(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962917
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】混相液体の移送方法およびそのための装置
(51)【国際特許分類】
B01J 3/02 20060101AFI20211025BHJP
【FI】
B01J3/02 E
B01J3/02 C
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-525150(P2018-525150)
(86)(22)【出願日】2017年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2017023350
(87)【国際公開番号】WO2018003731
(87)【国際公開日】20180104
【審査請求日】2020年5月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-128079(P2016-128079)
(32)【優先日】2016年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227087
【氏名又は名称】日曹エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】米谷 章
(72)【発明者】
【氏名】舩越 正人
【審査官】
関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−202030(JP,A)
【文献】
特開昭59−162938(JP,A)
【文献】
特開昭61−241600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 3/00−02
C01B 3/00
B65G 51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液分離槽のスラリー排出口のボールバルブを閉じ、
超臨界水中での有機物の分解反応若しくはMgH2から水素ガスを取り出す際の高圧加水分解反応において取り扱われる高圧気液固混相液体を気液分離槽に供給して高圧気体と高圧固液混相液体とに分離し、
気液分離槽のスラリー排出口にボールバルブを介して連結されたスラリー収容槽に前記分離された高圧気体を供給してスラリー収容槽内の圧力を上げ、
気液分離槽内の圧力とスラリー収容槽内の圧力との差が気液分離槽のスラリー排出口のボールバルブの最高許容圧力差を下回った後に、気液分離槽のスラリー排出口のボールバルブを開いて前記分離された高圧固液混相液体をスラリー収容槽に移送し、
所定量を移送後、気液分離槽のスラリー排出口のボールバルブを閉じ、
スラリー収容槽のベントバルブを開いてスラリー収容槽内の圧力を下げて高圧固液混相液体を低圧固液混相液体にし、
次いでスラリー収容槽から低圧固液混相液体を排出することを含む
混相液体の移送方法。
【請求項2】
超臨界水中での有機物の分解反応若しくはMgH2から水素ガスを取り出す際の高圧加水分解反応において取り扱われる高圧気液固混相液体を収容するための高圧槽(TH)、
高圧気液固混相液体を高圧気体と高圧液固混相液体に分離するための気液分離槽(T1)、
高圧槽(TH)から高圧気液固混相液体を気液分離槽(T1)に供給するための管(L0)、
スラリー収容槽(T2)、
気液分離槽から高圧液固混相液体をスラリー収容槽(T2)に供給するための管(L2)、
管(L2)の流路を開閉するためのボールバルブ(V2)、
気液分離槽から高圧気体をスラリー収容槽に供給するための管(L4)、
管(L4)の流路を開閉するためのバルブ(V4)、
スラリー収容槽内の圧力を下げるためのバルブ(V5)、
スラリー収容槽から低圧固液混相液体を排出するための管(L3)、および
管(L3)の流路を開閉するためのボールバルブ(V3)
を具備する混相液体移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は混相液体の移送方法およびそのための装置に関する。より詳細に、本発明は、スラリーに含まれている固形分によって引き起こされるバルブの摩損、閉塞若しくは漏れ、または高圧によって引き起こされるバルブの摩損若しくは漏れを防ぎつつ、高圧の槽などから高圧気液固混相液を抜き出し、高圧気体と高圧固液混相液体に分離し、高圧固液混相液体を低圧固液混相液体にして、低圧の槽などに移送する方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スラリーまたはガスの流れの遮断若しくは量調整のためにボールバルブ、ダイヤフラムバルブ、ニードルバルブなどが用いられる。バルブは、スラリーに含まれている固形分によって摩損、閉塞、漏れなどを引き起こされることがある。ボールバルブはバルブ全開のときに流路が直線になるのでスラリーに含まれる固形分の堆積若しくは付着が抑制され閉塞を生じにくい。ところが、ボールバルブは、バルブ前後の圧力差が大きい場合にボールバルブのシート材に大きな力が掛かりバルブ開閉時の摩擦力が大きくなるので、バルブ開閉操作に大きなトルクが必要になったり、バルブが固着したりすることがある。また、流路が直線的になることからバルブ前後の差圧による流量調整には向かない。さらにバルブ開閉の繰り返しによってシート漏れを引き起こすことがある。
【0003】
このような観点から、特許文献1は、超臨界水を収容し、超臨界水の存在下で被処理液の超臨界水反応を行い、処理液を流出させる反応器と、反応器から流出した処理液を送液する処理液管に設けられ、反応器の圧力を制御する圧力調節弁とを備え、圧力調節弁により圧力制御された反応器内で超臨界水反応を行うようにした超臨界水反応装置において、反応器と圧力調節弁との間に固液分離器を備えていることを特徴とする超臨界水反応装置を開示している。この超臨界水反応装置は、固液分離器として設けられたハイドロサイクロンと、ハイドロサイクロンによって分離、沈降した固形物を収容する縦型密閉容器として第1の開閉弁を介してハイドロサイクロンの固形物流出口に接続され、底部には固形物排出口として排出弁を有し、上部には大気に連通する第2の開閉弁を有する固形物収容槽とを備えている。
【0004】
特許文献2は、筒状箱体の上下に上部ダンパーと下部ダンパーとを設けて上部ダンパーと下部ダンパーとを交互に開放する粉粒体供給排出装置において、粉粒体の供給排出を同圧条件にて行うための均圧弁を筒状箱体の適所に設け、上部ダンパーと下部ダンパーとを開閉駆動する上下ダンパー駆動カム部と均圧弁を開閉駆動する均圧弁駆動カム部とを連動せしめて成るものを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−279976号公報
【特許文献2】特開昭51−124287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、スラリーに含まれている固形分によって引き起こされるバルブの摩損、閉塞若しくは漏れ、または高圧によって引き起こされるバルブの摩損若しくは漏れを防ぎつつ、高圧の槽などから高圧気液固混相液を抜き出し、高圧気体と高圧固液混相液体に分離し、さらに高圧固液混相液体を低圧固液混相液体にして、低圧の槽などに移送する方法およびそのための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0008】
〔1〕 気液分離槽のスラリー排出口のバルブを閉じ、 高圧気液固混相液体を気液分離槽に供給して高圧気体と高圧固液混相液体とに分離し、 気液分離槽のスラリー排出口にバルブを介して連結されたスラリー収容槽に前記分離された高圧気体を供給してスラリー収容槽内の圧力を上げ、 気液分離槽内の圧力とスラリー収容槽内の圧力との差が気液分離槽のスラリー排出口のバルブの最高許容圧力差を下回った後に、気液分離槽のスラリー排出口のバルブを開いて前記分離された高圧固液混相液体をスラリー収容槽に移送し、所定量を移送後、気液分離槽の高圧スラリー排出口のバルブを閉じ、 スラリー収容槽のベントバルブを開いてスラリー収容槽内の圧力を下げて高圧固液混相液体を低圧固液混相液体にし、 次いでスラリー収容槽から低圧固液混相液体を排出することを含む混相液体の移送方法。
【0009】
〔2〕 高圧槽(TH)、 高圧気液固混相液体を高圧気体と高圧液固混相液体に分離するための気液分離槽(T1)、 高圧槽(TH)から高圧気液固混相液体を気液分離槽(T1)に供給するための管(L0)、 スラリー収容槽(T2)、 気液分離槽から高圧液固混相液体をスラリー収容槽(T2)に供給するための管(L2)、 管(L2)の流路を開閉するためのバルブ(V2)、 気液分離槽から高圧気体をスラリー収容槽に供給するための管(L4)、 管(L4)の流路を開閉するためのバルブ(V4)、 スラリー収容槽内の圧力を下げるためのバルブ(V5)、 スラリー収容槽から低圧固液混相液体を排出するための管(L3)、および 管(L3)の流路を開閉するためのバルブ(V3)を具備する混相液体移送装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スラリーに含まれている固形分によって引き起こされるバルブの摩損、閉塞若しくは漏れ、または高圧によって引き起こされるバルブの摩損若しくは漏れを防ぎつつ、高圧の槽などから高圧気液固混相液を抜き出し、高圧気体と高圧固液混相液体に分離し、高圧固液混相液体を低圧固液混相液体にして、低圧の槽などに移送することができる。さらに、スラリー排出口のバルブにボールバルブを採用することによって、バルブに固形分が堆積若しくは付着しにくくなるので、配管の閉塞若しくは摩損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の混相液体移送装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照しながら本発明の混相液体の移送方法およびそのための装置を説明する。
本発明の混相液体移送装置は、高圧槽(TH)、高圧気液固混相液体を高圧気体と高圧液固混相液体に分離するための気液分離槽(T1)、高圧槽(TH)から高圧気液固混相液体を気液分離槽(T1)に供給するための管(L0)、スラリー収容槽(T2)、気液分離槽から高圧液固混相液体をスラリー収容槽(T2)に供給するための管(L2)、管(L2)の流路を開閉するためのバルブ(V2)、気液分離槽から高圧気体をスラリー収容槽に供給するための管(L4)、管(L4)の流路を開閉するためのバルブ(V4)、スラリー収容槽内の圧力を下げるためのバルブ(V5)、スラリー収容槽から低圧固液混相液体を排出するための管(L3)、および管(L3)の流路を開閉するためのバルブ(V3)を具備する。
【0013】
高圧気液固混相液体は、例えば、不均一系高圧反応などにおいて取り扱われる。係る不均一系高圧反応としては、例えば、固体触媒を含有する液中での高圧気液接触反応、超臨界水中での有機物の分解反応、MgH
2から水素ガスを取り出す際の高圧加水分解反応などを挙げることができる。上記のような高圧反応は、通常、高圧槽(TH)で行われる。高圧気液固混相液体は、圧力が、例えば、3〜100MPaであり、温度が、例えば、40〜400℃である。
【0014】
高圧槽(TH)から高圧気液固混相液体を排出するために、先ず、気液分離槽(T1)のスラリー排出口のバルブ(V2)を閉じる。バルブ(V2)にはボールバルブが好ましく用いられる。そして、高圧気液固混相液体を気液分離槽に供給して高圧気体と高圧固液混相液体とに分離する。分離された高圧気体は気液分離槽の頂部から排出される。背圧弁(V1)によって気液分離槽内の圧力が所定値、例えば、高圧槽(TH)または気液分離槽(T1)の最高許容圧力未満の圧力値に調節される。背圧弁を通り抜けた気体はVENT1から排出される。なお、気液分離槽(T1)の気体抜出ラインには気体に同伴することがあるスラリーミストを除去するために、水洗槽、デミスタなどを設けることが好ましい。
【0015】
管(L4)のバルブ(V4)を開いて、気液分離槽(T1)のスラリー排出口にバルブ(V2)を介して連結されたスラリー収容槽(T2)に前記分離された高圧気体を供給してスラリー収容槽内の圧力を上げる。高圧気体の圧力は気液分離槽(T1)内の圧力とほぼ同じであるので、高圧気体の供給によってスラリー収容槽(T2)内の圧力を気液分離槽(T1)内の圧力と同じ程度にまで上昇させることができる。バルブ(V4)にはニードルバルブが好ましく用いられる。
【0016】
スラリー収容槽(T2)内の圧力と気液分離槽(T1)内の圧力との差がバルブ(V2)の最高許容圧力差を下回った後に、バルブ(V2)を開いて前記分離された高圧固液混相液体をスラリー収容槽に移送する。移送量は特に限定されないが、レベルセンサ(S1)にてスラリー収容槽内の液高を監視し、所定の高さに達したときに、バルブ(V2)を閉じるようにすることができる。バルブ(V2)を閉じることで高圧固液混相液体の移送を停止する。なお、スラリー排出口は気液分離槽(T1)の底部に設け、スラリー収容槽(T2)は気液分離槽(T1)の下に位置するように設置することが高圧固液混相液体の排出をヘッド差だけで行うことができるなどの観点から好ましい。次いで、バルブ(V4)を閉じ、ベントバルブ(V5)を開き、高圧気体をVENT2に排出する。スラリー収容槽(T2)内の圧力が下がり、高圧固液混相液体を低圧固液混相液体にする。ベントバルブ(V5)とVENT2との間に必要に応じて背圧弁(V6)を設置することによって、スラリー収容槽(T2)内の圧力を所定値に調節することができる。なお、スラリー収容槽(T2)内の圧力を大気圧まで下げる場合は、背圧弁(V6)、バルブ(V7)、バルブ(V8)、および背圧弁(V9)を設け無くてもよい。
【0017】
次いでバルブ(V3)を開いて、スラリー収容槽(T2)から低圧固液混相液体を排出する。なお、スラリー収容槽(T2)内の圧力と低圧槽(TL)内の圧力との差がバルブ(V3)の最高許容圧力差を上回っている場合は、バルブ(V3)を開く前に、バルブ(V7)を開いて、低圧槽(TL)内の圧力をスラリー収容槽(T2)内の圧力と同じ程度にまで上昇させることができる。
スラリー収容槽(T2)内の圧力と低圧槽(TL)内の圧力との差がバルブ(V3)の最高許容圧力差を下回っている場合は、バルブ(V3)を開いて低圧槽(TL)に低圧固液混相液体を移送する。なお、スラリー収容槽(T2)の低圧固液混相液体排出口はスラリー収容槽(T2)の底部に設け、低圧槽(TL)はスラリー収容槽(T2)の下に位置するように設置することが低圧固液混相液体の排出をヘッド差だけで行うことができるなどの観点から好ましい。その後、バルブ(V7)を閉じ、バルブ(V8)を開いて、低圧槽(TL)内の圧力を下げることができる。低圧槽(TL)内の圧力を大気圧まで下げる場合は、背圧弁(V9)を設け無くてもよい。
【0018】
以下に実施例を示して本発明をより詳細に説明する。なお、実施例は本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0019】
実施例
体積平均粒子径60μmの水素化マグネシウム0.2質量部と水5質量部とを含むスラリーを熱媒温度355℃に設定された管型反応器(TH)に底部から連続的に導入して反応させた。平均滞留時間約2分間で加水分解反応率が99%以上に達した。管型反応器内の圧力が約40MPaまで上昇した。管型反応器の側部から水素ガスを含有する高圧スラリーを50℃以下に冷やしながら連続的に抜き出し、
図1に示す気液分離槽(T1)に供給した。槽(T1)にて高圧水素ガスと高圧スラリーとに分離した。分離された高圧水素ガスを気液分離槽の頂部から排出し、水素タンクに供給した。槽(T1)の液レベルが所定の高さに達したところで、バルブ(V4)を開いて、槽(T2)の内圧を上昇させた。槽(T1)と槽(T2)の内圧がほぼ等しくなったところで、バルブ(V2)を開き、分離された高圧スラリーを槽(T1)から槽(T2)に移送した。槽(T2)の液レベルが所定の高さになったところでバルブ(V2)およびバルブ(V4)を閉じ、バルブ(V5)を開いて、槽(T2)の内圧を大気圧まで下げた。槽(T2)から低圧になったスラリーを排出し、水素化マグネシウムへの再生処理工程に送った。この操作を数ヶ月間に亘って繰り返し行った。バルブ(V2)のシートに異常は認められなかった。背圧弁(V1)にも異常は認められなかった。
【符号の説明】
【0020】
V1:背圧弁
T1:気液分離槽
V4,V7:ニードルバルブ
V5,V8:ニードルバルブ
V6,V9:背圧弁
S1,S2:レベルセンサ
V2:ボールバルブ
V3:ボールバルブ
T2:スラリー収容槽
TH:高圧槽
TL:低圧槽