(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963232
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】車椅子のキャスター装置
(51)【国際特許分類】
A61G 5/02 20060101AFI20211025BHJP
A61G 5/04 20130101ALI20211025BHJP
【FI】
A61G5/02 701
A61G5/04 701
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-82480(P2017-82480)
(22)【出願日】2017年4月19日
(65)【公開番号】特開2018-175611(P2018-175611A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】392036223
【氏名又は名称】株式会社森山鉄工
(73)【特許権者】
【識別番号】516304159
【氏名又は名称】株式会社 アイエッチ
(74)【代理人】
【識別番号】100087169
【弁理士】
【氏名又は名称】平崎 彦治
(72)【発明者】
【氏名】森山 清次
【審査官】
胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−199779(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0093155(US,A1)
【文献】
国際公開第2004/052662(WO,A1)
【文献】
実開昭48−091652(JP,U)
【文献】
特開2009−154634(JP,A)
【文献】
特開2001−277807(JP,A)
【文献】
実開昭50−021258(JP,U)
【文献】
特開2003−334216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/02
A61G 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子の前方両側に取付けるキャスター装置において、キャスターはフォークの脚部先端にキャスター軸を介して取付けられ、該フォークはフォーク受けに組付けられた状態で基台側から下方へ延びる主軸に取付けられてネジ止めされ、上記フォークは両脚部を繋ぐ板バネ部と上板部を有す共に上記主軸が挿通する穴を貫通した該上板部の基部両側には突片を形成し、フォーク受けは上記主軸が挿通する穴を貫通した上板部の両側には脚部を設けると共に脚部先端側にはキャスター軸が遊嵌される円弧状長穴を設け、上記フォークの上板部はフォーク受けの上板部の下面に当接し、該フォークの上板部の基部両側に形成している突片は、フォーク受けの脚部と上板部との間に形成している溝に係合して該フォークの上板部は位置決めされ、フォークの両脚部はフォーク受けの両脚部の内側の当接し、脚部の間にキャスターを嵌めると共にキャスター軸を挿通して取付けられ、上記フォークの板バネ部はキャスターが路面の凸部に乗り上げる際には撓み変形することを特徴とする車椅子のキャスター装置。
【請求項2】
上記フォーク受けの上板部上面側とフォークの上板部下面側には主軸が挿通するベアリングを介在した請求項1記載の車椅子のキャスター装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は老人や身体の悪い身体障害者が利用する車椅子を対象とし、該車椅子の前方側に取付けられるキャスター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車椅子は身体障害者、病人、歩行が困難になった人々にとっては必需品であり、高齢化社会へ突き進んでいる我が国では今後益々車椅子の利用者が増えることになる。車椅子にもその型式は色々あるが、近年ではその需要が40万台を越えている。
このように車椅子人口が多いことから、車椅子の改良も色々行われている一方、車椅子の利用がしやすい環境整備もなされている。
【0003】
例えば、車椅子が移動しやすいように歩道や公園が整備され、駅の構内やホテルなどでも車椅子で移動しやすい造りと成っている。また、自動車にしても車椅子を搭載することが出来るようにした車種も市販され、車に載せて運び易くする為であり片付け易くする為にも、車椅子自体もコンパクトに折畳むことが出来る構造としている。
【0004】
図5は従来の一般的な車椅子の外観を示している。車椅子は椅子に車輪を装着した構造で、椅子に座った状態で移動することが出来るように構成している。同図の(イ)は後輪、(ロ)はキャスター、(ハ)は椅子、(ニ)はハンドル、(ホ)はハンドリム、(ヘ)は背凭れ、(ト)はアームサポート、(チ)はサイドカバー、(リ)はブレーキハンドル、(ヌ)はフットサポートをそれぞれ表している。
【0005】
車椅子は上記2個の後輪(イ)、(イ)と2個のキャスター(ロ)、(ロ)にて支持されて移動可能な構造としているが、椅子(ハ)の後方にはハンドル(ニ)、(ニ)を有し、後輪(イ)、(イ)と同芯を成して取付けられている自走用のハンドリム(ホ)、(ホ)、そしてフレーム(ル)の下端にはフットサポート(ヌ)、(ヌ)を備えている。椅子(ハ)には身体障害者が座ることが出来、介護者がいる場合にはハンドル(ニ)、(ニ)を握って車椅子を操作することが出来、介護者がいない時には身体障害者自らが自走用のハンドリム(ホ)、(ホ)を回して移動することが出来る。
【0006】
所定の場所に停止している場合には、ブレーキハンドル(リ)を操作して後輪(イ)の回転を固定する。前輪となるキャスター(ロ)、(ロ)はその向きを自由に変更することが出来るように軸支され、車椅子の移動方向を変えることが出来る。
そして、身体障害者は椅子(ハ)に座ると共に足はフットサポート(ヌ)、(ヌ)に載せることが出来、該フットサポート(ヌ)、(ヌ)は足を載せるために水平に配置されているが、回転して垂直に起立することも可能である。
【0007】
ところで、車椅子が走行する路面は一般に舗装されているが、舗装面であっても完全な平坦面ではなく小さい段差が所々に存在している。また、歩道路面には視力弱者にとって目印となる「視覚障害者誘導用ブロック」と称されるプレートが敷設されている。
すなわち、視覚障害者が足裏の触感覚で認識できるよう、突起(凸部)を表面に設けたもので、視覚障害者を安全に誘導するために路面や床面に敷設されているブロック(プレート)である。
【0008】
今日では歩道のみならず、鉄道の駅や公共施設、さらには店舗、ショッピングセンターの出入り口近くなど、多くの場所に設置が行われている。また、「エスコートゾーン」という、形状は異なるが車道の横断歩道部分にもブロックの設置がなされている。
上記視覚障碍者誘導用ブロックに設けられている凸部は比較的小さいが、このブロック上を車椅子が通過する場合、前輪となるキャスターはその外径が小さい為に障害となる場合もある。
【0009】
すなわち、キャスターが小さい凸部や段差を乗り越える場合、車椅子の前方側を押上げなくてはならず、その為に前方へ押す力が大きくなり、また、ハンドルリムを回す為に大きな力が必要となる。特に、凸部や段差の手前でキャスターが位置して車椅子が停止している状態から動き始める際には、さらに動きにくくなる。
一方、「視覚障害者誘導用ブロック」上を車椅子が通過する場合、振動が椅子に伝わり、乗り心地が阻害される。
【0010】
従来においても車椅子に関する特許出願は色々行われている。
例えば、特開2003−334216号に係る「車椅子」は、走向中の段差などの障害物を容易に乗り越えることが可能な車椅子であり、その為に障害物乗り越え装置を備えている。
すなわち、枢支連結される四辺形リンク上に配置される支持フレーム、補助輪フレーム、操作フレーム、連結フレームと、弾性体とを有し、弾性体は補助輪フレームを上方に引き上げるように付勢し、補助輪は操作レバーの下方又は上方移動により、前車輪側に回動して、その後方に着地した後に、操作レバーの更なる可能又は上方移動により、更に前車輪側に回動して前車輪を補助輪よりも上方に浮上させる車椅子である。
【特許文献1】特開2003−334216号に係る「車椅子」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、従来の車椅子には上記のごとき問題がある。本発明が解決しようとする課題はこの問題点であり、歩道面に小さい段差や凹凸が存在しても、車椅子がスムーズに走行することが出来、また振動が伝わることのない車椅子のキャスター装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る車椅子は、椅子に後輪と前輪(キャスター)を備えて移動できるように構成したもので、正面には足を載せるフットサポート、後方には手押しハンドルを有し、その基本的な構造は従来の車椅子と同じである。
本発明のキャスター装置を構成している上記キャスターを取付けるフォークにはバネ機能を備え、段差や凸部を乗り上げる際にはバネが撓み変形することが出来るように成っている。
【0013】
ところで、上記バネはコイルバネではなく板バネが用いられ、該板バネの撓み変形にて凹凸面をスムーズに通過することが出来るように構成している。
上記フォークはキャスターを挟む2本の脚部と両脚部を繋ぐ板バネ部、板バネ部から延びる上板部から成っている。そして該フォークと組み合わされるフォーク受けを有し、フォーク受けは上板部と両脚部から成り、脚部の先端部には円弧状長穴を設けている。
上記フォークの上板部はフォーク受けの上板部の下面に当接して組み合わされて主軸にネジ止めされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るキャスターを取付けているフォークは板バネ部を有していて、車椅子が段差や「視覚障害者誘導用ブロック」を比較的スムーズに通過することが出来、また、通過の際の振動が抑制される。
すなわち、凸部に差し掛かった場合、椅子が持ち上がることなくフォークの板バネ部が撓み変形することで通過することが出来、椅子に伝わる振動が抑えられ、椅子が持ち上がることがない為に車椅子を大きな力で押す必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るキャスター装置で、正面側からの斜視図。
【
図2】本発明に係るキャスター装置で、側面側からの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1、
図2は本発明に係る車椅子のキャスター装置を示す外観図であり、
図1は正面側からの斜視図、
図2は側面側からの斜視図をそれぞれ表わしている。そして、同図の1はキャスター、2はキャスター軸、3はフォーク受け、4は主軸、5はフォークである。
キャスター装置は車椅子の前方側に取付けられて、上記主軸4を中心として揺動し、その向きを変えることが出来、キャスター1はキャスター軸2を中心として回転する。
【0017】
キャスター装置としての基本的な構造は前記
図5に示す従来の装置と共通しているが、本発明のキャスター装置は路面に小さい凹凸があっても椅子をそのまま振動させることなく、キャスター1の上下動によって吸収することが出来る。キャスター1を支持しているフォークは板バネによって構成されていて、フォークを構成する板バネ部が適度に撓み変形することが出来る。
【0018】
図3は本発明のキャスター装置の展開図を示している。キャスター1の中心に貫通した軸穴6にはキャスター軸2が挿通されるが、上記フォーク5に取付けられる。該フォーク5は先端に軸穴12,12を設けた2本の脚部7,7を有し、両脚部7,7は板バネ部8によって繋がれ、板バネ部8からは上板部9が延びている。
【0019】
また、フォーク受け3は上板部10とその両側に下方へ延びる脚部11,11を設け、脚部11,11の先端部には円弧状長穴13,13が貫通している。フォーク5はフォーク受け3に組み付けされるが、上板部9は上板部10の下面に当接し、上板部9の基部両側に形成している突片14,14は、脚部11,11と上板部10との間に形成している溝15,15に係合して上板部9は位置決めされる。そこで、フォーク5の両脚部7,7はフォーク受け3の両脚部11,11の内側の当接し、脚部7,7の間にキャスター1を嵌めると共にキャスター軸2を挿通して取付ける。
【0020】
ところで、主軸4は基台16から下方へ延びていて、基台16の下面17とフォーク受け3との間には主軸4が挿通するベアリング19が介在し、該ベアリング19の上下にはワッシャ18a,18bを設けている。
そして、ベアリング19の穴を挿通した主軸4はフォーク受け3の上板部10に形成した穴20を貫通し、またフォーク5の上板部9の穴21を貫通し、該主軸4の下端部はベアリング22の中心穴を挿通してナット23が螺合する。
【0021】
ここで、ベアリング22は穴21に嵌って位置決めされる。また、キャスター1の軸穴6、フォーク5の脚部先端の軸穴12,12、及びフォーク受け3の脚部11,11の円弧状長穴11,11を挿通するキャスター軸2の先端にはナット24が螺合して固定される。
図4は別の方向からのキャスター装置の展開図を示している。
【0022】
ところで、主軸4にフォーク5を取付けた本発明のキャスター装置は、キャスター1が路面に存在する凸部に乗り上げる際、該キャスター1が上昇するならば、フォーク5の板バネ部8が撓み変形することが出来る。
勿論、ゆっくりと凸部に乗り上げるならば、板バネ部8は撓み変形することなく椅子は持ち上げられるが、衝撃的に働く負荷に対しては板バネ部8が撓み変形することで椅子を押し上げることはない。その為に、路面に設置されている視覚障碍者誘導用ブロック上を移動しても振動を感じることは殆どない。
また、キャスター1が凸部を乗り上げる際に板バネ部8が撓み変形することで対応する為に、車椅子を押す力は小さくて済む。
【0023】
キャスター1を取付けている両脚部7,7は板バネ部8の撓み変形と共に旋回することになるが、キャスター軸2はフォーク受け3の脚部11,11に形成している円弧状長穴13,13に沿って移動することが出来る。
【符号の説明】
【0024】
1 キャスター
2 キャスター軸
3 フォーク受け
4 主軸
5 フォーク
6 軸穴
7 脚部
8 板バネ部
9 上板部
10 上板部
11 脚部
12 軸穴
13 円弧状長穴
14 突片
15 溝
16 基台
17 下面
18 ワッシャ
19 ベアリング
20 穴
21 穴
22 ベアリング
23 ナット
24 ナット