特許第6962909号(P6962909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ケース ウェスタン リザーブ ユニバーシティの特許一覧

特許6962909直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極
<>
  • 特許6962909-直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極 図000002
  • 特許6962909-直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極 図000003
  • 特許6962909-直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極 図000004
  • 特許6962909-直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極 図000005
  • 特許6962909-直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極 図000006
  • 特許6962909-直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極 図000007
  • 特許6962909-直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極 図000008
  • 特許6962909-直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極 図000009
  • 特許6962909-直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962909
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】直流電流神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/05 20060101AFI20211025BHJP
   A61N 1/20 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   A61N1/05
   A61N1/20
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-515952(P2018-515952)
(86)(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公表番号】特表2018-533389(P2018-533389A)
(43)【公表日】2018年11月15日
(86)【国際出願番号】US2016054663
(87)【国際公開番号】WO2017062272
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2019年8月14日
(31)【優先権主張番号】62/237,660
(32)【優先日】2015年10月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500429332
【氏名又は名称】ケース ウェスタン リザーブ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】CASE WESTERN RESERVE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100128347
【弁理士】
【氏名又は名称】西内 盛二
(72)【発明者】
【氏名】バドラ,ナレンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ウェーンライト,ジェシー
(72)【発明者】
【氏名】バドラ,ニロイ
(72)【発明者】
【氏名】キルゴア,ケビン・エル
(72)【発明者】
【氏名】ヴラベッツ,ティナ
【審査官】 北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0160798(US,A1)
【文献】 特表2015−519184(JP,A)
【文献】 特表2010−540104(JP,A)
【文献】 特開平06−261953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00 − 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経における活動電位の伝達を変更するのに十分な振幅を有する直流電流(DC)を生成する電流発生器と、
前記電流発生器に結合し、且つ、非可逆のファラデー反応生成物の生成による神経障害を回避しつつ、神経伝導ブロックを達成するのに十分な総電荷を伝送するように前記DCを前記神経にある時間で印加する高電荷容量電極とを備え、
前記高電荷容量電極は、
前記神経に接触にする基板と、
前記基板の側面に粘着される生体適合性の接着剤材料によってまとめられる活性粒子から構成されるコーティングとを含み
前記コーティングは、DCを充放電するための電気二重層コンデンサ(EDLC)を提供し、
前記高電荷容量電極は前記EDLCの放電によって前記DCを前記神経に印加し、
前記非可逆のファラデー反応生成物は過酸化水素を含むことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記活性粒子は、少なくとも500m /gの表面積を有するナノ粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ナノ粒子は、カーボンを含むことを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記ナノ粒子は、少なくとも1,000m /gの表面積を有することを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記DCは、ゼロ正味電荷を生成する電荷平衡の二相性波形であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記DCは、二相性波形であり、前記二相性波形の第2相にて、前記二相性波形の第1相で伝送された総電荷の一部を反転させることにより、神経および/または高電荷容量電極に有害となる電気化学反応を減少させることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記高電荷容量電極は、少なくとも100mF/cmの単位面積当たりの容量を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願)
この出願は2015年10月6日に提出された発明の名称「直流電流神経伝導ブロックに用いられるシステム及び方法(SYSTEMS AND METHODS FOR DIRECT CURRENT NERVE CONDUCTION BLOCK)」の米国仮出願第62/237,660号の優先権を要求する。この仮出願の全内容は、すべての目的でここに援用されている。
【技術分野】
【0002】
本発明は、直流電流(DC)神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極(high−charge capacity electrode)に関し、より具体的に、高電荷容量電極を利用してDC神経伝導ブロックを安全で伝えるシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多くの神経疾患は、周囲軸索に沿って伝導されるとともにエンド臓器での病理学的な効果を誘導する必要のない神経活動を特徴とする。キロヘルツ高周波交流(KHFAC)の神経伝導ブロックが広く研究されて良い見通しを有するが、神経において期待しない発症応答(onset response)を発生するため、未だに臨床採用されていない。側面電極を介して簡単なDC波形を印加して発症応答を完全に中和可能であるが、DC波形を何度か印加した後、神経伝導が喪失されてしまう。
【0004】
DC神経伝導ブロックは、発症応答を有さず、伝導ブロックを実施する注目候補になった。実は、DCを単独で応用すると、KHFAC神経伝導ブロックの発症応答を有さない、完全な伝導ブロックが可能となる。また、DC神経伝導ブロック波形を設計することにより、停止時の陽極開放興奮を防止可能である。しかし、DC神経伝導ブロックによって神経障害を発生する可能性(例えば、刺激中に非可逆のファラデー反応生成物の生成による)は、DC神経伝導ブロックの臨床採用に対する阻害となった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、神経障害を引き起こさない、直流電流(DC)神経伝導ブロックを神経へ伝える高電荷容量電極に関する。このような高電荷容量の電極は、DC神経伝導ブロックを印加しつつ、有害となる非可逆ファラデー反応生成物の生成を回避可能である。そのため、本発明は、高電荷容量電極を利用してDC神経伝導ブロックを安全で伝えるシステム及び方法に関わる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様において、本発明は、高電荷容量電極を提供する。当該高電荷容量電極は、電流発生器に結合したとき、DCを神経まで伝達して神経での伝導をブロックする。当該高電荷容量電極は、基板と、基板の少なくとも一部を覆うコーティングとを備える。当該コーティングは、生体適合性の接着剤材料によってまとめられる高表面積ナノ粒子を含む。
【0007】
別の態様において、本発明は、神経での伝導をブロックするシステムを提供する。当該システムは、DCを生成する電流発生器を備える。電流発生器は、高電荷容量電極に結合可能である。当該高電荷容量電極は、DCを伝送して神経での伝導をブロック可能である。高電荷容量電極は、基板と、基板の少なくとも一部を覆うコーティングとを備える。前記コーティングは、生体適合性の接着材料によってまとめられる活性粒子を含む。
【0008】
更に別の態様において、本発明は、神経での伝導を変更する方法を提供する。電流発生器に結合する高電荷容量電極は、神経に近接するように配置される。高電荷容量電極は、基板と、基板の少なくとも一部を覆うコーティングとを備える。当該コーティングは、生体適合性の接着剤材料によってまとめられる活性粒子を含む。電流発生器で発生したDCは、神経に印加される。DCは、神経における活動電位の伝達を変更するのに十分な振幅を有する。電気化学反応生成物による、神経および/または高電荷電極への損害が発生せずに、印加されたDCに基づいて神経における活動電位の伝達を変更可能である。
【0009】
図面を参照して以下の記述を理解すると、本発明の上記特徴及び他の特徴は、当業者にとって明瞭になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の形態に係る直流電流(DC)神経伝導ブロックを伝えるシステムを示す模式図である。
図2図1における高電荷容量電極を示す模式図である。
図3】本発明の別の態様に係るDC神経伝導ブロックを伝える方法を示すフローチャートである。
図4】高容量電極のプロトタイプを示す写真である。
図5】高電荷容量電極の異なる構造を示す写真である。
図6】高電荷容量電極の異なる構造を示す写真である。
図7】高電荷容量電極の異なる構造を示す写真である。
図8】配線高電荷容量電極を有する完全な坐骨神経運動ブロックを示すグラフである。
図9】高電荷容量神経カフを有する完全な坐骨神経運動ブロックを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
I.定義
別途定義しない限り、本明細書に使用されている全ての技術用語は、当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。
【0012】
本発明の文脈において、単数形「1つ」(a)、(an)及び「前記」(the)は、文脈上他に明白に示さない限り、複数形を含んでもよい。
【0013】
本明細書に使用されている用語「備える(comprises)」及び/又は「含む(comprising)」は、前記特徴、ステップ、操作、要素及び/又はコンポーネントの存在を特定することができるが、1つ又は複数のその他の機能、ステップ、操作、要素、コンポーネント、及び/又は組み合わせの存在や追加を排除しない。
本明細書に記載のとおり、用語「及び/又は」は、1つ又は複数の関連する列挙された項目の任意の及びすべての組み合わせを含み得る。
【0014】
本明細書に記載のとおり、「XとYとの間」及び「約XとYとの間」などの語句はX及びYを含むと解釈されてもよい。
【0015】
本明細書に記載のとおり、「約XとYとの間」などの語句は、「約Xと約Yとの間」を意味し得る。
【0016】
本明細書に記載のとおり、「約XからYまで」などの句は「約Xから約Yまで」を意味し得る。
【0017】
なお、ある要素が別の要素の「上に位置する」、別の要素に「装着される」、別の要素に「接続される」、別の要素に「結合される」、別の要素に「接触する」等と記載されるとき、ある要素が、例えば、別の要素に「直接」位置したり、装着されたり、接続されたり、結合されたり、接触したりしてもよいし、中間要素が存在してもよい。それに対して、ある要素が別の要素に「直接」位置したり、装着されたり、接続されたり、結合されたり、接触したりするなどと記載されている場合、中間要素が存在しない。当業者によって、別の構成に隣接して配置された構造又は構成と記載される場合は、この隣接構成と重なる部分又はその下にある部分を含む場合がある。
【0018】
説明の便宜上、本明細書では、「の下」、「下方」、「下」、「上方」、「上面」等のような空間的に相対的な用語を用いて、ある要素又は構成と図示している他の要素との関係を説明することができる。なお、前記空間的に相対的な用語は、図面に説明された方向に加えて、使用又は操作中の装置の別の方向を包含し得る。例えば、図中の装置が逆の場合、「他の要素又は構成の「下方」又は「下」に位置すると記載される要素は、他の要素又は構成の「上方」に配置されることになる。
【0019】
また、本明細書では「第1」、「第2」などの用語を用いて様々な要素を説明することができるが、これらの要素はこれらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語はある要素を別の要素と区別するためにのみ使用される。したがって、以下に説明する「第1」要素は、本開示の教示から逸脱することなく「第2」要素と呼ぶことも可能である。操作(又は動作/ステップ)の順番は、特に断りのない限り、請求項又は図に示された順序に限定されない。
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「直流電流神経伝導ブロック」又は「DC神経伝導ブロック」は、直流電流を神経に印加して神経での伝導を変更することを指してもよい。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「直流電流」又は「DC」は、任意の極性(例えば、陰極又は陽極)の電流パルスを指してもよい。場合によって、DCを二相性波形の第1相として用いてもよい。二相性波形の第2相により、第1相で伝送された総電荷の100%(電荷平衡の二相性波形)を反転させるか、第1相で伝送された総電荷の100%未満(電荷非平衡の二相性波形)を反転させる。こうして、神経および/またはDC伝送用の電極を損害する損害性の反応生成物の生成が減少される。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「擬似キャパシタ」は、電極と電解質の間の電子電荷の移転により、ファラデー方式で電荷を記憶する電気化学コンデンサを指してもよい。それは、電気吸着、酸化還元反応やインターカレーション過程によって実施される。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「有害となる反応生成物」は、DCの印加により生成されたファラデー反応の非可逆の反応生成物を指してもよい。これらの非可逆の反応生成物は、有害となる反応生成物を生成する必要ない副反応による可能性がある。一例としては、水が酸化により酸素になり、幾つかの電子が過酸化水素の発生に転移された。それは、非可逆である。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「変更」又は「変化」は、神経伝導の使用に係るとき、活動電位の神経での伝導の方式を影響や変更することを指してもよい。幾つかの場合に、神経伝導は、神経に沿って伝搬される際にある点での活動電位の解除により変更され得る(神経伝導を「ブロック」するとも呼ばれる)。他の場合において、神経伝導は、神経の活性化閾値の増加および/または神経の伝導速度(神経伝導を「減衰」させるとも呼ばれる)の低減によって変更され得る。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「神経伝導ブロック」は、神経伝導をブロックするおよび/または減衰させることを指してもよい。神経伝導は、活動電位が神経を通過する際に標的神経を通る活動電位の伝達が完全に解消(例えば、100%解消)したときに、「ブロック」される。当該ブロックは、標的神経を含む神経膜の脱分極又は過分極によって達成できる。
【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「不完全なブロック」は、標的神経を通る活動電位の100%未満(例えば、約90%未満、約80%未満、約70%未満、約60%未満、又は約50未満%)が解消する部分的ブロックを指し得る。「不完全神経ブロック」が発生すると、神経伝導は「減衰」する。一例では、神経伝導が減衰するとき、標的神経の活性化閾値が増加し、その結果、標的神経を励起するのがより困難になる。
【0027】
本明細書中で使用される場合、ブロックの発生により非可逆の反応生成物を生成しないとき、神経伝導ブロックは、「安全」と見なされる。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「神経」は、電気信号及び化学信号を介して運動、感覚及び/又は自律的情報を1つの身体部分から別の身体部分に伝達する1つ又は複数の繊維を指す。神経は、中枢神経系又は末梢神経系の成分のいずれかを指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「神経学的障害」は、1つ以上の神経における異常な伝導によって少なくとも部分的に特徴づけられる状態又は疾患を意味する。場合によっては、神経学的障害に罹患した対象は、疼痛及び/又は筋痙攣を経験することがある。神経学的障害の例は、脳卒中、脳損傷、脊髄損傷(SCI)、脳性麻痺(CP)、多発性硬化症(MS)などを含む。
【0030】
本明細書で使用される場合、「対象」及び「患者」という用語は互換的に使用でき、任意の温血生物であってもよく、ヒト、ブタ、ラット、マウス、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、サル、サル、ウサギ、牛などが含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書で使用される場合、「医療専門家」という用語は患者にケアを提供する個人を指す。医療従事者は、例えば、医者、医師の助手、学生、看護師、介護者などであり得る。
【0032】
II.概要
本発明は、直流(DC)神経伝導ブロックを伝えるための高電荷容量電極に関し、より具体的に、高電荷容量電極を利用してDC神経伝導ブロックを安全で伝えるシステム及び方法に関する。DC神経伝導ブロックは、発症応答を発生しないとともに、陽極の断裂を回避可能に設計可能であるため、魅力的である。しかし、DC神経伝導ブロックは、DC神経伝導ブロックを伝えるのに必要な電荷において神経障害を引き起こす可能性が非常に高い(例えば、非可逆のファラデー反応生成物を生成する)から、未だに臨床採用されていない。有利な点として、ここで記述される高電荷容量電極は、このような神経障害を回避するように設計される。以下でより詳しく説明したように、機械安定性や伝送可能な電荷量に関して、本発明の高電荷容量電極は、他のタイプの電極よりも幾つかのメリットを有する。例えば、プラチナシートが神経伝導ブロックに必要な電荷を伝送可能であるが、周知されたように、その機械性能が悪いため、表面積(さらに電荷容量)快速で著しく損失し、植込み中及び植込み後の電荷容量の不特定性を引き起こす。別例として、酸化イリジウム電極を使用し、酸化イリジウムの高容量/低インピーダンス特性を利用する。酸化イリジウムが一般的に安定であるが、酸化イリジウムの電荷蓄積容量は、相変わらず神経伝導ブロックに必要な量よりも1-2桁低い。逆に、本明細書のシステム及び方法で採用された高電荷容量電極が高電荷容量と安定な機械性質を有するため、各種の臨床や実験応用にDC神経伝導ブロックを利用可能になる。
【0033】
III.システム
本発明の1つの態様は、DC神経伝導ブロック(例えば、単相、平衡電荷二相、又は電荷非平衡二相)を伝えて(例えば、ブロック又は減衰)神経での伝導を変更可能なシステム10(図1)を含んでもよい。システム10は、電流を生成するための部品(例えば、電流発生器12)と、電流を神経に印加するための部品(例えば、高電荷容量電極14)とを備えてもよい。標的神経の実例は、末梢神経(例えば、運動神経、感覚神経及び/又は自律神経)及び中枢神経系(例えば、脳および/または脊髄)を含む神経又は神経組織を含み得る。DC神経伝導ブロックは、疼痛及び筋痙攣を含むがそれらに限定されない様々な神経障害を治療するために使用され得る。メリットとして、高電荷容量電極14は、(1)神経伝導ブロックの応用に必要な電荷を伝送可能であるとともに、損害を引き起こす非可逆の反応生成物の生成を回避する一方、(2)ロバストな機械性質を表し、電荷の伝送を予見可能とする。換言すれば、少なくとも高電荷容量電極14の設計と電流発生器12で生成された波形とにより、システム10は、DC神経伝導ブロックを安全で伝える。
【0034】
図1に示すように、システム10は、DCを生成する電流発生器12と、DCを神経に印加する高電荷容量電極14とを備えてもよい。高電荷容量電極14は、電流発生器12に電気的に結合可能になる。幾つかの場合において、高電荷容量電極14は、有線接続により電流発生器12に電気的に接続可能である。他の場合において、高電荷容量電極14は、無線接続および/または有線接続と無線接続の組み合わせで電流発生器12に電気的に接続可能である。
【0035】
電流発生器12は、神経伝導ブロックを引き起こすのに十分な振幅のDCを生成するように配置やプログラミングされてもよい。幾つかの場合において、神経伝導ブロックのためのDCは、大振幅の電流を神経に伝送する必要がある。例えば、必要な電流は、2mAであり、10秒継続し、約20mC又はより多くの総電荷を伝送する必要がある。したがって、電流発生器12は、神経に印加されて伝導の交代の所定電流を生成するように配置やプログラミングされる任意の装置であってもよい。電流発生器12の一例は、電池給電の携帯型発電機である。電流発生器12の別の例は、植込み型パルス発生器(IPG)。理解すべきことは、電流発生器12は、付加部品(例えば振幅変調器(図示せず))を備えて電流波形を選択的に配置してもよい。
【0036】
幾つかの場合において、生成されたDCは、陽極極性や陰極極性、神経伝導ブロックを引き起こすのに十分な振幅を有する。幾つかの場合において、電流発生器12は、二相性波形(1つの位相が陰極であり、1つの位相が陽極である)を有するDCを発生するように配置やプログラミング可能である。この場合に、変化するDCは、第1相において神経に特定の時間伝送され、逆極性を有する第2相において、第1相で発生された期待しない効果(例えば、非可逆の反応生成物)を低減や解消可能である。期待しない効果は、高電荷容量電極14および/または電極-電解質インターフェースにおいて発生や解消可能である。
【0037】
幾つかの場合において、生成された二相DC波形は、ゼロ正味電荷を生成する電荷平衡の二相性波形であってもよい。他の場合において、生成された二相DC波形は、基本電荷平衡DC波形として印加され、小正味電荷を発生して神経および/または高電荷容量電極14に有害となる反応生成物を減少する。メリットとして、電流発生器12は、二相性波形のDCを有するように配置又はプログラミング可能である。それは、神経伝導の変更を許容するが、神経自身を損害しないおよび/またはシステム的な副作用を発生しない。
【0038】
高電荷容量電極14は、DCを神経に伝送して神経伝導ブロックを実施してもよい。幾つかの場合において、高電荷容量電極14は、約50mF/cm又はより大きな単位面積当たりの容量を有してもよい。別の場合において、高電荷容量電極14は、約75mF/cmの単位面積当たりの容量を有してもよい。更に別の場合において、高電荷容量電極14は、約100mF/cm又はより大きな単位面積当たりの容量を有してもよい。高電荷容量電極14は、面積予見性を有する、大きな単位面積容量を現せる。幾つかの場合において、高電荷容量電極14の材料に依存して、電荷回収は、高電荷容量電極14の寿命を延長するために用いられる。DC神経伝導ブロックが低いデューティ比を有するため、極性の大パルス伝送の間に十分な時間を持って逆極性の低振幅の電流を再充電することを許容する。伝送電流の周期的な反転は、充電の高電荷容量電極14に大電圧をかけることを防止する。
【0039】
図2に示すように、高電荷容量電極14は、基板16と、コーティング18とを備えてもよい。幾つかの場合において、基板16とコーティング18との材料の選択は、電荷容量、耐久性、制造容易性及び利用可能性に基づいてもよい。基板16は、如何なるタイプの導電材料(例えば、ステンレス、金、銀、プラチナ等)であってもよい。例として、基板16は、プラチナ箔又はプラチナワイヤであってもよい。コーティング18は、基板16の少なくとも一部を覆ってもよい。幾つかの場合において、コーティング18は、全基板16を覆ってもよい。別の場合において、コーティング18は、基板16の少なくとも50%を覆ってもよい。更に別の場合において、コーティング18は、基板16の神経に接触にする部分又は神経から露出する部分を覆ってもよい。
【0040】
コーティング18は、生体適合性を有し、DCの常規の充電と放電に対して安定である。幾つかの場合において、コーティング18は、電気二重層コンデンサ(EDLC)、電気化学コンデンサを提供可能である。電気化学コンデンサは、高電荷容量電極14の二層容量により能量蓄積を実施する。コーティング18は、高度再現可能であり且つ如何なる有害となる反応生成物(例えば、如何なる外来イオンを電解質に導入するか、環境のpH値を変更する)を確実に生成しないように用いられる。
【0041】
増幅領域24に示すように、コーティング18は、生体適合性の接着剤材料22によってまとめられる活性粒子20を含んでもよい。活性粒子20は、接着剤材料22によってまとめられるときに高電荷容量を有する高電荷容量電極14を発生可能である。活性粒子20の具体的な数は、変化可能であり、且つ少なくとも必要な充容量量、使用すべき活性粒子材料、および使用すべき接着剤材料22に部分的に依存する。類似的に、接着剤材料22は、任意の異なる分子配列であってもよく、活性粒子20をまとめる機械安定性を与えればよい。
【0042】
活性粒子20は、一種又は複数種の非ファラデー材料で製造されてもよい。幾つかの場合において、活性粒子20は、高表面積ナノ粒子を含んでもよい。例えば、ナノ粒子は、カーボンベースナノ粒子(例えば、生体カーボン、YP-50又はYP-80高表面積活性炭)であってもよい。別の例では、ナノ粒子は、プラチナナノ粒子、酸化イリジウムナノ粒子又は任意数の他の生体適合性ナノ粒子であってもよい。幾つかの場合において、ナノ粒子は、全部で同じ材料であってもよい。他の場合において、ナノ粒子は、各種の異なる材料によって製造されてもよい。一例において、ナノ粒子は、少なくとも約500m/g、少なくとも約750m/g又は少なくとも約1,000m/gの表面積を有してもよい。
【0043】
接着剤材料22は、基板16に粘着されて活性粒子20を適切な位置に保つ。したがって、接着剤材料22は、良好な粘着性、耐久性を与えて生体適合性を有する材料であってもよい。例として、接着剤材料22は、生体適合性のポリマー材料であってもよい。例としての生体適合性のポリマー材料は、Nafion、ポリビニルアルコール、テフロン(Teflon)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を含む。適切な接着剤材料22を選択すると、高電荷容量電極14の高電荷容量を促進できる。
【0044】
一例において、活性粒子20は、カーボンであってもよく、接着剤材料22は、Nafion又はPVDFであってもよい。カーボン活性粒子20は、非常に高い多孔性を有するように製造可能であるため、非常に高い表面積を得る。例えば、表面積が1,000-3,000又はより多い平米数(m)の表面積/グラム数(g)のカーボンである。電解質溶液に置かれるとき、カーボン活性粒子20の電気化学容量が100-600F/gレベルであってもよい。したがって、非常に少ない量のカーボン材料は、大量の電荷を格納可能である。もし容量が高電荷容量電極14の幾何面積として正規化されると、容量は100-2,500mF/cmレベルであってもよい。充電と放電メカリズムが電解質におけるイオン及びカーボンにおける電子の運動のみに係るため、これらのカーボン活性粒子20は、常規の充電及び放電で100,000回を超えるコンデンサを形成可能である。この例では、高電荷容量電極14は、40mFの容量を持って必要とされる20mC電荷を提供可能である。カーボン活性粒子20が塗布された30平方ミリメートルの表面が350mF/cmの比容量と100mFの容量を有せるため、高電荷容量電極14でDC神経ブロック応用のために必要な電荷を格納することを許容する。
【0045】
IV.方法
本発明の別の態様は、DC神経伝導ブロックを神経に伝える方法30(図3)を含む。方法30は、図1に示された上記システム10によって実行され得る。メリットとして、システム10の高電荷容量電極14は、神経伝導ブロック応用に必要な電荷を伝送可能であるとともに、損害を引き起こす非可逆の反応生成物を回避し、安定な機械性質を現して予見可能に電荷を伝送する。換言すれば、方法30は、DC神経伝導ブロックを安全で伝送可能である一方、非可逆の反応生成物を生成しないため、患者の安全性を増やして臨床採用の可能性を増加させる。
【0046】
方法30は、一般的に以下のステップを含んでもよい。電流発生器に結合する高電荷容量電極を神経に近接するように配置する(ステップ32)。電流発生器で発生したDCを神経に印加する(ステップ34)。非可逆の反応生成物を生成せずに、印加されたDCに基づいて神経における活動電位の伝達を変更する(ステップ36)。方法30は、フローチャートに示されたフローを有する。説明の便宜上、方法30が連続して実行するように示されるが、その順番に限定されないことは、理解や認識されるべきである。それは、幾つかのステップが異なる順番で発生しおよび/または本文で示された他のステップと同時に発生するからである。また、方法30の実施は、必ずしも示されたあらゆる態様を必要とするとは限らない。
【0047】
ステップ32では、高電荷容量電極(例えば、素子14)を電流発生器(例えば、素子12)に結合して神経に近接するように配置される。幾つかの例では、神経は、末梢神経(例えば、運動神経、感覚神経及び/又は自律神経)又は中枢神経系(例えば、脳および/または脊髄)を含む神経又は神経組織を含み得る。例えば、高電荷容量電極は、神経の傍に置かれてもよい。DC神経伝導ブロックは、疼痛及び筋痙攣を含むがそれらに限定されない様々な神経障害を治療するために使用され得る。高電荷容量電極は、基板と、基板を覆う少なくとも一部のコーティングとからなってもよい。当該コーティングは、生体適合性の接着剤材料によってまとめられる活性粒子を含んでもよい。高電荷容量電極が神経の長軸に垂直交差するとき、有効なブロックが発生する。
【0048】
ステップ34では、電流発生器を活性化してDCを生成する。生成されたDCは、高電荷容量電極を介して神経に印加可能である。DCは、神経における活動電位の伝達を変更するのに十分な振幅を有してもよい。例えば、印加されたDCは、陽極又は陰極であり、神経における活動電位の伝達を変更するのに十分な電界の振幅を有する。幾つかの場合において、DCが二相性波形として印加され、第2相が第1相で伝送された電荷を反転させる。他の場合において、第2相により、二相性波形の第1相で伝送された総電荷の100%未満を反転させて、神経および/または電極へ損害する電気化学反応を減少する。如何なる場合においても、二相性波形の第1相が電気化学反応生成物を生成すれば、第2相が電気化学反応生成物を反転可能である。
【0049】
ステップ36では、DCの印加に基づいて、標的神経における活動電位の伝達を変更(例えば、ブロック又は減衰)可能である。神経の構造や高電荷容量電極の構造を損傷しないおよび/またはシステム的な副作用が発生せずに、活動電位の伝達を変更可能である。
【0050】
V.実例
以下の実例は、目的を説明するためだけであり、添付する特許請求の範囲を制限するわけではない。
【0051】
本実例は、カーボンに基づく高電荷容量電極を利用して齧歯類動物坐骨神経での伝導を変更する実行可能性が実証された。
【0052】
方法
YP-50カーボン活性粒子とポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを接着剤として利用して、カーボンベース高電荷容量電極を構築する。3グラムのYP-50を6グラムのN-メチル-2- ピロリドン(NMP)に分散させる。3グラムの10wt%のPDFのNMPでの溶液を当該分散体へ加入する。得られた混合物をプラチナ箔基板(カフ電極に対して)とプラチナワイヤ(配線電極に対して)に塗布し、80℃の空気で30分間加熱してNMPを除去する。カーボンベース高電荷容量電極のプロトタイプの写真は、図4に示される。
【0053】
カーボンベース高電荷容量電極は、神経に並列して配置される。図5-7は、高電荷容量電極が如何にして成形して神経の近傍に置かれてブロックを生成する実例を示す。結果として、配線が神経の長軸に略垂直するとき、最も有効なブロックを生成する。したがって、これらの設計により、「垂直」特徴を最大化とする。
【0054】
双極性近位刺激電極は、ブロック電極の近位に配置されて超大筋収縮を引き起こす。ブロック電極(カフ電極又は配線電極)は、中間の齧歯類動物の坐骨神経の周囲又は付近に配置される。ブロック電極は、DCを印加して神経での伝導をブロックする。当該ブロックは、ブロック電極の遠位に記録される。
【0055】
結果
手術により、プロトタイプカフ式と配線カーボンベース高容量電極を齧歯類動物に置いて齧歯類動物坐骨神経モデル(神経に垂直)に基づいてブロックする。配線カーボンベース高電荷容量電極(図8)とカーボンベース高電荷容量電極カフ(図9)の両者の利用により、完全な神経ブロックを実現する。
【0056】
上記説明から、当業者であれば、改良、変更や修正が理解できる。これらの改良、変更や修正は、当業者の技術の範囲内であり、添付する特許請求の範囲によってカバーされることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9