(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963230
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】液体磁石および液体磁石製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20211025BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20211025BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20211025BHJP
H01F 1/44 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
H01F1/057 110
H01F7/02 B
H01F41/02 G
H01F1/44 120
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-27124(P2017-27124)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2018-133488(P2018-133488A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 博司
(72)【発明者】
【氏名】山崎 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰久
(72)【発明者】
【氏名】出口 朋枝
【審査官】
久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−074304(JP,A)
【文献】
特開2016−152337(JP,A)
【文献】
特開昭60−229916(JP,A)
【文献】
特開平06−061032(JP,A)
【文献】
特開2008−150596(JP,A)
【文献】
特開昭50−033499(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0270043(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第101256870(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第103990808(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00−1/117、1/44、7/02、41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化されたネオジム粉末と、
ポリマーネットワークによって前記ネオジム粉末を保持する高分子溶液であり、高分子の濃度が20000〜35000ppmである前記高分子溶液と、を備え、
前記ネオジム粉末が前記高分子溶液中に分散されており、
流動性を有し、かつ磁場の有無にかかわらず磁石として機能し、
前記高分子はポリアクリルアミドであり、
前記ネオジム粉末はNdFeB粉である
ことを特徴とする液体磁石。
【請求項2】
10μm以下の平均粒径を有するネオジム粉末を、ポリマーネットワークによって前記ネオジム粉末を保持する高分子溶液であり、高分子の濃度が20000〜35000ppmである前記高分子溶液中に分散させる分散工程と、
前記ネオジム粉末が分散された前記高分子溶液に、磁場を印加して前記ネオジム粉末を磁化させる着磁工程と、を含み、
前記高分子はポリアクリルアミドであり、
前記ネオジム粉末はNdFeB粉である
ことを特徴とする液体磁石製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体磁石および液体磁石製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
任意の形状に加工できる磁石として、例えば、ボンド磁石がある。ボンド磁石は、磁性粉末を混合した樹脂を硬化させて加工したものであるため、加工自由度が高い。しかしながら、ボンド磁石は、加工後に形状を変化させることが困難である。
【0003】
加工後に形状を変化させることができる磁石としては、例えば、特許文献1に記載の磁気粘弾性体がある。磁気粘弾性体は、シリコーンゲル中に磁性微粒子を分散させて着磁させたものであるため、加工後(着磁後)に容易に形状を変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−152337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の磁気粘弾性体は、弾性的性質が強く、流動性を有していない。このため、上記従来の磁気粘弾性体は、磁石としての用途が限定的である。
【0006】
なお、流動性を有するものとして磁性流体が知られているが、磁性流体は、磁場が与えられたとき(例えば、磁石を近づけたとき)にのみ磁石として機能し、磁場が与えられていないとき(例えば、磁石を遠ざけたとき)には磁石として機能せず、ただの流体になる。したがって、本明細書では、磁性流体は磁石に含めない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、流動性を有する磁石およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る液体磁石は、
磁化された磁性粉末と、
前記磁性粉末を物理的または化学的に保持する溶媒と、を備え、
前記磁性粉末が前記溶媒中に分散されており、
流動性を有し、かつ磁場の有無にかかわらず磁石として機能する
ことを特徴とする。
【0009】
上記液体磁石において、例えば、
前記磁性粉末は、ネオジム粉末である。
【0010】
上記液体磁石において、例えば、
前記溶媒は、ポリマーネットワークによって前記磁性粉末を保持する高分子溶液であり、
前記高分子溶液は、水ベースの場合は高分子が親水性官能基を有する一方、オイルベースの場合は高分子が疎水性官能基を有する。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る液体磁石製造方法は、
10μm以下の平均粒径を有する磁性粉末を、前記磁性粉末を物理的または化学的に保持する溶媒に分散させる分散工程と、
前記磁性粉末が分散された前記溶媒に、磁場を印加して前記磁性粉末を磁化させる着磁工程と、を含む
ことを特徴とする。
【0012】
上記液体磁石製造方法は、
前記分散工程の前に、磁性材料を微細加工して前記磁性粉末を作製する加工工程を含む
ように構成できる。
【0013】
上記液体磁石製造方法において、例えば、
前記磁性粉末は、ネオジム粉末である。
【0014】
上記液体磁石製造方法において、例えば、
前記溶媒は、ポリマーネットワークによって前記磁性粉末を保持する高分子溶液であり、
前記高分子溶液は、水ベースの場合は高分子が親水性官能基を有する一方、オイルベースの場合は高分子が疎水性官能基を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流動性を有する磁石およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】液体磁石の磁気特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る液体磁石および液体磁石製造方法の実施形態について説明する。
【0018】
(液体磁石)
図1に、本実施形態に係る液体磁石を示す。本実施形態に係る液体磁石は、磁化された磁性粉末と、磁性粉末を物理的または化学的に保持する溶媒と、を備える。なお、
図1では、液体磁石を容器に入れている。
【0019】
溶媒は、高分子溶液(例えば、ポリアクリルアミド水溶液)である。高分子溶液中に分散された磁性粉末は、高分子溶液のポリマーネットワークによって物理的に保持されるため、時間がたっても非常に沈降しにくく、磁性粉末同士が非常に凝集しにくい。高分子溶液における高分子の濃度(例えば、ポリアクリルアミドの濃度)は、20000〜35000ppm、好ましくは25000〜35000ppmである。
【0020】
磁性粉末は、ネオジム粉末からなる。磁性粉末は、平均粒径が10μm以下、好ましくは5〜10μmになるように微細加工されたものである。溶媒に対する磁性粉末の比率は、例えば、30〜85重量%、好ましくは40〜70重量%である。また、磁性粉末は、高分子溶液に分散された状態で磁化される。
【0021】
本実施形態に係る液体磁石は、流動性を有し、かつ磁場の有無にかかわらず磁石として機能する。したがって、本実施形態に係る液体磁石は、様々な用途が期待できる。例えば、3Dプリンターなどのノズルから液体磁石を噴出させることにより、任意の三次元構造を有する磁気回路(磁石構造体)を作成することができる。また、ファラデーの電磁誘導の法則に従い、コイル内に保持された液体磁石に振動等の力を加えることにより、発電することが可能なエネルギーハーベストとして使用することができる。また、磁性体により構成される金属(例えば、鉄やニッケル)同士の接着剤として使用することができる。
【0022】
(液体磁石製造方法)
次に、本実施形態に係る液体磁石製造方法について説明する。本実施形態に係る液体磁石製造方法は、上記液体磁石の製造方法である。
【0023】
本実施形態に係る液体磁石製造方法は、加工工程と、加工工程の後に行う分散工程と、分散工程の後に行う着磁工程と、を含む。
【0024】
加工工程では、磁性材料を微細加工して、10μm以下の平均粒径を有する磁性粉末を作製する。本実施形態では、磁性材料としてネオジム(Nd)を主成分としたMagnequench社製の「MQP−B−20052−070」(NdFeB粉)を使用し、当該磁性材料を、ボールミル装置によって平均粒径が10μm以下になるように微細加工する。
【0025】
分散工程では、加工工程で作製したネオジム粉末を溶媒(ポリアクリルアミド水溶液)に分散させる。本実施形態では、ネオジム粉末とポリアクリルアミド水溶液とを適当な容器に投入し、当該容器をアズワン社製の真空脱泡装置「VD−VLH」内に配置し、ULVAC社製の真空ポンプ「G−50SA」で真空引きを行いながら容器内のネオジム粉末およびポリアクリルアミド水溶液を真空脱泡攪拌する。
【0026】
本実施例では、ポリアクリルアミド水溶液に対するネオジム粉末の比率を60重量%とし、真空脱泡攪拌の時間を5分間とする。この5分間の真空脱泡攪拌により、ネオジム粉末は、ポリアクリルアミド水溶液中に均一に分散した状態となる。
【0027】
着磁工程では、分散工程で得られた液体(磁性粉末が分散された溶媒)にパルス状の高磁場(パルス磁場)を印加する。本実施例では、東英工業社製のパルス励磁式磁気特性測定装置「TPM−2−08s25VT−C」を使用して6〜10Tのパルス磁場を印加する。この装置は、磁性粉末が分散された溶媒を収容する試料室と、試料室を取り囲む超電導コイルと、超電導コイルに直列接続されたコンデンサおよびスイッチと、コンデンサを充電するための直流電源とを含む。スイッチを開けた状態でコンデンサを充電した後、スイッチを閉じると、コンデンサの放電電流が超電導コイルに一気に流れ、超電導コイルの周り、すなわち試料室に一様な高磁場が発生する。
【0028】
パルス磁場を印加することで、ポリアクリルアミド水溶液中のネオジム粉末が磁化される。ネオジム粉末が磁化されることで、液体磁石が完成する。磁化されたネオジム粉末は、ポリアクリルアミド水溶液のポリマーネットワークによって物理的に保持されるため、時間がたっても沈降しない。
【0029】
図2に、本実施形態に係る液体磁石製造方法によって製造した液体磁石の磁気特性を、上記パルス励磁式磁気特性測定装置で測定した結果を示す。このグラフは、液体磁石が磁石として機能していることを示している。
【0030】
結局、本実施形態に係る液体磁石製造方法によれば、流動性を有し、かつ磁場の有無にかかわらず磁石として機能する液体磁石を製造することができる。
【0031】
以上、本発明に係る液体磁石および液体磁石製造方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0032】
本発明の磁性粉末は、ネオジム粉末以外もの(例えば、SmFeN粉末、SmCo粉末またはフェライト粉末)を使用することができる。磁性粉末の形状は、球状であってもよいし、麟片状や異形であってもよい。磁性粉末は、界面活性剤などの界面加工が施されていてもよいし、界面加工が施されていなくてもよい。また、リン酸などによる合処理が施されていてもよい(防錆処理)。
【0033】
本発明の溶媒は、ポリアクリルアミド水溶液以外の高分子溶液を使用することができる。例えば、アガロース水溶液、ポリエチレンオキサイド水溶液等を使用することができる。また、高分子溶液は、水ベースの場合(高分子溶液の溶媒が水を主成分とする場合)は高分子が親水性官能基を有するものを用いる一方、オイルベースの場合(高分子溶液の溶媒がオイルを主成分とする場合)は高分子が疎水性官能基を有するものを用いることが好ましい。
【0034】
また、本発明の溶媒は、磁性粉末を物理的または化学的に保持するものであれば、高分子溶液以外のものを使用することができる。例えば、絶縁油などの高粘度溶液や、溶融塩は、時間がたつと磁性粉末がごくわずかに沈降するが、沈降速度が遅いため(例えば、数年で1mm沈降する)、磁性粉末を保持しているといえる。すなわち、本発明の溶媒は、高粘度溶液や溶融塩も含む。
【0035】
本発明に係る液体磁石製造方法では、磁性材料の平均粒径が10μm以下の場合、当該磁性材料を磁性粉末として扱うことができるため、加工工程を省略することができる。また、着磁工程において磁性粉末に印加する磁場は、パルス磁場には限定されない。