特許第6963186号(P6963186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963186
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】動力伝達用潤滑油基油
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/36 20060101AFI20211025BHJP
   C10M 177/00 20060101ALI20211025BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20211025BHJP
   C07C 69/75 20060101ALI20211025BHJP
   C07C 69/753 20060101ALI20211025BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20211025BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20211025BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20211025BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20211025BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20211025BHJP
   C10N 70/00 20060101ALN20211025BHJP
【FI】
   C10M105/36
   C10M177/00
   C07C67/08
   C07C69/75 ZCSP
   C07C69/753 C
   !C07B61/00 300
   C10N20:00 A
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N40:04
   C10N70:00
【請求項の数】15
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2018-526408(P2018-526408)
(86)(22)【出願日】2017年7月5日
(86)【国際出願番号】JP2017024586
(87)【国際公開番号】WO2018008667
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2020年4月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-134982(P2016-134982)
(32)【優先日】2016年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000191250
【氏名又は名称】新日本理化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹上 明伸
(72)【発明者】
【氏名】辻本 真也
(72)【発明者】
【氏名】川原 康行
(72)【発明者】
【氏名】伊槻 潤
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/093088(WO,A1)
【文献】 特開2016−108543(JP,A)
【文献】 特開2008−056800(JP,A)
【文献】 国際公開第01/005740(WO,A1)
【文献】 特開2001−089776(JP,A)
【文献】 特開昭59−191797(JP,A)
【文献】 特開2011−079794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 105/36
C10M 177/00
C07C 67/08
C07C 69/75
C07C 69/753
C07B 61/00
C10N 20/00
C10N 20/02
C10N 30/00
C10N 40/04
C10N 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、2つのR、2つのR、2つのR、2つのR及び2つのRは、それぞれ同一又は異なっていてもよい。環Aは、
【化2】
(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは0、1又は2を示す。nが2の場合、Rは同一又は異なっていてもよい。)を示す。]
で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を含有する動力伝達用潤滑油基油。
【請求項2】
及びRが水素原子である、請求項1に記載の動力伝達用潤滑油基油。
【請求項3】
、R及びRが水素原子である、請求項1又は2に記載の動力伝達用潤滑油基油。
【請求項4】
nが0又は1であり、Rが炭素数1〜3のアルキル基である、請求項1〜3のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【請求項5】
環Aが、
【化3】
[式中、R及びnは前記に同じ。]
である、請求項1〜4のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【請求項6】
一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の含有量が、動力伝達用潤滑油基油中、70重量%以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【請求項7】
60℃におけるトラクション係数が0.095以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【請求項8】
引火点が210℃以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【請求項9】
流動点が3℃以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【請求項10】
100℃における動粘度が4〜25mm/sである、請求項1〜9のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【請求項11】
前記動力伝達用潤滑油基油がトラクションドライブ用潤滑油基油である、請求項1〜10のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油を含有する動力伝達用潤滑油。
【請求項13】
一般式(1):
【化4】
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、2つのR、2つのR、2つのR、2つのR及び2つのRは、それぞれ同一又は異なっていてもよい。環Aは、
【化5】
(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは0、1又は2を示す。nが2の場合、Rは同一又は異なっていてもよい。)を示す。]
で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物。
【請求項14】
(a)Rが炭素数1〜3のアルキル基であり且つnが1又は2である、或いは、(b)R及び/又はRが炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基である、請求項13に記載の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物。
【請求項15】
前記請求項13に記載の一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の製造方法であって、一般式(2):
【化6】
[式中、環Aは、
【化7】
(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは0、1又は2を示す。nが2の場合、Rは同一又は異なっていてもよい。)を示す。]
で表されるジカルボン酸、その無水物又はそのジカルボン酸ハライド、及び、一般式(3):
【化8】
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]
で表されるアルコールを反応させることを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達用潤滑油基油に関する。具体的には、トラクションドライブ用潤滑油基油に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル情報社会化が進み、印刷機及び複写機への要求精度が高まっている。特に紙の高精度送りが求められるモータ部では、高回転精度、低振動及び低騒音化が求められている。これらの回転部の動力伝達手段として歯車方式を採用した場合には振動や騒音が大きい為、それらの少ないトラクションドライブが多く用いられている。
【0003】
また、産業用ロボットの普及も進み、精密な動きが求められる関節部分にもトラクションドライブが用いられる。他には産業機器用無段変速機、航空機のジェネレータ、ヘリコプターのローター回転数制御などの分野でトラクションドライブの実用化が進展している。動力伝達量を大きくする為に、トラクションドライブの大型化の検討が進められてきているが、接触面積の増大に伴い発熱量も多くなる傾向があった。
【0004】
トラクションドライブ用潤滑油基油は、動力伝達能を高めるべく、高いトラクション係数を有するものが好ましく、脂環式炭化水素化合物等が提案されている。例えば、2−メチル−2,4−ジシクロヘキシルペンタンで代表されるジシクロヘキシル化合物、二量化ノルボルナン類などが挙げられる(特許文献1及び2)。
【0005】
しかしながら、2−メチル−2,4−ジシクロヘキシルペンタンに代表される脂環式炭化水素化合物は引火点が200℃以下と低くなる傾向が強く、大型のトラクションドライブ等が採用される耐熱性や安全性が重要視される分野では必ずしも十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭47−7664号公報
【特許文献2】特開平3−95295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、トラクション係数が高く、引火点が高い動力伝達用潤滑油基油(特に、トラクションドライブ用潤滑油基油)を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物が高いトラクション係数及び高い引火点を有することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて更に検討を加えることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、以下の項目の動力伝達用潤滑油基油(特に、トラクションドライブ用潤滑油基油)を提供するものである。
【0010】
[項1]
一般式(1):
【0011】
【化1】
【0012】
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、2つのR、2つのR、2つのR、2つのR及び2つのRは、それぞれ同一又は異なっていてもよい。環Aは、
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは0、1又は2を示す。nが2の場合、Rは同一又は異なっていてもよい。)を示す。]
で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を含有する動力伝達用潤滑油基油。
【0015】
[項2]
及びRが水素原子である、項1に記載の動力伝達用潤滑油基油。
【0016】
[項3]
、R及びRが水素原子である、項1又は2に記載の動力伝達用潤滑油基油。
【0017】
[項4]
nが0又は1であり、Rが炭素数1〜3のアルキル基(好ましくはメチル基)である、項1〜3のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【0018】
[項5]
環Aが、
【0019】
【化3】
【0020】
[式中、R及びnは前記に同じ。]
である、項1〜4のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【0021】
[項6]
一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の含有量が、動力伝達用潤滑油基油中、70重量%以上である、項1〜4のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【0022】
[項7]
60℃におけるトラクション係数が0.095以上である、項1〜6のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【0023】
[項8]
引火点が210℃以上である、項1〜7のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【0024】
[項9]
流動点が3℃以下(好ましくは1℃以下、より好ましくは−5℃以下)である、項1〜8のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【0025】
[項10]
100℃における動粘度が4〜25mm/s(好ましくは5〜20mm/s)である、項1〜9のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【0026】
[項11]
前記動力伝達用潤滑油基油がトラクションドライブ用潤滑油基油である、項1〜10のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油。
【0027】
[項12]
項1〜11のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油を含有する動力伝達用潤滑油。
【0028】
[項13]
さらに、酸化防止剤、金属清浄剤、無灰分散剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、金属不活性剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、加水分解抑制剤、増ちょう剤、腐食防止剤及び色相安定剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤を含有する、項1〜12のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油。
【0029】
[項14]
前記一般式(1):
【0030】
【化4】
【0031】
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、2つのR、2つのR、2つのR、2つのR及び2つのRは、それぞれ同一又は異なっていてもよい。環Aは、
【0032】
【化5】
【0033】
(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは0、1又は2を示す。nが2の場合、Rは同一又は異なっていてもよい。)を示す。]
で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物。
【0034】
[項15]
環Aが、
【0035】
【化6】
【0036】
[式中、R及びnは前記に同じ。]
である、項14に記載の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物。
【0037】
[項16]
(a)Rが炭素数1〜3のアルキル基(特にメチル基)であり且つnが1又は2である、或いは、(b)R及び/又はRが炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基(特にメチル基)である、項14又は15に記載の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物。
【0038】
[項17]
(a’)Rが炭素数1〜3のアルキル基(特にメチル基)であり且つnが1である、或いは、(b’)R及びRのいずれか一方が炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基(特にメチル基)であり他方が水素原子である、又はR及びRの両方が炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基(特にメチル基)であり、且つR、R及びRが水素原子である、項14〜16のいずれかに記載の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物。
【0039】
[項18]
酸価が0.1mgKOH/g以下、水酸基価が2mgKOH/g以下である、項14〜17のいずれかに記載の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物。
【0040】
[項19]
60℃におけるトラクション係数が0.095以上である、項14〜18のいずれかに記載の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物。
【0041】
[項20]
項1〜11のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油又は項14〜19のいずれかに記載の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を、動力伝達用潤滑油に含有させることを特徴とする、動力伝達用潤滑油のトラクション係数を向上させる方法。
【0042】
[項21]
項1〜11のいずれかに記載の動力伝達用潤滑油基油又は項14〜19のいずれかに記載の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物のトラクション係数向上剤としての使用。
【0043】
[項22]
2以上の回転体、及び、項12又は13に記載の動力伝達用潤滑油を含むトラクション変速機。
【0044】
[項23]
2以上の回転体、及び、項12又は13に記載の動力伝達用潤滑油を含むトラクション減速機。
【0045】
[項24]
前記一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の製造方法であって、一般式(2):
【0046】
【化7】
【0047】
[式中、環Aは前記に同じ。]
で表されるジカルボン酸、その無水物又はそのジカルボン酸ハライド、及び、一般式(3):
【0048】
【化8】
【0049】
[式中、R〜Rは前記に同じ。]
で表されるアルコールを反応させることを含む、製造方法。
【発明の効果】
【0050】
本発明の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物は、トラクション係数が高く、引火点が高いという特徴を有しているため、動力伝達用潤滑油基油(特に、トラクションドライブ用潤滑油基油)として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】実施例1で得られた1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)のIRスペクトルである。
図2】実施例1で得られた1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)のH−NMRスペクトルである。
図3】実施例1で得られた1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)の13C−NMRスペクトルである。
図4】実施例2で得られた1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)のIRスペクトルである。
図5】実施例2で得られた1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)のH−NMRスペクトルである。
図6】実施例2で得られた1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)の13C−NMRスペクトルである。
図7】実施例3で得られた1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)のIRスペクトルである。
図8】実施例3で得られた1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)のH−NMRスペクトルである。
図9】実施例3で得られた1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)の13C−NMRスペクトルである。
図10】実施例4で得られた4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)のIRスペクトルである。
図11】実施例4で得られた4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)のH−NMRスペクトルである。
図12】実施例4で得られた4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)の13C−NMRスペクトルである。
図13】実施例5で得られた4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)のIRスペクトルである。
図14】実施例5で得られた4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)のH−NMRスペクトルである。
図15】実施例5で得られた4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)の13C−NMRスペクトルである。
図16】実施例6で得られた4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)のIRスペクトルである。
図17】実施例6で得られた4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)のH−NMRスペクトルである。
図18】実施例6で得られた4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)の13C−NMRスペクトルである。
図19】実施例7で得られたメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)及びビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)の混合物のIRスペクトルである。
図20】実施例7で得られたメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)及びビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)の混合物のH−NMRスペクトルである。
図21】実施例7で得られたメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)及びビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)の混合物の13C−NMRスペクトルである。
図22】実施例8で得られたメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)及びビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)の混合物のIRスペクトルである。
図23】実施例8で得られたメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)及びビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)の混合物のH−NMRスペクトルである。
図24】実施例8で得られたメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)及びビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)の混合物の13C−NMRスペクトルである。
図25】実施例9で得られたメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)及びビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)の混合物のIRスペクトルである。
図26】実施例9で得られたメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)及びビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)の混合物のH−NMRスペクトルである。
図27】実施例9で得られたメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)及びビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)の混合物の13C−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明の動力伝達用潤滑油基油は、一般式(1):
【0053】
【化9】
【0054】
[式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、2つのR、2つのR、2つのR、2つのR及び2つのRは、それぞれ同一又は異なっていてもよい。環Aは、
【0055】
【化10】
【0056】
(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは0、1又は2を示す。nが2の場合、Rは同一又は異なっていてもよい。)を示す。]
で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を含有していることを特徴とする。
【0057】
動力伝達用潤滑油基油としては、例えば、トラクションドライブ用潤滑油基油、無段変速機用潤滑油基油等が上げられる。好ましくはトラクションドライブ用潤滑油基油である。
【0058】
〜Rで示される「炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基が挙げられる。好ましくはメチル基である。
【0059】
Rで示される「炭素数1〜3のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基が挙げられる。好ましくはメチル基である。
【0060】
nは0、1又は2であり、好ましくはnが0又は1である。
【0061】
及びRが水素原子であることが好ましく、R、R及びRが水素原子であることがより好ましい。
【0062】
及びRが水素原子であり、R、R及びRが、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基(特にメチル基)であることが好ましい。
【0063】
、R及びRが水素原子であり、R及びRが、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基(特にメチル基)であることがより好ましい。
【0064】
nが0又は1であり、Rが炭素数1〜3のアルキル基(特にメチル基)であることが好ましい。
【0065】
(a)Rが炭素数1〜3のアルキル基(特にメチル基)であり且つnが1又は2である、或いは、(b)R及び/又はRが炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基(特にメチル基)であることが好ましい。
【0066】
(a’)Rが炭素数1〜3のアルキル基(特にメチル基)であり且つnが1である、或いは、(b’)R及びRのいずれか一方が炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基(特にメチル基)であり他方が水素原子である、又はR及びRの両方が炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基(特にメチル基)であり、且つR、R及びRが水素原子であることがより好ましい。
【0067】
環Aは、上記(i)又は(ii)であり、好ましくは(i)である。
【0068】
環Aにおいて、nが1の場合、Rはシクロヘキサン環上のエステル基が結合する炭素原子に対して3位又は4位の炭素原子に結合していることが好ましい。具体的には、環Aが(i)の場合、
【0069】
【化11】
【0070】
[式中、Rは前記に同じ]
であり、環Aが(ii)の場合、
【0071】
【化12】
【0072】
[式中、Rは前記に同じ]
である。(i)及び(ii)において、Rが4位の炭素原子に結合していることがより好ましい。
【0073】
一般式(1)で表される化合物のうち、好ましい態様としては、例えば、一般式(1A):
【0074】
【化13】
【0075】
[式中、R、n、R〜Rは前記に同じ。]
で表される化合物が挙げられる。
【0076】
他の好ましい態様としては、例えば、一般式(1B):
【0077】
【化14】
【0078】
[式中、環A、R及びRは前記に同じ。]
で表される化合物が挙げられる。
【0079】
他の好ましい態様としては、例えば、一般式(1C):
【0080】
【化15】
【0081】
[式中、R、R及びRは前記に同じ。]
で表される化合物が挙げられる。
【0082】
一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の具体的な例としては、例えば、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−エチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−n−プロピルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−イソプロピルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−n−ブチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(2,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−エチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−n−プロピルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−イソプロピルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−n−ブチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(2,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメチル)、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−エチルシクロヘキシルメチル)、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−n−プロピルシクロヘキシルメチル)、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−イソプロピルシクロヘキシルメチル)、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−n−ブチルシクロヘキシルメチル)、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシルメチル)、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(2,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−エチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−n−プロピルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−イソプロピルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−n−ブチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(2,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−エチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−n−プロピルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−イソプロピルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−n−ブチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(2,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメチル)等が挙げられる。
【0083】
その中でも、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(2,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(2,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ(2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(2,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(2,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメチル)が好ましい。
【0084】
さらに、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)がより好ましい。
【0085】
上記の化合物の1種又は2種以上の混合物を動力伝達用潤滑油基油として用いることができる。
【0086】
一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の製造方法は、当該化合物が得られれば特にその製法に限定されない。例えば、下記の反応式1〜3に従って製造することができる。
【0087】
【化16】
【0088】
[式中、環A、及びR〜Rは前記に同じ。]
一般式(2)で表されるジカルボン酸、その無水物又はそのジカルボン酸ハライド、及び一般式(3)で表されるアルコールをエステル化反応させることにより、一般式(1)で表される化合物を製造することができる。ここで、一般式(2)で表されるジカルボン酸、その無水物又はそのジカルボン酸ハライド、及び一般式(3)で表されるアルコールは、それぞれ1種又は2種以上の化合物を含んでいてもよい。
【0089】
【化17】
【0090】
[式中、R、n、及びR〜Rは前記に同じ。]
一般式(4)で表されるジカルボン酸、その無水物又はそのジカルボン酸ハライド、及び一般式(3)で表されるアルコールをエステル化反応させることにより、一般式(5)で表される化合物を製造し、さらに一般式(5)で表される化合物のベンゼン環を核水素化(還元反応)させることにより、一般式(1A)で表される化合物を製造することができる。ここで、一般式(4)で表されるジカルボン酸、その無水物又はそのジカルボン酸ハライド、及び一般式(3)で表されるアルコールは、それぞれ1種又は2種以上の化合物を含んでいてもよい。
【0091】
上記の製造方法の中でも、反応式1の製造方法が好ましい。
【0092】
上記反応式1及び2におけるエステル化反応は、それぞれ概ね同様の反応条件を採用して実施することができるため、以下に各反応を一括りにして説明する。
【0093】
上記反応式1及び2におけるエステル化反応は、ジカルボン酸、その無水物又はそのジカルボン酸ハライドと、アルコールとを、エステル化触媒の存在下又は不存在下で反応させることができる。反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で、加熱撹拌して実施することができる。
【0094】
一般式(2)で表される脂環式ジカルボン酸の具体例としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸等が挙げられる。その中でも、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸が好ましい。なお、脂環式ジカルボン酸は、その無水物又はそのジカルボン酸ハライド(特にジカルボン酸クロライド)等の修飾体も使用することができる。
【0095】
一般式(4)で表される芳香族ジカルボン酸(即ち、フタル酸化合物)の具体例としては、フタル酸、3−メチルフタル酸、4−メチルフタル酸が挙げられる。その中でも、4−メチルフタル酸が好ましい。なお、フタル酸化合物は、その無水物又はそのジカルボン酸ハライド(特にジカルボン酸クロライド)等の修飾体も使用することができる。
【0096】
一般式(3)で表されるアルコール(即ち、シクロヘキシルメタノール化合物)の具体例としては、シクロヘキシルメタノール、4−メチルシクロヘキシルメタノール、4−エチルシクロヘキシルメタノール、4−n−プロピルシクロヘキシルメタノール、4−イソプロピルシクロヘキシルメタノール、4−n−ブチルシクロヘキシルメタノール、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタノール、3,4−ジメチルシクロヘキシルメタノール、2,4−ジメチルシクロヘキシルメタノール、2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメタノール等が挙げられる。その中でも、シクロヘキシルメタノール、4−メチルシクロヘキシルメタノール、4−tert−ブチルシクロヘキシルメタノール、3,4−ジメチルシクロヘキシルメタノール、2,4−ジメチルシクロヘキシルメタノール、2,4,6−トリメチルシクロヘキシルメタノールが好ましい。
【0097】
前記エステル化反応を行うに際し、アルコール化合物の使用量は、例えば、ジカルボン酸化合物(ジカルボン酸、その無水物又はそのジカルボン酸ハライド)1モルに対して、通常2〜5モル、好ましくは2.01〜3モル、特に2.02〜2.5モルである。換言すると、ジカルボン酸化合物1当量に対して1〜2.5当量、好ましくは1.005〜1.5当量、特に1.01〜1.25当量である。
【0098】
エステル化反応に用いる触媒としては、鉱酸、有機酸又はルイス酸類等が例示される。より具体的には、鉱酸として、硫酸、塩酸、燐酸が例示され、有機酸としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が例示され、ルイス酸としては、アルミニウム化合物、スズ化合物、チタン化合物、鉛化合物、亜鉛化合物が例示され、これらの1種又は2種以上を併用することが可能である。
【0099】
それらの中でも、p−トルエンスルホン酸、炭素数3〜8のテトラアルキルチタネート、酸化チタン、水酸化チタン、炭素数3〜12の脂肪酸スズ、酸化スズ、水酸化スズ、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化鉛、水酸化鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが特に好ましい。触媒の使用量は、例えば、エステル合成原料であるジカルボン酸化合物又はその修飾体とアルコール化合物との総重量に対して、0.01〜5重量%、好ましくは0.02〜4重量%、特に0.03〜3重量%を使用することが推奨される。
【0100】
反応温度としては、100〜230℃が例示され、通常、3〜30時間でエステル化反応は完結する。
【0101】
エステル化反応においては、必要に応じて、反応により副生してくる水を反応系外に留出させることを促進するために、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの水同伴剤(共沸作用、同伴作用等により水を除去する溶媒)を使用することが可能である。
【0102】
エステル化反応中に酸素が存在すると、原料、生成エステル及び有機溶媒(水同伴剤)の酸化劣化により、酸化物、過酸化物、カルボニル化合物などの含酸素有機化合物が生成し、これによりエステル化合物を含む潤滑油基油の耐熱性、耐候性等に悪影響を与える可能性がある。これを回避するために、反応系内を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下又は不活性ガス気流下で、常圧ないし減圧下にて反応を行うことが望ましい。
【0103】
反応後に得られる「エステル化粗物」を後処理する工程としては、次の工程が例示される。例えば、減圧下又は常圧下にて蒸留可能な過剰の原料等を減圧下又は常圧下にて留去する工程、原料由来のカルボン酸及びエステル化触媒由来の酸成分が残存する場合にはアルカリ水溶液による洗浄(中和)及び水洗を行う工程、液−液抽出等の抽出操作により精製する工程、吸着剤により吸着精製する工程などが例示される。これらの工程を適宜組み合わせて、エステル化粗物を後処理して精製することにより、本発明に係る脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を得ることができる。
【0104】
前記アルカリ水溶液による洗浄(中和)を行う場合、その洗浄液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液が例示される。その水溶液中のアルカリ濃度は特に限定されない。例えば、0.5〜20重量%程度が好ましい。アルカリ水溶液の使用量は、反応終了後のエステル化粗物の全酸価に対して等当量又は適宜過剰となる量が推奨される。そして、アルカリ洗浄(中和)後の洗浄物に対して、さらに水による洗浄操作を水洗水が中性となるまで繰り返すことが好ましい。
【0105】
前記吸着精製に用いる吸着剤としては、活性炭、活性白土、活性アルミナ、ハイドロタルサイト、シリカゲル、シリカアルミナ、ゼオライト、マグネシア、カルシア、珪藻土などが例示される。
【0106】
上記反応式2のように、一般式(5)で表される化合物のベンゼン環を核水素化して一般式(1A)で表される化合物を得る反応は、常法に従って実施することができる。具体的には、水素雰囲気下において、水素化触媒の存在下で実施することができる。
【0107】
水素化触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの卑金属を含む触媒;ロジウム、ルテニウム、白金、パラジウムなどの貴金属を含む触媒などが挙げられる。
【0108】
卑金属を含む触媒(以下、「卑金属触媒」と表記する。)としては、上記の卑金属(0価の卑金属)に加えて、卑金属の塩(硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物など);卑金属の酸化物;卑金属の水酸化物;卑金属の錯体(アセチルアセトナート錯体、アミン錯体、ホスフィン錯体、カルボニル錯体など)などが例示される。これらは、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて触媒として使用することができる。
【0109】
卑金属触媒としては、さらに、上記の卑金属に、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、パラジウム、銀、スズ、バリウム、モリブテン等の1種以上を添加して変性した卑金属触媒が挙げられる。
【0110】
卑金属触媒はそれ自体を水素化触媒として使用することができる。通常、取扱性、反応性の観点から、卑金属のスポンジメタル型触媒、或いは、卑金属触媒が単体に担持された触媒(担体担持型触媒)を使用することもできる。
【0111】
スポンジメタル型触媒としては、従来公知或いは市販されているものが広く使用でき、例えば、スポンジニッケル触媒、スポンジコバルト触媒、スポンジ銅触媒、スポンジ鉄触媒、スポンジ亜鉛触媒等が挙げられ、この中でもスポンジニッケル触媒、スポンジコバルト触媒が好ましく、選択率が高い点から、特にスポンジニッケル触媒が好ましい。
【0112】
スポンジメタル型触媒は、卑金属を展開して得られる含水状態のスポンジメタル型触媒から、水分を適当な溶媒で置換したものが好ましい。溶媒としては、水と相溶し、本発明の核水素化反応で得られる生成物に悪影響を及ぼさない溶媒(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル等)であれば、特に限定されない。
【0113】
担体担持型触媒としては、従来公知或いは市販されているものが広く使用でき、例えば、安定化ニッケル触媒、耐硫黄性ニッケル触媒、フレークニッケル触媒、担持コバルト触媒等が挙げられる。この中でも安定化ニッケル触媒、耐硫黄性ニッケル触媒が好ましい。
【0114】
担体担持型触媒に使用される坦体としては、珪藻土、軽石、活性炭、グラファイト、シリカゲル、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、ゼオライト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が例示され、なかでも珪藻土、アルミナ等が好ましい。これらの坦体は、1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0115】
担体担持型触媒の卑金属触媒の担持量は、特に限定されない。担体担持型触媒の総重量に対して、卑金属触媒として、通常、1〜90重量%程度であり、好ましくは20〜80重量%である。
【0116】
これらの担体担持型触媒の製造方法は特に限定されず、例えば、含浸法、共沈法等の従来公知の方法により容易に製造することができる。通常は、市販されているもの自体を、或いは、それを使用する前に還元処理等の適当な活性化処理をしたものを核水素化反応に供することができる。
【0117】
これら卑金属触媒の形態は特に限定されず、例えば、粉末状、タブレット状(成型触媒)等が挙げられる。選択される反応方式に応じて、これらの中から適宜選択することができる。通常、粉末状の触媒は回分式又は連続式の懸濁床を用いた水素化反応に、タブレット状の触媒(成型触媒)は連続式の固定床を用いた水素化反応に使用される。また、成型触媒の形状及びサイズは、使用する反応器の大きさに応じて適宜選択される。通常は直径2〜6mm、高さ2〜8mmの範囲の円柱状のものが好ましい。
【0118】
水素化反応に用いられる卑金属触媒の使用量は、通常、原料の重量に対して、卑金属触媒として、0.1〜50重量%の範囲であり、好ましくは0.5〜20重量%、特に好ましくは1〜10重量%が推奨される。この範囲内において、経済的に有利かつ十分な反応速度で水素化反応を行うことができる。
【0119】
貴金属を含む触媒(以下、「貴金属触媒」と表記する。)としては、従来公知のものが広く使用できる。具体的には、貴金属(0価の貴金属);貴金属の塩(硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物など);貴金属の酸化物;貴金属の水酸化物;貴金属の錯体(アセチルアセトナート錯体、アミン錯体、ホスフィン錯体、カルボニル錯体など)などが例示される。これらは、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて触媒として使用することができる。
【0120】
貴金属触媒はそれ自体を水素化触媒として使用することができる。通常、取扱性、反応性、選択性の観点から、貴金属触媒が単体に担持された触媒(担体担持型触媒)を使用することが好ましい。担体担持触媒としては、従来公知或いは市販されているもの使用でき、具体的には、貴金属触媒が、珪藻土、軽石、カーボン(グラファイト、活性炭等)、シリカゲル、アルミナ、ハイドロタルサイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ゼオライト、炭酸カルシウム及びこれらの混合物等の担体に担持された触媒が例示される。これらのうち特に、貴金属触媒がカーボン又はアルミナに担持された触媒(カーボン担持触媒又はアルミナ担持触媒)が、反応性や選択性の点で好ましい。
【0121】
担体担持触媒の貴金属触媒の担持量は、特に限定されない。担体担持触媒重量あたりの活性、反応工程の経済性等の観点から、担体担持型触媒の総重量に対して、貴金属触媒として、通常0.1〜15重量%程度であり、好ましくは0.5〜10重量%である。
【0122】
水素化反応に用いられる貴金属触媒の使用量は、通常、原料の重量に対して、貴金属触媒として、0.005〜20重量%であり、好ましくは0.01〜10重量%である。
【0123】
これらの貴金属触媒の形態は、特に限定されず、選択される反応方式に応じて粉末状、タブレット状等が挙げられ、これらの中から適宜選択することができる。具体的には、回分式或いは連続式の懸濁床を用いた水素化反応では粉末状の触媒が、また、固定床を用いた水素化反応ではタブレット状の触媒が好適に使用される。
【0124】
水素化反応の反応温度は、触媒の種類、触媒量、水素圧力等の条件に応じて適宜設定することができる。例えば、50〜280℃の範囲が好ましく、特に70〜250℃が推奨される。水素化反応の水素分圧は広い範囲から選択することができ、通常、0.5〜20MPaの範囲、特に1〜10MPaの範囲が好ましい。反応時間は、触媒の種類、触媒量や諸条件応じて適宜設定することができ、通常1〜12時間程度である。
【0125】
反応形式としては、回分式反応又は連続式反応いずれの方法でもよく、また流動床又は固定床のいずれも選択することができる。
【0126】
水素化反応終了後は、減圧濾過、加圧濾過、遠心分離等の公知の方法により触媒を分離除去した後、必要に応じて上記記載の「エステル化粗物」の後処理工程と同様の操作を行ない、本発明に係る一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を得ることができる。
【0127】
一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物では、2つのエステル基の立体配置によりトランス体とシス体の立体異性体が存在する。また、Rが炭素数1〜3のアルキル基であり且つnが1又は2の場合には、上記のエステル基のトランス体、シス体とは別に、Rの立体配置により、さらに多くの立体異性体が存在する。本発明の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物は、本発明の効果を発揮できる範囲において、単一の立体異性体であっても、多くの立体異性体の混合物であってもよい。
【0128】
脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価としては、好ましくは0.1mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g以下である。酸価が0.1mgKOH/g以下のときには脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物自身の耐熱性がより向上する傾向が認められ、このような好ましい範囲では本発明の基油の耐熱酸化安定性の向上にも好影響を与える。酸価を低減する方法としては、反応を十分に進行させる方法や、後処理工程でのアルカリ成分で中和・水洗する方法(上記のアルカリ水溶液による洗浄(中和)及び水による洗浄を行う工程)や、活性アルミナでの吸着処理する方法などが例示される。
【0129】
脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の水酸基価としては、好ましくは2mgKOH/g以下、より好ましくは1mgKOH/g以下である。水酸基価が2mgKOH/g以下のときには脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物自身の吸湿性がより低くなり、耐熱性もより向上する傾向が認められ、このような好ましい範囲では本発明の基油の耐水性及び耐熱酸化安定性の向上にも好影響を与える。水酸基価を低減する方法としては、反応を十分に進行させる方法や、後処理工程での原料アルコール成分を減圧留去する方法(上記の蒸留可能な過剰の原料等を減圧下又は常圧下にて留去する工程)などが例示される。
【0130】
本発明の動力伝達用潤滑油基油は、併用することができる他の基油(以下「併用基油」と表記する)を含むことができる。つまり、本発明の動力伝達用潤滑油基油には、一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物のみ、及び当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物と併用基油との混合物を包含する。以下、動力伝達用潤滑油基油を「基油」と表記する場合がある。
【0131】
併用基油としては、鉱物油(石油の精製によって得られる炭化水素油);ポリ−α−オレフィン、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、脂環式炭化水素油、フィッシャートロプシュ法によって得られる合成炭化水素の異性化油などの合成炭化水素油;動植物油;本エステル以外の有機酸エステル;ポリアルキレングリコール;ポリビニルエーテル;ポリフェニルエーテル;アルキルフェニルエーテル;シリコーン油などの基油が挙げられる。これらの少なくとも1種を適宜併用することができる。
【0132】
鉱物油としては、溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、ワックス異性化油が挙げられるが、通常、100℃における動粘度が1〜25mm/s、好ましくは2〜20mm/sの範囲にあるものが用いられる。
【0133】
ポリ−α−オレフィンとしては、炭素数2〜16のα−オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1ーヘキサデセン等)の重合体又は共重合体であって、100℃における動粘度が1〜25mm/s、粘度指数が100以上のものが例示され、特に100℃における動粘度が1.5〜20mm/sで、粘度指数が120以上のものが好ましい。
【0134】
ポリブテンとしては、イソブチレンを重合したもの、イソブチレンをノルマルブチレンと共重合したものがあり、一般に100℃の動粘度が2〜40mm/sの広範囲のものが挙げられる。
【0135】
アルキルベンゼンとしては、炭素数1〜40の直鎖又は分岐のアルキル基で置換された、分子量が200〜450であるモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、トリアルキルベンゼン、テトラアルキルベンゼン等が例示される。
【0136】
アルキルナフタレンとしては、炭素数1〜30の直鎖又は分岐のアルキル基で置換されたモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン等が例示される。
【0137】
動植物油としては、牛脂、豚脂、パーム油、ヤシ油、ナタネ油、ヒマシ油、ヒマワリ油等が例示される。
有機酸エステルとしては、脂肪酸モノエステル、脂肪族二塩基酸ジエステル、脂肪族二価アルコールジエステル、ポリオールエステル及びその他のエステルが例示される。
【0138】
脂肪酸モノエステルとしては、炭素数5〜22の脂肪族直鎖状又は分岐鎖状モノカルボン酸と炭素数3〜22の直鎖状又は分岐鎖状の飽和若しくは不飽和の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。
【0139】
脂肪族二塩基酸ジエステルとしては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナメチレンジカルボン酸、1,10−デカメチレンジカルボン酸等脂肪族二塩基酸若しくはその無水物と炭素数3〜22の直鎖状又は分岐鎖状の飽和若しくは不飽和の脂肪族アルコールとのジエステルが挙げられる。
【0140】
脂肪族二価アルコールジエステル、ポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチルプロパンジオール、2−ブチル2−エチルプロパンンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等のネオペンチル型構造のポリオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、1,6−ヘプタンジオール、2−メチル−1,7−ヘプタンジオール、3−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、1,7−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,8−オクタンジオール、4−メチル−1,8−オクタンジオール、1,8−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,9−ノナンジオール、4−メチル−1,9−ノナンジオール、5−メチル−1,9−ノナンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール等の非ネオペンチル型構造のポリオールと炭素数3〜22の直鎖状及び/又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸とのフルエステルを使用することが可能である。
【0141】
その他のエステルとしては、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、或いは、縮合ヒマシ油脂肪酸、水添縮合ヒマシ油脂肪酸などのヒドロキシ脂肪酸と炭素数3〜22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。
【0142】
ポリアルキレングリコールとしては、アルコールと炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンオキシドの開環重合体が例示される。アルキレンオキシドとしてはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが挙げられ、これらの1種を用いた重合体、若しくは2種以上の混合物を用いた共重合体が使用可能である。又、片端又は両端の水酸基部分がエーテル化した化合物も使用可能である。重合体の動粘度としては、好ましくは5〜1000mm/s(40℃)、より好ましくは5〜500mm/s(40℃)が推奨される。
【0143】
ポリビニルエーテルとしては、ビニルエーテルモノマーの重合によって得られる化合物であり、モノマーとしてはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、2−メトキシエチルビニルエーテル、2−エトキシエチルビニルエーテル等が挙げられる。重合体の動粘度としては、好ましくは5〜1000mm/s(40℃)、より好ましくは5〜500mm/s(40℃)が推奨される。
【0144】
ポリフェニルエーテルとしては、2個以上の芳香環のメタ位をエーテル結合又はチオエーテル結合でつないだ構造を有する化合物が挙げられ、具体的には、ビス(m−フェノキシフェニル)エーテル、m−ビス(m−フェノキシフェノキシ)ベンゼン、及びそれらの酸素の1個若しくは2個以上を硫黄に置換したチオエーテル類(通称C−エーテル)等が例示される。
【0145】
アルキルフェニルエーテルとしては、ポリフェニルエーテルを炭素数6〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基で置換した化合物が挙げられ、特に1個以上のアルキル基で置換したアルキルジフェニルエーテルが好ましい。
【0146】
シリコーン油としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンのほか、長鎖アルキルシリコーン、フルオロシリコーン等の変性シリコーンが挙げられる。
【0147】
本発明の動力伝達用潤滑油基油中における、一般式(1)で表わされる脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の含有量は、通常、70重量%以上であり、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。
【0148】
本発明の動力伝達用潤滑油基油に中における併用基油の含有量は、通常、30重量%以下であり、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。
【0149】
本発明の動力伝達用潤滑油基油のトラクション係数(60℃)は、通常、0.095以上であり、好ましくは0.1以上である。なお、本明細書及び特許請求の範囲においてトラクション係数(60℃)は、後述の実施例に記載した方法で測定された値である。
【0150】
本発明の動力伝達用潤滑油基油の動粘度(100℃)は、通常、4〜25mm/sであり、好ましくは4〜20mm/sであり、より好ましくは5〜20mm/sである。なお、本明細書及び特許請求の範囲において動粘度(100℃)は、後述の実施例に記載した方法で測定された値である。
【0151】
本発明の動力伝達用潤滑油基油の動粘度(40℃)は、通常、50〜1000mm/sであり、好ましくは100〜800mm/sである。なお、本明細書及び特許請求の範囲において動粘度(40℃)は、後述の実施例に記載した方法で測定された値である。
【0152】
本発明の動力伝達用潤滑油基油の流動点は、低温作動性の観点から、通常、3℃以下であり、好ましくは1℃以下であり、より好ましくは−5℃以下であり、特に好ましくは−10℃以下である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において流動点は、後述の実施例に記載した方法で測定された値である。
【0153】
本発明の動力伝達用潤滑油基油の引火点は、貯蔵安定性の観点から、通常、210℃以上であり、好ましくは215℃以上、特に好ましくは220〜260℃である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において引火点は、後述の実施例に記載した方法で測定された値である。
【0154】
本発明は、前記動力伝達用潤滑油基油を含む動力伝達用潤滑油をも提供する。当該動力伝達用潤滑油は、その性能を向上させるために、基油に例えば、酸化防止剤、金属清浄剤、無灰分散剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、金属不活性剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、加水分解抑制剤、増ちょう剤、腐食防止剤、色相安定剤等の添加剤の少なくとも1種を適宜配合することも可能である。これらの配合量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、その具体的な例を以下に示す。
【0155】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビスフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(α−メチルシクロヘキシル)−5,5’−ジメチル−ジフェニルメタン、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,5−ジ−tert−アミルヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、1,4−ジヒドロキシアントラキノン、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,4−ジベンゾイルレゾルシノール、4−tert−ブチルカテコール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4,5−トリヒドロキシベンゾフェノン、α−トコフェロール、ビス[2−(2−ヒドロキシ−5−メチル−3−tert−ブチルベンジル)−4−メチル−6−tert−ブチルフェニル]テレフタレート、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ジフェニルアミン、モノブチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノペンチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノヘキシル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノヘプチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン、特にモノ(C−Cアルキル)ジフェニルアミン(即ち、ジフェニルアミンの二つのベンゼン環の一方が、アルキル基、特にC−Cアルキル基でモノ置換されているもの、即ち、モノアルキル置換されたジフェニルアミン)、p,p’−ジブチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジペンチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジヘキシル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジヘプチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン等のジ(アルキルフェニル)アミン、特にp,p’−ジ(C−Cアルキルフェニル)アミン(即ち、ジフェニルアミンの二つのベンゼン環の各々が、アルキル基、特にC−Cアルキル基でモノ置換されているジアルキル置換のジフェニルアミンであって、二つのアルキル基が同一であるもの)、ジ(モノC−Cアルキルフェニル)アミンであって、一方のベンゼン環上のアルキル基が他方のベンゼン環上のアルキル基と異なるもの、ジ(ジ−C−Cアルキルフェニル)アミンであって、二つのベンゼン環上の4つのアルキル基のうちの少なくとも1つが残りのアルキル基と異なるもの等のジフェニルアミン類;N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、4−オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、4−オクチルフェニル−2−ナフチルアミン等のナフチルアミン類;p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン類等が例示される。
【0156】
この中でも、特に、p,p’−ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、チオジプロピオン酸ジ(n−ドデシル)、チオジプロピオン酸ジ(n−オクタデシル)等のチオジプロピオン酸エステル、フェノチアジン等の硫黄系化合物等が例示される。これらの酸化防止剤は、単独で又は適宜2種以上組み合わせて用いることができる。酸化防止剤を使用する場合、通常、基油に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%程度添加することが望ましい。
【0157】
ここで、本明細書及び特許請求の範囲において、「基油に対して0.01〜5重量%」のように、「基油に対して」との表現を用いて、添加剤の配合量の範囲を規定している場合がある。この場合に用いる「基油」は、本発明に係る脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物のみからなる基油又は脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物と併用基油との混合物からなる基油の何れかの意味で用いている。そしてまた、「基油に対して0.01〜5重量%」の例で言えば、基油100重量部に対して、0.01〜5重量部という意味と同義である。
【0158】
金属清浄剤としては、Ca−石油スルフォネート、過塩基性Ca−石油スルフォネート、Ca−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Ca−アルキルベンゼンスルフォネート、Ba−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Ba−アルキルベンゼンスルフォネート、Mg−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Mg−アルキルベンゼンスルフォネート、Na−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Na−アルキルベンゼンスルフォネート、Ca−アルキルナフタレンスルフォネート、過塩基性Ca−アルキルナフタレンスルフォネート等の金属スルフォネート、Ca−フェネート、過塩基性Ca−フェネート、Ba−フェネート、過塩基性Ba−フェネート等の金属フェネート、Ca−サリシレート、過塩基性Ca−サリシレート等の金属サリシレート、Ca−フォスフォネート、過塩基性Ca−フォスフォネート、Ba−フォスフォネート、過塩基性Ba−フォスフォネート等の金属フォスフォネート、過塩基性Ca−カルボキシレート等が使用可能である。金属清浄剤を使用する場合、通常、基油に対して1〜10重量%程度、好ましくは2〜7重量%程度添加することが望ましい。
【0159】
無灰分散剤としては、ポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸アミド、ポリアルケニルベンジルアミン、ポリアルケニルコハク酸エステル等が例示される。これらの無灰分散剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、基油に対して1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%程度添加することが望ましい。
【0160】
油性剤としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、バチルアルコール、キミルアルコール、セラキルアルコールなどのグリセリンエーテル、ラウリルポリグリセリンエーテル、オレイルポリグリセリルエーテルなどのアルキル若しくはアルケニルポリグリセリルエーテル、ジ(2−エチルヘキシル)モノエタノールアミン、ジイソトリデシルモノエタノールアミンなどのアルキル若しくはアルケニルアミンのポリ(アルキレンオキサイド)付加物等が例示される。これらの油性剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、基油に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%程度添加することが望ましい。
【0161】
摩耗防止剤・極圧剤としては、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート類、トリブチルホスフェート、ジブチルホスフェート等のリン酸エステル類、トリブチルホスファイト、ジブチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト等の亜リン酸エステル類及びこれらのアミン塩等のリン系、硫化油脂、硫化オレイン酸などの硫化脂肪酸、ジベンジルジスルフィド、硫化オレフィン、ジアルキルジスルフィドなどの硫黄系、Zn−ジアルキルジチオフォスフェート、Zn−ジアルキルジチオフォスフェート、Mo−ジアルキルジチオフォスフェート、Mo−ジアルキルジチオカルバメートなどの有機金属系化合物等が例示される。これらの摩耗防止剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、基油に対して0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%程度添加することが望ましい。
【0162】
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、没食子酸エステル系の化合物等が例示される。これらの金属不活性剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、基油に対して0.01〜0.4重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%程度添加することが望ましい。
【0163】
防錆剤としては、ドデセニルコハク酸ハーフエステル、オクタデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸アミドなどのアルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、ソルビタンモノオレエート、グリセリンモノオレエート、ペンタエリスリトールモノオレエートなどの多価アルコール部分エステル、Ca−石油スルフォネート、Ca−アルキルベンゼンスルフォネート、Ba−アルキルベンゼンスルフォネート、Mg−アルキルベンゼンスルフォネート、Na−アルキルベンゼンスルフォネート、Zn−アルキルベンゼンスルフォネート、Ca−アルキルナフタレンスルフォネートなどの金属スルフォネート、ロジンアミン、N−オレイルザルコシンなどのアミン類、ジアルキルホスファイトアミン塩等が例示される。これらの防錆剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、基油に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜2重量%程度添加することが望ましい。
【0164】
粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体などのオレフィン共重合体が例示される。これらの粘度指数向上剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、基油に対して0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜7重量%程度添加することが望ましい。
【0165】
流動点降下剤としては、塩素化パラフィンとアルキルナフタレンの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、既述の粘度指数向上剤であるポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン等が例示される。これらの流動点降下剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、基油に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%程度添加することが望ましい。
【0166】
消泡剤としては、液状シリコーンが適しており、これを使用する場合、その添加量は、通常、基油に対して0.0005〜0.01重量%程度である。
【0167】
加水分解抑制剤としては、アルキルグリシジルエーテル類、アルキルグリシジルエステル類、アルキレングリコールグリシジルエーテル類、脂環式エポキシ類、フェニルグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物、ジ−tert−ブチルカルボジイミド、1,3−ジ−p−トリルカルボジイミドなどのカルボジイミド化合物が使用可能であり、通常、基油に対して0.05〜2重量%程度である。
【0168】
本発明のトラクションドライブ用潤滑油基油に増ちょう剤を適宜組み合わせることにより、「グリース」とすることができる。
【0169】
増ちょう剤としては、ナトリウム石鹸、リチウム石鹸、カルシウム石鹸、カルシウムコンプレックス石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸、リチウムコンプレックス石鹸等の石鹸系や、ベントナイト、シリカエアロゲル、ナトリウムテレフタラメート、ウレア化合物、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素等の非石鹸系が挙げられる。
【0170】
金属石けん系増ちょう剤としては、リチウム−12−ヒドロキシステアレート等の水酸基を有する脂肪族カルボン酸リチウム塩、リチウムステアレート等の脂肪族カルボン酸リチウム塩又はそれらの混合物などが例示される。
【0171】
複合体金属石けん系増ちょう剤としては、水酸基を有する1価の脂肪族カルボン酸金属塩と2価の脂肪族カルボン酸金属塩とのコンプレックス等が挙げられ、具体的には複合体リチウム石けんや複合体アルミニウム石けんが例示される。
【0172】
ウレア化合物としては、脂環族、芳香族、脂肪族、ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ウレア・ウレタン化合物等が例示される。
【0173】
上記の中でも、増ちょう剤として、リチウム石鹸、リチウムコンプレックス石鹸、ウレア化合物が好ましく、耐熱性の点から特にウレア化合物が好ましい。
【0174】
これらの増ちょう剤は1種で又は適宜2種以上を組み合わせて用いることができ、その添加量は所定の効果を奏する限り特に限定されるものではない。
【0175】
腐食防止剤としては、ナトリウムスルホネートやソルビタンエステルが例示され、通常、基油に対して0.1〜3.0重量%程度添加される。
【0176】
色相安定剤としては、置換ハイドロキノン、フルフラールアジン等が例示され、通常、基油に対して0.01〜0.1重量%程度添加される。
【0177】
かくして得られる本発明の動力伝達用潤滑油は、上述の通り、トラクション係数が高く引火点が高い基油を含有することから、トラクションドライブ用潤滑油として好適である。
【0178】
本発明の動力伝達用潤滑油基油及び一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物は、動力伝達用潤滑油(特に、トラクションドライブ用潤滑油)に添加することにより、動力伝達用潤滑油のトラクション係数の向上を図ることができる。そのため、トラクション係数向上剤として用いることができる。
【0179】
本発明の動力伝達用潤滑油は、動力伝達能が高く、振動や騒音の発生が小さく、さらに引火点が高いため、トラクションドライブ、即ち2以上の回転体からなる動力伝達装置の潤滑油として用いることができる。当該トラクションドライブを採用する装置としては、例えば、自動車、船舶、航空機、精密機器、ロボット等のモータ、変速機、ジェネレータ、減速機等が挙げられる。
【実施例】
【0180】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例及び比較例中の各特性の測定方法は以下の通りである。特に言及していない化合物は市販の試薬を使用した。
【0181】
<中和価(NV)>
JIS K2501(2003)に準拠して測定した。
【0182】
<酸価(AV)>
JIS K2501(2003)に準拠して、脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価を測定した。
【0183】
<水酸基価(OHV)>
JIS K0070(1992)に準拠して、脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の水酸基価を測定した。
【0184】
<トラクション係数>
下記装置及び条件にて基油を試験した時の最大トラクション係数を測定し、トラクション係数(60℃)とした。
[測定条件]
装置:ボールオンリング型摩擦試験機(Phoenix Tribology社製TE54型)
試験片形状:上試験片(Φ25mmの球)、下試験片(Φ50mmのリング)
試験片材質:SUJ2
回転速度:1.0〜1.5mm/s
滑り率:0.5〜50%(0.5%毎に変化させた)
試料温度:60℃
荷重:100N
【0185】
<動粘度の測定法>
JIS K2283(2000)に準拠して、40℃及び100℃における基油の動粘度を測定した。
【0186】
<低温流動性試験(流動点)の測定法>
JIS K2269(1987)に準拠して基油の流動点を測定した。
【0187】
<引火点>
JIS K2265(クリーブランド開放式)に準拠して基油の引火点を測定した。
【0188】
<IRスペクトル>
赤外分光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン製Spectrum400)を用いて、ATR法(減衰全反射法)により、脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物のIRスペクトルを測定した。
【0189】
<プロトン核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)>
核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製JNM−AL300)を用いて、脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物のH−NMR(300MHz、重クロロホルム)を測定した。
【0190】
<カーボン核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)>
核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製JNM−AL300)を用いて、脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の13C−NMR(75MHz、重クロロホルム)を測定した。
【0191】
<使用化合物>
・1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物(新日本理化株式会社製、製品名「リカシッド HH」)中和価:727(以下、「HH」と表記する)
・4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物(新日本理化株式会社製、製品名「リカシッド MH」)中和価:666(以下、「MH」と表記する)
・メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物とビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物の混合物(混合物全体を100重量%としたとき、前者が75〜85重量%及び後者が25〜15重量%である)(新日本理化株式会社製、製品名「リカシッドHNA−100」)中和価:638(以下、「HNA」と表記する)
・シクロヘキシルメタノール(東京化成工業株式会社製、製品名「シクロヘキサンメタノール」)(以下、「CHM」と表記する)
・2−エチルヘキサノール(KHネオケム株式会社製、製品名「オクタノール」)(以下、「2EH」と表記する)
・n−オクタノール(新日本理化株式会社製、製品名「コノール 10WS」)(以下、「nC8」と表記する)
・アジピン酸ジイソデシル(新日本理化株式会社製、製品名「サンソサイザー DIDA」)(以下、「DIDA」と表記する)
・鉱物油Y:飽和炭化水素の工業用流動パラフィン(SKルブリカンツ株式会社製、製品名「YUBASE 3」)(以下、「YUBASE」と表記する)
【0192】
シクロヘキシルメタノール化合物は、下記の製造方法で合成した。
【0193】
[製造例1](4−メチルシクロヘキシルメタノール)
6.4Lオートクレーブに、4−メチルベンズアルデヒド(三菱ガス化学株式会社製、製品名「パラトルアルデヒド」)3,000g及びアルミナに担持されたルテニウム触媒150gを入れ、100℃まで昇温した。その後、5MPaの水素雰囲気下にして10時間、水素化反応を行った。室温まで冷却後、濾過にて触媒を除去してから蒸留を行い4−メチルシクロヘキシルメタノール(以下、「4−MCHM」と表記する。)1,550gを得た。
【0194】
[製造例2](3,4−ジメチルシクロヘキシルメタノール)
4−メチルベンズアルデヒドを3,4−ジメチルベンズアルデヒド(三菱ガス化学株式会社製、製品名「3,4−ジメチルベンズアルデヒド」)に変更し、反応温度を120℃に変更したこと以外は、製造例1と同様に反応し、3,4−ジメチルシクロヘキシルメタノール(以下、「3,4−DMCHM」と表記する。)1,020gを得た。
【0195】
[実施例1]
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた2リットルの四ツ口フラスコに脂環式ジカルボン酸として1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物508.7g(3.3mol)、シクロヘキシルメタノール829.0g(7.26mol)、エステル化触媒として酸化スズ1.2gを仕込み、フラスコ内を窒素置換した後、徐々に230℃まで昇温した。理論生成水量(59.4g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しつつ、シクロヘキシルメタノールが還流するように減圧度を調整しながら、エステル化反応を行い、酸価が0.2mgKOH/g以下となるまで反応を行った。反応終了後、残存するシクロヘキシルメタノールを減圧下で蒸留により除去してエステル化粗物を得た。
【0196】
次いで、得られたエステル化粗物の酸価に対して3倍当量の苛性ソーダ水溶液で中和した後、中性になるまで水洗を繰り返した。得られたエステル化粗物に硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、濾過により硫酸マグネシウムを除去して、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)1097.2g(3.01mol)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0197】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を動力伝達用潤滑油基油(A)として各物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0198】
また、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)のIRスペクトル、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを測定した。図1〜3に示した。なお、H−NMRスペクトルの7.27ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムの残存プロトンのピークである。また、13C−NMRスペクトルの77ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムのピークである。
【0199】
[実施例2]
シクロヘキシルメタノールを4−メチルシクロヘキシルメタノール930.8g(7.26mol)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)985.4g(2.51mol)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0200】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を動力伝達用潤滑油基油(B)として各物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0201】
また、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)のIRスペクトル、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを測定した。図4〜6に示した。なお、H−NMRスペクトルの7.27ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムの残存プロトンのピークである。また、13C−NMRスペクトルの77ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムのピークである。
【0202】
[実施例3]
シクロヘキシルメタノールを3,4−ジメチルシクロヘキシルメタノール1032.7g(7.26mol)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)1027.2g(2.44mol)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0203】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を動力伝達用潤滑油基油(C)として各物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0204】
また、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)のIRスペクトル、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを測定した。図7〜9に示した。なお、H−NMRスペクトルの7.27ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムの残存プロトンのピークである。また、13C−NMRスペクトルの77ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムのピークである。
【0205】
[実施例4]
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物を4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物555.0g(3.3mol)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)1147.0g(3.03mol)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0206】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を動力伝達用潤滑油基油(D)として各物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0207】
また、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)のIRスペクトル、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを測定した。図10〜12に示した。なお、H−NMRスペクトルの7.27ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムの残存プロトンのピークである。また、13C−NMRスペクトルの77ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムのピークである。
【0208】
[実施例5]
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物を4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物555.0g(3.3mol)に変更したこと以外は実施例2と同様の方法で4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)818.5g(2.01mol)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0209】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を動力伝達用潤滑油基油(E)として各物性を評価した。その結果を表1に示す。
-また、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)のIRスペクトル、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを測定した。図13〜15に示した。なお、H−NMRスペクトルの7.27ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムの残存プロトンのピークである。また、13C−NMRスペクトルの77ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムのピークである。
【0210】
[実施例6]
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物を4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物555.0g(3.3mol)に変更したこと以外は実施例3と同様の方法で4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)934.5g(2.15mol)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0211】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を動力伝達用潤滑油基油(F)として各物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0212】
また、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)のIRスペクトル、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを測定した。図16〜18に示した。なお、H−NMRスペクトルの7.27ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムの残存プロトンのピークである。また、13C−NMRスペクトルの77ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムのピークである。
【0213】
[実施例7]
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物をメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物とビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物の混合物580.8g(3.3mol)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)とビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(シクロヘキシルメチル)の混合物1083.8g(2.80mol)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0214】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を動力伝達用潤滑油基油(G)として各物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0215】
また、当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物のIRスペクトル、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを測定した。図19〜21に示した。なお、H−NMRスペクトルの7.27ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムの残存プロトンのピークである。また、13C−NMRスペクトルの77ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムのピークである。
【0216】
[実施例8]
シクロヘキシルメタノールを4−メチルシクロヘキシルメタノール930.8g(7.26mol)に変更したこと以外は実施例7と同様の方法でメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)とビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(4−メチルシクロヘキシルメチル)の混合物1025.8g(2.48mol)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0217】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を動力伝達用潤滑油基油(H)として各物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0218】
また、当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物のIRスペクトル、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを測定した。図22〜24に示した。なお、H−NMRスペクトルの7.27ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムの残存プロトンのピークである。また、13C−NMRスペクトルの77ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムのピークである。
【0219】
[実施例9]
シクロヘキシルメタノールを3,4−ジメチルシクロヘキシルメタノール1032.7g(7.26mol)に変更したこと以外は実施例7と同様の方法でメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)とビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ジ(3,4−ジメチルシクロヘキシルメチル)の混合物1095.2g(2.47mol)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0220】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を動力伝達用潤滑油基油(I)として各物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0221】
また、当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物のIRスペクトル、H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを測定した。図25〜27に示した。なお、H−NMRスペクトルの7.27ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムの残存プロトンのピークである。また、13C−NMRスペクトルの77ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムのピークである。
【0222】
[比較例1]
シクロヘキシルメタノールを2−エチルヘキサノール945.5g(7.26mol)に変更した以外は実施例1と同様の方法で、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(2−エチルヘキシル)1189.8g(3.00mol)を得た。得られた本発明外の脂環式ジカルボン酸ジエステルの酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0223】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステルを動力伝達用潤滑油基油(a)として各物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0224】
[比較例2]
シクロヘキシルメタノールをn−オクタノール945.5g(7.26mol)に変更した以外は実施例1と同様の方法で、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−オクチル)1201.2g(3.03mol)を得た。得られた本発明外の脂環式ジカルボン酸ジエステルの酸価は、0.01mgKOH/g以下、水酸基価は、1mgKOH/g以下であった。
【0225】
当該脂環式ジカルボン酸ジエステルを動力伝達用潤滑油基油(b)として各物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0226】
[比較例3]
アジピン酸ジイソデシルを動力伝達用潤滑油基油(c)として各物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0227】
[比較例4]
鉱物油Yを動力伝達用潤滑油基油(d)として各物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0228】
【表1】
【0229】
【表2】
【0230】
表1からわかるように、実施例1〜9に記載の動力伝達用潤滑油基油は、トラクション係数が0.1以上と高く、また、引火点が215℃以上と高い。
【0231】
一方、比較例1〜4に記載の基油は、トラクション係数が0.06未満と低い。
【0232】
以上のことから本発明に係る脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を用いることで、高トラクション係数を実現しながら、同時に優れた高引火点を示す基油を得ることができ、動力伝達用潤滑油基油(特にトラクションドライブ用潤滑油基油)に好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0233】
本発明の動力伝達用潤滑油基油は、高いトラクション係数及び高い引火点を有することから、自動車、船舶、航空機及び精密機器等の動力伝達用潤滑油基油(特に、トラクションドライブ用潤滑油基油)として好適に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
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図26
図27