特許第6963229号(P6963229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963229
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】壁面ハツリ装置、及び壁面ハツリ方法
(51)【国際特許分類】
   B26F 3/00 20060101AFI20211025BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20211025BHJP
   E04G 23/08 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   B26F3/00 S
   B26F3/00 M
   B26F3/00 H
   B26F3/00 P
   E04G23/02 Z
   E04G23/08 E
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-202945(P2016-202945)
(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公開番号】特開2018-62049(P2018-62049A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年7月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594186555
【氏名又は名称】馬淵建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507157676
【氏名又は名称】株式会社クボタ建設
(73)【特許権者】
【識別番号】304038149
【氏名又は名称】村本建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510181909
【氏名又は名称】株式会社久野製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】316016368
【氏名又は名称】テクノスジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074125
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 昌夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】保立 尚人
(72)【発明者】
【氏名】神谷 敏
(72)【発明者】
【氏名】田島 和史
(72)【発明者】
【氏名】土井 敏正
(72)【発明者】
【氏名】高井 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 一広
(72)【発明者】
【氏名】日高 幸治
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−170336(JP,A)
【文献】 特開2000−141354(JP,A)
【文献】 実開平02−088891(JP,U)
【文献】 特開平08−216024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26F 3/00
E04G 23/02
E04G 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイベルユニットを走行方向に対して直交する走行幅方向に平面配置してなり、各スイベルユニットのハツリ動作によって対象壁の所定のハツリ範囲の表面を切削可能な、中央1基のハツリ部と、
ハツリ部の走行方向前方に配置してなり、自装置が落下しない吸着力で所定の吸着幅で対象壁面に吸着する吸着部と、
ハツリ部の走行方向前方であって吸着部の走行方向左右外方にそれぞれ配置した側部車輪を含む、複数の走行輪から構成され、左右の側部車輪を回転駆動させることで、壁面に吸着させたまま対象壁面上で走行させる走行装置と、からなる壁面ハツリ装置であって、
中央1基のハツリ部によるハツリ範囲の幅よりも走行幅方向内側に、前記壁面ハツリ装置の重心位置が設定されると共に、
中央1基のハツリ部によるハツリ範囲の幅よりも走行幅方向内側に、左右の側部車輪を含むすべての走行輪が平面配置されてなり、かつ、ハツリ部のハツリ範囲の幅よりも走行幅方向内側に、吸着部によるすべての吸着範囲が入るように平面配置されてなり、
前記複数のスイベルユニットは、それぞれ、対象壁面に対して水平配置されたまま所定の回転方向へ軸回転し得る棒状のスイベルヘッドと、スイベルヘッドの棒状軸に沿って設けられ、対象壁面側へ高圧水を所定角度で噴射し得る複数の噴射器とを具備してなり、
複数のうちいずれか一のスイベルユニットのスイベルヘッドは、隣接する他のスイベルユニットのスイベルヘッドに対し、異なる回転方向に軸回転しながら前記噴射器で高圧水を噴射することを特徴とする壁面ハツリ装置。
【請求項2】
前記複数の噴射器は、スイベルヘッドの棒軸方向のうち中央寄りの位置から先端寄りの位置までの各取付け位置に離間配置され、先端寄りの取付け位置に配置された噴射器は、それよりも中央寄りの取付け位置の噴射器よりも、対象壁面の法線を基準とする傾斜角度が段階的に大きくなるように、多段階に設定された所定の傾斜角度で取り付けられ、隣接する各取付け位置の噴射器は、対象壁面に対する噴射角度が段階的に異なるように傾斜方向に噴射する、請求項に記載の壁面ハツリ装置。
【請求項3】
前記走行装置の走行は、吸着部の走行方向左右外方にそれぞれ配置した側部車輪と、吸着部の走行方向前方に車軸回転可能に配置した前部車輪と、から構成され、このうち側部車輪に回転駆動力が伝達されるものであって、
走行方向前後において、壁面ハツリ装置の装置全体の前後方向の重心位置が、側部車輪の車輪幅の範囲内に配置され、回転駆動力を受ける側部車輪の車軸近傍の前後方向位置に装置全体の重心位置が設定される、請求項1又は記載の壁面ハツリ装置。
【請求項4】
前記吸着部は、走行幅の中心軸を境とした左右対称の吸着幅で壁面吸着する吸着空間を走行幅方向中央に有してなり、
前記走行装置の走行輪は、走行幅方向中央の吸着空間よりも走行方向左右外方にそれぞれ配置した側部車輪と、吸着空間よりも走行方向前方であって走行幅方向中央に車軸回転可能に配置した前部車輪と、から構成され、このうち側部車輪に回転駆動力が伝達されるものであって、
さらに、左右の側部車輪をそれぞれ車軸固定する左右の駆動軸と、各駆動軸を対象壁面の傾斜に応じて傾動し得るように保持する傾動ジョイントを具備し、
さらに、前部車輪が同軸上に各車輪にて自由回転可能に並列保持された双輪キャスターからなる、請求項1ないしのいずれか記載の壁面ハツリ装置。
【請求項5】
複数のスイベルユニットは走行幅の中心軸を境として左右対称に並列配置されて装置後部を構成すると共に、吸着部及び走行装置が複数のスイベルユニットよりも進行方向前方に平面配置されて、前記装置後部よりも高重量の装置前部を構成し、吸着部は走行幅の中心軸を境とした左右対称の吸着幅で壁面吸着する吸着空間を有してなり、
吸着部及び走行装置からなる装置前部の重心位置が、走行幅方向において前記吸着部の吸着幅内に配置される請求項1ないしのいずれかに記載の壁面ハツリ装置。
【請求項6】
ハツリ部が、複数のスイベルユニットの側部及び上部をまとめて覆うと共に下方が所定のハツリ領域形状で下開放したハツリカバーと、
ハツリカバーに設けられ、ハツリカバー内で発生したハツリガラを吸引する吸引装置と、を具備してなり、各スイベルユニットによって前記ハツリ領域形状の内部でハツリ動作を
行いながら、ハツリカバー内のハツリガラを吸引装置によって吸引し回収する、請求項1ないしのいずれかに記載の壁面ハツリ装置。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれかに記載の壁面ハツリ装置を対象壁面に吸着させ、所定のハツリ範囲の幅のハツリ動作を行いながら、走行装置によって前記所定のハツリ範囲の幅方向位置をずらして走行させる壁面ハツリ方法であって、
対象壁面の上端辺又は側端辺に、対象壁面と面一となる延長壁を設置する壁面延長工程と、
前記延長壁及び対象壁面がハツリ部のハツリ範囲となるように、ハツリ部の一部が対象壁面から張り出した状態でハツリ動作を行う延長部ハツリ工程と、を含むことを特徴とする壁面ハツリ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスイベルユニットのハツリ動作によって対象壁の表面を切削可能なハツリ部と、自装置が落下しない吸着力で対象壁面に吸着する吸着部と、壁面に吸着させたまま対象壁面上で走行させる走行装置とを備える壁面ハツリ装置、及び該壁面ハツリ装置を用いた壁面ハツリ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自走式壁面ハツリ装置として、壁面への吸着部とハツリ部を併設したものが開示される(例えば、特許文献1参照)。この自走式壁面ハツリ装置の吸着装置による吸着領域は平坦である必要があり、吸着部によって平坦な壁面を吸着走行しつつハツリ部でハツリを行うものとなっている。
【0003】
しかし、上記従来のハツリ装置では、図12に示すように、吸引部42とハツリ部41とが平面視にて対角方向に配置されており(図12では、平面視にて、ハツリ部41が左上に配置され、吸引部42が右下に配置されている)、ハツリ装置が壁面を覆う範囲に対し、ハツリ部41のハツリ範囲が片側前方に偏った一部偏範囲となっている。また、ハツリ部41の幅の外側に走行輪43及び吸着部42が存在する。このため、ハツリ対象となる壁面全体にハツリ装置を走行させた場合、壁面の片側辺沿いと上辺沿いに比較的大きな一定の幅のハツリ残し領域が生じてしまう。特に壁面高位置のハツリ残し領域は、手作業で高所のハツリ作業を行うことが困難であることから、ハツリ残し領域自体の削減が望まれていた。
【0004】
また、上記従来のハツリ装置は吸着部によってある程度の吸着力で壁面に吸着しながら走行駆動するところ、吸着部が走行方向に対する幅方向片側にずれて配置されていることから、吸着による走行抵抗が走行方向の片側に偏って発生していた。さらに、上記従来のハツリ装置はハツリ部の高圧水噴射ノズルを一方向回転させてハツリ動作を行う方式であり、ノズルの一方向回転に伴って、ハツリ部のハツリ動作によっても一側方への噴射反力が走行方向の片側に偏って発生していた。これらの走行抵抗や噴射反力は、壁面の直進走行性を遮る要因となっていた。
特に、鉛直な壁面の全体をハツリ作業しながら走行させる場合には、縦方向(主に下方向)のハツリ走行後にある程度の吸着力で吸着させながら上下左右の各方向に走行方向を変える必要があるため、前記走行抵抗や噴射反力のほかに、重量の影響、吸着力の影響、或いは壁面反力の影響を受けやすく、各走行方向への走行性を確保することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−11485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ハツリ対象となる壁面全体にハツリ装置を走行させた場合にも、壁面の片側辺沿いや上辺沿いに大きな一定のハツリ残し領域が生じることを抑制し、また、吸着による走行抵抗やハツリ部の噴射反力によってもハツリ装置の直進走行性を確保するものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明は以下の構成を採用してなる。なお、以下において構成名称に続けて記載する括弧付きの数字列、アルファベット列、又は数字とアルファベットの組み合わせ列は、実施例として示す各図における対応構成箇所を参照するための参照用符号であり、これによって構成にかかる用語の意義や形状を実施例のものに限定する趣旨ではない。
【0008】
すなわち、本発明に係る壁面ハツリ装置は、複数のスイベルユニット(11)を走行方向に対して直交する走行幅方向に平面配置してなり、各スイベルユニット(11)のハツリ動作によって対象壁(W)の所定のハツリ範囲(S1)の表面を切削可能な、中央1基のハツリ部(1)と、ハツリ部(1)の走行方向前方に配置してなり、自装置が落下しない吸着力で所定の吸着範囲(A2)で対象壁面(FW)に吸着する吸着部(2)と、ハツリ部(1)の走行方向前方であって吸着部の走行方向左右外方にそれぞれ配置した側部車輪を含む、複数の走行輪から構成され、このうち左右の側部車輪の走行輪(31)を回転駆動させることで、壁面に吸着させたまま対象壁面(FW)上で走行させる走行装置(3)と、からなる壁面ハツリ装置(100)であって、中央1基のハツリ部(1)によるハツリ範囲(S1)の幅(W1)よりも走行幅方向内側に、前記壁面ハツリ装置(100)の重心位置(G1)が設定されると共に、中央1基のハツリ部(1)によるハツリ範囲(S1)の幅(W1)よりも走行幅方向内側に、左右の側部車輪を含むすべての走行輪(31)が平面配置されてなり、かつ、ハツリ部(1)のハツリ範囲(S1)の幅(W1)よりも走行幅方向内側に、吸着部(2)によるすべての吸着範囲(A2)が入るように平面配置されてなることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、壁面ハツリ装置の重心位置がハツリ範囲の幅よりも外側に配置されることがない。また、走行輪がハツリ部のハツリ範囲の幅よりも外側に飛び出して配置されることがない。さらに、吸着部による吸着範囲の一部がハツリ部のハツリ範囲の幅よりも外側にはみ出すことがない。このような配置によって、重量バランスや反力の影響を受けやすい壁面走行でありながら、壁面ハツリ装置を安定して走行させることができ、壁面の直進走行性が良好なものとなる。また、前記各特長と、吸着部及びハツリ部の前後配置(前後方向へのレイアウト)によって、走行幅よりも大きなハツリ範囲の幅を確保することができ、大きなハツリ残し領域(ハツリ処理できない領域)が発生しない(例えば図2図7図8参照)。
【0010】
また、前記壁面ハツリ装置において、複数のスイベルユニット(11)は、走行幅の中心軸(C1)を境として左右対称に並列配置されて装置後部(100B)を構成すると共に、吸着部(2)及び走行装置(3)が複数のスイベルユニット(11)よりも進行方向前方に平面配置されて、前記装置後部(100B)よりも高重量の装置前部(100F)を構成してなり、吸着部(2)及び走行装置(3)からなる装置前部(100F)の重心位置(G2)が、走行幅方向において前記吸着部の吸着範囲内に配置設定されることが好ましい。
【0011】
上記の構成によれば、前記走行幅の中心軸(C1)上か又は中心軸(C1)を中心とした左右の吸着範囲(A2)の範囲内に配置設定されることとなる。一つの装置前部と、複数のスイベルユニットからなる装置後部とが、中央軸を中心として左右対称に(いわゆるT字状に)平面レイアウトされ、重心の幅方向位置が吸着範囲の中心から大きく外れることなく中心付近の位置を保つこととなる(例えば図1図2参照)。このため、進行方向の幅方向(左右方向)の重心の偏りが抑制され、偏重量の影響を受けやすい吸着走行において直進走行性が安定する。
【0012】
また、前記いずれかの壁面ハツリ装置において、複数のスイベルユニット(11)は、それぞれ、対象壁面(FW)に対して水平配置されたまま所定の回転方向へ軸回転し得る棒状のスイベルヘッド(11A)と、スイベルヘッド(11A)の棒状軸に沿って設けられ、対象壁面(FW)側へ高圧水を所定角度で噴射し得る複数の噴射器(11B)と、を具備してなり、複数のうち少なくともいずれか一以上のスイベルヘッド(11A)は、他の隣接するいずれかのスイベルヘッド(11A)に対し、互いに異なる回転方向に軸回転しながら前記噴射器(11B)で高圧水を噴射することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、スイベルヘッドの軸回転方向を正逆交互となるように並設することで、各スイベルヘッドの軸回転によって発生する慣性モーメント、並びに高圧水噴射によって発生する噴射反力のモーメントを、逆回転するスイベルヘッド同士で打ち消すこととなる。例えば、後述の第1の実施例のように右端のスイベルユニットのスイベルヘッドが正転(右回り)に軸回転するとき、その左隣のスイベルユニットのスイベルヘッドが逆転(左回り)に軸回転し、さらにその左隣のスイベルユニットのスイベルヘッドが正転(右回り)に軸回転するように設定される(例えば図5参照)。これにより、ハツリ部全体に発生する偏モーメントを低減することができる。また、後述の第6の実施例のように右端のスイベルユニットのスイベルヘッドが正転(右回り)に軸回転するとき、その左隣側へ二つ並ぶスイベルユニットのスイベルヘッドが共に逆転(左回り)に軸回転するように設定される(例えば図12参照)。これにより、ハツリ領域の幅方向中心に見た、ハツリ部全体に発生する偏モーメントを低減することができる。
【0014】
また、前記いずれかの壁面ハツリ装置において、複数の噴射器(11B)は、スイベルヘッド(11A)の棒軸方向のうち中央寄りの位置(P1)から先端寄りの位置(P2)までの各取付け位置に離間配置され、先端寄りの位置(P2)の取付け位置に配置された噴射器(11B)は、それよりも中央寄りの位置(P1)の取付け位置の噴射器(11B)よりも、対象壁面FWの法線を基準とする傾斜角度(θ)が段階的に大きくなるように(すなわち、対象壁面(FW)に対する噴射角度が段階的に小さくなるように)互いに異なる多段階の傾斜角度(θ)で取り付けられ、隣接する各取付け位置の噴射器(11B)は、対象壁面に対する噴射角度が段階的に異なるように傾斜方向に噴射することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、高圧水の噴射方向を、スイベルヘッドの棒軸(回転軸)に対して段階的に外側になるように角度をつけ、各噴射器で異なる噴射角度の噴射を行うものとしている。例えば、後述の実施例のように各スイベルヘッドの棒軸(回転軸)に沿って両端に3つずつ、合計6つの噴射器を取り付けた構成においては、最も内側の第一噴射器と、これに外方隣接する第二噴射器と、最も外側の第三噴射器とで、壁面法線に対する噴射器の取付け傾斜角度が5度ないし30度の増加量ずつ順に増加するように設定している。つまり、回転軸から離れるにしたがって、対象壁面(FW)の法線を基準とする対法線の傾斜角度(例えば図6にて示すθの角度)が段階的に大きくなるように、換言すれば、対象壁面(FW)に対する噴射のあたり角度が段階的に小さくなるように、位置によって互いに異なる取付け角度で多段階に取り付けることで、スイベルヘッドの回転半径よりも外側の切削が可能となる(例えば図6参照)。また、一つのスイベルヘッドによるハツリ範囲の広域化によって、隣り合うスイベルヘッドとの隙間によるハツリ残し領域の発生を抑制することができる。さらに、噴射方向の異なる各噴射器の高圧水噴射によって、壁面への水撃圧の可変を伴う多方向の切削効果を得ることが可能となる(例えば図6参照)。
【0016】
また、前記いずれかの壁面ハツリ装置においては、走行装置(3)の走行(31)が、吸着部(2)の走行方向左右外方にそれぞれ配置した側部車輪(31A)と、吸着部の走行方向前方に車軸回転可能に配置した前部車輪(31B)と、から構成され、このうち側部車輪(31A)に回転駆動力が伝達されるものであって、走行方向前後において、壁面ハツリ装置(100)の装置全体の前後方向の重心位置(G1)が、側部車輪(31A)の車輪幅(31W)の内側に配置され、回転駆動力を受ける側部車輪の車軸近傍の前後方向位置に装置全体の重心位置が設定されることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、壁面ハツリ装置全体の前後方向の重心位置(G1)が、回転駆動力を受ける側部車輪(31A)の車軸近傍であって車輪の回転重心を大きく超えない車輪幅(31W)内に位置することとなるため、より安定した直進走行性を得ることができる(例えば後述の図9参照)。
【0018】
また、前記いずれかの壁面ハツリ装置においては、前記吸着部(2)は、走行幅の中心軸を境とした左右対称の吸着幅で壁面吸着する吸着空間を走行幅方向中央に有してなり、
前記走行装置の走行輪は、走行幅方向中央の吸着空間よりも走行方向左右外方にそれぞれ配置した側部車輪と、吸着空間よりも走行方向前方であって走行幅方向中央に車軸回転可能に配置した前部車輪と、から構成され、このうち側部車輪(31A)に回転駆動力が伝達されるものであって、
さらに、左右の側部車輪(31A)をそれぞれ車軸固定する左右の駆動軸(31C)と、各駆動軸(31C)を対象壁面(FW)の傾斜に応じて傾動し得るように保持する傾動ジョイント(32)を具備し、さらに、前部車輪(31B)が同軸上に各車輪にて自由回転可能に並列保持された双輪キャスターからなることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、側部車輪の各駆動軸が傾動ジョイント(いわゆるナックルジョイント)によって傾動対応可能に保持され、さらに前方を接地性の高い双輪キャスターで構成することで、走行の接地性が向上し、対象壁面の段差部や凹凸部、曲面部があった場合も直進走行性や操作性を確保することができる(例えば後述の図4)。
【0020】
また、前記いずれかの壁面ハツリ装置においては、ハツリ部(1)が、複数のスイベルユニット(11)の側部(11S)及び上部(11U)をまとめて覆うと共に下方(11B)が所定のハツリ領域形状で下開放したハツリカバー(12)と、ハツリカバー(12)に設けられ、ハツリカバー(12)内で発生したハツリガラを吸引する吸引装置(13)と、を具備してなり、各スイベルユニット(11)によって前記ハツリ領域形状の内部でハツリ動作を行いながら、ハツリカバー(12)内のハツリガラを吸引装置(13)によって吸引し回収することが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、高圧水やハツリガラの飛散を防止し、これらを吸引回収しながら効率よくハツリ動作を行うことができる。またハツリカバーは下縁が接地し、対象壁面をハツリ領域で仕切った状態とすることで、遮音効果を有する。
【0022】
そして、本発明に係る壁面ハツリ方法は、上記いずれか記載の壁面ハツリ装置(100)を対象壁面(FW)に所定の吸引領域(A2)にて吸着させ、所定のハツリ範囲(S1)の幅(W1)のハツリ動作を行いながら、走行装置(3)によって前記所定のハツリ範囲(S1)の幅方向位置をずらして走行させる(好ましくは、かぎ状に平行走行させるか又は往復方向に繰り返し並行走行させる)壁面ハツリ方法であって、対象壁面(FW)の上端辺(UW)又は側端辺(SW)に、対象壁面(FW)と面一となる延長壁(EW)を設置する壁面延長工程と、前記延長壁(EW)及び対象壁面(FW)がハツリ部(1)のハツリ範囲(S1)と重なるように、ハツリ部(1)の一部が対象壁面(FW)から張り出した状態でハツリ動作を行う延長部ハツリ工程と、を含むことを特徴とする。
【0023】
なお、上記壁ハツリ方法においてはさらに、ハツリ部(1)のハツリ範囲(S1)の幅(W1)よりも走行幅方向内側に、前記壁面ハツリ装置(100)の重心位置(G1)が設定されること、或いは前記設定と共に、ハツリ部(1)のハツリ範囲(S1)の幅(W1)よりも走行幅方向内側に、すべての走行輪(31)が平面配置されてなること、或いは前記設定および平面配置と共に、ハツリ部(1)のハツリ範囲(S1)の幅(W1)よりも走行幅方向内側に、吸着部(2)によるすべての吸着範囲(A2)が入るように平面配置されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ハツリ対象となる壁面全体にハツリ装置を走行させた場合にも、壁面の片側辺沿いや上辺沿いに大きな一定のハツリ残し領域が生じることを抑制し、また、吸着による走行抵抗やハツリ部の噴射反力によってもハツリ装置の直進走行性を確保できる壁面ハツリ装置及び壁面ハツリ方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1の実施例の壁面ハツリ装置の平面図である。
図2】第1の実施例の壁面ハツリ装置の底面図である。
図3図2のA−Aにおける正面方向断面図である。
図4】曲面の対象壁面走行時における図2のA−Aにおける正面方向断面図である。
図5図2におけるハツリ部の部分拡大底面図である。
図6】スイベルヘッドの構成を示す図5のB−Bにおける断面図である。
図7】第1の実施例の壁面ハツリ装置を用いた壁面ハツリ方法による壁ハツリ状態図である。
図8】延長壁を取り付けた壁面ハツリ方法による壁ハツリ状態図である。
図9図8bの拡大図である。
図10】第2の実施例の壁面ハツリ装置の平面図である。
図11】第3〜第5の実施例の壁面ハツリ装置の平面図である。
図12】第6の実施例の壁面ハツリ装置におけるハツリ部の部分拡大底面図である。
図13】従来の壁面ハツリ装置による壁面ハツリ方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の壁面ハツリ装置の実施例について説明する。なお、以下において構成名称に続けて記載する数字列、アルファベット列、又は数字とアルファベットの組み合わせ列は、いずれも実施例として示す各図面における対応構成箇所を参照して理解するための参照用符号であり、これによって構成にかかる用語の意義や形状を実施例のものに限定する趣旨ではない。
【0027】
(第1の実施例)
図1は、実施例1の壁面ハツリ装置の平面図である。図2は、実施例1の壁面ハツリ装置の底面図である。図3は、図2のA−Aにおける正面方向断面図である。図4は、曲面の対象壁面走行時における図2のA−Aにおける正面方向断面図である。図5は、図2におけるハツリ部の部分拡大底面図である。図6は、スイベルヘッドの構成を示す図5のB−Bにおける断面図である。以下、第1の実施例に係る壁面ハツリ装置の構成について図1図6を参照して説明する。
【0028】
本実施例に係る壁面ハツリ装置100は、ハツリ部1、吸着部2及び走行装置3とからなる。図2に示すようにハツリ部1は、複数のスイベルユニット11を走行方向に対して直交する走行幅方向に平面配置してなる。ハツリ部1は、各スイベルユニット11から高圧水を噴射するハツリ動作によって対象壁Wの所定のハツリ範囲S1の表面を切削する。
【0029】
また、図1及び図2に示すようにハツリ部1には、複数のスイベルユニット11の側部11S及び上部11Uをまとめて覆うと共に下方11Bが所定のハツリ領域形状で下開放したハツリカバー12と、ハツリカバー12に設けられ、ハツリカバー12内で発生したハツリガラ及びハツリ水を吸引して回収する吸引装置13とを具備している。各スイベルユニット11によってハツリ領域形状の内部でハツリ動作を行いながら、ハツリカバー12内のハツリガラを吸引装置13によって吸引して回収することで、高圧水やハツリガラの飛散を防止し、これらを吸引回収しながらの連続したハツリ動作を効率的に行うことができる。またハツリカバー12は下縁が接地してなり、対象壁面FWを、ハツリ領域を含むカバー空間内で仕切った状態とすることで、遮音効果を有する。
【0030】
吸引装置13は、ハツリカバー121の上部の複数個所に連通して装置後部100Bから上方へ延長配管(図8)された吸引ホースと、吸引ホースの延長先に連結された、ハツリガラ類(ハツリガラやハツリ水)の吸引回収装置(図示せず)とからなる。具体的には、図2、3に示すように、ハツリカバー121による底面視(又は平面視)カバー範囲内であって、複数のハツリ範囲S1同士が重なるハツリ範囲重畳範囲の外部近傍の4箇所に吸引ホースの吸引口130が等間隔に配置される。吸引口130を通じて、ハツリカバー121によるカバー空間と、吸引ホースのホース空間とが連通され、吸引回収装置(図示せず)によって当該連通された各空間が吸引され、ハツリガラ類の吸引回収を行う。
【0031】
吸着部2は、ハツリ部1の走行方向前方(図1及び図2の図内では下側)に配置され、減圧密閉された吸着空間2Sを対象壁面FW上に形成することで、壁面ハツリ装置100が落下しない程度の吸着力を保ったまま、所定の吸着幅A2で対象壁面FWに吸着する。また、図3に示すように、吸着部2は、対象壁面FWに沿って配置される円形板状の覆い板20と、覆い板20の下面に固着された弾性環状の吸着スカート21と、吸着部2の覆い板20の上部に固定された倒立円筒容体からなる吸着チャンバ22と、吸着チャンバ22の上面の中央に連結された吸着ホース23とから構成される。吸着ホース23は装置前部100Fの上部から延長して配管され、延長先にて吸着動力装置(図示せず)に連通接続される。
【0032】
吸着部2の動作時には、吸着スカート21が対象壁面FW上の所定の吸着幅A2を囲って接地することで、板状の覆い板20と吸着スカート21とによって吸着空間2Sが形成される。この吸着空間2Sは吸着チャンバ22の円柱状空間と上部連通し、吸着チャンバ22に配管接続された吸着ホース23の管内空間と連通する。吸着ホース23の先側に連通接続された吸着動力装置(図示せず)によってこれら連通空間内の空気が吸引され、吸着部2の吸着空間2Sが、略密閉に減圧された吸着状態となる。
【0033】
なお、吸着スカート21は弾性樹脂の一体成形材からなり、覆い板20の下面に固着された略円環状の上部環体と、上部環体の内側下部からその下方ないし周囲外方へ張り出すように延設された円板状の下部スカート体と、から構成される。上部環体は横長の扁平断面からなると共に、その内周部に、内周側方へ部分突出した内側凸部が形成される。吸着スカート21が外力を受けて弾性変形したとき、この内側凸部が覆い板20に緩衝して吸着スカート21の過剰な弾性変形を抑制する。下部スカート体は、上部環体の内周寄りの下部に延設された環状の板体からなり、下方へ凸状湾曲した湾曲板状断面を有する。湾曲板状部の凸状部は所定幅のすべり接地面を有し、また凸状部の外周側には上方傾斜して周囲外方へ張り出した傾斜先部21Eを有する。吸着スカート21はこれらの弾性部材の構成によって、図3図4に示すように、減圧された吸着空間2Sの周縁にて適度に弾性変形して、所定のすべり接地範囲(A21)で密着接地し、また、走行部3の走行動力によって、前記すべり接地範囲(A21)の密着接地を保ったまますべり移動する。
【0034】
走行装置3は、吸着部2の走行方向左右外方にそれぞれ配置した側部車輪31Aと、吸着部の走行方向前方に車軸回転可能に配置した前部車輪31Bと、側部車輪31Aを軸支する左右の各駆動軸31Cと、各駆動軸31Cの幅方向内側部を傾動可能に保持する傾動ジョイント32と、各駆動軸31Cへの走行動力を発生させる走行モータ33とから構成される。駆動車輪である左右の側部車輪31Aと、空転車輪である前部車輪31Bとによって、走行重心を前後方向後方寄り、且つ幅方向中央寄りとした三輪走行体を構成する。但し前部車輪31Bを2軸自由回転可能に保持された双輪キャスターとすることで、走行の接地性を高めている。そして、側部車輪31Aに回転駆動力が伝達され回転駆動させることで、壁面に吸着させたまま対象壁面FW上で走行可能なように構成されている。
【0035】
また、走行方向前後において、壁面ハツリ装置100の装置全体の重心位置G1が側部車輪31Aの車輪幅の範囲内にあるよう、車軸C2の近傍に配置されるように調整されている。すなわち、壁面ハツリ装置100の動作時には、図9に示すように、ハツリ部1によるハツリ反力(ハツリガラ、及びハツリ水の飛散による反力)や吸引装置による吸引力を含めたハツリ合力FJが、壁面から浮き上がる方向(すなわち対象壁面の法線方向)の合力として装置後部に生じると共に、吸着部2による吸着空間S2の吸着力やすべり接地抵抗を含めた吸着合力FVが、壁面に吸着する方向(すなわち対象壁面の法線と反対方向)の合力として装置前部に生じる。これらハツリ合力FJ、吸着合力FVに基づき、側面視にて装置全体の前後方向に、装置全体の前後方向の重心位置G1を中心とした所定の合力モーメントMが生じる(図9)。さらに、垂直壁面のハツリ動作の場合、ハツリ合力FJ、吸着合力FVに加えて、走行方向前方へ装置自体の重力、及び接地反力によって、側面視にて装置全体の前後方向に、装置全体の前後方向の重心位置G1を中心とした所定の合力モーメントMが生じる。
【0036】
ここで、回転駆動力を受ける側部車輪31Aの前後方向の車輪幅の範囲内に配置することで、吸引回収装置や吸着装置の吸引力(吸引圧)の設定により、前記ハツリ合力FJ、吸着合力FVによる走行ないし吸引動作の影響を抑え、複数のハツリユニットによる合力モーメントMを比較的容易にコントロールすることができる。すなわち本実施例では、前後方向の重心位置G1を車輪幅の範囲内、さらにいえば車軸位置を中心とした車輪幅の半幅の範囲内に設定することで、車軸C2近傍に重心位置G1を設定することとなり、安定した直進走行性を確保している。また、前部車輪31Bを双輪キャスターとしたことで、始動抵抗(停止状態からの出だし抵抗)を減少させつつ直進走行の安定性を確保し、旋回輪の接地性の向上によって方向転換の容易性を確保している。これら重心設定、ないし双輪キャスター化により、吸着部の吸着抵抗をうけたままの壁面走行(吸着走行)であっても、直進走行性と旋回時のコントロール性が良好なものとなる。
【0037】
また、図2に示すように、この実施例に係る壁面ハツリ装置100は、ハツリ部1のハツリ範囲S1の幅W1よりも走行幅方向内側に、壁面ハツリ装置100の重心位置G1が設定されると共に、ハツリ部1のハツリ範囲S1の幅W1よりも走行幅方向内側に、すべての走行輪31(側部車輪31A及び前部車輪31B)が平面配置されており、かつ、ハツリ部1のハツリ範囲S1の幅W1よりも走行幅方向内側に、吸着部2によるすべての吸着幅A2及びすべてのすべり接地範囲A21が入るように平面配置されている。
【0038】
このため、壁面ハツリ装置100の重心位置G1がハツリ範囲S1の幅W1よりも外側に配置されることがない。また、走行輪31がハツリ部1のハツリ範囲S1の幅W1よりも外側に飛び出して配置されることがない。さらに、吸着部2による吸着幅A2の一部がハツリ部1のハツリ範囲S1の幅W1よりも外側にはみ出すことがない。このような配置によって、重量バランスや反力の影響を受けやすい壁面走行でありながら、壁面ハツリ装置100を安定して走行させることができ、壁面の直進走行性が良好なものとなる。また、前記各特長と、吸着部及びハツリ部の前後配置(前後方向へのレイアウト)によって、走行幅よりも大きなハツリ範囲の幅を確保することができ、大きなハツリ残し領域(ハツリ処理できない領域)が発生しない。
【0039】
また、図1及び図2に示すように、本実施例に係る壁面ハツリ装置100の複数のスイベルユニット11は、走行幅の中心軸C1を境として左右対称に並列配置されて装置後部100Bを構成すると共に、吸着部2及び走行装置3が複数のスイベルユニット11よりも進行方向前方に平面配置されて、前記装置後部100Bよりも高重量の装置前部100Fを構成している。そして、吸着部2は走行幅の中心軸C1を境とした左右対称の吸着幅A2で壁面吸着する吸着空間2Sを有してなる。上記構成において、吸着部2及び走行装置3からなる装置前部100Fの重心位置G2が、走行幅方向において前記吸着部2の吸着幅A2内に配置設定されている。
【0040】
さらに言えば、吸着部2及び走行装置3からなる装置前部100Fの重心位置G2が、吸着幅A2又はすべり接地領域A21の幅内にあって、かつ、走行幅において中心軸C1寄りの位置となるように、走行幅の中心軸C1上又はその近傍に配置設定されている。前記「走行幅において中心軸C1寄りの位置となる」とは、重心位置G2の走行幅方向の位置が、吸着幅A2を四等分したときの両端を除く二つの等分領域内にある(すなわち中心軸C1を中心とした吸着幅A2の半幅(吸着幅A2の二分の一幅)の範囲内にある)ことを意味する。すなわち、一つの装置前部100Fと、複数のスイベルユニット11からなる装置後部100Bとが、走行幅の中心軸C1を中心として左右対称に(いわゆるT字状に)平面レイアウトされている。このため、進行方向の幅方向(左右方向)の重心の偏りが抑制され、偏重量の影響を受けやすい吸着走行において直進走行性が安定する。
【0041】
また、図5及び図6に示すように、本実施例に係る壁面ハツリ装置100の複数のスイベルユニット11は、それぞれ、対象壁面FWに対して水平配置されたまま所定の回転方向へ軸回転し得る棒状のスイベルヘッド11Aと、スイベルヘッド11Aの棒状軸に沿って設けられ、対象壁面FW側へ高圧水を所定角度で噴射し得る複数の噴射器11Bとを具備している。そして、図5に示すように、隣接したスイベルユニット11のスイベルヘッド11Aは、互いに異なる回転方向に軸回転しながら噴射器11Bで高圧水を噴射する。すなわち、スイベルヘッド11の軸回転方向を正逆交互となるように並設することで、各スイベルヘッド11の軸回転によって発生する慣性モーメント、並びに高圧水噴射によって発生する反力のモーメントを、隣り合うスイベルヘッド11同士で打ち消すこととなる。例えば、本実施形態では、図5に示すように、走行幅方向に三連配置した3つのスイベルユニット11のうち隣接するもののスイベルヘッドを互いに逆の回転方向に軸回転させるように設定している。具体的には、右端のスイベルユニット11のスイベルヘッド11Aが正転(右回り)に軸回転し、その左隣(三連配置のうちの中央位置)のスイベルユニット11のスイベルヘッド11Aが逆転(左回り)に軸回転し、さらにその左隣(三連配置のうちの左端)のスイベルユニット11のスイベルヘッド11Aが正転(右回り)に軸回転するように設定されている。これにより、隣接するスイベルユニット11の噴射反力によるモーメント同士が互いに打ち消し合うことで、ハツリ部1全体に発生する偏モーメントを低減することができる。
【0042】
ここで中央位置のスイベルユニット11の回転軸は中央のスイベルギア11Mに同軸連結され、右端・左端それぞれのスイベルユニット11の回転軸は右端、左端のスイベルギア11Gに同軸連結されてなる。また、中央のスイベルギア11Mは噛合して隣接する隣接ギア11Gを介して右端、左端のスイベルギア11Gにギア連動するように、一方向に並んだギア連接構造を有する(図1の破線)。これにより、中央のスイベルユニット11の水圧噴射に伴ってその噴射反力でスイベルヘッド11Aが正転回転すると、右端、左端それぞれのスイベルユニット11も自動的に逆転回転するようになっている。なお、隣接ギア間のギア比の設定によって、中央位置のスイベルユニット11は右端・左端それぞれのスイベルユニット11よりもスイベルヘッド11Aが高速で回転するものとなっている。すなわち、中央位置のスイベルヘッドによる正転(右回り)のモーメントが、右端のスイベルヘッドによる逆転(左回り)のモーメントを打ち消すと共に、左端のスイベルヘッドによる逆転(左回り)のモーメントを打ち消す。ハツリ部1全体の幅方向中央から見て、右端・左端のスイベルヘッドによるモーメントは中央位置のスイベルヘッドによるモーメントよりも大きくなるため、中央位置のスイベルヘッドによるモーメントを左右のスイベルヘッドよりも予め大きく設定することで、右端と中央のモーメントの打消し効果、並びに、左端と中央のモーメントの打消し効果を同時に達成している。これにより、ハツリ部全体に発生する、ハツリ領域の幅方向中心からみた偏モーメントを効率的に低減することができる。
【0043】
また、図6に示すように、本実施例に係る壁面ハツリ装置100の複数の噴射器11Bは、スイベルヘッド11Aの棒軸方向のうち中央寄りの位置P1から先端寄りの位置P2までの各取付け位置に離間配置され、先端寄りの位置P2の取付け位置に配置された噴射器11Bは、それよりも中央寄りの位置P1の取付け位置の噴射器11Bよりも、対象壁面FWの法線を基準とする傾斜角度θが段階的に大きくなるように、すなわち、対象壁面FWに対する噴射のあたり角度が段階的に小さくなるように、互いに異なる所定の傾斜角度θで取り付けられている。
【0044】
すなわち、スイベルヘッド11の棒軸(回転軸11C)に沿う各噴射位置に、複数の噴射器が取り付けられるところ、各取付け位置の噴射器は互いに異なる噴射角度で傾斜方向に噴射するものとしている。例えば、図6に示すように、各取付け位置の噴射器は、スイベルヘッド11の棒軸(回転軸11C)の中心寄りの位置から先端寄りの位置へ向かうに従って、壁面法線に対する傾斜角度が外方へ大きくなるように、噴射角度を段階的に変えて取り付けてある。具体的には、図6のように各スイベルヘッド11の棒軸(回転軸)に沿って両端に3つずつ、合計6つの噴射器を取り付けた構成において、最も内側の第一噴射器11Baと、これに外方隣接する第二噴射器11Bbと、最も外側の第三噴射器11Bcとを、順に、壁面法線(対象壁面FWの法線)に対する噴射器の取付け傾斜角度が5度(θ1)、10度(θ2)、40度(θ3)となるように設定している。
【0045】
つまり、噴射器11Bの位置(取付け位置)がスイベルヘッド11の回転軸11Cの中央から離れるにしたがって、各噴射器11Bの噴射方向の傾斜角度(180度−θ)が段階的に大きくなるように、すなわち、壁面に対する噴射のあたり角度が段階的に小さくなるように設定されることで、スイベルヘッド11の回転半径11Rよりも外側の切削が可能となり、一つのスイベルヘッド11によるハツリ範囲S1の広域化によって、隣り合うスイベルヘッド11との隙間によるハツリ残し領域の発生を抑制することができる。また、噴射方向の異なる各噴射器11Bの高圧水噴射によって、壁面への水撃方向の変化を伴った、多方向の切削を効率的に行うことが可能となる。
【0046】
さらに、本実施例に係る壁面ハツリ装置100は、図3に示すように、左右の側部車輪31Aをそれぞれ車軸固定する左右の駆動軸31Cと、各駆動軸31Cの内側部にて駆動軸31Cを対象壁面FWの傾斜に応じて傾動し得るように吊持する傾動ジョイント32と、各駆動軸31Cの前部に付設されて駆動軸31Cに走行駆動力を与える走行モータ33と、各駆動軸31Cの内側部上方に設けられて駆動軸31Cの過剰傾動を接触制限する押え枠34とを具備している。このため、図4に示すように、側部車輪31の各駆動軸が傾動ジョイント(いわゆるナックルジョイント)によって傾動対応可能に保持される。
【0047】
また、図4にて下傾動状態S2として示すように、駆動軸31Cが過度に下傾動したとき、上方の押え枠34が駆動軸31Cの内側部に接触してそれ以上の傾動を制限する(図4)ことで、吸着部2の対象壁面FWからの浮き上がりを防止するものとなっている。さらに、上述したように前部車輪31Bを双輪キャスターとしたことで走行の接地性が向上している。これらによって、覆い板20と吸着スカート21と対象壁面FWとで形成された、吸着部2の吸着空間2Sを、略密閉の減圧状態に保ちつつ走行し得るものとなっている(図3図4)。このため、対象壁面FWに段差部や凹凸部、曲面部があった場合でも、安定した直進走行性を得ることができ、操作性も向上する。
【0048】
またさらに、本実施例に係る壁面ハツリ装置100は、図1〜3に示すように、吸着部2の覆い板20の上部に固定された円筒状の吸着チャンバ22と、吸着チャンバ22及び走行部3の上部を方形枠状に囲って剛体支持するフレーム枠4と、吸着チャンバ22ないしフレーム枠4に環状に取り付けられた吊り環5と、を具備する。
【0049】
吸着チャンバ22は覆い板20の下部の吸着空間2Sと連通してなると共に、吸着チャンバ22の円筒体の上部を塞ぐチャンバ上面の中央には吸着ホース23が連結される。吸着ホース23の先側に連通接続された吸着動力装置(図示せず)によって内部に陰圧が生じ、これにより、覆い板20と吸着スカート21とによって囲まれた対象壁面FWの上方に、減圧状態の吸着空間2Sが形成される。
【0050】
フレーム枠4は、吸着チャンバ22及び走行部3の上部をまとめて方形枠状に囲うフレーム枠材からなり、枠後部にてハツリ部1の連結アーム122にもフレーム連結される。吸着部2及び走行部3からなる装置前部(100F)を一体的に囲って剛性を向上させるとともに、装置後部(100B)よりも高重量化させて重心位置を前方寄りに保つよう調整している。
【0051】
吊り環5は、吸着チャンバ側部に立設された支持柱に回動可能に取り付けられた環状のハーネスからなる。図8に示すように、環状空間に落下防止用のワイヤーを繋いで安全ワイヤーを上方吊設することで、壁面ハツリ装置の非常落下をワイヤー牽引によって防止する安全帯装置を構成する。
【0052】
(壁面ハツリ方法)
図7は、実施例1の壁面ハツリ装置を用いた壁面ハツリ方法による壁ハツリ状態図である。図8は、延長壁を取り付けた壁面ハツリ方法による壁面ハツリ状態図である。以下、図7及び図8を参照して本実施例に係る壁面ハツリ方法について説明する。
【0053】
本実施例の壁面ハツリ方法は、図7に示すように、壁面ハツリ装置100を対象壁面FWに吸着させ、走行装置3によってかぎ状に平行走行させて壁面のハツリ動作を行う。この際、図8に示すように、対象壁面FWの上端辺UW又は側端辺SWに、対象壁面FWと面一となる(高圧水で切断されない程度の強度を有する)延長壁EWを設置し(壁面延長工程)、延長壁EW及び対象壁面FWがハツリ部1のハツリ範囲S1となるように、ハツリ部1の一部が対象壁面FWから張り出した状態でハツリ動作を行うようにしてもよい(延長部ハツリ工程)。
【0054】
本実施例の壁面ハツリ装置100では、ハツリ幅W1の内側に走行輪31(側部車輪31A及び前部車輪31B)がハツリ部1のハツリ範囲S1の幅W1よりも走行幅方向内側に入るように平面配置されている。このため、対象壁面FWの左右側のハツリ残しがなくなるが、対象壁面FWの左右側をハツリ処理際には、ハツリ部1の一部が対象壁面FWの外側に位置することとなり、ハツリガラ及び高圧水が飛散する虞がある。しかし、図8に示すように延長壁EWを設けハツリ処理を行うことで、ハツリ部1の一部が対象壁面FWの外側に位置してもハツリガラ及び高圧水が飛散することがなくなる。
【0055】
以上のように、本実施例に係る壁面ハツリ装置及び壁面ハツリ方法によれば、ハツリ対象となる壁面全体にハツリ装置を走行させた場合にも、壁面の片側辺沿いや上辺沿いに大きな一定のハツリ残し領域が生じることを抑制し、また、吸着による走行抵抗やハツリ部の噴射反力によってもハツリ装置の直進走行性を確保することができる。
【0056】
(第2の実施例)
図10は、第2の実施例の壁面ハツリ装置の平面図である。図1図9を参照して説明した第1の実施例では、3つのスイベルユニット11を走行方向に対して直交する走行幅方向に平面配置していたが、図10に示すように、4つのスイベルユニット11を走行方向に対して直交する走行幅方向に平面配置するようにしてもよい。なお、図10に示す本実施例においても、隣接したスイベルユニット11のスイベルヘッド11Aは、互いに異なる回転方向に軸回転しながら噴射器11Bで高圧水を噴射する。
【0057】
すなわち、図10に示す第2の実施例に係る壁面ハツリ装置100においても、スイベルヘッド11の軸回転方向を正逆交互となるように並設することで、各スイベルヘッド11の軸回転によって発生する慣性モーメント、並びに高圧水噴射によって発生する反力のモーメントを、隣り合うスイベルヘッド11同士で打ち消している。その他の構成及び効果については、第1の実施例に係る壁面ハツリ装置100と同じであるため重複する説明を省略する。
【0058】
(第3、第4、第5の実施例)
図11(a)(b)(c)はそれぞれ、第3、第4、第5の実施例に係る壁面ハツリ装置の平面図である。図11(a)は、2つのスイベルユニット11を走行方向に対して直交する走行幅方向に三連配置した例を示している(第3の実施例)。また、図11(b)は、複数のスイベルユニット11を走行方向に対して直交する走行幅方向に三連配置したハツリ部1を、吸着部2の前方側(図11(a)の下側)及び後方側(図11(a)の上側)に配置した例を示す図である(第4の実施例)。なお、図11(b)では、吸着部2の前方側(図11(a)の下側)及び後方側(図11(a)の上側)に配置されるハツリ部1がそれぞれ3つスイベルユニット11を平面配置された例を示しているが、各ハツリ部1が備えるスイベルユニット11の数は3つに限られない。
【0059】
また、図11(c)は、ハツリ部1が備える複数のスイベルユニット11のうち、両端側に配置されるスイベルユニット11を中央に配置されるスイベルユニット11よりも大きくした例を示している(第5の実施例)。図11(c)では、ハツリ部1が備える複数のスイベルユニット11が吸着部2の外周辺に沿って配置されるため、ハツリ範囲S1を大きくとることができ、より効率よく対象壁面のハツリ処理を行うことができる。なお、両端側に配置されるスイベルユニット11は、壁面ハツリ装置100のバランスを保つためにスイベルユニット11の大きさ及び重量をそろえておくことが好ましい。両端側に配置されるスイベルユニット11の大きさ及び重量をそろえておくことで壁面ハツリ装置100を安定して走行させることができ、壁面の直進走行性が良好なものとなる。その他の構成及び効果については、第1の実施例に係る壁面ハツリ装置100と同じであるため重複する説明を省略する。
【0060】
(第6の実施例)
図12は、第6の実施例に係る壁面ハツリ装置のハツリ部1の部分拡大底面図である。本実施例では、3つのスイベルユニット11を走行方向に対して直交する走行幅方向に三連配置した例を示している。この三連配置のスイベルユニットのうち、右端のスイベルユニットのスイベルヘッド11Aが正転(右回り)に軸回転し、その左隣(三連配置のうちの中央位置)のスイベルユニットのスイベルヘッド11Aが逆転(左回り)に軸回転し、さらにその左隣(左端)のスイベルユニットのスイベルヘッド11Aが逆転(左回り)に軸回転するように設定される。この場合、三連配置のうち右端のスイベルヘッドによる噴射反力と、左端逆転(左回り)のスイベルユニット11Aによる噴射反力とによって、互いに打ち消し合う逆方向のモーメントが発生するため、ハツリ部全体に発生する偏モーメントを第1の実施例(図5)よりも低減することができる。
【0061】
(その他の実施例)
その他本発明は上述した実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更、要素抽出、構成の省略、形状・位置変更、或いは別構成の付加が可能である。上記第1〜第5の実施例では、スイベルユニット11ごとにモータを設けてスイベルユニット11を回転駆動しているが、スイベルユニット11ごとにモータを設けるとハツリ部1の重量が大きくなる。そこで、図11に示すように、スイベルユニット11間に偶数個の回転伝達ギア11Gを配置するように構成してもよい。
【0062】
回転伝達ギア11Gを偶数個とすることにより、スイベルヘッド11の軸回転方向を正逆交互とすることができ、各スイベルヘッド11の軸回転によって発生する慣性モーメント、並びに高圧水噴射によって発生する反力のモーメントを、隣り合うスイベルヘッド11同士で打ち消すことができる。そして、複数のスイベルヘッド11を回転駆動するモータが一つで済むためハツリ部1の重量を軽くすることができ、ハツリ装置の直進走行性や吸着安定性を高めることができる。
【0063】
また、壁面ハツリ装置100に高圧水を供給するホースを接続する際は、ホースを壁面ハツリ装置100の吸着部2の中央付近に固定し、回転ヒンジを設置することが好ましい。このように構成することで、ホースによる壁面ハツリ装置100への荷重が偏芯することを効果的に抑制することができる。また、ホースは、壁面ハツリ装置100に取り付ける落下防止装置に取り付けることで、ホースの重量が壁面ハツリ装置100に掛かる事を防止することが出来、ホースの長さ及び重さが壁面ハツリ装置100の吸着力やハツリ動作に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0064】
さらに、高圧水で切断されない程度の強度を有する任意の形状の板を対象壁面FWの周部に重ねて配置することで、ハツリ残し領域の形状を任意の形状とすることができる。さらに、所定の内部領域をくり抜いたくり抜き板を対象壁面FW上に重ねて配置することで、対象壁面FWのうち内部領域に対応する形状のみをハツリ領域とすることも可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 ハツリ部
11 スイベルユニット
11A スイベルヘッド
11B 噴射器
11S スイベルユニットの側部
11U スイベルユニットの上部
11B スイベルユニットの下方
12 ハツリカバー
13 吸引装置
2 吸着部
3 走行装置
31 走行輪
31A 側部車輪
31B 前部車輪
32 傾動ジョイント
100 壁面ハツリ装置
100B 装置後部
100F 装置前部
C1 走行幅の中心軸
C2 側部車輪の車軸
G1 装置全体(壁面ハツリ装置)の重心位置
G2 装置前部の重心位置
P1 中央寄りの位置
P2 先端寄りの位置
S1 ハツリ範囲
S2 吸着範囲
W 対象壁
FW 対象壁面
W1 ハツリ範囲の幅
UW 対象壁面の上端辺
SW 対象壁面の側端辺
EW 延長壁
θ 傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13