(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1および2に記載された椅子では、後脚のキャスターは、使用者が座る座板の後端部よりも後方に離れた位置に配置されている。このため、上述した使用者の臀部から腰部の近傍を通る軸を中心とした捻り動作への後脚のキャスターの追従性は高くなく、椅子の移動性について改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、使用者が椅子に座ったまま移動する際の移動性を向上させることが可能な椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、椅子は、上方を向く座面を有する座と、前記座の後端側に設けられた背凭れと、前記座および前記背凭れを設置面に対して移動可能に支持する支持構造体と、を備える。前記支持構造体は、前記設置面に接することが可能な前輪と、前記前輪よりも後方に配置され、前記設置面に常に接するように設けられた後輪と、前記後輪よりも後方に配置され、前記設置面に接することが可能な後部支持部と、を有する。前記前輪および前記後輪の少なくとも一方は、前記座の幅方向に離間して一対設けられている。
前記後輪の中心軸は、前記座の後端部または前記背凭れの後端部よりも前方に配置されている。前記幅方向から見た側面視において、前記前輪の下端と前記後部支持部の下端とを結ぶ線分は、前記後輪の下端よりも上方に配置されている。
【0009】
このような椅子によれば、後輪の中心軸は、座の後端部または背凭れの後端部よりも前方に配置されているので、座の前後方向における後輪の中心軸の位置は、椅子に座った状態の使用者の臀部から腰部の近傍に近くなる。よって、使用者の身体動作の軸とその動作に追従する後輪との距離が短くなるので、使用者の動作に後輪が追従しやすくなり、椅子の移動性を向上させることができる。加えて、後輪よりも後方には後部支持部が配置されているので、椅子が後方に傾いた場合でも後部支持部が設置面に接することによって、椅子の転倒を防止することができる。
【0010】
上記の椅子において、前記前輪および前記後輪はともに、前記幅方向に離間して一対設けられていてもよい。前記一対の後輪は、前記幅方向において前記一対の前輪の間に位置していてもよい。
【0011】
このような椅子によれば、前輪および後輪はともに幅方向に離間して一対設けられているので、座および背凭れをより安定して支持することができる。また、一対の後輪は幅方向において一対の前輪の間に位置しているので、前輪の幅方向の間隔を後輪よりも大きくすることができる。これにより、一対の前輪の間に使用者の足を配置する十分なスペースを確保することができるので、使用者が椅子に座ったまま移動する際に動かす足に前輪を接触しにくくすることができ、椅子の移動性をより向上させることができる。
【0012】
上記の椅子において、前記後部支持部は、前記設置面に接することが可能な補助車輪であってもよい。
【0013】
このような椅子によれば、後部支持部は補助車輪であるので、椅子が後方に傾いて後部支持部が設置面に接した状態でも、後輪と補助車輪とによって椅子を移動させることができる。よって、椅子の移動性をより向上させることができる。
【0014】
上記の椅子において、前記後輪の中心軸は、前記幅方向に略沿って延びており、前記後輪の中心軸と前記座との相対角度は不変であってもよい。
【0015】
このような椅子によれば、後輪の中心軸は幅方向に略沿って延びており、後輪の中心軸と座との相対角度が不変であるので、後輪は椅子が座の前後方向にのみ移動するように回転する。よって、椅子を直進させやすくするとともに、向きを変えて移動する場合の方向付けをより確実に行うことができる。したがって、椅子の移動性をより向上させることができる。
【0016】
上記の椅子において、前記後輪の中心軸は、前記座の後端部よりも前方に配置されていてもよい。
【0017】
このような椅子によれば、後輪の中心軸は座の後端部よりも前方に配置されているので、座の前後方向における後輪の中心軸の位置は、椅子に座った状態の使用者の臀部から腰部の近傍により近くなる。よって、使用者の身体動作の軸とその動作に追従する後輪との距離がより短くなるので、使用者の動作に後輪がより追従しやすくなり、椅子の移動性をより向上させることができる。
【0018】
上記の椅子において、前記座面は、前記後輪よりも上方に配置されていてもよい。
【0019】
このような椅子によれば、座面は後輪よりも上方に配置されているので、座面に座る使用者の腕や衣服などが後輪に接触しにくくすることができる。
【0020】
上記の椅子において、前記後輪は、前記幅方向において前記座の前記幅方向の両端部の間に位置していてもよい。
【0021】
このような椅子によれば、後輪は幅方向において座の幅方向の両端部の間に位置しているので、後輪は座の幅方向内側に配置される。よって、後輪は幅方向において椅子に座った状態の使用者の臀部から腰部の近傍のより近くに配置されるので、使用者の身体動作の軸とその動作に追従する後輪との距離がより短くなる。このため、使用者の動作に後輪がより追従しやすくなり、椅子の移動性をより向上させることができる。
【0022】
上記の椅子において、前記後輪は、平面視において前記後輪の全体が前記座に覆われるように配置されていてもよい。
【0023】
このような椅子によれば、後輪は平面視においてその全体が座に覆われるように配置されているので、後輪は使用者が座る座の真下に配置される。よって、後輪は椅子に座った状態の使用者の臀部から腰部の近傍のより近くに配置されるので、使用者の身体動作の軸とその動作に追従する後輪との距離がより短くなる。このため、使用者の動作に後輪がより追従しやすくなり、椅子の移動性をより向上させることができる。
【0024】
上記の椅子において、前記幅方向から見た側面視において、前記前輪および前記後輪の共通接線のうち前記前輪および前記後輪の下方に配置される共通接線に直交し前記椅子の重心を通る直線は、前記後輪の中心軸と略交差していてもよい。
【0025】
このような椅子によれば、側面視において前輪および後輪の下方に配置される共通接線に直交し椅子の重心を通る直線は、使用者が椅子に座って前輪および後輪が設置面に接している状態では、設置面に直交し椅子の重心を通る直線と略一致する。この重心を通る直線が側面視において後輪の中心軸と略交差するように後輪が配置されているので、使用者の動作への後輪の追従性をより高くすることができ、椅子の移動性をより向上させることができる。
【0026】
上記の椅子において、前記後輪の径方向の寸法は、前記前輪の径方向の寸法よりも大きくてもよい。
【0027】
このような椅子によれば、前輪よりも後輪に荷重がかかりやすいので、後輪の径方向の寸法を前輪の径方向の寸法よりも大きくすることで、椅子の安定性を高めることができる。
【0028】
上記の椅子において、前記支持構造体は、前記前輪及び前記後輪を支持する車輪支持部と、前記車輪支持部と前記座とを連結する支持フレームと、を備える。前記支持フレームは、前記前輪より後方、かつ前記後輪よりも前方で前記車輪支持部に連結された基端部と、後方に向かって斜め上方に延びる斜行部と、前記斜行部の上端部に形成され、前記座に連結される座連結部と、を備えていてもよい。
【0029】
このような椅子によれば、支持フレームの斜行部は、後方に向かって斜め上方に延びているので、使用者が座に着座した状態で、椅子を前方に移動させようとしたときに座に入力される力の分力は、斜行部を介して車輪支持部に伝達される。座に入力される力の分力は、前輪及び後輪を支持する車輪支持部に対し、前輪と後輪との間に、斜め上方から斜め下方に向かって作用するため、車輪支持部が下方に押さえられつつ、前方に押圧される。
【0030】
上記の椅子において、前記基端部と前記斜行部との間に、前記基端部から前方に向かって斜め上方に延びる下部斜行部と、前記下部斜行部に連続して形成され、後方に湾曲して前記斜行部に連続する湾曲部と、を備えるようにしてもよい。
【0031】
このような椅子によれば、前方に向かって斜め上方に延びる下部斜行部を設け、下部斜行部と斜行部とを湾曲部を介して連続させることで、座に座った使用者による鉛直荷重によって、車輪支持部を斜め前方から引っ張るような力が作用する。これによって、椅子の移動性をより向上させることができる。
【0032】
上記の椅子において、前記斜行部において前記座との間に上下方向に間隔をあけた位置と前記座の前端部との間に設けられた前部支持部、をさらに備えるようにしてもよい。
【0033】
このような椅子によれば、座を、斜行部の上端部に形成された座連結部と前部支持部とで、安定的に支持することができる。また、椅子を前方に移動させようとしたときに座に入力される力が、座の前端部側から前部支持部を介して斜行部に効率良く伝達される。
【0034】
上記の椅子において、前記車輪支持部は、前記支持フレームの前記基端部が挿入される筒状のフレーム挿入部を有しているようにしてもよい。
【0035】
このような椅子によれば、椅子の組立の際には支持フレームの基端部を車輪支持部のフレーム挿入部に挿入すれば良く、組立作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0036】
上記の椅子によれば、使用者が椅子に座ったまま移動する場合の移動性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施形態について、
図1から
図8を参照して説明する。
【0039】
図1は、本実施形態に係る椅子1の正面図である。
図2は、椅子1の右側面図である。
図3は、椅子1の平面図である。
図4は、椅子1の底面図である。
図5は、椅子1の背面図である。
図6は、
図1のA−A線における断面図である。
図7は、
図2のB−B線における断面図である。
図8は、
図1のC−C線における断面図である。
【0040】
以下の説明において、椅子1を設置する設置面である床面Fに垂直な方向を、上下方向Dvと適宜称する。また、上下方向Dvに直交し、使用者が椅子1の座に背凭れに背を向けて座った場合に使用者が正面を向く方向に沿った方向を、前後方向Dfと適宜称する。
この場合に使用者の正面側を前方と称し、その反対側を後方と称する。また、上下方向Dvおよび前後方向Dfの両方に直交する方向を、幅方向Dhと適宜称する。
【0041】
図1から
図8に示すように、椅子1は、上方を向く座面11を有する座10と、座10の後端側に設けられた背凭れ20と、座10および背凭れ20を床面Fに対して移動可能に支持する支持構造体30と、を備えている。
【0042】
座10は、座10の骨格を構成する座板12と、座板12の上面に取り付けられた座本体13と、を有している。座板12は、例えば硬質の樹脂から構成されている。座本体13は、座板12の上面に配置され、ウレタンなどから構成されたクッション材(不図示)と、クッション材の表面を覆う張り材と、を有している。
【0043】
背凭れ20は、背凭れ20の骨格を構成するフレーム21と、フレーム21を覆う張り材22と、を有している。フレーム21は、例えば硬質の樹脂から構成されている。
【0044】
図6に示すように、背凭れ20は、連結部材14によって座10の後端部10rに連結されている。連結部材14は、座10の後端部10rに設けられ、座10の幅方向Dhの全体に渡って延びている。連結部材14は、不図示のねじなどによって座板12に固定されている。また、背凭れ20の下端部20bは、連結部材14の上部に配置されている。
連結部材14は、不図示のねじなどによってフレーム21の下端部に固定されている。これによって、背凭れ20は、座10に固定されている。
【0045】
座10には、肘掛け15が一対設けられている。一対の肘掛け15、15は、座10を幅方向Dhから挟むように配置されている。本実施形態では、一対の肘掛け15、15は、連結部材14と一体的に形成されており、連結部材14の幅方向Dhの両端部からそれぞれ前方に延びて設けられている。
【0046】
支持構造体30は、床面Fに接することが可能な前輪31と、前輪31よりも後方に配置され、床面Fに常に接するように設けられた後輪32と、後輪32よりも後方に配置され、床面Fに接することが可能な後部支持部33と、を有している。また、支持構造体30は、支持フレーム35と、前部フレーム(車輪支持部)36と、支持体38(車輪支持部)と、後部フレーム39と、を有している。
図1から
図8では、前輪31および後輪32が床面Fに接し、後部支持部33は床面Fから離れている状態を示している。
【0047】
本実施形態では、後部支持部33は、床面Fに接することが可能な補助車輪34である。また、前輪31、後輪32、および補助車輪34はそれぞれ、幅方向Dhに離間して一対設けられている。前輪31、後輪32、および補助車輪34は、座10に固定された支持フレーム35を介して座10に接続されている。
【0048】
一対の前輪31、31、一対の後輪32、32、および一対の補助車輪34、34はそれぞれ、幅方向Dhに直交する平面に対して対称に構成されているので、以下ではそれらの一方の構成について説明する。また、一対の前輪31、31、一対の後輪32、32、および一対の補助車輪34、34がそれぞれ対向する側を、幅方向Dhの内側と適宜称し、その反対側を幅方向Dhの外側と適宜称する。
【0049】
前輪31は、公知の構成を有するキャスターを用いることができる。前輪31は、上下方向Dvに沿う軸回りに回転可能に前部フレーム36の前端部36fの下面に接続されている。前輪31は、前部フレーム36を介して支持フレーム35に接続されている。
【0050】
後輪32は、略円盤状の車輪本体37と、車輪本体37を回転可能に支持する支持体38と、車輪本体37の幅方向Dhの外側の側面に設けられたカバー部材40と、を有している。後輪32の回転中心となる中心軸O32は、幅方向Dhに略沿って延びており、座10の後端部10rよりも前方に配置されている。後輪32の車軸38aは、支持体38から中心軸O32に沿って幅方向Dhの外側に延びている。車軸38aは、中心軸O32を中心として車輪本体37に形成された中心孔37aに嵌合している。車輪本体37は、中心孔37aに設けられた不図示の軸受によって、車軸38a回り、すなわち中心軸O32回りに回転可能に構成されている。また、後輪32の径方向の寸法は、前輪31の径方向の寸法よりも大きい。
【0051】
支持体38は、前部フレーム36の後端部に一体に形成されている。支持体38は、座10に固定された支持フレーム35に固定されている。よって、車軸38aも、座10に対して固定されている。したがって、後輪32の中心軸O32は座10に対して相対的に固定されており、中心軸O32と座10との相対角度は不変となっている。このため、後輪32は椅子1が前後方向Dfにのみ移動するように回転する。
【0052】
車輪本体37の幅方向Dhの外側の側面には、幅方向Dhの内側に向かって凹む凹部37bが形成されている。凹部37bは、中心軸O32を中心とする略円形の断面を有している。カバー部材40は、凹部37bに嵌合可能な形状を有している。カバー部材40は、凹部37bに嵌合することによって、車輪本体37に保持されている。
【0053】
前部フレーム36は、支持体38から前方に延び、幅方向Dhの外側に向かって湾曲している。これにより、前部フレーム36の前端部36fは、支持体38よりも幅方向Dhにおいて外側に位置している。前輪31は、前部フレーム36の前端部36fの下側に配置されているので、一対の後輪32、32は、幅方向Dhにおいて一対の前輪31、31の間に位置している。より具体的には、一対の後輪32、32において床面Fに接する位置は、幅方向Dhにおいて一対の前輪31、31において床面Fに接する位置の間に配置されている。ここで、一対の前輪31、31の「間」とは、一対の前輪31、31が一対の前輪31、31の進行方向と一対の後輪32、32の進行方向とが略一致するような姿勢をとっている状態において、後輪32の床面Fに接する部分のうち幅方向Dhの最も外側に位置する部分が、前輪31の床面Fに接する部分のうち幅方向Dhの最も外側に位置する部分よりも、幅方向Dhの内側に位置している状態を意味している。
支持体38は、後述する支持フレーム35の第一フレーム35Aの基端部351が挿入される筒状のフレーム挿入部361を有している。このフレーム挿入部361は、前輪31より後方、かつ後輪32よりも前方に形成されている。
上記の前部フレーム36及び支持体38によって、前輪31及び後輪32の車輪本体37を支持する車輪支持部が構成されている。
【0054】
補助車輪34は、公知の構成を有するキャスターを用いることができる。補助車輪34は、上下方向Dvに沿う軸回りに回転可能に後部フレーム39の後端部39rの下面に接続されている。後部フレーム39の前端部39fは、ねじなどによって支持体38に固定されており、後部フレーム39は、支持体38から後方に延びている。これによって、補助車輪34は、後部フレーム39を介して支持フレーム35に接続されている。
【0055】
図2および
図6に示すように、前部フレーム36および後部フレーム39は、幅方向Dhから見た側面視において、前輪31の下端と補助車輪34の下端を結ぶ線分L1が、後輪32の下端よりも上方に配置されるように調整されている。このため、支持構造体30において、前輪31、後輪32、および補助車輪34が同時に平坦な床面Fに接することはなく、前輪31および後輪32のみが床面Fに接するか、または後輪32および補助車輪34のみが床面Fに接する。
【0056】
支持フレーム35は、前部フレーム36及び支持体38と座10とを連結する。支持フレーム35は、第一フレーム35Aと、第二フレーム(前部支持部)35Bと、を有している。
【0057】
図6に示すように、支持フレーム35の第一フレーム35Aは、基端部351と、下部斜行部352と、湾曲部353と、斜行部354と、座連結部355と、を備える。
基端部351は、フレーム挿入部361に挿入されている。これにより、基端部351は、前輪31より後方、かつ後輪32の中心軸O32よりも前方において前部フレーム36及び支持体38に連結されている。
下部斜行部352は、基端部351と斜行部354との間に形成され、基端部351から前方に向かって斜め上方に延びている。
湾曲部353は、下部斜行部352に連続して形成され、上方に向かって後方に湾曲している。
斜行部354は、湾曲部353に連続して形成され、後方に向かって斜め上方に延びている。
座連結部355は、幅方向両側に設けられた第一フレーム35Aの斜行部354の上端部同士を接続し、幅方向Dhに略沿って延びている。この座連結部355は、不図示の固定手段を介して座板12の下面に連結されており、座10を支持している。
【0058】
第二フレーム35Bは、斜行部354において座10との間に上下方向に間隔をあけた位置と座10の前端部との間に設けられている。第二フレーム35Bは、幅方向両側に設けられた第一フレーム35Aの斜行部354から、それぞれ幅方向Dhの中央側に向かって斜め上方に延びている。第二フレーム35Bは、幅方向Dhの中央部が、不図示の固定手段を介して座板12の下面に連結されており、座10を支持している。
【0059】
支持フレーム35によって、座10の座面11は、後輪32よりも上方に配置されている。また、一対の後輪32、32は、幅方向Dhにおいて、座10の幅方向Dhの両端部10e、10eの間に位置している。さらに、一対の後輪32、32は、平面視において一対の後輪32、32の全体が座10に覆われるように配置されている。
【0060】
支持フレーム35、前部フレーム36、支持体38、および後部フレーム39は、例えばアルミニウムなどの金属で構成されている。
【0061】
次に、本実施形態に係る椅子1の動作について説明する。
【0062】
椅子1自体の重心は、後輪32の中心軸O32よりも後方に位置している。このため、使用者が椅子1に座る前は、椅子1において後輪32および補助車輪34が床面Fに接しており、前輪31は床面Fから上方に離れている。使用者が椅子1の座10に座ると、重心が前方へ移動し、
図1から
図8に示すように前輪31および後輪32が床面Fに接し、補助車輪34が床面Fから上方に離れた状態になる。
【0063】
使用者が椅子1に座ったまま前方に移動する場合は、上述したように使用者は足を前方に向けて床面Fに着けて折り曲げ、椅子1を前方に引き寄せる。ここで、椅子1において、一対の後輪32、32は幅方向Dhにおいて一対の前輪31、31の間に位置していることから、一対の前輪31、31の幅方向Dhの間隔を一対の後輪32、32よりも大きくなっている。このため、一対の前輪31、31の間に使用者の足を配置する十分なスペースが確保されるので、上記の動作の際に使用者の足が前輪31に接触しにくい。また、後輪32は、椅子1が前後方向Dfにのみ移動するように中心軸O32が固定されているので、椅子1の前方への直進を容易に行うことができる。
【0064】
また、使用者が椅子1に座ったまま前方に対して側方に傾いた方向に移動する場合は、使用者は足をその方向に向けて床面Fに着けて折り曲げ、椅子1をその方向に向くように回転させつつその方向に引き寄せる。このとき、使用者は、自身の臀部から腰部の近傍を通り上下に延びる軸を中心として身体を捻るような動作を行う。ここで、本実施形態に係る椅子1では、後輪32の中心軸O32は座10の後端部10rよりも前方に配置され、さらに、平面視において一対の後輪32、32の全体が座10に覆われるように配置されている。これにより、後輪32は使用者の臀部から腰部の近くに配置されるので、上述した使用者の動作に対する後輪32の追従性が高くなる。後輪32は、この使用者の動作に追従して床面F上を擦るように移動して座10および背凭れ20とともに向きを変え、足先の方向へ向かって直進する。
【0065】
なお、後輪32の中心軸O32が座10の後端部10rよりも前方に配置されているので、椅子1が後方に傾いて倒れやすくなる可能性が考えられる。しかしながら、本実施形態に係る椅子1では、後輪32の後方に後部支持部33である補助車輪34が設けられているので、補助車輪34によって椅子1が後方に倒れることが防止されている。
【0066】
本実施形態によれば、椅子1は、上方を向く座面11を有する座10と、座10の後端側に設けられた背凭れ20と、座10および背凭れ20を床面Fに対して移動可能に支持する支持構造体30と、を備える。支持構造体30は、床面Fに接することが可能な前輪31と、前輪31よりも後方に配置され、床面Fに常に接するように設けられた後輪32と、後輪32よりも後方に配置され、床面Fに接することが可能な後部支持部33と、を有する。前輪31および後輪32は、幅方向Dhに離間して一対設けられている。後輪32の中心軸O32は、座10の後端部10rよりも前方に配置されている。幅方向Dhから見た側面視において、前輪31の下端と後部支持部33の下端とを結ぶ線分L1は、後輪32の下端よりも上方に配置されている。
【0067】
上述した構成によれば、後輪32の中心軸O32は、座10の後端部10rよりも前方に配置されているので、前後方向Dfにおける後輪32の中心軸O32の位置は、椅子1に座った状態の使用者の臀部から腰部の近傍に近くなる。よって、使用者の身体動作の軸とその動作に追従する後輪32との距離がより短くなるので、使用者の動作に後輪32がより追従しやすくなり、椅子1の移動性を向上させることができる。加えて、後輪32よりも後方には後部支持部33が配置されているので、椅子1が後方に傾いた場合でも後部支持部33が床面Fに接することによって、椅子1の転倒を防止することができる。
【0068】
また、一対の後輪32、32は、幅方向Dhにおいて一対の前輪31、31の間に位置している。このため、一対の前輪31、31の幅方向Dhの間隔を一対の後輪32、32のものよりも大きくすることができる。これにより、一対の前輪31、31の間に使用者の足を配置する十分なスペースを確保することができるので、使用者が椅子1に座ったまま移動する際に動かす足に前輪31を接触しにくくすることができ、椅子1の移動性をより向上させることができる。
【0069】
また、後部支持部33は、床面Fに接することが可能な補助車輪34である。このため、椅子1が後方に傾いて後部支持部33が床面Fに接した状態でも、後輪32と補助車輪34とによって椅子1を移動させることができる。よって、椅子1の移動性をより向上させることができる。
【0070】
また、後輪32の中心軸O32は、幅方向Dhに略沿って延びており、後輪32の中心軸O32と座10との相対角度は不変である。このため、後輪32は椅子1が前後方向Dfにのみ移動するように回転する。よって、椅子1を直進させやすくするとともに、向きを変えて移動する場合の方向付けをより確実に行うことができる。したがって、椅子1の移動性をより向上させることができる。
【0071】
また、座面11は、後輪32よりも上方に配置されている。このため、座面11に座る使用者の腕や衣服などが後輪32に接触しにくくすることができる。
【0072】
また、後輪32は、幅方向Dhにおいて座10の幅方向Dhの両端部10e、10eの間に位置している。よって、後輪は幅方向において椅子に座った状態の使用者の臀部から腰部の近傍のより近くに配置されるので、使用者の身体動作の軸とその動作に追従する後輪32との距離がより短くなる。このため、使用者の動作に後輪32がより追従しやすくなり、椅子1の移動性をより向上させることができる。
【0073】
また、後輪32は、平面視において後輪32の全体が座10に覆われるように配置されている。このため、後輪32は使用者が座る座10の真下に配置される。よって、後輪32は椅子1に座った状態の使用者の臀部から腰部の近傍のより近くに配置されるので、使用者の身体動作の軸とその動作に追従する後輪32との距離がより短くなる。このため、使用者の動作に後輪32がより追従しやすくなり、椅子1の移動性をより向上させることができる。
【0074】
また、後輪32の径方向の寸法は、前輪31の径方向の寸法よりも大きい。前輪31よりも後輪32に荷重がかかりやすいので、後輪32の径方向の寸法を前輪31の径方向の寸法よりも大きくすることで、椅子1の安定性を高めることができる。
【0075】
また、支持フレーム35の第一フレーム35Aは、前輪31より後方、かつ後輪32の中心軸O32よりも前方で前部フレーム36に連結された基端部351と、後方に向かって斜め上方に延びる斜行部354と、斜行部354の上端部に形成され、座10に連結される座連結部355と、を備えている。このように、支持フレーム35の斜行部354は、後方に向かって斜め上方に延びているので、使用者が座10に着座した状態で、椅子1を前方に移動させようとしたときに座10に入力される力の分力が、斜行部354を介して前部フレーム36に伝達される。この分力は、前輪31及び後輪32の車輪本体37を支持する前部フレーム36及び支持体38に対し、前輪31と後輪32の中心軸O32との間のフレーム挿入部361を介し、斜め上方から斜め下方に向かって作用するため、前部フレーム36が下方に押さえられつつ、前方に押圧される。これによって、椅子1の移動性をより向上させることができる。
また、使用者が座10に着座した状態で鉛直方向下方への荷重が、斜行部354を介して前方に向かって斜め下方に向かう分力となる。これによって、鉛直方向下方への荷重の成分が小さくなるので、幅方向Dhの両側の支持フレーム35,35同士を離間させようとするモーメントが小さくなる。
【0076】
また、第一フレーム35Aは、基端部351と斜行部354との間に、基端部351から前方に向かって斜め上方に延びる下部斜行部352と、下部斜行部352に連続して形成され、後方に湾曲して斜行部354に連続する湾曲部353と、を備えている。
このように、前方に向かって斜め上方に延びる下部斜行部352を設け、下部斜行部352と斜行部354とを湾曲部353を介して連続させることで、座10に座った使用者による鉛直荷重によって、前部フレーム36を斜め前方から引っ張るような力が作用する。これによって、椅子1の移動性をより向上させることができる。
【0077】
また、支持フレーム35は、斜行部354において座10との間に上下方向に間隔をあけた位置と座10の前端部との間に設けられた第二フレーム35Bをさらに備えている。これにより、座10を、斜行部354の上端部と第二フレーム35Bとで安定的に支持することができる。また、椅子1を前方に移動させようとしたときに座10に入力される力が、座10の前端部側から第二フレーム35Bを介して斜行部354に効率良く伝達される。これによって、椅子1の移動性をより向上させることができる。
【0078】
また、前部フレーム36は、支持フレーム35の基端部351が挿入される筒状のフレーム挿入部361を有している。このように構成することで、椅子1の組立の際には支持フレーム35の基端部351を前部フレーム36のフレーム挿入部361に挿入すれば良く、組立作業を容易に行うことができる。
【0079】
また、前輪31、後輪32、前部フレーム36、及び支持フレーム35は、座10の幅方向に間隔をあけて一対が設けられている。このように構成することで、座10の下方に、使用者の下肢等を入れることのできる空間を形成することができる。
【0080】
なお、本実施形態では、前輪31および後輪32はともに、幅方向Dhに離間して一対設けられているとしたが、これに限らない。前輪31および後輪32の少なくとも一方が、幅方向Dhに離間して一対設けられていればよい。また、前輪31および後輪32は、一対以上設けられていてもよい。例えば、一対の後輪32、32の間に、3輪目の後輪がさらに設けられていてもよい。
【0081】
また、支持構造体30は、幅方向Dhから見た側面視において、前輪31および後輪32の共通接線のうち前輪31および後輪32の下方に配置される共通接線に直交し椅子1の重心を通る直線が、後輪32の中心軸O32と略交差するように構成されていてもよい。言い換えると、
図2および
図6に示す、前輪31および後輪32の下方に配置される共通接線L2(
図2および
図6では床面Fに一致する)に直交し、後輪32の中心軸O32を通る直線L3上に、椅子1の重心が配置されていてもよい。このように構成することで、使用者の動作への後輪32の追従性をさらに高くすることができ、椅子1の移動性をさらに向上させることができる。
【0082】
後輪32の中心軸O32は、座10の後端部10rよりも前方に配置されているとしたが、座10の後端部10rよりも背凭れ20の後端部20rの方が後方に配置されている場合には、少なくとも背凭れ20の後端部20rよりも前方に配置されていればよい。すなわち、後輪32の中心軸O32は、座10の後端部10rおよび背凭れ20の後端部20rのうちの後方に配置されているものよりも前方に配置されていればよい。
【0083】
また、後輪32の中心軸O32は、幅方向Dhに略沿って延びているとしたが、これは、後輪32の中心軸O32が、椅子1を前後方向Dfに移動させるのに支障のない範囲で幅方向Dhに対して傾いている場合も含む。
【0084】
一対の前輪31、31と一対の後輪32、32との幅方向Dhにおける位置関係は、上述したものに限られず、以下に示す態様であってもよい。例えば、後輪32の床面Fに接する部分のうち幅方向Dhの最も外側に位置する部分が、前輪31の床面Fに接する部分のうち幅方向Dhの最も内側に位置する部分よりも、幅方向Dhの内側に位置していてもよい。また、前輪31の幅方向Dhの内側の側面よりも、後輪32の幅方向Dhの内側の側面は幅方向Dhの外側に位置していてもよい。なお、この場合に、前輪31の幅方向Dhの寸法を後輪32の幅方向Dhの寸法よりも大きくし、後輪32の幅方向Dhの外側の側面が前輪31の幅方向Dhの外側の側面よりも幅方向Dhの内側に位置しているようにしてもよい。さらに、後輪32の床面Fに接する部分のうち幅方向Dhの最も外側に位置する部分が、前輪31の床面Fに接する部分のうち幅方向Dhの最も外側に位置する部分よりも幅方向Dhの内側に位置している状態で、後輪32の床面Fに接する部分よりも上方の部分、例えば車輪本体37の上下方向Dvの中央部分やカバー部材40など、において幅方向Dhの最も外側の部分は、前輪31の床面Fに接する部分のうち幅方向Dhの最も外側に位置する部分よりも幅方向Dhの外側に位置していてもよい。例えば、車輪本体37の上下方向Dvの中央部分やカバー部材40の幅方向Dhの寸法を大きくすることによって、車輪本体37の上下方向Dvの中央部分やカバー部材40のうち幅方向Dhの最も外側の部分が、前輪31の床面Fに接する部分のうち幅方向Dhの最も外側に位置する部分よりも幅方向Dhの外側に位置していてもよい。
【0085】
後部支持部33は、補助車輪34であるとしたが、これに限らない。後部支持部33は、床面Fに接することが可能な構成を有していれば、車輪でなくてもよい。
【0086】
座10および背凭れ20の構造は、上述したものに限られず、公知の構造を適宜適用することができる。また、座10と背凭れ20とは、直接的に互いに連結されていなくてもよい。座10には一対の肘掛け15が設けられていたが、座10に肘掛けが設けられていなくてもよい。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。