特許第6962827号(P6962827)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6962827タンディッシュのライニング構造及びタンディッシュ用パーマ不定形耐火物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962827
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】タンディッシュのライニング構造及びタンディッシュ用パーマ不定形耐火物
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20211025BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20211025BHJP
   B22D 41/02 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   B22D11/10 310J
   F27D1/00 N
   F27D1/00 D
   B22D41/02 A
   B22D41/02 D
   B22D41/02 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-10852(P2018-10852)
(22)【出願日】2018年1月25日
(65)【公開番号】特開2019-126828(P2019-126828A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中園 綾
(72)【発明者】
【氏名】辻 陽一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏行
(72)【発明者】
【氏名】瓜田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】前川 明慶
(72)【発明者】
【氏名】筒井 雄史
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 史晴
(72)【発明者】
【氏名】梅本 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】久下 真帆
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−042868(JP,A)
【文献】 特開2004−131310(JP,A)
【文献】 特開2017−065956(JP,A)
【文献】 特開平10−156517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/02
B22D 11/10
F27D 1/00
C04B 35/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を受けるタンディッシュのライニング構造であって、
鉄皮と、当該鉄皮の内面にライニングされたパーマ不定形耐火物と、を備え、
前記タンディッシュが稼働している際に前記パーマ不定形耐火物の厚さ方向の中央部が受熱する温度350〜675℃の全範囲において、前記パーマ不定形耐火物の厚さ方向の中央部における受熱時温度の熱膨張率(Ta)と前記鉄皮の内面における受熱時温度の熱膨張率(Tb)との差(Ta−Tb)が0%以上0.20%以下であることを特徴とするタンディッシュのライニング構造。
【請求項2】
溶融金属を受けるタンディッシュの鉄皮の内面にライニングされるタンディッシュ用パーマ不定形耐火物であって、
耐火原料として、焼成珪石を5質量%以上15質量%以下含み、耐火原料の残部としてアルミナ質原料及びアルミナ・シリカ質原料の少なくとも一つを含み、さらに添加剤として分散剤、結合剤及び増粘剤の少なくとも一つを含み、
300℃〜700℃における熱膨張率が0.20%以上0.70%以下、300℃〜700℃における残存線変化率が0%以上0.18%以下であることを特徴とするタンディッシュ用パーマ不定形耐火物。
【請求項3】
前記焼成珪石100質量%中に、クリストバライト及び/又はトリジマイトを合量で60質量%以上含む請求項2に記載のタンディッシュ用パーマ不定形耐火物。
【請求項4】
前記焼成珪石100質量%中に、トリジマイトを50質量%以上90質量%以下、クリストバライトを10質量%以上45質量%以下含み、かつ前記焼成珪石中の石英の含有量が5質量%以下(0を含む)である請求項2に記載のタンディッシュ用パーマ不定形耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属を受けるタンディッシュのライニング構造及びタンディッシュ用パーマ不定形耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンディッシュにおけるパーマライニングは、レンガを1枚ずつ積み上げることで施工していた。このため、熟練者が時間をかけて築造しなければならず、その作業は極めて困難なものであった。そこで、パーマ材を不定形耐火物化することが検討されており、例えば特許文献1には、Al−SiO質のタンディッシュ用パーマ不定形耐火物が開示されている。
【0003】
特許文献1によると、このAl−SiO質のタンディッシュ用パーマ不定形耐火物は、最大膨張が小さく亀裂の入りにくい材料であるとされているが、本発明者らがタンディッシュ用パーマ不定形耐火物として特許文献1と同様のAl−SiO質の材料を用いたところ、そのパーマライニングに亀裂を生じる結果となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−156517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、パーマライニングに亀裂の発生を抑制できるタンディッシュのライニング構造及びタンディッシュ用パーマ不定形耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述の課題を解決するには単にパーマ不定形耐火物の熱膨張を下げるのではなく、パーマ不定形耐火物と鉄皮との熱膨張特性の関係を考慮すべきと考えた。すなわち、タンディッシュのライニング構造においてパーマ不定形耐火物はスタッドにより鉄皮と固定される構成となるため、鉄皮の熱膨張とパーマ不定形耐火物の熱膨張との差が大きいと、パーマ不定形耐火物(パーマライニング)に亀裂を生じる原因となると考えたのである。具体的には、鉄皮の熱膨張とパーマ不定形耐火物の熱膨張との差が大きく、鉄皮の熱膨張>パーマ不定形耐火物の熱膨張であると、パーマ不定形耐火物には常に引張方向の力が働き、亀裂の原因となり、一方、鉄皮の熱膨張<パーマ不定形耐火物の熱膨張であると、パーマ不定形耐火物に圧縮方向の力が働き、セリ割れやセリ出しといった耐火物劣化の原因となるということである。そこで、本発明者らは前述の課題を解決するために、鉄皮の熱膨張とパーマ不定形耐火物の熱膨張との差に着目して検討を重ね、本発明に想到した。
【0007】
すなわち、本発明の一観点によれば、次のタンディッシュのライニング構造が提供される。
溶融金属を受けるタンディッシュのライニング構造であって、
鉄皮と、当該鉄皮の内面にライニングされたパーマ不定形耐火物と、を備え、
前記タンディッシュが稼働している際に前記パーマ不定形耐火物の厚さ方向の中央部が受熱する温度350〜675℃の全範囲において、前記パーマ不定形耐火物の厚さ方向の中央部における受熱時温度の熱膨張率(Ta)と前記鉄皮の内面における受熱時温度の熱膨張率(Tb)との差(Ta−Tb)が0%以上0.20%以下であることを特徴とするタンディッシュのライニング構造。
【0008】
また、本発明の他の観点によれば、次のタンディッシュ用パーマ不定形耐火物が提供される。
溶融金属を受けるタンディッシュの鉄皮の内面にライニングされるタンディッシュ用パーマ不定形耐火物であって、
耐火原料として、焼成珪石を5質量%以上15質量%以下含み、耐火原料の残部としてアルミナ質原料及びアルミナ・シリカ質原料の少なくとも一つを含み、さらに添加剤として分散剤、結合剤及び増粘剤の少なくとも一つを含み、
300℃〜700℃における熱膨張率が0.20%以上0.7%以下、300℃〜700℃における残存線変化率が0%以上0.18%以下であることを特徴とするタンディッシュ用パーマ不定形耐火物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タンディッシュのライニング構造においてパーマライニングの亀裂の発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタンディッシュのライニング構造は、鉄皮と、当該鉄皮の内面にライニングされたパーマ不定形耐火物とを備える。一般的には、パーマ不定形耐火物はスタッドにより鉄皮と固定され、パーマ不定形耐火物の内面側にはウェア耐火物がライニングされる。このようなライニング構造において本発明では、パーマ不定形耐火物の厚さ方向の中央部における受熱時温度の熱膨張率(Ta)と鉄皮の内面における受熱時温度の熱膨張率(Tb)との差(Ta−Tb)が0%以上0.20%以下となるようにしている。このようにタンディッシュに溶融金属を受けているときの温度である受熱時温度を基準として、パーマ不定形耐火物の熱膨張率(Ta)と鉄皮の熱膨張率(Tb)との差(Ta−Tb)を0%以上とすることで引張応力の発生を抑え、さらに0.20%以下とすることでセリ出しおよびセリ割れを抑え、パーマ不定形耐火物(パーマライニング)の劣化を抑制できる。なお、前述の受熱時温度とは、パーマ不定形耐火物についてはその厚さ方向の中央部における温度とし、鉄皮についてはその内面における温度としている。
【0011】
本発明のタンディッシュ用パーマ不定形耐火物(以下、単に「パーマ不定形耐火物」という。)は、前述の熱膨張率の差(Ta−Tb)を0%以上0.20%以下にできるように設計されたもので、その熱膨張特性は、300℃〜700℃における熱膨張率が0.20%以上0.70%以下、300℃〜700℃における残存線変化率が0%以上0.18%以下である。すなわち、本発明者らが各種タンディッシュにおいてパーマ不定形耐火物の厚さ方向の中央部における受熱時温度を評価したところ、概ね300℃〜700℃の範囲にあることがわかったことから、本発明においてパーマ不定形耐火物の熱膨張特性は300℃〜700℃で評価することとした。また、鉄皮の受熱時温度を評価したところ、概ね170℃〜350℃の範囲にあり、この温度範囲における鉄皮の熱膨張率は0.20%以上0.5%以下であった。そして、前述の熱膨張率の差(Ta−Tb)を0%以上0.2%以下にする点から、パーマ不定形耐火物の300℃〜700℃における熱膨張率を0.20%以上0.70%以下に特定した。
【0012】
また、タンディッシュにおいては、稼働終了後にウェア耐火物の補修等を行う場合、パーマ不定形耐火物は室温程度まで冷却される。このとき、パーマ不定形耐火物の残存線変化率がマイナスであると、収縮亀裂が発生しやすくなるため、残存線変化率はプラス(0以上)にする必要がある。一方、残存線変化率の値がプラスに大きすぎると(0.18%を超えると)、稼働中の熱膨張率が大きくなりすぎてしまい(後述する比較例5参照)、亀裂を生じてしまう。このため、300℃〜700℃における残存線変化率を0%以上0.18%以下とすることで、熱膨張率の差(Ta−Tb)を小さくできることと相まって、パーマ不定形耐火物(パーマライニング)に亀裂の発生を抑制できる。
【0013】
また、本発明のパーマ不定形耐火物は、前述の熱膨張特性(300℃〜700℃における熱膨張率及び残存線変化率)を得るために、焼成珪石を5質量%以上15質量%以下含む。ここで焼成珪石とは、珪石を約1000℃以上の温度で焼成して、珪石の主鉱物である石英をトリジマイトやクリストバライト、あるいはこれらの混合相に転移させたものであり、この焼成珪石としては屑煉瓦や使用済み回収煉瓦を使用することもできる。本発明者らは、焼成珪石が鉱物(結晶相)としてクリストバライト、トリジマイトを多く含み、このことが前述の熱膨張特性(300℃〜700℃における熱膨張率及び残存線変化率)を得るのに有効であるとの知見に基づき、焼成珪石を使用することとした。
【0014】
前述の熱膨張特性(300℃〜700℃における熱膨張率及び残存線変化率)をより確実に得る点から、焼成珪石100質量%中のクリストバライト及び/又はトリジマイトの含有量は合量で60質量%以上であることが好ましく、より具体的には、焼成珪石100質量%中に、トリジマイトを50質量%以上90質量%以下、クリストバライトを10質量%以上45質量%以下含み、かつ焼成珪石中の石英の含有量は5質量%以下(0を含む)であることが好ましい。
【0015】
本発明のパーマ不定形耐火物はAl−SiO質とすることができ、耐火原料として焼成珪石を5質量%以上15質量%以下含むほか、耐火原料の残部としてアルミナ質原料及びアルミナ・シリカ質原料(シャモット質原料、ムライト質原料、シリマナイト質原料等)の少なくとも一つを含むことができ、さらに添加剤として、不定形耐火物で一般的に使用されている分散剤、結合剤及び増粘剤の少なくとも一つを含むことができる。なお、施工時には水を添加するが、本発明において水はパーマ不定形耐火物の配合100質量%には含めず、パーマ不定形耐火物の配合100質量%に対して外掛けで添加するものとする。
【実施例】
【0016】
表1及び表2に示す各例の配合によるパーマ不定形耐火物について、熱膨張率及び残存線変化率を評価した。また、各例のパーマ不定形耐火物によるタンディッシュのライニング構造について、パーマ不定形耐火物の厚さ方向の中央部における受熱時温度の熱膨張率(Ta)と鉄皮の内面における受熱時温度の熱膨張率(Tb)との差(Ta−Tb)(以下「鉄皮との熱膨張差」という。)を評価するとともに、実炉評価を行った。
【0017】
熱膨張率はJIS−R2207に準拠して、残存線変化率はJIS-R2254に準拠して、それぞれ300℃と700℃において測定した。
鉄皮との熱膨張差は、JIS−R2207に準拠して測定したTaとTbからTa−Tbを計算して求めた。なお、表1及び表2において「1)耐火物350℃、鉄皮200℃」とは、タンディッシュのライニング構造においてパーマ不定形耐火物の厚さ方向の中央部における受熱時温度が350℃、鉄皮の内面における受熱時温度が200℃の場合であることを表しており、「2)耐火物480℃、鉄皮273℃」「3)耐火物675℃、鉄皮320℃」についても同様である。これら1)〜3)の場合は、タンディッシュのライニング構造における受熱時温度の上限と下限をほぼ網羅する。
【0018】
実炉評価では、1炉代後における亀裂幅1mm以上の亀裂本数と耐用使用回数を評価した。ここで「1炉代後」とは、パーマライニングの内面側のウェアライニングが消失した後のことであり、実炉評価では、まずこの1炉代後においてパーマ不定形耐火物(パーマライニング)に生じている亀裂幅1mm以上の亀裂本数を評価した。表1及び表2では、この亀裂本数が10本未満の場合を◎(優)、10本以上20本未満の場合を○(良)、20本以上の場合を×(不良)と表記した。
また、タンディッシュのライニング構造では前述の1炉代後、ウェアライニングを再施工して使用を続け、2炉代後もパーマライニングが使用できる限りウェアライニングを再施工して使用を続ける。そこで、実炉評価では、パーマライニングを継続して使用できる炉代数を耐用使用回数として評価した。表1及び表2では、耐用使用回数が7炉代超(8炉代以上)の場合を◎(優)、6炉代又は7炉代の場合を○(良)、6炉代未満(5炉代以下)の場合を×(不良)と表記した。
【0019】
表1及び表2には、各例の配合に使用した焼成珪石中の鉱物量も示している。この焼成珪石中の鉱物量は、内標準物質としてシリコンを使用した内部標準法によりX線最強回折強度から求めた。内部標準法とは、内標準物質と試料を一定の割合で混合し、成分濃度と回折線強度比との間には直線比例関係が得られることを利用して、濃度が既知の標準試料で検量線を作成し分析する公知の方法である。表1及び表2に示しているように、焼成珪石中の鉱物は、クリストバライト(Cri)とトリジマイト(Tri)が主体で、石英(Q)は少ない。一方、生珪石中の鉱物は石英(Q)が主体(概ね95質量%以上)である。
【0020】
なお、表1及び表2に示す各例の配合において「その他」とは、シリカ超微粉、分散剤、結合剤、増粘剤等である。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
表1の実施例1〜6は、いずれも本発明の範囲内にあるパーマ不定形耐火物とタンディッシュのライニング構造である。1炉代後における亀裂幅1mm以上の亀裂本数が少なく、耐用使用回数も6炉代以上で良好な耐用性が得られた。
【0024】
これに対して、表2の比較例1〜3は、焼成珪石の配合量が本発明の範囲を下回る例であり、その結果、300℃〜700℃における熱膨張率が小さくなり、鉄皮との熱膨張差が大きくなった(鉄皮の熱膨張>パーマ不定形耐火物の熱膨張)。したがって、比較例1〜3のパーマ不定形耐火物(パーマライニング)には常に引っ張りの力が働くことになり、実炉評価では亀裂本数が多くなった。
一方、表2の比較例4、5は、焼成珪石の配合量が本発明の範囲を上回る例であり、その結果、300℃〜700℃における熱膨張率が大きくなり、鉄皮との熱膨張差が大きくなった(鉄皮の熱膨張<パーマ不定形耐火物の熱膨張)。したがって、比較例4、5のパーマ不定形耐火物(パーマライニング)には常に圧縮方向の力が働くことになり、実炉評価ではせり出しが見られ亀裂本数が多くなった。