(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記非汚染性ポリマー層は、i)pH7.4を有するリン酸緩衝食塩水(PBS)溶液によって10分間予備処理した後;ii)それからmlあたりフィブロネクチン1mgの濃度のフィブロネクチン溶液に25℃で20分間曝露し、;およびiii)次いで、pH7.4を有するPBS溶液で10分間すすぎ;表面プラズモン共鳴または代替法によって評価した場合、1ng/cm2以下のフィブロネクチン吸収を示す、請求項1に記載のチップ。
前記チップが、前記非汚染性ポリマー層がバルク水ではなく水和水を含むようにして保管される場合、前記捕捉剤は、25℃の温度において少なくとも1ヶ月間、少なくとも50%の結合活性を保持する、請求項1又は2に記載のチップ。
前記検体は、ヒトA血液型抗原、ヒトB血液型抗原、ヒトAB血液型抗原、ヒトO血液型抗原、ヒトRh因子抗原、グリコホリン、生物脅威病原体、感染性病原体に由来する抗原、癌抗原、心臓血管疾患に関連する抗原、代謝性疾患に関連する抗原、またはそれらの任意の組み合わせ、または上記のいずれかを認識する抗体である、または含む、請求項4に記載のチップ。
前記ダムが、リン酸塩、クエン酸塩、トレハロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項10から12のいずれか1項に記載のチップ。
前記光源は、前記チップ内に含まれる検出剤の励起を可能にする角度で、前記チップの前記非汚染性ポリマー層を照射する、請求項15〜24のいずれか1項に記載の検出器。
前記検体が、ヒトA型血液型抗原、ヒトB型血液型抗原、ヒトAB血液型抗原、ヒトO型血液型抗原、ヒトRh因子抗原、グリコホリン、もしくはそれらのいずれかの組み合わせである、または含む、請求項39または40に記載の方法。
前記生物脅威病原体が、炭疽病、リシン毒素、ペスト、野兎病、天然痘、ブルセラ症、チフス熱(typhus fever)、ウイルス性脳炎、ウイルス性出血熱、Q熱、メリディオド症、鼻疽、ボツリヌス毒素、SEB毒素、または食中毒細菌である、または含む、請求項42に記載の方法。
前記検体が、ヒトA血液型抗原、ヒトB血液型抗原、ヒトAB血液型抗原、ヒトO血液型抗原、ヒトRh因子抗原、グリコホリン、生物脅威病原体、感染性病原体に由来する抗原、癌抗原、心臓血管疾患に関連する抗原、代謝性疾患に関連する抗原、もしくはそれらのいずれかの組み合わせ、もしくは上記のいずれかを認識する抗体である、または含む、請求項49から51のいずれか1項に記載のシステム。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔参照による組み込み〕
本明細書中の全ての刊行物、特許および特許出願は、各個々の刊行物、特許または特許出願が参照により組み込まれることを具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により組み込まれる。本明細書の用語と組み込まれた参照の用語との間に矛盾が生じた場合、本明細書の用語が支配する。本明細書中に参照により組み込まれる特許および特許出願は、少なくとも、US7,713,689、US8,367,314、US20060057180、US20090247424、US20130157889、およびUS20130143771を含む。
【0022】
〔詳細な説明〕
1つ以上の発明の実施形態の詳細を、添付の図面、特許請求の範囲、および本明細書の説明において明らかにする。本明細書中で開示および熟考される本発明の実施形態の他の特徴、目的、および利点は、明示的に除外されない限り、任意の他の実施形態と組み合わせることができる。
【0023】
本明細書中で使用される場合、他に示されない限り、「含有する」、「含有している」、「含む」、「含んでいる」等のようなオープンタームは、「含む」を意味する。
【0024】
本明細書中で使用される場合、他に示されない限り、本明細書のいくつかの実施形態は、数値範囲を熟慮する。数値範囲が指定されている場合、範囲には範囲の端点が含まれる。数値範囲には、明示的に書かれているかのように、すべての値および部分範囲が含まれる。
【0025】
用語「約」は、参照数字表示のプラスまたはマイナス10−15%を意味することができる。
【0026】
冠詞「a」、「an」および「the」は、本明細書では、冠詞の文法的目的語の1以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。
【0027】
本明細書で使用される「および/または」という用語は、関連するフレーズ内に列挙された任意の単一の要素、ならびにすべての要素を含む2以上の要素の任意の組み合わせを含むと理解すべきである。
【0028】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0029】
本明細書に記載のいくつかの実施形態においては、検体は、ヒトA型血液型抗原、ヒトB型血液型抗原、ヒトAB型血液型抗原、ヒトO型血液型抗原、ヒトRh因子抗原、ヒトMNS血液型抗原、ヒトP型血液型抗原、ヒトP1PK血液型抗原、ヒトルテラン(Lutheran)血液型抗原、ヒトケル(Kell)血液型抗原、ヒトルイス(Lewis)血液型抗原、ヒトダフィー(Duffy)血液型抗原、ヒトキド(Kidd)血液型抗原、ヒトデエゴ(Diego)血液型抗原、ヒトYtまたはカートライト(Cartwright)血液型抗原、ヒトXg血液型抗原、ヒトシャンナ(Scianna)血液型抗原、ヒトドンブロック(Dombrock)血液型抗原、ヒトコルトン(Colton)血液型抗原、ヒトランドシュタイナー‐ウィーナー(Landsteiner−Wiener)血液型抗原、ヒトチド・ロジャース(Chido/Rodgers)血液型抗原、ヒトH血液型抗原、ヒトHh/Bombay(ボンベイ)血液型抗原、ヒトKx血液型抗原、ヒトガービッチ(Gerbich)血液型抗原、ヒトクロマー(Cromer)血液型抗原、 ヒトノップス(Knops)血液型抗原、ヒトインディアン(Indian)血液型抗原、ヒトOk血液型抗原、ヒトラフ(Raph)血液型抗原、ヒト ジョンミルトンハーゲン(John Milton Hagen)血液型抗原、ヒト I血液型抗原、ヒトリー(li)血液型抗原、ヒトグロボシド(Globoside)血液型抗原、ヒトジル(Gill)血液型抗原、ヒトRh関連糖タンパク質血液型抗原、ヒトフォルスマン(Forssman)血液型抗原、ヒトランゲライス(Langereis)血液型抗原、ヒトジュニア(Junior)血液型抗原であるか、またはそれらの任意の組み合わせであるか、またはそれらを含む。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「サンプル」または「生物学的サンプル」は、任意の望ましい操作またはさらなる処理および/または修飾を容易にするために、天然または天然の状態から採取される任意の材料に関する。サンプルまたは生物学的サンプルは、細胞、組織、流体(たとえば、生物学的流体)、タンパク質(たとえば、抗体、酵素、可溶性タンパク質、不溶性タンパク質)、ポリヌクレオチド(たとえば、RNA、DNA)、膜調製物、その他同類のものを含むことができ、これらは任意にその天然または天然の状態からさらに単離および/または精製することができる。「生物学的流体」は、生物に由来する任意の流体を指す。例示的な生物学的流体は、血液、血清、血漿、リンパ液、胆汁液、尿、唾液、粘液、痰、涙、脳脊髄液(CSF)、気管支肺胞上皮洗浄、鼻咽頭洗浄、直腸洗浄、膣洗浄、結腸洗浄、鼻洗浄、咽喉洗浄、滑液、精液、腹水、膿、母乳、耳液、汗、および羊水を包含し得るが、それらに限定されない。生物学的流体は、その天然の状態、または、試薬などの成分の添加、または1以上の天然成分(たとえば、血漿)の除去によって、修飾された状態であり得る。サンプルまたは生物学的サンプルは、たとえば、血液、血漿、リンパ、ウイルス、細菌、ヒトサンプル、罹患したヒトサンプル、動物サンプル、罹患した動物サンプル、唾液、粘液、脳脊髄液、滑液、胃液、腸液、細胞質液、または他の種類のサンプルであり得る。
【0031】
本明細書中で使用される場合、用語「バイオマーカー」は、生物学的状態または生物学的プロセス、たとえば、疾患状態または疾患もしくは障害の診断的または予後的指標(たとえば、疾患または障害の存在または後の発症の可能性を同定する指標)と関連する物質を指す。バイオマーカーの存在または非存在、またはバイオマーカーの濃度の増加または減少は、特定の状態またはプロセスと関連、および/または、特定の状態またはプロセスを示し得る。バイオマーカーは、細胞、または細胞成分(たとえば、ウイルス細胞、細菌細胞、真菌細胞、癌細胞など)、小分子、脂質、炭水化物、核酸、ペプチド、タンパク質、酵素、抗原、および抗体を包含し得るが、それらに限定されない。バイオマーカーは、細菌、真菌もしくはウイルスのような感染性病原体に由来し得るか、または疾患もしくは障害に罹患している被験体において、健康な個体と比較して、多かれ少なかれ豊富に存在する内在性分子であり得る(たとえば、遺伝子または遺伝子産物の発現の増加または減少)。
【0032】
本明細書中で使用される場合、用語「検出部分」は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、化学的、電気化学的、放射能的、および他の物理的手段を含むがそれらに限定されない方法によって検出可能な、任意の部分または化合物である。検出部分は、間接的に検出可能であり得る;たとえば、検出部分は、特異的結合対のメンバーである部分または化合物であり得、結合対の第2のメンバーは、直接検出され得る検出部分を包含し得る。そのような検出部分の非限定的かつ知られた例は、フルオロフォアなどの検出部分を含むアビジンまたはストレプトアビジンに結合することができる、ビオチンである。例示的な検出部分は、フルオロフォア、発色団、放射性標識、ポリヌクレオチド、小分子、酵素、ナノ粒子、およびアップコンバーターを包含し得るが、それらに限定されない。
【0033】
本明細書で用いられる場合、「感染症」(本明細書ではIDと略記する)という用語は、たとえば、ウイルス、細菌、古細菌、プラナリア、アメーバおよび真菌などの微生物を含むがそれらに限定されない感染性病原体によって引き起こされる疾患を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「ポリマー」は、当技術分野で使用されるその通常の意味、すなわち、共有結合によって接続された1つ以上の繰り返し単位(モノマー)を特徴とする分子構造を指す。繰り返し単位は全て同一であり得、または場合によっては、ポリマー内に繰り返し単位が2種類以上存在し得る。ポリマーという用語は、ホモポリマー、コポリマー(たとえば、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーなど)、およびそれらのブレンド、組み合わせおよび混合物を含む、任意の種類のポリマーを包含することが意図される。ポリマーは、直鎖状、分枝状、星型などであり得る。
【0035】
本明細書で使用する「領域」という用語は、材料の表面上の画定された領域を指す。領域は、異なる組成を有する2つの材料の間の明確な境界面によって識別され、かつ境界を定めることができる。
【0036】
本明細書で使用される「特異的結合対」は、互いに特異的な結合を示すか、または他の分子と比べて互いに結合が増加した、2つの分子を指す。特異的結合対は、たとえば、受容体およびリガンド(薬剤、タンパク質、または炭水化物など)、抗体および抗原、などの機能的結合活性;またはたとえば、タンパク質/ペプチドおよびタンパク質/ペプチド;タンパク質/ペプチドおよび核酸;ならびにヌクレオチドおよびヌクレオチドなどの構造的結合活性を示すことができる。典型的には、結合対の1つのメンバーは、本明細書に記載の装置において捕捉剤として働くことができ、かつ捕捉剤は、生物学的流体などのサンプル内に検体として存在し得る、結合対の第2のメンバーに結合することができる。本明細書で用いられる場合、「検体」は、上記のような特異的結合対の任意の第2のメンバーであり得る。典型的には、検体は、生物学的流体などのサンプルの成分であるか、またはそれらの中から見つかる。検体は、上記のバイオマーカーであり得る。
【0037】
本明細書中で使用される場合、用語「被験体」および「患者」は互換的に使用され、ヒトおよび非ヒト動物の両方を指す。「非ヒト動物」という用語は、たとえば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類およびその他の同類のものを包含するがそれらに限定されない、哺乳類および非哺乳類のすべての脊椎動物を包含することができる。特定の実施形態では、被験体はヒト患者である。
【0038】
本明細書で用いられる場合、tRNAはトランスファーRNAを意味する。
【0039】
本明細書で用いられる場合、rRNAはリボソームRNAを意味する。
【0040】
本明細書で用いられる場合、mRNAはメッセンジャーRNAを意味する。
【0041】
本明細書で用いられる場合、siRNAは低分子干渉RNAを意味する。
【0042】
本明細書で用いられる場合、miRNAはマイクロRNAを意味する。
【0043】
本明細書で用いられる場合、DNA−RNAハイブリッドは、DNAおよびRNAの両方を含む一本鎖ポリヌクレオチドである。DNA−RNAハイブリッドは、たとえばポリヌクレオチドプローブにアニールすることができる。
【0044】
本明細書で用いられる場合、選択的プローブは、2以上の標的RNAに結合し得るが、複数の標的RNAに等しくは結合しない。
【0045】
本明細書で用いられる場合、特異的ポリヌクレオチドプローブは、一つの標的RNAにのみ結合する。
【0046】
本明細書に開示されるのは、標的RNAを検出する方法であって:
a)標的RNAをポリヌクレオチドプローブにアニーリングさせる工程と;
b)アニールされた標的RNAを少なくとも1つのデオキシリボヌクレオチド三リン酸で伸長してRNA−DNAハイブリッドを形成する工程と;
c)RNA−DNAハイブリッドを少なくとも1つのデオキシリボヌクレオチド三リン酸で伸長して、伸長したRNA−DNAハイブリッドを形成する工程と;および
d)伸長したRNA−DNAハイブリッドの存在を検出することによって、標的RNAの存在を検出する工程とを含む。
【0047】
この方法は、固体支持体であり得る支持体上で行うことができる。この方法は、ポリヌクレオチドプローブと結合した固体支持体の層または部分上で行うことができる。
【0048】
この方法は、疾患または状態に関連する標的RNAの存在が検出されたときに、疾患または状態を診断するために使用することができる。これらに限定しないが、疾患または状態は、たとえば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、単純ヘルペスウイルス−1(HSV−1)、単純ヘルペスウイルス2(HSV−2)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、ヒトパピローマウイルス16(HPV−16)、ヒトパピローマウイルス−18(HPV−18)、C型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、A型肝炎ウイルス(HVA)、サイトメガロウイルス、結核、クラミジア、淋菌、梅毒、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、流行性耳下腺炎、麻しん、コレラ、腸チフス(typhoid fever)、リウマチ熱、癌、脳卒中、虚血性疾患、心臓血管疾患、ライム病、狂犬病、インフルエンザ、エボラ、妊娠、真菌感染症、細菌感染症、ポリオ、天然痘、糖尿病、I型糖尿病、II型糖尿病、ウイルス感染、自己免疫疾患、神経変性疾患、およびそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0049】
標的RNAの量は定量することができる。
【0050】
この方法は、アレイまたはマイクロアレイ上で行うことができる。
【0051】
この方法は、アレイまたはマイクロアレイを含むことができる医療機器上で行うことができる。
【0052】
複数の標的RNAを同時に検出することができる。対照は、アレイまたはマイクロアレイに包含させることができる。複数の標的RNAを検出する場合、2つ以上のポリヌクレオチドプローブが異なり得る。固体支持体または医療機器またはアレイまたはマイクロアレイは、たとえば、約5、約10、約50、約100、約500、約1000、約5000、約10,000、約20,000、約50,000、または約1から約100,000、または少なくとも10、少なくとも100、少なくとも1000、少なくとも10,000、少なくとも100,000のポリヌクレオチドプローブを含むことができる。ポリヌクレオチドプローブは、たとえば、ポリヌクレオチドプローブがアレイまたはマイクロアレイ上の画定された位置を占めるように、マイクロアレイ上に印刷することができる。
【0053】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、支持体、固体支持体および医療機器は、基層および非汚染性層(たとえば、ボトルブラシポリマーを含む)を含むことができ、ポリヌクレオチドプローブは、非汚染性層に結びついている。ポリヌクレオチドプローブは、共有結合的にまたは非共有結合的に結びつくことができる。本明細書に記載のいくつかの実施形態では、非汚染性層はアンカーと非共有結合的または共有結合的に結びつくことができ、アンカーは、ポリヌクレオチドプローブと共有結合で結合したテザーと、共有結合または非共有結合している。スペーサーは、テザーとポリヌクレオチドプローブとの間に挿入され得る。スペーサーは、たとえば、アミノ酸である。アミノ酸は、たとえば、テザーおよびポリヌクレオチドプローブの両方に、共有結合的に結合することができる。このようにして、スペーサーの存在の有無にかかわらず、ポリヌクレオチドプローブは、非汚染性ポリマー層に固着することができるが、ポリヌクレオチドプローブは非汚染層と、共有結合的に結びついておらず、かつ間接的に非共有結合的にも結びついていない。そのような結びつきは、たとえば、間接的、非共有結合的な結びつきであり得る。
【0054】
検体の検出結果は、データとして獲得することができ、たとえば、画像を獲得することができ、かつデータを、たとえば電話回線、インターネット、イントラネット、ファックス、テキスト、電子メール、または手紙などの、通信媒体を介して送信することができる。
【0055】
たとえばデータは、たとえばスマートフォンなどの携帯電話に組み込むことができるデジタルカメラなどを用いて獲得することができる、デジタル画像とすることができる。
【0056】
本発明者らは、驚くべきことに、ポリヌクレオチドプローブにアニールされた標的RNAを酵素的に伸長させることができ(たとえば、DNA塩基(デオキシリボヌクレオチド)を付加することができる)、および得られたDNA−RNAハイブリッドを検出できることを見出した。検出は、たとえば、RNAをDNAへと逆転写することなしに、DNAの増幅なしに、およびDNAまたは標的RNAの配列決定をせずに、起こすことができる。
【0057】
デオキシリボヌクレオチドは、たとえば、標的RNAの突出した(たとえば、アニールされていない)3’末端に付加することができ、標的RNAの一部をポリヌクレオチドプローブにアニールすることができる。
【0058】
標的RNAは、生物学的サンプルに由来し得るか、または取得され得る。生物学的サンプルは、溶解することができる。
【0059】
標的RNAは、合成であってもよく、および天然に見出される配列であっても、または天然には見出されない配列であってもよく、またはそれらの断片であってもよい。
【0060】
標識は、蛍光色素であり得る。蛍光色素は、高分解能でリアルタイムに液滴で検出することができ、および別個の励起波長および発光波長を有する多くの蛍光色素が利用可能であるので、1回の実験で多数の標識を監視することが可能になる。蛍光染料のセットは、同じ反応において2つ以上の染料を同時に検出できるように選択することができる。同時に検出できる蛍光染料のセットは、Cy3、Cy5、FAM、JOE、TAMRA、ROX、dR110、dR6G、dTAMRA、dROX、またはこれらの任意の混合物を包含することができるが、それらに限定されない。それらの染料は、本明細書の実施形態を実施するために、個々にまたは任意の組み合わせで使用することができる。染料は、一分子の検出を可能とすることができる。多数の蛍光染料が合成されており、かつ様々な形式で市販されている。これは、ジアルデヒド基との反応においてRNAへのカップリングを可能にするリンカー領域およびヒドラジン基を有する蛍光色素を包含することができる。このような化合物の例は、Invitrogenのカタログを参照されたい。本開示は、特定の蛍光色素の使用に限定されないが、異なる色素を同じ効果に適用することができる。リンカー領域は、炭素骨格からなり得、硫黄原子、ケトン基、またはジエチレングリコール基、またはドデカエチレングリコール基を含むことができる。リンカーの長さは、骨格が1〜20原子の直鎖分子である場合に変化し得る。リンカーは、たとえば、PCT特許公開第WO2003/048387号に開示されているように、化学反応における標識の選択的除去を可能にする原子群を含むことができる。
【0061】
標識の非限定的な例は、5−FAM(5−カルボキシフルオレセインとも呼ばれる;またスピロ(イソベンゾフラン−1(3H),9’−(9H)キサンテン)−5−カルボン酸,3’,6’−ジヒドロキシ−3−オキソ−6−カルボキシフルオレセイン)とも呼ばれる;5−ヘキサクロロ−フルオレセイン;([4,7,2’,4’,5’,7’−ヘキサクロロ−(3’,6’−ジピバロイル−フルオレセイニル)−6−カルボン酸)];6−ヘキサクロロ−フルオレセイン;([4,7,2’,4’,5’,7’−ヘキサクロロ−(3’,6’−ジピバロイルフルオレセイニル)−5−カルボン酸]);5−テトラクロロ−フルオレセイン;([4,7,2’,7’−テトラ−クロロ−(3’,6’−ジピバロイルフルオレセイニル)−5−カルボン酸]);6−テトラクロロ−フルオレセイン;([4,7,2’,7’−テトラクロロ−(3’,6’−ジピバロイルフルオレセイニル)−6−カルボン酸]);5−TAMRA(5−カルボキシテトラメチルローダミン);キサンチリウム、9−(2,4−ジカルボキシフェニル)−3,6−ビス(ジメチル−アミノ);6−TAMRA(6−カルボキシテトラメチルローダミン);9−(2,5−ジカルボキシフェニル)−3,6−ビス(ジメチルアミノ);EDANS(5−((2−アミノエチル)アミノ)ナフタレン−1−スルホン酸);IAEDANS(5−((((2−ヨードアセチル)アミノ)エチル)アミノ)ナフタレン−1−スルホン酸);Cy5(インドジカルボシアニン−5);Cy3(インド−ジカルボシアニン−3);およびBODIPY FL(2,6−ジブロモ−4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−pr−プロピオン酸);Quasar(登録商標)−670染料(Biosearch Technologies);CalFluor(登録商標)Orange色素(Biosearch Technologies);Roxダイ;Maxダイ(Integrated DNA Technologies)、テトラクロロフルオレセイン(TET)、4,7,2’−トリクロロ−7’−フェニル−6−カルボキシフルオレセイン(VIC)、HEX、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、テトラメチルローダミン、ROX、 およびJOEならびにその好適な誘導体を含むが、それらに限定されない。標識は、Alexa Fluor350、405、430、488、532、546、555、568、 594、633、647、660、680、700、および750などのAlexa Fluor染料であり得る。標識は、Cascade Blue、Marina Blue、 Oregon Green 500、Oregon Green 514、Oregon Green 488、Oregon Green 488−X、Pacific Blue、Rhodamine Green、Rhodol Green、Rhodamine Green−X、Rhodamine Red−XおよびTexas Red−Xであり得る。標識は、プローブの5’末端、プローブの3’末端、およびプローブの5’末端および3’末端の両方、またはプローブの内部であり得る。たとえばmRNAなどの標的ポリヌクレオチドの2つの末端といった、異なるそれぞれの位置を実験において検出するために、特有の標識を用いることができる。
【0062】
標識化に用いることができる染料‐ヒドラジドの非限定的な例は、Alexa Fluor(登録商標)−ヒドラジドおよびその塩、1−ピレンブタン酸−ヒドラジド、7−ジエチルアミノクマリン−3−カルボン酸−ヒドラジド(DCCH)Cascade Blue(登録商標)ヒドラジドおよびその塩、ビオシチン−ヒドラジド、2−アセトアミド−4−メルカプトブタン酸−ヒドラジド(AMBH)、BODIPY(登録商標)FL−ヒドラジド、ビオチン−ヒドラジド、Texas Red(登録商標)−ヒドラジド、ビオシチン−ヒドラジド、ルミノール(3−アミノフタルヒドラジド)、およびMarina Blue(登録商標)ヒドラジドを包含し得る。標識化に用いることのできる染料‐エチレンジアミンの非限定的な例は、5−ジメチルアミノナフタレン−1−(N−(2−アミノエチル))スルホンアミド(ダンシルエチレンジアミン)、Cascade Blue(登録商標)エチレンジアミンおよびその塩、N−(2−アミノエチル)−4−アミノ−3,6−ジスルホ−1,8−ナフタルイミド(ルシファーイエローエチレンジアミン)およびその塩、N−(ビオチノイル)−N’−(ヨードアセチル)エチレンジアミン、N−(2−アミノエチル)ビオチンアミド、ハイドロブロマイド(ビオチンエチレンジアミン)、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアサ−s−インダセン−3−プロピオニルエチレンジアミンおよびその塩(BODIPY(登録商標)FL EDA)、Lissamine(商標)ローダミンBエチレンジアミン、およびDSB−X(商標)ビオチンエチレンジアミン(デスチオビオチン−X エチレンジアミン、塩酸塩)を包含し得る。
【0063】
標識化に用いることのできる染料‐カダベリンの非限定的な例は、5−ジメチルアミノナフタレン−1−(N−(5−アミノペンチル))スルホンアミド(ダンシルカダベリン)、5−(アンド−6)−((N−(5アミノペンチル)アミノ)カルボニル)テトラメチルローダミン(テトラメチルローダミンカダベリン)、N−(5−アミノペンチル)−4−アミノ−3,6−ジスルホ−1,8−ナフタルイミドおよびその塩(ルシファーイエローカダベリン)、N−(5−アミノペンチル)ビオチンアミドおよびその塩(ビオチンカダベリン)、ビオチン−Xカダベリン(5−(((N−(ビオチノイル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ペンチルアミンおよびその塩、Texas Red(登録商標)カダベリン(Texas Red(登録商標)C5)、5−(((4−(4,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−yl)フェノキシ)アセチル)アミノ)ペンチルアミンおよびその塩(BODIPY(登録商標)TR カダベリン)、Oregon Green(登録商標)カダベリン、Alexa Fluor(登録商標)カダベリン、および5−((5−アミノペンチル)チオウレジル)フルオレセインおよびその塩(フルオレセインカダベリン)を包含し得る。
【0064】
本明細書において、マイクロアレイ形式におけるRNA検出のための表面開始酵素重合(SIEP)の使用も開示する。この方法は、たとえば酵母ポリ(A)ポリメラーゼ(PaP)によって触媒される、標的RNA分子の3’−OHにデオキシアデノシン三リン酸(dATP)を組み込むための、連続的かつ相補的な反応と、その後に続く、たとえば末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)によって触媒される、RNA−DNAハイブリッド(たとえば、伸長したRNA−DNAハイブリッド)の3’−OHにおける天然デオキシヌクレオチドおよび蛍光デオキシヌクレオチド(dNTP)の混合物の連続的な添加とを用いて、多数のフルオロフォアをRNA鎖に組み込むことができる。酵母PaPを用いたdATPの重合により、RNAの3’末端を効率的にDNAに変換することができ(約50%の変換)、かつPaPによりRNAの末端に付加された短いDNA鎖は、1KbのDNAあたり約45個のCy3フルオロフォアを含む、天然および蛍光dNTPの混合物から、TdTにより触媒される、より長いDNA鎖の重合の開始剤として作用する。短い21塩基長のRNA標的と固定化されたペプチド核酸プローブとのハイブリダイゼーションにおいて、約2pMの検出限界(LOD)および3logの線形ダイナミックレンジが得られたが、4つの異なる完全長mRNA転写産物からのmRNA断片は、マイクロアレイ形式で同様のダイナミックレンジにおいて、約10pMのLODを生じた。
【0065】
ジオキシリボヌクレオチド三リン酸は、たとえば、アデニン、チミン、グアニン、またはシトシンであり得る窒素塩を含む。
【0066】
また、本明細書に開示されるのは、表面を有する基板;表面上の非汚染性ポリマー層;少なくとも一つの捕捉剤を含む、ポリマー層上の少なくとも一つの捕捉領域;および少なくとも一つの検出剤および賦形剤を含む、ポリマー層上の少なくとも一つの不安定領域を含む装置であり;捕捉領域および不安定領域は、空間的に分離されている。本開示は、また方法、アッセイ、および装置を含むキットを提供する。非汚染性ポリマー層は、サンプル成分と、基板および/またはポリマー層との間の非特異的結合の減少をもたらし得る。ポリマー層上の不安定領域は、たとえば、単に装置の表面にサンプルを接触させる工程、およびその後、捕捉領域からのシグナルを検出する工程などの、典型的なアッセイに含まれる必要な工程を減らすことによって、高感度の検出限界をもたらしながら、単純化された方法およびアッセイを可能とする。装置および関連する方法は、研究および臨床検査室ならびに大規模なポイント‐オブ‐ケア アッセイを包含する、多くの環境に高度に適応可能である。
【0067】
基板
本開示にしたがって、さまざまな異なる型の基板を用いることができる。
【0068】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、基板は、ポリマー層の適用を可能にする表面を含むことができる。本明細書に記載のいくつかの実施形態では、基板は、標識されていない光学的または質量の検出器(たとえば、表面プラズモン共鳴エネルギー検出器、光導波路、エリプソメトリ検出器など)であり得、かつ基板の表面は、検出表面(たとえば、生物学的流体と接触しているだろう表面部分)である。そのような装置の例は、米国特許番号6,579,721;6,573,107;6,570,657;6,423,055;5,991,048;5,822,073;5,815,278;5,625,455;5,485,277;5,415,842;4,844,613;および4,822,135に記載されたものを包含するが、それらに限定されない。
【0069】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、基板は、バイオセンサ、アッセイプレートその他同類のものであり得る。たとえば、基板は、米国特許第5,313,264号明細書、米国特許第5,846,842号明細書、米国特許第5,496,701号明細書などに記載されたものなどの、光学的バイオセンサであり得る。基板は、米国特許第5,413,690号明細書または国際公開WO98/35232号に記載されているような、電位差測定バイオセンサ、または電気化学的バイオセンサであり得る。基板は、米国特許第5,777,372号明細書に記載されているような、ダイアモンドフィルムバイオセンサであり得る。したがって、基板は、有機または無機でありえる;金属(たとえば、銅または銀)または非金属であり得;ポリマーまたは非ポリマーであり得;導電性、非導電性、または非導電性(絶縁性)であり得;反射性または非反射性であり得;多孔質または非多孔質であり得る;など。たとえば、基板は、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、金、シリコン、酸化ケイ素、酸窒化シリコン、インジウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、チタン、酸化チタン、白金、イリジウム、インジウム錫酸化物、ダイヤモンドまたはダイヤモンド様フィルムなどを含むことができる。
【0070】
基材は、「チップベース」および「ピンベース」のコンビナトリアル化学技術に適した基材であり得る。すべて、公知の技術にしたがって用意することができる。たとえば、米国特許第5,445,934号明細書、米国特許第5,288,514号明細書および米国特許第5,624,711号明細書を参照されたい。
【0071】
上記の基板は、金属、金属酸化物、合金、半導体、ポリマー(織布、不織布、成形、押出、鋳造などの任意の好適な形態の有機ポリマーなど)、シリコン、酸化ケイ素、セラミック、ガラス、およびそれらの複合物からなる群から選ばれる材料を包含するがそれらに限定されない任意の好適な材料により、形成することができる。
【0072】
本明細書に記載の基板を形成するために用いられるポリマーは、任意の好適なポリマーであり、以下を含むが、それらに限定されない:ポリ(エチレン)(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ(ブタジエン)(PB)のシスおよびトランス異性体、ポリイソプレンのシスおよびトランス異性体、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PECLまたはPCL)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)およびその同族体、ポリ(メチルアクリレート)およびその同族体、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)、ポリオルトエステル、ポリ(無水物)、ナイロン、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリブタジエン(PB)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミドおよびたとえばポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)などのその同族体、フッ素化ポリアクリレート(PFOA)、ポリ(エチレン−ブチレン)(PEB)、ポリスチレン−アクリロニトリル)(SAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびその誘導体、ポリオレフィンプラストマー、ならびにそれらの組み合わせおよびこれらのコポリマーなど。
【0073】
基板は、たとえば、以下でさらに説明するように、たとえば、ポリマー層または連結層の堆積を容易にするために、基板の表面に形成された金または酸化物層などの追加の層を任意に有することができる。
【0074】
チップ
本発明において使用するための基板は、チップの形態であり得る。典型的には、本発明のチップは、少なくとも部分的にチップの内部に延びるチャネルを画定する。チャネルは、1つ以上のチャネル表面上に配置された1つ以上の非汚染性ポリマー層を有し得る。チャネルは、一方または両方の端部が開いていてもよく、かつチップを貫通して延びるチューブを形成するように全体的に覆われていてもよい。いくつかの実施形態では、本発明のチップは、チャネルにサンプル(たとえば、血液などの生物学的流体)を引き込むために毛細管作用に依存することができる。したがって、チャネルは、毛細管作用を支える寸法を有することができる。他の実施形態において、本発明のチップは、オープンウェルを画定し得る。一実施形態において、チップは毛細管作用を介して指採血から血液を受け入れるためのチャネルを有するように設計されている。そのような実施形態において、チャネルは数マイクロリットルの容積、たとえば、約0.5マイクロリットルから約100マイクロリットル、約0.5マイクロリットルから約75マイクロリットル、約0.5マイクロリットルから約50マイクロリットル、約0.5マイクロリットルから約25マイクロリットル、約0.5マイクロリットルから約10マイクロリットル、約0.5マイクロリットルから約5マイクロリットル、約1マイクロリットルから約100 マイクロリットル、約1マイクロリットルから約75マイクロリットル、約1マイクロリットルから約50マイクロリットル、約1マイクロリットルから約25マイクロリットル、約1マイクロリットルから約10マイクロリットル、約1マイクロリットルから約5マイクロリットル、約2.5マイクロリットルから約100マイクロリットル、約2.5マイクロリットルから約75マイクロリットル、約2.5マイクロリットルから約50マイクロリットル、約2.5マイクロリットル約25マイクロリットル、約2.5マイクロリットルから約10マイクロリットル、または約2.5マイクロリットルから約5マイクロリットルを有するように設計し得る。一実施形態では、本発明のチップは、幅約4mm、長さ約9mm、高さ約0.1mmの寸法(3.6マイクロリットル)を有するチャネルを画定することができる。典型的には、チャネルの1つ以上の表面は、1つ以上のマイクロスポットまたはナノスポットを含む。スポットは、本発明のアッセイの実施において使用される1つ以上の試薬を含み得る。一実施形態では、直径約100ミクロンのスポットを使用することができる。
【0075】
一実施形態では、本発明のチップは、上に列挙した寸法を有するチャネルを画定する。チャネルの底面には、直径100ミクロンのスポットが配置されている。スポットの中心から中心への間隔は、200ミクロンであり得る。この種類の実施形態において、4mmx9mmチャネルは、100ミクロンの直径のスポットを、概略で900個有することができる。チャネルの寸法、スポットサイズ、および/またはスポット間隔は、所望の数のスポットを収容するように調整することができる。スポットの適切な数は、約100から約10000スポット、約100から約7500スポット、約100から約5000スポット、約100から約2500スポット、約100から約1000スポット、500から約10000スポット、約500から約7500スポット、約500から約5000スポット、約500から約2500スポット、または約500から約1000スポットであり得る。再現性のためにまったく同じスポットが一般的に望ましいが、各スポットは異なる材料であってもよい。
【0076】
いくつかの実施形態では、本発明のチップは、一つ以上のダムを含み得る。1つ以上のスポットを1つ以上の他のスポットから分離するために、ダムを設けてもよい。ダムは、水溶性であってもよく、および当業者に知られている任意の材料から作られる。ダムは、捕捉剤と検出剤との間のチップ上に配置されてもよい。ダムは、水溶性塩、水溶性糖、水溶性ポリマー、またはこれらの任意の組み合わせを含み得る。ダムを構成する材料の好適な例は、リン酸塩、クエン酸塩、トレハロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、またはそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0077】
ダムは、チップのチャンネル上の任意の位置に配置することができる。たとえば、チャネルの流体の入口、チャネル内の点、またはチャネルの流体の入口と反対側のチャネルの端部に、ダムを配置することができる。ダムは、チャネルの幅の全部または一部にわたって配置されてもよい。いくつかの実施形態では、複数のスポットを含み、かつチャネルの幅にわたってダムも含むチャネルを、チップ上に画定することができる。
【0078】
本発明のチップは、両面テープで分離された2つのガラスカバースリップを使用して作製され得、チップ間に空間を形成し、それによりチャネルが画定される。光学検出法、たとえば蛍光検出を用いる本発明のアッセイにおいて、プラスチックを含む任意の光学的に透明な材料を、基板として使用することができる。
【0079】
結合層
基板およびポリマーの選択に依存して、基板およびポリマー層の間に、任意に結合層を含めることができる。たとえば、結合層は、開始剤(たとえば、直接的にカップリング、または中間連結基を介してカップリングされている)にカップリング(たとえば、共有結合的にカップル)されたアンカー基を含む化合物から形成することができる。アンカー基の選択は、その上で結合層が形成される基板に依存し得、かつ開始剤の選択は、下記でより詳細に説明するように、非汚染性ポリマーを形成するために用いられる特定の反応に依存し得る。
【0080】
アンカリング基は、共有結合的、または非共有結合的に、化合物または結合層を、基板の表面にカップルすることができる。非共有結合的カップリングは、疎水性相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、イオン結合、金属−リガンド相互作用などを含むが、それらに限定されない、任意の好適な二次的相互作用によることができる。
【0081】
基板材料および対応するアンカリング基の例は、たとえば、金、銀、銅、カドミウム、亜鉛、パラジウム、白金、水銀、鉛、鉄、クロム、マンガン、タングステン、およびそれらのチオール、スルフィド、ジスルフィド(たとえば、RがHである−SRまたは−SSR、低級アルキルなどのアルキル、またはアリール)などの硫黄含有官能基との任意の合金およびその他同類のもの;シランおよびクロロシラン(たとえば、RがHである−SiR
2Cl、低級アルキルなどのアルキル、またはアリール)でドープされたまたはドープされていないシリコン;アンカリング基としてカルボン酸を有する、シリカ、アルミナ、石英、ガラスおよびその他同類のものの金属酸化物など;亜硝酸塩およびイソニトリルを有する白金およびパラジウム;およびヒドロキサム酸を含む銅を含むことができる。アンカリング基として追加の好適な官能基は、ベンゾフェノン、酸塩化物、無水物、エポキシド、スルホニル基、ホスホリル基、ヒドロキシル基、ホスホネート、ホスホン酸、アミノ酸基、アミドおよびその他同類のものを含み得る。米国特許第6,413,587号明細書を参照されたい。
【0082】
任意の開始剤が、開始剤の活性にとって重要でない位置に共有結合を導入することによって、アンカリング基に組み込まれ得る。そのような開始剤の例は、ブロムイソ酪酸塩、ポリメチルメタクリレート−C1、ポリスチレン−C1、AIBN、2−ブロモイソ酪酸塩、クロロベンゼン、ヘキサブロモメチルベンゼン、ヘキサクロロメチルベンゼン、ジブロモキシレン、メチルブロモプロピオネートを包含し得るが、それらに限定されない。開始剤の追加の例は、米国特許番号6,413,587(たとえばそのカラム10〜11)に記載されている開始剤、および米国特許第6,541,580号明細書に記載されている開始剤を包含し得る。
【0083】
上記のように、アンカリング基と開始剤との間に、連結基または「スペーサー」を挿入することができる。リンカーは、極性、非極性、正帯電、負帯電、または非帯電であり得、およびたとえば、飽和または不飽和、直鎖または分枝アルキレン、ヘテロアルキレン、アラルキレン、アルカリーレン、または他のヒドロカルビレン、たとえばハロゲン化ヒドロカルビレン、特にフッ素化ヒドロカルビレンであり得る。好適なリンカーは、3から20の炭素原子の飽和アルキレン基、すなわち-(CH
2)
n-であり得、ここで、nは3から20をすべて包含した整数である。米国特許番号6,413,587を参照されたい。リンカーの他の好適な実施形態は、3から20ユニットのオリゴエチレングリコール、すなわち、-(CH
2CH
2O)
n-であり、ここで、nは3から20をすべて含んだ整数である。
【0084】
アンカリング層は、任意の好適な技術によって堆積(deposit)できる。アンカリング層は、自己組織化単分子層として堆積することができる。アンカリング層は、化学反応による基板の修飾によって(たとえば米国特許番号6,444,254を参照されたい)、または反応性プラズマエッチングまたはコロナ放電処理によって作り出すことができる。アンカリング層は、プラズマ堆積処理によって堆積することができる。アンカリング層は、スピンコーティングまたはディップコーティングによって堆積することができる。アンカリング層は、スプレー塗装によって堆積することができる。アンカリング層は、成膜、印刷、スタンピングなどによって堆積することができる。アンカリング層は、連続的な層として、または非連続的な(たとえば、パターン化された)層として、堆積することができる。
【0085】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、基板は、ガラス、シリコン酸化物または他の無機または半導体材料(たとえば、シリコン酸化物、シリコン窒化物)、またはマイクロアレイの製造に一般に使用される化合物半導体(たとえば、ヒ化ガリウム、およびヒ化インジウムガリウム)である。本明細書に記載のいくつかの実施形態では、基板はマイクロタイター(マイクロウェル)プレートであり得る。
【0086】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、アンカリング基は、シランまたはクロロシラン(たとえば、RがHである−SiR
2Cl、低級アルキルのようなアルキル、またはアリール)であり得る。
【0087】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、結合層は、2つの分離した工程により、基板上に形成される。たとえば、第1の工程において、アルキルシランまたはアルカンチオールのアンカリング層は、二酸化ケイ素またはガラスまたは金などの表面上に堆積され得、かつ末端反応性官能基(たとえば、アミン)を提示する。その後、第1の連結層によって提示される末端基に対して反応性のある第1の官能基を含む二官能性分子は、第1の工程において堆積された第1の連結層と反応することができる。二官能性分子の第2の官能基は、ポリマー層の重合のための開始剤として作用する部分基、たとえばATRP開始剤を含む。
【0088】
ポリマー層
本明細書に記載した装置のポリマー層は、非汚染性の性質を呈する。ポリマー層に関して本明細書で使用される非汚染性は、生物の増殖、および、ポリマーと、生物または生体分子(たとえば、細胞、タンパク質、ヌクレオチドなど)との間の非特異的または不定の結合相互作用の阻害(たとえば、低減または予防)に関連する。ポリマーの非汚染性の性質は、たとえば、非汚染(または代替的に、防汚)剤の組み込み、またはポリマー自体の構造/構造によるものなど、任意の好適な方法によって導入することができる。非汚染剤は、当該技術分野において公知であり、かつ装置の特定の用途に応じて、または非汚染剤の利用可能性に応じて、当業者によって選択され得る。非限定的な例は、殺生物活性を有する有機および無機化合物、ならびに、ポリマー層に組み込まれ得るかまたは結合され得、生体分子(たとえば、細胞、タンパク質、ヌクレオチド、炭水化物/脂質など)とポリマーとが接触したときの非特異的結合相互作用を低減または阻害する化合物を包含し得る。
【0089】
いくつかの実施形態において、非汚染性を提供する構造(structure)または構成(architecture)を有するポリマー層を提供する。本明細書に記載されている実施形態のいくつかでは、ポリマーは、一般に、そこにカップルされた生体分子(たとえば、細胞、タンパク質、ヌクレオチド、炭水化物/脂質)の結合を阻害するように機能する1つ以上の基を有するモノマーコア基の重合によって形成される、ブラシポリマーを好適に含む。好適には、モノマーコア基は、タンパク質耐性頭部基(Protein-resistant head group)にカップルされ得る。
【0090】
ポリマー層は、触媒連鎖移動重合、イニファーター媒介重合(たとえば、光イニファーター媒介重合)、フリーラジカル重合、安定フリーラジカル媒介重合(SFRP)、原子移動ラジカル重合(ATRP)、および可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合などのラジカル重合技術を用いて好適に形成され得る。
【0091】
たとえば、ブラシポリマーを形成するためのモノマーのフリーラジカル重合は、米国特許第6,423,465号明細書、米国特許第6,413,587号明細書および米国特許第6,649,138号明細書、米国特許出願公開第2003/0108879号明細書に記載の公知の技術、および当業者にとって明白なそれらの変形などにしたがって実行することができる。
【0092】
ブラシポリマーを形成するためのモノマーの原子移動ラジカル重合は、米国特許第6,541,580号明細書および米国特許第6,512,060号明細書、米国特許出願公開第2003/0185741号明細書に記載の公知の技術、および当業者にとって明白なそれらの変形などにしたがって実行することもできる。
【0093】
スチレン、アクリロニトリル、アセテート、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルアルコール、ビニル酸、およびそれらの組合せを含むが、それらに限定されない、上記のプロセスによって重合可能な任意の好適なコアビニルモノマーとして使用することができる。
【0094】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、ポリ(OEGMA)(POEGMA)膜を形成するために、オリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリレート(OEGMA)の表面開始ATRP(SI−ATRP)によって、ポリマー層を形成することができる。一実施形態において、ポリマー層は、メタクリレートとメトキシ末端化OEGMAとの共重合によって調製された官能化POEGMAフィルムである。好適には、POEGMAポリマーは、単一の工程で形成され得る。
【0095】
一般に、本明細書に記載の処理(または当技術分野で知られているか、または当業者にとって明らかである他の処理)によって形成されたブラシ分子は、2または5から100または200ナノメートルまでの長さ、またはそれ以上であり得、メートル当たり、10,20または40から100、200または500ミリグラムまで、またはそれ以上の密度で表面部分に堆積することができる。
【0096】
タンパク質耐性基は、親水性頭部基またはコスモトロープであり得る。例は、オリゴ糖、トリ(プロピルスルホキシド)、ヒドロキシル、グリセロール、ホスホリルコリン、トリ(サルコシン)(Sarc)、N−アセチルピペラジン、ベタイン、カルボキシベタイン、スルホベタイン、ペルメチル化ソルビトール、ヘキサメチルホスホラミド、分子内両性イオン(たとえば、−CH
2N
+(CH
3)
2CH
2CH
2CH
2SO
3−)(ZW)、およびマンニトールを包含し得るが、それらに限定されない。
【0097】
コスモトロープタンパク質抵抗性頭部基のさらなる例としては、以下を包含し得るが、それらに限定されない:
-(OCH
2CH
2)
6OH;
-O(マンニトール);
-C(O)N(CH
3)CH
2(CH(OCH
3))
4CH
2OCH
3;
-N(CH
3)
3+Cl
-/-SO
3-Na
+(1:1);
-N(CH
3)
2+CH
2CH
2SO
3-;
-C(O)Pip(NAc)(Pip=ピペラジニル)
-N(CH
3)
2+CH
2CO
2-;
-O([Glc−α(1,4)−Glc−β(1)
-]);
-C(O)(N(CH
3)CH
2C(O))
3N(CH
3)
2;
-N(CH
3)
2+CH
2CH
2CH
2SO
3-;
-C(O)N(CH
3)CH
2CH
2N(CH
3)P(O)(N(CH
3)
2)
2-;および
-(S(O)CH
2CH
2CH
2)
3S(O)CH
3
【0098】
本明細書に記載のいくつかの実施形態においては、適切なタンパク質耐性頭部基は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、たとえば、3から20のモノマー単位のPEGを含み得る。
【0099】
ポリマー層上へのさらなる成分の堆積に先立って、任意の連結層およびポリマー層を有する基板は、乾燥していてもよく、少なくともマイクロキャピラリが乾燥していてもよい(すなわち、触って乾燥している、または目視検査で乾燥しているが、ポリマー層中に、結合水または水和水を含む)。たとえば、捕捉剤の固定化を促進するために、ポリマー層は、結合水または水和水を適切に保持することができるが、バルク表面水は保持しない。連結層およびポリマー層を有する基板が乾燥形態で保存されている場合、結合水または水和水は、ポリマー層を水に迅速に曝露し(たとえば、水に浸漬することによって)、かつ表面を風乾させることによって(たとえば、窒素またはアルゴンジェットを用いて)、再導入することができる。あるいは、結合水または水和水は、大気水がポリマー層に結合するのに十分な時間、ポリマー層を周囲の空気に曝すことによって再導入することができる。
【0100】
捕捉領域
装置は、ポリマー層に非共有結合することができる、少なくとも1つの捕捉剤を含む少なくとも1つの捕捉領域を含む。捕捉領域の数は広範囲に変化し得、かつ基板の大きさおよび形状、装置の意図された用途(たとえば、ポイント‐オブ‐ケア 診断、パネルアレイ(たとえば、DNAをスクリーニングするためマイクロアレイ、MMChip(マイクロRNA)、タンパク質、組織、細胞、化学的化合物、抗体、炭水化物など)その他同類のものを含むいくつかの要因に依存し得る。捕捉領域を含む捕捉剤は、一般的に、特異的結合対の1つのメンバーである。適切な捕捉剤の例は、抗原、抗体、ペプチド、タンパク質、核酸、核酸またはペプチドアプタマー、リガンド、受容体その他同類のものを包含するが、それらに限定されない。実施形態は、たとえば診断パネルアレイのような複数の異なる捕捉剤を含むことができる複数の捕捉領域を含む装置に関する。
【0101】
いくつかの実施形態において、捕捉剤は、目的の任意の疾患、障害、または生物学的状態に関連するバイオマーカーを含むことができる。したがって、捕捉剤の選択は、本明細書に記載の装置および方法の意図された使用もしくは適用によって引き起こされ得、かつ疾患、障害もしくは生物学的状態に関連することが知られている任意の分子、または、疾患、障害、もしくは生物学的状態と関連している疑いのある任意の分子を含み得る。したがって、捕捉剤の選択は、技術分野で利用可能な知識に基づき、当業者の能力の範囲内である。
【0102】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、捕捉剤は目的の微生物感染と関連するバイオマーカーを含むことができ、微生物感染の例は、以下を包含するが、これらに限定されない:炭疽病、鳥インフルエンザ、ボツリヌス中毒、バッファローポックス、チクングニア、コレラ、コクシジオイデス症、クロイツフェルト・ヤコブ病、クリミア・コンゴ出血熱、デング熱、デング熱出血熱、ジフテリア、エボラ出血熱、Ehec(大腸菌O157)、脳炎、セントルイス、腸管出血性大腸菌感染エンテロウイルス、食品媒介性疾患、腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群、肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザ、日本脳炎、ラッサ熱、レジオネラ症、リーシュマニア症、レプトスピラ症、リステリア症、発疹チフス(Louseborne typhus)、マラリア、マールブルグ出血熱、麻疹、髄膜炎菌病、モンキーポックス、心筋炎ニパウイルス、オニョンニョン熱、百日咳、ペスト、急性灰白髄炎、狂犬病、再発熱、リフトバレー熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、赤痢菌症、天然痘ワクチン−偶発的な曝露、ブドウ球菌食中毒、梅毒、野兎病、腸チフス(typhoid fever)、ウエストナイルウイルス、黄熱病など。
【0103】
捕捉剤は、圧電または他の形態の非接触印刷および直接接触式クイル印刷を包含する、マイクロプリントまたはマイクロスタンピングなどの任意の好適な技術によって、ポリマー層上に堆積することができる。捕捉剤がポリマー層上に印刷される場合、捕捉剤は、装置が生物学的流体などの流体に曝されたときに結合したままであるように、ポリマー層に適切に吸収され得る。ブラシポリマーはまた、装置が保管されたときに捕捉剤が安定したままであるような保護環境を提供することができる。たとえば、捕捉剤が抗原性タンパク質または抗体などのペプチドまたはタンパク質である実施形態では、ブラシポリマー層は捕捉剤を分解から保護することで、装置を周囲条件下で保存できるようにすることができる。
【0104】
アレイが、ポリマー層上の別個の位置に複数の捕捉剤を堆積させることによって形成される場合、1cm
2あたり1、3、5、10、100または1000までのプローブ位置のプローブ密度を作製することができる。1cm
2当たり最大1,000,000個のプローブ位置を有するアレイを製造するために、現代の非接触アレイ装置を、堆積工程において使用することができる。たとえば、ディップペンナノリソグラフィーを使用して、1cm
2あたり10億個までの別個のプローブ位置を有するアレイを調製することができる。本明細書に記載の特定の用途に応じて、各捕捉スポットにおける特定の分子種が異なり得るか、またはいくつかが同じであり得る(たとえば、いくらかの冗長性または対照を提供する)ことが理解される。
【0105】
捕捉剤は、捕捉領域を形成するために、ポリマー層上に印刷し得る。捕捉領域は、任意の特定の方法で配列することができ、およびたとえば(たとえば、任意の一般的な幾何学的形状の)スポット、線、または他の好適なパターンなどの、任意の望ましい形状またはパターンを含むことができ、それはポリマーおよび基板の表面上の捕捉領域の同定を可能とする。いくつかの実施形態において、複数の捕捉剤は、捕捉剤の独自性が基材上の特定の位置に関連するように、所定のパターンで配列することができる。
【0106】
不安定領域
装置は、少なくとも1つの検出剤および賦形剤を含む少なくとも1つの不安定領域をさらに含む。本明細書に記載のいくつかの実施形態では、生物学的流体、バッファーまたは水性溶媒などの流体との接触に際して、捕捉剤は、ポリマー層(たとえば、ポリマーブラシ)に非共有結合したままであり得るが、不安定領域に存在する賦形剤は、ポリマーブラシに吸収され、かつ検出剤の吸収を妨害することができる。したがって、たとえば生物学的流体を含むサンプルのような水性流体に曝された場合、検出剤は可溶化されかつ流体に放出され、かつ関心のある検体に結合することができる。また、賦形剤は保存中に検出剤をさらに安定化させることができる。
【0107】
本明細書に記載のいくつかの実施形態においては、検出剤は、特異的結合対の第2のメンバーに結合することが可能な化合物を含み得る。サンプル(たとえば、生物学的流体)に可溶化されて放出されるとき、特異的結合対の第2のメンバーが流体中に存在する場合、第2のメンバーは検出剤に結合することができる。第2のメンバーは、装置の捕捉領域中の捕捉剤に結合できる。あるいは、検出剤は、捕捉剤に既に結合されているときに、特異的結合対の第2のメンバーに遭遇することができる。たとえば、捕捉剤が抗原性タンパク質であり、かつ検体が、抗原性タンパク質に特異的に結合することができる、患者が生成した抗体である場合、検出剤は抗ヒト抗体を含むことができる。
【0108】
本明細書に記載の実施形態のいくつかでは、不安定領域は、「サンドイッチ」型アッセイを形成するために2つの異なる薬剤を含むことができる。そのような実施形態では、第1の薬剤が検体に結合することができ、他方の薬剤が第1の薬剤に結合することによって「サンドイッチ」を形成し、それからそれが捕捉剤に結合することができる。たとえば、検出試薬は、検出部分によって官能化されたアビジンまたはストレプトアビジンに結合することができるビオチンを含み得る。
【0109】
検出剤は、直接的または間接的に検出可能なシグナルを提供する検出可能な部分をさらに含む。例示的な検出部分は、フルオロフォア、発色団、放射性標識、ポリヌクレオチド、小分子、酵素、ナノ粒子、およびアップコンバーターを包含することができるが、これらに限定されない。本明細書に記載のいくつかの実施形態では、検出部分は、シアニン(たとえば、Cy3またはCy5などのCyDye)、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、蛍光タンパク質またはその機能的断片などのフルオロフォアであり得、またはビオチンなどの小分子を含むことができ、または金、銀またはラテックス粒子を含むことができる。
【0110】
本明細書に記載の実施形態のいくつかでは、賦形剤は、検出剤とポリマーとの間の安定ではあるが非永続的な結びつきを可能にするように選択される分子または分子の組み合わせであり得る。実施形態において、賦形剤は、水溶液(たとえば、バッファー、水、サンプル、生物学的流体など)に部分的に可溶性、実質的に可溶性、または可溶性であり得る。そのような実施形態において、賦形剤は、塩、炭水化物(たとえば、グルコース、フコース、フルクトース、マルトースおよびトレハロースなどの糖)、ポリオール(たとえば、マンニトール、グリセロール、エチレングリコール)、乳化剤、水溶性ポリマーの非限定的な例、およびそれらの任意の組み合わせから選ばれ得る。そのような賦形剤は当該技術分野において周知であり、かつ賦形剤と検出剤、活性型剤とポリマーとの相互作用、特定の媒体中での賦形剤の溶解度、およびそのような要因の任意の組み合わせに基づいて選択することができる。本明細書に記載の実施形態のいくつかでは、賦形剤はPEGを含むことができる。
【0111】
検出剤および賦形剤は、圧電または他の形態の非接触印刷および直接接触式クイル印刷を含む、マイクロプリンティングまたはマイクロスタンピングなどの任意の好適な技術によってポリマー層上に堆積させることができる。検出剤と活性剤との混合物は同時に堆積させることができ、または検出剤の前に賦形剤を堆積させることができる。
【0112】
アレイが、ポリマー層上の別個の位置に複数の検出剤を堆積させることによって形成される場合、1cm
2当たり1、3、5、10、100または1000までのプローブ位置のプローブ密度を作製することができる。1cm
2当たり最大1,000,000個のプローブ位置を有するアレイを製造するために、現代の非接触アレイ装置を、堆積工程において使用することができる。たとえば、ディップペンナノリソグラフィーを使用して、1cm
2当たり10億個までの別個のプローブ位置を有するアレイを調製することができる。特定の用途に依存して、各捕捉スポットにおける特定の分子種が異なり得るか、またはいくつかが同じであり得る(たとえば、いくつかの重複性または制御を提供する)ことが理解される。
【0113】
他の要素
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、装置は、流体(たとえば、生物学的流体)が捕捉領域および不安定領域に接触するようポリマー層上の特定の領域に閉じ込められたままとなるように、ポリマー層上のパターン形成された領域を区画する薬剤をさらに含むことができる。そのような薬剤は、たとえば、捕捉剤と不安定領域の成分との堆積の前にポリマー層にインク印刷された疎水性インクであり得る。あるいは、薬剤はワックスであってもよい。他の実施形態では、基板の適切な幾何学的形状および/または構成を選択することを通して、たとえば、サンプルが、捕捉剤および不安定なスポットの成分を含む領域へと拡散することを可能にする幾何学的形状を選択することを通して、サンプルを装置に含有させる、または装置に向かわせることができる。本明細書に記載の実施形態のいくつかでは、基板はウェルまたは一連の相互接続されたウェルを含むことができる。
【0114】
本明細書に記載の実施形態のいくつかでは、たとえば、生物学的流体が血液サンプルである場合、不安定領域は、血液が凝固することを防ぐために抗凝固剤を含むことができる。例示的な抗凝固剤は、クマジン、ヘパリン、および低分子量ヘパリンなどのビタミンK拮抗薬を含み得るが、これらに限定されない。
【0115】
本明細書に記載のいくつかの実施形態においては、装置は、さらに対照剤で印刷された領域を含むことができる。たとえば、検出試薬が抗ヒト抗体を含む場合、抗ヒト検出抗体の活性を検証し、蛍光強度などの検出部分からのシグナルを標準化するために、ヒトIgGの対照の捕捉領域を捕捉領域の横に印刷することができる。
【0116】
装置の保存
捕捉剤、検出剤、賦形剤および他の任意成分を堆積させた後、装置を、上記のように物品が乾燥するかまたは少なくともマイクロキャピラリが乾燥するために十分な時間、たとえば、穏やかな乾燥、風乾、凍結乾燥、または周囲温度において周囲空気に曝露することによって、任意に乾燥させる。一旦装置が乾燥しているか、または少なくともマイクロキャピラリが乾燥していると、装置は、容器(たとえば、不浸透性または半透過性のポリマー容器など)に封入することができ、その中で、装置を保管することができ、ユーザへと出荷することができる。一旦容器に封入されると、本装置は、本明細書に記載のいくつかの実施形態においては、25℃の温度で保存された場合、少なくとも2ヶ月から4ヶ月、または最大6ヶ月以上の貯蔵寿命を有することができる(たとえば、20%、30%または50%より大きい結合活性の損失なしに)。
【0117】
検出
本明細書に記載の装置を生物学的サンプル(たとえば、生物学的流体)に曝露した後、当該技術分野で公知の任意の好適な方法を用いて、検出剤からのシグナルを検出することができる。例示的な方法には、視覚検出、蛍光検出(たとえば蛍光顕微鏡法)、シンチレーション計数、表面プラズモン共鳴、エリプソメトリ、原子間力顕微鏡法、表面弾性波装置検出、オートラジオグラフィーおよび化学発光が含まれ得るが、これらに限定されない。当業者には理解されるように、検出方法の選択は採用される特定の検出剤に依存する。
【0118】
検出器
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の方法において用いる検出器を提供する。検出器は、通常、チップを保持するように構成され、かつ1つ以上の光源を備えている。光源は、チップを照射するように構成されている。光源は、光がチップを通過するように、チップを照射することができる。光源は、光がチップの表面と約0度から約90度の角度で接触するように、チップを照射することができる。一実施形態では、光がチップの一つの表面と、他方の表面上でチャネルに堆積された非汚染性ポリマー層とを照射するように、光源を配置することができる。この型の実施形態では、光はチップの表面を通過し得るが、チップ全体を通過し得ない。
【0119】
光源は任意の型であり得、たとえば、LEDライトであり得る。本発明に使用される光源の好適な一例は、Thor Laboratoriesによって製造されたLED370Fである。いくつかの実施形態では、検出器は、2つ以上の光源を含むことができ、たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の光源を含むことができる。光源は、同一であってもよく、または異なっていてもよい。各光源は、別の光源によって生成された光と同じまたは異なる波長の光を生成することができる。各光源は、同じ強度の光を生成することができる。一実施形態では、それぞれ2mWの順方向光強度を有する4つの光源が使用される。本発明の検出器はまた、典型的にはレンズを含む。レンズは、光を集めるように構成されており、たとえば、フルオロフォアによって放出された光を、スマートフォンのカメラに送る。
【0120】
図25A〜
図25Eを参照して、本発明の検出器は、概して円筒形であり得、かつ中心軸に沿って検出器を通って伸長し得る中央空洞を備えることができる。本発明の検出器は、代わりに、検出器の長軸に沿って垂直に二等分された場合に、正方形または長方形の断面を有するように成形されてもよい。空洞は、チップ、フィルタおよびレンズを収容するために、様々な形状および大きさにおいて、様々な工程で成形することができる。本発明の検出器は、1つまたは複数のLEDチャネル100を有する。そのようなLEDチャネルは、上述のLEDライトを収容するように大きさが決められている。本発明の検出器は、1つ以上の電源を1つ以上のLEDライトに接続するために使用され得る、1つ以上の配線チャネル105を備えることもできる。本発明の検出器は、本発明の1つまたは複数のチップを収容するように構成された1つ以上のチップスロット110を備えることができる。チップスロットは、検出器の側面から内部に延びてもよく、かつ検出器を完全に貫通していても、していなくてもよい。
図25Aにおいて、チップスロット110は、一方の側面から内部に延びているが、検出器を完全には貫通していない。上述したように、本発明の検出器は、検出器の中心軸に沿って延びる中央空洞を備えていてもよい。
図25Aにおいて描画するように、空洞は、チップから放射された光が光路を下って携帯電話カメラへと進み、カメラによって記録され得るように、光路115を提供し得る。
図25Aはまた、フィルタ空洞120を示す。フィルタ空洞120は、ある波長の光をフィルタリングし、かつ別の波長の光を通過させるように設計された光フィルタを収容するための大きさである。たとえば、フィルタは、上述したLED光によって放射された波長の光をフィルタリングし、かつ検出剤によって放射された光の波長を通過させることができる。フィルタは、典型的には、中央の光路に配置される。
図25Aはまた、レンズ空間125を示す。レンズ空間は、本発明で使用するためのレンズを収容する大きさである。本発明で使用されるレンズは、検出剤から放出された光を集中させ、かつ集中させた光を、光を記録し得る携帯電話カメラに向ける。
図25Aは、電池室130も示している。電池空洞130は、上述した1つ以上のLEDライトに電力を供給することができる電池を収容できる大きさである。典型的には、電池空洞は、フィルタおよびレンズとは反対側のチップスロットの側にある。バッテリは、検出器の蓋に取り付けられてもよく、または検出器と一体となった部分であってもよく、およびそのような実施形態では、電池空洞は蓋を収容するように働くことができる。本発明の検出器は、典型的には、光源に電力を供給するように光源に電気的に接続された電池を含む。
図25B、25C、および25Dは、本発明の検出器の上面斜視図、側面図および底面斜視図のCAD図をそれぞれ示す。
図25Eは、検出器の垂直軸を通る平面に沿った本発明の検出器の断面図を示す。
【0121】
本発明の検出器は、検出器を携帯電話に磁気的に取り付けるように設計された磁気部分を含むことができる。
【0122】
キット
本明細書における本発明の実施形態は、キットを含むことができる。
【0123】
キットは、本明細書の支持体、固体支持体、および医療機器を含むことができる。キットには、その中の材料をどのように使用するかに関する指示書、たとえば書面による指示書を含めることができる。材料は、たとえば、本明細書、または参考として組み込まれる任意の特許、特許出願公開公報、参考文献、または記事の、任意の物質、組成物、ポリヌクレオチド、溶液などであり得る。
【0124】
キットは、本明細書に記載されている装置、および任意で、バッファー、試薬、および本明細書に記載の方法を実施するための説明書などの追加の成分を含むことができる。バッファーおよび試薬の選択は、たとえば、アッセイの環境(ポイント‐オブ‐ケア、研究、臨床)、アッセイされる検体、使用される検出部分などの、特定の用途に依存する。たとえば、捕捉剤がポリヌクレオチドであり、かつ目的の検体が相補的なポリヌクレオチドである場合、サンプルからのポリヌクレオチドを結合できるようにするために、キットは生物学的流体のサンプルに添加される溶解バッファーを含み得る。
【0125】
キットはまた、本明細書に記載される方法および/または本明細書に記載の方法のための装置の使用に関する、記述的、教示的、商業的、または他の資料であり得る、情報資料を含み得る。実施形態では、情報資料は、装置の製造、装置の物理的特性、有効期限、バッチまたは製造現場情報などに関する情報を含むことができる。
【0126】
例示的なアッセイの設計
以下の段落においては、本開示の1つの非限定的な実施形態をより詳細に記載する。
【0127】
本開示は、目的の1つ以上のIDについて生物学的流体を試験することができる、小型化された多重化アッセイを可能にする使い捨てチップを提供する。本明細書に記載される実施形態のいくつかでは、アッセイは一工程で行うことができる。特定の実施形態において、アッセイは、前処理またはマイクロ流体の必要性なしに行うことができる。目的のバイオマーカーに結合する安定的な捕捉スポットに加えて、装置は、捕捉剤の横に第2の検出剤を印刷することを可能とする、不安定なマイクロスポットを包含することもできる。生物学的流体の液滴と接触すると、不安定なスポット内のこれらの二次試薬は、溶液中に溶解し、かつサンプル中に存在する標的を標識することができる。
【0128】
この技術の一実施形態では、本明細書において開発されたD4ポイント‐オブ‐ケア 試験(POCT)は、全血の一滴から作動する(
図2)。D4 POCTは、厚さ30nmの「非汚染性」―タンパク質および細胞抵抗性―ポリ(オリゴエチレングリコールメタクリレート)(POEGMA)ブラシ被覆ガラスチップ(
図2A)からなり、中央チャネル内に含有される、以下の2種類のインクジェット印刷されたマイクロスポットを含む:捕捉抗体の「安定的な」スポット、および血液との接触時にそれらが溶解するように賦形剤を用いて印刷された、検出抗体の「可溶性」スポット。毛細管作用を用いて指採血からチップの中央チャネル内に血液を引き込み(
図2B〜E)、および血液中のタンパク質検体が非汚染性POEGMAブラシを横切って拡散し、および捕捉抗体の安定したスポットに結合する(
図1参照)。
【0129】
同時に、血液は、可溶性マイクロスポットからの蛍光標識された検出抗体を溶解し、検出抗体は拡散し、かつそれぞれの検体捕捉抗体スポットに結合し、それにより検出複合体を完成させ、かつ捕捉抗体スポットから定量化可能な蛍光シグナルを生成する(
図1)。この光学的シグナルは、スマートフォンに磁気的に付着する小さな装置(
図2K)にチップを置くことによって、スマートフォンカメラで画像化される(
図2F〜I)。
図2Jは、全血の存在下で、チップの中央チャネル内に印刷された試験マイクロアレイから得られたスマートフォンカメラ画像である(全血をチャネルに添加した後に得られた画像)。裏側からの光照射および検出は、血液液滴を分析のために除去する必要がなく、またいかなる型の洗浄も分析に必要ないように、血液からの光学干渉を排除する(
図2K)。
【0130】
この技術の一実施形態では、本開示にかかるアッセイは、POEGMAによって被覆され、かつそれからPOEGMAのパターン化された領域を画定する疎水性インクで印刷された使い捨てチップを含む、上記使い捨てチップからなる、または本質的に上記使い捨てチップからなる。パターン領域は、個々の捕捉剤のスポットを含む。POEGMAブラシの親水性の性質は、POEGMA表面全体に一滴の血液を拡散させる一方、疎水性インクは、血液液滴を分析領域に閉じ込めることができる「囲い」を生成する。POEGMAのパターン化された領域はまた、蛍光標識された検出抗体および可溶性ポリエチレングリコールを含み得る「不安定なスポット」を含む。
【0131】
本明細書中に記載されているいくつかの実施形態では、捕捉スポット中の捕捉剤は、目的のIDの診断に役立つ抗原であってもよい。患者からの流体(たとえば、血液)のサンプルがチップに適用されると、サンプル中の患者によって生成された抗体が、抗原に結合することができる。そのような実施形態では、不安定なスポットは、固定化された、患者によって生成された抗体に結合することができる蛍光標識抗ヒト抗体を含むことができる。
【0132】
他の実施形態では、捕捉スポット中の捕捉剤は、目的のIDの診断に役立つ抗原に対する抗体であり得る。患者からの流体(たとえば、血液)のサンプルがチップに適用されるとき、サンプル中の患者によって生成された抗原が抗体に結合することができる。そのような実施形態では、不安定なスポットは、同じ抗原上の異なるエピトープに特異的であり、固定化された患者によって生成された抗原に結合することができる蛍光標識抗体を含むことができる。
【0133】
特定の実施形態において、捕捉剤として使用される抗原性タンパク質または抗体は、独立した複製物を提供し、かつそれによりアッセイのロバストネスを改善するために、各抗原の個々のスポットの列としてPOEGMA表面上にスポットされる。たとえば、様々な捕捉抗体密度のマイクロスポットを含むマイクロアレイは、既知の検出器のダイナミックレンジ内に、より広い範囲の検体濃度が入ることを可能にし、かつそれによって、通常は単一のサンプルを貫いている試験の希釈系列を排除することができる。低い濃度の検体は、高い捕捉抗体密度の領域において検出することができ、一方で高い検体濃度は、低い捕捉抗体密度の領域において検出することができる。
【0134】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、検出抗体スポットが血液サンプルとの接触時に確実に溶解するように、アレイの形式を定めることができる。たとえば、12個の別々の捕捉領域がスポットとして印刷され、3個の異なる捕捉剤のそれぞれについて4個のスポットを印刷する。Cy5標識抗ヒト抗体を包含する不安定領域を、捕捉スポットの周囲に印刷する。
【0135】
可溶性のPEGもまた、不安定なスポットに含めることができる。可溶性PEGは、POEGMAブラシに優先的に吸収され、かつ検出抗体のブラシへの吸着を妨害することができる。したがって、検出抗体は、ピエゾインクジェット印刷およびマイクロキャピラリ乾燥処理によってスポットに閉じ込められているが、水溶液に接触した際に容易に溶解して血液滴に放出することができるという点で、実際には「不安定」状態にある。過剰の可溶性PEGの添加はまた、保存の間、蛍光標識検出抗体を安定化させることができ、かつ試験血液液滴が導入されたときに検出抗体を再可溶化する助けとなる賦形剤として働くことができる。
【0136】
1滴の血液と接触すると、標識された検出抗体が溶液に溶解する。本明細書に記載の実施形態のいくつかでは、検出抗体は、血液サンプル中に存在するすべてのヒト抗体に結合でき、かつそれによって標識することができる、抗ヒト抗体であり得る。同時に、存在する場合、血液中に存在する検体(すなわち、抗原に対する患者によって生成された抗体)は、安定的に印刷された抗原スポットに結合することができる。他の実施形態においては、検出抗体は、目的の抗原のための特異的な抗体であり得る。血液サンプルと接触すると、抗原がサンプル中に存在する場合、検出抗体は抗原に結合することができ、抗原は今度は捕捉剤抗体に結合することができる。
【0137】
陽性対照として、ヒトIgGのスポットを抗原スポットの横に印刷することができる。これらは、抗ヒト検出抗体の活性を検証するのに役立ち、またアッセイ間の変動を減少させるために、アッセイにわたって蛍光強度を標準化するために使用することもできる。
【0138】
血液凝固を防止するために、酵素ヘパリンは、不安定なスポット中のPOEGMAブラシ上にも印刷することができる。ヘパリンは、印刷前にPEGと混合することができ、または単独で別の工程において印刷することができる。
【0139】
実施形態では、指採血を患者に対して執行することができ、かつ得られた血液の滴をチップ表面に適用する。チップの表面に印刷された疎水性インキによって、標的検出領域のみにわたって血液の液滴が広がり、検出領域内に印刷された、可溶性の検出剤およびヘパリン(血液の凝固を防止する)に溶解する。
【0140】
可溶化されると、蛍光標識された検出抗体は、血液液滴によって印刷されたスポットから溶解し、3つの連続した事象が起こり、陽性シグナルが生成される。これらの事象には、以下が含まれ得る:(1)に、血液中に存在する検体が、個々の捕捉剤の固定化され、かつ非蛍光のスポットに結合し、サンドイッチの前半を作り出す;(2)ポリマーブラシを横切って血液が拡散することによって、結果的に可溶性検出抗体がその印刷されたスポットから移動する;(3)捕捉剤と検体との複合体(サンドイッチの前半)に入るに際し、蛍光標識された検出抗体は、それらのそれぞれの検体‐捕捉剤スポットに結合し、サンドイッチを完成し、かつ結果的に、標識されていない薬剤が印刷されていた位置に蛍光スポットを形成する。
【0141】
この実施形態において、アッセイは、「不安定なスポット」として印刷された蛍光標識された検出抗体が、印刷され、かつ安定的に固定化された、捕捉剤の隣接する列へと、検体を含む溶液の拡散によって運ばれるという、サポートされたデータに基づく。したがって、異なる捕捉剤で印刷されたスポットからの蛍光の出現を視覚化することにより、異なる検体(陽性)の明白な同定がもたらされる。異なる検体の濃度の定量は、全血に対して添加された検体の希釈系列を使用して装置を予め較正することにより、従来の蛍光免疫アッセイと同じように実施する。
【0142】
本実施形態に係るアッセイは、POC試験における重要な需要のそれぞれに以下のように対処する:(1)小型化、多重化、一工程、オンサイトの処理によって、かつ指採血から得られた希釈していない全血中で前処理またはマイクロ流体を用いずに直接試験することによって、ID試験の費用を低減する;(2)IDスクリーニング処理を単純化するために、二次元における拡散によって、空間的に局所化した試薬を一か所に集めることによって、機能的アッセイを作成し、かつそれによって、液体移動工程、サンプルまたは試薬のマイクロ流体操作、および洗浄工程の必要性を排除する。(3)この多重化プラットフォームは、サンプルの前処理を行わずに一滴の血液で一団のIDマーカーをスクリーニングすることができる;(4)アッセイは速く、これはしばしばID検査の結果を伝えることに関連する困難を緩和する;および(5)開示された設計の実際の検出スキームは、現在実地で利用可能な最高の感度を提供する、サンドイッチ型蛍光免疫アッセイである。
【0143】
この規模のIDスクリーニングの改善は、全人口の健康に相当な影響を及ぼす可能性がある。感染症を制御するために、処理の一部は、空気、食物、水、または物理的接触を介して伝達される様々な病原体を同定するための定期的なスクリーニングであり、かつ提案したスクリーニングプラットフォームを開発することは、定期的な、および包括的なIDスクリーニングを、はるかに多くの人口の割合に、はるかに利用しやすくすると考えられる。最後に、高度に適応可能かつモジュール式の設計は、臨床試験におけるバイオマーカーのモニタリング、パンデミックスクリーニング、バイオディフェンス、および新たに発見されたバイオマーカーの大規模な検証を包含する、必要のある他の多くの地域のための診断としての開発のためにもまた有用である。
【実施例】
【0144】
以下の非限定的な実施例は、完全に例示的であり、および本開示に従って実施された特定の実験を示すことが意図されている。
【0145】
実施例
実施例1.POEGMAブラシを、ガラスおよびプラスチック上に伸長させることができる
【0146】
高い化学的安定性を有するポリ(オリゴエチレングリコールメタクリレート)(POEGMA)のタンパク質および細胞耐性コーティングを開発した。POEGMAブラシは、
図3に示すように、表面開始原子移動ラジカル重合(SI−ATRP)によってガラス上に合成される:まず、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)によって、ガラス表面にアミン末端シランの単分子層を形成し(工程1)、続いてAPTES単分子層によって提示されたアミン基に、ATRP開始剤―ブロモイソブチリルブロミド―を付着させ(工程2)、およびそれから、CuBr、ビピリジンおよびOEGMAモノマーを含有する溶液からATRPを付着させる(工程3)。この手順は、免疫アッセイのためにAbおよび他のタンパク質を印刷するために有用であり得る、厚さ約100nmのブラシの簡便な合成を可能にする。また、D4アッセイのための基板材料としても適している透明な熱可塑性プラスチックの範囲でPOEGMAブラシの伸長を可能にする、補完的な技術のセットも開発した(データは示していない)。これらの結果は、材料上にPOEGMAブラシを伸長させるために、多くの相補的アプローチが使用できることを示し、相補的アプローチによって臨床的な免疫アッセイのための有用な基板が提供される。これらのタンパク質耐性および細胞耐性のPOEGMAブラシは、チップへの細胞の結合およびタンパク質の表面への非特異的吸着を防止するので、D4 POCTの基礎を形成することができる。
【0147】
ガラススライドの例示的なコーティング。スライドガラスを5%(v/v)APTESを含むエタノールで室温で一晩処理する。次いで、これらのスライドを、2%トリエチルアミン(v/v)を含むジクロロメタン中の2%ブロモイソブチリルブロミド(BIB)で処理し、次いでN
2下で100mLフラスコに入れる。次に、CuBr(143mg、1.0mmol)、ビピリジン(312mg、2.0mmol)、ジクロロメタン(15mL)およびOEGMA(8g、16.7mmol)を50mLフラスコ中で混合し、および暗赤色溶液をN
2ガスで30分間通気した。混合物をスライドを含有するフラスコに添加することによって重合を開始し、および窒素置換下で1時間継続した。スライドを溶液から取り出すことで重合を停止し、ジクロロメタンおよびメタノールですすぎ、および室温において10分間N
2ガスを流しながら乾燥させた。
【0148】
実施例2.抗体は、ピエゾインクジェットプリンタによってPOEGMAブラシ上に直接印刷することができる。
【0149】
PerkinElmer Piezorray(商標)非接触プリンタを用いて、室温および室内湿度で厚さ〜100nmのPOEGMAブラシ上に、〜150μmの直径のスポットとして捕捉抗体(Abc)を印刷し(
図4A)、かつ厚さ100nmのポリマーの中へ非共有結合的に吸収できるようにした。水和状態においてはタンパク質吸着に対して優れた耐性を提供するが、乾燥状態においてはインク貯蔵器として働くことから、厚さ約100nmのPOEGMAブラシを選択した:圧電的に印刷された抗体「インク」はブラシに熱心に吸着され、それによって、マイクロプレートアッセイで使用するために、Abcの十分に高い充填密度がもたらされる。印刷後、スライドを真空デシケーター中で室温において一晩乾燥させて、Abcのポリマーブラシへの吸収をさらに促進した。この工程は、タンパク質が溶液からポリマーブラシに吸着しないので必要となり得る。POEGMA被覆ガラススライドは、ポリマーブラシ上に印刷された抗体アレイの性能に悪影響を及ぼさずに、密封容器に保管し、かつ最長2ヶ月間卓上に放置することができた。インクジェットプリンタは低費用で、かつ至るところにあるため、共有結合的なカップリング工程を用いない直接インクジェット印刷は、最小の処理工程で抗体アレイを製造する単純な方法を提供することができる。これにより、LMIC環境に容易に配備できる、D4チップのための単純で大きさの変更が可能な製造技術を提供することができる。
【0150】
抗体マイクロアレイの例示的なスポッティング:
以下の検体のための全ての捕捉抗体およびビオチン化検出抗体は、R&D Systemsから得た:IL−6、ヒトインターロイキン−1b(IL−1b)、ヒト腫瘍壊死因子(TNF−α)、ヒトインターロイキン−8(IL−8)、およびOPG。室温および室内湿度で、非接触式PerkinElmer Piezorrayを用いて、ガラス上のPOEGMAブラシ上に全ての捕捉抗体(PBS中5mg/mL)をスポットし、および室温で一晩、真空乾燥(30KPa)下で、厚さ100nmのポリマーブラシに非共有結合的に吸収させた。
【0151】
実施例3. POEGMAブラシ上の抗体アレイは高感度である。
【0152】
IL−1β、IL−6、IL−8、TNF−αおよびオステオプロテゲリン(OPG)に特異的な抗体アレイを、Piezorrayインクジェットプリンタによって、(1)ガラス上のSI−ATRPによって伸長された厚さ100nmのPOEGMAブラシ、および(2)未修飾ニトロセルロース基板(陽性対照)上に、直接印刷した。
図4Aに示した、ガラス上のPOEGMA上にスポットされたIL−6アッセイのマイクロアレイスポットの蛍光画像は、検体濃度の増加に伴う蛍光強度の増加を示す。注目すべきことに、スポットは、0.1pg/mL(5fM)のIL−6濃度においてさえ、バックグラウンドから視覚的に識別することができた。
図4Aはまた、手順が完了した際に、アッセイ前に測定されたスポットを囲むバックグラウンド領域の蛍光強度が増加しなかったことから、POEGMAマトリックスがアレイ製造およびその後のサンドイッチ免疫蛍光アッセイを通して、非特異的なタンパク質吸着に抵抗する能力を保持していることを示す;実際、POEGMA基板上で検出された唯一のバックグラウンド蛍光は、ガラススライドの自己蛍光によるものであった。POEGMA上のこの非常に低いバックグラウンドシグナルは、試験された5人の検体すべてについて、血清中のフェムトモル濃度の検出限界(LOD)、および5桁の大きさの検体濃度に及ぶダイナミックレンジ(
図4B〜D)へと変換される。
【0153】
POEGMA上にスポットされたOPG特異的抗体についてのバッファーおよび血清中のOPG用量反応曲線(
図4B)は、LODがバッファーおよび血清中で事実上同一であることを示すため、タンパク質耐性基板の使用の別の重要な結果を示す。これらの結果は、バッファー内における同じアッセイのLODと比較して、高濃度の外来タンパク質を含む複雑な生理学的溶液中では、典型的にはLODが桁違いにより大きいという、大部分の他の蛍光免疫アッセイとは対照的である。POEGMA上にスポットされたアレイからの絶対シグナルは、ニトロセルロース上にスポットされたアレイから得られたシグナルよりも低かったが(生データは示していない)、POEGMAブラシから得られたバックグラウンドシグナル(ガラス基板の自己蛍光レベルに近づいた)は、ニトロセルロースのものより著しく低かった。ニトロセルロースおよびPOEGMA上にスポットされたIL−6特異的抗体アレイの蛍光応答を、血清中のIL−6濃度の関数として
図4Cに示す。POEGMAブラシ上にスポットされたアレイの血清中のLODは、ニトロセルロース上の同じ抗体マイクロアレイよりも100倍低かった。このことは、ニトロセルロースに比べて、POEGMAブラシ上にスポットされた抗体アレイからの絶対シグナルがより低いにもかかわらず、POEGMAブラシ上のバックグラウンド蛍光がより低いことにより、スポットからのより低い絶対シグナルを補ってあまりあることを実証した。ガラス上のPOEGMAブラシ上にスポットされたIL−6に対する抗体は、〜約15fMのLODで、希釈されていない血液から、IL−6を直接検出できることが観察された(
図4D)。
【0154】
これらの結果は、非特異的なタンパク質吸着を減少させることが、これらのアッセイの用量応答曲線におけるノイズの閾値を、フェムトモルの範囲の濃度へと低下させることによって、LODを減少させる強力な方法であることを実証する。これらのマイクロアレイはPOEGMA上に物理的にスポットされ、かつ基板に対する捕捉抗体のいかなる共有結合的カップリングも伴わなかったので、それらは表面の化学的活性化および不活性化の必要性を排除することにより、アッセイの製造を大幅に単純化する可能性を有する。これらのマイクロアレイが溶液からのタンパク質および細胞の吸着に抵抗できることにより、全血から直接検体を検出することが可能となる。これらの特徴は、高感度で血液中において作用するD4 POCTの設計にとって極めて重要である。
【0155】
実施例4.水と接触して溶解し、かつ「オンチップ」のサンドイッチ検出に必要な二次試薬を提供する、検出試薬の可溶性マイクロスポットを印刷することができる。
【0156】
蛍光標識された検出抗体の不安定なマイクロスポットは、十分な可溶性の賦形剤と混合された場合、同じ表面上に印刷することができる。一滴の血液との接触に際して、これらの二次試薬スポットは、溶液に溶解し、かつ血液サンプル中に存在する標的を標識する。同時に、サンプル内に含有された標識された標的は、固定化された、不安定な捕捉スポットに結合する。このアプローチの実現可能性を説明するための原理証明の初期の実験として、ビオチン化Abの5つのスポットをPOEGMA表面上に印刷して、捕捉剤の「安定的な」固定化したスポットを形成した(
図5);蛍光性ではないため、
図5の左のパネルの上部では、安定的なスポットが見られない。さらに、ストレプトアビジン−Cy5および可溶性PEGの溶液を、事前に印刷した可溶性PEGのスポットの上にスポットして、検出試薬の「不安定な」スポットの8×2アレイを作製した(
図5の下段、左パネル)。1週間の保存後、指採血から得られた容積と同様の容積である、50μLのPBSを、ピペットを用いて表面に供給した。
図5(右のパネル)に見られるように、不安定なスポットからのCy5−ストレプトアビジンは溶液に溶解し、かつ5つのビオチン化Abスポットによって捕捉されて、検出可能なシグナルを生成した(
図5の右パネルの一番上の列)。
【0157】
「不安定な」マイクロスポットの開発は、D4 POCTの設計における重要な開発であり得る。なぜなら、それによってこのアッセイは、流体サンプルを扱う工程を排除する、オンチップの第2の試薬を含有することができるからである。したがって、この特徴は、その先駆であるFemtoarray(商標)で必要とされた、多数の洗浄および液体移動工程を排除することによって、サンドイッチアッセイ処理を大幅に単純化する。
【0158】
実施例5.血液中のD4 POCTの概念証明
【0159】
血液中のD4 POCTの概念証明を、ヒトIgGおよびIgMの検出において示した;健康なドナーの血液をこの目的のために用いることができることから、これらの検体が選択された。
図6は、プロトタイプアッセイの製造を示す。はじめに、厚さ〜30nmのPOEGMAブラシを、SI−ATRPによりガラススライド上で伸長させた。次いで、サンプルをチップの活性領域に閉じ込めるために、スライドインプリンタを使用してガラススライドにワックスを格子状にスタンプした(
図6A)。スライドインプリンタは、囲いの完全な格子を生成するが、我々にとって利用可能でかつ簡便であることから、スライドインプリンタを、疎水性の囲いを作製するために使用した。次に、抗体アレイを単一のワックスの囲いの中央にインクジェット印刷した;各スポットは〜150μmの直径である。内側の4×4アレイは、「安定的な」捕捉スポットを含む捕捉抗体(Abc)のスポットを含む―第1列および第4列は抗ネズミAbc(陽性対照)であり;行2:抗ヒトIgG Abc;行3:抗ヒトIgM Abc。次に、検出カクテルを「不安定な」スポットの3つの外側リングとして印刷した(
図6B)。これらのスポットは、マウスCy5抗ヒトIgGおよび/またはネズミCy5抗ヒトIgM(ヒトIgGおよびIgMに対するAbcとは異なるエピトープを有する検出抗体)、ヘパリン、および10倍モル過剰のPEG5000を含有する。
図6Aの画像をデジタルカメラで取得し、一方で
図6Bを蛍光マイクロアレイスライドスキャナで取得した。したがって、内側の4×4抗体アレイは、内在的な蛍光を有さず、および印刷されたAbc溶液が表面上で乾燥した後に形成される塩析出物の光散乱のために、
図6Bではほとんど見えない。外側スポットは、それらが検出器を飽和させ、したがって白色に見えるほど十分に高い濃度でCy5標識Abdを含有するために可視である。
【0160】
図7は、D4アッセイの初期プロトタイプの写真を示す。指採血からの一滴の血液(〜5−10μL)(
図7A)をマイクロアレイに直接適用し、かつ疎水性の囲いに入れる(
図7B)。5分後、表面をスクイズボトルからの〜1mlですすぎ、緩く結合した血液細胞およびタンパク質を置換する。興味深いことに、縁の周囲の赤色から見てとれるように(
図7C)、血液は縁に向かって流れ、かつ疎水性の囲いに結合するが、非汚染性POEGMA表面から完全に除去される。
【0161】
図8は、D4 POCTの出力を示す。
図8Bにおいて、ヒトIgGおよびIgMのAbdは不安定な検出スポットとして(PEG+ヘパリンを伴って)共に印刷されているので、血液中でのインキュベーションの際に完全なサンドイッチが作製され、列2および3の両方に現れる蛍光スポットをもたらす。
図8B〜Fの赤い縁は、単に、すすぎ工程によってPOEGMAブラシから置換された後の、疎水性の囲いに結合した血液(および過剰のAbd)からの拡散による。全血では、IgGの濃度は概略で5mg/mL(33μM)であり、かつIgMの濃度は1.5mg/mL(1.6μM)であり、初期の実験においてさえも、このレベルの原液からのタンパク質検体を容易に検出できることが示唆される。
図8Eおよび8Fは、陰性対照実験を示し、チップをニワトリ血液(E)またはPBS(F)のいずれか一方とともにインキュベートした。そのため、陽性対照の列1および4のみがシグナルを生成し、一方で行2および3は蛍光を示さない。
図8Cおよび
図8Dは、他の2つの対照である;
図8Cでは、Cy5抗IgMb Abdのみが不安定なスポットに印刷されたので、2列目は点灯するが3列目は点灯せず、これに対しパネル4Dでは、Cy5抗IgM Abdのみが不安定なスポットに印刷されたので、行3は点灯し、行2は点灯しない。Cy5−Abdは、不安定なスポットの外周に高濃度で印刷されており、および血液との接触に際して部分的にしか溶解せず、これによってその残留蛍光が依然として検出器を飽和させることに留意されたい。
【0162】
IgGおよびIgMは血液中でマイクロモル濃度を有するため、次にヒトPSAおよびIL−6に対する多重化アッセイによるアッセイの感度を試験した。
図9の用量反応曲線は、ヒトIL−6および/またはPSAを添加したニワトリの全血を分析することによって得られた―10マイクロリットルの各濃度の血液をチップに添加し、および20分間インキュベートし、続いて1mLによってすすいだ。この多重化D4 POCTの検出限界(空白+3SD)は、PSAについては15pg/mLであり、かつIL−6については2pg/mLである。対照的に、これらの同じ抗体対を用いた最適化されたELISAでは、100μLの血清を必要とし、かつ完了するまでに5時間を要し、PSAについては30pg/mL、およびIL−6については0.7pg/mLの検出限界を生ずる。追加のインキュベーション時間が20分続くと、IL−6アッセイのLODが改善され、4時間のインキュベーションで0.3pg/mLを検出することができる。
【0163】
これらの予備的結果は、D4 POCTが、多重化され、20分で全血のたった10μLからELISA様またはより高い感受性を提供する力を有することを示している。
【0164】
実施例6.POEGMA上の抗体アレイは非常にロバストである。
【0165】
POEGMA上に印刷されたマイクロアレイの保存安定性を調べるために、室温で1日および23日保存した後に、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を検出するためのD4 POCTの用量応答を測定した(
図10)。用量応答曲線は、8pg/mlのLODをもたらした。重要なことに、3週間周囲保存した後のアッセイにおいて、LODまたはダイナミックレンジには差がなかった。これらの結果はまた、PEGが周囲条件下でタンパク質を安定化させることができるという、他の研究者の以前の観察と一致している。周囲条件下での長い保存寿命は、ポイント‐オブ‐ケア装置にとって重要な属性である―これらの印刷された診断装置は、4℃でバッファー内に保存する必要はないため、室温での輸送、保管、および使用が可能である。
【0166】
実施例7.D4 POCTの最適化
【0167】
第2世代のD4チップは、第1世代のチップと同様に、中央領域に、検出試薬の不安定なスポットに取り囲まれた捕捉スポットが印刷されたカバースリップからなる。接着剤を塗布し、および第2のカバースリップを用いて捕捉抗体および検出抗体の印刷されたスポットを覆い、その結果そのときスポットは両端に露出した中央チャネル内に含有され、D4アッセイの分析コアはチャネルの中央に含有される(
図11A)。チャネルの幅は、接着剤で覆われたチップの領域およびチャネルの高さを制御する接着剤の量によって制御することができる。これにより、指採血から得られる量と一致して、5〜50μLの範囲の血液の容積を有するチャネルを作製することができる。チャネルの寸法は、一滴の血液がチャネルの2つの端部のうちの一方の端部に保持される場合、毛細管作用によってチャネルに運ばれるように十分な毛細管力も提供するように、注意深く選択した(
図11B〜C)。さらに、血液の界面張力はまたチップ内に血液を含有させた状態を保持する(
図11D)。この自己充填および自己密閉設計により、血液はチップ内部に完全に含有される。
【0168】
実施例8.視覚的バックアップを有する細胞適合性の光検出器の設計
【0169】
光検出器は、以下の要件を考慮して設計された:
(1)検出器は、使用者のポケット内で容易に持ち運ぶことができるように、小型かつ軽量でなければならず、それによって患者を検出器から解放する。これは、現在のPOCT(たとえば、iSTATおよびBiosite)の設計が、顕著に大きく、患者よりも介護者により適していることとは全く対照的である。
(2)光検出器は、幅広く入手可能かつ低費用の製造技術を使用して、低費用かつ大容量での製造が容易でなければならない
(3)検出器はスマートフォンの範囲に適合している必要がある。
(4)光学系は、いかなる整列または調整も必要としない。
(5)検出器は、血液の存在下で蛍光シグナルを定量化することができる。
(6)スマートフォンが利用できない場合、定性的な結果を読み出すことを可能とするために、検出器は視覚的なバックアップを持っている。
【0170】
検出器の設計を
図12に示す。検出器のケーシングは、2つの別個の部品:すなわち蓋および本体として、ABS熱可塑性プラスチックのStratasys 3−Dプリンタを用いて製作した。蓋は、電池のための挿入口を含み、および蓋は、検出器の本体にねじ込まれることを可能にするためのねじ山を有する。本体には、LEDを挿入して、かつ45度の角度で照明することができる4つの空洞があり、かつバンドパスフィルタを挿入することができるフレームがある。検出器の組み立ては単純である:2枚の印刷された部品を製作した後、バンドパスフィルタをホルダに挿入し、かつ4本のLEDを事前に製作した穴に挿入し、かつ検出器にねじ止めしたときに蓋に触れるように配線する。10×倍率レンズを追加し、電池を蓋に挿入し、かつ蓋を検出器の本体にねじ込んだ後、組み立ては完了する。最後に、同心の磁気リングを検出器のレンズの縁に接着する。
【0171】
検出器の使用も同様に単純である。蓋をゆるめて、スロットをあらわにして血液を充填したチップを置き、その結果、印刷された抗体を含むカバースリップが底部にくる(蓋から離れている)。チップをこの構成に配置すると、D4アレイ内の蛍光スポットがLEDによって下方から照射される。放射された蛍光のみが、チップと検出器のレンズとの間に配置されたバンドパスフィルタを通過する。スポットはレンズによって10倍に拡大され、かつアレイの画像はスマートフォンカメラによってデジタル方式で獲得される。検出器およびスマートフォンの光学系には、磁気的自己整列が組み込まれている:同心の磁気リングが、検出器のレンズ上と、スマートフォンのレンズの周囲との両方に接着されており、これにより2つの装置の光学系が磁気的に整列される。
【0172】
実施例9.癌の検出および診断
【0173】
POC環境における癌検出のための複数の検体を試験するための主な障壁は以下の通りである:(1)費用;(2)応答時間;ならびに(3)採血および検体の取り扱い。D4 POCTの設計は、D4 POCTの中核をなす一連の可能な技術を用いて、以下のようにこれらの問題に対処している:第1に、小型化、多重化、および前処理またはマイクロ流体なしで指採血(たとえば、〜10μL)から得られた希釈されていない全血で試験を直接行うことにより、試験費用および応答時間を低減する。アッセイの小型化は試薬の消費(かつ、それゆえ費用)を減少させ、拡散距離(かつ、それゆえ時間)を最小限に抑え、多重化(複数の検体を同時に試験する)は費用および時間の両方を節約する。単一の統合されたアッセイにおいて全血から直接的に試験することにより、サンプルの一工程、オンサイト処理が可能になる。第2に、単純かつ自己完結型のPOCアッセイを作製するために、オンチップ拡散を利用して空間的に分離した試薬を一か所に集めることで機能アッセイを作製し、かつそれによって液体移動工程およびサンプルまたは試薬のマイクロ流体操作の必要性を排除した。第3に、アッセイは、統合され、かつ小型化され、多重化された形式で、かつ洗浄工程を伴わずに全血で直接的に実施されるため、アッセイは速く、見積もられた読出し時間は、たとえば20分より短い。第4に、この多重化されたプラットフォームにおいては、サンプルの前処理を行わずに、一滴の血液で一団のバイオマーカーを定量することが可能である。対照的に、最新のPOC診断のほとんどは、単一の検体アッセイである。第5に、D4アッセイは、抗体対が利用可能な任意のタンパク質マイクロアレイに使用することができ、およびしたがって、すべての異種免疫アッセイに広く適用することができる。
【0174】
実施例10.D4チップの次世代の設計
【0175】
その分析的ロバストネスおよび性能を向上させ得る、現在のD4チップに対する例示的な修正を、以下の段落で説明する。
【0176】
自己較正特性を有するD4チップを設計し、検証した。したがって、検体の希釈系列を、陽性対照捕捉スポットの列として、チップ上に印刷する。陽性対照のスポット強度は、各チップの内部較正として作用する用量応答曲線を提供する。これらの対照スポットでのシグナル生成は、検出試薬の活性および拡散を検証することによって、アッセイが実行可能であることを意味する。さらに、これらの対照スポット内の標的の濃度を変化させることによって、すべてのスポットにわたるシグナル勾配ができるので、これを蛍光強度を標準化し、かつアッセイ間の変動を減少させるために使用し得る。この対照勾配はまた、捕捉抗体スポットで生成されたシグナルと比較することができ、これは標的の量の定量化を助け、かつチップに添加された血液の容積、血液粘度、インキュベーション温度および測定時間などのサンプリング変数を減少させる、本質的には、陽性対照スポットのスポット強度勾配は、用量応答曲線と同様に、参照シグナルを提供し、各チップの内部較正として働く。
【0177】
標的の検出のためのマイクロアレイは、
図13に示すようにチップの中央チャネル内に印刷される。AFPはサンプル標的として使用される。このマイクロアレイは、抗AFP捕捉抗体の「安定的な」マイクロスポット、および標識された抗AFP検出抗体の「不安定な」マイクロスポットを含む。さらに、AFPの「安定的な」マイクロスポットは、陽性対照および較正標準として働く。
【0178】
印刷された検出抗体(Abd)の不安定なスポットが血液との接触に際して確実に溶解するように、可溶性PEGを印刷溶液に添加する。可溶性PEGはPOEGMAブラシに優先的に吸着し、かつAbdの吸着および固定化を妨害する。単にインクジェット印刷およびマイクロキャピラリの乾燥工程により、スポットに閉じ込められているものの、これらのAbdは、「不安定な」状態のままであり、および予備的な研究に示すように、水溶液と接触した際に、容易に溶解し、かつ放出される。過剰の可溶性PEGをAbdへ添加することは、保存の間、検出試薬を安定化させるため、極めて重要であり、かつ重要なことに、過剰の可溶性PEGは、試験血液液滴が導入された場合にAbdを再可溶化する助けとなる賦形剤として働く。一滴の血液と接触すると、これらの標識された抗体は溶液に溶解し、かつ血液サンプル中に存在するすべての標的に結合し、それによって標的を標識する。
【0179】
陽性対照として、AFPのスポットを捕捉抗体スポットの横に印刷する。これらは検出試薬の活性および拡散を検証する役割を果たし、かつこれらの対照スポットにおけるシグナル生成は、アッセイが実行可能であることを意味する。さらに、これらの対照スポット内のAFPの濃度を変化させることにより、スポットにわたるシグナル勾配ができるので、これを蛍光強度を標準化し、かつアッセイ間の変動を減少させるために使用し得る。この対照勾配はまた、実験的なAFP捕捉スポットで生成されたシグナルと比較することができ、これは実験的なAFP量の定量化を助け、かつチップに加えられた血液の容積、血液粘度、インキュベーション温度および測定時間などのサンプリング変数を減少させることを助ける。
【0180】
血液凝固を防止するために、不安定なヘパリンスポットもまた印刷する。本研究は、ヘパリン、PEG、およびAbd濃縮物、ならびにPEG分子量が、不安定なスポットの溶解、Abd活性の維持、およびスポットされたへパリンの凝固阻止能力に及ぼす効果を調べる。様々な濃度の検出スポット成分を有するアレイを
図13に示すようにスポットし、かつ周囲の実験室条件下で、1日、1週間、および1ヶ月間保存する。保存から取り出した後、10μLの血液を各チップに加え、かつ凝固が生じるまでインキュベートする。検出スポットの残留蛍光を用いて、これらのスポットの溶解性に対する添加剤の影響を定量化し、同時にAFPの陽性対照スポットの蛍光を用いてAbd活性の維持を決定する。検出器のダイナミックレンジに完全におよぶために必要な最適な濃度勾配を決定し、かつ血液中のAFP濃度の生理学的範囲を取り囲むために、陽性対照スポット内のAFPの濃度を体系的に変化させる。中央チャネル内において血液が凝固するために必要な時間は、へパリンの効果を決定するために用いられ、および経時的研究は、これらのチップの保存寿命の指標を提供する。
【0181】
PEG添加剤の濃度および分子量を含む、可溶性スポットを印刷するための最終的な処方の例は、10,000MWのPEGの1%溶液中での印刷であり得る。印刷されたヘパリンの量の決定は、チャネル内での血液サンプルの凝固を防止するために必要であり、一例においては、血液凝固を防止するために、各チップ上に1ngのへパリンが印刷されることが必要である。アッセイ較正に有用なシグナル勾配を生成するための、陽性対照スポットにおけるAFPの必要濃度は、一例においては、以下の濃度のAFPから印刷されたスポットである:1μg/mL、10ng/mL、100pg/mLおよび1pg/mL。
【0182】
実施例11.全血でAFPを直接検出することができるD4アッセイの開発。さらなる例示的な修飾は、「不安定なスポット」として印刷された検出試薬の概念を組み込む、AFPの定量POCアッセイの開発につながる。このアッセイの性能指数(FOM)は、以下のさらなる実施例で記載する、アッセイ形式の変更のベンチマークとして使用される。
【0183】
定量的D4アッセイ:実施例11に記載された実験によって決定されるような検出剤の印刷条件は、(
図13に示すように)AFPを検出するためにアレイを印刷するために使用される。0g/mlから1μg/mlまでの濃度をカバーする用量反応曲線を、AFP添加バッファーを使用して生成し、次に、検体を添加したAFP陰性ニワトリ血液(いかなるAFPも含まず、しかしながら、全血を使用することの複雑性を依然として正確に反映することから、選ばれた)を用いた用量反応曲線を生成する。20の別個の用量反応希釈物からの用量反応データは、5パラメータロジスティック(5−PL)曲線に適合する。パラメータ推定は、MATLABを用いた大規模な信頼領域反映ニュートンアルゴリズムによって実施する。アッセイは、そのブランク上限(LOB)、検出限界(LOD)、線形較正範囲(LCR)、定量化の上限および下限(LOQ)、および変動係数(COV)という観点から評価する。LOBを決定するために、20のゼロ標準の複製物を使用する。LOBは、平均ブランク+1.645(SDブランク)に等しい。LODは、測定されたLOBと、LOBに近いシグナルを生成することが知られている低検体濃度の20回の試験複製物とに基づいており、およびLOB+1.645(SD低濃度サンプル)として計算される。LCRは、5−PLとの適合度から決定され、および、勾配が線形のままであり、かつ線の相関係数が0.995以上である較正曲線の領域として定義される。この直線領域の上側の境界、および下側の境界は、LOQの上限および下限を定義する。COVは、各濃度について決定されたCOVを用いて、20の別個のアッセイにおいて既知の濃度の3つのサンプル(LCR内の、低い、中程度、および高い値を表す)を試験することによって、決定される。
【0184】
市販の試験に対するベンチマーキング:AFP用の市販のELISAキットを用いて、最終的なアッセイの有用性をベンチマークする。商業的ELISAおよびD4 POCT結果との間の性能指数を直接比較するために、サンプルを並行して分析する。これは、LOD、LOQ、DR、COV、ならびにアッセイ間およびアッセイ内の精度を提供する検証済みの用量反応曲線を有する、全血からAFPを検出するための定量的D4アッセイの開発につながる。D4 POCTのFOMは、市販のELISAキットと同様であるか、またはそれより優れている。
【0185】
AFPの例示的な定量的D4アッセイは、20分でELISAのような、またはそれ以上の感度を提供することができ、かつ5pg/mLのLODを有し、かつ臨床ELISAと同等な他のFOMを有する。
【0186】
実施例12.感度を最大化するためのチップの設計
【0187】
最大化された感度を有するチップを、すべての抗原が捕捉スポットによって確実に捕捉されるように、捕捉スポットを血液流入点の近くに置き、一方で不安定なスポットを下流とすることによって設計した。この設計のFOMを、実施例12で評価した前世代のD4チップと比較する。
【0188】
従来のラテラルフロー免疫アッセイ(LFA)では、捕捉抗体の試験系に達する前に、検体溶液が可溶性検出試薬を溶解する。このことは、LFAのフローストリームが一方向のみであるために必要となり、およびしたがって、捕捉抗体に到達する前に、検出試薬を検体溶液に溶解することができる。この設計は、抗原捕捉抗体の結合に先立って、検出抗体が抗原に結合することを可能にし、およびしたがって、抗原検出抗体結合が、抗原捕捉抗体の結合を妨害する可能性が存在する。注意深くマッチングしたモノクローナル抗体の対を使用すると、この問題は最小限に抑えられるが、費用が大幅に増加し得る。
【0189】
提案された形式は拡散に基づく設計であるため、検出抗体を上流に配置することを必要としない。いかなる理論にも束縛されるものではないが、捕捉スポットが検体溶液に曝露された後に起こる拡散によって、検出抗体が捕捉スポットに到達するのみであるので、もし検体溶液が検出スポットに先立って捕捉スポットに到達すると、チップの感度が上昇し、および検出抗体からのいかなる干渉なく、抗原がはじめに捕捉スポットに結合することが可能になると考えられる。この配置の一例は、
図14に示されており、チップの中央チャネル内において2つの別個のアレイの位置を交替することを含む:1)抗標的捕捉スポット(黄色)および標的較正スポット(青色)から構成されるアレイ、ならびに、2)可溶性の抗標的検出スポット(赤色)のアレイ。
【0190】
これらの研究は、血液が捕捉スポットおよび検出スポットに接触する順序がアッセイ感度にどのように影響を及ぼすかを決定することにつながる。たとえば、検出スポットの上流に捕捉スポットを配置すると、アッセイ感度が5pg/mLから0.5pg/mLへとアッセイ感度が改善する。
【0191】
実施例13.D4アッセイにおける拡散距離の影響
【0192】
D4アッセイにおける拡散距離のさらなる試験を行う。
図15に示されるようなアッセイ形式を構成し、各捕捉スポットは、近接する複数の可溶性の検出試薬スポットによって取り囲まれる。いかなる理論にも束縛されるものではないが、アッセイ反応時間は、近位に位置する複数の可溶性検出試薬スポットによって減少すると考えられ、かつこの幾何学的形状により、各捕捉スポットの周囲に溶解した検出試薬をより高い局所濃度とすることができ、かつそれによって、チップ上に印刷することのできる検出試薬の量を低減する。
【0193】
この幾何学的形状により、より短い拡散距離がもたらされ、およびしたがって、標識された検出抗体の同心円環によって捕捉スポットが取り囲まれている、予備的な研究において用いた標準的な幾何学的形状よりも、捕捉した抗原をより速く標識できる可能性がある。
図15のアレイをさらに用量範囲の抗原に曝露し、かつアッセイFOMを実施例12に記載したように決定し、かつ予備的な研究において示した標準D4アッセイと比較する。FOMが標準的なD4アッセイと同等またはそれより良好であると仮定して、アッセイの経時的ビデオを、標準的なD4アッセイの性能測定基準を依然として保持しながらアッセイを短縮することができる程度を評価するために用いた。
【0194】
アッセイを短縮することは有利であるが、この幾何学的形状がチップ上に印刷された検出抗体の量を減少させることによって、アッセイの費用をどのように低下させる可能性があるのかを決定することもまた有用である。この場合、各捕捉スポットの周囲の検出抗体の局所濃度は、検出スポットの溶解中に高くなければならない。いかなる理論に束縛されるものではないが、スポットが近接していることによる、このより高い局所濃度によって、印刷された検出抗体の量を減少させて、各捕捉スポットの周囲に、第1世代のD4形式で印刷されたより多くの量の検出抗体で達成されるのと同じ局所濃度を生み出すことができる。各検出スポットに印刷された検出試薬の量を体系的に減少させることにより、標準的なD4アッセイと同等のFOMをもたらすために必要な検出試薬の最小量を決定する。
【0195】
上述した可能性のある利点に加えて、この幾何学的形状は、各捕捉スポットが最も近い検出スポットから同じ距離に位置するので、検出スポット溶解中に、各捕捉スポットを検出抗体により均一に曝露することをもたらす。アッセイ時間、検出抗体の要件、および/またはアッセイの変動性の有用な低下が観察された場合、この幾何学的形状を、以下の実施例15に記載される最終設計に組み込む。
【0196】
これらの例示的な研究は、拡散距離がアッセイ時間およびチップ上に印刷された検出抗体の量にどのように影響を及ぼすかを決定することにつながる。たとえば、提案された幾何学的形状によって、5pg/mLの感度を達成するために必要な時間を、20分から15分まで低減し得る。他の例においては、幾何学的形状によって、チップ上に印刷された検出抗体の合計を、200ピコグラムから50ピコグラムまで低減させることが可能である。
【0197】
実施例14.チップ設計の統合
【0198】
実施例11〜14で検討した、すべての特徴および潜在的な印刷の幾何学的形状を、考慮に入れ、かつ単一のアッセイ形式に組み合わせ、および最終的な、最適化されたチップを、検体を添加したニワトリの血液を使用してそのFOMについて検査する。ブランク上限(LOB)、検出限界(LOD)、線形較正範囲(LCR)、定量化の上限および下限(LOQ)、および変動係数(COV)を、実施例12に記載したように決定し、およびAFP用の市販のプレートベースのELISA試験キットの結果と比較した。
【0199】
本明細書に記載のAFP検出の例示的なD4アッセイは、ELISAのような、またはそれ以上の感度を依然として維持しつつ、改善された感度、短縮されたアッセイ時間、または減少した検出抗体要件を有する。
【0200】
実施例15.AFP−L3アッセイの開発
【0201】
実施例10〜14のAFPアッセイ開発中に同定された設計的特徴を用いて、AFP−L3アイソフォーム用の同等のD4アッセイを製造する。アッセイFOMを実施例12に記載のように決定し、かつ市販のプレートベースのELISA試験キットとの並列比較を用いて、AFP−L3アッセイをベンチマークする。
【0202】
本明細書に記載のAFP−L3検出の例示的なD4アッセイは、20分でELISAのような、またはそれ以上の感度を提供することができる。たとえば、アッセイは、5μg/mLのLODおよび臨床ELISAと同等な他のFOMを有する。
【0203】
実施例16.AFPおよびAFP−L3のための二重化D4アッセイ
【0204】
AFPおよびAFP−L3の両方を検出するように設計されたアレイを印刷するために、実施例10〜15に記載の実験によって決定された、最適化された印刷条件および幾何学的形状を使用する(この時点で新しい幾何学的形状が選択され得るが、
図16の二重化アレイは、元のD4アッセイ形式で表される。)。0g/mLから1μg/mLまでの濃度をカバーする用量反応曲線は、検体を添加したバッファー、続いて検体を添加した検体陰性ニワトリの血液を用いた用量応答曲線を用いて生成する。各検体を二重化アレイで個別に試験し、かつFOMを実施例15および実施例16で測定したものと比較する。多重化免疫アッセイでは、適合しない捕捉抗体および検出抗体またはそれらの標的の間の予期せぬ交差反応の可能性が存在する。単一マーカーを添付した血液へアレイを曝露することによって、任意の可能性のある交差反応性が明らかになり、かつ必要に応じてその後に抗体を選択するラウンドを使用する。アッセイは、実施例12に記載されるように、そのLOB、LOD、LCR、LOQおよびCOVという観点から評価する。
【0205】
本明細書に記載のAFPおよびAFP−L3の両方の検出のための例示的な二重化D4アッセイは、定量的であり、かつ実施例15および16で評価された単一の検体アッセイのFOMを維持する。
【0206】
実施例17.検出器設計の最適化
【0207】
費用、波長、分光幅、およびLEDの電力出力、ならびにLED照射の角度を含む、検出器のいくつかの側面を最適化する。いくつかの光学的フィルタの選択肢がまた存在し、かつこれらは、全体としての費用を可能な限り低くするという第一目標によって評価される。試験は、蛍光標識されたタンパク質の標準化されたアレイを含むD4チップを、各検出器の変形によって画像化することによって行い、および携帯電話のカメラに対して、十分に高いシグナル強度を送ることが可能な、もっとも費用の低い構成要素を選ぶ。
【0208】
本明細書に記載されている例示的な検出器は、依然として試験アレイの十分な画像化を提供する最も安価な構成要素から構成される。一例においては、検出器は総計10ドルの構成要素を含み、かつ試験アレイを画像化する場合に1,000カウント/ピクセル/秒の平均強度を生成する。
【0209】
実施例18.スポット強度を定量化するための携帯電話アプリケーションの作成
【0210】
画像解析には、以下の2つの選択肢が存在する:1)分析のために画像を中央サーバに送信する、および2)電話機上で分析を行う。電話機上で画像解析を実行する選択肢は、データシグナルをすぐに利用できないLMICアプリケーションに適している。たとえば、JavaCVの画像処理技術ライブラリは、本明細書の需要を満たすために、適応することができる。アプリ開発の間、実施例10〜17によって生成された画像を、市販のマイクロアレイスキャナとセットになって売られた画像分析ソフトウェアから以前に得られた結果と比較して、電話機上での分析をベンチマークするために使用する。
【0211】
本明細書に記載した例示的なアプリケーションは、それらの位置に基づいて試験スポットを識別でき、かつ平均ピクセル強度/スポット測定値を生成することができる、JavaCVに基づく画像分析ツールを含む。たとえば、アプリケーションはまた、オンチップでの較正標準に従って、参照用の用量反応曲線を参照することができ、かつ試験スポットの強度をオンチップでの較正標準に従って、測ることができる。
【0212】
実施例19.システム全体のベンチマーキング
【0213】
最適化された検出器およびアプリケーションの完成に際して、新しいFOMを生成し、かつ実施例16の二重鎖アッセイで得られたものと比較する。中央研究所で実施されたELISAと同等またはそれ以上の性能測定基準を有し、20分以内にスマートフォンでアッセイ結果を提供する統合POCTを開発する。
【0214】
例示的なシステムは、中央研究所で実施されるELISAと同等またはそれ以上の性能測定基準で20分以内にスマートフォンでアッセイ結果を提供する、統合POCTであり得る。
【0215】
実施例20.開発されたPOCTの臨床試験:模擬血液サンプルを用いた試験
【0216】
統合D4アッセイは、0g/mlから1μg/mlの範囲の検体添加ニワトリの血液において4logスケールまたは濃度にわたって実施されるアッセイによって最適化される。以下に記載する研究は、臨床技術者によって実施され、かつD4 POCTの開発者によって実施されない。実施例1〜20に記載の実験は、D4アッセイの開発に深く関与する職員によって実施されるため、これは重要な差異である。アッセイは最終的には、アッセイ形式に以前にさらされたことのない職員―典型的には、LMIC環境における臨床技術者、および潜在的にはユーザによってさえも―によって実施されるため、研究室から実地での使用への移行において、アッセイを、アッセイ開発に密接に関わっていない個人へと譲り渡すために、研究室において決定されたFOMが、LMICサイトに近い環境に適合することを検証することが重要である。
【0217】
表1は、各種類の検証基準をまとめたものである。D4アッセイの結果が基本的に定量的(蛍光強度のデジタル読み出し)であるため、統計的推測を通知するために、これらの結果に対して精度を評価する。すべての試験ポイントは、特に明記されていない限り、3重に実行する。アッセイ精度を最初に評価する(表1)。標的実施パラメータを95%の信頼度で分析できることを確実にするという最終目標のために、観察された精度に基づいて、後に続く試験のために、反復の数を調整することができる。単一検体AFPおよびAFP−L3に対する多重化AFP+AFP−L3アッセイの定量的な方法の比較結果は、試験ケースとしてD4多重化アッセイを、および基準ケースとして単一検体アッセイを用いた線形回帰のセットとなる。傾き、切片、および変動係数を、適切な95%信頼区間で計算する。単一検体D4アッセイが特徴付けされていないので、データについての仮定を避けるために、ブランド/アルトマン(Bland/Altman)分析もまた行う。
【0218】
表1.実地使用へのアッセイ移行における、シングルプレックスおよびデュアルプレックスアッセイの開発で評価される分析パラメータ
【0219】
【表1】
【0220】
プロトタイプD4 AFPおよびデュアルAFP+AFP−L3 D4 POCTがいったん開発されると、完全な最高点の検証が、表1に概説された経路にしたがって行われる。仕事を始める前に、SOP、データ形式と型、最終的な統計解析の詳細、および検定力を保証するための十分な複製物(これまでに収集した予備データによって使用可能となる)を含む詳細な検証計画を作成する。この検証からの結果は、以下を含む一般的に受け入れられた診断基準と比較される:他のアッセイ特異的測定量(LOD、LOQ、アッセイ範囲)の中でも定性的感度および特異性≧95%;定量的方法比較の傾き0.95〜1.05、バイアス≦5%、R2≧90;名義の正確度85〜115%;精度(CV)≦10%;直線性≧90。
【0221】
臨床的な有用性の例示的な結果は、経験の浅いユーザによる、本明細書に記載されるD4アッセイの検証を含み、それは、実施例21に記載の他のアッセイ特異的測定値(LOD、LOQ、アッセイ範囲)の中でも、感度および特異性≧95%;定量的方法比較の傾き0.95〜1.05、バイアス≦5%、R2≧90;名義の正確度85〜115%;精度(CV)≦10%;直線性≧90をもたらす。
【0222】
実施例21.新しく採取したヒト血液中での試験
【0223】
D4アッセイの試験後、新たに採取した患者の血液を用いた小規模(〜20回)の試験をサイト1で実施する。D4結果をAFPおよびAFP−L3のELISAと比較する。臨床研究および実験プロトコールの詳細を以下に記載する。
【0224】
臨床試験の設計:このセクションは、限られた数の患者の血液サンプルを用いてサイト1において実施される事前検証臨床試験、およびLMICサイト:すなわちサイト2におけるD4 POCTのより大規模な臨床試験の両方に適用される。2つの研究の最大の違いは囲い地の大きさであり、サイト1ではアームあたり〜20個、LMIC臨床サイトではアームあたり〜100個であると予想される。
【0225】
研究集団:研究の承認は、各試験場の施設倫理審査委員会から得、かつ肝細胞癌腫(HCC)患者および健康な対照を含むすべての参加者からのインフォームドコンセントを得る。
【0226】
HCCは、超音波、CTまたはMRIによる特徴付け、および生化学(AFP血清学および肝臓機能の酵素)に基づいて定義され、および米国肝臓病研究協会のガイドラインに従って組織病理学によって確認される。腫瘍段階は、バルセロナクリニック肝臓癌(BCLC)病期分類システムに従って定義される。BCLCステージ0+Aを有する腫瘍は、早期HCCとして分類される。慢性HBV感染の診断には、慢性HBV感染の予防および治療のガイドラインに従い、過去6ヶ月間のHBsAgの存在、1mL当たり10
3コピーを超えるHBV DNA濃度、および血清中のアラニンアミノトランスフェラーゼ量の上昇が包含される。肝硬変の診断は、肝生検試料の組織病理学、ならびに、そこにおいて可能な、結節性肝臓輪郭(nodular liver contour)、腹水の存在、門脈圧亢進症、静脈瘤、尾状葉の肥大、脾腫、および側副門−静脈吻合を包含する、臨床的な、実験室における、および画像の証拠に基づく。AFP濃度が上昇している肝硬変の患者は、複数の方法(超音波検査、CT、またはMRI)による画像化を受ける必要があり、かつ登録前少なくとも3ヶ月間は肝臓塊の証拠がない。他の固形腫瘍の病歴を有する患者は、研究から除外される。
【0227】
健常な対照は、肝臓が生物化学的に正常であり、肝臓病の病歴を有さず、ウイルス性肝炎を有さず、かつ悪性疾患を有さない適格な献血者である。2つの囲い地内において、年齢および性別において、可能な限りグループを適合させた。
【0228】
統計的解析:
試験段階において、HCC患者のグループ、および健常な対照の被験体のグループを募集する。AFP量は、平均、中央値および標準誤差によって、2つのグループについて別々にまとめる。2つのグループにおけるAFP量の中央値が等しいという帰無仮説を、それらはマンホイットニー検定を使用して等しくないという対立仮説に対して試験する。診断試験では、AFPレベルが特定のカットオフポイントを上回っている場合には「陽性」と分類され、およびそうでない場合には被験体は検査について「陰性」と分類される。カットオフポイントの違いは、試験の動作特性の違いを生む。具体的には、試験の感度は、試験において「陽性」と正しく分類されたHCC被験体の割合である。特異性は、「陰性」と正しく分類された非HCC被験体の割合である。さらに、陽性的中率は、試験において陽性と分類された被験体のうち真陽性である被験体の割合であり;および陰性的中率は、陰性として分類された被験体のうち真陰性である被験体の割合である。受信者操作者特性(ROC)曲線は、試験のための様々なカットオフポイントにおける、真陽性の割合に対する偽陽性の割合をプロットすることによって得られる。ROC曲線下面積(AUC)を用いて、試験の診断値を評価する。検査に診断値がないという帰無仮説の下では、AUCは0.5に等しく、かつより高いAUC値(1まで)はより高い診断値を示す。有意水準0.05では、真のAUCがそれぞれ0.6、0.65、0.7および0.75であれば、帰無仮説を拒絶するために80%のパワーを達成するために必要な2つのグループ(症例および対照)のそれぞれの被験体の数は約130、60、30および20である。感度および特異性の合計を最大化することによって、診断のための最適なカットオフ値を求めるために、受信者操作者特性曲線もまた使用される。最適カットオフを有する試験の感度、特異性、陽性予測値および陰性予測値は、それらの95%信頼区間とともに計算する。
【0229】
統計分析は、R(バージョン3.0.2)およびSAS(バージョン9.0)を用いて行なう。2つの独立したグループ間の差異は、マンホイットニーのU検定(連続変数およびノンパラメトリック分析)で検定する。感度、特異性およびそれぞれの曲線下面積(AUC)を評価するために、受信者操作特性(ROC)曲線を構築する。診断の最適カットオフ値は、感度および特異性の合計を最大化することによって調べる。また、最適カットオフ値の下での感度および特異度も、それらの95%信頼区間とともに計算する。これらの量およびそれらの95%信頼区間は、試験段階から計算されたものと比較する。
【0230】
本明細書に記載の新たに採取したヒト血液からの例示的なD4アッセイは、感度および特異性の合計を最大にすることによって、AFPおよびAFP−L3による診断のための最適カットオフ値の推定値を提供する。一例においては、90%の感度および85%の特異性を提供する、250ng/mLのAFPおよび100ng/mLのAFP−L3のカットオフ値である。
【0231】
さらに、本明細書に記載のD4アッセイは、中央研究所で実施されるELISAと同等またはそれ以上の性能測定基準で20分以内にスマートフォンでアッセイ結果を提供する統合POCT形式である。性能評価のための例示的な市販のELISAには、46pg/mLのLOD、および312pg/mLから20ng/mLのアッセイ範囲、およびアッセイ範囲にわたって、CV%<10である、R&Dsystemsのヒトアルファ−フェトプロテインQuantikin ELISAキット(DAFP00)が含まれる。
【0232】
実施例22.赤血球捕捉のためのPOEGMA抗体アレイ:初期の結果
【0233】
初期の結果を
図18〜24に示す。
【0234】
適切な形態のために、GAMA401抗D抗体以外の全ての抗体用に、イン‐ハウスで開発された印刷バッファーを使用することができ、GAMA401抗D抗体は受け取ったまま印刷する必要がある。
【0235】
アレイは、A、B、O血液型に特異的に見える。
【0236】
D陰性の血液は利用できなかったので、GAMA401抗D抗体の特異性はまだ実証されていない。
【0237】
試験した3つの血液サンプルのいずれにおいても、F8D8抗D抗体によってシグナルは生成されなかった;したがって、スポット形態を評価することはできなかった。
【0238】
結果は、直感的な読み出しを伴うアレイの作製を実証する。
【0239】
実施例23.DNAの検出
【0240】
スライド上の各ウェルを、100μLのTdTバッファー中で、10U TdT、100μM dATP単量体、および0.5μM、1μM、2μM、または5μMのCy3−dATPヌクレオチドまたはダイターミネーター、Cy3ジデオキシヌクレオチド(Cy3−ddATP)とインキュベートすることにより、Cy5標識オリゴヌクレオチドプライマーをスポットしたガラススライド上で表面開始酵素重合(SIEP)を行った。SIEPを37℃で1時間実施した後、スライドを0.1%Tween20を含むSSCバッファーで3回洗浄することによって、非特異的に結合した任意の反応物の除去を容易にした。
【0241】
SIEPによるRNAハイブリダイゼーションのオンチップ蛍光標識。グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子由来のDNA配列を、我々のアッセイを試験するためのモデル系として選択した。完全に相補的な5’−ビオチン化された17量体PNAプローブ[5’−Ac−GTCCACCACCCTGTTGC−リシン−ビオチン−3’、1μM]およびB型肝炎ウイルス(HBV)配列に由来する非特異的PNAプローブ[5’−Ac−ACCTTGTCATGTACCAT−リシン−ビオチン−3’、1μM]を、ストレプトアビジン(2.5μM)と個々に混合し、かつ次いで非接触プリンター(Piezzorray、Perkin−Elmer)を用いて、ガラス基板上に伸長した16、20の非汚染性ポリ(オリゴ(エチレングリコール)メタクリレート)(POEGMA)ブラシ上にスポットした。プローブをスポットしたスライドを、それから真空チャンバー内で一晩インキュベートし、および使用前に、0.1%Tween20を含む1×SSCバッファーですすいだ。ハイブリダイゼーションした標的の用量反応曲線を、1pM〜0.1μMの濃度範囲をカバーする標的RNAの溶液によって、印刷したプローブをインキュベートすることによって生成した。ハイブリダイゼーションの前に各標的溶液を95℃で10分間加熱し、およびそれから氷中で冷却し、および印刷したプローブと共にインキュベートした。アッセイは2つの標的を用いて実施した:(1)プローブに相補的な21量体の合成RNA標的[5’−rGrCrArArCrArGrGrGrUrGrGrUrGrGrArCrCrUrCrA−3’]、および(2)in vitroで転写されたGAPDH mRNAの全長(約1.4kb、詳細はSIにおいて見つけられる)。各標的を、ハイブリダイゼーションバッファー(3×SSC、0.1%Tween 20および4.95M尿素)中で、42℃において穏やかに振とうしながら一晩(約16時間)インキュベートした。合成RNAを受け取ったまま使用した一方で、in vitroで転写したGAPDH mRNAを、受け取ったまま、または断片化試薬中における70℃における15分間のインキュベーションによって断片化して使用した。断片化したRNA標的のために、洗浄バッファー(1×SCC、0.1%Tween−20)ですすいだ(3×)後、結合した断片化したRNA標的を、37℃で1時間、オンチップで酵素的に脱リン酸化することによって(0.125 %BSAおよび0.1%Tween 20中、0.0625ユニット/μLホスファターゼ)、3’−OHの利用可能性を確保した。次に、結合したRNA標的の3’−OHを、SIEPによりDNAに変換した。PaPを用いて37℃で2時間、短いオリゴ−dATを組み込みP(1×PaPバッファー中、6ユニット/μL PaPおよび500μM dATP)、続いて、Cy5 dATPを組み込むために、37℃で1時間、TdTを用いたSIEPを行った(1×TdTバッファー中、0.1ユニット/μL TdT、100μM dATP、および0.5μM Cy3−dATP)。次いで、スライドを0.1%Tween 20を含む1×SSCバッファー中で30分間すすぎ、かつGenePixスキャナー上で直ちにスキャンした。次いで、スポットの平均シグナル強度(バックグラウンドを差し引いたもの)を標的RNA濃度の関数としてプロットした。
【0242】
実施例24 マイクロRNA配列の単一工程検出のための競合結合アッセイ
【0243】
この実施形態は、
図26に示した。この実施形態は、競合的免疫アッセイと同様であり、標識された/競合する標的を送る方法が異なる―この形式においては、標識された標的は、検体溶液に添加されておらず、しかしながら、代わりに、スポッティングの前に、プローブに対して直接的にハイブリダイズされている。そうであるから、この形式は、スポッティングに先立って、標識された標的にハイブリダイズしたマイクロスポットまたはプローブに依存する。多数の非相補的塩基を含むようにこの標識された標的の配列を設計することにより、このプレハイブリダイズされた、部分的に相補的な標識された標的が、検体溶液中に存在する任意の標的によって置換されることが引き起こされる(検体溶液中に存在する標的は、いかなるミスマッチ塩基も含まず、および従って、より高い親和性でプローブ配列にハイブリダイズする)。この形式において、マイクロスポットシグナル強度の減少は、検体サンプル中の標的の量を定量化するために用いられる。理想的には、この方法はRNA精製工程を回避し得る。しかしながら、RNA精製が必要だとしても、この方法はなお、逆転写、標識化、および/またはPCR増幅を排除する可能性がある。
【0244】
以下のパラメータは、感度およびSN比に関して最適化される。1.配列の長さ;2.配列の内容物(GC対AU対TA)3.シーケンスの一意性(ゲノムが他の極端に類似する配列を含むか)4.検体溶液の性質(イオン強度、pHなど);5.温度;6.ミスマッチ塩基の位置/内容物(プローブの開始/終了に対するプローブの中間、AC対AG対AAなど);7.プローブの長さ(標的鎖とプローブ鎖との間に、何塩基の重複した塩基が存在するか/どの重複した塩基が存在するか、プローブは相補部分の前/後にオーバーハングを含有するか)。8.インキュベーション時間。1〜3は標的配列の機能であり、変化させることはできないが、4〜8を用いてプローブ−標的結合を合わせることができる。
【0245】
本発明のいくつかの実施形態においては、標識された標的の可溶性スポットがプローブスポットの横に印刷される。この技術は、対照群を1つの標識(たとえばCy3)によって、かつ実験群を別個の標識(たとえばCy5)によって標識することによって、遺伝子発現の倍数変化を測定する、伝統的なDNAアレイに基づくアッセイにさらによく似ている。しかしながら、この実施形態では、標識された標的の可溶性スポットが溶解するにつれて検体溶液に添加される「対照」標的のみが標識される。これらの標識された標的がプローブスポットへと結合する度合いは、検体溶液中に存在する、標識されていない標的配列の濃度と反比例の関係にある。
【0246】
適切な配列は、以下を包含する:
【0247】
・miRNA 標的 (mir−155)
5’−UUAAUGCUAAUCGUGAUAGGGGU
【0248】
・LNA プローブ
5’−CCTATCACGATTAGCATTAA−ビオチン
【0249】
・部分的に相補性を有する、標識されたmiRNA標的(AがCへと変化している、変異は太い下線で示した)
【化1】
【0250】
実施例25 免疫組織化学を増強するための標的細胞アレイ
【0251】
免疫組織化学(IHC)は病理学の分野において重要な役割を果たし、およびその重要性は、新たな標的治療のためにコンパニオン診断が必要とされるにつれて、増加する運命にある。しかしながら、客観的価値の調査の内在的な主観性から(in situタンパク質濃度)、コンパニオン診断に必要とされる正確性を獲得するために、新しい技術が必要とされることが示唆される。
【0252】
IHCは、患者ケアおよび治療過程の決定において、しばしば重要な役割を果たす。特定のおよび/または稀な細胞型を標的とするように、より多くの薬物が設計されているが、潜在的な副作用およびこれらの薬物の多くが高費用であるために、IHCは薬物投与の前の薬物応答を予測するためによく使用される。たとえば、トラスツズマブ(ハーセプチン)の使用は、HER2/neu受容体が過剰発現されている20%〜30%の乳癌の治療において示唆されているだけであり、およびトラスツズマブの処方の前に、HER2の過剰発現が実際に存在するかどうかを判定するために、乳癌腫瘍生検をIHCおよび他の方法によって評価しなければならない。しかし、IHCによって再現性のある結果を獲得することは、固定条件、標本前処理、試薬、検出方法、洗浄手順および結果の解釈を包含する多数の変動要因のために、かなり困難である。この再現性の乏しさは、主要な課題を提示し、および多数の研究が、IHCアッセイに用いられる品質管理基準を改善する必要性を実証する。HER2過剰発現のためのIHC試験結果の1つの研究では、初期の局所試験と追跡の中央研究室における試験との間で15%の不一致率が見出された。
【0253】
個々の細胞は分析のためにアレイに印刷される。組織サンプルの天然の形態は、伝統的なIHCの間で広く保存されており、およびいくつかの例においては、これは必要かつ有用であるが、分析を単に複雑にするだけだというたくさんの例がある。たとえば、組織生検が特定の表面レセプターの過剰発現について検査されている場合、細胞は分析のために組織サンプル中に埋め込まれたままである必要はない。細胞をアレイの中へと組織化することにより、視覚によって、または自動化された形式のいずれかによって行われても、画像の取得および分析が大幅に単純化される。
【0254】
標的細胞型に特異的な捕捉剤は、外来細胞の数を制限するために使用される。伝統的なIHCは、多数の細胞からなる全組織切片の分析を包含し、かつ非常にしばしば、これらの細胞の大部分は、特異的および/または珍しい細胞型を特徴付けることが目的である場合は、重要ではない。特定の細胞型を標的とするための抗体などの表面固定化捕捉剤を使用することにより、目的の特異低および/または珍しい細胞型を選択することが可能になる。この技術を使用して、分析する外来細胞の数を制限し、かつそれによって分析時間、試薬要件、および結果として偽陽性の可能性を低減する。
【0255】
標識された検出剤の基質のバックグラウンドへの非特異的吸着によって生成されたノイズを排除することにより、シグナル対ノイズ比およびアッセイ解釈を大幅に改善することができ、偽陽性の減少およびより敏感かつ定量的な結果を生成する。さらに、非特異的吸着の欠如により、洗浄手順を大幅に低減または排除することができ、アッセイ手順を大幅に簡素化し、かつ信頼性および再現性を改善する。
【0256】
本発明の本態様に係るアレイの適切な調製方法の1つは、以下の通りである。ガラススライドをポリ(オリゴ(エチレングリコール)メタクリレート)(POEGMA)で被覆するために、表面開始原子移動ラジカル重合を使用する。本発明者らは、血液および細胞溶解物などの複雑な生物学的流体中で実施されるアッセイにおいて、細胞およびタンパク質の非特異的吸着によって引き起こされるバックグラウンドノイズを完全に排除する、この非汚染性コーティングの能力を最近実証した。抗HER2/neu抗体のマイクロスポットアレイをPOEGMA表面上に直接印刷する。これらのマイクロスポットは、本発明者らの研究室で開発されたPOEGMA表面上に抗体をパターン化する方法を用いて作製され、非汚染性表面上において安定した抗体マイクロスポットを得るための化学的活性化および不活性化の必要性を排除し、製造プロセスを大幅に単純化する。さらに、本発明者らは、この技術を用いてPOEGMA表面上に印刷された抗体は、通常の周囲条件下において非常に長い貯蔵寿命を有し、冷蔵またはバッファー中に保存する必要がないことを示した。これにより、これらのアレイの貯蔵および輸送がはるかに単純になる。既に0〜3+のHER2/neu発現スコアを受けている乳房腫瘍サンプルを用いて、アッセイを評価する。腫瘍試料をコラゲナーゼDで処理し、かつPOEGMA上の抗HER2/neuアレイを得られた細胞懸濁液に曝露する。HER2/neu陽性細胞は、抗HER2neuマイクロスポット(マイクロスポット当たり約1個の細胞となるように、円形で10μmの直径のマイクロスポットが使用される)によって捕捉され、かつ続いて、各細胞のHer2/neu発現を定量化するために、第2の抗Her2/neu抗体による標識化を用い得る。結果を、事前に決定した0〜3+のHER2/neu発現値と比較する。
【0257】
この実施形態は、IHC試験を、より信頼性が高く、より速く、より安価にし、かつより容易にポイント‐オブ‐ケアに適用できるようにする。乳癌腫瘍におけるHER2/neu発現を、本発明のこの実施形態を用いてアッセイする。
【0258】
本発明の好ましい実施形態を本明細書に示し説明してきたが、そのような実施形態が単なる例示として提供されることは、当業者には明らかであろう。
本発明から逸脱することなく、当業者には数多くの変形、変更、および置換が可能である。本明細書に記載された本発明の実施形態に対する様々な代替物が、本発明の実施において採用され得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲は本発明の範囲を定義するものであり、かつこれらの特許請求の範囲内の方法および構造、ならびにそれらの等価物がその中に包含されることが意図される。