【文献】
源聡、ほか2名,マテリアルズインテグレーション的手法を用いた熱力学解析,2017年(第161回)秋期講演大会 日本金属学会講演概要集[CD−ROM],公益社団法人日本金属学会,2017年08月23日,p.1(S9.20)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記学習用データ作成部は、前記設計条件の所定範囲の組合せから成る前記説明変数を作成し、CALPHAD法を用いて前記目的変数を算出して、前記作成した前記説明変数と前記算出した前記目的変数とを含む前記学習用データを作成する、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の予測装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CALPHAD法は平衡状態として最小のギブズエネルギーを与える状態を探索するシミュレーション手法であり、計算に時間がかかる。1つの材料組成に対して熱力学的平衡計算を行って状態図を予測するには、CALPHAD法は現実的な時間内に実施できるが、多数の材料組成に対して状態図を予測してスクリーニングを実施するには時間がかかり過ぎ、現実的ではない。例えば合金材料について10000通りの説明変数(組成や製造条件の組)をスクリーニングすべく全合金組成の状態図を算出しようとすると、各組の計算に約90秒かかるので、合計で約250時間の時間を要する。
【0005】
本発明は、熱力学的平衡状態を短時間で計算できる熱力学的平衡状態の予測装置、予測方法、及び予測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施態様は、以下に示す構成を備える。
【0007】
[1] 対象材料の熱力学的平衡状態の予測装置であって、
前記対象材料の設計条件に係る説明変数の入力に基づいて、前記熱力学的平衡状態に係る目的変数を出力するモデルと、
所定の設計条件の入力と、該設計条件に基づき生じ得る前記熱力学的平衡状態の出力とを含む学習用データを作成する学習用データ作成部と、
前記学習用データ作成部により作成された前記学習用データを用いて、前記モデルの入出力関係が前記学習用データの入出力関係に近づくように機械学習を行うモデル学習部と、
前記対象材料の熱力学的平衡状態の予測に用いる予測用説明変数を設定する説明変数設定部と、
前記モデル学習部による機械学習が済んだ前記モデルへの前記予測用説明変数の入力に基づき、前記熱力学的平衡状態の予測結果である予測用目的変数を前記モデルから出力する予測部と、
を備える予測装置。
【0008】
[2] 前記予測部により出力された前記予測用目的変数に基づき前記熱力学的平衡状態の状態図を作成して表示する状態図表示部を備える、[1]に記載の予測装置。
【0009】
[3] 前記モデルは多層ニューラルネットワークであり、
前記モデル学習部はディープラーニングを用いて前記モデルの学習を行う、
[1]または[2]に記載の予測装置。
【0010】
[4] 前記モデルの出力である前記目的変数は、前記対象材料の熱力学的平衡状態における相分率であり、
前記多層ニューラルネットワークの出力層のニューロンにはソフトマックス関数が用いられる、
[3]に記載の予測装置。
【0011】
[5] 前記学習用データ作成部は、前記設計条件の所定範囲の組合せから成る前記説明変数を作成し、CALPHAD法を用いて前記目的変数を算出して、前記作成した前記説明変数と前記算出した前記目的変数とを含む前記学習用データを作成する、
[1]〜[4]のいずれか1項に記載の予測装置。
【0012】
[6] 前記対象材料がアルミニウム合金であり、
前記説明変数が前記アルミニウム合金の組成及び製造条件を含み、
前記目的変数が前記アルミニウム合金の熱力学的平衡状態での相分率を含む、
[1]〜[5]のいずれか1項に記載の予測装置。
【0013】
[7]
対象材料の熱力学的平衡状態の予測方法であって、
前記対象材料の設計条件に係る説明変数の入力に基づいて、前記熱力学的平衡状態に係る目的変数を出力するモデルに関して、所定の設計条件の入力と、該設計条件に基づき生じ得る前記熱力学的平衡状態の出力とを含む学習用データを作成する学習用データ作成ステップと、
前記学習用データ作成ステップにて作成された前記学習用データを用いて、前記モデルの入出力関係が前記学習用データの入出力関係に近づくように機械学習を行うモデル学習ステップと、
前記対象材料の熱力学的平衡状態の予測に用いる予測用説明変数を設定する説明変数設定ステップと、
前記説明変数設定ステップにて設定された前記予測用説明変数の、前記モデル学習ステップにて機械学習が済んだ前記モデルへの入力に基づき、前記熱力学的平衡状態の予測結果である予測用目的変数を前記モデルから出力する予測ステップと、
を含む予測方法。
【0014】
[8] 対象材料の熱力学的平衡状態の予測プログラムであって、
前記対象材料の設計条件に係る説明変数の入力に基づいて、前記熱力学的平衡状態に係る目的変数を出力するモデルに関して、所定の設計条件の入力と、該設計条件に基づき生じ得る前記熱力学的平衡状態の出力とを含む学習用データを作成する学習用データ作成機能と、
前記学習用データ作成機能により作成された前記学習用データを用いて、前記モデルの入出力関係が前記学習用データの入出力関係に近づくように機械学習を行うモデル学習機能と、
前記対象材料の熱力学的平衡状態の予測に用いる予測用説明変数を設定する説明変数設定機能と、
前記説明変数設定機能により設定された前記予測用説明変数の、前記モデル学習機能により機械学習が済んだ前記モデルへの入力に基づき、前記熱力学的平衡状態の予測結果である予測用目的変数を前記モデルから出力する予測機能と、
をコンピュータに実現させるための予測プログラム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱力学的平衡状態を短時間で計算できる熱力学的平衡状態の予測装置、予測方法、及び予測プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0018】
図1〜
図5を参照して実施形態に係る熱力学的平衡状態の予測装置1(以下では単に「予測装置1」とも表記する)の構成を説明する。
図1は、実施形態に係る予測装置1の概略構成を示すブロック図である。予測装置1は、複数の組成からなる材料、または、複数の製造条件の組合せにより製造される材料を含む対象材料の熱力学系平衡状態や状態図を予測するための装置である。本実施形態では、予測対象材料の一例として、アルミニウム合金を挙げて説明する。
【0019】
図1に示すように、予測装置1は、モデル2と、学習用データ作成部3と、モデル学習部4と、説明変数設定部5と、予測部6と、状態図表示部7とを備える。
【0020】
モデル2は、対象材料の設計条件に係る説明変数(アルミニウム合金の組成、製造条件)の入力に基づいて、熱力学的平衡状態に係る目的変数(熱力学的平衡状態における化合物の相分率)を出力する。モデル2は、教師あり学習モデルであり、熱力学的平衡状態の予測を行う前段階として、モデル学習部4によって機械学習が行われて、説明変数と目的変数との対応関係、すなわちモデル2の入出力関係が学習される。
【0021】
本実施形態では、モデル2は
図1に示すように入力層と、複数の中間層と、出力層とを有する多層ニューラルネットワークである。モデル2の入力層の各ニューロンは、説明変数の各項目と同数設けられ、各項目の数値が入力される。
図1では、製造条件として温度T(℃)と、原料組成として添加元素3種のSi、Cu、Mgの重量百分率(wt%)の数値が入力層の各ニューロンに入力される。モデル2の出力層の各ニューロンは、目的変数の各項目と同数設けられ、各項目の数値が出力される。
【0022】
また、モデル2の多層ニューラルネットワークの出力層にはソフトマックス関数が用いられる。つまり、モデル2の複数の出力のそれぞれが0から1の範囲であり、かつ、複数の出力の総和が1となる。上述のように本実施形態ではモデル2の出力は熱力学的平衡状態における各化合物の相分率なので、ソフトマックス関数を出力層に用いることにより、モデル2の出力値に追加演算を行わずに相分率として利用でき、計算コストを低減できる。
【0023】
学習用データ作成部3は、モデル2の学習用データを作成する。学習用データは、所定の設計条件の入力と、該設計条件に基づき生じ得る熱力学的平衡状態の出力とを含む。学習用データ作成部3は、アルミニウム合金の設計条件(組成、製造条件)の所定範囲の組合せから成る説明変数を作成し、CALPHAD法を用いて目的変数を算出して、作成した説明変数と、算出した目的変数とを含む学習用データを作成する。
【0024】
図2は、4元系の学習用データの一例を示す図である。
図2の学習用データは、説明変数として、アルミニウム合金の組成のうち添加元素3種のSi、Cu、Mgの重量百分率(wt%)、及び製造条件のうち温度(℃)の4個の項目を含み、目的変数として、入力の3種の組成に基づく9種の化合物の相分率を含む、4元系の学習用データである。4元系の学習用データを採用する場合、
図1に例示するように、モデル2の入力層のニューロンの数は4個、出力層のニューロンの数は9個となる。
【0025】
なお、説明変数の組成Si、Cu、Mgの重量百分率は、例えば各元素の数値を所定範囲内で振った数値群を作成し、各元素の数値群の全組合せである。また、説明変数の温度の数値は、所定の温度範囲(例えば0〜1000℃)内で振った数値群である。これらの組成の全組合せのそれぞれに、温度の数値群が組み合わされて説明変数の組が生成される。目的変数の化合物の数は、説明変数に含む組成の内容に応じて決まる。
【0026】
図4は、9元系の学習用データの一例を示す図である。
図4の学習用データは、説明変数として、アルミニウム合金の組成として添加元素8種Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Ni、Znの重量百分率、及び製造条件の温度(℃)の9個の項目を含み、目的変数として入力の8種の組成に基づく35種の化合物の相分率を含む、9元系の学習用データである。9元系の学習用データを採用する場合、モデル2の入力層のニューロンの数は9個、出力層のニューロンの数は35個となる。
【0027】
なお、説明変数に含める組成の種類としては上記の添加元素3種、8種等に限られず、任意の種類と数を設定できる。また、説明変数に含める製造条件の項目は温度以外のものでもよく、ガス雰囲気などを含めてもよい。
【0028】
モデル学習部4は、学習用データ作成部3により作成された学習用データを用いて、モデル2の入出力関係が学習用データの入出力関係に近づくように機械学習を行う。本実施形態では、モデル学習部4はディープラーニングを用いてモデル2の機械学習を行う。
【0029】
図3は、
図2に示した4元系の学習データを用いた場合の学習結果を示す図である。
図3の(a)は学習用データの目的変数から作成した状態図を示し、(b)はその拡大図である。
図3の(c)は学習用データの説明変数の入力に基づく学習済みのモデル2の出力から作成した状態図を示し、(d)はその拡大図である。状態図は、目的変数のSi、Cu、Mgの重量百分率の各組合せごとに、目的変数の温度範囲に亘って作成される。なお
図3の例では目的変数は実際には9項目であるが、紙面の都合上代表的なものを図示している。
図3に示す各状態図の横軸は温度(℃)を示し、縦軸は熱力学的平衡状態における各化合物の相分率を示す。
図3の(a)、(b)と(c)、(d)とを比較すれば、4元系では学習済みのモデル2の出力が学習用データに則していることがわかる。
【0030】
図5は、
図4に示した9元系の学習データを用いた場合の学習結果を示す図である。
図5の(a)は学習用データの目的変数から作成した状態図を示し、(b)は学習用データの説明変数の入力に基づく学習済みのモデル2の出力から作成した状態図を示す。なお
図5の例では目的変数は実際には35項目であるが、紙面の都合上代表的なものを図示している。
図5の(a)と(b)とを比較すれば、9元系の学習データを用いた場合でも4元系の学習データを用いた場合と同様に学習済みのモデル2の出力が学習用データに則していることがわかる。
【0031】
なお、モデル学習部4によるモデル2の機械学習は、学習用データの各データセットの出力誤差を解消するよう学習する構成でもよいし、
図3(c)や
図5(b)に例示したモデル2出力に基づく状態図が、
図3(a)や
図5(a)に例示した学習用データの状態図に近づくように学習する構成でもよい。
【0032】
説明変数設定部5は、対象材料の熱力学的平衡状態の予測に用いる予測用の説明変数を設定する。説明変数設定部5は、例えば表示装置上のGUIなどに各種設計条件の入力画面を表示して設計者に入力を促すことによって、説明変数を設定できる。
【0033】
予測部6は、説明変数設定部5により設定された予測用説明変数を、モデル学習部4による機械学習が済んだモデル2へ入力することによって、熱力学的平衡状態の予測結果である予測用の目的変数をモデル2から出力する。
【0034】
状態図表示部7は、予測部6により出力された予測用の目的変数に基づき、対象材料の熱力学的平衡状態の状態図を作成して表示する。
【0035】
図6は、予測装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。
図6に示すように、予測装置1は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)101、GPU(Graphics Processing Unit)108、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)102およびROM(Read Only Memory)103、入力デバイスであるキーボード及びマウス等の入力装置104、ディスプレイ等の出力装置105、ネットワークカード等のデータ送受信デバイスである通信モジュール106、ハードディスク等の補助記憶装置107、などを含むコンピュータシステムとして構成することができる。
【0036】
図1に示す予測装置1の各機能は、CPU101、RAM102等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェア(予測プログラム)を読み込ませることにより、CPU101の制御のもとで通信モジュール106、入力装置104、出力装置105を動作させるとともに、RAM102や補助記憶装置107におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。すなわち、本実施形態の予測プログラムをコンピュータ上で実行させることで、予測装置1は、
図1のモデル2と、学習用データ作成部3と、モデル学習部4と、説明変数設定部5と、予測部6と、状態図表示部7として機能する。
【0037】
本実施形態の予測プログラムは、例えばコンピュータが備える記憶装置内に格納される。なお、予測プログラムは、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、コンピュータが備える通信モジュール106等により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。また、予測プログラムは、その一部又は全部が、CD−ROM、DVD−ROM、フラッシュメモリなどの持ち運び可能な記憶媒体に格納された状態から、コンピュータ内に記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【0038】
図7は、実施形態に係る予測装置1により実施される熱力学的平衡状態の予測処理のフローチャートである。
【0039】
ステップS1では、学習用データ作成部3により、モデル2の学習用データが作成される(学習用データ作成ステップ)。学習用データ作成部3は、設計者による組成や製造条件(温度など)の指定範囲の入力に応じて、この指定範囲内を網羅するように説明変数の組を作成し、作成したすべての説明変数の組を使ってCALPHAD法により目的変数を算出し、説明変数と紐づけて、例えば
図2、
図4に示す4元系や9元系の学習用データを作成する。
【0040】
ステップS2では、モデル学習部4により、ステップS1にて作成された学習用データを用いて、モデル2の機械学習が行われる(モデル学習ステップ)。モデル学習部4は、学習用データの説明変数の入力に応じて、この説明変数に紐づけられた目的変数と合致した出力となるように、多層ニューラルネットワークの各層間のウェイトを調整して、モデル2の学習を行う。モデル学習部4は、例えばディープラーニングを用いてモデル2の学習を行う。
【0041】
ステップS3では、説明変数設定部5により、対象材料の熱力学的平衡状態の予測に用いる予測用の説明変数が設定される(説明変数設定ステップ)。
【0042】
ステップS4では、予測部6により、学習済みのモデル2を用いて対象材料の熱力学的平衡状態が予測される(予測ステップ)。予測部6は、ステップS3にて設定された説明変数をステップS2にて機械学習が済んだモデル2へ入力し、モデル2から出力される熱力学的平衡状態の予測結果である予測用の目的変数を取得する。
【0043】
ステップS5では、状態図表示部7により、予測部6により出力された予測用の目的変数に基づき、対象材料の熱力学的平衡状態の状態図が作成されて表示される。
【0044】
本実施形態の効果を説明する。本実施形態の予測装置1は、対象材料の設計条件に係る説明変数の入力に基づいて、熱力学的平衡状態に係る目的変数を出力するモデル2と、所定の設計条件の入力と、該設計条件に基づき生じ得る熱力学的平衡状態の出力とを含む学習用データを作成する学習用データ作成部3と、学習用データ作成部3により作成された学習用データを用いて、モデル2の入出力関係が学習用データの入出力関係に近づくように機械学習を行うモデル学習部4と、対象材料の熱力学的平衡状態の予測に用いる予測用説明変数を設定する説明変数設定部5と、モデル学習部4による機械学習が済んだモデル2への予測用説明変数の入力に基づき、熱力学的平衡状態の予測結果である予測用目的変数をモデル2から出力する予測部6と、を備える。
【0045】
この構成により、学習済みのモデル2に予測用の目的変数を入力するだけで、この目的変数に応じた熱力学的平衡状態の予測結果である予測用目的変数がモデル2から出力されるので、従来のCALPHAD法などのシミュレーションに比べて目的変数を算出するまでの計算コストを格段に低減でき、熱力学的平衡状態を短時間で計算できる。例えば10000通りの説明変数(組成や製造条件の組)をスクリーニングすべく全組成の状態図を算出しようとすると、シミュレーションの場合、各組の計算に約90秒かかるので、合計で約250時間の時間を要するが、本実施形態の場合、各組の計算時間は約3ミリ秒なので、合計で約30秒で済む。
【0046】
また、この構成により、学習済みのモデル2の汎化能力を利用して、学習用データの説明変数とは異なる未知の入力に対しても適切な予測用の目的変数を出力できるので、熱力学的平衡状態の予測を高精度に行うことができる。つまり、従来のシミュレーション手法では未知の入力の場合には再度シミュレーション演算を行う必要があったのに対して、本実施形態では一度学習済みのモデル2を獲得すれば、モデル2の追加学習を行わなくても未知の入力に対して適切な出力を得ることができる。これにより、組成の網羅的な解析を短時間かつ高精度で実施できるので、従来のシミュレーションでは現実的ではなかった大量の組成のスクリーニングも可能となり、より最適な設計条件の抽出が可能となる。
【0047】
また、本実施形態の予測装置1は、予測部6により出力された予測用目的変数に基づき熱力学的平衡状態の状態図を作成して表示する状態図表示部7を備える。この構成により、設計者に対して対象材料の熱力学的平衡状態の予測結果を視覚的に提示できるので、設計者が予測結果を容易に理解できる。
【0048】
また、本実施形態の予測装置1では、モデル2が多層ニューラルネットワークであり、モデル学習部4はディープラーニングを用いてモデルの学習を行うので、学習を高速かつ高精度に行うことができ、熱力学的平衡状態の予測をより高精度にできる。
【0049】
また、本実施形態の予測装置1では、モデル2の出力である目的変数は、対象材料の熱力学的平衡状態における相分率であり、モデル2の多層ニューラルネットワークの出力層のニューロンはソフトマックス関数に基づき出力値を算出する。この構成により、出力の総和が常に1となるように維持できるので、相分率をモデル2の出力とする本実施形態では、各出力をそのまま相分率として使用でき、計算コストをさらに低減できる。
【0050】
また、本実施形態の予測装置1では、学習用データ作成部3は、説明変数を作成し、CALPHAD法を用いて目的変数を算出して学習用データを作成するので、目的変数を精度良く算出でき、学習用データの精度を向上できる。
【0051】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0052】
上記実施形態では、予測装置1が熱力学系平衡状態を予測する対象材料としてアルミニウム合金を挙げたが、アルミニウム合金以外の合金系を対象材料としてもよい。このような合金系としては、Fe合金、Cu合金、Ni合金、Co合金、Ti合金、Mg合金、Mn合金、Zn合金などが挙げられる。また、セラミックス、水溶液、化学反応等の合金以外を対象材料としてもよい。
【0053】
上記実施形態では、モデル2として多層ニューラルネットワークを例示し、モデル2の機械学習手法としてディープラーニングを例示したが、モデル2や学習手法はこれに限られず、遺伝的アルゴリズムなどの他の教師あり学習モデルや、ランダムフォレスト回帰やカーネルリッジ回帰などの他の機械学習手法を用いることもできる。
【0054】
上記実施形態では、学習用データ作成部3が、モデル2の学習用データをCALPHAD法で計算して作成する構成を例示したが、熱力学計算等を行ったシミュレーション結果ではなく実験結果を用いて学習用データを作成する構成でもよい。例えば、組成を変えて製造した種々の合金材料について、種々の温度に保持して平衡状態に達した後、この平衡状態を凍結するため低温へ急冷して、各種分析によって合金材料中における化合物の種類と相分率を算出する方法が挙げられる。分析の方法としては、例えばX線回折測定により得られたピーク位置から化合物の種類を特定し、ピーク強度比から相分率を算出する方法や、走査型電子顕微(Scanning Electron Microscope(SEM))や透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope(TEM))といった電子顕微鏡観察において、観察した対象視野に対してエネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X−ray spectrometry(EDS))を行い、相の種類を特定するとともに、観察像における各相の粒子のそれぞれの合計面積率から相分率を算出する方法が考えられる。
【0055】
上記実施形態では、予測装置1が状態図表示部7によって、最終的に熱力学的平衡状態の状態図を出力する構成を例示したが、予測装置1が予測部6から出力される予測結果の数値を出力し、状態図を出力しない構成でもよい。
【0056】
上記実施形態では、モデル2の出力が熱力学的平衡状態における化合物の相分率である構成を例示したが、モデル2の出力は熱力学的平衡状態に係る情報であればよく、相分率以外でもよい。
【0057】
本国際出願は2018年10月31日に出願された日本国特許出願2018−206017号に基づく優先権を主張するものであり、2018−206017号の全内容をここに本国際出願に援用する。