(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963258
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】コンクリートのレオロジー定数測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/00 20060101AFI20211025BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20211025BHJP
G01N 19/00 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
G01N11/00 E
G01N33/38
G01N19/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-250622(P2017-250622)
(22)【出願日】2017年12月27日
(65)【公開番号】特開2019-117094(P2019-117094A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2020年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502280946
【氏名又は名称】株式会社ニューテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】梶田 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】笹倉 博行
(72)【発明者】
【氏名】桝田 吉弘
【審査官】
外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−223490(JP,A)
【文献】
特開2014−122827(JP,A)
【文献】
特開2013−132760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00
G01N 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料投入口から投入された測定対象となる流体を溜めて保持するための試料タンク部と、底面が前記試料タンク部の底面と直線的に連続する傾斜角度が可変である傾斜流動部と、前記試料タンク部と前記傾斜流動部を鉛直方向に仕切る開閉可能なゲート板とを備え、前記ゲート板は前記試料タンク部と傾斜流動部との境界部の外側に立設した支柱を備えたゲート板支持具に支持された状態で鉛直方向に昇降可能とした傾斜フロー試験装置を用い、対象となるフレッシュコンクリートの試料を前記傾斜フロー試験装置の前記試料投入口から投入し、前記試料タンク部に所定量の試料を溜めた状態で前記ゲート板を開き、単一の傾斜角度に設定した前記傾斜流動部を流下して行く試料を3Dカメラで撮影し、前記3Dカメラによって撮影された画像の3次元画像処理により、前記傾斜流動部の任意の複数の測定点について前記試料の流動先端速度と試料の高さを求め、
前記試料の見掛けのせん断応力τ(Pa)を次式によって、前記各測定点ごとに求め、
τ=W×h×g×sinθ …(1)
ここに、
W:試料の単位容積質量(kg/m3)
h:流動先端速度の測定点を通過するときの試料の高さ(m)
g:重力加速度(9.807m/sec2)
θ:傾斜角度
前記複数の測定点ごとに求めた流動先端速度または該流動先端速度を用いて算出したひずみ速度と、前記見掛けのせん断応力τ(Pa)から得られる回帰直線の流動先端速度が0となる切片における見掛けのせん断応力τ(Pa)を見掛けの降伏値τy(Pa)、回帰直線の傾きを見掛けの塑性粘度η(Pa・s/mまたはPa・s)として求めることを特徴とするコンクリートのレオロジー定数測定方法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリートのレオロジー定数測定方法において、前記傾斜流動部には傾斜流動部の傾斜角度を自動測定するための傾斜計が設けられていることを特徴とするコンクリートのレオロジー定数測定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のコンクリートのレオロジー定数測定方法において、前記3Dカメラによって撮影された画像情報を、前記3Dカメラと有線または無線の回線で接続された端末装置によって3次元画像処理を行い、3次元画像処理から得られた前記試料の流動先端速度と試料の高さをもとに、レオロジー定数の算定を行うことを特徴とするコンクリートのレオロジー定数測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未硬化のフレッシュコンクリートについて、傾斜フロー試験によってレオロジー定数を測定する方法および装置に関するものであり、本発明によって求められる見掛けの降伏値および見掛けの塑性粘度を用いて、コンクリートの現場施工におけるコンクリートの充填性、締固め性、ポンプ圧送性などの施工性を評価することができる。
【背景技術】
【0002】
未硬化のフレッシュコンクリートのワーカビリティーを評価するための試験方法としては、スランプコーンを用いたJIS A 1101のスランプ試験方法が普及している。
【0003】
一方、高流動コンクリートは流動性が高すぎて従来のスランプ試験では対応できないため、高流動コンクリートについてはJIS A 1150のスランプフロー試験方法が利用されている。
【0004】
また、スランプフロー試験方法の改良型として、L形フロー試験方法があり、スランプフロー試験方法とともに、高流動コンクリートの試験方法として規格化されている。
【0005】
なお、フレッシュコンクリートの挙動をビンガム流体の挙動としてモデル化した場合、スランプ値やスランプフロー値は主として降伏値の評価に用いられ、時間的要素を含むスランプフロー試験における500mm到達時間やV漏斗試験が塑性粘度の評価に用いられている。
【0006】
これに対し、本願の発明者らによる特許文献1では、従来のスランプ試験やスランプフロー試験では的確な評価ができなかった準高流動コンクリートや軟練りのコンクリートのワーカビリティーの評価を適正に行うための方法および装置として、試料の傾斜フローを利用したコンクリートの試験方法および試験装置を開示している。
【0007】
特許文献1記載の試験方法は、筒状のタンク部と、その下部側面に形成された開口部で連通する傾斜フロー部と、開口部を開閉可能に仕切り傾斜フロー部をタンク部の下部と区画する仕切板とを備えた傾斜フロー試験器を用い、タンク部に上部より未硬化のフレッシュコンクリートの試料を投入して所定の高さまで詰め込んだ後、仕切板を開放することにより、開口部から傾斜フロー部に試料を流下させ、その際の試料の傾斜面での流下速度を測定することにより、試料のワーカビリティーを評価するというものである。
【0008】
しかし、特許文献1に記載される試験方法および装置の場合、以下の課題があった。
(1) 流動先端速度より、ビンガム流体の流動性をどのように評価するか、特にビンガム流体の性質である降伏値と塑性粘度をどのように評価するかが設定されていない。
(2) 垂直試料ボックス部の垂直応力が加わるため、試料ボックスコーナー部でも流動の乱れが生じる。
【0009】
これに対して、本願の発明者らは、非特許文献1、2に開示したように、垂直試料ボックス部の代わりに、傾斜流動部と直線的に連続する試料タンク部をゲート板で仕切る構造とした試験装置を用い、異なる複数の傾斜角度で傾斜フロー試験を行い、その試験結果からフレッシュコンクリートのレオロジー定数としての降伏値および塑性粘度に対応する見掛けの降伏値および見掛けの塑性粘度を求め、流動性の評価を行う試験方法を開発した。
【0010】
また、本願の発明者らによる特許文献2では、試料投入口から投入された測定対象となる流体を溜めて保持するための試料タンク部と、底面が試料タンク部の底面と直線的に連続し傾斜角度が可変な傾斜流動部と、試料タンク部と傾斜流動部を鉛直方向に仕切る開閉可能なゲート板とを備え、ゲート板が試料タンク部と傾斜流動部との境界部の外側に立設した支柱を備えたゲート板支持具に支持された状態で鉛直方向に昇降可能としたレオロジー定数測定装置を用い、以下のようにして流体のレオロジー定数を測定することとした。
【0011】
すなわち、レオロジー定数として、試料の見掛けのせん断応力τ(Pa)を次式によって求める。
τ=W×h×g×sinθ …(1)
【0012】
ここに、
W:試料の単位容積質量(kg/m
3)
h:センサー間を通過するときの試料の平均高さ(m)
g:重力加速度(9.807m/sec
2)
θ:傾斜角度
【0013】
次に、3つ以上の異なる傾斜角度について求めた流動先端速度v
a(m/sec)またはひずみ速度(/sec)と上に求めた見掛けのせん断応力τ(Pa)から得られる回帰直線の流動先端速度v
aが0となる切片における見掛けのせん断応力τ(Pa)を見掛けの降伏値τ
y(Pa)、回帰直線の傾きを見掛けの塑性粘度η(Pa・s/mまたはPa・s)として求める。
ひずみ速度(/sec)は、流動先端速度v
a(m/sec)を試料の高さ(m)で除して求める。
【0014】
これら見掛けの降伏値τ
yおよび見掛けの塑性粘度ηは、他の測定手段で測定された流体の降伏値および塑性粘度と高い相関性を確認しており、流体のレオロジー定数として流体特性の把握に利用することができる。
【0015】
また、本願の発明者らは、特許文献3において、
図5に示す傾斜フロー装置を用い、複数の傾斜角度について求めた流動先端速度または該流動先端速度を用いて算出したひずみ速度と、見掛けのせん断応力τ(Pa)から得られる回帰直線の流動先端速度が0となる切片における見掛けのせん断応力τ(Pa)を見掛けの降伏値τy(Pa)、回帰直線の傾きを見掛けの塑性粘度η(Pa・s/mまたはPa・s)として求め、測定された見掛けの降伏値τおよび見掛けの塑性粘度ηに基づいて、フレッシュコンクリートの施工性に関する評価を行う発明を記載している。
【0016】
一方、物体の3次元形状やその変化を測定する手段として、例えば非特許文献3に示されるような3次元画像処理システムが実用化され、種々の分野で適用対象の拡大が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第3963800号公報
【特許文献2】特開2016−176890号公報
【特許文献3】特開2017−223490号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】笹倉博行、桝田佳寛、李榮蘭:傾斜フロー試験器によるフレッシュコンクリートの流動性評価に関する実験、日本建築学会技術報告集、第18巻、第36号、pp.11-14、2012年2月
【非特許文献2】笹倉博行、桝田佳寛、李榮蘭:傾斜フロー試験器によるレオロジー定数に及ぼす調合の影響、日本建築学会技術報告集、第19巻、第42号、pp.387-392、2013年6月
【非特許文献3】“これまで不可能だった検査を、3次元画像処理が可能にする!”[online]、株式会社キーエンス、[平成29年11月14日検索]、インターネット〈URL:https://www.keyence.co.jp/landing/req/vision/xg-x_1126_06.jsp〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
(1) 上述した特許文献1あるいは特許文献2に記載の装置を用いて、見掛けの降伏値および見掛けの塑性粘度を求めるためには、3以上の角度の異なる傾斜フロー試験器を用いて、あるいは傾斜フロー試験器の傾斜流動部を3以上の異なる角度に設定してコンクリートの流動先端速度を計測しなければならず、試験に手間と時間がかかってしまう。
【0020】
(2) 3以上の異なる傾斜角度で測定するため、多量の試料が必要となる。例えば1回の試験に約9リットルの試料を用いる場合、少なくとも27リットルの試料が必要となる。
【0021】
(3) 流動高さは傾斜フロー試験器の内側の側面にスケールを設置して目視により測定していたため、誤差が大きい場合があり、最終的な結果に影響を及ばすことがある。
【0022】
(4) 特に、現場試験として実施する場合、上の(1)〜(3)は大きな問題となる。
【0023】
本発明は上述のような課題の解決を図ったものであり、3次元画像解析の技術を応用することで、傾斜角度を変更することなく1回の測定で見掛けの降伏値および見掛けの塑性粘度を求めることができ、試験時間および試料の節減が可能な効率的なコンクリートのレオロジー定数測定方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明のコンクリートのレオロジー定数測定方法では、試料投入口から投入された測定対象となる流体を溜めて保持するための試料タンク部と、底面が前記試料タンク部の底面と直線的に連続する
傾斜角度が可変である傾斜流動部と、前記試料タンク部と前記傾斜流動部を鉛直方向に仕切る開閉可能なゲート板とを備え、前記ゲート板は前記試料タンク部と傾斜流動部との境界部の外側に立設した支柱を備えたゲート板支持具に支持された状態で鉛直方向に昇降可能とした傾斜フロー試験装置を用いる。
【0025】
対象となるフレッシュコンクリートの試料を前記傾斜フロー試験装置の前記試料投入口から投入し、前記試料タンク部に所定量の試料を溜めた状態で前記ゲート板を開き、
単一の傾斜角度に設定した前記傾斜流動部を流下して行く試料を3Dカメラで撮影し、前記3Dカメラによって撮影された画像の3次元画像処理により、前記傾斜流動部の任意の複数の測定点について前記試料の流動先端速度と試料の高さを求める。
【0026】
測定値に基づき、前記試料の見掛けのせん断応力τ(Pa)を次式によって、前記各測定点ごとに求める。
τ=W×h×g×sinθ …(1)
ここに、
W:試料の単位容積質量(kg/m
3)
h:流動先端速度の測定点(位置は任意)を通過するときの試料の高さ(m)
g:重力加速度(9.807m/sec
2)
θ:傾斜角度
【0027】
前記複数の測定点ごとに求めた流動先端速度または該流動先端速度を用いて算出したひずみ速度と、前記見掛けのせん断応力τ(Pa)から得られる回帰直線の流動先端速度が0となる切片における見掛けのせん断応力τ(Pa)を見掛けの降伏値τy(Pa)、回帰直線の傾きを見掛けの塑性粘度η(Pa・s/mまたはPa・s)として求める。
【0028】
本発明では、特許文献2記載の発明のように、3以上の異なる傾斜角度に設定してコンクリートの流動先端速度を計測する必要がなく、3Dカメラでの撮影による一回の作業で測定を行うことができるため、試験を迅速に行うことができ、また必要な試料の量も節減することができる。
【0029】
なお、傾斜流動部の傾斜角度は必ずしも一定でなければならないということではなく、特許文献2に記載されている装置のように傾斜流動部の傾斜角度を可変な構造としておけば、試料の性質や状態に応じて、傾斜流動部の傾斜角度を試料の測定に適した角度に設定して測定を行うことができる。
【0030】
また、傾斜流動部に傾斜計を設けておけば、試験を行うときの傾斜流動部の傾斜角度を自動測定することができ、傾斜角度の評価が必要な場合の作業が容易となる。
【0031】
また、本発明において、3Dカメラによって撮影された画像情報に基づく3次元画像処理を、3Dカメラと有線または無線の回線で接続されたコンピュータ端末やパソコン端末、タブレットPCなどの端末装置によって行うようにすれば、データ処理を瞬時に行うことができる。すなわち、3Dカメラの画像について3次元画像処理から得られる試料の流動先端速度と試料の高さをもとに、レオロジー定数の算定までほぼ自動で瞬時に行うことができる。
【0032】
傾斜流動部に傾斜計を設ける場合、同様に傾斜計の測定値を同様に端末に送ることでデータ整理を迅速に行うことができる。
【0033】
本発明の方法および装置によって求められる見掛けの降伏値および見掛けの塑性粘度を用いて、コンクリートの現場施工におけるコンクリートの充填性、締固め性、ポンプ圧送性などの施工性を評価することができる。
【0034】
施工性の評価に関し、例えば粘性が想定より高く施工が困難と評価される場合にはコンクリートの調合の再選定もしくは修正を行い、粘性が想定より高いが施工が可能と評価される場合には充填または締固め作業の調整を行う。
【0035】
コンクリートの調合の再選定もしくは修正には、生コン工場における配合の調整の他、生コン工場ごとの特性を考慮した生コン工場の選定も含まれる。
【0036】
粘性が想定の範囲内であれば、現場に受け入れたコンクリートをそのまま予定の施工方法で打設し、締固め、養生などを行えばよい。
【0037】
また、施工性に関する他の要素としては、例えばコンクリート圧送性に関する評価が可能である。
粘性が想定より高くポンプ圧送による施工が困難と評価される場合にはコンクリートの調合の再選定もしくは修正を行い、粘性が想定より高いが施工が可能と評価される場合には圧送速度または圧送圧力の調整を行う。場合によっては圧送ポンプをより能力が高いものに交換することも考えられる。
【0038】
粘性が想定の範囲内であれば、現場に受け入れたコンクリートをそのまま予定の方法でポンプ圧送すればよい。
【0039】
また、評価される施工性がコンクリートの材料分離または圧送性に関するものとして、粘性が想定より低く、材料分離による品質の低下または材料分離に伴う圧送配管の閉塞が懸念される場合には、必要に応じコンクリートの調合の再選定もしくは修正を行うなどして対処することになる。
【発明の効果】
【0040】
本発明のレオロジー定数測定方法では、試料コンクリートの流動状況を従来のようなセンサーではなく3Dカメラで計測するものであるため、1回の傾斜フローの測定によって任意の測定点での流動先端速度と流動高さを計測でき、3点以上のデータを取得することによって、見掛けの降伏値と塑性粘度を求めることができる。
【0041】
また、本発明では試料コンクリートの流動状況を3Dカメラで計測するため、測定精度が高い。特に、流動高さの測定精度は従来のスケールと目視の場合に比べて高くなる。
【0042】
従来の傾斜フロー試験で3以上の異なる傾斜角度に設定してコンクリートの流動先端速度を計測していたのに対し、傾斜角度を変更することなく、1回の作業で測定を行うことができるため、試験を迅速に行うことができ、また必要な試料の量も節減することができる。
【0043】
3Dカメラで計測したデータは、IoTなどで現場に持ち込んだタブレットPCなどに送信すれば、データ整理も瞬時に行えるため、現場試験にも適する。同様に、傾斜角度も傾斜計をIoT化してタブレットPCなどに送信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の傾斜フロー試験器の一実施形態を示す側面図である。
【
図2】
図1の状態からゲートを引き上げ傾斜流動部を流下するコンクリートを3Dカメラで撮影している様子を示す側面図である。
【
図3】
図2の状態からさらに流下して行くコンクリート試料を3Dカメラで撮影している様子を示す側面図である。
【
図4】
図3の状態からさらに流下して行くコンクリート試料を3Dカメラで撮影している様子を示す側面図である。
【
図5】特許文献3に記載されている傾斜フロー試験器を示す側面図及び平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、
図1〜
図4を参照して、本発明の具体的な実施形態を説明する。
【0046】
(1) 試験装置
本発明のコンクリートのレオロジー定数測定方法で使用する傾斜フロー試験装置1の基本的な構成は、特許文献2に記載されている装置と同様であり、傾斜角度をつけて設置した直方体の箱型の測定装置本体の端部にフレッシュコンクリートを充填した後、ゲート板6を引き上げてコンクリートを流下させ、流下するコンクリートCの先端流動速度と高さを計測する。
【0047】
具体的には、
図1に示すように、試料投入口2aから投入された測定対象となるコンクリートを溜めて保持するための試料タンク部2と、底面が前記試料タンク部2の底面と直線的に連続する傾斜流動部3と、試料タンク部2と傾斜流動部3を鉛直方向に仕切る開閉可能なゲート板6とを備え、ゲート板6は試料タンク部2と傾斜流動部3との境界部の外側に立設した支柱5aを備えたゲート板支持具5に支持された状態で鉛直方向に昇降可能となっている。
【0048】
また、図示した例では、測定装置本体の両端部、すなわち試料タンク部2側と流下先端側がそれぞれ支柱4aと支柱8aで支持されており、さらに傾斜角度を自動的に測定するための傾斜計12を取り付けてある。
【0049】
(2) 試験方法
現場における試験では、対象となるフレッシュコンクリートの試料を傾斜フロー試験装置1の試料投入口2aから投入し、試料タンク部2に所定量の試料を溜めた状態でゲート板6を開き、傾斜流動部3を流下して行く試料(フレッシュコンクリートC)を3Dカメラ10で撮影する。
【0050】
3Dカメラによって撮影された画像(映像)は、IoTによりタブレット11などで受信され、3次元画像処理により、傾斜流動部3の任意の複数の測定点について試料の流動先端速度Vと試料の高さhを求める。
【0051】
図2〜
図4は、試料であるフレッシュコンクリートCの流下中の様子を示したもので、それぞれの位置で、3次元画像処理により流動先端速度V
1、V
2、V
3、高さh
1、h
2、h
3を測定する。
【0052】
(3) 見掛けの降伏値および塑性粘度の算定
複数の測定点(この例では3点)の流動先端速度V
1、V
2、V
3、高さh
1、h
2、h
3
が測定された後の見掛けの降伏値および塑性粘度の算定は、特許文献2に記載される方法と同様であり、測定値に基づき、試料の見掛けのせん断応力τ(Pa)を次式によって、各測定点ごとに求める。
τ=W×h×g×sinθ …(1)
ここに、
W:試料の単位容積質量(kg/m
3)
h:流動先端速度の測定点(位置は任意)を通過するときの試料の高さ(m)
g:重力加速度(9.807m/sec
2)
θ:傾斜角度
【0053】
傾斜フロー試験におけるフレッシュコンクリートに作用する見掛けのせん断応力τ(P
a)は(1)式で求めて、見掛けのせん断ひずみ速度(1/sec)は流動先端速度(m/sec)を流動高さ(m)で除して求めることができる。
【0054】
3箇所の測定位置ごと得られた見掛けのせん断ひずみ速度と見掛けのせん断応力の関係は線形の関係となる。これを直線回帰すると、回帰直線の切片は見掛けのせん断ひずみ速度が0であるため降伏値に相当するものと考えられ、これを見掛けの降伏値(以下、τy と略記)とする。
【0055】
一方、回帰直線の傾きは見掛けのせん断ひずみ速度に対する見掛けのせん断応力の変化であるため塑性粘度に相当するものと考えられ、これを見掛けの塑性粘度(以下、ηと略記)とする。なお、実用上、流動中のすべり摩擦抵抗の影響は小さいため無視することができる。
【0056】
このようにして複数の測定点ごとに求めた流動先端速度または該流動先端速度を用いて算出したひずみ速度と、見掛けのせん断応力τ(Pa)から得られる回帰直線の流動先端速度が0となる切片における見掛けのせん断応力τ(Pa)を見掛けの降伏値τy(Pa)、回帰直線の傾きを見掛けの塑性粘度η(Pa・s/mまたはPa・s)として求めることができる。
【符号の説明】
【0057】
1…測定装置本体、2…試料タンク部、2a…試料投入口、3…傾斜流動部、4a…支柱、5…ゲート板支持具、5a…支柱、6…ゲート板、8a…支柱、10…3Dカメラ、11…タブレット、12…傾斜計、
C…流下中のフレッシュコンクリート