(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記斜面の、長手方向と垂直な面に対する角度は、前記先端側フィッティングと前記後端側フィッティングとの間の静止摩擦係数の逆正接の角度から1度を減算した値以下である、
ことを特徴とする請求項5に記載の伸展マスト。
伸展方向に延出し、折り畳み可能な複数のステージ支柱と、前記複数の支柱の伸展方向側の端を相互に連結する多角形の先端側連結フレームと、前記複数の支柱の伸展方向側と逆側の端を相互に連結する多角形の後端側連結フレームと、ダイアゴナルロッド(斜部材)とを備える折り畳み可能なトラスのステージを含む伸展マストに用いられるダイアゴナルロッドであって、
前記ダイアゴナルロッドは、前記複数の支柱の隣接する2本のステージ支柱の間に位置し、該2本のステージ支柱の一方のステージ支柱側で前記先端側連結フレームと接続され、該2本のステージ支柱の他方のステージ支柱側で前記後端側連結フレームと接続され、
前記ダイアゴナルロッドは、互いに長手方向に移動可能に連結される先端側棒及び後端側棒からなり、
前記先端側棒は、前記長手方向に延びる先端側棒本体と、前記先端側棒本体の一方の端に位置し、前記先端側フレームと回動可能に連結する先端側連結部と、前記先端側棒本体の他方の端に位置し、前記後端側棒を前記長手方向に移動可能となるように案内する先端側フィッティング部分とを備え、
前記後端側棒は、前記長手方向に延びる後端側棒本体と、前記後端側棒本体の一方の端に位置し、前記後端側フレームと回動可能に連結する後端側連結部と、前記先端側棒本体の他方の端に位置し、前記先端側棒を前記長手方向に移動可能となるように案内する後端側フィッティング部分とを備え、
前記先端側フィッティング及び前記後端側フィッティングは、前記伸展マストが伸展した状態で、互いに接触して、前記先端側棒と前記後端側棒の前記長手方向の移動を規制し、
前記先端棒フィッティング及び前記後端棒フィッティングの少なくとも一方は、前記一方の端側に延びる嵌合部を有し、
前記先端棒フィッティング及び前記後端棒フィッティングの少なくとも他方は、前記伸展マストが伸展した状態で、前記嵌合部と嵌合する被嵌合部を有し、
前記嵌合部及び前記被嵌合部は、前記伸展マストが伸展した状態で、互いに接触して、前記長手方向に垂直な平面において前記先端側棒部分の中心と前記後端側棒の中心を結ぶオフセット方向の成分を含む抗力を発生させる、
ことを特徴とするダイアゴナルロッド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
伸展マストの自重や周囲からの影響なとによって、伸展状態にある伸展マストの先端位置は、設計位置から変位してしまう。かかる変位を防ぐためには、伸展マストの剛性を高める必要がある。特に、天文観測衛星には、高い観測精度が要求されるため、光学架台を配置する伸展マストに対しては、軽量性のみならず、検出器の位置の正確性を担保するために、剛性が低下することを防止しなければならない。また、伸展マストは、伸展と折り畳みを繰り返して使用されるところ、剛性が変動すると、伸展マストの先端部分の位置が、使用時ごとに、例えば数マイクロメートル程度ずれることになる。先端部分の位置ずれにより、例えば、検出器の光学設計と実機とのずれを生じさせて、検出精度を低下させる原因となり得る。
【0006】
そこで、本発明は、剛性低下及び剛性の変動を抑制する構造を有する伸展マストを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、伸展マストの剛性には、隣接する2つの連結フレームと接続し、伸展方向に対して斜めに延び、伸縮可能なダイアゴナルロッド(斜部材)の剛性が寄与していることを見出した。そこで、本発明は、折り畳み可能なトラスのステージを含む伸展マストであって、トラスのステージが、伸展方向に延出し、折り畳み可能な複数のステージ支柱と、複数の支柱の伸展方向側の端を相互に連結する多角形の先端側連結フレームと、複数の支柱の伸展方向側と逆側の端を相互に連結する多角形の後端側連結フレームと、複数の支柱の隣接する2本のステージ支柱の間に位置し、該2本のステージ支柱の一方のステージ支柱側で先端側連結フレームと連結され、該2本のステージ支柱の他方のステージ支柱側で後端側連結フレームと連結されるダイアゴナルロッドとを備え、ダイアゴナルロッドは、互いに長手方向に移動可能に連結される先端側棒及び後端側棒からなり、先端側棒は、長手方向に延びる先端側棒本体と、先端側棒本体の一方の端に位置し、先端側フレームと回動可能に連結する先端側連結部と、先端側棒本体の他方の端に位置し、後端側棒を長手方向に移動可能となるように案内する先端側フィッティングとを備え、後端側棒は、長手方向に延びる後端側棒本体と、後端側棒本体の一方の端に位置し、後端側フレームと回動可能に連結する後端側連結部と、後端側棒本体の他方の端に位置し、先端側棒を長手方向に移動可能となるように案内する後端側フィッティングとを備え、先端側フィッティング及び後端側フィッティングは、伸展マストが伸展した状態で、互いに接触して、先端側棒と後端側棒の長手方向の移動を規制し、先端棒フィッティング及び後端棒フィッティングの少なくとも一方は、一方の端側に延出する嵌合部を有し、先端棒フィッティング及び後端棒フィッティングの少なくとも他方は、伸展マストが伸展した状態で、嵌合部と嵌合する被嵌合部を有し、嵌合部及び被嵌合部は、伸展マストが伸展した状態で、互いに接触して、長手方向に垂直な平面において先端側棒部分の中心と後端側棒の中心を結ぶオフセット方向の成分を含む抗力を発生させることを特徴とする伸展マストを提供する。
【0008】
嵌合部分の製造誤差を考慮しても嵌合可能となり、上記抗力が発生するため、嵌合部が、オフセット方向を向き、伸展状態において、被嵌合部と接触する斜面を含むことが、好ましい。
【0009】
さらに、先端側フィッティングは、後端側棒を長手方向に移動可能に案内する先端側貫通穴を有し、後端側フィッティングは、先端側棒を長手方向に移動可能に案内する後端側貫通穴を有し、嵌合部は、先端棒本体の周囲及び/又は後端棒本体の周囲に位置する第1のテーパーを含み、被嵌合部は、後端側貫通穴及び/又は先端側貫通穴の周囲に位置する第2のテーパーを含むことが、嵌合の安定性や、フィッティングの小型化の観点から好ましい。
【0010】
嵌合部は、先端棒本体の周囲及びは後端棒本体の周囲に位置する第1のテーパーを含み、被嵌合部は、後端側貫通穴及び先端側貫通穴の周囲に位置する第2のテーパーを含み、先端棒本体の周囲に位置する第1のテーパーは、先端側貫通穴の周囲に位置する第2のテーパーの一部と接し、後端棒本体の周囲に位置する第1のテーパーは、後端側貫通穴の周囲に位置する第2のテーパーの一部と接することが、フィッティングの小型化の観点からさらに好ましい。
【0011】
斜面の、長手方向と垂直な面に対する角度は、先端側フィッティングと後端側フィッティングとの間の静止摩擦係数の逆正接の角度以下であることが、嵌合の解除の際に発生する摩擦力の低下の観点から好ましい。
【0012】
製造誤差を考慮すると、斜面の、長手方向と垂直な面に対する角度は、先端側フィッティングと後端側フィッティングとの間の静止摩擦係数の逆正接の角度から1度を減算した値以下であることが好ましい。
【0013】
斜面の、長手方向と垂直な面に対する角度は、先端側フィッティングと後端側フィッティングとの間の静止摩擦係数の逆正接の半分以上であることが、オフセット方向に生じる抗力発生の観点から好ましい。
【0014】
本発明はまた、伸展方向に延出し、折り畳み可能な複数のステージ支柱と、複数の支柱の伸展方向側の端を相互に連結する多角形の先端側連結フレームと、複数の支柱の伸展方向側と逆側の端を相互に連結する多角形の後端側連結フレームと、ダイアゴナルロッド(斜部材)とを備える折り畳み可能なトラスのステージを含む伸展マストに用いられるダイアゴナルロッドであって、ダイアゴナルロッドは、複数の支柱の隣接する2本のステージ支柱の間に位置し、該2本のステージ支柱の一方のステージ支柱側で先端側連結フレームと接続され、該2本のステージ支柱の他方のステージ支柱側で後端側連結フレームと接続され、ダイアゴナルロッドは、互いに長手方向に移動可能に連結される先端側棒及び後端側棒からなり、先端側棒は、長手方向に延びる先端側棒本体と、先端側棒本体の一方の端に位置し、先端側フレームと回動可能に連結する先端側連結部と、先端側棒本体の他方の端に位置し、後端側棒を長手方向に移動可能となるように案内する先端側フィッティング部分とを備え、後端側棒は、長手方向に延びる後端側棒本体と、後端側棒本体の一方の端に位置し、後端側フレームと回動可能に連結する後端側連結部と、先端側棒本体の他方の端に位置し、先端側棒を長手方向に移動可能となるように案内する後端側フィッティング部分とを備え、先端側フィッティング及び後端側フィッティングは、伸展マストが伸展した状態で、互いに接触して、先端側棒と後端側棒の長手方向の移動を規制し、先端棒フィッティング及び後端棒フィッティングの少なくとも一方は、一方の端側に延びる嵌合部を有し、先端棒フィッティング及び後端棒フィッティングの少なくとも他方は、伸展マストが伸展した状態で、嵌合部と嵌合する被嵌合部を有し、嵌合部及び被嵌合部は、伸展マストが伸展した状態で、互いに接触して、長手方向に垂直な平面において先端側棒部分の中心と後端側棒の中心を結ぶオフセット方向の成分を含む抗力を発生させるダイアゴナルロッドを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、伸展マストの剛性の低下を防止し、剛性の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】剛性低下の原因を明らかにするために行われたシミュレーションのモデルとなる伸展マスト10の斜視図を示す。
【
図2】伸展マスト10に用いられるダイアゴナルロッド900の斜視図を示す。
【
図3】ダイアゴナルロッド900に含まれる先端側棒の斜視図を示す。
【
図4A】力を加えないときのフィッティング周辺の様子を示す断面図である。
【
図4B】長手方向に力を加え、オフセットが小さくなったときのフィッティング周辺の様子を示す断面図である。
【
図4C】
図4Bの場合よりも大きな長手方向に力が加わり、オフセットが大きくなったときのフィッティング周辺の様子を示す断面図である。
【
図5】長手方向に力を加えたことによるフィッティングの回転を示す概念図。
【
図6】本発明の実施形態に係る伸展マストに含まれるダイアゴナルロッド100の斜視図である。
【
図7】非嵌合状態におけるダイアゴナルロッド100のフィッティング周辺の様子を示す拡大図である。
【
図8】嵌合状態におけるダイアゴナルロッド100のフィッティング周辺の様子を示す拡大図である。
【
図9】本発明の別の実施形態に係る伸展マストに含まれるダイアゴナルロッドの斜視図である。
【
図10】本発明の更に別の実施形態に係る伸展マストに含まれるダイアゴナルロッドの斜視図である。
【
図11】本発明の他の実施形態に係る伸展マストに含まれるダイアゴナルロッド200の斜視図である。
【
図12】ダイアゴナルロッド200のフィッティング周辺の様子を示す拡大図である。
【
図13】ダイアゴナルロッド200の先端側棒210のフィッティング周辺の様子を示す拡大図である。
【
図14】伸展状態においてフィッティングに発生する力の向きを示す断面図である。
【
図15】ダイアゴナルロッドの長手方向に加えた荷重との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
剛性低下を防止する構造を有する伸展マストを提供するために、
図1に示される伸展マスト10のモデルとして、各部材の剛性寄与度をシミュレーションにより評価した。
図1において、伸展マスト10は、伸展状態になっている。伸展マスト10は、4段の折り畳み可能なトラスのステージ20を備える。各ステージ20は、伸展方向Aと垂直に交差する面内にある四角形の頂点位置から伸展方向Aに伸びる4本のステージ支柱30と、ステージ支柱の伸展方向A側の端を相互に連結する先端側連結フレーム40と、逆側の端を相互に連結する後端側連結フレーム50とを備える。先端にあるステージ20を除き、先端側連結フレーム40は、先端側に隣接するステージの後端側連結フレーム50を兼ねることになる。
【0018】
ステージ支柱30はそれぞれ、長手方向の中間で内方に向かって折れ曲がり可能にするため、後端側に位置する2本の後端側ロンジロン32、34及び、中間点において該2本の後端側ロンジロンの端部32、34間に、端部が位置し、折れ曲がり方向に回動可能に後端側ロンジロン32、34と接続する1本の先端側ロンジロン36からなる。かかる回動可能な接続部分では、2本の後端側ロンジロン32、34の端部間に延びるロンジロンシャフト(図示せず)が、先端側ロンジロンの端部に設けられた貫通穴38を通過している。連結フレーム40、50の角部分(頂点)には、連結フレームの角部分を覆うように配置された補強部42があり、補強部42の内部には、補強部42の辺に沿って延びるバテンシャフト(図示せず)が配置されている。バテンシャフトは、2本の後端側ロンジロン32、34の端部に設けられた貫通穴(図示せず)と、隣接するステージの先端側ロンジロン36の端部に設けられた貫通穴(図示せず)を貫通して、後端側ロンジロン32、34と先端側ロンジロン36とを連結フレーム40、50に折れ曲がり方向に回動可能に連結する。
【0019】
また、隣接する2本のステージ支柱30の間毎に、先端側連結フレーム40及び後端側連結フレーム50に接続され、斜め方向に延び、互いに交差する一対のダイアゴナルロッド900が配置される。すなわち、ダイアゴナルロッド900は、隣接する2本のステージ支柱の一方の近傍(先端側フレームの辺の長さの2割以内とする。)において、先端側フレーム40と接続し、ステージ支柱の他方の近傍において、後端側フレーム50と接続する。また、これらの接続は、接続フレームが位置する面内において、接続フレームと垂直の方向に延びるシャフト(図示せず)が、ダイアゴナルロッドの端部に形成された貫通穴を貫通してなされるため、ダイアゴナルロッドは、隣接する2本の支柱30の間で回動可能になる。
【0020】
図2は、
図1に示される伸展マスト10が折り畳み状態にある場合のダイアゴナルロッド900を示す斜視図である。
図3は、ダイアゴナルロッド900に含まれる先端側棒910の拡大斜視図である。ダイアゴナルロッド900は、折り畳み状態及び伸展状態という伸展マストの状態に応じて、長さを変化させなければならないため、ダイアゴナルロッド900は、長手方向に相対的に移動可能に連結された先端側棒910及び後端側棒940からなる。先端側棒910は、棒状の先端側棒本体部912の外側の端に、略直方体形状の先端側連結部914を備える。この先端側連結部914には、貫通穴916が形成される。上述の通り、先端側連結フレーム40が備えるシャフトが、貫通穴916を貫通することで、ダイアゴナルロッド900と、先端側連結フレーム40とを回動可能に連結する。該貫通穴916及びシャフトは、先端側連結フレーム40の一辺に対して垂直の方向に延びるため、ダイアゴナルロッドは、先端側連結フレームの一辺と、その両端にある支柱30とを含む平面を回動する。また、かかる回動のため、先端側連結部914の先端側は、貫通穴916の中心を中心軸とした半円柱形状になっている。同様に、後端側棒の外側の端にも、貫通穴946を有する後端側連結部944が備えられ、かかる貫通穴946に、後端側連結フレーム50に設けられたシャフトが通過することで、後端側連結フレーム50と回動可能に連結する。
【0021】
先端側棒910の内側(後端側棒940側)の端には、後端側棒940と長手方向に移動可能に連結するための先端側フィッティング918が備えられる。先端側棒フィッティング918は、略直方体形状であり、先端側棒本体912の内側の端と接続している。また、先端側棒本体912との接続部分と隣接して、貫通穴920が、長手方向に平行に形成されている。かかる貫通穴920は、後端側棒本体部942を通過させることで、先端側棒910と後端側棒940とを長手方向に移動可能に連結する。すなわち、貫通穴920は、後端側棒940が長手方向と垂直な方向へ移動することを規制するが、長手方向の移動は規制しない。また、摩擦によって後端側棒940の長手方向の移動が規制されないように、貫通穴920の直径は、後端側棒本体942の直径よりも僅かに大きく、貫通穴920と後端側棒本体部942との間には、隙間が空いている。同様に、後端側棒940の内側の端にも後端側棒フィッティング948が備えられ、先端側棒910と長手方向に移動可能に連結する。先端側棒910と後端側棒940との干渉を避けるため、先端側棒910及び後端側棒940は、長手方向に垂直な平面で変位した位置に配置されるので、先端側棒本体部912の中心と、後端側棒本体部942の中心との間には、オフセットが生じる。
【0022】
先端側フィッティング918及び後端側フィッティング948は、先端側棒910と後端側棒940の長手方向外側への相対移動を規制して、先端側棒910と後端側棒940とが外れることを防止する役割も果たす。すなわち、伸展マストが伸展状態になると、先端側棒と後端側棒は互いに、長手方向外側に移動し、先端側フィッティング918の先端側の面(先端棒本体部912側の面)922と、後端側フィッティングの後端側の面(後端棒本体部942側の面)952とが接触し、先端側棒910と後端側棒940との長手方向(外側向き)の相対移動が規制されて、連結が解除されないようになる。また、両フィッティング918、948により、長手方向(外側向き)の相対移動が規制されるため、伸展状態にいて実現されるダイアゴナルロッド900の長さ(最大長さ)が規定される。
【0023】
伸展マストの各部材の剛性寄与度を評価するためのシミュレーションは、以下の通り行われた。A2017、SUS304を材料とする固有値解析を行い 、伸展マストの全体が倒れる曲げ変形モードの周波数及び、伸展マストの全体がねじれる変形モードの固有振動数を求めた。また、先端側ロンジロン32、ロンジロンシャフト38、後端側ロンジロン32、バテンシャフト(図示せず)及びダイアゴナルロッド900のそれぞれの剛性を10分の1にするとの条件の下で、伸展マストの全体が倒れる曲げモードの周波数及び、伸展マストの全体がねじれるモードの周波数を求めた。解析モデルの対象とした伸展トラス(
図1)は四段構成であり,全高1600mm,バテンの対角長さ800mmである.境界条件として、最下段バテンの隅部を6自由度拘束している。部材の剛性を低下させた条件の下で、固有振動を引き起こす周波数を求める理由は、固有振動に寄与する部材が柔らかくなると、柔らかい材料は、ゆっくりと振動するので、固有振動の振動数が低下するからである。すなわち、部材を柔らかくし、伸展マストの固有振動数をどの程度低下させるかを調べることによって、対象の部材の固有振動への寄与度がわかる。上記シミュレーションは、MSC.Nastran(MSCソフトウェア社製)を用いて行われた。シミュレーションの結果を表1に示す。
【0025】
表1によると、通常の状態で曲げモードの固有振動が53Hzで発生するところ、ダイアゴナルロッドの剛性を低下させた場合、43Hzで曲げモードの固有振動が発生している。また、通常の状態では、10次までの固有値解析を行った範囲では、ねじりモードの固有振動を起こさなかったが、ダイアゴナルロッドの剛性を低下させた場合に、ねじりモードの固有振動の周波数が最も低くなった。したがって、上記シミュレーションから、ダイアゴナルロッドの剛性が、伸展マスト全体の剛性に最も影響を与えることが理解できる。よって、ダイアゴナルロッドの剛性を高めることで、伸展マスト全体の剛性を高めることができることが、明らかになった。なお、先端側ロンジロン、後端側ロンジロン及びロンジロンシャフトも固有振動数が低下しているが、これは、実機に本来存在する、ロンジロンとロンジロンシャフト間の動きしろがシミュレーションに反映されていないことにあり、実機では、先端側ロンジロン、後端側ロンジロン及びロンジロンシャフトの剛性寄与度は、小さいと考えられる。
【0026】
そこで、ダイアゴナルロッドの剛性低下の原因を明らかにするため、先端側棒910と後端側棒940とのオフセットと、ダイアゴナルロッド900の剛性との関係をシミュレーションした。ここで、オフセットとは、長手方向に垂直な平面において先端側棒部分の中心と後端側棒の中心を結ぶ距離である。なお、後述するようにフィッティング周辺が回転するときには、フィッティングの回転に合わせてオフセットの方向は回転することになる。ダイアゴナルロッド900のオフセットが、3.5mmの場合と、7.0mmの場合のそれぞれにおいて、ダイアゴナルロッド900の一方の端を固定し、他方の端に対して長手方向外側に1ニュートンの力を加えたことによって生じるダイアゴナルロッド全体の変位量をシミュレーションによって計算した。オフセットが3.5mmの場合は、
図2に示されるダイアゴナルロッド900と同一であり、オフセットが7.0mmの場合は、ダイアゴナルロッド900とオフセット以外は同一である。なお、接続部については、シミュレーションの対象から除外して計算した。シミュレーションには、MSC.Nastran(MSCソフトウェア社製)を用いた。
【0028】
表2は、1ニュートン当たりに発生する軸方向の変位量を示す。軸方向の変位量は、引張による変位と、回転による変位とからなるが、回転により引張による変位の向きが、軸方向(長手方向)から僅かにずれるため、引張による変位と回転による変位との和と厳密には、一致しないが、概ね一致する。表2から明らかなように、オフセットの量を2倍にすると、1ニュートン当たりのダイアゴナルロッドの変位量は、2.9倍となる。その内訳は、引張による部材自身の変形量よりも、オフセットの回転に伴う変位量の寄与が多くを占め、オフセットが2倍になると、回転による変位は4倍となる。そのため、表2から、オフセットを小さくすることで、高剛性化が可能となることが示唆される。
【0029】
回転に基づく変位量の増加の発生の様子を示すため、力を加えない初期状態、長手方向に力を付加した状態、長手方向にさらに大きな力を付加した状態それぞれのダイアゴナルロッド900のフィッティング付近の断面図をそれぞれ、
図4A、
図4B、
図4Cに示す。
図4Aから
図4Cに示される矢印は、オフセットを示す。
図4Aでは、オフセットは、3.5mmであるが、
図4Bにおいては、オフセットは、3.4mmとなり、先端側棒と後端側棒が互いに内側に移動している。また、
図4Cにおいては、オフセットは、3.6mmとなり、先端側棒と後端側棒が互いに外側に移動すると共に、先端側棒本体412と、後端側フィッティング948の貫通孔952の内面が接触している。同様に、後端側棒本体部942が、先端側フィッティング918の貫通孔922の内面に接触している。このことから、ダイアゴナルロッドに力を加えていくと、ダイアゴナルロッドのフィッティング部分が回転することが分かる。そのため、剛性の低下は、材料自体の変形量よりもむしろ、オフセットが大きくなると、オフセットアームが大きくなり、
図5の概念図に示されるように、長手方向に加えられる力によって生じるフィッティングの回転量が大きくなることによると考えられる。したがって、オフセットを低下させることで、ダイアゴナルロッドの剛性を高めることができる。さらに、オフセットが変動する際に、ダイアゴナルロッドの剛性が低下するので、オフセットの変動を抑制することによって、ダイアゴナルロッドの剛性の安定性を高めることができる。
【0030】
図6は、本発明の一実施形態である伸展マストに含まれるダイアゴナルロッド100の斜視図である。
図7は、先端側フィッティング110と後端側フィッティング140が接触していない状態のダイアゴナルロッド100のフィッティング部分を拡大した斜視図である。
図8は、伸展マストが伸展状態にあり、先端側フィッティング110と後端側フィッティング140が接触している状態のダイアゴナルロッド100のフィッティング部分を拡大した斜視図である。なお、ダイアゴナルロッド100以外の構成については、上記の伸展マスト10と同一の構成であるため、説明を省略するが、ステージの数は、4つに限られず、1又は複数であってよい。また、ダイアゴナルロッド100についても、フィッティングに設けられた後述する嵌合部以外は、同一であるため、説明を省略する。もっとも、本実施形態においては、先端側(後端側)接続部の貫通穴116(146)と、先端側(後端側)連結フレーム40(50)のシャフトによって、ダイアゴナルロッド100と、先端側(後端側)連結フレーム40(50)とを回動可能に接続しているが、蝶番といった他の構成によって、両者を回動可能に接続してもよい。また、本実施形態では、先端側(後端側)棒本体部112、142は、円形断面を有するが、四角形などの他の多角形断面を有してもよいし、他の断面形状を有してもよい。このとき、両フィッティングには、該断面形状に合わせて、貫通穴120(後端側フィッティングについては図示せず。)が、形成されることになる。また、貫通穴は、長手方向と垂直方向の移動を規制できれば、一部側面を欠いたCの字型の断面であってもよいし、他の形状であってもよい。
【0031】
ダイアゴナルロッド100の先端側フィッティング118は、先端側フィッティング118の面122から先端側(本体棒本体部112側)に突出する、三角形形状の嵌合部124を備える。嵌合部124は、一辺が先端側フィッティング本体と接続し、他の二辺がそれぞれ、オフセット方向Bの一方の側と他方の側を向いた(すなわち、面に対する法線ベクトルが、オフセット方向成分及び嵌合方向成分を含む)斜面を形成する。また、後端側フィッティング148は、嵌合部124の三角形の輪郭と合致する形状をした溝状の被嵌合部154が形成される。伸展マスト10が、伸展状態の場合には、嵌合部122が被嵌合部154に嵌るので、オフセット方向に力が加わっても、嵌合部122の面126、128と被嵌合部154の面156、158とが接触し、これらの面の間で、オフセット方向Bに対抗する成分を含む抗力が発生するため、先端側棒110と後端側棒150は、オフセット方向への移動が抑制される。
図8における矢印は、外部から先端側棒110に対して下向きの力が、後端側棒140に上向きの力が加わった際に、後端側フィッティング148に発生する抗力のオフセット方向成分を示す。また、
図8には示されていないが、先端側棒フィッティング118には、該矢印とは逆向きの効力が発生することになる。したがって、嵌合部122と被嵌合部152によって、先端側棒110と後端側棒150のオフセット方向Bへの相対移動、すなわち、オフセットの変動を抑制することができるため、ダイアゴナルロッド100の剛性を高めることができる。また、嵌合部124を形成することによって材料の使用量が増加するが、その分、溝状の被嵌合部154を形成することによって材料の使用量が減少するため、ダイアゴナルロッド全体の材料の使用量は、全く又はほとんど変動しない。したがって、本実施形態においては、ダイアゴナルロッドの質量を増加させることなく、ダイアゴナルロッドの剛性の変動を抑制することができる。なお、かかる嵌合部124と被嵌合部154とが存在しない場合には、先端側(後端側)棒部分と、後端側(先端側)フィッティングの貫通穴との間には、上述の通り、隙間が存在するので抗力が生じることはないから、先端側棒と後端側棒は、オフセット方向に相対的に移動することになる。
【0032】
上述の通り、嵌合部124は、オフセット方向Bを向いた斜面を備える。嵌合部124が、設計図に記載された形状と厳密に一致し、誤差なく製造されるのであれば、伸展状態において、矩形であっても嵌合部と、被嵌合部とが当接し、先端側棒と後端側棒とのオフセット方向への相対移動を抑制することができる。しかしながら、設計図と実際に製造した形状との間には、一定の誤差が生じる。かかる誤差が生じると、矩形形状の場合、嵌合部が被嵌合部に嵌らなくなることがあり、これを回避するために、嵌合部を被嵌合部に対して若干小さく設計しなければならない。しかし、そのように設計すると、嵌合部と被嵌合部との間に隙間が生じ得るので、わずかであるが、先端側棒と後端側棒とがオフセット方向に相対的に移動し得る。一方で、嵌合部124のような斜面を含む形状であれば、斜面の位置又は角度に誤差が生じたとしても、嵌合部124の斜面と被嵌合部154の斜面とが、少なくとも一部で接触して、オフセット方向の相対移動を抑制することができる。例えば、嵌合部の斜面の角度を設計値において、わずかに(例えば公差の範囲で)大きくしておくことで、実際に形成された嵌合部の斜面の角度が、設計値とずれたとしても、嵌合部と被嵌合部とが少なくとも線状で接触して、オフセット方向に対抗する成分を含む抗力を生じさせることができる。本実施形態では、嵌合部124は、三角形であるが、例えば、
図9に示されるような円形の嵌合部及び被嵌合部でもよいし、
図10に示されるような台形の嵌合部及び被嵌合部であってもよいし、斜面があれば、他の形状を持つ嵌合部及び被嵌合部であってもよい。また、嵌合部124は、面122の側面130寄りから突出しているが、側面130とは対向する面寄りから突出してもよいし、面130寄りとその対抗する面よりとの2か所に嵌合部が形成されてもよい。また、オフセット方向に対抗する成分を含む抗力が発生するのであれば、他の位置から嵌合部が、突出してもよいし、材料の使用量よりも製造の都合などを優先させて、側面130といった側面や他の位置に取り付ける形で、先端側に突出する嵌合部を形成してもよい。本実施形態では、先端側フィッティングに嵌合部が形成され、後端側フィッティングに被嵌合部が形成されたが、後端側フィッティングに嵌合部を形成し、先端側フィッティングに被嵌合部を形成してもよいし、両フィッティングに嵌合部を形成し、その嵌合部に合わせて、被嵌合部を両フィッティングに形成してもよい。
【0033】
嵌合部が、矩形形状の場合には、製造誤差によって、嵌合部と被嵌合部との間に隙間が生じ得るが、かかる隙間は極めて小さく、先端(後端)側棒本体と貫通穴との間に積極的に設けた隙間より小さいので、先端側棒と後端側棒とのオフセット方向の相対移動を小さくすることができ、ダイアゴナルロッドの剛性は、高まるため、矩形の嵌合部及びその輪郭に合った被嵌合部であってもよい。
【0034】
図11は、本発明の別の実施形態である伸展マストに含まれるダイアゴナルロッド200の斜視図である。また、
図12は、ダイアゴナルロッド200のフィッティング部分の拡大図である。
図13は、ダイアゴナルロッド200の先端側棒210のフィッティング周辺の様子を示す拡大図である。なお、嵌合部224及び被嵌合部254以外の構成は、ダイアゴナルロッド100と同一である。ダイアゴナルロッド200では、先端側フィッティング218において、オフセット方向Bの移動を抑制する嵌合部として、先端側棒本体部212の周囲、先端側の面222上にテーパー224が形成されている。また、後端側フィッティング248の貫通孔250の端部周囲にも、テーパー224に合致した形状を有するテーパー254が被嵌合部として形成されており、テーパー224と嵌合する。同様に、後端側棒本体部252の周囲、後端側の面252上にテーパー256が形成され、これと合致する形状を有するテーパー226が、先端側フィッティング218の貫通孔220の端部周囲にも形成されている。
【0035】
先端側(後端側)棒本体212(242)の周囲にテーパーを形成する場合、嵌合部を棒部分に接触させずに形成する場合よりも、棒本体212(242)の剛性を利用して、オフセット方向に対抗する抗力を発生させることができるため、嵌合部の材料の変形による剛性の低下が生じにくい上に、嵌合部、すなわちテーパー224が、破損しにくい。また、質量を小さくするため、フィッティング218、248は、可能な限り小さくしなければならない一方で、嵌合部は、広範囲に渡った方が、外力が分散され、嵌合部と被嵌合部との嵌合は外れにくい。棒本体の周囲に形成されたテーパーは、フィッティングの小型化と、嵌合部の広範囲化の両立が可能である上に、形成が容易な構造であるから、フィッティングの小型化及び嵌合の安定の観点から好ましい。
【0036】
また、
図12及び
図13の矢印Cで示されるように、テーパー224とテーパー226は、その一部(端部)が接する。矢印では示していないが、テーパー254及び256も、テーパー224及びテーパー226と嵌合するため、その一部が接することになる。テーパー224とテーパー226とを接触させることで、先端棒210と後端棒240とを近づけることができるので、オフセットを小さくすることができる。そして、オフセットを小さくすることでダイアゴナルロッドの剛性を高めることができるという上記のシミュレーション結果を考慮すると、テーパー224とテーパー226の一部を接触させるとの構成により、ダイアゴナルロッドの剛性の変動を抑制することができる。
【0037】
図14は、フィッティングの先端側の面からの斜面の角度、すなわちテーパーの角度をθとした場合のフィッティングの断面図である。テーパーの角度を大きいと、伸展状態から折り畳み状態に移行する際に、嵌合した突出テーパーと陥没テーパーとの間に摩擦力が生じ、先端側フィッティングと後端側フィッティングとを離間させるために、過大な力を加えなければならなくなり、破損、変形の原因となる。
テーパーの相手から受ける力をFとし、静止摩擦係数をμとすると、摩擦力は、Fcosθ・μとなる。一方で、摩擦力に対抗する力は、Fsinθである。したがって、摩擦力に対抗する力が摩擦力より大きいことを示す数1の条件を満たすときは、伸展状態から折り畳み状態に変化する際に、嵌合部と被嵌合部との嵌合が容易に外れることになる。
【数1】
数1をθについて解くと、θ≦arctanμとなる。すなわち、斜面の角度をフィッティング間の静止摩擦係数の逆正接以下の角度にすることが、嵌合部と被嵌合部との嵌合の解除の観点から、好ましい。例えば、宇宙空間で用いられる伸展マストに採用される材料として典型的な値である静止摩擦係数μは、約0.3である。このとき、θは、約16.7度となるから、該角度よりも小さいことで、容易に両フィッティングの嵌合を外すことが可能になる。そのため、ダイアゴナルロッド200のテーパー224、226、254、256の角度は、15度に定められている。
【0038】
さらに、例えばJIS一般公差である±1度といった公差に当たる角度を、上記角度から減算した角度以下に、斜面の角度を定めることが好ましい。例えば、上記の実施形態では、角度を16.7度から、JIS一般公差1度を減算した、15.7度以下にすることが好ましい。このようにすることで、誤差のために、実際のテーパーの角度が大きくなっても、静止摩擦係数μの逆正接以下の角度を確保することが可能となる。一方で、斜面の角度を小さくすると、先端側棒及び後端側棒が、オフセット方向に移動しやすくなり、好ましくないため、斜面の角度は、静止摩擦係数の逆正接の角度の半分以上が好ましく、該角度に0.7を乗算した値以上がさらに好ましく、0.8を乗算した値以上が一層好ましく、0.9を乗算した値以上がより一層好ましい。
【0039】
図15は、ダイアゴナルロッドの長手方向に加えた荷重(N)と、剛性(N/mm)の関係を示すグラフである。荷重の範囲は、1mmのロッドの変位量となる荷重の範囲である1200Nまでである。該グラフは、シミュレーションによって算出された結果を示している。シミュレーションは、MSC.Marcによってなされた。テーパーを備えるダイアゴナルロッド200を実施例としてシミュレーションした。比較例となるダイアゴナルロッド900は、テーパーを備えておらず、初期状態で、オフセットが3.5mmの比較例1、初期状態で、オフセットが3.4mmで本体棒部分が貫通穴の内壁の内側に接している比較例2及び初期状態で、オフセットが3.6mmで本体棒部分が貫通穴の内壁の外側に接している比較例3の3つのシミュレーションを比較例としておこなった。
【0040】
実施例では、370Nから410Nまでにおいて、剛性が増加するがこれは、例えば
図5に示されるようにフィッティングがわずかに回転し、棒本体212、242が、貫通穴の内壁の端部と接触して剛性が高まることによる。すなわち、フィッティング部分は長手方向に対して垂直の断面が大きいため、剛性が高いことで、実質的に剛性に寄与する棒の長さが短くなると解すこともできる。実施例は、テーパーを備えるため、オフセットが安定し、使用ごとに、荷重に対する剛性の値が変動しにくい。特に、370Nまでにおいて、剛性の値が、一定値をとり、安定している。そのため、例えば、宇宙空間で伸展マストを使用するときに加わる外力として想定される150Nまでにおいて、安定した剛性を保つことができる。その結果、使用毎に、伸展マストの先端位置が、変動しにくくなる。一方で、比較例2及び3は、剛性の値が一定であるが、伸展マストの使用ごとに、オフセットの初期条件が、変動するので、実際には、比較例1、比較例2及び比較例3のいずれの剛性の特性となるか、あるいは、その中間的な剛性の特性となるか使用毎に剛性が異なることになる。したがって、テーパーが存在しないと、剛性は、不安定となり、伸展時のマストの先端位置もずれやすくなる。
【0041】
以上、本発明を特定の実施形態について図示し、説明したが、本発明は、図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲は、特許請求の範囲の請求項によってのみ定まるものである。