(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本願に開示の技術、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0010】
図1および
図2に示すように、本実施形態の動揺エネルギー変換装置1は、波浪によって動揺する動揺体の動揺エネルギーを動力に変換するものである。動揺エネルギー変換装置1は、扉体10と、格納部20と、係留機構30と、流出入通路50と、変換部60とを備えている。なお、
図1では、係留機構30の一部を省略している。
【0011】
扉体10は、海中に設けられ、波浪によって動揺する動揺体を構成している。扉体10は、津波や高潮などの対策として港湾に設置される起伏ゲート式防波堤の扉体である。扉体10は、やや扁平な略矩形体状に形成され、基端側に回動軸11を有している。扉体10は、回動軸11を中心に回動自在に格納部20に設けられている。
【0012】
扉体10は、倒伏状態から浮力によって回動軸11を中心に回動し起立(浮上)する。扉体10は、起立することにより、港外から港内へ水が浸入するのを防止する。扉体10は、係留機構30によって倒伏状態で係留されている。扉体10は、倒伏状態時に先端部12(先端側)が波浪によって上下に動揺するように構成されている。
【0013】
格納部20は、海中において区画されると共に扉体10が区画壁の一部を構成し、扉体10の動揺による内部容積の増減によって水(海水、以下同様。)を流出入させる容積変動部を構成している。
【0014】
具体的に、格納部20は、海底に設けられており、扉体10が倒伏状態で格納される。格納部20は、略矩形体状に形成されており、扉体10が、格納部20の区画壁としての上壁を構成している。こうして形成された格納部20の内部空間23は、半密閉空間となっている。
【0015】
つまり、内部空間23は、扉体10の下方、即ち格納部20の区画壁である底壁22と扉体10との間に形成されている。格納部20の区画壁である縦壁21と、扉体10の先端部12との間には、隙間が設けられている。内部空間23には、水が充満している。なお、上記の隙間は、扉体10の動揺を許容するだけのできるだけ小さい隙間であることが望ましい。
【0016】
格納部20では、扉体10の先端部12が上下に動揺する(扉体10の先端部12が回動軸11を中心に回動する)ことによって、内部空間23の容積(以下、内部容積とも言う。)が増減する。そして、格納部20は、内部容積が増減することによって、内部空間23の水が後述する流出入通路50に流出入するように構成されている。
【0017】
係留機構30は、扉体10の動揺を許容しつつ、扉体10の浮力に抗する係留力を扉体10に作用させて倒伏状態の扉体10を係留するものである。係留機構30は、フック31と、3つのロッド34,35,36と、2つの転向リンク部材37,38と、ワイヤ部材39と、ばね機構43とを有している。
【0018】
フック31は、基端部に軸32を有し、軸32を中心に回動自在に設けられ、先端側で扉体10の被係留部13に係合する。フック31の基端部には、被係留部13との係合を解除する側(
図2において左回り)にフック31を回転させるカウンタウエイト33が設けられている。
【0019】
フック31には、基端部寄りにピン31aが設けられており、該ピン31aに鉛直ロッド34、転向リンク部材37、水平ロッド35、転向リンク部材38、鉛直ロッド36およびワイヤ部材39が順に連結されている。転向リンク部材37,38は、ベルクランク状に形成されている。
【0020】
ワイヤ部材39は、滑車42(動滑車)に巻き回されて、ばね機構43に接続されている。滑車42は、シリンダ41のピストンロッド41aの先端に取り付けられており、ピストンロッド41aの進退動作によって上下動自在となっている。
【0021】
上記のように構成された係留機構30では、シリンダ41の圧力を開放して保持力を緩めることにより、ロッド34,35,36や転向リンク部材37,38を介して、フック31の係留力が緩まる。そうすると、扉体10の浮力およびカウンタウエイト33の荷重により、フック31は押し上げられ被係留部13との係合が解除される。これにより、扉体10は浮力によって起立(浮上)する。
【0022】
また、係留機構30では、扉体10との係合が解除されない範囲で、波浪によって生じる扉体10の動揺を、ばね機構43の伸縮作用により許容している。例えば、波浪によって水位が低下し、扉体10が上方へ動揺した場合、ロッド34,35,36やワイヤ部材39等は、
図2に実線の矢印で示す方向に変位する。この場合、ばね機構43は伸びて、扉体10の動揺が許容される。また、波浪によって水位が上昇し、扉体10が下方へ動揺した場合、ロッド34,35,36やワイヤ部材39等は、
図2に破線の矢印で示す方向に変位する。この場合、ばね機構43は縮んで、扉体10の動揺が許容される。
【0023】
流出入通路50は、格納部20に接続され、格納部20から水が流出入する通路である。流出入通路50の一端は、格納部20に接続され、内部空間23に連通している。流出入通路50の他端は、変換部60に接続されている。
【0024】
図4に示すように、格納部20では、扉体10の先端部12が上方へ動揺することで、内部空間23は増大して負圧となるため、流出入通路50から水が流入する(吸引される)。また、
図5に示すように、格納部20では、扉体10の先端部12が下方へ動揺することで、内部空間23は圧縮されて(減少して)圧力が上昇するため、水が流出入通路50に流出する(吐出される)。なお、
図4および
図5では、係留機構30を省略している。
【0025】
例えば、扉体10の大きさを幅10m×長さ10m、扉体10の動揺振幅を±0.5°とした場合、流出入(移動)する水量は約8.7m
3となる。このような大流量の水が流出入通路50を流れる。
【0026】
変換部60は、格納部20から流出入した水のエネルギー(流体エネルギー)を動力に変換する。
図3に示すように、変換部60は、シリンダ61と、ラック63およびピニオン64と、発電機66とを有している。
【0027】
シリンダ61は、流出入通路50に接続され、流出入通路50から水が流出入することによって駆動されるアクチュエータである。つまり、シリンダ61は、流出入通路50から水が流入した場合、ピストンロッド62が進出(即ち、
図3において上へ変位)する。また、シリンダ61は、流出入通路50へ水が流出した場合、ピストンロッド62が後退(即ち、
図3において下へ変位)する。
【0028】
このように、シリンダ61は、流出入通路50から流出入する水のエネルギーを、直線的な往復運動に変換する。シリンダ61のピストンロッド62は、ラック63に接続されている。
【0029】
ラック63およびピニオン64は、互いに噛み合う動力伝達機構である。ラック63は、ピストンロッド62の往復運動によって直線的な往復運動を行う。ピニオン64は、ラック63の往復運動によって、双方向の回転運動を行う。つまり、ピニオン64は、正回転と逆回転とを交互に繰り返す。
【0030】
発電機66は、駆動軸65がピニオン64に連結されている。発電機66は、ピニオン64の回転によって駆動され発電を行う。なお、発電機66は、ピニオン64の双方向の何れの回転時にも発電を行う。
【0031】
こうして、変換部60では、格納部20から流出入した水のエネルギー(流体エネルギー)が、発電機66の動力に変換される。つまり、動揺エネルギー変換装置1では、扉体10の動揺エネルギーが、発電機66の動力に変換される。
【0032】
以上のように、上記実施形態の動揺エネルギー変換装置1は、動揺体(扉体10)と、容積変動部(格納部20)と、変換部60とを備えている。動揺体は、海中に設けられ、波浪によって動揺する。容積変動部は、海中において区画されると共に動揺体が区画壁の一部を構成し、動揺体の動揺による内部容積の増減によって水を流出入させる。変換部60は、容積変動部から流出入した水のエネルギーを動力に変換する。
【0033】
上記の構成によれば、動揺体の動揺動作を水(海水)のエネルギーに変換し、その水のエネルギーを動力に変換することができる。そのため、波浪によって生じる物体の動揺エネルギーを有効活用することができる。
【0034】
また、容積変動部(格納部20)は、略矩形体状に形成され、前記動揺体が、前記区画壁としての上壁を構成している。動揺体(扉体10)は、基端側に設けられた回動軸11を中心として回動自在に設けられ、先端側が波浪によって上下に動揺するように構成されている。
【0035】
上記の構成によれば、波浪による鉛直方向の荷重が動揺体に効果的に作用する。そのため、動揺体の動揺動作を効果的に生じさせることができる。
【0036】
また、動揺体は、倒伏状態から浮力によって回動軸11を中心に回動し起立する起伏ゲート式防波堤の扉体10であり、倒伏状態時に先端側(先端部12)が波浪によって上下に動揺するように構成されている。この構成によれば、起伏ゲート式防波堤の倒伏している扉体10、即ち未使用時の扉体10を利用して、動力を発生させることができる。
【0037】
また、上記実施形態の動揺エネルギー変換装置1は、扉体10の動揺を許容しつつ扉体10の浮力に抗する係留力を作用させて倒伏状態の扉体10を係留する係留機構30を備えている。この構成によれば、扉体10の動揺エネルギーが動力に変換されることから、扉体10の動揺が抑制される。つまり、動力への変換が扉体10の動揺動作の抵抗となるため、扉体10は動揺し難くなる。そのため、係留機構30の負荷を軽減することができ、係留機構30の設計条件(設計荷重)を緩和することができる。
【0038】
また、上記実施形態の動揺エネルギー変換装置1は、容積変動部(格納部20)に接続され、容積変動部から水が流出入する流出入通路50を備えている。そして、変換部60は、流出入通路50に接続され、流出入通路50から水が流出入することによって駆動されるアクチュエータ(シリンダ61)を有している。この構成によれば、簡易な構成で、水のエネルギーを動力に変換することができる。
【0039】
また、変換部60は、アクチュエータ(シリンダ61)によって駆動される発電機66を有している。この構成により、動揺エネルギーを利用して発電することができる。
【0040】
なお、本願に開示の技術は、上記実施形態において以下のとおり構成するようにしてもよい。
【0041】
例えば、上記実施形態では、変換部60のアクチュエータとしてシリンダ61を用いたが、流出入通路50から流出入する水のエネルギーを、回転運動に変換する水車等の回転機械を用いるようにしてもよい。
【0042】
また、変換部60では、動力を発電機66以外の例えばポンプ等の機器の駆動に用いるようにしてもよい。
【0043】
また、変換部60では、ラック63およびピニオン64以外の動力伝達機構を用いてもよいことは勿論である。
【0044】
また、流出入通路50の通路径および本数は、必要な発電量や扉体10の動揺の抑制量に応じて適宜変更可能である。