(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂被覆経糸条と熱可塑性樹脂被覆緯糸条により編成され、略正方形又は略長方形の糸条間空隙を有する長尺メッシュシートからなる列車線路のバラストネットであって、該長尺メッシュシートは、隣接する該熱可塑性樹脂被覆経糸条間を構成する該熱可塑性樹脂被覆緯糸条の表面に賦型された陥没部が、該熱可塑性樹脂被覆経糸条の長さ方向である該長尺メッシュシートの長手方向に破線状に連なる折り畳み部を、少なくとも1個有し、該陥没部は、該長尺メッシュシートの表裏何れか一方の片面側、又は、同じ位置の表裏両面に賦型されていることを特徴とする前記バラストネット。
前記長尺メッシュシートの長手方向に連なる折り畳み部が3〜6個あり、該長手方向に直交する幅方向において、該長尺メッシュシートの左右両端から左右最外側に位置する折り畳み部までの区切り部の幅が、該左右最外側に位置する折り畳み部の内側に位置する1〜4個の折り畳み部による区切り部の幅よりも狭い、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバラストネット。
前記長尺メッシュシートの長手方向に連なる折り畳み部が3〜6個あり、該長手方向に直交する幅方向において、該長尺メッシュシートの左右両端から左右最外側に位置する折り畳み部の陥没部の幅(W)が、該左右最外側に位置する折り畳み部の内側に位置する1〜4個の折り畳み部の陥没部の幅(W)よりも狭い、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバラストネット。
前記長尺メッシュシートの長手方向に連なる折り畳み部が3〜6個あり、該長手方向に直交する幅方向において、該長尺メッシュシートの左右両端から左右最外側に位置する折り畳み部の陥没部の深さ(d)が、該左右最外側に位置する折り畳み部の内側に位置する1〜4個の折り畳み部の陥没部の深さ(d)よりも浅い、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバラストネット。
前記熱可塑性樹脂被覆経糸条と前記熱可塑性樹脂被覆緯糸条はいずれも、繊度1111〜222222dtexのポリエステルマルチフィラメント糸をポリ塩化ビニル樹脂で被覆した糸条である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバラストネット。
前記積み重ね体の楔打ち仮固定工程において、2本のレールの中心線から左右400mm以上離れた地点までのバラスト及びマクラギを露出させる、請求項9に記載のバラストネットの設置方法。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道には、路盤上の道床に砕石や砂利などのバラストを敷き、バラストの上部にマクラギを並べてその上に一対のレールを敷設する構造のバラスト軌道が古くから用いられている。しかし、近年、列車運行の高速化に伴い、冬季に、積雪区間で車両に付着凍結した雪氷塊が、温暖な区間で走行中の列車から落下してバラストを飛散させ、鉄道敷地外に飛び出して思わぬ事故につながることがあった。また、バラスト軌道は低振動かつ低騒音で乗り心地がよい特徴を有するが、マクラギがバラストに沈降するなどしてレールが歪んだり、高さが狂ったりしやすく、レールを元の状態に戻す保線作業を定期的に行う必要がある。
【0003】
バラスト飛散による事故を防止するために各種対策が施されており、例えば、以下の非特許文献1には、ゴム製のバラストスクリーンをマクラギ間に敷設してバラストを覆う工法が、また、以下の特許文献1には、バラスト表層を樹脂で固める道床安定剤工法が、さらに、以下の特許文献2には、合成フィラメント糸条からなりかつ耐候性樹脂被覆層により被覆されている経糸および緯糸により構成された長尺のバラストネットでバラスト及びマクラギを覆う工法が、開示されている。これらの内、バラストスクリーンとは、ゴム製の成型シートであり、厚手のシートとすることで高い耐久性を与えることができるものの、サイズをマクラギの間隔に合わせて成型する必要があるため、マクラギ間隔の異なる路線それぞれに対応する汎用性が乏しいという問題がある。
【0004】
バラスト軌道の保線作業においては、レール上を自走するマルチプルタイタンパー等の装置により、マクラギ下のバラストを突き固めながら軌道を修正する道床補修工事が行われる。その際、バラストを突き固めるためのツールを突き刺すスペースを空ける必要があり、少なくともレール近傍のバラストを露出させなければならない。そのため、バラストスクリーンを用いた場合、保線作業の前に一旦撤去(別の場所に移動)し、作業終了後に再敷設しなければならないが、バラストスクリーンは厚さ10〜30mmの板状のゴムシートであるため非常に重く、作業者の負担が大きく、作業に時間もかかるので、撤去・再敷設にかかる作業が律速となり、一晩の作業量(多くの場合終電から始発までの時間内に行う)が限られてしまい、全路線にわたって充分な保線作業を行えなくなるおそれがある。また、バラストスクリーンの敷設時は、マクラギ端部のバラストを掻き出す必要があり、道床肩の形状を確保できない場合も発生するため、在来線への適用には問題もある。他方、道床安定剤は、有効期限が定められており、毎年、散布を繰り返す必要があるため、バラスト間の固結が過度な状態となり、軌道整備やマクラギ取替、道床取替等、バラストを扱う作業の効率を低下させている。また、道床安定剤工法の場合は、樹脂で固めたバラストをマルチプルタイタンパーで突き崩しながら軌道修正作業を進めることができるものの、作業後に改めて樹脂散布を行わなければならず、多大な労力とコストがかかるという問題もある。
【0005】
他方、長尺のバラストネットは、バラストとマクラギを一緒に覆うことができ、マクラギの間隔に合わせて様々な規格のバラストネットを用いる必要が無いため汎用性に優れ、一度に撤去・再敷設できる範囲が広く、しかもバラストスクリーンよりはるかに軽量であるため、作業者にかかる負担を大幅に軽減できるものである。しかしながら、保線作業の前に一旦撤去し、作業終了後に再敷設しなければならない点はバラストスクリーンを用いた場合と同様であり、さらなる作業軽減が求められていた。
【0006】
以下の特許文献3には、バラストを覆う固定被覆部材と可動被覆部材とが連結され、連結部において屈曲可能とされるバラストスクリーンが提案されている。この方法によれば、保線作業時にバラストスクリーン全体を撤去することなく、連結部を折り曲げるだけでレール近傍のバラストを露出させることができ、保線作業に要する時間が大幅に短縮されるとされる。しかしながら、この方法においてもバラストスクリーン重量の問題や、マクラギとマクラギの間に1つずつ敷設する必要がある点については改善されず、敷設の際の作業者の負担が大きい点や、汎用性に乏しい点は従来と変わらない。また、折り曲げ可能とするための連結部を構成する材料の耐久性が低く、連結部が破損されやすいため、バラストスクリーン自体の保守点検に関わる新たな作業負担を生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、本来の特性である軽量・高強度・高耐久性を有しながら、保線作業時に撤去することなくその場で容易に折り畳んで仮固定することができ、作業終了後には仮固定を解除して展開すれば速やかに再敷設が可能なバラストネット、及びその設置方法を提供することである。尚、背景技術の欄に前記した従来技術の問題点は、本発明者らが初めて認識したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、熱可塑性樹脂被覆経糸条と熱可塑性樹脂被覆緯糸条により編成され、略正方形又は略長方形の糸条間空隙を有する長尺メッシュシートにおいて、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の表面に賦型された陥没部が長手方向に破線状に連なる折り畳み部を設けることで、長尺メッシュシート本来の強度や耐久性を低下させることなく、折り畳み部に沿って容易に折り畳めることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0011】
すなわち本発明は、以下のとおりのものである。
[1]熱可塑性樹脂被覆経糸条と熱可塑性樹脂被覆緯糸条により編成され、略正方形又は略長方形の糸条間空隙を有する長尺メッシュシートからなる列車線路のバラストネットであって、該長尺メッシュシートは、
隣接する該熱可塑性樹脂被覆経糸条間を構成する該熱可塑性樹脂被覆緯糸条の表面に賦型された陥没部が
、該熱可塑性樹脂被覆経糸条の長さ方向である該長尺メッシュシートの長手方向に破線状に連なる折り畳み部を、少なくとも1個有し
、該陥没部は、該長尺メッシュシートの表裏何れか一方の片面側、又は、同じ位置の表裏両面に賦型されていることを特徴とする前記バラストネット。
[2]前記長尺メッシュシートの長手方向に直交する幅方向における、前記陥没部の幅(W)
、すなわち、前記熱可塑性樹脂被覆緯糸条の長さ方向における陥没部の長さが、3〜12mmである、前記[1]に記載のバラストネット。
[3]前記陥没部の陥没深さ(d)が、前記熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚みの15〜75%である、前記[1]又は[2]に記載のバラストネット。
[4]前記長尺メッシュシートの長手方向に連なる折り畳み部が3〜6個あり、該長手方向に直交する幅方向において、該長尺メッシュシートの左右両端から左右最外側に位置する折り畳み部までの区切り部の幅が、該左右最外側に位置する折り畳み部の内側に位置する1〜4個の折り畳み部による区切り部の幅よりも狭い、前記[1]〜[3]いずれかに記載のバラストネット。
[5]前記長尺メッシュシートの長手方向に連なる折り畳み部が3〜6個あり、該長手方向に直交する幅方向において、該長尺メッシュシートの左右両端から左右最外側に位置する折り畳み部の陥没部の幅(W)が、該左右最外側に位置する折り畳み部の内側に位置する1〜4個の折り畳み部の陥没部の幅(W)よりも狭い、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のバラストネット。
[6]前記長尺メッシュシートの長手方向に連なる折り畳み部が3〜6個あり、該長手方向に直交する幅方向において、該長尺メッシュシートの左右両端から左右最外側に位置する折り畳み部の陥没部の深さ(d)が、該左右最外側に位置する折り畳み部の内側に位置する1〜4個の折り畳み部の陥没部の深さ(d)よりも浅い、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のバラストネット。
[7]長尺メッシュシートの略正方形又は略長方形の糸条間空隙の面積が25〜900mm
2である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載のバラストネット。
[8]前記熱可塑性樹脂被覆経糸条と前記熱可塑性樹脂被覆緯糸条はいずれも、繊度1111〜222222dtexのポリエステルマルチフィラメント糸をポリ塩化ビニル樹脂で被覆した糸条である、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のバラストネット。
[9]レール内側及びレール左右外側のバラスト及びマクラギを、前記[1]〜[8]のいずれかに記載のバラストネットで、長手方向にレールに沿って、覆う工程;
該バラストネットを、レール内側のバラストネットにおいては幅方向略中央部の区切り部で、レール左右外側のバラストネットにおいてはレールからより離れた区切り部で、バラストに固定する工程;及び
保線作業時には、該固定を維持したまま、前記バラストネットの折り畳み部で折り畳んで積み重ね体とし、これらをレール内側、レール外側に楔打ち仮固定する工程;
を含む、バラストネットの設置方法。
[10]前記積み重ね体の楔打ち仮固定工程において、2本のレールの中心線から左右400mm以上離れた地点までのバラスト及びマクラギを露出させる、前記[9]に記載のバラストネットの設置方法。
[11]前記積み重ね体の楔打ち仮固定を解除し、バラストネットを展開させ、その後、展開したバラストネットをバラストに固定する工程;
をさらに含む、前記[9]は[10]に記載のバラストネットの設置方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るバラストネットは、軽量で取扱い性が良く、列車線路のバラストを被覆して、車両下部に付着凍結した雪氷塊の落下によるバラストの飛散を防止するバラストネット本来の役割を果たした上で、保線作業の際には、その場で折り畳んで楔打ち仮固定することで、全面撤去、再敷設の作業負担を軽減し、作業時間を短縮することができる。それゆえ、本発明に係るバラストネットを用いることで、限られた時間内に行わなければならない保線作業の効率が大幅に向上し、列車の安全運行に資することができ、さらに工事コストも低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態のバラストネットは、熱可塑性樹脂被覆経糸条と熱可塑性樹脂被覆緯糸条により編成され、略正方形又は略長方形の糸条間空隙を有する長尺メッシュシートからなる列車線路のバラストネットであって、該長尺メッシュシートは、該熱可塑性樹脂被覆緯糸条の表面に賦型された陥没部が長手方向に破線状に連なる折り畳み部を、少なくとも1個有することを特徴とする。
【0015】
本実施形態のバラストネットでは、長尺メッシュシートの長手方向に沿って波線状に連なる折り畳み部が予め設けられているため、バラストネットを折り畳む際に熟練を必要とせず、不慣れな作業者であっても折り畳み部に沿って折り曲げ易く、素早く折り畳むことができる。
【0016】
バラストネットの敷設作業や保線作業は、通常は夜間に行われ、冬季には低温環境での作業となることがある。また、夏季には、炎天下でかなりの高温にさらされることがある。そのため、本実施形態のバラストネットにおける熱可塑性樹脂被覆経糸条および熱可塑性樹脂被覆緯糸条を被覆する熱可塑性樹脂は、0℃以下、具体的には−5℃でも屈曲可能な柔軟性と、60℃以上、具体的には70℃でも溶融しない耐熱性を有することが好ましく、他方、後述する陥没部賦形時の加熱又は高周波発熱により、熱可塑性樹脂が溶融又は軟化可能であることが好ましい。この様な特性を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル系共重合樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂系共重合樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン系共重合樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合樹脂、スチレン系共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂などから1種又は2種以上を選択して用いることができ、また、これらに更に柔軟性を付与するための可塑剤、樹脂劣化を防止するための安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを加えて用いることもできる。熱可塑性樹脂は、所望の作用効果を阻害しない限り、必要に応じて従来公知の添加剤、例えば、着色剤(顔料、染料)、接着剤、架橋剤、加工助剤、乳化剤、レベリング剤、消泡剤、抗菌剤、防黴剤、難燃剤、防鼠剤、充填剤などを含んでも構わない。
【0017】
熱可塑性樹脂被覆経糸条及び熱可塑性樹脂被覆緯糸条に用いる糸条としては、柔軟性と高い強度を有し、折り曲げによって破断したり、強度が低下することがなく、特に、後述する陥没部賦形時の加熱又は高周波発熱時に、溶融や劣化の起こり難い糸条であることが好ましい。本実施形態においては、これらの要求を満たす糸条であれば特に限定なく用いることができるが、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル(PET、PBT、PNT)樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、芳香族ヘテロ環ポリマー(ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール)から選ばれる1種以上からなるマルチフィラメント糸条などが好適に用いられる。
【0018】
糸条の繊度としては、経糸、緯糸、それぞれ独立して1111〜222222dtexであることが好ましく、より好ましくは2222〜111111dtex、さらに好ましくは11111〜33333dtexである。繊度が1111dtex未満では、糸条の強度が不足し、車両下部に付着凍結した雪氷塊が落下して衝突した際に、列車のスピードによってはバラストネットが損傷してしまうことがある。繊度が222222dtexを超えると、バラストネットが重くなり、敷設作業時の作業負担が大きくなることがあり、また、熱可塑性樹脂被覆糸条が剛直となり、保線作業時の取り扱い性が悪くなることがある。マルチフィラメント糸条を構成するフィラメント単繊維の太さに格別の限定はないが、一般に1〜35dtexのものが用いられる。
【0019】
バラストネットを構成する長尺メッシュシートは、糸条に熱可塑性樹脂被覆してから編織して構成してもよく、あるいは経糸条・緯糸条から編織したメッシュ基布に熱可塑性樹脂被覆を施して構成してもよい。熱可塑性樹脂は、糸条を表面に露出することなく被覆され、その被覆量は、糸条の質量に対して50〜150質量%であることが好ましく、より好ましくは100〜140質量%である。被覆量が50質量%未満では糸条の一部が露出してしまい、紫外線による劣化で強度が低下し、車両下部に付着凍結した雪氷塊が衝突した際に破損しやすくなることがあり、また、加熱又は高周波発熱による陥没部の賦形が充分に行えなくなることがある。他方、被覆量が150質量%を超えると、得られるバラストネットが重くなり、敷設作業時の作業負担が大きくなることがあり、また、熱可塑性樹脂被覆緯糸条が剛直となり、保線作業時の取り扱い性が悪くなることがある。
【0020】
熱可塑性樹脂被覆の形成方法には特に限定はないが、例えば、糸条に熱可塑性樹脂被覆する場合は、糸条を口金に芯通しした押出成型機を用い、熱可塑性樹脂を溶融状態にして口金から押し出しながら糸条を引き取ることで糸条表面に熱可塑性樹脂を被覆したり、粉末状の熱可塑性樹脂を可塑剤に分散させたプラスチゾル、有機溶剤に熱可塑性樹脂を溶解した樹脂溶液、水中で乳化重合された熱可塑性樹脂エマルジョン(ラテックス)、あるいは熱可塑性樹脂を水中に強制分散させ安定化したディスパージョン、などの樹脂加工液に糸条を浸漬し、これを熱処理乾燥して熱可塑性樹脂を糸条に含浸被覆する方法などを例示することができる。
【0021】
メッシュ基布に熱可塑性樹脂被覆する場合は、粉末状の熱可塑性樹脂を可塑剤に分散させたプラスチゾル、有機溶剤に熱可塑性樹脂を溶解した樹脂溶液、水中で乳化重合された熱可塑性樹脂エマルジョン(ラテックス)、あるいは熱可塑性樹脂を水中に強制分散させ安定化したディスパージョン、などの樹脂加工液に経糸条・緯糸条から編織したメッシュ基布を浸漬し、これを熱処理乾燥して経糸条・緯糸条に同時に熱可塑性樹脂を含浸被覆する方法などを用いることができる。
【0022】
バラストネットを構成する長尺メッシュシートの組織としては、糸条間空隙を有する平織、絡み織(紗織、絽織)、模紗織などの織布、経糸緯糸挿入ラッセル編などの編布組織を用いることができる。バラストの形状及びサイズに依存するが、
図2に示すように、長尺メッシュシートの糸条間空隙6は、略正方形又は略長方形であり、かつ、糸条間空隙の面積が25〜900mm
2であることが好ましく、より好ましくは50〜700mm
2、さらに好ましくは100〜550mm
2である。糸条間空隙の面積が25mm
2未満では、バラストネットが剛直となり、保線作業時の取り扱い性が悪くなることがある。糸条間空隙の面積が900mm
2を超えると、車両下部に付着凍結した雪氷塊が落下して衝突した際に、糸条間空隙を通過してバラストが飛散してしまうことがある。また、このとき、糸条間空隙の一辺の長さが、経糸の糸条間及び緯糸の糸条間は、それぞれ独立して3.0〜250mmであることが好ましく、より好ましくは10〜100mm、さらに好ましくは15〜50mmである。尚、バラストのサイズの規格は20mm以上である。
本実施形態のバラストネットは、製造性の観点から、例えば、長手方向の長さ約10,000mmの長尺、幅900mmであることができる。尚、長手方向は、製造、敷設が困難でない限り、特に制限はなく、また、幅は、以下に述べるように、軌間等に依存して適宜変更可能である。
【0023】
本実施形態のバラストネットは、長尺メッシュシートの長手方向に平行な少なくとも1個の折り畳み部を有する。
図1と
図2に示すように、かかる折り畳み部は、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の表面に賦型された陥没部が長手方向に破線状に連なものであり、隣接する熱可塑性樹脂被覆経糸条の糸条間を構成する熱可塑性樹脂被覆緯糸条(5)に賦型された陥没部が長手方向に破線状に連なったものである。熱可塑性樹脂被覆緯糸条(5)は、陥没部(3−1)において折り曲げやすくなり、その陥没部が糸条間空隙(6)を飛ばして長手方向に破線状に連なって配置されていることで、バラストネットを折り畳み部(3)に沿って折り畳むことができる。
【0024】
陥没部(3−1)の形成方法には特に限定はないが、熱可塑性樹脂被覆緯糸条を熱変形することによって形成することが好ましい。熱変形の方法としては、例えば、緯糸条を被覆した樹脂の軟化点以上に熱したロール、バー、鏝などで、熱可塑性樹脂被覆緯糸条を圧縮し、変形させたのちに冷却して賦型したり、高周波ウェルダーを用いて、ウェルドバーの接触した部分の熱可塑性樹脂を軟化点以上まで発熱昇温させながら熱可塑性樹脂被覆緯糸条を圧縮し、変形させたのちに冷却して賦型する方法などを用いることができる。また、メッシュ基布に熱可塑性樹脂被覆する工程において、熱処理乾燥後に、熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度を保った熱可塑性樹脂被覆緯糸条に冷却された型を押し当てて、圧縮しながら冷却して賦型してもよい。
【0025】
図3に示すように、陥没部(3−1)の形成において、長尺メッシュシートの長手方向に直交する幅方向における、熱可塑性樹脂被覆緯糸条を圧縮した陥没部の幅(w)、換言すれば、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の長さ方向に対する陥没部の長さは3〜12mmであることが好ましく、より好ましくは3〜10mmである。陥没の幅が3mm未満では、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の反発(元に戻ろうとする力)が大きく、保線作業時にコンパクトに折り畳めず、仮固定しにくくなることがある。また、陥没部形成の際に加熱・圧縮される範囲が狭く、糸条にかかるストレスが限られた範囲に集中するため、糸条が損傷を受けて陥没部の強度が低下することがある。他方、陥没部の幅が12mmを超えると、加熱ロール、加熱バー、熱鏝、或いはウェルドバーの幅を広くしなければならず、陥没部の形成により多くのエネルギーを要し、加工の効率を低下させることがある。
【0026】
図3に示すように、陥没部(3−1)の断面形状には特に限定は無く、底面が平坦に形成されてもよく、陥没部断面が曲線条、楔形、波形(三角波、正弦波、矩形波、のこぎり波等)となる様形成されてもよい。陥没部の断面形状は、加熱ロール、加熱バー、熱鏝、ウェルドバーなどの形状により賦型することができる。また、陥没部(3−1)は、バラストネットの表裏どちらか一方の面からの圧縮により片面にのみ形成されてもよく、同じ位置に両面から圧縮されて両面に陥没部が形成されてもよい。折り畳み部(3)の陥没部(3−1)の深さ(d)は、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚みの(に対して)15〜75%であることが好ましく、より好ましくは20〜65%である。陥没部の深さが15%未満では熱可塑性樹脂被覆緯糸条の反発が大きくなり、保線作業時にマルチプルタイパンパー等装置の底部に引っかかってしまうのを避けるため、多くの箇所を固定しなければならなくなることがある。他方、陥没部の深さが75%を超えると、陥没部において糸条を被覆する熱可塑性樹脂の層が薄くなり、その部分の糸状が耐候劣化しやすくなることがあり、また、陥没部賦形時に糸条が損傷を受けて陥没部の強度が低下することがある。尚、ここで言う陥没部の深さ(d)とは、陥没部において熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さが最も薄くなった部分の深さである。また、陥没部が両面に形成されている場合は、両面の陥没部の深さの和である。
【0027】
本実施形態のバラストネットは、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の表面に賦型された陥没部が長手方向に破線状に連なる折り畳み部を、少なくとも1個有する。
折り畳み部が1個のバラストネットは、
図1の1−b及び1−cのようにレール外側に敷設される。この時、折り畳み部によって区切られた2つの区切り部の幅は、左右等しくてもよいが、レールに近い側を広く、レールから遠い側を狭くすることが好ましい。また、レールに近い側の幅はレールから遠い側の幅の1.2〜3.0倍であることが好ましい。レールに近い側の区切り部の幅を広くとることで、折り畳み部から折り畳んだ際にレール近傍のバラストをより広く露出させること、例えば、レール中心線から400mm以上離れた地点までのバラスト及びマクラギを露出させることが可能となる。尚、長尺メッシュシートにおける折り畳み部を設けるべき位置が、ちょうど熱可塑性樹脂被覆経糸条上にあたる場合は、その熱可塑性樹脂被覆経糸条を避け、左右いずれかの経糸条間を構成する熱可塑性樹脂被覆緯糸条に、折り畳み部を形成すればよい。
【0028】
折り畳み部を2個以上有するバラストネットは、
図1の1−aの様に、レール内側に敷設される。例えば、
図5(a)のように折り畳み部を2個有する場合、バラストネットは2個の折り畳み部によって3個の区切り部に区切られ、このバラストネットをレール内側に敷設した状態から、中央の区切り部の上に左右の区切り部を折り重ねればレール近傍のバラストを露出させることができる。この場合、3個の区切り部の区切幅は中央と左右が等しくてもよいが、中央の区切り部の幅をやや広く、左右の区切り部の幅をやや狭くすることが好ましい。左右の区切り部の幅をやや狭くすることで、例えば、左右一方の側を中央に折り重ねた際、折り畳まれた区切り部の側端部が他方の側の折り畳み部と重ならないため、他方の側を折り重ねる際に邪魔にならない。尚、長尺メッシュシートにおける折り畳み部を設けるべき位置が、ちょうど熱可塑性樹脂被覆経糸条上にあたる場合は、その熱可塑性樹脂被覆経糸条を避け、左右いずれかの経糸条間を構成する熱可塑性樹脂被覆緯糸条に、折り畳み部を形成すればよい。
【0029】
バラストネットが3個以上の折り畳み部を有する場合、折り畳み部は3〜6個であることが好ましく、この場合、折り畳み部により、バラストネットは左右側端部に位置する区切り部2個と、内側に位置する区切り部2〜5個とに区切られる。折り畳み部を多く有することにより、折り畳み部が2個の場合より多くの区切り部に区切ることができ、よりコンパクトに折り畳むことができるが、折り畳み部が6個を超えると、折り重ねの回数が多くなって、折り畳み時の抵抗が大きくなり、楔打ち固定し難くなることがある。
【0030】
バラストネットが3〜6個の折り畳み部を有する場合、折り畳み部によって区切られた区切り部の幅は全て等しくてもよいが、左右両側部に位置する区切り部の幅が、内側の区切り部の個々の幅よりも狭く区切られていることが好ましい。換言すれば、長尺メッシュシートの長手方向に連なる折り畳み部が3〜6個あり、該長手方向に直交する幅方向において、該長尺メッシュシートの左右両端から左右最外側に位置する折り畳み部までの区切り部の幅が、該左右最外側に位置する折り畳み部の内側に位置する1〜4個の折り畳み部による区切り部の幅よりも狭いことが好ましい。
例えば、
図4の例では、バラストネットは4個の折り畳み部を有し、左右両側端部の区切り部の幅iiiとiii’は略同幅で、中央の区切り部の幅i及びその左右両側の区切り部の幅iiおよびii’(iiと略同幅)よりも狭く区切られている。まず、ii>iiiであることで、1回目の折り曲げ(
図4の(b))を行った際にバラストネット端部が折り畳み部と重ならないため次の折り曲げが容易になる。内側の区切り部の個々の幅は、全て同幅でもよいが、更に、i>iiとすれば、2回目の折り曲げ(
図4の(c))で中央に折り重ねる際に、内側に折り込んだ部分(
図4(c)の左側)が、上に折り重ねる部分(
図4(c)の右側)にぶつからないので、嵩高にならずにコンパクトに折り畳むことができる。左右両側端部の区切り部の幅は、内側の区切り部の個々の幅に対して、77〜95%であることが好ましい。尚、折り畳み部を設けるべき位置が、ちょうど熱可塑性樹脂被覆経糸条上にあたる場合は、その熱可塑性樹脂被覆経糸条を避け、左右いずれかの経糸条間を構成する熱可塑性樹脂被覆緯糸条に、折り畳み部を形成すればよい。
【0031】
バラストネットが2個以上の折り畳み部を有する場合、折り畳み部を形成する陥没部の幅(W)は全て等しくてもよいが、特に3〜6個の折り畳み部を有する場合、内側に位置する1〜4個の折り畳み部の個々の陥没部の幅(W)は、左右最側端部にある2個の折り畳み部の陥没部の幅よりも広いことが好ましい。換言すれば、長尺メッシュシートの長手方向に連なる折り畳み部が3〜6個あり、該長手方向に直交する幅方向において、該長尺メッシュシートの左右両端から左右最外側に位置する折り畳み部の陥没部の幅(W)が、該左右最外側に位置する折り畳み部の内側に位置する1〜4個の折り畳み部の陥没部の幅(W)よりも狭いことが好ましい。内側の折り畳み部は、例えば、
図4(c)のようにバラストネットを折り重ねた状態で折り曲げるため、陥没部の幅を広くすることで折り代に余裕が生まれ、コンパクトに折り畳み易くすることができる。尚、左右最側端部の折り畳み部の陥没部の幅を100%とした場合、内側に位置する折り畳み部の陥没部の幅は、実幅12mmを上回らない範囲で120〜200%であることが好ましい。
【0032】
バラストネットが2個以上の折り畳み部を有する場合、折り畳み部を形成する陥没部の深さは全て等しくてもよいが、特に3〜6個の折り畳み部を有する場合、内側に位置する1〜4個の個々の折り畳み部の陥没部の深さ(d)が、左右最側端部の2個の折り畳み部の陥没部の深さ(d)よりも深いことが好ましい。換言すれば、長尺メッシュシートの長手方向に連なる折り畳み部が3〜6個あり、該長手方向に直交する幅方向において、該長尺メッシュシートの左右両端から左右最外側に位置する折り畳み部の陥没部の深さ(d)が、該左右最外側に位置する折り畳み部の内側に位置する1〜4個の折り畳み部の陥没部の深さ(d)よりも浅いことが好ましい。
折り畳み部の陥没部の深さ(d)は、陥没部の幅(W)を広くする場合と同様、折り代に余裕が生まれ、コンパクトに折り畳み易くすることができるものとなるからである。尚、この場合、左右最側端部2本の折り畳み部の陥没部の深さは、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さに対して20〜50%であることが好ましく、内側に位置する1〜4個の折り畳み部の個々の陥没部の深さは、左右最側端にある2個の折り畳み部の陥没部の深さよりも深く、かつ、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さに対して40〜70%であることが好ましい。
【0033】
本実施形態のバラストネットの設置方法は、レール内側及びレール左右外側のバラスト及びマクラギを、前記のバラストネットで、長手方向にレールに沿って、覆う工程;該バラストネットを、レール内側のバラストネットにおいては幅方向略中央部の区切り部で、レール左右外側のバラストネットにおいてはレールからより離れた区切り部で、バラストに固定する工程;保線作業時には、該固定を維持したまま、前記バラストネットの折り畳み部で折り畳んで積み重ね体とし、これらをレール内側、レール外側に楔打ち仮固定する工程;を含むことを特徴とする。本実施形態のバラストネットの設置方法においては、前記積み重ね体の楔打ち仮固定工程において、2本のレールの中心線から左右400mm以上離れた地点までのバラスト及びマクラギを露出させることが好ましく、また、前記積み重ね体の楔打ち仮固定を解除し、バラストネットを展開させ、その後、展開してバラストネットをバラストに固定する工程;をさらに含むものであることができる。
【0034】
以下、本実施形態のバラストネットの設置方法の例を、図を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態のバラストネットの一例を示す図である。バラストネット(1)は、レール内側(1−a:レールとレールの間)およびレール外側(1−b及び1−c)にそれぞれ敷設されるものであり、例えば、周縁部を補強の上、はと目(図示しない)を打てば、レール近傍(レール内側のバラストネットについては左右両側端、レール外側のバラストネットについてはレール側の側端)はロープ(図示しない)などでレール締結具に固定することができ、レール外側のバラストネットのレールから遠い側の側端部は、バラストに打ち込んだアンカー(図示しない)などに、インシュロックやロープ(図示しない)などを介して固定することができる。また、側端だけを固定すると、列車が走行した際に、バラストネットの中間部が風で持ち上げられ、車両下部にひっかけられてバラストネットが損傷を受けたり、車両にバラストネットが巻き込まれるなどの問題が発生するおそれがある場合には、それぞれのバラストネットの幅方向中間部分を、バラストに打ち込んだアンカー(図示しない)などで糸条間空隙を通して固定してもよい。レール内側のバラストネットの中間部分を固定する場合、幅方向の中心部分で、長手方向に複数個所(例えば、1〜2m置きに一か所程度)、固定すればよい。また、レールの外側のバラストネットの場合は、複数個所の固定全てを、折り畳み部に対してレールから遠い側に少しずらした位置で固定すればよい。
【0035】
保線作業時には、これらのバラストネットのレール近傍の固定をはずした上で、折り畳み部に沿って折り畳み、その折り畳んだ積み重ね体を、バラストネットの糸条間空隙を通して、バラストにアンカーを打ち込んで楔打ち仮固定すればよい。例えば、
図1のレール内側のバラストネット(1−a)の場合、幅方向をそれぞれ5個の区切り部に区切る4個の折り畳み部を有しており、レール近傍の固定をはずした上で、その場で、
図4の(b)のように、左右両端の区切り部をめくりあげて、折り畳み部に沿って1回折り畳み、2重積み重ね体を左右に形成し、次に左右いずれか1方の側の2重の積み重ね体を中心の区切り部の上に折り重ね、その上にもう他方の側を折り重ねて5重に積み重ね(
図4(c)参照)、その折り畳み積み重ね体を、バラストネットの糸条間空隙を通して、バラストにアンカーを打ち込んで楔打ち仮固定する。レール内側のバラストネットが、
図5の(a)のように幅方向をそれぞれ3個の区切り部に区切る2個の折り畳み部を有する場合、
図5の(b)のように左右の区切り部を持ち上げて中心に向かって3重に折り畳み、その折り畳み積み重ね体を、バラストネットの糸条間空隙を通して、バラストにピンなどを打ち込んで楔打ち仮固定する。楔打ち仮固定に使用するアンカーとしては、例えば、約350mmの長さの鉄棒に、ゴム板を内側に貼付した外径150mmの頭をもつ釘状のものであることができる。
【0036】
図1のレール左側のバラストネット(1−b)の場合、レール近傍の固定をはずした上で、
図6のようにレールの側(1−bの右側の区切り部)をめくりあげ、折り畳み部に沿って折り畳み、その折り畳み積み重ね体を、バラストネットの糸条間空隙を通して、バラストにアンカーなどを打ち込んで楔打ち仮固定する。この時、レールから遠い側の固定を外す必要はない。
図1のレール右側のバラストネット(1−c)についても左側のバラストネットと同様にレールの側(1−cの左側の区切り部)をめくりあげ、折り畳み部に沿って折り畳み、その折り畳み積み重ね体を仮固定すればよい。バラストネット1−a〜1−cが、それぞれ幅方向の中間部分がアンカーで固定されている場合、前記したように、長手方向に複数個所(例えば、1〜2m置きに一か所程度)の固定全てが、折り畳み部に対してレールから遠い側に少しずらした位置でなされていれば、バラストネットを折り畳む際に邪魔にはならず、中間部のアンカーをはずす必要はない。
【0037】
マルチプルタイタンパー(MTT:Multiple Tie Tamper)軌道整備の支障範囲は、レール中心より両側にそれぞれ約400mmであり、レール取替の同支障範囲は、約250mmであるので、積み重ね体の楔打ち仮固定工程において、2本のレールの中心線から左右400mm以上離れた地点までのバラスト及びマクラギを露出させれば、MTT軌道整備とレール取替に支障なく、保線作業を実施することができる。例えば、軌間(レール頭頂部の内側の間隔)1067mmのJR在来線のレール間に幅990mmのバラストネットを敷設し、レール内側の中心領域に折り畳んで積み重ねた場合、積み重ね体の幅を約330mm以内にすることができれば、レールの中心線から400mm以上離れた地点までのバラスト及びマクラギを露出させることができる。このとき、折り畳み部2個のバラストネットでは、3個の区切り部の幅が全て同じであれば積み重ね体の幅を約330mmとすることができるが、左右両側の区切り部の幅を中心の区切り部より狭くした場合、積み重ね体の幅は330mmを超えてしまう。その場合には、折り畳み部を3個以上、特に4個又は6個とすれば、確実に積み重ね体の幅を330mm以内とすることができ好ましい。また、軌間1435mmの新幹線のレール間に幅1340mmのバラストネットを敷設し、レール内側の中心領域に折り畳んで積み重ねた場合は、積み重ね体の幅を約700mm以内にすることができれば、レールの中心線から400mm以上離れた地点までのバラスト及びマクラギを露出させることができるので、折り畳み部2個のバラストネットとすることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0039】
<長尺メッシュシート>
以下の実施例と比較例において、下記メッシュ基布1を下記配合1のポリ塩化ビニル樹脂プラスチゾル組成物のバス中に浸漬し、これを引き上げると同時にマングルロールで圧搾し、190℃で1分間熱処理を行って得た長尺メッシュシートを用いた。得られた長尺メッシュシートの糸条間空隙の一辺の長さは、熱可塑性樹脂被覆経糸条の糸条間及び熱可塑性樹脂被覆緯糸条の糸条間ともに20mmで、糸条間空隙の面積は400mm
2であった。また、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の(断面の)厚みは2.0mmであり、樹脂の被覆量は糸条の質量に対して116質量%であった。
【0040】
[メッシュ基布1]
組織:絡み織
経糸:PETマルチフィラメント糸条 22222dtex
(地経糸11111dtex、絡み経糸11111dtex)
緯糸:PETマルチフィラメント糸条 22222dtex
(5555dtex×4本引き揃え)
密度:経糸・緯糸それぞれ50本/m
緯糸は引き揃えた4本を合わせて1本として数えた。
質量:222g/m
2
【0041】
[配合1(ポリ塩化ビニル樹脂プラスチゾル組成物)]
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル(可塑剤) 80質量部
※商品名:ヘキサモールDINCH(BASF社製)
エポキシ化大豆油(可塑剤・安定剤) 4質量部
安定剤:Ba−Zn系安定剤 2質量部
黒顔料(カーボンブラック) 5質量部
紫外線吸収剤:ベンゾトリアゾール系 0.5質量部
希釈溶剤:トルエン 20質量部
【0042】
[実施例1]
上述の通り作製した長尺メッシュシートを、長手方向(経糸条方向)10150mm×幅方向(緯糸方向)990mmに裁断し、以下のように4本の折り畳み部を形成して実施例1のバラストネットを得た。
(1)折り畳み部の位置
長手方向に平行で、幅方向をそれぞれ5個の区切り部に区切る4個の折り畳み部を、それぞれ右端から190mm、390mm、600mm、800mmの位置の熱可塑性樹脂被覆緯糸条に形成した。この折り畳み部によって区切られた区切り部の幅は、右端から、190mm、200mm、210mm、200mm、190mmであった。
(2)折り畳み部の形成
幅10mm×長さ800mmのウエルドバー(平刃)を装着した高周波ウェルダー融着機(山本ビニター社製YTO−8U:出力8KW)を用い、陽極電流1.0Aで熱可塑性樹脂被覆緯糸条の一方の面から加熱圧縮して、片面を1.3mm陥没させ、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さ(2.0mm)に対して65%の深さを有し、底部が扁平な、幅10mmで長さ800mmの陥没部を賦形した。この作業を繰り返して直線的に陥没部を繋ぎ、長尺メッシュシートの長手方向全長にわたって破線状に連なる折り畳み部を形成した。
【0043】
[実施例2]
熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚み(2.0mm)に対して25%の陥没深さ(0.5mm)を有する陥没部を形成した以外は実施例1と同様にして、実施例2のバラストネットを得た。
【0044】
[実施例3]
熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さ(2.0mm)に対して15%の陥没深さ(0.3mm)を有する陥没部を形成した以外は実施例1と同様にして、実施例3のバラストネットを得た。
【0045】
[実施例4]
熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さ(2.0mm)に対して75%の陥没深さ(1.5mm)を有する陥没部を形成した以外は実施例1と同様にして、実施例4のバラストネットを得た。
【0046】
[実施例5]
幅3mm×長さ800mmのウエルドバー(平刃)を用いて、1.3mm陥没させ、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さ(2.0mm)に対して65%の陥没深さを有し、底部が扁平な幅3mmの陥没部を形成した以外は実施例1と同様にして、実施例5のバラストネットを得た。
【0047】
[実施例6]
実施例1と同様にして、実施例6のバラストネットを得た。ただし、折り畳み部の形成を以下のように行った。
折り畳み部の内、左右最側部に位置する2本の折り畳み部(それぞれ右端から190mm、800mmの位置)を、幅8mm×長さ800mmのウエルドバー(平刃)を用いて、陽極電流1.0Aで熱可塑性樹脂被覆緯糸条の一方の面から加熱圧縮して、片面を1.3mm陥没させ、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さ(2.0mm)に対して65%の陥没深さを有し、底部が扁平な、幅8mmで長さ800mmの陥没部を形成し、この作業を繰り返して直線的に陥没部を繋ぎ、長尺メッシュシートの長手方向全長にわたって破線状に連なる折り畳み部を形成した。次いで、内側に位置する2本の折り畳み部(それぞれ右端から390mm、600mmの位置)を、幅10mm×長さ800mmのウエルドバー(平刃)を用いて、陽極電流1.0Aで熱可塑性樹脂被覆緯糸条の一方の面から加熱圧縮して、片面を1.3mm陥没させ、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さ(2.0mm)に対して65%の陥没深さを有し、底部が扁平な、幅10mmで長さ800mmの陥没部を形成し、この作業を繰り返して直線的に陥没部を繋ぎ、長尺メッシュシートの長手方向全長にわたって陥没部が破線状に連なる折り畳み部を形成した。
【0048】
[実施例7]
4個の折り畳み部の内、左右最側部に位置する2個の折り畳み部(それぞれ右端から190mm、800mmの位置)の陥没深さを熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さ(2.0mm)に対して25%(0.5mm)とし、内側に位置する2本の折り畳み部(それぞれ右端から390mm、600mmの位置)の陥没深さを熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚さ(2.0mm)に対して65%(1.3mm)とした以外は実施例1と同様にして、実施例7のバラストネットを得た。
【0049】
[比較例1]
折り畳み部を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1のバラストネットを得た。
【0050】
実施例1〜7、比較例1で得たバラストネットについて、以下の評価を行った。結果を以下の表1、表2に示す。
(1)折り畳み性
平坦な床の上にバラストネットを敷き、実施例の場合は折り畳み部に沿って、
図4の(a)〜(c)のように折り畳み、その折り畳み積み重ね体の幅方向の中心線に沿って質量5kgの錘(直径158mmの増おもり型分銅)を、長手方向の両端部に1個ずつ置き、その中間に等間隔に他の錘を配置して抑えた際、折り畳み積み重ね体の床面から最も浮いている部分の高さが100mm未満となる錘の個数(両端の錘を含む)を数えることで、バラストネットの折り畳み性を以下の評価基準に基づき評価した:
A:錘6個以下で、折り畳み性に優れる;
B:錘7〜11個で、折り畳み可能である;
C:錘11個で高さが10cm未満とならず、折り畳み難い。
尚、実施例2〜7の折り畳み性は、全て陥没部を形成した面を表にして行ったが、実施例1のみ、同様の条件で2点の試料を用意し、陥没部を形成した面を表に向けた場合と、裏返して床面に向けた場合の両方を評価した。
【0051】
(2)緯糸条強度
実施例1〜5のバラストネットより、幅方向20cm×長手方向5cmの試料を任意5点採取した。この時、折り畳み部が幅方向の中心となり、長手方向5cmに熱可塑性樹脂被覆緯糸条が3本入るように採取し、3本の内、中心の熱可塑性樹脂被覆緯糸条を残して他の2本を折り畳み部の陥没部でカットした。得られた5点の試料の破断強度を、万能引張試験機(東洋精機製作所(株)製ストログラフV10:つかみ間隔100mm:引張速度200mm/min)で測定し、その平均をとって、熱可塑性樹脂被覆緯糸条1本の陥没部の初期強度(N)とした。
同様に、比較例1から採取した折り畳み部を含まない試料5点より、陥没部を有さない熱可塑性樹脂被覆緯糸条1本の初期強度を求めた。
また、実施例1〜5、比較例1のバラストネットより、上記と同様にして採取した試料各5点に対して、サンシャインウエザオメーターにより、陥没部を光源に向けて1000時間の耐候促進(JIS K7350-4)を行い、促進後の強度を測定して初期に対する強度保持率(%)を求めた。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
実施例1〜7のバラストネットは、それぞれが折り畳み部を有することで、バラストネットを折り畳む際に折り畳み部に沿って折り曲げ易いものであった。特に、左右最側部に位置する区切り部部の幅を内側の区切り部の幅よりも狭くしたことで、折り曲げを行った際にバラストネット端部が折り畳み部と重ならず、更に中央の区切り部が最も広くなるように折り畳み部を形成したため、嵩高にならずにコンパクトに折り畳むことができた。
これに反し、折り畳み部のない比較例1のバラストネットは、熱可塑性樹脂被覆緯糸条の反発が大きいため折り曲げにくく、折り畳み作業に手間がかかったばかりでなく、錘11個でも高さが10cm未満とならず、折り畳み難いものであった。
【0055】
折り畳み性の評価において、実施例1と2では、陥没部の深さが25〜65%であり、折り畳み易いバラストネットであったが、陥没部の深さが15%の実施例3では、折り畳みは可能であるものの、折り畳み積み重ね体の床面から最も浮いている部分の高さを100mm未満とするために、実施例1と2より多くの錘を必要とした。
【0056】
また、実施例1では、陥没部を表向きにして折り畳んだ場合と、裏向きにして折り畳んだ場合それぞれについて評価を行ったが、折り畳み性に関して特に差はみられなかった。
実施例4では、折り畳み性に関しては実施例1と同等であったが陥没部の初期強度がやや低く、また、耐候促進後の強度保持率もやや劣っていた。実施例4では、陥没部の深さが70%を超えていたため陥没部を賦型する際に糸条が損傷を受け、初期強度が低下したものと考えられ、また、陥没部形成のための圧縮により陥没部の糸条を覆う熱可塑性樹脂が薄くなり、耐候劣化が進み、強度保持率も低下したものと考えられる。
【0057】
実施例5では、折り畳み部の陥没部の幅が3mmで実施例1より狭かったが、3〜12mmを満たしており、折り畳み性の評価では、折り畳み積み重ね体の床面から最も浮いている部分の高さを100mm未満とするために実施例1より一つ多い錘を要しただけであった。
【0058】
実施例6では、左右側端部の折り畳み部の幅が8mmであったが、内側の折り畳み部の陥没幅を10mmとすることで、折り畳み性評価は実施例1と同等の結果であった。実施例7では、左右側端部の折り畳み部の陥没部の深さが熱可塑性樹脂被覆緯糸条の厚みに対して25%であったが、内側の折り畳み部の陥没部の深さを65%とすることで折り畳み性評価は実施例1と同等となった。