(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の耐食性銅合金管はりん脱酸銅管に比べ、蟻の巣状腐食に対する耐食性が大幅に向上することから、蟻の巣状腐食対策を重視するエアコン機種に採用されている。蟻巣の状腐食に対する耐食性をさらに向上させるには、特許文献2に記載されているように、Mnの含有量を1.5%を超えて含有させること等が効果的であるが、標準材であるりん脱酸銅管より、転造加工性やろう付性が低下し、製造コストが上昇する問題がある。
【0006】
本発明はかかる問題を鑑みてなされたものであって、銅または銅合金からなる冷媒管を用いた熱交換器を有する室内機を備える空調機において、銅または銅合金の種類によらず冷媒管における特に蟻の巣状腐食の腐食進行抑制効果に優れた技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、銅または銅合金からなる冷媒管を用いた室内熱交換器を有する室内機を備える空調機の腐食進行抑制方法であって、前記空調機の運転の際、冷房運転または除湿運転の終了後に、前記冷媒管に発生した腐食孔の内部に存在する水分の除去を行う水分除去運転を行
い、前記水分除去運転が、前記冷媒管の加熱乾燥によって行われ、前記加熱乾燥が、前記冷媒管の保持温度をX(℃)、保持時間をY(min)としたとき、下式(1)を満足することとする。
Y≧4000e−0.11X (1)
【0008】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、水分除去運転が行われることによって、冷媒管に発生した腐食孔が管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することが抑制される。
【0009】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、前記加熱乾燥が、前記空調機の暖房運転、または、前記室内機が備えるヒータによって行われることが好ましい。
【0010】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、水分除去運転として冷媒管の加熱乾燥、特に、所定条件での加熱乾燥、暖房運転またはヒーターによる加熱乾燥が行われることによって、冷媒管に発生した腐食孔が管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することがさらに抑制される。
【0011】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、前記加熱乾燥が、前記室内機からの室内への排気阻止および排熱阻止と共に行われることが好ましい。
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、前記排気阻止および前記排熱阻止が、前記室内機に備えられたルーバーによって行われることが好ましい。
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、前記排気阻止および前記排熱阻止が、前記室内機に備えられたドレイン配管によって行われることが好ましい。
【0012】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、加熱乾燥と共に排気阻止および排熱阻止、特にルーバーまたはドレイン配管による排気阻止および排熱阻止が行われることによって、室内環境への排熱や、高湿度気相の流出による不快度が減少すると共に、室内環境への腐食媒を含む排気の流出による室内環境汚染が防止される。
【0013】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、前記水分除去運転が、前記室内機の内部を減圧にする真空引き(減圧処理)によって行われることが好ましい。
【0014】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、水分除去運転として室内機の真空引きが行われることによって、冷媒管に発生した腐食孔が管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することがさらに抑制される。
【0015】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、前記水分除去運転が、前記冷房運転または前記除湿運転の終了後から25日までの間に行われることが好ましい。
【0016】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、水分除去運転が所定期間で行われることによって、冷媒管に発生した腐食孔が管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することがさらに抑制される。
【0017】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、前記水分除去運転が必要であることをユーザーに伝える表示運転をさらに行うことが好ましい。
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、前記表示運転が、前記冷房運転または前記除湿運転の終了後から20日までの間に行われることが好ましい。
【0018】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、表示運転、特に所定期間後に行われる表示運転をさらに行うことによって、水分除去運転が確実に実施されるため、冷媒管に発生した腐食孔が管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することがさらに抑制される。
【0019】
本発明に係る空調機は、銅または銅合金からなる冷媒管を用いた室内熱交換器を有する室内機を備える空調機において、前記室内機は、前記の空調機の腐食進行抑制方法を用いて前記空調機を制御する制御装置を備えることとする。
【0020】
本発明に係る空調機は、室内機が前記の空調機の腐食進行抑制方法を用いて空調機を制御する制御装置を備えることによって、冷媒管に発生した腐食孔が管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することが抑制される。
【0021】
本発明に係る冷媒管は、空調機の室内機に備えられた室内熱交換器に用いられる銅または銅合金からなる冷媒管であって、前記の空調機の腐食進行抑制方法を用いて、前記冷媒管に発生した腐食孔の内部を亜酸化銅で満たしたこととする。
【0022】
本発明に係る冷媒管は、冷媒管に発生した腐食孔の内部を亜酸化銅で満たすことによって、腐食孔が管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することが抑制される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法、空調機および冷媒管によれば、銅または銅合金からなる冷媒管を用いた熱交換器を有する室内機を備える構成において、冷媒管における特に蟻の巣状腐食の腐食進行抑制効果に優れる。その結果、空調機において冷媒の漏れが抑制され、熱交換器の交換頻度を延ばすことができ、空調機の運用コストが低くなる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明の腐食進行抑制方法に用いる空調機、室内機および室内熱交換器について、図面を参照して説明する。
【0026】
<空調機>
図1に示すように、空調機1は、室外機2と、室内機3と、制御装置17とを備え、室外機2と室内機3とが冷媒用配管9を介して接続されている。室外機2は、冷媒を圧縮する圧縮機4と、冷媒の流れを切り換える四方弁5と、冷媒による熱交換を行う室外熱交換器6と、冷媒を膨張する膨張弁7と、各々を接続する冷媒用配管9とを備えている。室内機3は、冷媒用配管9を介して四方弁5および膨張弁7と接続し冷媒による熱交換を行う室内熱交換器8を備えている。
【0027】
空調機1では、冷房運転時または除湿運転時には、圧縮機4から吐出された冷媒は、四方弁5、室外熱交換器6、膨張弁7、室内熱交換器8と流れ、再び四方弁5を経由して圧縮機4に吸入されて冷房運転または除湿運転が実施される。
【0028】
空調機1では、暖房運転時には、圧縮機4から吐出された冷媒は、四方弁5、室内熱交換器8、膨張弁7、室外熱交換器6と流れ、再び四方弁5を経由して圧縮機4に吸入されて暖房運転が実施される。
【0029】
<室内機>
図2に示すように、室内機3は、室内風路13を形成するケーシング14および吸入グリル12と、室内風路13に配置される室内熱交換器8および室内送風機10と、ルーバー15と、ドレイン配菅16と、後記する腐食進行抑制方法を用いて空調機1を制御する制御装置17とを備えている。室内機3は、複数の室内熱交換器8と、複数の室内送風機10を備えていてもよく、室内熱交換器8と室内送風機10とは同数でなくてもよい。なお、本実施形態においては制御装置17を室内機3に配置しているが、本実施形態に限定されるものではない。
【0030】
室内機3では、冷房運転時、除湿運転時または暖房運転時には、吸入グリル12から吸入された室内空気は、室内熱交換器8により冷風または暖風に熱交換され、その冷風または暖風を室内送風機10によって吹出口18から居住空間である室内に吹き出して冷房運転、除湿運転または暖房運転が実施される。
【0031】
<室内熱交換器>
図3に示すように、室内熱交換器8は、並列された多数の直管21aと直管21aの両端部に接合された多数のリターンベンド管21bとからなる冷媒管21と、直管21aの外表面に一定間隔で並列された多数の板状のフィン22と、を備える。冷媒管21には、熱伝導性および加工性の観点から、銅管または銅合金管が用いられる。フィン22には、熱伝導性および加工性の観点から、アルミニウムフィンが用いられる。
【0032】
冷媒管21としての銅管または銅合金管には、JIS H 3300:2012で規定されたりん脱酸銅C1220または無酸素銅C1020、所定量のMn、Mg、Zn等を含有する銅合金等が用いられる。
【0033】
直管21aには、管内表面が平滑な平滑管が用いられるが、熱伝導性を向上させるために、管内表面に所定形状の溝が形成された溝付管を用いることが好ましい。溝形状としては、特に限定されないが、溝の溝リード角が15〜45度、溝深さが0.10〜0.35mm、溝間に形成されたフィンの山頂角が5〜30度、フィン根元半径が溝深さの1/10〜1/3であることが好ましい。また、リターンベンド管21bには、管内表面が平滑な平滑管が用いられるが、熱伝導性を向上させるために、直管21aと同様な溝付管を用いることが好ましい。
【0034】
室内熱交換器8では、冷房運転時または除湿運転時には、室外機2の膨張弁7から膨張された冷媒が冷媒管21の内部に供給されることによって、室内空気は冷風に熱交換され冷房運転、除湿運転が実施される。
【0035】
室内熱交換器8では、暖房運転時には、室外機2の圧縮機4から吐出された冷媒が四方弁5を介して冷媒管21の内部に供給されることによって、室内空気は暖風に熱交換され暖房運転が実施される。
【0036】
<制御装置>
制御装置17は、空調機1の運転の際、最初の冷房運転または除湿運転の終了後から所定期間経過した後、または、最後の水分除去運転後の最初の冷房運転または除湿運転の終了後、所定期間経過した後に、室内機3(室内熱交換器8)の冷媒管21に発生した腐食孔の内部に存在する水分の除去を行う水分除去運転を行うように、空調機1を制御する。ここで、水分除去運転は、加熱乾燥または真空引きの2種の水分除去運転モードを有することが好ましい。
【0037】
図4に示すように、制御装置17は、空調機1の冷房運転、暖房運転等の運転モード、および、運転時間等の時間情報を含む運転履歴を記憶する記憶部17Aと、記憶部17Aの運転履歴等に基づいて空調機1(室内機3、または、室外機2と室内機3)に水分除去運転を行う命令(信号)を出力する出力部17Bとを備える。
【0038】
制御装置17は、記憶部17Aの運転履歴に基づいて、冷房運転または除湿運転の終了後から25日までの間に、空調機1の水分運転を行う命令を出力部17Bから自動的に出力、または、リモコン等からの水分除去運転モードの入力に基づいて、空調機1の水分除去運転を行う命令を出力している。なお、水分除去運転モードの入力がない場合には、出力部17Bで水分除去運転モードをランダムに選択し、選択された水分除去運転モードに基づいて、空調機1の水分運転を行う命令を出力することが好ましい。
【0039】
制御装置17は、空調機1の水分除去運転の際にリモコン等から水分除去運転モードの信号を受け取り演算部17Dを介して出力部17Bに出力する入力部17Cをさらに備えることが好ましい。出力部17Bは、入力部17Cが受け取った水分除去運転モードの信号が加熱乾燥である場合、室内機3のヒータ11に駆動命令を出力することが好ましく、ヒータ11の駆動と共にルーバー15またはドレイン配管16による排気阻止および排熱阻止の命令を出力することがさらに好ましい。なお、出力部17Bは、入力部17Cが受け取った水分除去運転モードの信号が加熱乾燥である場合、室外機2と室内機3とに通常の暖房運転時の駆動命令を出力してもよい。また、出力部17Bは、入力部17Cが受け取った水分除去運転モードの信号が真空引きである場合には、室内機3の減圧ポンプ19に駆動命令を出力することが好ましい。
【0040】
水分除去運転モードが加熱乾燥である場合、制御装置17は、空調機1の水分除去運転の際にリモコン等から入力部17Cに入力された加熱乾燥の際の希望温度または希望時間に基づいて、関係式(Y≧4000e
−0.11X)を満足する加熱乾燥時の冷媒管21の保持温度X(℃)または保持時間Y(min)を演算する演算部17Dをさらに備えることが好ましい。演算部17Dで演算された冷媒管21の保持温度X(℃)または保持時間Y(min)は、出力部17Bから室内機3(ヒータ11)、または、室外機2と室内機3とに出力される。
【0041】
演算部17Dでは、冷媒管21の保持温度X(℃)の代わりに、加熱乾燥の際の空調機1が設置される環境の環境温度と冷媒管21の保持温度Xとの温度差Zを用いて、冷媒管21の保持温度Xまたは保持時間Yを演算してもよい。その際、演算部17Dでは、関係式(Y≧1100Z
−1.5)を用いる。また、環境温度は、室内機3等に備えられた図示しない温度センサー等によって測定され、記憶部17Aで記憶される。温度差Zおよび保持時間Yは、ユーザーによって希望値がリモコン等によって入力部17Cに入力され、演算部17Dに送られる。
【0042】
制御装置17は、冷房運転または除湿運転の終了後に水分除去運転が必要であることをユーザーに伝える表示運転を、水分除去運転に加えて行うように、空調機1を制御することが好ましい。また、制御装置17は、表示運転が、冷房運転または除湿運転の終了後から20日までの間に行われるように、空調機1を制御することがさらに好ましい。
【0043】
制御装置17は、記憶部17Aの運転履歴等に基づいて、冷房運転または除湿運転の終了後から所定期間が経過した時点で、水分除去運転が必要であることをユーザーに伝えるアラームを室内機3またはリモコンに表示または点灯させる命令を自動的に出力部17Aに出力し、リモコンあるいは室内機3に送る。
【0044】
<腐食進行抑制方法>
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法について説明する。なお、空調機、室内機、室内熱交換器の構成については、
図1〜
図3を参照して説明する。
本発明の腐食進行抑制方法は、冷媒管21を用いた室内熱交換器8を有する室内機3を備える空調機1の腐食進行抑制方法であって、水分除去運転を行うこととする。
【0045】
(水分除去運転)
水分除去運転は、空調機1の運転の際、冷房運転または除湿運転の終了後に、冷媒管21に発生した腐食孔の内部に存在する水分の除去を行うものとする。
水分除去運転は、冷媒管21に発生した腐食孔の内部に存在する水分の除去を行うことが可能であれば特に限定されないが、排気阻止および排熱阻止を伴わない加熱乾燥、排気阻止および排熱阻止を伴う加熱乾燥、または、真空引きが好ましい。
【0046】
水分除去運転を行うことによって、腐食孔の内部に水分が残留しないため、腐食環境においても腐食が進行することがなく、冷媒管21に発生した腐食孔が、管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することを抑制できる。
【0047】
また、貫通孔の抑制機構は、以下のとおりと考えられる。空調機の冷房運転または除湿運転のときに発生する結露水に雰囲気中に含まれる蟻酸などの腐食媒が溶解し、冷媒管21の外表面にとどまることにより蟻の巣状腐食の起点が形成される。この起点より、蟻の巣状形態の腐食孔を形成しながら、冷媒管内部に向かって腐食が進行する。腐食の進行中、腐食孔内部は腐食媒を含む水分と腐食生成物である亜酸化銅(Cu
2O)により満たされる。腐食孔が冷媒管21を貫通する前に、空調機に加熱乾燥、真空引き等の処理をすることにより、腐食孔内部から水分が除去される。水分除去後の腐食孔入り口から内部まで存在する亜酸化銅は、乾燥により腐食孔内部を緻密に充填されている(ただし、腐食孔内部は亜酸化銅のみではなく、不純物として酸化銅(CuO)がわずかに含まれる可能性がある)。このため、乾燥後の冷媒管21の既存の腐食孔の入り口部分が腐食媒を含む水分により再びおおわれることがあっても、腐食孔を充填する緻密な亜酸化銅が、腐食孔内部に水分が進入することを許さない。このようにして、既存の腐食孔における蟻の巣状腐食の進行が阻止される。その後、新たに形成される蟻の巣状腐食に対しても、腐食孔が冷媒管21を貫通する前に同様な処理をすることにより、蟻の巣状腐食の進行を止め、冷媒管の貫通を抑止することが可能になる。
【0048】
腐食孔、特に蟻の巣状腐食孔は孔形状が非常に細いため、孔内部に一旦侵入した水分の除去には、孔内外での圧力差等の駆動力が必要となる。
加熱乾燥の場合は、加熱によって孔内部で水分が体積膨張、気化する等で孔内部の圧力が上昇することで、孔内外で圧力差が生じる。この圧力差が孔内部の水分に孔内部からの除去の駆動力として作用する。
真空引きの場合は、冷媒管外面の圧力が減少することで、孔内外で圧力差が生じる。この圧力差が孔内部の水分に孔内部からの除去の駆動力として作用する。
【0049】
加熱乾燥は、室内熱交換器8の冷媒管21の加熱乾燥を行うものである。そして、加熱乾燥条件は、加熱乾燥において冷媒管21の保持温度X(℃)、保持時間をY(min)としたとき、下式(1)を満足することが好ましい。ここで、冷媒管21の保持温度Xは冷媒管21自体の到達温度である。
Y≧4000e
−0.11X (1)
加熱乾燥条件は、加熱乾燥において空調機1が設置された環境の環境温度(℃)と冷媒管21の保持温度X(℃)との温度差Z(℃)、冷媒管21の保持時間Y(min)としたとき、下式(2)を満足するものであってもよい。
Y≧1100Z
−1.5 (2)
また、前記した関係式(1)または(2)は、後述の(加熱乾燥条件確認試験)により導出したものである。
【0050】
上式(1)または上式(2)を満足する温度、時間で加熱乾燥を行うことによって、室内熱交換器8の冷媒管21に発生した腐食孔内部の水分を除去することができ、腐食孔が管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することを抑制できる。また、加熱乾燥と同時に送風を行うことによって、上式(1)または上式(2)よりも短時間で、腐食孔内部の水分を十分除去することができると考えられる。なお、送風は、例えば、室内機3の内部に備えられた室内送風機10によって行うことが好ましい。
【0051】
室内熱交換器を構成する冷媒管はアルミフィンに覆われており、加熱乾燥した場合、冷媒管とアルミフィン一体として温度が上昇していく。そして、アルミフィン間に保持されている水分の温度がまず上昇し、この水分の気化が始まる。気化により、アルミフィン間の水分が蒸発してしまうと、冷媒管とアルミフィンの温度がさらに上昇し、冷媒管とアルミフィンの隙間の水分、及び蟻の巣状腐食により形成された冷媒管の腐食孔内部の水分の気化が盛んになる。冷媒管はアルミフィンによりカバーされていることから、これらの水分の気化には時間がかかる。本発明においては、冷媒管の腐食孔内部の水分まで気化させ、除去するものである。実際の室内熱交換器においては、冷媒管の外径、肉厚、アルミフィンの厚さ、ピッチ、室内熱交換器を構成する冷媒管の本数が異なる。そのため、実際の室内熱交換器の乾燥に要する時間は、前記の関係式(1)または(2)に基づき、熱交換器の設計段階で実験的に決めることが望ましい。
【0052】
なお、従来より、結露水により室内熱交換器内部に発生するカビを防止するため、冷房、または除湿運転後、室内機内に送風する運転、または暖房しながら送風運転する技術が公知である。これらの技術においては、アルミフィン間にたまった結露水を風圧により除去することを主目的とするものであり、アルミフィンと冷媒管(銅管)の隙間の水分の除去まで考慮したものではない。仮に、アルミフィンと冷媒管(銅管)の隙間に水分が残存しても、銅の抗菌作用によりこの部分でのカビの発生が抑えられるからである。本発明である空調機の腐食抑制方法および空調機においては、アルミフィンと冷媒管(銅管)の隙間に水分、及び銅管に形成された腐食孔内部の水分まで除去する技術であり、この点が防カビを目的とする前記技術と異なる。
【0053】
加熱乾燥は、空調機1の暖房運転、または、
図2で記載した室内機3に備えられたヒーター11の駆動、あるいは空調機1の暖房運転と室内機3に備えられたヒータ-11駆動を同時に行うことによって行われることが好ましい。そして、空調機1の暖房運転、または、ヒーター11の駆動は、室内機3に備えられた制御装置17によって制御される。なお、空調機1の暖房運転は、前記した通常の暖房運転と同様である。
【0054】
ヒーター11は、
図2に記載されているように、室内風路13において、室内熱交換器8と室内送風機10との間に配置されるが、室内熱交換器8で熱交換された冷風または暖風を室内送風機10で送風する際に、送風の妨げにならない位置に配置されることが好ましい。ヒーター11の個数は、1つに限定されず複数であってもよいが、室内熱交換器8と同数、または、室内熱交換器8の半数であることが好ましい。また、ヒーター11は、熱交換器8のうち腐食が進行しやすい箇所を集中的に加熱乾燥できるような位置に設置されることが好ましい。腐食が進行しやすい箇所としては、例えば、水分が比較的多く存在するドレンパン周辺等が考えられる。
【0055】
加熱乾燥は、室内機3からの室内への排気阻止および排熱阻止と共に行われることが好ましい。排気阻止および排熱阻止は、
図2に記載された室内機3に備えられたルーバー15またはドレイン配管16によって行われることが好ましい。
【0056】
ルーバー15は、ケーシング14の吹出口18に備えられ、その閉鎖によって、加熱乾燥運転によって発生した高熱や高湿度気相が、吹出口18から室内に排気および排熱されることを阻止できる。また、室内機3に、例えば、室外または室外機2につながる図示しない排気用風路を設け、排気用風路に送風機等を設けることによって、排気用風路を通して、室内風路13の高熱や高湿度気相を、外部に排気および排熱できる。
【0057】
ドレイン配管16は、室内風路13の室内熱交換器8の下部に、室内熱交換器8と同数で設けられる。また、ドレイン配管16を、例えば、図示しない排気用風路側に傾斜させ、排気用風路に送風機等を設けることによって、排気用風路を通して、加熱乾燥運転によって発生した室内風路13の高熱や高湿度気相を、外部に排気および排熱できる。
【0058】
真空引きは、室内機3の室内風路13を減圧できれば特に限定されないが、ルーバー15を閉じた状態で、
図2に記載された減圧ポンプ19によって行うことが好ましい。減圧ポンプ19、減圧度の制御は、室内機3に備えられた制御装置17によって行うことが好ましい。そして、このような真空引きが行われることによって、冷媒管21に発生した腐食孔の内部の水分が除去され、冷媒管21に発生した腐食孔が、管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することが抑制される。
【0059】
水分除去運転は、その実施が、冷房運転または除湿運転の終了後から25日までの間に行われることが好ましい。また、水分除去運転の終了後、空調機1を停止あるいは暖房運転した場合にも、その後の最初の冷房運転または除湿運転の終了後から25日までの間に水分除去運転を実施することが好ましい。そして、このように、水分除去運転が所定期間で行われることによって、冷媒管21に発生した腐食孔が、管肉厚を貫通する貫通孔にまで進行することが抑制される。
【0060】
水分除去運転の実施は、室内機3に備えられた制御装置17によって制御され、自動的に実施されることが好ましいが、空調機1に接続された図示しないリモコンで使用者が手動で実施を制御してもよい。
【0061】
本発明に係る空調機の腐食進行抑制方法は、表示運転をさらに行うことが好ましい。
<表示運転>
表示運転は、水分除去運転が必要であることをユーザーに伝えるもので、室内機3またはリモコンにアラームを表示または点灯させるものとする。なお、空調機1がインターネットに接続されているものであれば、メールによりアナウンスするものであってもよい。そして、表示運転の制御は、
図2に記載された室内機3に備えられた制御装置17で行う。
【0062】
表示運転は、その実施が、冷房運転または除湿運転の終了後から20日までの間に行われることが好ましい。また、表示運転によって実施された水分除去運転の終了後、空調機1を停止運転あるいは暖房運転した場合にも、その後の最初の冷房運転または除湿運転の終了後から20日までの間に表示運転を実施することが好ましい。このように、表示運転をさらに行うことによって、水分除去運転が確実に実施されるため、冷媒管21に発生した腐食孔が、管肉厚を貫通する貫通孔まで進行することがさらに抑制される。
【実施例】
【0063】
本発明に係る腐食進行抑制方法の空調機実機における腐食進行抑制効果を評価するため、以下に示す模擬腐食試験を行った。また、本発明に係る空調機実機における加熱乾燥条件を導出するため加熱乾燥条件確認試験を行った。
【0064】
(模擬腐食試験)
模擬腐食試験には、
図5に示す腐食再現装置30を用いた。腐食再現装置30は、内容量2Lの密閉容器31と、密閉容器31の上部に設置されたシリコン栓34と、シリコン栓34に挿し込まれた冷媒管を模擬した供試材33と、を備える。
密閉容器31は、腐食媒32を500mL充填し、その内部を1L/minで5min酸素置換した。供試材33としては、JIS H 3300:2012に規定されたりん脱酸銅C1220または無酸素銅C1020からなる外径:9.52mm、肉厚:0.80mm、長さ:200mmの平滑管を用いた。平滑管は、シリコン栓34から腐食媒32側に露出した下端部を封止した。
密閉容器31の内部環境を湿度飽和状態に調整するため、密閉容器31を恒温槽内に設置した(試験雰囲気温度40℃)。シリコン栓34の腐食媒32側から100mm露出した供試材33の管外面を腐食評価面とした。
【0065】
供試材33が設置された腐食再現装置30を用いて、供試材33を所定サイクルで冷却による水分付着(冷房運転を想定)、加熱による水分除去(水分除去運転を想定)、試験雰囲気温度40℃における保持(停止状態を想定)を繰返すサイクル運転を行った。供試材33の冷却、保持は、恒温槽内で行った。水分除去は、供試材33を取り出して、熱風を当てることにより行った。この時の銅管表面の温度は80℃であった。本試験において、冷却により供試材33の外面に腐食媒32を含む水滴が結露し、蟻の巣状腐食が発生、進行する。また、加熱により水分が気化して腐食孔内の水分も除去され、蟻の巣状腐食の進行が停止する。乾燥後、次の冷却サイクルにおいて、腐食媒32を含む水分が付着した試材33では新たな場所に蟻の巣状腐食が発生するが、既存の腐食孔の部分では腐食が進行しない。サイクル運転終了後、供試材33の管外面をCTスキャナ(島津製作所製、型式inspeXio SMX−225CT FPD)で観察し、管長さ10mmにおける管全周の範囲に発生した全ての腐食孔の腐食深さを測定し、最大腐食深さで腐食進行抑制効果を評価した。最大腐食深さが肉厚の1/4である0.20mm未満のときに腐食進行抑制効果があると評価した。
【0066】
なお、JIS H 3300:2012に規定されたりん脱酸銅C1220からなる外径:9.52mm、肉厚:0.80mm、長さ:200mmの平滑管を用い、水分除去を行わない点を除き、前記と同様な試験を行い、腐食の様子を同様に観察した。
【0067】
空調機実機における腐食孔内部の水分除去による腐食進行抑制効果を確認するため、表1に示すサイクル運転条件で連続20日間運転を行った。なお、腐食媒32としては、0.5vol%ギ酸溶液を使用した。運転終了後、最大腐食孔深さを測定した。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果から、水分除去を行った本発明の要件を満足する実施例No.1〜3では、最大腐食孔深さが0.20mm未満であり、腐食進行抑制効果があることが確認された。なお、水分除去を行わなかった本発明の要件を満足しない比較例No.4では、最大腐食孔深さが0.80mmであり、管肉厚を貫通する腐食孔が形成されていた。
【0070】
(加熱乾燥条件確認試験)
加熱乾燥に必要な時間を調べるために、腐食孔内の環境を模擬して湿度飽和環境下において試験を行った。
加熱乾燥条件確認試験には、前記模擬腐食試験と同様に
図5に示す腐食再現装置30を用いた。腐食媒32に相当する媒体としては、純水を用いた。供試材33としては、りん脱酸銅C1220からなる平滑管を用いた。密閉容器31の内部環境を温度33℃、湿度飽和状態とするため、密閉容器31の底部を加熱した。前記以外の事項は前記模擬腐食試験と同様とした。
シリコン栓34より上部(密閉容器31外)に露出した供試材33に取り付けた温調機で、供試材(銅管)33を5〜10℃、10分間冷却後、表2に示す条件で供試材(銅管)33を乾燥した。乾燥後、供試材(銅管)33の表面の乾燥状態を目視確認した。なお、供試材33の一部については、冷却後に密閉容器31内ではなく、密閉容器31外に出して室内環境下(24℃)で供試材(銅管)33を26.6℃にして乾燥し、乾燥後に表面の乾燥状態を目視確認した。その結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示すように、加熱乾燥ありの実施例No.5〜13は、湿度飽和環境下での乾燥であっても、加熱乾燥なしの比較例No.14の実環境下(室内環境下)での乾燥と同様の結露なしの乾燥状態を得ることができた。したがって、本発明での加熱乾燥条件であれば、実環境において、冷媒管(供試材)の管表面だけでなく、腐食孔内部の水分を十分に乾燥できると考えられる。
【0073】
また、表2の結果から、加熱乾燥において冷媒管(銅管)の保持温度をX(℃)、保持時間をY(min)としたとき、下式(1)を満足する加熱乾燥条件であれば、腐食孔内部の水分を除去して、腐食進行を良好に抑制することができると考えられる。
Y≧4000e
−0.11X (1)
また、表2の結果から、加熱乾燥において室内機が設置される環境の環境温度と冷媒管(銅管)の保持温度をX(℃)との温度差をZ(℃)、保持時間をY(min)としたとき、下式(2)を満足する加熱乾燥条件であれば、腐食孔内部の水分を除去して、腐食進行を良好に抑制することができると考えられる。
Y≧1100Z
−1.5 (2)
【0074】
上記では冷媒管について説明したが、本発明は、室外機と室内機とを接続する冷媒用配管が銅管である場合にも好適に適用される。上述のような空調機の運転によれば、冷媒用配管内も必然的に水分除去される状況であり、同様の効果を奏するものと考えられる。