにより、熱プラズマPからのガスの流れを回転流から層流に強制変化させることができるので、ガスの拡がりを抑制することができる。この水平方向に噴射させる形態の場合、プラズマを急激に冷却する特長があるため、より粒度分布のシャープなナノ粒子を得ることができる。ただし、ガスの流れが多少乱流になりやすく、
図3の斜め下方向のスリットリング61を設けた形態よりも、下向きの層流が弱くなる。
【0046】
即ち、
図3に示した形態や
図4に示した形態のように、スリットリング61からスリット用ガスSGを噴射させることにより、ガスの拡がりを抑制することができるので、ガスとナノ粒子NPを高周波誘導熱プラズマ装置1の中心軸付近に集めることができる。
【0047】
なお、例えば、スリット用ガス供給部60を、RFプラズマトーチ10に対して着脱可能な構成とすれば、
図3に示した形態と
図4に示した形態のそれぞれのスリット用ガス供給部60の構成を交換することが可能である。
また、例えば、
図3に示した形態と
図4に示した形態のそれぞれのスリット用ガス供給部60を共に備えた構成等、スリット用ガス供給部60を複数備えた構成とすることも可能である。
これらの構成とすることにより、例えば、作製する粒子の種類によって、スリットリング61の向きが異なるスリット用ガス供給部60を使い分けることも可能である。
【0048】
(ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー)
ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70は、本発明の粒子回収機構のテーパー部を構成するものであり、透明石英2重管製水冷チャンバー21とステンレス2重管製水冷チャンバー22の間、即ち、チャンバー21,22の中間部に設けられている。
ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70は、ステンレス製の2重の管を有して成る。そして、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70の内側の管の壁面が、RFプラズマトーチ10から離れるほど、即ち下方に向かうほど、開口が狭まるように、下側の開口径が上側の開口径よりも小さい、傾斜面71となっている。さらに、2重のステンレス製の管の間の空間に、冷却用の冷却水が供給されるように構成されている。
【0049】
ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70の内側の管の壁面が、下方に向かうほど開口が狭まるように、傾斜面71となっていることにより、透明石英2重管製水冷チャンバー21の内圧を上げることになり、層流であったガスの流れを下向きに加速させることができる。これにより、透明石英2重管製水冷チャンバー21から、ステンレス2重管製水冷チャンバー22へと、ガスとナノ粒子が吸い込まれる。従って、透明石英2重管製水冷チャンバー21の内壁部へのナノ粒子の付着を抑制することができ、また、ステンレス2重管製水冷チャンバー22に設けられる粒子回収部80にナノ粒子を集めることができる。
【0050】
また、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70が、2重のステンレス製の管の間の空間に、冷却用の冷却水が供給されるように構成されており、冷却機構を備えているので、ナノ粒子がステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70でも冷却される。
これにより、冷却機構を備えていないテーパー部を設けた場合と比較して、粒子回収部80を高温から緩和させることができる。
【0051】
(粒子回収部)
粒子回収部80は、回収の対象となる粒子、本実施の形態ではナノ粒子を、回収するためのものである。
本実施の形態では、ステンレス2重管製水冷チャンバー22内に設けられた、ステンレスメッシュフィルター81によって、粒子回収部80が構成されている。
このステンレスメッシュフィルター81は、ステンレス2重管製水冷チャンバー22及びステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70に対して、着脱可能である。
【0052】
ここで、透明石英2重管製水冷チャンバー21と、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70と、ステンレスメッシュフィルター81の分解斜視図を、
図5に示す。
【0053】
図5に示すように、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70の内側の管の壁面に、テーパー状の傾斜面71が形成されている。傾斜面71の上端の開口径は、透明石英2重管製水冷チャンバー21の開口径とほぼ同じとなっており、傾斜面71の下端の開口径は、上端の開口径よりもかなり小さく(1/3未満)となっている。
また、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70には、その下面から上方へ向けて溝部72が形成されている。
【0054】
ステンレスメッシュフィルター81は、上部がステンレス板で構成された取り付け部82となっており、その他の部分がステンレス製メッシュで構成されたフィルター部83となっており、全体としてカップ状に形成されている。
【0055】
そして、
図5に矢印で示すように、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70の溝部72に、ステンレスメッシュフィルター81の取り付け部82をはめ込むことにより、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70と、ステンレスメッシュフィルター81を組み立てることができる。これにより、
図1に示すように、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70と、ステンレスメッシュフィルター81とが、隙間なく配置されている。このように隙間無く配置されていることにより、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70からステンレス2重管製水冷チャンバー22に入ったガスを、全てステンレスメッシュフィルター81に通すことができる。
【0056】
ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70内を通過して、流速が高められたガスとナノ粒子は、ステンレスメッシュフィルター81のフィルター部83を通過する。このとき、フィルター部83のメッシュでナノ粒子が冷却されて、ナノ粒子がメッシュに付着する。メッシュに付着して冷却されたナノ粒子の凝縮性により、さらにナノ粒子が付着していく。フィルター部83において、このようにナノ粒子の付着が進むことにより、ナノ粒子が凝集した粉体が形成される。
【0057】
ただし、ナノ粒子はフィルター部83のメッシュの開口よりも小さいので、フィルター部83に付着せずに通過するナノ粒子もある。このようにフィルター部83を通過したナノ粒子は、冷却部30の冷却板31,33に付着するか、回収部40のフィルター41内に入るか、のいずれかであるので、これらの箇所で回収することが可能である。
最終的に残ったナノ粒子は、回収部40のフィルター41によってトラップされるので、ナノ粒子が真空ポンプ51に移送されないようにすることができる。
【0058】
高温のガスは、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70である程度冷却されるが、それでも数百度程度の温度であるため、ナノ粒子を回収する粒子回収部80は、高温に耐えうるステンレスメッシュフィルター81で構成する。
ガスは、ステンレスメッシュフィルター81を抜けた後に、冷却部30で常温まで冷却される。
【0059】
(高周波誘導熱プラズマ装置の動作)
続いて、本実施の形態の高周波誘導熱プラズマ装置1において、ナノ粒子を作製する際の動作について説明する。
まず、真空ポンプ51を用いて、各チャンバー21,70,22内を真空引きする。
次に、RFプラズマトーチ10の上部から、プラズマ用ガス(アルゴンなど)を供給すると共に、高周波発振機13から誘導コイル14に高周波電力を供給して、熱プラズマを発生させる。このとき、例えば、1kPa以下の動作圧力まで、チャンバー21,70,22内を高真空にさせる。
【0060】
そして、粉末供給器11に原料粉末(金属粉末など)を収容した状態で、キャリアガス(アルゴンなど)を供給し、キャリアガスと共に原料粉末を、熱プラズマの中心へ定量供給すると、超高温の熱プラズマによって原料粉末が溶融或いは蒸発する。
【0061】
このとき、溶融或いは蒸発した原料粉末を含む熱プラズマに対して、スリット用ガス供給部60のスリットリング61から、スリット用ガス(アルゴンなど)を噴射する。これにより、熱プラズマによるガスを下向きの層流に強制変化させることができる。
【0062】
溶融或いは蒸発した原料粉末は、透明石英2重管製水冷チャンバー21内のガス分子によって急冷されて、ナノ粒子が生成される。
さらに、テーパー部である、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70によって開口が狭められているので、ガスの内圧が上がることから、下向きの層流が生じて、ガスと共にナノ粒子が下方のステンレス2重管製水冷チャンバー22側に吸い込まれる。また、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70及びステンレス2重管製水冷チャンバー22によって、ガス及びナノ粒子が冷却される。
【0063】
そして、ステンレス2重管製水冷チャンバー22内に設けられた粒子回収部80のステンレスメッシュフィルター81をガス及びナノ粒子が通過する際に、一部のナノ粒子はステンレスメッシュフィルター81のフィルター部83に付着する。フィルター部83に付着したナノ粒子の凝縮性や大面積による付着力によって、ナノ粒子の付着が進んでいく。
【0064】
(ナノ粒子の取り出し方法)
上述したように、ステンレスメッシュフィルター81は、ステンレス2重管製水冷チャンバー22及びステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70に対して、着脱可能である。これにより、
図6〜
図8を参照して以下に説明するように、ステンレスメッシュフィルター81で回収したナノ粒子を取り出すことができる。
【0065】
図6は、ナノ粒子を粒子回収部80で回収している状態を示す図である。
図6に示すように、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70によって生じる下向きの層流によって、ナノ粒子NPがステンレス2重管製水冷チャンバー22へと吸い込まれる。そして、吸い込まれたナノ粒子NPは、ステンレス2重管製水冷チャンバー22内にある、粒子回収部80のステンレスメッシュフィルター81に付着する。
【0066】
図7は、ステンレスメッシュフィルター81を取り出す工程を示す図である。
ナノ粒子NPを回収して、ステンレスメッシュフィルター81が十分に冷却された後に、
図7に示すように、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70とステンレス2重管製水冷チャンバー22の間で、高周波誘導熱プラズマ装置1を分解する。
そして、ナノ粒子NPを回収したステンレスメッシュフィルター81を、高周波誘導熱プラズマ装置1から取り出す。
【0067】
図8は、ステンレスメッシュフィルター81からナノ粒子を取り出す工程を示す図である。
図8に示すように、上部にステンレスコーン91を取り付けた粉末回収容器92を、用意する。ステンレスコーン91に、ステンレスメッシュフィルター81を上下逆にして配置し、ステンレスメッシュフィルター81の外周に振動などを与える。これにより、ステンレスメッシュフィルター81の内部に付着したナノ粒子NPの粉末を、下にある粉末回収容器92に落下させて、ナノ粒子NPの粉末を回収することができる。
【0068】
本実施の形態の構成によれば、スリットリング61が形成されたスリット用ガス供給部60と、テーパー部であるステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70と、ステンレスメッシュフィルター81から成る粒子回収部80を設けている。
これらの構成によって、石英2重管製水冷チャンバー21の内壁へのナノ粒子NPの付着を抑制することができ、ナノ粒子NPを粒子回収部80のステンレスメッシュフィルター81に多く集めることができる。このため、回収効率を向上することができ、ナノ粒子NPをこのステンレスメッシュフィルター81から回収すれば良くなることから、非常に簡便にナノ粒子NPを回収することができる。
【0069】
上述の本実施の形態では、
図5に示すように、ステンレスメッシュフィルター81を、取り付け部82とフィルター部83全体とが一体として形成されたカップ状にしていた。
これに対して、例えば、質量を保っている未蒸発物質がステンレスメッシュフィルター81の底に留まる場合には、ステンレスメッシュフィルター81のフィルター部83の底部だけをフィルター部83の他の部分から取り外しできる構成とすればよい。そして、フィルター部83の底部をフィルター部83の他の部分から取り外してから、フィルター部83の他の部分についてナノ粒子を取り出す工程を実施する。これにより、フィルター部83の底部で塊となって付着した未蒸発物質と、フィルター部83の内壁側面に付着したナノ粒子が混じらないようにすることができる。
【0070】
<3.第2の実施の形態(粒子が球状化粒子やコアシェル構造の粒子、粒子回収部がカップ)>
本発明の粒子回収機構の第2の実施の形態を適用した、高周波誘導熱プラズマ装置の概略構成図(要部の拡大図)を、
図9に示す。
図9は、透明石英2重管製水冷チャンバー21、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70、ステンレス2重管製水冷チャンバー22、粒子回収部80、冷却部30の拡大図を示している。
本実施の形態は、複雑な形状の粒子の表面を溶融させて形成した球状化粒子や、粉末の周りだけ別の材料でシェルさせたコアシェル構造の粒子を、粒子回収部で回収する構成である。
【0071】
本実施の形態の高周波誘導熱プラズマ装置2では、
図9に示すように、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70の形状が、第1の実施の形態の高周波誘導熱プラズマ装置1とは異なっている。具体的には、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70の上面に傾斜面73が形成されているだけでなく、下面にも傾斜面が形成されており、下方のステンレス2重管製水冷チャンバー22側に突起した突起部74となっている。
【0072】
また、粒子回収部80として、ステンレス2重管製水冷チャンバー22の内部に、ステンレス製カップ84が配置されている。このステンレス製カップ84は、その上端部が、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70の突起部74とステンレス2重管製水冷チャンバー22との間に配置されている。ただし、ステンレス製カップ84の上端部は、突起部74及びステンレス2重管製水冷チャンバー22に対して、隙間を有している。
このステンレス製カップ84は、ステンレス2重管製水冷チャンバー22及びステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70に対して、着脱可能である。
【0073】
なお、その他の構成は、第1の実施の形態の装置1と同様であるので、重複説明を省略する。
【0074】
ここで、高周波誘導熱プラズマ装置2で球状化粒子やコアシェル構造の粒子を作製する際には、熱プラズマで蒸発したままで固相化したナノ粒子もいくらか生成される。
このようにして生成したナノ粒子は、ガスの流れに沿って動くので、例えば、
図11に示した従来の高周波誘導熱プラズマ装置100の構成では、チャンバー21,22の内壁部に付着するものが多くなる。
本実施の形態の高周波誘導熱プラズマ装置2では、このように生成したナノ粒子がチャンバー21,22の内壁部に付着することも抑制する。
【0075】
図9の高周波誘導熱プラズマ装置2の構成における、球状化粒子及びナノ粒子の挙動を、
図10に示す。
図10に示すように、質量のある球状化粒子SPは、重力でそのまま落下して、ステンレス製カップ84で回収される。
一方、ガスの粘性が主体で移動してしまうナノ粒子は、重力で落下しないので、ガスと共に移動する。そのため、ナノ粒子は、
図10中の矢印85及び矢印86で示すように、突起部74及びステンレス2重管製水冷チャンバー22とステンレス製カップ84との隙間を通って、冷却部30に入っていく。その後、ナノ粒子は、冷却部30の冷却板31,33や、回収部40のフィルター41(
図1を参照)に付着するので、それぞれに付着したナノ粒子を除去することができる。
このようにして、球状化粒子SPと、ナノ粒子を、気相で分離することが可能となる。
【0076】
粒子回収部80のステンレス製カップ84で回収した球状化粒子SPは、第1の実施の形態の
図6〜
図8に示したナノ粒子の取り出し方法と同様にして、取り出すことができる。
即ち、球状化粒子SPを回収した後に、ステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70とステンレス2重管製水冷チャンバー22の間で、高周波誘導熱プラズマ装置2を分解する。そして、球状化粒子SPを回収したステンレス製カップ84を、高周波誘導熱プラズマ装置2から取り出す。
そして、例えば、
図9に示した、粒子回収容器92上のステンレスコーン91に、ステンレス製カップ84を上下逆に配置して振動を加えることにより、球状化粒子SPを粒子回収容器92に取り出すことができる。
【0077】
なお、
図10では、球状化粒子SPを回収する場合を説明したが、コアシェル構造の粒子も重力で落下するので、球状化粒子SPと同様にして回収することができる。
【0078】
本実施の形態の構成によれば、スリットリング61が形成されたスリット用ガス供給部60と、テーパー部であるステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70と、ステンレス製カップ84から成る粒子回収部80を設けている。
これらの構成によって、球状化粒子SPやコアシェル構造の粒子の石英2重管製水冷チャンバー21の内壁への付着を抑制することができ、球状化粒子SPやコアシェル構造の粒子を粒子回収部80のステンレス製カップ84に多く集めることができる。このため、回収効率を向上することができ、球状化粒子SPやコアシェル構造の粒子をこのステンレス製カップ84から回収すれば良くなることから、非常に簡便に球状化粒子SPやコアシェル構造の粒子を回収することができる。
【0079】
<4.変形例>
以下、上述した各実施の形態の構成に対する、変形例を説明する。
【0080】
(嫌気化)
回収する対象の粒子が、酸化されやすい材料であるなど、嫌気化が必要となる場合には、本発明の粒子回収機構が粒子回収部に粒子を集めることができる利点を生かして、粒子回収部の周囲の雰囲気を、窒素などの不活性な雰囲気に制御する。これにより、嫌気化が必要となる粒子であっても、簡便に回収することができる。
【0081】
また、例えば、耐熱性の真空ゲート弁などがあれば、この真空ゲート弁を粒子回収部(
図1のステンレスメッシュフィルター81や
図9のステンレス製カップ84)の上下に設けて、そのままカセットのように容器ごとグローブボックスに入れる。これにより、嫌気化が必要となる粒子であっても、回収することができる。
【0082】
(各種の高周波誘導熱プラズマ装置への適用)
上述した各実施の形態においては、高周波誘導熱プラズマ装置を、高周波誘導熱プラズマを発生させる1つのプラズマ発生部(RFプラズマトーチ10)のみを有する構成としていた。
本発明の粒子回収機構は、高周波誘導熱プラズマを発生させる1つのプラズマ発生部のみを有する高周波誘導熱プラズマ装置に限定されず、その他の構成の高周波誘導熱プラズマ装置にも適用することができる。例えば、前述した、DCジェットと高周波誘導結合型のハイブリッドタイプ、2つ乃至3つの高周波誘導結合型プラズマが直列に配置されたタンデムタイプの高周波誘導熱プラズマ装置にも、適用することができる。
【0083】
<5.実験>
本発明の粒子回収機構の、特にテーパー部の効果を確認するために、高周波誘導熱プラズマ装置の試作と粒子の付着状況を確認する実験を行った。
【0084】
(実験1)
実験1として、
図11に示した従来の構成の高周波誘導熱プラズマ装置100を試作し、試作した高周波誘導熱プラズマ装置100でナノ粒子を生成させて、ナノ粒子の付着状況を確認した。
キャリアガスは、アルゴンを2リットル/分で供給して、原料のシリコン粉末(平均粒径5μm)を粉末供給器11の中に約104g入れて、供給レート約1.5g/分で供給した。
プラズマ用ガスには、アルゴンに水素を3.5%混合して、流量40リットル/分・流速1.16m/sで供給した。プラズマ用ガスの供給方法は、Radialとした。
高周波発振機13から誘導コイル14に供給する高周波電圧は、6kWで一定のRF出力とした。
そして、処理時間を10分間として、ナノ粒子を生成させた。
【0085】
処理後に、チャンバー21,22の内壁部と、冷却部30及びフィルター41に、それぞれ付着したナノ粒子の量を調べた。
その結果、チャンバー21,22の内壁部に2.5g(19%)、冷却部30及びフィルター41に10.8g(81%)の粒子が付着していた。
【0086】
(実験2)
図11に示した従来の構成の高周波誘導熱プラズマ装置100から、冷却部30を取り外して、冷却部30の代わりに、内壁面がテーパー状の傾斜面で形成されたステンレス製コーンを取り付けた。このステンレス製コーンは、言わば、
図1のステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70から水冷機構を省略した構成である。ステンレス製コーンの下端の開口径は、10mmとした。
また、処理時間を3分間として、ナノ粒子を生成させた。
その他の構成は、実験1と同様にした。
【0087】
処理後に、透明石英2重管製水冷チャンバー21の天板と、チャンバー21,22の内壁部と、冷却部30及びフィルター41に、それぞれ付着したナノ粒子の量を調べた。
その結果、透明石英2重管製水冷チャンバー21の天板に0.061g(2%)、チャンバー21,22の内壁部に1.528g(49%)、冷却部30及びフィルター41に1.56g(49%)の粒子が付着していた。
【0088】
(実験3)
ステンレス製コーンの下端の開口径を30mmとした以外は、実験2と同様にして、高周波誘導熱プラズマ装置を構成し、ナノ粒子を生成させて、ナノ粒子の付着量を調べた。
その結果、透明石英2重管製水冷チャンバー21の天板に0.064g(3%)、チャンバー21,22の内壁部に1.195g(56%)、冷却部30及びフィルター41に0.88g(41%)の粒子が付着していた。
【0089】
実験2と実験3の結果の比較から、ステンレス製コーンの下端の開口径が小さい実験2の方が、チャンバー21,22の内壁部への粒子の付着を低減できることがわかる。
即ち、テーパー状のステンレスコーンの下端の開口径が小さいほど、下方への粒子の取り込みが多くなり、チャンバーの内壁部への粒子の付着を低減できる。
【0090】
また、実験1と実験2の結果の比較から、処理時間の違いによる影響もあるものの、
図1の冷却部30を配置する部分にステンレス製コーンを設けても、チャンバー21,22の内壁部へのナノ粒子の付着を抑制する効果が十分に得られないことがわかる。これは、ステンレス製コーンの位置が、熱プラズマの発生部から遠すぎるためと考えられる。
【0091】
(実験4)
図11に示した従来の構成の高周波誘導熱プラズマ装置100の透明石英2重管製水冷チャンバー21とステンレス2重管製水冷チャンバー22の間に、ステンレス製コーンを設けて高周波誘導熱プラズマ装置を構成した。ステンレス製コーンの下端の開口径は、実験3と同じく30mmとした。
処理時間を3分間として、ナノ粒子を生成させた。
その他の構成は、実験1と同様にした。
【0092】
処理後に、透明石英2重管製水冷チャンバー21の天板と、上段の透明石英2重管製水冷チャンバー21の内壁部と、ステンレス製コーンの表面及びステンレス2重管製水冷チャンバー22の内壁部及び冷却部30の1枚目の冷却板33と、冷却部30の2枚目以降の冷却板31,33及びフィルター41に、それぞれ付着したナノ粒子の量を調べた。
その結果、透明石英2重管製水冷チャンバー21の天板に0.084g(1%)、透明石英2重管製水冷チャンバー21の内壁部に0.504g(7%)、ステンレス製コーンの表面及びステンレス2重管製水冷チャンバー22の内壁部及び冷却部30の1枚目の冷却板33に3.540g(50%)、冷却部30の2枚目以降の冷却板31,33及びフィルター41に2.904g(42%)の粒子が付着していた。
【0093】
実験2及び実験3の結果と、実験4の結果の比較から、ステンレス製コーンを、透明石英2重管製水冷チャンバー21とステンレス2重管製水冷チャンバー22の間に設けることにより、ステンレス2重管製水冷チャンバー22の後段に設けるよりも、チャンバーの内壁に付着するナノ粒子の量を、大幅に低減できることがわかる。
チャンバー上端からステンレス製コーンまでの距離は、実験3では実験4の約2倍となる。そのため、実験3では、ガス内圧による加速の効果よりも、チャンバー内部のガス流減速による滞留が支配的になり、テーパーの効果がなくなってしまう。
このことから、プラズマフレームがテーパー部に触れてしまう不具合を考慮しつつ、いかにスリットリングからテーパー部までの距離を短くするかが重要な因子となる。
【0094】
また、実験1と実験4の結果の比較から、ステンレス製コーンを、透明石英2重管製水冷チャンバー21とステンレス2重管製水冷チャンバー22の間に設けることにより、ステンレス製コーンを設けていない従来の構成よりも、透明石英2重管製水冷チャンバー21の内壁に付着するナノ粒子の量を低減できることがわかる。
【0095】
そして、実験4の結果では、ステンレス製コーンの表面及びステンレス2重管製水冷チャンバー22の内壁部及び冷却部30の1枚目の冷却板33に50%のナノ粒子が付着しており、2枚目の冷却板31以降に42%のナノ粒子が付着している。
このことから、
図1に示した実施の形態のように、ステンレス2重管製水冷チャンバー22内にステンレスメッシュフィルター81を設ければ、そのフィルター部83を通過する分を除く、多くのナノ粒子を回収できることが想定される。
【0096】
なお、上述の実験2〜実験4では、水冷機構を持たないステンレス製コーンを設けたが、
図1に示した実施の形態のステンレス2重管製水冷テーパーチャンバー70のように、テーパー部を水冷による冷却効果を有する構成とすれば、高温のガスやガス中のナノ粒子がさらに冷却されて、テーパー部以降にある粒子回収部を高温から緩和することができる。これにより、層流によって上に吹き上げられて透明石英2重管製水冷チャンバー21の内壁に付着する、ナノ粒子の量を低減できる、と考えられる。
【0097】
また、上述の各実験では、スリットリングを使用していないため、プラズマ用ガスの供給方法を層流であるRadialとしていた。
プラズマ用ガスの供給方法をTangentialとした場合には、ガスの流れが拡がるので、
図11に示した従来の構成では、チャンバー21,22の内壁部に多くのナノ粒子が付着する。
これに対して、
図1に示した実施の形態のように、スリットリング61を備えたスリット用ガス供給部60を設けて、スリット用ガスを噴射することにより、プラズマ用ガスの供給方法をTangentialとした場合のガスの拡がりを抑制することができる。
従って、プラズマ用ガスの供給方法がTangentialの場合でも、スリットリング61からスリット用ガスを噴射することにより、Radialとした実験4と同様に、ナノ粒子のチャンバーへの付着を低減する効果を得ることができる。