【文献】
SCHANEL L. et al.,DREVARSKY VYSKUM,1966年,Vol.3,p.133-150
【文献】
RYPACEK V. et al.,BIOLOGIA PLANTARUM (PRAHA),1975年,17(6),p.452-457
【文献】
STEFFEN K. et al.,Appl. Environ. Microbiol.,2002年,Vol.68 No.7,p.3442-3448
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
広葉樹を含む原料木材に、受託番号NITE P−02428で特定される白色腐朽菌を接種し、前記原料木材を分解してフルボ酸を含有する木材分解物を得る工程を有することを特徴とする木材分解物の製造方法。
前記広葉樹が、クヌギ(Quercus acutissima)及び/又はシラカバ(Betula platyphylla Sukatch var.japonica Hara)である請求項2に記載の木材分解物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「〜」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0015】
本発明の第1の態様は、広葉樹を含む原料木材に、白色腐朽菌を接種し、前記原料木材を分解してフルボ酸を含有する木材分解物を得る工程を有する、フルボ酸を含有する木材分解物の製造方法(以下、「本発明の木材分解物の製造方法」と称す場合がある。)に関する。
【0016】
また、本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様により得られたフルボ酸を含有する木材分解物に、水系溶媒を接触させてフルボ酸を含有する液状組成物を得る工程と、前記液状組成物を固液分離して得られる液体を、乾燥させてフルボ酸を含有する乾燥粉末を得る工程と、得られた乾燥粉末に含有されるフルボ酸を分離精製する工程と、を有するフルボ酸の製造方法(以下、「本発明のフルボ酸の製造方法」と称す場合がある。)に関する。
【0017】
以下において、本発明の第1の態様(木材分解物の製造方法)と第2の態様(フルボ酸の製造方法)を併せて本願発明と総称する場合がある。
また、本発明の第1の態様に係る工程を「工程(1)」、本発明の第2の態様に係る、「フルボ酸を含有する液状組成物を得る工程」を「工程(2)」、「フルボ酸を含有する乾燥粉末を得る工程」を「工程(3)」、「フルボ酸を分離精製する工程」を「工程(4)」と称す。
【0018】
本発明に係るフルボ酸及びこれに関係する腐植物質、フミン酸について説明する。
本発明に係るフルボ酸(fulvic acid)は、いわゆる腐植物質に含まれる物質であり、酸によって沈殿しない無定形高分子有機酸を意味する。フルボ酸は、化学構造がただ一つ決まった分子ではなく、その分子内にカルボキシル基、フェノール性水酸基を多く含んだ多価有機酸である。
【0019】
本明細書において「腐植物質」とは、植物の葉や茎などの有機物が多種多様な微生物によって分解し、二次的に生成された有機成分で、糖、タンパク質、脂質などに分類されない有機物の総称をいう。
腐植物質には、フルボ酸と共にフミン酸(humic acid)が含まれる。日本腐植学会によると「腐植物質の定義はあくまで疑念的定義」であるが、土壌や堆積物からの腐植物質は、一般には酸及び塩基に対する溶解性に基づいて、フミン酸は一般に塩基性水溶液に可溶であり、フルボ酸は一般に酸性及び塩基性水溶液に可溶であると定義されている。
本発明においては、「フルボ酸」を、「腐植物質(木材分解物を含む)から分離精製することができる物質であって、酸性及び塩基性水溶液に可溶な無定形高分子有機酸」と定義するものとする。
【0020】
以下、本発明の各工程について詳述する。
【0021】
1.木材分解物の製造方法
本発明の第1の態様である木材分解物の製造方法は、以下に詳述する工程(1)からなる。
<工程(1)>
工程(1)は、広葉樹を含む原料木材に、白色腐朽菌を接種し、前記原料木材を分解してフルボ酸を含有する木材分解物を得る工程である。
【0022】
(原料木材)
本発明のフルボ酸の製造方法では、原料となる木材(原料木材)として、広葉樹を必須とする。広葉樹を白色腐朽菌で分解することにより、フルボ酸を含有する木材分解物を得ることができる。
広葉樹としては、具体的には、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等及びこれらの関連樹種が例示される。これらの1種を用いても、2種以上を併せて用いてもよい。
この中でも、ブナ科コナラ属及び/又はカバノキ科カバノキ属の広葉樹であることが好ましく、特にはクヌギ(Quercus acutissima)及び/又はシラカバ(Betula platyphylla Sukatch var.japonica Hara)であることが好ましい。
【0023】
また、本発明においては、原料木材として広葉樹を用いるが、原料木材には本発明の目的を損なわない範囲で広葉樹以外の原料が含まれていてもよい。
広葉樹以外の原料としては、針葉樹(スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ等)や竹などが挙げられる。これらは例えば、原料となる広葉樹の回収の際に混在する場合がある。
広葉樹とその他の原料を併用する場合、広葉樹の重量割合は50重量%以上が好ましく、75重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。但し、当然に広葉樹のみ(広葉樹100重量%)であってもよい。
【0024】
原料木材となる広葉樹の使用部位は、本発明に係る白色腐朽菌によりフルボ酸が生産できる部位であればよく、好ましくは幹の部位が使用される。但し、廃棄物処理等の観点から、幹以外のすべての部位を使用してもよい。
【0025】
工程(1)において、前記原料木材をチッパー(チップ)状に粉砕し、解繊機で粉末状に解繊して粉末にすることが好ましい。このように粉末化することにより、白色腐朽菌による原料木材の分解が進行しやすくなるという利点がある。
原料木材をチッパー状に粉砕する方法は任意であり、適当な大きさの原料木材を公知の木材粉砕機を使用して、100μm程度の大きさまで粉砕する。
【0026】
次いで、粉砕後のチップを解繊機で粉末状に解繊する。解繊機としては、目的とする原料木材の粉末が得られる点で、西邦機工株式会社製解繊機(製品名:ラブマシーン)が好ましく用いられる。
解繊機は、二軸スクリュー破砕機と二次破砕機を破砕物の移動方向に連続して設けているため、二軸スクリュー破砕機の作動開始部分に投入された粉砕後のチップは、相対する各回転軸のスクリュー歯の間に巻き込まれ、ほぐされながら破砕される。この二軸スクリュー破砕機で処理した状態では、原料木材の粉末は完全には破砕されず、部分的に連続した状態にあるという特徴がある。
【0027】
解繊後の粉末の粒径は、詳しくは後述する本発明に係る白色腐朽菌によってフルボ酸が生産できる大きさであればよく、通常、10〜200μmの範囲であり、好ましくは50〜150μmの範囲である。解繊条件は、使用する解繊機により異なり、解繊後の粉末の粒径が、上記粒径の範囲になるように適宜設定される。
【0028】
(白色腐朽菌)
本発明で使用する白色腐朽菌は、フルボ酸を産生することができる白色腐朽菌であれば制限はない。好適な一例としては、受託番号NITE P-02428で特定される白色腐朽菌、より詳しくはファネロカエテ(Phanerochaete)属に属し、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託番号NITE P-02428で寄託されている菌株(識別のための表示:BMC-110012)である。この受託番号NITE P-02428で特定される白色腐朽菌は、常温近傍において優れたリグニンの分解作用とフルボ酸産生能のバランスに優れる。
【0029】
なお、以下の説明において、フルボ酸を産生することができる白色腐朽菌を、「本発明に係る白色腐朽菌」と呼ぶ場合がある。また、好適な白色腐朽菌である「受託番号NITE P-02428で特定される白色腐朽菌」を以下、白色腐朽菌(NITE P-02428)と称す。
【0030】
なお、白色腐朽菌(NITE P-02428)の変異株は、フルボ酸の産生能を保持していれば、本発明に係る白色腐朽菌に該当する。当該変異株は、例えば、白色腐朽菌(NITE P-02428)を公知の変異処理に供すること、又は経代培養による適応や自然変異により生産できる。なお、本発明の白色腐朽菌は、白色腐朽菌(NITE P-02428)のみでもよいし、白色腐朽菌(NITE P-02428)の変異株のみでもよいし、これらの共存したものであってもよい。
【0031】
本発明に係る白色腐朽菌は、原料木材である広葉樹(特には幹の部分)を分解し、フルボ酸を生産することができる。特に好適な一例である白色腐朽菌(NITE P-02428)は、常温近傍(20〜35℃)においても、原料木材である広葉樹(特には幹の部分)を分解し、高効率にフルボ酸を生産することができる。
特に上述したチッパー(チップ)状に粉砕し、解繊機で粉末状に解繊して粉末を原料木材として使用した場合、白色腐朽菌(NITE P-02428)は、原料木材の腐朽能と、液化能(フルボ酸の産生能に相当)のバランスに優れ、より高効率にフルボ酸を生産することができる。
【0032】
工程(1)において、本発明に係る白色腐朽菌を接種した後の原料木材を分解させる期間は分解対象の原料の種類や培養条件等によって異なり、白色腐朽菌の種類を考慮して適宜選択される。フルボ酸を有意に含有する分解物を得るためには、例えば、20日以上、好ましくは30日以上が例示される。20日未満であると原料木材の分解が不十分で生産されるフルボ酸の量が少なすぎる場合がある。
また、白色腐朽菌(NITE P-02428)の場合では、原料木材を液体化することができる。分解物の液体化は分解初期から起こり、分解対象の原料の種類や培養条件等によって異なるが、より液体化を進行させるためには60日以上が好ましい。なお、分解が進みすぎるとフルボ酸の含有量が減少するおそれがあるため、通常180日以下で行われる。
【0033】
本発明の木材分解物は、上記工程(1)の製造方法で得られる、フルボ酸を含有する木材分解物である。本発明の木材分解物は固形分と液体の混合物であってもよく、残渣以外の固形分を含まない液体であってもよい。木材分解物の液体化には白色腐朽菌(NITE P-02428)が好ましく使用される。
【0034】
なお、上述の通り、本発明の木材分解物の製造方法によってクヌギは好適な原料木材である。原料木材がクヌギである場合、白色腐朽菌(NITE P-02428)を接種した後、20〜35℃で、固形分が多い木材分解物を得るためには20日以上60日未満、好適には30日以上60日未満であり、液体の多い木材分解物を得るためには60日以上180日未満、好適には100日以上150日未満である。なお、120日程度でほぼ全体が液体化する(残渣除く)。
【0035】
また、原料木材がシラカバである場合、白色腐朽菌(NITE P-02428)を接種した後、20〜35℃で、固形分が多い木材分解物を得るためには20日以上60日未満、液体の多い木材分解物を得るためには60日以上180日未満である。なお、120日程度でほぼ全体が液体化する(残渣除く)。
【0036】
本発明の木材分解物は、更に必要に応じて、粉砕処理、マイクロ波照射、蒸煮処理、放射線照射処理、化学処理(例えば、オゾン処理、アルカリ処理、酸処理、酸化剤処理、還元剤処理等)、菌処理、酵素処理、及びこれらの複合処理等の処理に供してもよい。
【0037】
本発明の木材分解物の使用用途には制限はなく、フルボ酸を含む組成物が使用される任意の用途に使用することができる。例えば、土壌改良、環境浄化、植物成長促進等が挙げられるがこれらに限定されない。
本発明の木材分解物は、その使用目的に応じて他の任意の成分と共に使用することができる。
【0038】
2.フルボ酸の製造方法
本発明の第2の態様は、工程(1)で得られた木材分解物からフルボ酸を得る方法であり、以下に詳述する工程(2)〜(4)からなる。
【0039】
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)で得られた木材分解物に、水系溶媒を接触させてフルボ酸を含有する液状組成物を得る工程である。
【0040】
本明細書において、「水系溶媒」とは、水のみならず、水と他の溶媒の混合溶媒を意味する。混合溶媒の場合の水と水以外の溶媒との割合は、溶媒全体を100重量%として水50重量%以上を必須とし、好ましくは70重量%以上である。
混合溶媒の場合の水以外の溶媒としては、本発明の目的を損なわない限り任意であるが、水と任意の割合で相溶し、適度な極性を有するアルコールが好適であり、中でもメタノール、エタノールが好ましい。
【0041】
木材分解物と水系溶媒とを接触させることによって、水系溶媒中にフルボ酸が抽出される。すなわち、工程(2)の液状組成物には、木材分解物の残渣(固相)及びフルボ酸を含有する水系溶媒(液相)が含まれる。
【0042】
木材分解物に対する水系溶媒の量は、木材分解物に含有されるフルボ酸が溶出するのに十分な量であればよい。但し、水系溶媒の量が多すぎると工程(3)における乾燥時間がかかるため、通常、原料木材1kgから得られる木材分解物に対し、1〜5L程度である。
【0043】
木材分解物と水系溶媒とを接触させる方法は任意であるが、例えば、木材分解物と水系溶媒とを容器に入れて、撹拌機で撹拌する方法が挙げられる。
【0044】
木材分解物と水系溶媒とを接触させる時間は、温度や撹拌の有無等を考慮して木材分解物に含有されるフルボ酸が水系溶媒に十分に溶出できる条件で適宜決定される。
【0045】
<工程(3)>
工程(3)は、工程(2)で得られた液状組成物を固液分離して得られる液体を、乾燥させてフルボ酸を含有する乾燥粉末を得る工程である。
上述の通り、工程(2)で得られた液状組成物は、木材分解物の残渣(固相)及びフルボ酸を含有する水系溶媒(液相)で構成される。工程(3)では、液状組成物から液相を回収し、溶媒を留去して乾燥させることで、フルボ酸を含有する乾燥粉末を得る。
【0046】
木材分解物の残渣(固相)とフルボ酸を含有する水系溶媒(液相)との分離は、ろ過や遠心分離等の公知の固液分離の方法が採用でき、生産性の観点から遠心分離が好ましく採用される。
【0047】
固液分離後の木材分解物の残渣(固相)は、必要に応じて、残存するフルボ酸を回収するために溶媒で洗浄したり、再度工程(2)に供して、残存するフルボ酸を再抽出してもよい。
【0048】
回収した液体から溶媒を留去して乾燥粉末を得る。乾燥に用いる手段としては特に制限はなく、公知の乾燥方法を採用すればよい。より好適な乾燥方法は、余計な加熱を行わない減圧乾燥であり、特に凍結乾燥が好ましく採用される。凍結乾燥では、冷凍処理における温度が−10℃以下であることが好ましい。減圧乾燥は、時間を1〜10時間、乾燥室内温度を5〜20℃として、これを目的とする乾燥程度になるまで繰り返してもよい。
【0049】
<工程(4)>
工程(4)は、工程(3)で得られた乾燥粉末に含有されるフルボ酸を分離精製する工程であり、フルボ酸を製造することができる。
【0050】
フルボ酸を分離精製する方法は、目的とするフルボ酸が得られる限り任意であるが、好適には、以下の工程(4−1)〜工程(4−4)で規定されるIHSS法(国際腐植学会指定の操作方法及び確認方法)に準じる方法が好ましい。なお、当該分離精製方法の具体例は実施例にて説明する。
工程(4−1)得られた乾燥粉末を0.1M-NaOH水溶液に接触させ、1日放置後に沈殿物を生成させたのち、沈殿物と水溶液とを固液分離する工程
工程(4−2):工程(4−1)で得られた水溶液に濃塩酸を加えてpHを1にして沈殿物を生成させたのち、沈殿物と水溶液に固液分離する工程
工程(4−3):工程(4−2)で得られた水溶液をXRD樹脂を充填したカラムに通過させてフルボ酸を吸着させたのちに、カラムに酸性洗浄液を通過させて不純物を除去し、次いで0.1M-NaOH水溶液に通過させてフルボ酸を遊離させてフルボ酸水溶液を得る工程
工程(4−4):工程(4−3)で得られたフルボ酸水溶液を充填した減圧乾燥し、乾燥粉末を得る工程
【0051】
得られるフルボ酸の分子量は、原料木材や使用する白色腐朽菌、及び処理条件によって様々であるが、分子量として、通常、2000〜20000、好適には3000〜18000である。
【0052】
上述した本発明の製造方法によって生産されるフルボ酸は、任意の用途に使用することができる。本発明のフルボ酸は、例えば、土壌改良、環境浄化、医薬用途等の様々な用途で使用することができ、その用途は限定されない。本発明のフルボ酸は、その使用目的に応じて他の任意の成分と共に使用することができる。
【0053】
なお、上述の通り、本発明のフルボ酸の製造方法においてクヌギは好適な原料木材であり、原料木材としてのクヌギを白色腐朽菌(NITE P-02428)によって分解して得られる木材分解物、及び当該木材分解物を抽出・分離処理して得られるクヌギ由来のフルボ酸は様々な用途(例えば、土壌改良剤等)に有益に使用することができる。
【0054】
また、上述の通り、本発明のフルボ酸の製造方法においてシラカバは好適な原料木材であり、原料木材としてのシラカバを白色腐朽菌(NITE P-02428)によって分解して得られる木材分解物、及び当該木材分解物を抽出・分離処理して得られるシラカバ由来のフルボ酸は様々な用途(例えば、医薬、化粧品原料等)に有益に使用することができる。
【0055】
以上、本発明について述べたが、上記説明に明示的に開示されていない事項については、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
実施例1(クヌギ由来の木材分解物及びフルボ酸)
1−1.木材分解物の製造
以下の手順で木材分解物を製造した。使用した原料木材、白色腐朽菌は以下の通りである。
(1)原料木材
原料木材として、クヌギチップを使用した。クヌギチップの原料は、大分県の森林樹木伐採現場にて発生したものを使用しており、解体などで発生する建築廃材及び産業廃棄物由来の木材を含まない。また、伐採後一切の化学処理を施してはいない。
(2)白色腐朽菌
供試菌として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターの受託番号NITE P-02428(識別のための表示BMC-110012)で特定される白色腐朽菌(以下、「白色腐朽菌(NITE P-02428)」と記載する。)を使用した。
【0058】
<工程(1)>
クヌギ木材(幹の部分)を10mm程度のチップに粉砕し、得られたチップを更に解繊機(西邦機工株式会社、製品名:ラブマシーン)で処理し、粉末状(100μm程度)に解繊した。
得られた粉末状クヌギと脱脂米糠(添加栄養物)と水とを、5:0.8:4(重量比)で撹拌・混合した後に混合物(クヌギ木粉培地)を、菌床袋(容積3.6L)へ1.7kgずつ詰め、金枠に入れて形を整えた。詰め込み時の含水率は57.9重量%であった。
次いで、常法に従いオートクレーブ(121℃、60分)で殺菌処理、放冷後、常法に従い接種菌(白色腐朽菌(NITE P-02428))を接種した。なお、接種菌である白色腐朽菌(NITE P-02428)は、300mL三角フラスコにクヌギ木粉培地を適宜入れ前培養したものを使用した。菌床袋のクヌギ木粉培地への接種菌の接種は、15mmφの鉄棒で菌床袋の培地をプレスし、二箇所の穴を開け接種孔を形成して行い、接種量は、粉末状クヌギ1kgに対して、10gとした。
【0059】
接種菌の接種したクヌギ木粉培地(菌床袋)を、25℃に保たれた培養室で所定の日数静置して、粉末クヌギの分解を行うことにより、実施例1の木材分解物を得た。
なお、日数が長いほど粉末クヌギは分解して液体化する傾向にあり、20日では固形物、30日では若干の液体を含む固形物、60日では固形物と液体の混合物、120日目では、ほぼ液体化していた。
【0060】
1−2.フルボ酸の製造
工程(1)で得られた木材分解物を使用して、以下の手順で実施例1のフルボ酸を製造した。
【0061】
<工程(2)>
工程(1)で得られた木材分解物(30日分解)1kgと水2Lとを容器に入れミキサーで、3分程度撹拌して木材分解物に含まれる成分を水に抽出し、木材分解物を含有する液状組成物を得た。
【0062】
<工程(3)>
工程(2)で得られた木材分解物を含有する液状組成物を、遠心分離機にて固液分離を行い、液体部分をデカンテーションして得た液体を減圧乾燥器にて減圧乾燥し、腐植酸物質を含有する乾燥粉末を得た。収率は約5%(原料1kgから約50g生成)であった。
【0063】
<工程(4)>
工程(3)で得られた乾燥粉末を、以下の工程によって分離精製し、フルボ酸を得た。なお、この分離精製方法は、IHSS法(国際腐植学会指定の操作方法及び確認方法)に相当する。
まず、工程(3)で得られた乾燥粉末を、0.1M-NaOH水溶液に入れ、1日放置後に沈殿物を生成させのちに、沈殿物と水溶液を分離した。次いで、水溶液に濃塩酸を加えてpH1になるように調整した。再び沈殿物が生成するので、更に沈殿物と水溶液に分離した。
得られた水溶液はXRD樹脂を約150mL充填したカラムに通し、XRD樹脂にフルボ酸を吸着させた。フルボ酸を吸着させた後のカラムに1M塩酸300mL、続いて0.1M塩酸300mLを通過させて洗浄し、不純物を除去した。
次いで、カラムに0.1M-NaOH水溶液、約450mLを通過させて、XRD樹脂に吸着していたフルボ酸を遊離させて、フルボ酸を含む遊離液を回収した。なお、0.1M-NaOH水溶液の通液は、カラムからでる通過液の色が薄くなるまで行った。
【0064】
得られた遊離液は、IRC樹脂を約300mL充填したカラムに通し、NaOH水溶液を除去した。また、カラムを残存したフルボ酸を回収するために、カラムを蒸留水300mLで洗浄し、洗浄液と遊離したフルボ酸溶液と合わせた。
得られたフルボ酸溶液は減圧乾燥で水を留去し、目的とする乾燥粉末を得た。収率は約0.6%(1kgから約6g生成)であった。
【0065】
1−3.乾燥粉末の分析
分離精製後の乾燥粉末を実施例1の試料として、FT−IR、UV、
1H−NMR、元素分析(C・H・Nコーダ)により解析した。抽出させた有用腐植物質を同定させるため、市販品のフルボ酸(コヨウ株式会社製)と比較検討した。
使用した装置は以下の通りである。
IR:日本分光(株)、FT/IR-5000型
UV:日本分光(株)、Ubest V-560型
NMR:ブルカーバイオスピン(株)、S-NMR 600
元素分析:(株)パーキンエルマージャパン、CHNS/O アナライザー 2400 II
【0066】
図1に実施例1と市販品のフルボ酸のFT−IR法における赤外線吸収スペクトル(以下、「IRスペクトル」と記載)を示す。3400cm
-1に水酸基(OH)、2980cm
-1にメチレン基(-CH
2-)及び1700cm
-1にカルボキシル基(COOH)の波長に特徴的なピークが見られた。
文献(環境中の腐植物質-その特徴と研究法-、ISBN-10: 4782705778)からも同様なピークが確認されており、フルボ酸特有の水酸基やカルボキシル基を多く有する構造であると考えられる。
【0067】
図2に実施例1と市販品のUVスペクトルを示す。どちらも同様な吸収曲線を示したが、実施例1の方が270nm付近の吸収が大きかった。この付近の吸収帯は芳香環に由来するものと考えられ、実施例1の試料は芳香環を市販のものより比較的多く含む構造であると考えられる。
【0068】
図3に実施例1の試料の
1H−NMRを測定した結果を示した。0.8ppmに弱いシグナルの末端メチル基、1.1〜1.3ppmにβ位のメチル基及びメチレンのシグナルにそれぞれ帰属され、3.5〜4.0ppmにメトキシル基、アルコール性水酸基を含む置換脂肪族水素のシグナルに帰属された。
図4にKononovaにより提唱されているE4/E6比の結果を示した。E4/E6比は465nmと665nmの吸光度の比率であり、フルボ酸の特性付けに用いられている。文献(環境中の腐植物質-その特徴と研究法-、ISBN-10: 4782705778)によるとフルボ酸のE4/E6比は6.0〜8.5の間で変動すると定義されている。実施例1の試料のE4/E6比は7.8となった。
また、元素分析を行ったところ、各試料のC,H,Nの含有量は市販品(C:29.16%、H:4.71%、N:4.99%)、実施例1(C:38.65%、H:4.63%、N:2.93%)となった。文献(環境中の腐植物質-その特徴と研究法-、ISBN-10: 4782705778)と比較したところ、窒素含量が多いことが確認された。また、平均分子量は約100000であった。
これらの結果から、実施例1の試料(分離精製後の乾燥粉末)がフルボ酸を有することが確認された。
【0069】
実施例2(シラカバ由来の木材分解物及びフルボ酸)
2−1.木材分解物の製造
以下の手順で木材分解物を製造した。使用した原料木材、白色腐朽菌は以下の通りである。
(1)原料木材
原料木材として、シラカバチップを使用した。
(2)白色腐朽菌
供試菌として、白色腐朽菌(NITE P-02428)を使用した。
【0070】
<工程(1)>
シラカバ木材(幹の部分)を10mm程度のチップに粉砕し、得られたチップを更に解繊機(西邦機工株式会社、製品名:ラブマシーン)で処理し、粉末状(100μm程度)に解繊した。
得られた粉末状シラカバと脱脂米糠(添加栄養物)と水とを、5:0.8:4(重量比)で撹拌・混合した後に混合物(シラカバ木粉培地)を、菌床袋(容積3.6L)へ1.7kgずつ詰め、金枠に入れて形を整えた。
次いで、常法に従いオートクレーブ(121℃、60分)で殺菌処理、放冷後、常法に従い接種菌(白色腐朽菌(NITE P-02428))を接種した。なお、接種菌である白色腐朽菌(NITE P-02428)は、300mL三角フラスコにシラカバ木粉培地を適宜入れ前培養したものを使用した。菌床袋のシラカバ木粉培地への接種菌の接種は、15mmφの鉄棒で菌床袋の培地をプレスし、二箇所の穴を開け接種孔を形成して行い、接種量は、粉末状シラカバ1kgに対して、10gとした。
【0071】
接種菌の接種したシラカバ木粉培地(菌床袋)を、25℃に保たれた培養室で60日数静置して、粉末シラカバの分解を行うことにより、実施例2の木材分解物を得た。
【0072】
2−2.フルボ酸の製造
工程(1)で得られた木材分解物を使用して、以下の手順でフルボ酸を製造した。
【0073】
<工程(2)>
工程(1)で得られた木材分解物(60日分解)1kgと水2Lとを容器に入れミキサーで、3分程度撹拌して木材分解物に含まれる成分を水に抽出し、木材分解物を含有する液状組成物を得た。
【0074】
<工程(3)>
工程(2)で得られた木材分解物を含有する液状組成物を、遠心分離機にて固液分離を行い、液体部分をデカンテーションして得た液体を減圧乾燥器にて減圧乾燥し、腐植酸物質を含有する乾燥粉末を得た。
【0075】
<工程(4)>
工程(3)で得られた乾燥粉末を、実施例1と同様の方法により、分離精製し、実施例2のフルボ酸を得た。
【0076】
1−3.乾燥粉末の分析
分離精製後の乾燥粉末を実施例2の試料として、上記実施例1と同様にFT−IR、
1H−NMRにより解析した。解析に使用した装置、条件は実施例1と同様である。
【0077】
図5に実施例2のIRスペクトルを示す。3400cm
-1に水酸基(OH)、2980cm
-1にメチレン基(-CH
2-)及び1700cm
-1にカルボキシル基(COOH)の波長に特徴的なピークが見られ、フルボ酸特有の水酸基やカルボキシル基を多く有する構造であると考えられる。
【0078】
図6に実施例2の試料の
1H−NMRを測定した結果を示した。0.8ppmに弱いシグナルの末端メチル基、1.1〜1.3ppmにβ位のメチル基及びメチレンのシグナルにそれぞれ帰属され、3.5〜4.0ppmにメトキシル基、アルコール性水酸基を含む置換脂肪族水素のシグナルに帰属された。
【0079】
また、元素分析を行ったところ、C,H,Nの含有量は実施例2(C:15.47%、H:1.73%、N:0.00%)となった。また、分子量は約3000〜180000の範囲で分子量の分布がみられた。
【0080】
<参考例>白色腐朽菌のスクリーニング(クヌギ木粉の分解・液化試験)
以下の9種類の白色腐朽菌を供試菌としてクヌギ木粉の分解・液化試験を行い、腐朽力及び液化力の強い菌株の選抜を行った。
供試菌1:シイタケ(Lentinula edodes)
供試菌2:エノキタケ(Flammulina velutipes)
供試菌3:ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)
供試菌4:カワラタケ(Trametes versicolor)
供試菌5:シワタケ(Phlebia tremellosa)
供試菌6:Phanerochaete chrysosporium
供試菌7:Phanerochaete sp.
供試菌8:Phlebia lindtneri
供試菌9:Phlebia aurea
【0081】
なお、供試菌7は、大分県中津地区で入手したキノコ栽培廃菌床(野外に半年程度放置)のうち、腐朽が進んでいるものを数種選抜し、それぞれをPDA培地に接種したところ、糸状菌1種の生長を認めた。さらに、糸状菌の断片をPDA培地に接種し、純粋培養を試みた。得られた菌株を保存菌株とした。本菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託番号NITE P-02428で寄託されている菌株(識別のための表示:BMC-110012)である。
【0082】
クヌギ木粉の分解・液化試験は以下の通り行った。
クヌギ材を丸鋸で切断して発生するクヌギ木粉を木粉培地用木粉とし、クヌギ木粉:脱脂米糠=8:2(重量比)の割合で混合し、水分含量60重量%になるように水を添加して十分に混合することにより、評価用の木粉培地を得た。
試験管(18mmφ×180mm)にフィルター受けを挿入し、その上に穴を開けたバルサシート(厚さ1mm)を設置したものを9本用意し、それぞれの試験管内に木粉培地10gを入れ、オートクレーブで温度121℃、60分処理した後に、供試菌1〜9を接種した。なお、供試菌(種菌)は18mmφ×180mmPDAスラント保存分より、5mm角程度を切り取り接種した。
供試菌の接種後25℃で60日間培養し、培地の収縮の程度から腐朽能を、分解液の生成の程度から木質液化能を定性的に評価した。
【0083】
供試菌の腐朽能及び木質液化能の表1に示す。
なお、表1において、「腐朽能」及び「木質液化能」の評価基準は以下の通りである。
<腐朽能>
―: 培地の収縮は認められない(目視:3%以下)
+ :培地の収縮が僅かに認められる(目視:10%以下)
++ :培地の収縮が認められる(目視:25%以下)
+++:培地の収縮が顕著に認められる(目視:50%以下)
<木質液化能>
― :目視で分解液の生成は認められない。
+ :目視で分解液の生成が培地中に認められるが、試験管の底には溜まっていない。
++ :目視で分解液の生成が認められ、試験管の底に、深さ1cm未満で液体が溜まっている。
+++:目視で分解液の生成が顕著に認められ、試験管の底に、深さ1cm以上で液体が溜まっている。
【0084】
【0085】
表1の通り、木質リグニンの分解能(培地の収縮)に優れ、かつ、液化能(分解液の生成)に生成が顕著に認められる菌株として、供試菌7(Phanerochaete sp.(受託番号:NITE P-02428))が選抜された。