特許第6962835号(P6962835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6962835電子写真感光体およびこれを備える画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962835
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】電子写真感光体およびこれを備える画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20211025BHJP
   G03G 5/10 20060101ALI20211025BHJP
   G03G 21/16 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   G03G15/00 657
   G03G5/10
   G03G21/16 147
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-31968(P2018-31968)
(22)【出願日】2018年2月26日
(65)【公開番号】特開2019-148645(P2019-148645A)
(43)【公開日】2019年9月5日
【審査請求日】2020年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸英
【審査官】 三橋 健二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−100596(JP,A)
【文献】 特開2009−205167(JP,A)
【文献】 特開平11−242407(JP,A)
【文献】 特開2006−215346(JP,A)
【文献】 特開平11−242392(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0140672(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00
G03G 5/10
G03G 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の内径を有する円筒状基体と、該円筒状基体の外表面に形成された感光体層とを有する電子写真感光体であって、前記円筒状基体は、端部の内側にフランジを装着するための前記第1の内径よりも大きい第2の内径と前記フランジの一部を収容する深さとを有する嵌合部を有し、該嵌合部は奥端に、前記第2の内径と前記第1の内径との間の段差部の外周側に沿って、前記嵌合部の深さ方向に、深さ方向の大きさである深さおよび内径方向の大きさである幅を有し、前記第2の内径の内周面から発生する削り屑を収容できる凹状のR面を有していることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記段差部は、前記R面の内側に、内径方向に平行な平面を有している、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記段差部は、内径方向に平行な前記平面の内側に、前記嵌合部の深さ方向に傾斜した傾斜面を有している、請求項2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記嵌合部は、前記円筒状基体の端面側に、前記第2の内径にかけて前記嵌合部の深さ方向に傾斜した端部傾斜面を有している、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記円筒状基体は、内径方向に平行な端面と該端面に続くC面とを有している、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の電子写真感光体を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状基体の外表面に感光体層を有するとともに端部にフランジとの嵌合部を有する電子写真感光体およびこれを備える画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やプリンタなどの画像形成装置には、円筒状基体の外周面上に光導電層を含む感光体層が形成された電子写真感光体と、電子写真感光体を回転させるための駆動機構とを含んで構成されるものがある。このような構成の画像形成装置では、電子写真感光体を駆動機構によって回転させ、その回転周期に同期させて帯電・露光・現像・転写・クリーニング・除電などの動作を繰り返し行なうことによって記録媒体に画像が形成される。この画像形成時の電子写真感光体の回転には、円筒状基体の端部に嵌合させたフランジを介して駆動機構から駆動力が伝達される。
【0003】
円筒状基体(以下、基体ともいう。)の端部にフランジを挿入して嵌合させるために、基体の端部にはインローと言われる段状の加工が行なわれる。このインロー部を嵌合部としてフランジを挿入し、嵌合部の奥端にフランジの端面を突き当てることで、所定深さでフランジを固定して嵌合させることが行なわれている。
【0004】
このインロー部の奥端には、嵌合させるフランジを所定深さで固定するための角部が形成されているため、例えば感光体の製造工程において基体の端部に挿入される治具の先端が角部に接触して磨耗粉を発生させることがある。このような問題に対しては、インロー部の奥端に連接して、奥端から基体の内面に到る緩面部を設けることにより、治具の衝突による磨耗粉の発生を抑制できることが提案されている(特許文献1を参照)。
【0005】
また、インロー部(嵌合部)にフランジを嵌合させる場合に、嵌め合い公差あるいは加工公差があるためにフランジにがたつきが生じ、振動や温度変化で感光体とフランジとの軸がずれる可能性がある。このような問題に対しては、感光体の端面にはフランジが突き当たる部分に、内径が端面に向かって連続的に小さくなる斜面を有する凹部を全周に渡って形成する。一方、フランジには、その凹部の斜面と接触する斜面を有する凸部を形成して、感光体の端面の凹部とフランジの凸部が互いの斜面を伝って移動可能にする。これにより、感光体とフランジとの偏芯を小さくし振れを小さくできることが提案されている(特許文献2を参照)。
【0006】
近年の画像形成装置に対しては、特に商業印刷用途あるいはパッケージ印刷用途では、高速で印画が行なえる高生産性とともに高画質の印画性能が求められる。また、その電子写真感光体(以下、感光体ともいう。)に対しては、印画の高速化に伴って大型化・大径化とともに加工精度の向上が求められる。
【0007】
感光体の基体には通常は軟材であるアルミニウムを主成分とする金属が用いられるため、大型化・大径化する基体の加工精度の向上には、特に端部の変形を抑えるために加工時により低いクランプ圧で基体を保持するように進められてきた。円筒状基体を低クランプ圧で加工する方法として、大径基体のマシニングセンタ加工が行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−174906号公報
【特許文献2】特開2010−117693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
大型化・大径化する基体の嵌合部(インロー部)においては、マシニングセンタ加工によって加工精度を向上しても、フランジを挿入する際にインロー部の内周との間で局所的にわずかな引っ掛かりが生じる場合がある。その場合には、引っ掛かりの部分でインロー部の内周が削られて、削り屑を発生させながらフランジの端面がインロー部の奥端に突
き当てられることになる。その時にフランジの端面とインロー部の奥端との間に挟まれた削り屑がフランジの均一な当たりを邪魔することになり、基体に嵌合されたフランジがわずかに傾いたりがたついたりしてフランジの取付け精度に影響を与えるという問題があった。また、感光体の端部に変形が生じて、画像形成装置での印画において濃度むらなどが生じるといった画像品質の低下を招くという問題もあった。特に、大型化・大径化する感光体に対しては、フランジにも精度および強度が要求さるため、その材料としては例えば鉄系合金などの金属が用いられることから、上記のような問題が生じていた。
【0010】
このような事情のもとで、本発明は、基体の嵌合部へのフランジの取付け精度を向上させることができ、ひいては良好な画像を形成することが可能な電子写真感光体およびこれを備える画像形成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電子写真感光体は、第1の内径を有する円筒状基体と、該円筒状基体の外表面に形成された感光体層とを有する電子写真感光体であって、前記円筒状基体は、端部の内側にフランジを装着するための前記第1の内径よりも大きい第2の内径と前記フランジの一部を収容する深さとを有する嵌合部を有し、該嵌合部は奥端に、前記第2の内径と前記第1の内径との間の段差部の外周側に沿って、前記嵌合部の深さ方向に、深さ方向の大きさである深さおよび内径方向の大きさである幅を有し、前記第2の内径の内周面から発生する削り屑を収容できる凹状のR面を有していることを特徴としている。
【0012】
本発明に係る電子写真感光体において、前記段差部は、前記R面の内側に、内径方向に平行な平面を有していることが好ましい。
【0013】
本発明に係る電子写真感光体において、前記段差部は、内径方向に平行な前記平面の内側に、深さ方向に傾斜した傾斜面を有していることが好ましい。
【0014】
本発明に係る電子写真感光体において、前記嵌合部は、前記円筒状基体の端面側に、前記第2の内径にかけて深さ方向に傾斜した端部傾斜面を有していることが好ましい。
【0015】
本発明に係る電子写真感光体において、前記円筒状基体は、内径方向に平行な端面と該端面に続くC面とを有していることが好ましい。
【0016】
本発明に係る画像形成装置は、上述の本発明に係る電子写真感光体を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る電子写真感光体によれば、感光体にフランジを挿入する際に嵌合部の内周との間で局所的な引っ掛かりによって削り屑が発生したとしても、その削り屑は、段差部が外周側に沿って深さ方向に有している凹状のR面に収容することができる。そのため、フランジの端面が嵌合部の奥端に均一な当たりで突き当てられることになり、フランジの傾きあるいはがたつきを抑えて、嵌合させるフランジの取付け精度を向上することができる。また、フランジと嵌合部の奥端とで削り屑を挟み込むことによる感光体の端部の変形を抑えることもできる。その結果、画像形成装置での印画における画像品質の低下を抑えることができる。
【0018】
本発明に係る画像形成装置によれば、本発明に係る電子写真感光体を備えているので、本発明に係る感光体部材が有する効果を享受することができ、良好な画像品質の画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は本発明に係る電子写真感光体の実施形態の一例の概略構成を示す断面図であり、(b)はA部を拡大して感光体層の構成の例を示す断面図であり、(c)および(d)はB部を拡大して基体端部の形状の例を示す断面図である。
図2】(a)〜(f)は、それぞれ電子写真感光体の基体端部の形状の例を示す断面図である。
図3図1に示した電子写真感光体の感光体層を形成するための成膜装置の一例を示す模式的断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る画像形成装置の一例の概略構成を表す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る電子写真感光体および画像形成装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1(a)は本発明に係る電子写真感光体の実施形態の一例の概略構成を表す断面図であり、図1(b)はその一部(A部に相当)を拡大して示す断面図である。図1(a)に示すように、電子写真感光体10は、導電性の円筒状基体10Aおよび円筒状基体10Aの外周面上に形成された感光体層10Bを有しており、電子写真方式の画像形成装置において画像信号に基づいた静電潜像やトナー像が表面に形成されるものである。この電子写真感光体10は、必要に応じて両端部にフランジFが嵌合によって固定され、これを介して画像形成装置内に回転可能に搭載される。
【0022】
図1に示した例の電子写真感光体10(以下、感光体10ともいう。)は、導電性の円筒状基体10A(以下、基体10Aともいう。)の外周面に、感光体層10Bとして電荷注入阻止層101、光導電層102および表面層103を順次積層形成したものである。なお、この例は感光
体層10Bとして非晶質シリコン(a−Si)系の材料を用いたものであり、この場合の基本的な構成について説明する。
【0023】
基体10Aは、感光体10において感光体層10Bの支持部材となるものであり、導電性を有する金属材料で円筒状に構成されている。金属材料としては、例えばアルミニウム(Al),ステンレス(SUS),亜鉛(Zn),銅(Cu),鉄(Fe),チタン(Ti),ニッケル(Ni),クロム(Cr),モリブデン(Mo),インジウム(In),ニオブ(Nb),テルル(Te),バナジウム(V),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),スズ(Sn),白金(Pt),金(Au)および銀(Ag)が挙げられる。中でも、非晶質(アモルファス)シリコン系(a−Si系)材料によって感光体層10Bを形成する場合においてこの感光体層10Bとの密着性を高める観点からは、基体10AをAl系合金(例えばAl−Mn系合金,Al−Mg系合金,Al−Mg−Si系合金)によって構成したものが好ましい。
【0024】
基体10Aにおける感光体層10Bの形成面は、旋盤加工などによって表面処理が施される。表面処理としては、例えば鏡面加工および線状溝加工が挙げられる。また、両端部にはフランジを装着(嵌合して固定)するためのインロー部である嵌合部が形成される。
【0025】
この嵌合部の形状の例を図1(c)および図1(d)にそれぞれ図1(a)の一部(B部に相当)を拡大した断面図で示す。なお、これらの図においてはフランジの図示は省略している。図1(c)および図1(d)に示す基体10Aの嵌合部は、円筒状基体10Aの第1の内径φ1よりも大きい第2の内径φ2と、フランジの一部を収容する深さ(図における左右方向の長さ)とを有している。また嵌合部は、基体10Aの第1の内径φ1の内周面110と、嵌合部における第2の内径φ2の内周面111との間に段差部を有している。そしてこの嵌合部は、第2の内径φ2と第1の内径φ1との間の段差部の外周側に沿って、深さ方向に凹状のR面112を有している。
【0026】
嵌合部が凹状のR面112を有していることにより、感光体10にフランジFを挿入する際
に嵌合部の内周面111との間で局所的な引っ掛かりによって削り屑が発生したとしても、
その削り屑は、凹状のR面112に収容することができる。これにより、フランジFの端面
を嵌合部の奥端に均一な当たりで突き当てられるようになり、フランジFの傾きあるいはがたつきを抑えて、嵌合させるフランジFの取付け精度を向上することができる。また、フランジFと嵌合部の奥端とで削り屑を挟み込むことによる感光体10の端部の変形を抑えることもできる。
【0027】
このようなR面112としては、例えば、第1の内径φ1が230mmであり、第2の内径φ2が232mmであるのに対して、R0.3mm、深さ(深さ方向の大きさ)を0.3mm、幅(内径方向の大きさ)を0.3mmに設定すればよい。
【0028】
嵌合部における段差部は、R面112の内側に、基体10Aの内径方向に平行な平面113を有していることが好ましい。このような平面113を有していることにより、嵌合するフラン
ジFの端面をこの平面113で安定して受け止めて精度よく固定することができる。そのた
め、フランジFの装着精度が向上するとともに、感光体10の端部の変形を抑えることができる。
【0029】
このような平面113は、内径方向の幅を、上記の大きさの基体10Aにおいて、例えば0.95mmとすればよい。
【0030】
ここで、嵌合部のインロー加工をマシニングセンタ加工で行なう際に、加工工具にエンドミルを使用すると、嵌合部の奥端における段状の角部のフラット形状の部分(内径方向の平面113)の内周部分で加工によるバリが生じてしまい、このバリによってフランジF
の端面の当たりにがたつきを生じて、フランジFの取付け精度に影響を与えることがある。
【0031】
このような問題に対しては、嵌合部における段差部は、内径方向に平行な平面113の内
側に、深さ方向に傾斜した傾斜面114を有していることが好ましい。このような傾斜面114を有していることにより、平面113の内周側の端部に加工時に生じやすいバリを削り取る
ことができて、平面113の平坦さを良好に確保することができる。そのため、フランジF
の装着精度が向上するとともに、感光体10の端部の変形を抑えることができる。
【0032】
このような傾斜面114は段差部の平面113の内周側の端部(角部)のC面として形成すればよい。傾斜面114の大きさとしては、上記の大きさの基体10Aにおいて、例えば深さ(
深さ方向の大きさ)を2.5mmとし、幅(内径方向の大きさ)を2.5mmとすればよい。
【0033】
嵌合部は、基体10Aの端面115側に、第2の内径φ2の内周面111にかけて深さ方向に傾斜した端部傾斜面116を有していることが好ましい。このような端部傾斜面116を有していることにより、嵌合部にフランジFを挿入する際にフランジFの中心軸と感光体10の中心軸とを良好に位置合わせしやすくなるとともに、フランジFの端面の外周部が嵌合部の内
周面111に局所的に引っ掛かるのを抑えやすくなる。そのため、局所的な引っ掛かりによ
る削り屑の発生を抑えるとともに、感光体10の端部の変形を抑えることができる。
【0034】
このような端部傾斜面114としては、例えば端面115に対する傾きを45°(角度45度)とし、長さ(深さ方向の大きさ)を2.5mmとし、幅(内径方向の大きさ)を2.5mmなどとすればよい。
【0035】
基体10Aは、内径方向に平行な端面115と、この端面115に続くC面117とを有している
ことが好ましい。このような端面115とこの端面115に続くC面117とを有していることに
より、フランジFを嵌合部に挿入する際にフランジFを端部傾斜面116に沿って、端部傾
斜面116がない場合は内周面111に沿って嵌合部に装着しやすくなる。
【0036】
このようなC面117としては、例えば端面115に対する傾きを45°とし、幅(内径方向の大きさ)を0.3mmなどとすればよい。
【0037】
上記の嵌合部を加工する方法としては、切削バイトを有する超精密旋盤を用いて行なう旋盤加工、あるいはマシニングセンタ加工が挙げられる。例えば旋盤加工の場合であれば、第1の内径φ1をクランプした状態で高速回転させて、切削バイトによって加工を行なう。また、マシニングセンタ加工の場合は、基体10Aの外径と内径とをそれぞれクランプした状態で、加工工具を高速回転させて加工を行なう。
【0038】
感光体層10Bは、下部電荷注入阻止層101,光導電層102および表面層103を積層して形
成したものであり、その厚みは例えば15μm以上90μm以下に設定される。
【0039】
下部電荷注入阻止層101(以下、下部阻止層101ともいう。)は、基体10A側からの電荷が光導電層102側に注入されるのを阻止する役割を担うものである。具体的に、下部阻止
層101は、正帯電の感光体10では基体10A側から光導電層102側に電子(負電荷)が注入されるのを阻止する機能を有している。また、負帯電の感光体10では基体10A側から光導電層102側にホール(正電荷)が注入されるのを阻止する機能を有している。
【0040】
本例の下部阻止層101は、非晶質シリコンを主体とする非単結晶材料により構成される
。ここで非単結晶材料とは、多結晶、微結晶あるいは非晶質の部分を含む材料を意味している。また、下部阻止層101は、正帯電用であれば周期表第13族元素を、負帯電用であれ
ば周期表第15族元素を含んでいる。
【0041】
第13族元素としては、硼素(B),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In)またはタリウム(Tl)などが挙げられる。第15族元素としては、窒素(N),燐(P),砒素(As),アンチモン(Sb)またはビスマス(Bi)などが挙げられる。これらの中で、プラズマCVD法、例えばグロー放電分解法による成膜時のドーピング濃度の制御容易性の観点からは、第13族元素としては硼素が、第15族元素としては窒素または燐が好ましい。
【0042】
また、下部阻止層101は、酸素(O)または炭素(C)をさらに含んでいてもよい。下
部阻止層101が酸素または炭素を含むことによって、基体10Aとの密着性が向上すること
となるので好ましい。
【0043】
上記の添加元素は、いずれも下部阻止層101中に実質的に均一に分布していてもよいし
、層厚方向において不均一に分布している部位を有していてもよい。但し、分布濃度が不均一である場合は、基体10Aへの密着性の観点または残留電荷の発生を低減する観点から、基体10A側における添加元素の濃度が大きくなるように含有させるのが好ましい。なお、いずれの場合においても、面内方向における特性の均一化を図る観点から、基体10Aの表面に平行な面内方向において実質的に均一に分布しているのが好ましい。
【0044】
下部阻止層101の厚さは、所望の電子写真特性および経済的効果などの観点から、0.1μm以上10μm以下に設定される。下部阻止層101の厚さが0.1μm未満であると、基体10A側からの電荷の注入を充分に阻止することができない場合がある。他方、下部阻止層101
の厚さが10μmを超えると、残留電荷が発生し、メモリ特性が悪化してしまう場合がある。
【0045】
光導電層102は、レーザ光などの光照射によってキャリアを発生させる役割を担うもの
である。本例における光導電層102は、非晶質シリコンを主体とするものである。すなわ
ち、シリコンを主体とする非単結晶材料により構成されており、微結晶シリコンを含んでなる場合は、暗導電率・光導電率を高めることができ、光導電層102の設計自由度を高め
ることができる。
【0046】
光導電層102は、シリコンの未結合手(ダングリングボンド)を補償する観点から、水
素およびハロゲン元素の少なくとも一方を含むものが好ましい。光導電層102における水
素およびハロゲン元素の含有量の総和は、シリコンと水素とハロゲン元素との含有量の総和に対して1原子%以上40原子%以下とされるのが好ましい。光導電層102の原料として
は、SiH,Siなどの水素化珪素(シラン類)またはSiF,Siなどのフッ化珪素が挙げられる。これらの原料は、必要に応じてHおよびHeの少なくとも一方によって希釈してもよい。
【0047】
また、光導電層102には、伝導性を制御するための伝導性制御元素を導入してもよい。
伝導性制御元素としては、例えばp型伝導特性を付与する第13族元素およびn型伝導特性を付与する第15族元素が挙げられる。半導体特性に対する感応性あるいは光感度の観点から、第13族元素としては硼素、第15族元素としては燐が好ましい。特に、伝導性制御元素としては、光導電層102を真性型(i型)に近付けるべく第13族元素を採用するのが好ま
しい。光導電層102に対する伝導性制御元素の導入は、層形成時に、光導電層102の主たる構成元素とともに、伝導性制御元素を導入するための原料を必要に応じてHおよびHeなどのガスによって希釈して反応容器中に供給することにより行なう。光導電層102にお
ける伝導性制御元素の濃度は層厚方向に変化させてもよい。その場合は、光導電層102に
おける伝導性制御元素の含有量は、光導電層102の全体における平均含有量が所定範囲内
であればよい。
【0048】
さらに、光導電層102には、炭素、酸素および窒素のうちの少なくとも1種の元素を含
有させてもよい。この光導電層102の厚さ(層厚)は、所望の電子写真特性および経済的
効果などの観点から、5μm以上100μm以下(好適には10μm以上80μm以下)に設定
される。
【0049】
表面層103は、主として感光体10の耐湿性、繰り返し使用特性、電気的耐圧性、使用環
境特性あるいは耐久性を高める役割を担うものであり、本例ではシリコンおよび炭素の少なくとも一方を主体とする非単結晶材料によって構成される。具体的には、水素化アモルファスシリコンカーバイド(a−SiC:H)あるいは水素化アモルファスカーボン(a−C:H)で構成される。表面層103の厚さは、耐久性あるいは残留電位などの観点から
、0.2μm以上1.5μm以下(好適には、0.5μm以上1μm以下)に設定される。
【0050】
なお、以上のような感光体層10Bの各層に加えて、例えば光導電層102と表面層103との間に、表面層103側から光導電層102へと表面電荷が注入されるのを阻止するために上部電荷注入阻止層を配置したりして、所望の電子写真特性が得られるように設計しても構わな
い。
【0051】
また、感光体層10Bは、帯電器によって所定の電位に表面電荷を帯電し、露光器からのレーザ光などの照射によってキャリアを発生して静電潜像を形成するためのものであるので、そのような電子写真特性を有するものであれば種々の材料が適用できる。上記のようなa−Si系材料の他に、例えばa−Se,Se−TeおよびAsSeなどのa−Se系材料、あるいはZnO,CdSおよびCdSeなどの周期表第12−16族化合物からなる材料、あるいはこれらの材料からなる粒子を樹脂中に分散させた材料、あるいはOPC系などの感光体材料が挙げられる。
【0052】
図3は、感光体10における下部阻止層101、光導電層102および表面層103をグロー放電
分解法によって基体10A上に形成する成膜装置である、グロー放電分解法によるプラズマCVD装置Yの一例を示す模式的構成図である。
【0053】
プラズマCVD装置Yは、反応室20と支持機構30と直流電圧供給機構40と温度制御機構50と回転機構60とガス供給機構70と排気機構80とを備えている。
【0054】
反応室20は、基体10Aに対して各層となる堆積膜を形成するための空間であり、円筒状電極21と、一対のプレート22,23と、絶縁部材24,25とにより仕切られている。
【0055】
円筒状電極21は、堆積膜の形成空間を仕切るとともに、グロー放電を発生させるために基体10A側を第1導体とした場合の第2導体としての役割を担うものである。円筒状電極21は、基体10Aと同様の導電性材料で構成されており、絶縁部材24,25を介して一対のプレート22,23と一体化されている。本例における円筒状電極21は、支持機構30に支持させた基体10Aと円筒状電極21との距離が所定の範囲となるように構成されている。
【0056】
円筒状電極21は、ガス導入口21aおよび複数のガス吹き出し孔21bを有しており、その一端において接地されている。なお、円筒状電極21の接地は必須の条件ではなく、後述の直流電源41とは別の基準電源に接続する構成としてもよい。円筒状電極21を直流電源41とは別の基準電源に接続する場合に、基準電源における基準電圧は、例えば−1500V以上1500V以下とされる。
【0057】
ガス導入口21aは、洗浄ガスまたは原料ガスを反応室20に導入するための開口であり、ガス供給機構70に接続されている。
【0058】
複数のガス吹き出し孔21bは、円筒状電極21の内部に導入された洗浄ガスまたは原料ガスを基体10Aに向けて吹き出すための開口であり、図の上下方向および周方向において例えば等間隔で配置される。これら複数のガス吹き出し孔21bの孔径、形状および配置については、適宜設定可能である。
【0059】
プレート22は、反応室20の開放状態と閉塞状態とを選択することができるように着脱可能な構成とされており、プレート22を開閉することによって反応室20に対する後述の支持体31の出し入れが可能となっている。プレート22は、基体10Aと同様の導電性材料で形成されており、その下面側に防着板26が取り付けられている。これにより、プレート22に対して堆積膜が形成されるのが防止されている。なお、防着板26は、基体10Aと同様の導電性材料で形成されており、プレート22に対して着脱自在とされている。
【0060】
プレート23は、反応室20のベースとなるものであり、基体10Aと同様の導電性材料で形成されている。プレート23と円筒状電極21との間に介在する絶縁部材25は、円筒状電極21とプレート23との間にアーク放電が発生するのを抑制する役割を担うものである。このよ
うな絶縁部材25は、例えばガラス材料(ホウ珪酸ガラス,ソーダガラス,耐熱ガラスなど)、無機絶縁材料(セラミックス,石英,サファイヤなど)、あるいは合成樹脂絶縁材料(ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂,ポリカーボネート,ポリエチレンテレフタレート,ポリエステル,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリアミド,ビニロン,エポキシ,マイラー,ポリエーテルエーテルケトンなど)で形成することができる。絶縁部材25の材料としては、絶縁性を有し、使用温度で充分な耐熱性があり、真空中でガスの放出が小さい材料であれば特に限定はない。
【0061】
プレート23および絶縁部材25には、ガス排出口23A,25Aおよび圧力計27が設けられている。ガス排出口23A,25Aは、反応室20の内部の気体を排出する役割を担うものであり、排気機構80に接続されている。圧力計27は、反応室20の圧力をモニタリングするためのものであり、公知の種々のものを使用することができる。
【0062】
支持機構30は、基体10Aを支持するとともに、グロー放電を発生させる第1導体としての役割を担うものである。支持機構30は、支持体31と導電性支柱32と絶縁材33とを含んで構成されている。本例における支持機構30は、2つの基体10Aを支持することができる長さ(寸法)に形成されており、支持体31が導電性支柱32に対して着脱自在とされている。このような構成によると、支持した2つの基体10Aの表面に直接触れることなく、反応室20に対して2つの基体10Aの出し入れを行なうことができる。
【0063】
支持体31は、フランジ部31aを有する中空状の部材であり、基体10Aと同様の導電性材料によって全体が導体として構成されている。
【0064】
導電性支柱32は、導板32aを有する筒状の部材であり、基体10Aと同様の導電性材料によって全体が導体として構成されている。導電性支柱32は、その上端部において支持体31の内壁面に当接するように構成されている。
【0065】
絶縁材33は、導電性支柱32とプレート23との間の電気的絶縁性を確保する役割を担うものであり、反応室20の略中央において導電性支柱32とプレート23との間に介在している。
【0066】
直流電圧供給機構40は、導電性支柱32に直流電圧を供給する機構であり、直流電源41および制御部42を有している。
【0067】
直流電源41は、導電性支柱32に印加する直流電圧を発生させる役割を担うものであり、導板32aを介して導電性支柱32に接続されている。
【0068】
制御部42は、直流電源41の動作を制御する役割を担うものであり、直流電源41に接続されている。制御部42は、直流電源41の動作を制御して、導電性支柱32を介して支持体31に例えばパルス状の直流電圧を印加できるように構成されている。
【0069】
なお、本例はグロー放電を発生させるのに直流グロー放電を利用する装置であるが、直流電源41に代えて高周波電源を使用して、高周波グロー放電を利用する装置であってもよい。
【0070】
温度制御機構50は、基体10Aの温度を制御する役割を担うものであり、セラミックパイプ51およびヒータ52を有している。
【0071】
セラミックパイプ51は、絶縁性および熱伝導性を確保する役割を担うものであり、導電性支柱32の内部に収容されている。
【0072】
ヒータ52は、基体10Aを加熱する役割を担うものであり、導電性支柱32の内部に収容されている。基体10Aの温度制御は、例えば支持体31あるいは導電性支柱32に熱電対(図示せず)を取り付け、そのモニタ結果に基づいてヒータ52をオン/オフ制御することによって行なわれる。なお、ヒータ52としては、例えばニクロム線またはカートリッジヒータが挙げられる。
【0073】
回転機構60は、支持体31を回転させる役割を担うものであり、回転モータ61と回転導入端子62と絶縁軸部材63と絶縁平板64とを有している。回転機構60によって支持機構30を回転させて成膜を行なう場合は、支持体31とともに基体10Aが回転するため、原料ガスの分解成分を基体10Aの外周に対して略均等に堆積させるうえで好適である。
【0074】
回転モータ61は、基体10Aに回転力を付与する役割を担うものである。回転モータ61は、例えば基体10Aを1rpm以上10rpm以下の一定の回転数で回転させるように動作制御される。回転モータ61としては、公知の種々のものを使用することができる。
【0075】
回転導入端子62は、反応室20内を所定の真空度に保ちながら絶縁軸部材63に回転力を伝達する役割を担うものである。このような回転導入端子62としては、回転軸を2重もしくは3重構造とした、オイルシールあるいはメカニカルシールなどの真空シール手段を用いることができる。
【0076】
絶縁軸部材63および絶縁平板64は、支持機構30とプレート22との間の絶縁状態を維持しつつ、回転モータ61からの回転導入端子62を介した回転力を支持機構30に伝達する役割を担うものである。これらは例えば絶縁部材25と同様の絶縁材料で形成されている。
【0077】
絶縁平板64は、プレート22を取り外す際に落下するゴミあるいは粉塵などの異物が基体10Aに付着するのを防止する役割を担うものである。このような絶縁平板64を有する場合は、基体10Aに異物が付着することに起因する異常放電の発生を抑制することができ、成膜欠陥の発生を抑制することができる。
【0078】
ガス供給機構70は、複数の原料ガスタンク71〜74と、複数の配管71A〜74Aと、複数のバルブ71B〜74B,71C〜74Cと、複数のマスフローコントローラ71D〜74Dとを含んでおり、配管75およびガス導入口21aを介して円筒状電極21に接続されている。
【0079】
各原料ガスタンク71〜74は、原料ガスが充填されたものである。原料ガスとしては、例えばSiH,H,B,CH,NあるいはNOが用いられる。
【0080】
バルブ71B〜74B,71C〜74Cおよびマスフローコントローラ71D〜74Dは、反応室20に導入するガス成分の流量、組成およびガス圧を調整するためのものである。なお、ガス供給機構70においては、各原料ガスタンク71〜74に充填すべきガスの種類あるいは複数の原料ガスタンク71〜74の数は、基体10Aに形成すべき膜の種類あるいは組成に応じて適宜選択すればよい。
【0081】
排気機構80は、反応室20のガスをガス排出口23A,25Aを介して外部に排出する役割を担うものであり、例えばメカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82を有している。これらのポンプ81,82は、圧力計27でのモニタリング結果によって動作制御されるものである。すなわち、排気機構80では、圧力計27でのモニタリング結果に基づいて、反応室20を所定の真空状態に維持するとともに、反応室20のガス圧を目的値に設定する。なお、反応室20の圧力は、例えば1Pa以上100Pa以下とされる。
【0082】
次に、プラズマCVD装置Yを用いた堆積膜の形成方法について、感光体10(図1参照
)を作製する場合を例にして説明する。
【0083】
まず、プラズマCVD装置Yのプレート22を取り外して、複数(図2では2つ)の基体10Aを支持した支持機構30を反応室20の内部にセットし、再びプレート22を取り付ける。支持機構30における2つの基体10Aの支持は、支持体31のフランジ部31a上において、下ダミー基体D1,基体10A,中間ダミー基体D2,基体10Aおよび上ダミー基体D3を順次積み上げる形で行なわれる。各ダミー基体D1〜D3としては、例えば、全体が導電性を有する構成のものや、絶縁体の表面に導電性膜を形成した構成のものが使用できるが、中でも基体10Aと同様の構成のものが特に好ましい。
【0084】
下ダミー基体D1は、主として基体10Aの高さ位置を調整する役割を担うものである。中間ダミー基体D2は、主として隣接する基体10Aの端部間に不均一な放電が発生するのを抑制する役割を担うものである。中間ダミー基体D2の長さは、不均一な放電の発生を充分に抑制できる長さ(例えば1cm以上)に設定される。また、その外周面側角部に曲面加工(例えば曲率半径0.5mm以上)あるいは面取り加工(カットされた部分の軸方向
の長さおよび深さ方向の長さがそれぞれ0.5mm以上)を施したものが採用される。上ダ
ミー基体D3は、主として支持体31に堆積膜が形成されるのを抑制する役割を担うものである。上ダミー基体D3としては、その上側端部が支持体31の最上部よりも上方に突出するように構成されたものが採用される。
【0085】
次いで、温度制御機構50によって基体10Aを所定温度に制御するとともに、排気機構80によって反応室20を減圧する。基体10Aの温度制御は、ヒータ52を発熱させることによって所定温度近傍まで昇温させた後、ヒータ52をオン/オフすることによって所定温度に維持するように行なわれる。基体10Aの温度は、その表面に形成すべき膜の種類および組成によって適宜設定されるが、例えばa−Si系膜を形成する場合は250℃以上300℃以下の範囲に設定される。一方、反応室20の減圧は、圧力計27での反応室20の圧力をモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82の動作を制御することにより、ガス排出口23A,25Aを介して反応室20からガスを排出させることによって行なわれる。なお、原料ガス導入前における反応室20の減圧は、例えば1×10−3Pa程度に至るまで行なわれる。
【0086】
次いで、基体10Aの温度を所定温度で維持するとともに、反応室20を所定圧力まで減圧した状態で、ガス供給機構70によって反応室20に原料ガスを供給するとともに、円筒状電極21と支持体31との間に例えばパルス状の直流電圧を印加する。これにより、円筒状電極21と支持体31(基体10A)との間にグロー放電が発生して原料ガスが分解され、その分解成分が基体10Aの表面に堆積することとなる。排気機構80においては、圧力計27でモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82の動作を制御することにより、反応室20の圧力を所定範囲(例えば1Pa以上100Pa以下)に維持する。
すなわち、反応室20の内部は、ガス供給機構70におけるマスフローコントローラ71D〜74Dと排気機構80におけるポンプ81,82によって圧力を所定範囲に維持する。
【0087】
反応室20への原料ガスの供給は、バルブ71B〜74B,71C〜74Cの開閉状態を適宜制御しつつ、マスフローコントローラ71D〜74Dを制御することにより、原料ガスタンク71〜74の原料ガスを所望の組成および流量で、配管71A〜74A,75およびガス導入口21aを介して円筒状電極21の内部に導入することによって行なわれる。円筒状電極21の内部に導入された原料ガスは、複数のガス吹き出し孔21bを介して基体10Aに向けて吹き出される。そして、バルブ71B〜74B,71C〜74Cおよびマスフローコントローラ71D〜74Dによって原料ガスの組成を適宜変化させる。
【0088】
一方、円筒状電極21と支持体31との間におけるパルス状直流電圧の印加は、円筒状電極21が接地されている場合は、−3000V以上−50V以下(好適には−3000V以上−500V以
下)の負のパルス状直流電位V1となるように行なわれる。また、円筒状電極21が基準電源(図示せず)に接続されている場合は、基準電源から供給される電位V2を基準電位として、目的とする電位差ΔV(例えば−3000V以上−50V以下)となるように行なわれる。また、支持体31(基体10A)に対して負のパルス状電圧を印加する場合は、基準電源から供給される電位V2は、例えば−1500V以上1500V以下に設定される。制御部42は、直流電圧の周波数(1/T[秒])が300kHz以下に、Duty比(T1/T)が20%以上90
以下になるように直流電源41を制御する。本例におけるDuty比とは、パルス状の直流電圧の1周期T(基体10Aと円筒状電極21との間に電位差が生じた瞬間から、次に電位差が生じた瞬間までの時間)における電位差発生時間T1が占める時間割合と定義する。例えば、Duty比が20%とは、パルス状の電圧を印加する際の1周期に占める電位差発生時間が1周期全体の20%であることを意味する。
【0089】
以上のようにして、基体10Aの表面に、下部阻止層101、光導電層102および表面層103
が順次積層形成される。なお、下部阻止層101と光導電層102との間および光導電層102と
表面層103との間には、界面を有していなくても有していてもよい。この間の界面の有無
は、所望の電子写真特性および成膜工程の効率などを考慮して選択すればよい。
【0090】
本発明に係る画像形成装置によれば、本発明に係る電子写真感光体を備えていることから、感光体に装着するフランジの傾きあるいはがたつきを抑えて、嵌合させるフランジの取付け精度を向上することができ、フランジと嵌合部の奥端とで削り屑を挟み込むことによる感光体の端部の変形を抑えることもできるので、良好な画像品質の画像を形成することができる。
【0091】
図4は本発明の実施形態に係る画像形成装置の一例の概略構成を表す模式的断面図である。本例の画像形成装置Xは画像形成方式として電子写真法のカールソン法を採用したものであり、図4に示すように、感光体10,帯電器11,露光器12,現像器13,転写器14,定着器15,クリーニング器16および除電器17を備えている。
【0092】
帯電器11は、感光体10の表面をここでは負極性に帯電する役割を担うものである。帯電電圧は、正帯電であれば例えば200V以上1000V以下に、負帯電であれば例えば−1000V
以上−200V以下に設定される。本例における帯電器11には、例えば芯金を導電性ゴムお
よびポリフッ化ビニリデンによって被覆して構成される接触型帯電器が採用されるが、これに代えて、放電ワイヤを備える非接触型帯電器(例えばコロナ帯電器)を採用してもよい。
【0093】
露光器12は、帯電した感光体10に静電潜像を形成する役割を担うものである。具体的には、露光器12は、画像信号に応じて特定波長(例えば650nm以上780nm以下)の露光光(例えばレーザ光)を感光体10に照射することにより、帯電状態にある感光体10の露光部分の電位を減衰させて静電潜像を形成する。露光器12としては、例えば複数のLED素子(波長が例えば680nm)を配列させてなるLEDヘッドを採用することもできる。
【0094】
もちろん、露光器12の光源としては、LED素子に代えてレーザ光を出射可能なLD(Laser Diode)素子、あるいは白色光を発光可能なランプを使用することもできる。す
ち、LD素子とポリゴンミラーを含んでなる光学系との組合せを採用してレーザプリンタの構成とすることもできる。あるいは、ランプと原稿からの反射光を通すレンズおよびミラーを含んでなる光学系との組合せを採用して複写機の構成とすることもできる。
【0095】
現像器13は、感光体10の静電潜像を現像してトナー像を形成する役割を担うものである。本例における現像器13は、現像剤(トナー)Tを磁気的に保持する磁気ローラ13Aを備えている。
【0096】
現像剤Tは、感光体10の表面上に形成されるトナー像を構成するものであり、現像器13において摩擦帯電させる。現像剤Tとしては、例えば磁性キャリアおよび絶縁性トナーを含んでなる2成分系現像剤と、磁性トナーを含んでなる1成分系現像剤とが挙げられる。
【0097】
磁気ローラ13Aは、感光体10の表面(現像領域)に現像剤を搬送する役割を担うものである。磁気ローラ13Aは、現像器13において摩擦帯電した現像剤Tを一定の穂長に調整された磁気ブラシの形で搬送する。この搬送された現像剤Tは、感光体10の現像領域において、静電潜像の静電引力によって感光体10の表面に付着してトナー像を形成する(静電潜像を可視化する)。トナー像の帯電極性は、正規現像によって画像形成を行なう場合には感光体10の表面の帯電極性と逆極性とされ、反転現像によって画像形成を行なう場合には、感光体10の表面の帯電極性と同極性とされる。
【0098】
なお、本例における現像器13は乾式現像方式を採用しているが、液体現像剤を用いた湿式現像方式を採用してもよい。
【0099】
転写器14は、感光体10と転写器14との間の転写領域に供給された記録媒体Pに、感光体10のトナー像を転写する役割を担うものである。本例における転写器14は、転写用放電器14Aおよび分離用放電器14Bを備えている。転写器14では、転写用放電器14Aによって記録媒体Pの背面(非記録面)がトナー像とは逆極性に帯電し、この帯電電荷とトナー像との静電引力によって記録媒体P上にトナー像が転写される。また、転写器14では、トナー像の転写と同時的に分離用放電器14Bにおいて記録媒体Pの背面が交流放電によって帯電が消去され、記録媒体Pが感光体10の表面から速やかに分離される。
【0100】
また、転写器14としては、感光体10の回転に従動し、かつ感光体10とは微小間隙(通常は0.5mm以下)を介して配置された転写ローラを用いることも可能である。転写ローラ
は、例えば直流電源を用いて、感光体10上のトナー像を記録媒体P上に引き付けるような転写電圧を印加するように構成される。転写ローラを用いる場合には、分離用放電器14Bのような転写分離装置は省略することができる。
【0101】
定着器15は、記録媒体Pに転写されたトナー像を記録媒体Pに定着させる役割を担うものであり、一対の定着ローラ15A,15Bを備えている。定着ローラ15A,15Bは、例えば金属ローラ上をポリテトラフルオロエチレンなどで表面被覆したものが用いられる。定着器15では、一対の定着ローラ15A,15Bの間を通過させる記録媒体Pに対して熱および圧力などを作用させることにより、記録媒体Pにトナー像を定着させることができる。
【0102】
クリーニング器16は、転写後に感光体10の表面に残存するトナーを除去する役割を担うものである。本例のクリーニング器16はクリーニングブレード16Aを備えている。クリーニングブレード16Aは、感光体10の表面から残留トナーを掻き取る役割を担うものである。クリーニングブレード16Aは、例えばポリウレタン樹脂を主成分としたゴム材料で形成されている。
【0103】
除電器17は、静電潜像として残っている感光体10の表面電荷を除去する役割を担うものである。本例の除電器17は感光体10への露光によって除電を行なうものであり、特定波長(例えば780nm以上)の光を出射可能なものが使用される。除電器17は、例えばLED
などの光源を用いて感光体10の表面の軸方向全体に光照射することにより、感光体10の表面電荷(残余の静電潜像)を除去するように構成されている。
【実施例】
【0104】
外径が242mm、第1の内径φ1が230mm、第2の内径φ2が232mmのアルミニウム
合金からなる基体を用いて、表1に示す加工方法(旋盤加工またはマシニング加工)によ
って、図2(a)〜(f)にそれぞれ断面図で示すような嵌合部を設けた試料a〜fを作製した。試料aにおける嵌合部は、嵌合部の内周面11と内面113との間にR面112を有していない比較例であり、端部傾斜面116およびC面117は有している。試料bにおける嵌合部は、内周面111から連続して、深さ方向に傾斜した奥側傾斜面118を有している比較例であり、端部傾斜面116およびC面117は有している。試料cにおける嵌合部は、内周面110
周面111との間の段差部の外周側に沿って、深さ方向に凹状のR面112を有している実施例であり、R面112の内側に平面113を有している。また、端部傾斜面116およびC面117も有している。試料dにおける嵌合部は、R面112を有している実施例であり、R面112の内側に平面113および傾斜面114を有している。また、端部傾斜面116およびC面117も有している。試料eにおける嵌合部は、R面112を有している実施例であり、R面112の内側に平面113および傾斜面114を有している。またC面117も有している。試料fにおける嵌合部
は、R面112を有している実施例であり、R面112の内側に平面113および傾斜面114を有している。また、端部傾斜面116も有している。
【0105】
これら試料a〜fに対して、端部の変形について、非接触変位計(オムロン製ZW−7000)を用いて外径の振れを測定することによって評価した。また、回転時の振動について、振動計(加速度センサ:富士セラミックスS2SG、データロガー:キーエンス製NR−500)を用いて振動評価を行なった。ここで、端部の変形については、判定基準とし
径の振れが20μm以下であれば「無し」とし、20μmを超えれば「有り」とした。また、回転時の振動については、判定基準として加速度が0.8m/s以下であれば「無し
し、0.8m/sを超えれば「有り」とした。
【0106】
以上の試料a〜fにおける嵌合部の形状の差異の一部ならびに端部の変形および回転時の振動についての評価結果について、表1にまとめて示す。表1に示す試料において、嵌合部の形状の差異のうち、「加工方法」は旋盤加工であるかマシニングセンタ加工(マシニング加工)であるかを、また「R面」,「平面」,「端部傾斜面」,「傾斜面」および「C面」は、「有り」または「無し」によって、それぞれその面を有しているか、有していないかを示している。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、比較例である試料aにおいては、端部の変形が「有り」で、回転時の振動も「有り」という結果であった。また、同じく比較例である試料bにおいても、端部の変形が「有り」で、回転時の振動も「有り」という結果であった。
【0109】
これに対して、実施例である試料c〜fにおいては、いずれも端部の変形および回転時の振動は「無し」と良好な結果であった。中でも試料dは、端部の変形および回転時の振
動がともに最も小さな値となって、良好な結果であった。これは、基体の端部からフランジを挿入する際に、C面および端部傾斜面を有していることによって局所的な引っ掛かりによる削り屑の発生を抑えるとともに、削り屑の収容部としてのR面ならびにその内側の平面および傾斜面によってフランジを安定して受け止めることができていることによると考えられる。
【0110】
以上の結果から、本発明に係る電子写真感光体によれば、フランジの傾きあるいはがたつきを抑えて、嵌合させるフランジの取付け精度を向上することができ、感光体の端部の変形を抑えることもできることが確認できた。この結果、画像形成装置での印画における画像品質の低下を抑えることを期待できるものであった。
【0111】
以上、本発明の具体的な実施形態の例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、C面,端部傾斜面および傾斜面の角度、あるいは傾斜面の深さと嵌合部の深さとの比率などの変更が可能である。
【符号の説明】
【0112】
φ1……第1の内径
φ2……第2の内径
10……電子写真感光体(感光体)
10A……円筒状基体(基体)
10B……感光体層
101……下部電荷注入阻止層(注入阻止層)
102……光導電層
103……表面層
110,111……内周面
112……R面
113……平面
114……傾斜面
115……端面
116……端部傾斜面
117……C面
X……画像形成装置
図1
図2
図3
図4