特許第6963110号(P6963110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963110
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】流体ダイの接着層
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20211025BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   B41J2/14 209
   B41J2/14 613
   B41J2/14 207
   B41J2/16 501
   B41J2/16 509
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-538920(P2020-538920)
(86)(22)【出願日】2018年4月2日
(65)【公表番号】特表2021-510644(P2021-510644A)
(43)【公表日】2021年4月30日
(86)【国際出願番号】US2018025671
(87)【国際公開番号】WO2019194785
(87)【国際公開日】20191010
【審査請求日】2020年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】511076424
【氏名又は名称】ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー.
【氏名又は名称原語表記】Hewlett‐Packard Development Company, L.P.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】コヴェントリー,ローリー・エイ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,デイヴィッド・アール
【審査官】 佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−094571(JP,A)
【文献】 特開2003−224269(JP,A)
【文献】 特開2015−193239(JP,A)
【文献】 特表2014−503398(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0228893(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0243634(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0056569(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0227349(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板によって支持されている流体障壁層に形成された流体チャンバを備える流体領域と、
前記流体チャンバに関連する流体アクチュエータと、
前記流体領域から離れて位置決めされた電気的構造体と、
前記流体アクチュエータの上の金属層と、
前記金属層を前記流体障壁層に接着する接着性障壁層であって、該接着性障壁層は、誘電体層及び接着層を備える第1の接着性障壁層部分と、前記接着層を備えるが前記誘電体層の無い第2の接着性障壁層部分とを備え、前記第1の接着性障壁層部分は前記電気的構造体の上に形成され、前記第2の接着性障壁層部分は前記流体領域に形成され、前記第2の接着性障壁層部分の前記接着層は前記流体チャンバ内に突出している、接着性障壁層と
を備えてなる、流体ダイ。
【請求項2】
前記接着層は、前記流体チャンバを形成するように前記流体障壁層のフォトリソグラフィパターニングを実施するとき、光学反射を低減させる干渉反射防止層である、請求項1に記載の流体ダイ。
【請求項3】
前記接着層は、前記誘電体層から前記流体チャンバ内の流体を隔離するように、前記流体チャンバと前記誘電体層との間に設けられている、請求項1または請求項2に記載の流体ダイ。
【請求項4】
前記第2の接着性障壁層部分の前記接着層は、前記流体アクチュエータのそれぞれの流体アクチュエータと前記流体チャンバのそれぞれの流体チャンバとの間に該接着層の開口部が設けられるように、前記流体チャンバ内に部分的に突出している、請求項1〜3の何れか一項に記載の流体ダイ。
【請求項5】
前記誘電体層は、前記電気的構造体への流体進入を低減させるか又は防止する水分障壁を提供する、請求項1〜4の何れか一項に記載の流体ダイ。
【請求項6】
前記誘電体層は窒化物含有材料を含む、請求項1〜5の何れか一項に記載の流体ダイ。
【請求項7】
前記接着層は炭素含有材料を含む、請求項1〜6の何れか一項に記載の流体ダイ。
【請求項8】
前記接着層は有機結合層を含む、請求項1〜6の何れか一項に記載の流体ダイ。
【請求項9】
前記接着層は炭化ケイ素を含む、請求項1〜6の何れか一項に記載の流体ダイ。
【請求項10】
前記電気的構造体は、電力電気的構造体と接地電気的構造体とを含む、請求項1〜9の何れか一項に記載の流体ダイ。
【請求項11】
基板の上に流体アクチュエータを形成するステップと、
前記基板の上に電気的構造体を形成するステップと、
前記流体アクチュエータの上にキャビテーション障壁層を形成するステップと、
前記キャビテーション障壁層及び前記電気的構造体の上に接着性障壁層を形成するステップであって、該接着性障壁層を形成するステップは、
前記キャビテーション障壁層及び前記電気的構造体の上に誘電体層を形成することと、
流体領域から離れて前記誘電体層をパターニングすることと、
前記パターニングされた誘電体層の上に接着層をコーティングすることであって、前記電気的構造体を覆う前記接着性障壁層の第1の部分は前記誘電体層及び前記接着層を含み、前記流体領域における前記接着性障壁層の第2の部分は前記誘電体層の無い前記接着層を含む、コーティングすることと、
を含む、形成するステップと、
前記流体領域の一部である流体チャンバを画定する流体障壁層を形成するステップであって、前記接着性障壁層は前記流体障壁層に前記キャビテーション障壁層を接着し、前記第2の接着性障壁層部分の前記接着層は前記流体チャンバ内に突出している、形成するステップと
を含んでなる、流体ダイを形成する方法。
【請求項12】
前記誘電体層の上に前記接着層をコーティングすることにより、前記流体チャンバから前記誘電体層が流体的に隔離される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記流体障壁層を形成するステップは、前記流体チャンバを形成するように前記流体障壁層のフォトリソグラフィパターニングを適用することを含み、前記第2の接着性障壁層部分の前記接着層は、前記流体障壁層の前記フォトリソグラフィパターニング中に光学反射を低減させる干渉反射防止層である、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
基板と、
前記基板によって支持されている流体障壁層に形成された流体チャンバを備える流体領域と、
前記流体チャンバに関連する流体アクチュエータと、
前記流体領域から離れて位置決めされた電気的構造体と、
前記流体アクチュエータの上のキャビテーション障壁層と、
前記キャビテーション障壁層を前記流体障壁層に接着するダイ表面最適化(DSO)層であって、該DSO層は、窒化ケイ素層及び炭化ケイ素層を備える第1のDSO層部分と、炭化ケイ素層を備えるが窒化ケイ素層の無い第2のDSO層部分とを備え、前記第1のDSO層部分は前記電気的構造体の上に形成され、前記第2のDSO層部分は前記流体領域に形成され、前記第2のDSO層部分の前記炭化ケイ素層は前記流体チャンバ内に突出している、DSO層と
を備えてなる、流体ダイ。
【請求項15】
前記第2のDSO層部分の前記炭化ケイ素層は、前記流体チャンバ内に部分的に突出し、前記流体アクチュエータと前記それぞれの流体チャンバとの間の開口部を備え、前記炭化ケイ素層は、前記流体チャンバから前記窒化ケイ素層を流体的に隔離する、請求項14に記載の流体ダイ。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
流体ダイは、印刷システム又は他のタイプの流体吐出システム等の流体吐出システムにおいて使用することができる。流体ダイは、基板と、半導体製造技法を用いて基板の上に構築される様々な層とを備える。基板によって支持される層は、電気コンポーネントと、流体チャンバや流体チャネルやオリフィス等の流体構造体とを形成する。
【0002】
本開示のいくつかの実施態様は、以下の図面に関して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0003】
図1】いくつかの例による流体ダイの一部分の部分断面図である。
図2A】いくつかの例による流体ダイの上面図である。
図2B】いくつかの例による、ダイ表面最適化(DSO)層を形成する様々な異なる段階のうちの1つの段階における、図2Aの流体ダイの部分断面図である。
図2C】いくつかの例による、ダイ表面最適化(DSO)層を形成する様々な異なる段階のうちの1つの段階における、図2Aの流体ダイの部分断面図である。
図2D】いくつかの例による、ダイ表面最適化(DSO)層を形成する様々な異なる段階のうちの1つの段階における、図2Aの流体ダイの部分断面図である。
図2E】いくつかの例による、ダイ表面最適化(DSO)層を形成する様々な異なる段階のうちの1つの段階における、図2Aの流体ダイの部分断面図である。
図3】更なる例による流体ダイの部分断面図である。
図4】更なる例による流体ダイを形成するプロセスのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0004】
図面全体を通して、同一の参照符号は、同様ではあるが、必ずしも同一とは限らない要素を指定する。これらの図は、必ずしも一律の縮尺ではなく、いくつかの部分のサイズは、図示した例をより明確に示すために誇張されている場合がある。さらに、図面は、この説明に沿った例及び/又は実施態様を提供する。ただし、この説明は、図面に提供された例及び/又は実施態様に限定されるものではない。
【0005】
本開示では、文脈において明確な別段の指示がない限り、「一(a)」、「1つの(an)」又は「その(the)」という用語の使用は、複数形を同様に含むように意図されている。また、本開示で用いる場合の「含む(includes/including)」、「備える(comprises/comprising)」又は「有する(have/having)」という用語は、述べられている要素の存在を明記するが、他の要素の存在又は追加を排除するものではない。
【0006】
流体ダイは、アクティベートされると流体の吐出(例えば、噴出又は他の流れ)をもたらす流体アクチュエータを備えることができる。例えば、流体の吐出は、アクティベートされた流体アクチュエータによる、流体ダイのそれぞれのノズルからの流体液滴の噴出を含むことができる。他の例では、アクティベートされた流体アクチュエータ(ポンプ等)により、流体は、流体チャネル又は流体チャンバを通って流れることができる。したがって、流体を吐出するように流体アクチュエータをアクティベートすることは、ノズルから流体を噴出するように流体アクチュエータをアクティベートすること、又は、流路、流体チャンバ等の流れ構造体を通る流体の流れをもたらすように流体アクチュエータをアクティベートすることを指すことができる。
【0007】
流体ダイを構築する際、半導体処理技法等を用いることにより、流体ダイの基板の上に様々な層を形成することができる。基板の上に提供することができる層としては、トランジスタ、流体アクチュエータ、電気的構造体、流体チャンバ、流体チャネル、流体オリフィス等を形成するために使用される層が挙げられる。
【0008】
流体ダイの流体チャンバは、流体障壁層に形成することができる。いくつかの例では、流体障壁層は、有機材料又はポリマー材料を含むことができる。例えば、障壁層は、エポキシやシリコーン誘電体等を含むことができる。流体障壁層に使用されるポリマー材料の一例は、エポキシ系フォトレジストであるSU8である。
【0009】
流体ダイのいくつかの部分は金属層を含む。ダイ表面最適化(die surface optimization:DSO)層を用いて、金属層と流体チャンバが形成される流体障壁層との間に接着性障壁層を提供することができる。DSO層は、金属層と流体障壁層との接着を提供する。
【0010】
いくつかの例ではDSO層について言及するが、より一般的には、流体ダイは、流体ダイの(1つ又は複数の金属層等の)ある部分を、流体チャンバが形成される流体障壁層に接着するために使用される接着性障壁層を含む。
【0011】
いくつかの例では、DSO層は、流体ダイの電気的構造体と流体領域との双方の上に炭化ケイ素(SiC)のみを用いて形成される。しかしながら、SiCのみのDSO層の使用により、流体ダイの電気的構造体(例えば、電気接点、電気バス、電気トレース、又は電気的接続性を提供する他の任意の構造体)の周囲の領域に流体が侵入することになる可能性がある。例えば、流体障壁層内の流体チャンバから電気的構造体に水分が拡散する可能性がある。別の例として、流体障壁層の縁部が下の層から持ち上がる可能性があり、それにより、流体が電気的構造体の周囲の領域に侵入する可能性がある。流体の拡散又は漏れにより電気的構造体の腐食がもたらされる可能性があり、それが、流体ダイの電気回路の故障につながる可能性がある。
【0012】
他の例では、DSO層は、SiC層及び窒化ケイ素(SiN)層の双方を含むことができる。しかしながら、SiC層及びSiN層の双方が流体ダイの流体チャンバまで延在する例では、SiN層が流体チャンバ内の流体と化学的に反応する場合がある。この化学反応により、SiN層の腐食がもたらされる可能性がある。
【0013】
流体チャンバを形成するように流体障壁層をパターニングするフォトリソグラフィパターニングプロセス中、光学反射は、流体障壁層における変形につながる可能性がある。光学反射によってもたらされる流体障壁層のこうした変形を回避するために、光学反射の範囲を越えて、流体チャンバ間のピッチを増大させなければならない。流体ダイの流体チャンバ間のピッチの増大により、単位面積あたりのノズルの数が減少することになるため、印刷用途において印刷品質が低下することになる可能性がある。例えば、600ドット/インチ(600ドット/2.54センチメートル)での印刷により、1200ドット/インチ(1200ドット/2.54センチメートル)での印刷と比較した場合、印刷品質が低下する結果となる。また、DSO層のSiN層が流体チャンバまで延在する設計では、流体チャンバ内の流体による腐食からSiN層を保護するようにSiN層を覆うために、流体障壁層の一部分を使用しなければならない場合がある。これもまた、流体チャンバ間のピッチの増大につながる。
【0014】
本開示のいくつかの実施態様によれば、DSO層は、電気的構造体を覆う第1のDSO層部分と、流体ダイの流体領域に設けられる第2のDSO層部分とを含む。流体ダイの電気的構造体を覆う第1のDSO層部分は、誘電体層(例えば、SiN層)と接着層(例えば、SiC層)との双方を含む。第2のDSO層部分は、誘電体層の無い接着層を含む。後に更に説明するように、接着層は、流体チャンバのより高密度の構成を有する流体ダイの製造に役立つように反射防止性がある。
【0015】
図1は、流体ダイ100の一部分の断面図例を示す。図1に示す部分は、流体ダイ100のノズルを形成する。図1に示す構造体は、流体ダイ100の他のノズルを形成するように繰り返すことができる。流体ダイ100のこの部分の層のうちのいくつかのみを示し、理解を容易にするために残りの層は示していないことに留意されたい。
【0016】
図1に示す様々な層は、基板102によって支持されている。基板102は、ケイ素又は別の半導体材料を含むことができる。代替的に、基板102は、異なるタイプの材料を含むことができる。
【0017】
流体アクチュエータ層104は流体アクチュエータを形成する。流体アクチュエータが抵抗ヒータを含む例では、流体アクチュエータ層104は、電気抵抗材料を含む。流体アクチュエータが圧電膜を含む他の例では、流体アクチュエータ層104は圧電材料を含む。
【0018】
図1には、流体アクチュエータ層104と基板102との間の様々な中間層は示していないことに留意されたい。中間層は、トランジスタ、ビア及び他の構造体を形成するために用いることができる。
【0019】
流体アクチュエータ層104の上に、パッシベーション層106が設けられている。パッシベーション層106は、1つの電気絶縁材料から形成された1つの層、又は異なる電気絶縁材料から形成された複数の層を含むことができる。パッシベーション層106に対する電気絶縁材料の例としては、窒化物含有層(例えば、SiN)、酸化物含有層(例えば、二酸化ケイ素すなわちSiO)、炭素含有層(例えば、SiC)等のうちの任意のもの又は何らかの組合せが挙げられる。
【0020】
パッシベーション層106の上に、キャビテーション障壁層108が設けられている。いくつかの例では、キャビテーション障壁層108はタンタル(Ta)を含むことができる。他の例では、キャビテーション障壁層108は、別の金属材料又は異なる材料等の、異なる材料を含むことができる。キャビテーション障壁層108は、ダイキャビテーション及び接着層としての役割を果たすことができる。
【0021】
流体アクチュエータは、そのアクティベーションによって流体チャンバ内の流体の移動をもたらすことができるように、流体ダイ100の流体チャンバ110に近接して配置されているため、流体アクチュエータと流体チャンバとの間に設けられたキャビテーション障壁層108は、流体チャンバ内の流体遷移によって加えられる力から流体アクチュエータを保護する。流体チャンバ110内の流体の膨張及び収縮により、機械的衝撃が発生する可能性がある。キャビテーション障壁層108は、流体チャンバ110内の流体遷移をもたらす流体アクチュエータの多くの繰り返されるアクティベーションにわたって、流体チャンバ110内の流体の膨張及び収縮の機械的衝撃から流体アクチュエータを保護するのに役立つ。キャビテーション障壁層108はまた、パッシベーション層106とキャビテーション障壁層108の上方の他の層との間の接着を提供する役割も果たすことができる。
【0022】
図1に更に示すように、キャビテーション障壁層108の上に電気的構造体112を形成することができる。電気的構造体112は、電気接点や電気トレースや電気バス等を含むことができる。例えば、電気的構造体は、電力を搬送し又は接地するために使用することができ、対応する流体アクチュエータのアクティベーションを制御するためにその流体アクチュエータに電気的に接続又は結合されている。
【0023】
図示はしないが、電気ビアは、電気的構造体112を流体アクチュエータ層104に接続することができる。
【0024】
図1は、キャビテーション障壁層108及び電気的構造体112を含む流体ダイのメタライズ部分と流体障壁層116との間のDSO層114(又はより一般的には、接着性障壁層)を更に示す。
【0025】
DSO層114は、第1のDSO層部分114−1と第2のDSO層部分114−2とを含む。第1のDSO層部分114−1は、誘電体層118及び接着層120を含む。
【0026】
いくつかの例では、誘電体層118は、SiN、SiO等、電気絶縁性である材料を含むことができる。誘電体層118は、パッシベーション層とすることができる。さらに、誘電体層118は、流体チャンバ110内の流体の誘電体層118を通る電気的構造体112への拡散を防止する水分障壁を提供することができる。
【0027】
接着層120は、SiC等の炭素含有材料を含むことができる。接着層120は、流体ダイ100のメタライズ面(例えば、キャビテーション障壁層108及び電気的構造体112の表面)と流体障壁層116との接着に役立つことができる。更なる例では、接着層120は、流体ダイの表面を流体障壁層116の有機材料に結合する有機結合層である。
【0028】
第1のDSO層部分114−1が2つの層(誘電体層118及び接着層120)のみを含む例では、第1のDSO層部分114−1は、デュアルスタックDSO層と称される。しかしながら、他の例では、第1のDSO層部分114−1は、例えば、誘電体層118の下の導電性層等の3つ以上の層を含むことができる。DSO層のこの導電性層は、チタン、タンタル、クロム、コバルト、モリブデン、白金、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム若しくは組合せ等の、耐火金属若しくは耐火金属合金、又は上述したものの任意の組合せを含むことができる。
【0029】
第2のDSO層部分114−2は、誘電体層118の無い接着層120を含む。いくつかの例では、第2のDSO層114−2は、接着層120のみを含むことができる。他の例では、第2のDSO層114−2は、接着層120及び耐火金属層を含むことができるが、誘電体層118は含まない。
【0030】
接着層120は、誘電体層118から流体チャンバ110内の流体を隔離するように、流体チャンバ110と誘電体層118との間に設けられている。
【0031】
流体障壁層116は、流体チャンバ110を形成するようにパターニングされている。接着層120の一部分は、流体チャンバ110内に突出している。接着層120の突出部分は、図1では120−1として識別される。
【0032】
図1による例では、接着層120の突出部分120−1は、流体チャンバ内に部分的に(図1の図では流体ダイ100の横方向又は水平方向に)突出し、接着層120の開口部120−2が形成されている。接着層120のこの開口部120−2により、流体アクチュエータ層104からのエネルギーが、層106、108を通ってかつ開口部120−2を通って流体チャンバ110内の流体まで進むことができる。
【0033】
流体アクチュエータ層104が、励起されると熱を生成する電気抵抗材料を含む場合、(電流の印加によってアクティベートされた)アクティベートされた流体アクチュエータ層からの熱エネルギーは、層106、108及び開口部120−2を通過して流体チャンバ110内の流体を加熱する。
【0034】
干渉反射防止層を形成するように、接着層120の厚さを調整することができる。例えば、接着層120がSiCを含む場合、SiC層120の厚さは、約1500オングストローム(A)であるように選択することができ、又は約700Aを超えるように選択することができる。他の例では、接着層120の他の厚さを用いることができる。接着層120の厚さは、接着層120の上面からの反射と接着層120の底面からの反射とが互いに打ち消し合うように選択され、又は、少なくとも、(接着層120の上面及び底面からの反射光の干渉により)光反射の全体的な大きさを低減させる。
【0035】
その結果、流体チャンバ110を形成する流体障壁層116のフォトリソグラフィ処理の間、光学反射は低減し、それにより、流体障壁層116の材料(例えば、SU8)の架橋を防止するように非鏡面反射の強度が低減する。これにより、流体障壁層116における変形が低減し、流体ダイ100の流体チャンバ110間により小さいピッチを設けることができる。ピッチが小さくなることにより、流体チャンバ110のより大きい密度を提供することができる。
【0036】
接着層120の突出部分120−1は、流体障壁層116フォトリソグラフィプロセス中は光が遮られ、それにより、接着層120のフィルム縁部からの反射の可能性がない。突出部分120−1に対して光を遮ることは、(流体チャンバ110を形成するために)流体障壁層116をパターニングするフォトリソグラフィプロセス中に、光を接着層120の突出部分120−1に達しないように遮断するように光遮断層を使用して、突出部分120−1からの反射をなくすか又は低減するようにすることを指す。
【0037】
図1に示すように、接着層120のみが流体チャンバ110まで延在するため、流体障壁層116の一部分は、流体チャンバ110においてDSO層114を覆う必要はなく、これによってもまた、流体チャンバの間のピッチを低減させることができる。
【0038】
更なる例では、流体障壁層116の上にオリフィス障壁層122を形成することができる。オリフィス124を形成するようにオリフィス障壁層122をパターニングすることができ、このオリフィス124を通して、印刷流体を目標に提供するため等、流体チャンバ110内の流体を吐出することができる。
【0039】
図2A図2Eは、いくつかの例による流体ダイのDSO層の形成の一例を示す。図2Aは、流体領域202及び非流体領域204を含む部分的に形成された流体ダイ200を示す。流体ダイ200の流体領域202は、流体アクチュエータに関連する、流体チャンバ110等の流体チャンバを含む領域である。図2Aの例では、流体領域202は、流体チャンバの2つのアレイ(例えば、ノズルの2つの列の一部である流体チャンバの2つの列)を含む。
【0040】
非流体領域204は、流体領域202から外れた領域である。非流体領域204に(図1に示す112等の)電気的構造体を形成することができる。
【0041】
図2B図2Eは、DSO層の形成の様々なそれぞれの段階における、図2Aの流体ダイ200の(断面2E−2Eに沿った)断面図である。
【0042】
図2Bでは、部分的に形成された流体ダイ200の上に、(図1の誘電体層118の一例である)SiN層206が形成されている。次に、図2Cに示すように、SiN層206に窓208を形成するように、(例えば、ウェットエッチング、ドライエッチング、フォトパターニング等により)SiN層206がエッチングされている。窓208は、流体ダイ200の流体領域202に対応する。
【0043】
次に、図2Dに示すように、パターニングされたSiN層206の上にSiC層210が形成されている。SiC層210は、図1の接着層120の一例である。SiC層210は、SiN層206を覆い、SiN層206が除去された窓208にも形成されている。
【0044】
次に、図2Eに示すように、SiC層210に、流体チャンバ110(流体アクチュエータ)に対応する開口部212を形成するように、SiC層210がエッチングされている。こうした開口部212の一例は、図1に示す開口部120−2である。
【0045】
開口部212を形成するSiC層210のエッチングに続き、SiC層210の上に、流体障壁層(例えば、図1の116)を形成することができる。SiN層206及びSiC層210を含むDSO層は、流体ダイ200のメタライズ部分と流体障壁層との間に接着性障壁層を提供する。そして、流体障壁層にフォトリソグラフィ処理を施すことができ、SiC層部分は、流体領域202内に突出して、より高密度の流体チャンバを製造するのに役立つ反射防止材料を提供する。
【0046】
本開示のいくつかの実施態様による接着性障壁層を用いることにより、流体ダイの非流体領域に誘電体層及び接着層の双方が存在することが、電気的構造体の腐食をもたらす可能性がある流体の侵入から電気的構造体を保護するのに役立つ。さらに、流体ダイの流体領域において接着層を含むが誘電体層は含まない接着性障壁層を用いることにより、流体の腐食効果から誘電体層を隔離することができ、また、接着層の反射防止特性が、流体障壁層においてより厳しい公差で流体チャンバを製造するのに役立つことができる。接着性障壁層の接着層は、接着性障壁層の誘電体層より反射防止性が高い。
【0047】
図3は、基板302と、基板302によって支持されている流体障壁層306に形成された流体チャンバ308を備える流体領域304と、流体チャンバ308に関連する流体アクチュエータ310と、流体領域304から離れて位置決めされている電気的構造体312とを備える、流体ダイ300のブロック図である。
【0048】
流体アクチュエータ310の上に、金属層314が設けられている。金属層314は、流体チャンバ308内の流体遷移によってもたらされる衝撃から流体アクチュエータ310を保護するキャビテーション障壁層の一部である。
【0049】
接着性障壁層(例えば、DSO層)316が、金属層314を流体障壁層306に接着する。接着性障壁層316は、誘電体(例えば、SiN)層318及び接着(例えば、SiC)層320を備える第1の接着性障壁層部分と、接着層320を備えるが誘電体層318の無い第2の接着性障壁層部分とを含む。第1の接着性障壁層部分は、電気的構造体312の上に形成され、第2の接着性障壁層部分は、流体領域304内に形成されている。第2の接着性障壁層部分の接着層320は、流体チャンバ308内に突出している(322)。
【0050】
図4は、いくつかの例による流体ダイを形成するプロセスのフロー図である。本プロセスは、(402において)基板の上に流体アクチュエータを形成するステップと、(404において)基板の上に電気的構造体を形成するステップと、(406において)流体アクチュエータの上にキャビテーション障壁層を形成するステップと、(408において)キャビテーション障壁層及び電気的構造体の上に接着性障壁層を形成するステップとを含む。
【0051】
(408において)接着性障壁層を形成するステップは、(410において)キャビテーション障壁層及び電気的構造体の上に誘電体層を形成することと、(412において)流体領域から離れて誘電体層をパターニングすることと、(414において)パターニングされた誘電体層の上に接着層をコーティングすることとを含み、電気的構造体を覆う接着性障壁層の第1の部分は、誘電体層及び接着層を含み、流体領域における接着性障壁層の第2の部分は、誘電体層の無い接着層を含む。
【0052】
本プロセスは、(416において)流体領域の一部である流体チャンバを画定する流体障壁層を形成するステップを更に含み、接着性障壁層は流体障壁層に金属層を接着し、第2の接着性障壁層部分の接着層は流体チャンバ内に突出する。
【0053】
上記の説明において、本明細書において開示される主題を理解してもらうために、数多くの細部が記述されている。しかしながら、これらの細部のいくつかを用いることなく、実施態様を実施することができる。他の実施態様は、上記で論じられた細部からの変更及び変形を含むことができる。添付の特許請求の範囲は、そのような変更及び変形を包含することを意図している。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4