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特許6963311ナノシート積層型分離膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963311
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】ナノシート積層型分離膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20211028BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20211028BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D69/10
   B01D69/12
【請求項の数】21
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-535638(P2018-535638)
(86)(22)【出願日】2017年8月18日
(86)【国際出願番号】JP2017029627
(87)【国際公開番号】WO2018038013
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2020年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-162235(P2016-162235)
(32)【優先日】2016年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 敬三
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋令
(72)【発明者】
【氏名】新谷 卓司
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 朋久
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−056390(JP,A)
【文献】 特開2013−075264(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0258506(US,A1)
【文献】 特開平01−262902(JP,A)
【文献】 特開2015−187066(JP,A)
【文献】 特開2014−144448(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/038524(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/016478(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103585896(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102872728(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0157570(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0354729(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有し、
前記金属酸化物ナノシート積層体は前記支持基材上に金属酸化物ナノシートが積層したものであり、少なくとも前記金属酸化物ナノシート間に前記アルカノールアミンが存在していることを特徴とする分離膜。
【請求項2】
前記支持基材が、少なくとも表面に水酸基を有し、且つ、当該水酸基を介してイオン性基を有するシランカップリング剤が結合しているものである請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記アルカノールアミンがトリアルカノールアミンである請求項1または2に記載の分離膜。
【請求項4】
前記金属酸化物ナノシートが、ニオブ酸化物、チタン酸化物、マンガン酸化物、ジルコニウム酸化物、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、コバルト酸化物、鉄酸化物、タンタル酸化物、亜鉛酸化物、ゲルマニウム酸化物、ルテニウム酸化物、および複合金属酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物から構成される請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項5】
前記支持基材が、有機材料または無機材料から構成される請求項1〜4のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項6】
前記支持基材がセルロースから構成される請求項1〜5のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項7】
前記支持基材が、フィルターろ材、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、または逆浸透膜である請求項1〜6のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項8】
前記金属酸化物ナノシート積層体が、さらにカチオンを有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項9】
前記カチオンが、プロトン、金属イオン、アンモニウムイオン、およびカチオン性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項8に記載の分離膜。
【請求項10】
(1)金属アルコキシド化合物をアルカノールアミンの存在下で反応させて、金属酸化物ナノシートを生成させ、金属酸化物ナノシート分散液を得る工程と、
(2)前記金属酸化物ナノシート分散液を支持基材でろ過し、金属酸化物ナノシートを支持基材に積層させて、支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有する分離膜を形成する工程とを備えることを特徴とする分離膜の製造方法。
【請求項11】
さらに、(3)前記支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有する分離膜、およびカチオンとを接触させて、前記金属酸化物ナノシート積層体の層間距離を変える工程を備える請求項10に記載の分離膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の分離膜に被処理水を透過させる工程を含むことを特徴とする水処理方法。
【請求項13】
支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有し、前記金属酸化物ナノシート積層体は前記支持基材上に金属酸化物ナノシートが積層したものであり、少なくとも前記金属酸化物ナノシート間に前記アルカノールアミンが存在している膜の分離膜としての使用。
【請求項14】
前記支持基材が、少なくとも表面に水酸基を有し、且つ、当該水酸基を介してイオン性基を有するシランカップリング剤が結合しているものである請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記アルカノールアミンがトリアルカノールアミンである請求項13または14に記載の使用。
【請求項16】
前記金属酸化物ナノシートが、ニオブ酸化物、チタン酸化物、マンガン酸化物、ジルコニウム酸化物、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、コバルト酸化物、鉄酸化物、タンタル酸化物、亜鉛酸化物、ゲルマニウム酸化物、ルテニウム酸化物、および複合金属酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物から構成される請求項13〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記支持基材が、有機材料または無機材料から構成される請求項13〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記支持基材がセルロースから構成される請求項13〜17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記支持基材が、フィルターろ材、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、または逆浸透膜である請求項13〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記金属酸化物ナノシート積層体が、さらにカチオンを有する請求項13〜19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記カチオンが、プロトン、金属イオン、アンモニウムイオン、およびカチオン性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項20に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物ナノシートが積層された分離膜とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機材料や無機材料からなる様々な分離膜が知られており、その適用範囲は多種多様にわたっている。近年では、シート状の無機化合物やシート状の炭素材料から形成された分離膜も提案されており、例えば特許文献1には、層状無機化合物の分散体を成膜した分離膜が開示され、非特許文献1には、酸化グラフェンを積層させた分離膜が開示され、非特許文献2には、シート状のMoS2を積層させた分離膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/038524号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H.Huang et al., Chem. Commun., 2013, vol.49, p.5963
【非特許文献2】L.Sun et al., Chem. Commun., 2013, vol.49, p.10718
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように従来様々な分離膜が提案されており、その適用範囲も広がる中で、各用途に応じた所望の性能を有する新規な分離膜が求められている。本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属酸化物ナノシートの積層体から構成された新規の分離膜とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、金属酸化物ナノシートとアルカノールアミンとを組み合わせれば、金属酸化物ナノシートどうしの密着性が高められ、支持基材上にシート間距離の短いナノシート積層体が形成され、かかる積層体が分離膜として極めて有用であることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0007】
[1] 支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有することを特徴とする分離膜。
【0008】
[2] 前記金属酸化物ナノシート積層体は前記支持基材上に金属酸化物ナノシートが積層したものであり、少なくとも前記金属酸化物ナノシート間に前記アルカノールアミンが存在している上記[1]に記載の分離膜。
【0009】
[3] 前記支持基材が、少なくとも表面に水酸基を有し、且つ、当該水酸基を介してイオン性基を有するシランカップリング剤が結合しているものである上記[1]または[2]に記載の分離膜。
【0010】
[4] 前記アルカノールアミンがトリアルカノールアミンである上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の分離膜。
【0011】
[5] 前記金属酸化物ナノシートが、ニオブ酸化物、チタン酸化物、マンガン酸化物、ジルコニウム酸化物、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、コバルト酸化物、鉄酸化物、タンタル酸化物、亜鉛酸化物、ゲルマニウム酸化物、ルテニウム酸化物、および複合金属酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物から構成される上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の分離膜。
【0012】
[6] 前記支持基材が、有機材料または無機材料から構成される上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の分離膜。
【0013】
[7] 前記支持基材がセルロースから構成される上記[1]〜[6]のいずれか一項に記載の分離膜。
【0014】
[8] 前記支持基材が、フィルターろ材、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、または逆浸透膜である上記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の分離膜。
【0015】
[9] さらにカチオンを有する上記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の分離膜。
【0016】
[10] 前記カチオンが、プロトン、金属イオン、アンモニウムイオン、およびカチオン性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[9]に記載の分離膜。
【0017】
[11] (1)金属アルコキシド化合物をアルカノールアミンの存在下で反応させて、金属酸化物ナノシートを生成する工程と、
(2)前記金属酸化物ナノシートを支持基材に積層させて、支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有する分離膜を形成する工程とを備えることを特徴とする分離膜の製造方法。
【0018】
[12] さらに、(3)前記支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有する分離膜、およびカチオンとを接触させて、前記金属酸化物ナノシート積層体の層間距離を変える工程を備える上記[11]に記載の分離膜の製造方法。
【0019】
[13] 上記[1]〜[10]のいずれか一項に記載の分離膜に被処理水を透過させる工程を含むことを特徴とする水処理方法。
【0020】
[14] 支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有する膜の分離膜としての使用。
【0021】
[15] 前記金属酸化物ナノシート積層体は前記支持基材上に金属酸化物ナノシートが積層したものであり、少なくとも前記金属酸化物ナノシート間に前記アルカノールアミンが存在している上記[14]に記載の使用。
【0022】
[16] 前記支持基材が、少なくとも表面に水酸基を有し、且つ、当該水酸基を介してイオン性基を有するシランカップリング剤が結合しているものである上記[14]または[15]に記載の使用。
【0023】
[17] 前記アルカノールアミンがトリアルカノールアミンである上記[14]〜[16]のいずれか一項に記載の使用。
【0024】
[18] 前記金属酸化物ナノシートが、ニオブ酸化物、チタン酸化物、マンガン酸化物、ジルコニウム酸化物、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、コバルト酸化物、鉄酸化物、タンタル酸化物、亜鉛酸化物、ゲルマニウム酸化物、ルテニウム酸化物、および複合金属酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物から構成される上記[14]〜[17]のいずれか一項に記載の使用。
【0025】
[19] 前記支持基材が、有機材料または無機材料から構成される上記[14]〜[18]のいずれか一項に記載の使用。
【0026】
[20] 前記支持基材がセルロースから構成される上記[14]〜[19]のいずれか一項に記載の使用。
【0027】
[21] 前記支持基材が、フィルターろ材、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、または逆浸透膜である上記[14]〜[20]のいずれか一項に記載の使用。
【0028】
[22] さらにカチオンを有する上記[14]〜[21]のいずれか一項に記載の使用。
【0029】
[23] 前記カチオンが、プロトン、金属イオン、アンモニウムイオン、およびカチオン性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[22]に記載の使用。
【発明の効果】
【0030】
本発明の分離膜は、支持基材と金属酸化物ナノシート積層体を有し、アルカノールアミンによって金属酸化物ナノシートどうしの密着性が高められるため、金属酸化物ナノシートの積層によって形成される細孔が非常に微細なものとなる。そのため、本発明の分離膜は、厚みが薄くても分離性能に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の分離膜の構成を模式的に表した斜視図を表す。
図2】本発明の分離膜において水の透過する様子を模式的に表した図を表す。
図3】従来のナノシート分離膜において水の透過する様子を模式的に表した図を表す。
図4】実施例で作製した分離膜の断面SEM画像を表す。
図5】実施例で作製した分離膜のATR法によるFT−IR測定結果を表す。
図6】実施例で作製した分離膜の透水試験結果を表すグラフであり、金属酸化物ナノシート積層体の厚みの影響を検討した結果を表す。
図7】実施例で作製した分離膜のPEG阻止率の結果を表すグラフであり、金属酸化物ナノシート積層体の厚みの影響を検討した結果を表す。
図8】実施例で作製した分離膜の透水試験結果を表すグラフであり、金属酸化物ナノシート積層体の種類の影響を検討した結果を表す。
図9】実施例で作製した分離膜のPEG阻止率の結果を表すグラフであり、金属酸化物ナノシート積層体の種類の影響を検討した結果を表す。
図10】実施例で作製した分離膜のX線回折測定結果を表す。
図11】本発明の分離膜と酸化グラフェン分離膜を水に浸漬した前後の外観写真である。
図12】本発明の分離膜と酸化グラフェン分離膜を水に浸漬した前後のX線回折測定結果と層間距離である。
図13】本発明の分離膜における金属酸化物ナノシート積層体の膜厚と、透水速度およびPEG阻止率との関係を示すグラフ(1)と、本発明の分離膜における金属酸化物ナノシート積層体の膜厚とPEGの分子量とPEG阻止率との関係を示すグラフ(2)である。
図14】追加ろ過時間を違えて作製した本発明の分離膜における金属酸化物ナノシート積層体の回折角2θ(1)と、透水速度およびPEG阻止率を示すグラフ(2)である。
図15】様々な溶質に対する本発明の分離膜の阻止率(1)と、pHと塩化ナトリウム阻止率またはニオブ酸ナノシートのゼータ電位との関係を示すグラフ(2)である。
図16】本発明に係る分離膜と、アルカノールアミンの代わりに第四級アンモニウム塩を含む分離膜との間で、透水速度を比較するためのグラフ(1)と、様々な分子質量のPEGに対する阻止率を比較するためのグラフ(2)である。
図17】トリエタノールアミンを含む分離膜と、トリイソプロパノールアミンを含む分離膜との間で、透水速度を比較するためのグラフ(1)と、硫酸ナトリウムに対する阻止率を比較するためのグラフ(2)と、様々な分子質量のPEGに対する阻止率を比較するためのグラフ(3)である。
図18】本発明の分離膜と酸化グラフェン分離膜との間で、透水速度と溶質阻止率を比較するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、金属酸化物ナノシートの積層体を有する分離膜に関するものである。金属酸化物ナノシートは、金属原子と酸素原子が結合して平面状に広がった結晶構造を有しており、10分の数ナノメートルから数ナノメートルという非常に薄いシート状に形成することができる。そのため、金属酸化物ナノシートを積層させて、その積層体を分離膜として構成することにより、非常に小さな細孔を有し、高度に分離性能が制御された分離膜を得ることができる。本発明の分離膜は、固液分離、分子篩、気固分離等に使用することができる。
【0033】
本発明の分離膜は、支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有する。支持基材は、金属酸化物ナノシート積層体の支持層として機能する。金属酸化物ナノシート積層体は、支持基材上に設けられ、分離層として機能する。
【0034】
支持基材は、金属酸化物ナノシート積層体を支持できるものであれば特に限定なく用いることができ、例えば、金属メッシュ、ろ紙、織布、不織布等のフィルターろ材、あるいは、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜等の一般的な分離膜を用いることができる。支持基材は、被処理液の透過の点から多孔質であることが好ましく、支持基材を構成する多孔質材料の各孔径としては1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。また、金属酸化物ナノシートを安定に積層する点から、上記孔径としては1μm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。また、支持基材の厚さは特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば50μm以上、500μm以下とすることができる。当該厚さが50μm以上であれば、十分な強度を有するといえ、500μm以下であれば、取扱性も十分確保することができる。支持基材の平面形状は、本発明に係る分離膜の実施態様に応じて適宜決定すればよい。
【0035】
支持基材の材質としては、例えば、無機材料、有機材料等が挙げられる。無機材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、チタニア、ジルコニア等のセラミック材料;鉄鋼、ステンレス鋼等の金属材料等が挙げられる。セラミック材料は複合酸化物であってもよい。有機材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;PET等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド;ビスフェノールAから製造されるポリカーボネート;ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン等のポリスルホン;ポリ塩化ビニル;アクリル樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;綿、羊毛、絹などの天然繊維;セルロース、セルロースアセテート、ニトロセルロース、セルロース混合エステルなどのセルロース類;レーヨン等の再生繊維等の高分子材料等が挙げられる。支持基材は、これらの材料を組み合わせて構成してもよい。また、支持基材の材質としては、後述するシランカップリング剤による処理のため、表面に水酸基を有するものが好ましい。表面に水酸基を有する材質としては、セラミック材料、天然繊維、セルロース類、再生繊維を挙げることができる。
【0036】
本発明の金属酸化物ナノシートを構成する金属酸化物は、少なくとも金属原子と酸素原子を含む結晶構造を有するものをいい、当該結晶構造が平面状に広がってシートを形成する。例えばニオブ酸化物は、ニオブ原子と酸素原子とを含む結晶構造を有する。本発明の金属酸化物ナノシートは、例えば、ニオブ酸化物、チタン酸化物、マンガン酸化物、ジルコニウム酸化物、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、コバルト酸化物、鉄酸化物、タンタル酸化物、亜鉛酸化物、ゲルマニウム酸化物、ルテニウム酸化物、および複合金属酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物から構成されることが好ましい。複合金属酸化物としては、2種以上の上記金属酸化物の複合金属酸化物や、ペロブスカイトを挙げることができる。金属酸化物としては、例えば、金属酸を挙げることができる。金属酸としては、例えば、ニオブ酸(NbO3-)、オルトチタン酸(TiO44-)、メタチタン酸(TiO32-)、マンガン酸(MnO42-)、ジルコニウム酸(ZrO32-)、タングステン酸(WO42-)、モリブデン酸(MoO42-)、コバルト酸(CoO2-)、鉄酸(FeO42-)、タンタル酸(TaO3-)、亜鉛酸(ZnO22-)、ゲルマニウム酸(GeO32-)、ルテニウム酸(RuO42-)、および過ルテニウム酸(RuO4-)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸を挙げることができる。金属酸化物ナノシートを構成する金属原子は1種類のみであっても2種類以上であってもよい。中でも、金属酸化物ナノシートの製造が容易な点から、金属酸化物ナノシートは、ニオブ酸化物および/またはチタン酸化物から構成されることが好ましい。この際、ニオブ酸化物および/またはチタン酸化物は金属酸化物ナノシートの主成分として含まれていることが好ましく、具体的には、金属酸化物ナノシートを構成する金属原子の60モル%以上がニオブおよび/またはチタンであることが好ましく、75モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。もちろん、金属酸化物ナノシートを構成する金属原子の全てがニオブおよび/またはチタンであってもよい。
【0037】
金属酸化物ナノシートの1層の厚みは、通常0.5nm以上、1.5nm以下程度となる。金属酸化物ナノシートの長さは、例えば、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。金属酸化物ナノシートの長さの上限は特に限定されないが、例えば1μm以下であればよい。金属酸化物ナノシートの厚みと長さは、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡等により測定することができる。
【0038】
金属酸化物ナノシートは複数積み重ねられて、金属酸化物ナノシート積層体が形成される。図1には、本発明の分離膜の構成を模式的に表した斜視図を示すが、金属酸化物ナノシート積層体は支持基材に積層されて構成され、その際、金属酸化物ナノシートが支持基材の平面方向に間隔をあけて配置され、層状に積み重ねられることにより、金属酸化物ナノシート積層体の一方の面から他方の面にかけて金属酸化物ナノシート間の隙間が繋がって形成され、分離膜の細孔が形成されると考えられる。なお本発明の分離膜は、後述するようにアルカノールアミンを有しており、アルカノールアミンを配合することによって金属酸化物ナノシートどうしの密着性が高められた分離膜が得られる。
【0039】
金属酸化物ナノシート積層体の厚みは特に限定されず、所望の分画分離性能と透水性能が発揮されるように適宜設定すればよい。なお上記に説明したように、金属酸化物ナノシートの1層の厚みは非常に薄いものであるため、本発明の分離膜では、金属酸化物ナノシート積層体の厚みを薄く形成しつつ、所望の分画分離性能を発揮させることが可能となる。金属酸化物ナノシート積層体の厚みは、例えば、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、また1μm以下、800nm以下または600nm以下が好ましく、400nm以下、200nm以下または100nm以下がより好ましい。金属酸化物ナノシート積層体の厚さは、例えば、本発明の分離膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で拡大観察し、拡大写真の両端部および中央部の3箇所で積層体の厚さを測定し、その平均値とする。
【0040】
金属酸化物ナノシート積層体は、金属原子と酸素原子に加えてカチオンを有することが好ましい。ニオブ酸やチタン酸などの金属酸化物ナノシートは一般にアニオン性であるため、金属酸化物ナノシート積層体が対カチオンを有することによって、金属酸化物ナノシート積層体の安定性が高まる。カチオンは、金属酸化物の結晶構造の一部を構成するものであってもよいし、一般の層状化合物のように、金属酸化物ナノシート積層体の層間に配されていてもよい。金属酸化物ナノシート積層体は、カチオンの種類を適宜選択することにより、金属酸化物ナノシートどうしの近接状態を維持したまま、その層間距離を変えることができ、それにより得られる分離膜の公称孔径を変えることができる。本開示における公称孔径とは、分離性能を示す孔の径をいうものとする。
【0041】
金属酸化物ナノシート積層体の有するカチオンとしては、プロトン、金属イオン、アンモニウムイオン、カチオン性ポリマー、その他のカチオン性化合物が挙げられる。例えば、カチオンがアンモニウムイオンである場合は、後述する製造方法により金属酸化物ナノシートを製造する際に、金属アルコキシド化合物の加水分解および脱水縮合反応の制御のためにアンモニアを使用することが好ましいことから、カチオンを有する金属酸化物ナノシート積層体の製造が容易になる点で好ましい。また、カチオンがアンモニウムイオンであれば、金属酸化物ナノシート積層体の層間距離をより狭く形成することが可能となる。
【0042】
一方、金属酸化物ナノシート積層体の有するカチオンが、金属イオンやカチオン性ポリマーであれば、金属酸化物ナノシート積層体の層間距離をより広く形成することが可能となる。この場合、金属イオンやカチオン性ポリマーは、金属酸化物ナノシート積層体における層間のバインダーとして作用すると考えられる。
【0043】
カチオン性ポリマーは、カチオン性基を有するポリマーであれば特に限定されない。カチオン性基としては、例えば、アミノ基、アンモニウム塩基、イミノ基等が挙げられる。ポリマーの主鎖の構造も特に限定されない。カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)、ポリリジン、キトサン等を使用できる。
【0044】
金属イオンとしては特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等の第1族元素の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、バリウム等の第2族元素の金属イオン;ニッケル、プラチナ等の遷移金属のイオン;亜鉛、カドミウム等の第12族元素の金属イオン;アルミニウム、ガリウム、インジウム等の第13族元素の金属イオン;ゲルマニウム、スズ等の第14族元素の金属イオン;アンチモン、ビスマス等の第15族元素の金属イオン;テルル等の第16族元素の金属イオンなどが挙げられる。本発明の金属酸化物ナノシートを構成する金属原子および酸素原子以外のカチオンとしては、プロトン;リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン;カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンが好ましい。金属酸化物ナノシートを構成するカチオンは1種類のみであっても2種類以上であってもよい。
【0045】
金属酸化物ナノシートの層間距離はX線回折により測定することができ、例えば、トリエタノールアミンとアンモニウムイオンが配されたニオブ酸ナノシート積層体では、その層間距離が1.01nmであったのに対し、トリエタノールアミンとポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)が配されたニオブ酸ナノシート積層体では層間距離が2.05nmとなり、トリエタノールアミンとアルミニウムイオンが配されたニオブ酸ナノシート積層体では層間距離が1.19nmとなった。このように、本発明の分離膜は、アルカノールアミンやカチオンの種類を適宜選択することにより、金属酸化物ナノシートの層間距離を、例えば0.5nm以上、5.0nm以下の範囲に調整することができる。
【0046】
アルカノールアミンは三級アミノ基および水酸基を有し、以下の通り、当該三級アミンが金属酸化物ナノシート中の金属イオンまたは水酸基と相互作用し、また、当該水酸基が金属酸化物ナノシートの水酸基と水素結合すると考えられる。アルカノールアミン中の水酸基どうしが水素結合することもある。なお、以下ではニオブ酸で構成されているナノシートとトリエタノールアミン(TEOA)との相互作用を代表的に示している。
【0047】
【化1】
【0048】
従来、分離膜として利用されている酸化グラフェンは、層間に水が浸入して膨潤し、基材から剥離してしまうという問題がある。一方、上述したように本発明の分離膜では金属酸化物ナノシート上または金属酸化物ナノシートの層間にアルカノールアミンが配されていることにより、積層された金属酸化物ナノシートの層間距離を狭く形成することができる。金属酸化物ナノシート積層体のような層状化合物では、層間に配する分子の種類によっては、層間距離を広げるように作用するものも知られているが、本発明者らが検討したところ、アルカノールアミンを配合して金属酸化物ナノシートを調製し、これを積層して金属酸化物ナノシート積層体を形成することにより、金属酸化物ナノシートどうしの密着性が高められた金属酸化物ナノシート積層体が得られることが明らかになった。アルカノールアミンは、金属酸化物ナノシートに配位結合していると考えられ、例えば、金属酸化物ナノシートの表面に存在する水酸基と水素結合したり、金属酸化物ナノシートに配位したアルカノールアミンと水素結合することなどにより、隣接する金属酸化物ナノシートどうしを繋ぐバインダーとして機能しているものと推測される。そのため、金属酸化物ナノシートが積層することにより得られる分離膜は、その層間距離に応じて形成される細孔も非常に微細なものとなる。また、金属酸化物ナノシートどうしの結合は強固である。よって、本発明の分離膜は、酸化グラフェン分離膜のように水で膨潤することはなく、優れた安定性を示し、例えば限外ろ過膜やナノろ過膜に相当する分離性能を示すものとなる。
【0049】
アルカノールアミンは、窒素原子にヒドロキシアルキル基が結合したものであれば特に限定されず、ヒドロキシアルキル基は窒素原子に1つのみ結合していてもよく、2つ結合していてもよく、3つ結合していてもよい。アルカノールアミンとしては、例えば下記式(1)で表されるアミンを用いることができる。下記式(1)において、R1はヒドロキシアルキル基を表し、R2およびR3はそれぞれ独立してヒドロキシアルキル基、アルキル基または水素原子を表す。
NR123 (1)
【0050】
アルカノールアミンの有するヒドロキシアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状が好ましく、直鎖状がより好ましく、またその炭素数は1以上、6以下が好ましく、1以上、4以下がより好ましく、1以上、3以下がさらに好ましい。このようなアルカノールアミンを用いることにより、金属酸化物ナノシートの層間距離を狭く形成することが容易になる。なお、窒素原子にヒドロキシアルキル基が2つまたは3つ結合したジまたはトリアルカノールアミンを用いる場合は、複数のヒドロキシアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。また、ヒドロキシアルキル基のヒドロキシ基は、アルキル基の末端、即ち窒素原子から最も遠い側に結合していることが好ましい。
【0051】
アルカノールアミンがアルキル基を有する場合は、当該アルキル基は直鎖状または分岐鎖状が好ましく、直鎖状がより好ましく、またその炭素数は1以上、6以下が好ましく、1以上、4以下がより好ましく、1以上、3以下がさらに好ましい。
【0052】
アルカノールアミンとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン等のモノアルカノールアミン;ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、2−[(ヒドロキシメチル)アミノ]エタノール等のジアルカノールアミン;トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、2−[ジ(ヒドロキシメチル)アミノ]エタノール等のトリアルカノールアミンが挙げられる。
【0053】
アルカノールアミンは、ジアルカノールアミンまたはトリアルカノールアミンを用いることが好ましく、トリアルカノールアミンを用いることがより好ましい。このようなアルカノールアミンを用いれば、1分子中にヒドロキシル基が複数存在することによって金属酸化物ナノシートどうしの密着性が高められ、特にトリアルカノールアミンを用いることにより金属酸化物ナノシートを密に積層させることが容易になる。トリアルカノールアミンとしては、トリエタノールアミンやトリイソプロパノールアミンを挙げることができる。
【0054】
金属酸化物ナノシート積層体は、単層の金属酸化物ナノシートの層間にアルカノールアミンが配されていることが好ましい。このようにアルカノールアミンが配されることにより、各金属酸化物ナノシートの密着性が高まり、微細な細孔を有する金属酸化物ナノシート積層体を形成することが容易になるとともに、金属酸化物ナノシート積層体の耐久性、特に耐剥離性を高めることができる。なお、この場合であっても、金属酸化物ナノシート積層体が所望の機能を発揮する限り、金属酸化物ナノシート積層体には、金属酸化物ナノシートの一部がアルカノールアミンを層間に配さずに積層される部分が存在していてもよい。
【0055】
支持基材は、シランカップリング剤で処理してもよい。シランカップリング剤は、下記の通り、支持基材の表面に結合し、且つ活性基が金属酸化物ナノシートの水酸基やアルカノールアミンと化学結合することにより、支持基材と金属酸化物ナノシートとの密着性を高めると考えられる。なお、以下では、支持基材に結合したγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)と、ニオブ酸ナノシートまたはトリエタノールアミン(TEOA)との相互作用を代表的に示している。
【0056】
【化2】
【0057】
シランカップリング剤としては、例えば下記式(2)で表されるシランカップリング剤を用いることができる。下記式(2)において、R4、R5およびR6は、独立して、炭素数1以上、4以下のアルコキシ基、特に炭素数1以上、2以下のアルコキシ基、炭素数1以上、4以下のアルカノイル基、特に炭素数1以上、2以下のアルカノイル基、または、クロロ基、ブロモ基およびヨード基から選択されるハロゲノ基を表し、R7は活性基により置換された炭素数1以上4以下のアルキレン基を表す。活性基は、水酸基と化学結合を形成できるものであれば特に制限されないが、例えば、アミノ基、四級アンモニウム基、エポキシ基、メルカプト基などを挙げることができる。
456SiR7 (2)
具体的には、アミノ基含有シランカップリング剤、四級アンモニウム基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤等を用いることができ、これらのシランカップリング剤を用いれば、シランカップリング剤が有するアミノ基や四級アンモニウム基やエポキシ基やメルカプト基が金属酸化物ナノシートや支持基材と相互作用して、金属酸化物ナノシートと支持基材との密着性を高めることができる。シランカップリング剤の有するアミノ基含有基としては、3−アミノプロピル基、3−(2−アミノエチル)アミノプロピル基、3−(6−アミノヘキシル)アミノプロピル基、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル基、N−フェニルアミノメチル基、N−フェニル−3−アミノプロピル基、N−ベンジル−3−アミノプロピル基、N−シクロヘキシルアミノメチル基等が挙げられる。四級アンモニウム基としては、トリメチルアンモニウムプロピル基、トリメチルアンモニウムベンジル基、テトラデシルジメチルアンモニウムプロピル基、オクタデシルジメチルアンモニウムプロピル基等が挙げられる。エポキシ基含有基としては、グリシドキシ基、3−グリシドキシプロピル基、8−(グリシドキシ)−n−オクチル基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等が挙げられる。メルカプト基含有基としては、3−メルカプトプロピル基、2−メルカプトエチル基、2−メルカプトプロピル基、6−メルカプトヘキシル基等が挙げられる。シランカップリング剤は、これらの基が反応性官能基としてケイ素原子に結合しており、これ以外に加水分解性基としてアルコキシ基、アセトキシ基、もしくはハロゲン基がケイ素原子に結合しているものを用いることができる。シランカップリング剤としては、中でも、アミノ基含有シランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0058】
支持基材のシランカップリング剤による処理は、浸漬法、塗布法、気相反応法など、一般的に用いられている手法を用いることができる。シランカップリング剤は、支持基材の構成材料を、支持基材として使用可能な状態(例えばシート状)に成形した後に処理してもよく、支持基材として成形する前の材料単体として処理してもよい。
【0059】
本発明の分離膜の機能について、非特許文献1,2に開示される従来のナノシート分離膜との比較に基づき、図2および図3を参照して説明する。図2は、本発明の分離膜において水の透過する様子を模式的に表した図を表し、図3は、従来のナノシート分離膜において水の透過する様子を模式的に表している。非特許文献1,2に開示された従来のナノシート分離膜では、図3に示すように、ナノシートとナノシートの層間に形成される流路を利用して分離対象物が分離されるものとされている。これに対して本発明の分離膜では、図2に示すように、アルカノールアミンがバインダーとして作用してナノシートが密に積層されているため、最上層から最下層にかけて連通している空間が分離対象物を分離する細孔となり、ナノシートの厚さで分離性能が支配される。従って、本発明の分離膜では、ナノシート1枚分の厚みに相当する孔径の細孔、またはそれ以上の枚数の厚みに相当する孔径の細孔が形成されることとなり、従来のナノシート分離膜と比べて孔径の小さい細孔を形成することができる。本発明の分離膜は、ナノシート積層体の厚みが薄く透水速度が速いにも関わらず、非特許文献1,2に開示されたナノシート分離膜と比べて、所定の大きさの分子に対して高い阻止率を示すことが確認されており、このことからも本発明の分離膜では、従来のナノシート分離膜とは異なる細孔が形成されていることが推察される。このように本発明の分離膜は、アルカノールアミンを配合することによって、分離層として機能する金属酸化物ナノシート積層体の厚みを薄く形成しつつ、高い分離性能を有するものとすることができる。
【0060】
本発明の分離膜は、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、正浸透膜など、一般に使用される用途に適用することができる。例えば、廃水処理、浄水処理、飲料品製造、有用物質の分離回収、細菌やウィルスの分離・除去等に適用することができる。また、空気清浄フィルター等の気固分離を目的とした用途にも適用可能である。
【0061】
本発明の分離膜の製造方法、特に金属酸化物ナノシート積層体にアルカノールアミンを配する方法としては、(a)単層の金属酸化物ナノシートを調製し、それをアルカノールアミンの含有液中で積層する方法、(b)金属酸化物の層状化合物を液中で単層剥離した後、アルカノールアミンの含有液中で再積層する方法等が挙げられる。なお、より高度に分離性能が制御された分離膜を得る点からは、(a)の方法により金属酸化物ナノシート積層体を調製することが好ましい。中でも、簡便に本発明の分離膜を製造する点からは、金属アルコキシド化合物をアルカノールアミンの存在下で反応させ、金属酸化物ナノシートを生成する工程(反応工程)と、前記金属酸化物ナノシートを支持基材に積層させて、支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有する分離膜を形成する工程(積層工程)を有する製造方法により分離膜を製造することが好ましい。
【0062】
反応工程では、金属酸化物ナノシートの原料となる金属アルコキシド化合物(例えば、ニオブアルコキシド化合物やチタンアルコキシド化合物)を、アルカノールアミンの存在下で反応させ、金属アルコキシド化合物を縮合させる。反応工程では、金属アルコキシド化合物が加水分解および脱水縮合反応することにより、金属原子と酸素原子が交互に繋がったネットワークが形成され、その際、アルカノールアミンを共存させることにより、金属原子と酸素原子のネットワークが平面状に広がるように形成される。
【0063】
金属アルコキシド化合物としては、ニオブアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物、マンガンアルコキシド化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物、タングステンアルコキシド化合物、モリブデンアルコキシド化合物、コバルトアルコキシド化合物、鉄アルコキシド化合物、タンタルアルコキシド化合物、およびルテニウムアルコキシド化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。アルコキシ基は金属原子に少なくとも1つ結合していればよく、当該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブチル基など炭素数1以上、4以下のアルコキシ基が挙げられる。金属アルコキシド化合物は、金属原子に、アルキル基、アミノアルキル基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基などが結合していてもよく、これらの基の炭素数は1以上、4以下が好ましい。
【0064】
アルカノールアミンは、上記に説明したアルカノールアミンを用いることができ、ジアルカノールアミンまたはトリアルカノールアミンを用いることが好ましく、トリアルカノールアミンを用いることがより好ましい。アルカノールアミンは、反応工程においては、金属アルコキシド化合物の過剰な加水分解反応や縮合反応を抑制するように作用し、アルカノールアミンを用いることにより、単層の金属酸化物ナノシートを得ることが容易になる。アルカノールアミンはまた、その後の積層工程においては、金属酸化物ナノシートの層間密着性を高めるように作用する。アルカノールアミンは、金属アルコキシド化合物に対して、例えば1倍モル以上、6倍モル以下程度配合すればよい。なお、金属アルコキシド化合物の縮合反応を抑制する点から、アルカノールアミンとともにアンモニアを使用することが好ましい。
【0065】
金属アルコキシド化合物の反応は、アルカノールアミン(あるいはさらにアンモニウムイオン)を含む液中で行い、水の存在下で行うことが好ましい。当該反応は水熱反応により行うことが好ましく、その条件は適宜調整すればよい。例えば、反応温度は通常100℃以上250℃以下程度とすればよく、反応温度を連続的または逐次的に上げるなどしてもよい。圧力は溶媒の蒸気圧とすればよく、反応は密閉容器中で行うことが好ましい。反応時間は、10時間以上150時間以下程度とすればよい。
【0066】
金属アルコキシド化合物をアルカノールアミンの存在下(あるいはさらにアンモニウムイオンの存在下)で反応させることにより、金属酸化物ナノシートの分散液が得られる。分散液は、例えば、金属酸化物ナノシートのコロイド分散液として得られる。このようにして得られた金属酸化物ナノシートの表面には、アルカノールアミンが配位結合したり、カチオンが静電的相互作用することにより付着しているものと考えられる。
【0067】
積層工程では、反応工程で得られた金属酸化物ナノシートを支持基材に積層させて、支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有する分離膜を形成する。反応工程で得られた金属酸化物ナノシートの表面にはアルカノールアミンが配位結合していると考えられ、これを支持基材に積層させることにより、支持基材上に金属酸化物ナノシート積層体を形成することができ、その際、アルカノールアミンが金属酸化物ナノシートの層間に配されると考えられる。
【0068】
金属酸化物ナノシートを支持基材に積層させるためには、金属酸化物ナノシートの分散液を支持基材に透過させ、支持基材に金属酸化物ナノシートを積層させることが簡便である。支持基材は、上記に説明した支持基材を用いることができる。支持基材に通す金属酸化物ナノシートの分散液は、反応工程の反応液をそのまま用いてもよく、当該反応液を精製したり、希釈したものを用いてもよい。アルカノールアミンを含む金属酸化物ナノシートの分散液を支持基材の一方側から供給することにより、支持基材上に金属酸化物ナノシートが積層され、その結果、支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有する分離膜が形成される。この際、分散液にカチオンが含まれる場合は、当該カチオンが金属酸化物ナノシートの層間に配されると考えられる。分散液に含まれるカチオンは、反応工程で得られた反応液を分散液として用いる場合は、カチオンとしてアンモニウムイオンが含まれ得るし、それ以外のカチオン(例えば、上記に説明した金属イオンやカチオン性ポリマー)を分散液に加えて積層工程を行ってもよい。従ってその場合、金属酸化物ナノシートの分散液にカチオンを配合し、これを支持基材に通して、支持基材上に金属酸化物ナノシートを積層させることが好ましい。
【0069】
金属酸化物ナノシートの分散体を支持基材に通して、支持基材上に金属酸化物ナノシートを積層させるためには、金属酸化物ナノシートの分散体を多孔質支持基材でろ過すればよい。ろ過は、デッドエンドろ過であっても、クロスフローろ過であってもよく、必要に応じて一次側(金属酸化物ナノシートを積層させる側)を加圧したり、二次側(金属酸化物ナノシートを積層させる側と反対側)を減圧すればよい。金属酸化物ナノシートの分散体の濃度や透過量を調整することにより、支持基材上に形成される金属酸化物ナノシート積層体の厚みを調整することができる。金属酸化物ナノシート積層体の層間の密着性を高める点からは、金属酸化物ナノシート積層体を支持基材上に形成した後、金属酸化物ナノシートの分散体を新たに供給しない状態で二次側を減圧して、一定時間(例えば15分以上12時間以下)ろ過を継続することが好ましい。
【0070】
支持基材と金属酸化物ナノシート積層体との密着性をさらに高めるために、支持基材は、上記のシランカップリング剤の他、界面活性剤、高分子電解質などで前処理することもできる。この場合、これらの物質は支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とのバインダーとして作用する。
【0071】
界面活性剤を用いる場合は、カチオン性界面活性剤を用いることができ、例えば、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムなどのアルキル化4級アンモニウム塩を用いることができる。界面活性剤による処理は、浸漬法、塗布法などを用いることができる。
【0072】
高分子電解質を用いる場合は、カチオン性ポリマーを用いることができ、例えば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリリジン、キトサンなどを用いることができる。高分子電解質による処理は、浸漬法、塗布法などを用いることができる。
【0073】
積層工程により得られた分離膜は、さらにカチオンと接触させることにより、金属酸化物ナノシート積層体の層間距離を変えることができる。積層工程で得られた分離膜、すなわち支持基材と金属酸化物ナノシート積層体とアルカノールアミンとを有する分離膜をカチオン含有液と接触させることにより、カチオン含有液に含まれるカチオンが金属酸化物ナノシート積層体の層間に入り込むと考えられ、これにより金属酸化物ナノシート積層体の層間距離を変えることができる。なお、分離膜と接触させるカチオンは、積層工程で得られた分離膜に既に含まれるカチオン以外のカチオンであることが好ましく、当該カチオンとしては、上記に説明した金属イオンやカチオン性ポリマーが挙げられる。
【0074】
本願は、2016年8月22日に出願された日本国特許出願第2016−162235号に基づく優先権の利益を主張するものである。2016年8月22日に出願された日本国特許出願第2016−162235号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0076】
(1)分離膜の作製
(1−1)ニオブ酸ナノシートコロイド溶液の調製
K.Nakagawa et al., Chem. Commun., 2014, vol.50, p.13702-13705に記載の方法に従って、ニオブ酸ナノシートコロイド溶液を調製した。具体的には、ペンタエトキシニオブ(高純度化学研究所社製)1.989gとトリエタノールアミン(和光純薬工業社製)3.735gとを混合し、さらにそこに25〜28質量%濃度のアンモニア水を25mL加えた。得られた溶液を100mL容のオートクレーブに移し、24時間、160℃で反応させ、その後常温まで冷却した。得られた反応溶液は粘性が高いゾルの状態であったため、これに超純水製造装置(「milli−Q(登録商標) Direct」Merck社製)にて精製して得た超純水を50mL加えて希釈し、粘性を下げ、ニオブ酸(Nb38-)ナノシートを含有する粗コロイド懸濁液を得た。当該粗コロイド懸濁液には、反応時に生じた不溶性固体が含まれていたため、それを除去するために、遠心分離を不溶性固体がなくなるまで繰り返し行い、上澄み液をニオブ酸ナノシートコロイド溶液として得た。このようにして得られたニオブ酸ナノシートコロイド溶液の濃度を、超純水を加えて10g/Lに調製した。
【0077】
(1−2)ニオブ酸ナノシート積層体を有する分離膜Aの作製
混合ニトロセルロースの支持基材(孔径0.05μm、ミリポア社製)を、2.5容量%濃度の3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製)水溶液に15分間以上浸し、次いで超純水に浸した後、吸引ろ過器にセットして超純水を流して洗浄することで、シランカップリング剤で処理した混合ニトロセルロース製の支持基材を得た。この支持基材上に、ニオブ酸ナノシートコロイド溶液を供給して吸引ろ過し、支持基材上にニオブ酸ナノシート積層体を形成した。なお、全てのニオブ酸ナノシートコロイド溶液のろ過が終了後も吸引ろ過(減圧ろ過)を継続し、ニオブ酸ナノシート積層体に含まれる水分を除去し、層間の密着性を高めた。支持基材上に形成されたニオブ酸ナノシート積層体は、ナノシートの表面にトリエタノールアミンが配位し、カチオンとしてアンモニウムイオンまたはこれが乾燥過程で揮発してプロトンが配されていると考えられる。支持基材上に供給するニオブ酸ナノシートコロイド溶液の濃度と量は、形成するニオブ酸ナノシート積層体の厚みに応じて適宜調整し、例えば1μmの厚みのニオブ酸ナノシート積層体を形成する場合は、上記(1−1)項で得られたニオブ酸ナノシートコロイド溶液0.337mLを超純水50mLに混合した溶液を供給した。
【0078】
図4に得られた分離膜の断面構造をSEM(走査型電子顕微鏡)により撮影した画像を示す。混合ニトロセルロース(NC)製の支持基材と約1μmの厚みのナノシート(NS)の積層体から構成される積層構造が観察された。
【0079】
図5には、得られた分離膜のATR法によるFT−IR測定結果を示した。図5に示したスペクトルでは1400cm-1と1600cm-1付近にトリエタノールアミンに起因するピークが見られ、作製したニオブ酸ナノシート積層体にエタノールアミンが含まれていたことが確認された。
【0080】
(1−3)PDDAで改質された分離膜Bの作製
ニオブ酸ナノシートコロイド溶液にポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDDA、シグマアルドリッチ社製)溶液を加えて混合し、これを、吸引ろ過器にセットした混合ニトロセルロースの支持基材(孔径0.05μm、ミリポア社製)上に供給し、吸引ろ過を行うことで、支持基材上に、PDDAを含むニオブ酸ナノシート積層体を形成した。なお、全てのPDDAとニオブ酸ナノシートコロイドの混合溶液のろ過が終了後も吸引ろ過(減圧ろ過)を2時間継続し、積層体に含まれる水分を除去し、層間の密着性を高めた。支持基材上に形成されたニオブ酸ナノシート積層体は、ナノシートの表面にトリエタノールアミンが配位し、カチオンとして主にPDDA(部分的にアンモニウムイオンまたはこれらが乾燥過程で揮発してプロトンに代わる)が配されていると考えられる。ニオブ酸ナノシートコロイド溶液に加えるPDDA溶液の濃度と量、および支持基材上に供給するニオブ酸ナノシートコロイド溶液の濃度と量は、形成するニオブ酸ナノシート積層体の厚みに応じて適宜調整した。例えば1μmの厚みのPDDAを含むニオブ酸ナノシート積層体を形成する場合は、上記(1−1)項で得られたニオブ酸ナノシートコロイド溶液0.337mLを超純水50mLに混合した溶液に、2g/Lの濃度のPDDA溶液0.68mLを滴下して、得られた混合溶液を支持基材上に供給した。
【0081】
(1−4)アルミニウムイオンで改質された分離膜Cの作製
上記(1−2)項で作製した分離膜Aを吸引ろ過器に固定したまま、アルミニウムイオンを含む硝酸溶液(Al含有硝酸溶液)50mLを吸引ろ過器に注ぎ、まず約25mLのAl含有硝酸溶液を吸引し、残りの25mLのAl含有硝酸溶液はフィルターホルダに残したまま2時間静置した。静置後、残りのAl含有硝酸溶液を吸引ろ過し、2時間真空引きを行った。真空引き後、100mLの超純水を吸引ろ過し、分離膜の洗浄を行った。なお、全ての超純水のろ過が終了後も吸引ろ過(減圧ろ過)を2時間継続し、積層体に含まれる水分を除去し、層間の密着性を高めた。
【0082】
(2)分離膜の性能評価方法
作製した分離膜を、S.Kawada et al., Colloids and Surfaces A: Physicochem. Eng. Aspects, 2014, vol.451, p.33-37に記載された方法に準じて、クロスフロー式の透水装置により評価した。
【0083】
(2−1)透水試験方法
超純水製造装置(「milli−Q(登録商標) Direct」Merck社製)にて精製して得た超純水を、一次側(供給側)圧力0.4MPaの条件で透水装置に供給し、単位時間当たりの透水量を有効膜面積および圧力で除することにより、透水速度を求めた。
【0084】
(2−2)分離試験方法
上記(2−1)項で使用した同じ透水装置を用いて、分離膜の分離性能を調べた。分子量1kDa、2kDa、6kDa、14kDaまたは20kDaのポリエチレングリコール1gを、超純水製造装置(「milli−Q(登録商標) Direct」Merck社製)にて精製して得た超純水1Lに溶かし、PEG溶液を調製した。6kDaと20kDaのポリエチレングリコールはシグマアルドリッチ社製のものを使用し、それ以外は和光純薬工業社製のものを使用した。各PEG溶液にはさらにNaClを50mg加えた。各PEG溶液を、一次側(供給側)圧力0.4MPaの条件で透水装置に供給し、膜透過液の電気伝導率を測定し、電気伝導率の値が安定したところで(すなわち膜内へのPEG溶液の置換が完了したと判断されたところで)、膜透過液を1mL以上採取した。採取した膜透過液を超純水で20倍に希釈し、全有機炭素分析装置(島津製作所製、TOC−VCSH)によりTOC測定を行い、膜透過液に含まれるPEGの濃度を求め、次式から阻止率を算出した。
阻止率(%)=(1−[膜透過液のPEG溶液のPEG濃度(g/L)]/[供給側のPEG溶液のPEG濃度(g/L)])×100
【0085】
(3)評価結果
(3−1)金属酸化物ナノシート積層体の厚みの影響
上記(1−2)項に記載の方法に従って作製したニオブ酸ナノシート積層体を有する分離膜Aについて、ニオブ酸ナノシート積層体の厚みを20nm、50nm、100nmと変えた分離膜を作製し、各分離膜の透水試験と分離試験を行った。透水試験の結果を図6に示し、分離試験の結果を図7に示す。ニオブ酸ナノシート積層体の厚みが厚くなるほど、透水速度は低下する結果となったが、ニオブ酸ナノシート積層体の厚みが20nmと薄くても、それより厚いニオブ酸ナノシート積層体を有する分離膜と比べて、分離性能に大きな差が出なかった。分子量6kDa以上のポリエチレングリコールでは約90%の阻止率を示した。分離膜Aは、ニオブ酸ナノシートどうしの密着性が高く形成されているため、少ない積層数でも所望の大きさの細孔が堅固な構造で形成され、厚みが薄くても十分な分画分離性能を示したものと考えられる。
【0086】
P.Puhlfurss et al., J. Membr. Sci., 2000, vol.174, p.123-133には、ポリエチレングリコールの分子量0.2kDa〜40kDaの範囲におけるストークス径との関係が示されており、これに基づき評価に用いたポリエチレングリコールのストークス径(直径相当)を示すと表1の通りとなる。この結果から、分離膜Aでは、1〜4nm程度の大きさの細孔が形成されていたと考えられる。
【0087】
【表1】
【0088】
(3−2)分離膜の種類の影響
上記(1−2)項に記載の方法に従って作製した厚さ20nmのニオブ酸ナノシート積層体を有する分離膜Aと、上記(1−3)項に記載の方法に従って作製した厚さ20nmのPDDA改質ニオブ酸ナノシート積層体を有する分離膜Bについて、透水試験と分離試験を行った。透水試験の結果を図8に示し、分離試験の結果を図9に示す。分離膜Aでは、ニオブ酸ナノシートの層間にトリエタノールアミンとアンモニウムイオンが配されており、層間距離が狭く形成されていたため、透水試験における透水速度は14.1L/m2・h・barと低く、分離性能試験においても、1kDaや2kDaの小さい分子量のポリエチレングリコールでもより高い阻止率で阻止する結果となった。分子量6kDa以上のポリエチレングリコールでは約90%の阻止率を示した。分離膜Bは、ニオブ酸ナノシートの層間にトリエタノールアミンとカチオン性ポリマーであるポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)が配されており、下記に示すように、層間距離が分離膜Aよりも広く形成されていたため、透水試験における透水速度は55.5L/m2・h・barと高く、分離性能試験においても、1kDaや2kDaの低分子量のポリエチレングリコールで低い阻止率を示した。なお、分子量6kDa以上のポリエチレングリコールでは、分離膜Aと同程度の約90%の阻止率を示した。分離膜Aと分離膜Bのいずれも、ニオブ酸ナノシート積層体が支持基材から剥がれることなく、安定した膜性能評価が行えた。
【0089】
(3−3)金属酸化物ナノシート積層体の層間距離の測定
上記(1−2)項に記載の方法に従って作製した厚さ500nmのニオブ酸ナノシート積層体を有する分離膜Aと、上記(1−3)項に記載の方法に従って作製した厚さ500nmのPDDA改質ニオブ酸ナノシート積層体を有する分離膜Bと、(1−4)項に記載の方法に従って作製した厚さ500nmのアルミニウムイオン改質ニオブ酸ナノシート積層体を有する分離膜CのX線回折測定結果を図10に示す。分離膜Aでは2θ=8.76°に回折ピークが観測され、これはニオブ酸ナノシート積層体の層間距離が1.01nmであったことを示している。一方、分離膜Bでは2θ=4.30°に回折ピークが観測され、分離膜Cでは2θ=7.46°に回折ピークが観測され、各々ニオブ酸ナノシート積層体の層間距離が2.05nmと1.19nmであったことを示している。ニオブ酸ナノシート積層体にカチオンとしてPDDAまたはアルミニウムイオンを配することにより、ニオブ酸ナノシート積層体の層間距離が広がったことが確認された。
【0090】
(4)酸化グラフェン分離膜との比較
上記(1−1)〜(1−2)と同様の条件により、3−アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理された混合ニトロセルロース支持基材上に、厚さ90nmのニオブ酸ナノシート積層体を形成した。
比較のために、上記混合ニトロセルロース支持基板上に、同じく厚さ90nmの酸化グラフェン膜を形成した。具体的には、先ず、D.C.Marcano et al.,ACS Nano,2010,vol.4,p.4806-4814に記載の方法に従って、酸化グラフェンコロイド溶液を調製した。500mL容丸底フラスコ中、グラファイト粉末(アルドリッチ社製)3gを硫酸360mLとリン酸40mLで調製した溶液に分散させた後に、過マンガン酸カリウム18.0gを加えた。混合液を50℃で12時間撹拌した後に、室温まで冷却した。氷400mLを入れた1L容ビーカーに混合液を注いだ後、30質量%過酸化水素水3mLを注ぎ、30分間撹拌した。混合物を3500rpmで5分間遠心分離し、沈殿物を除去した。得られた懸濁液を6000rpmで20分間遠心分離に付し、上澄み液をゆっくり取り除いた。沈殿物を、200mLの水、200mLの30%塩酸、200mLのエタノールで2回ずつ連続的に洗浄した。沈殿物の上部の粘性液を回収し、これを超純水製造装置(「milli−Q(登録商標) Direct」Merck社製)にて精製して得た超純水に分散させたものを酸化グラフェン分散溶液とした。酸化グラフェン分散液を超遠心分離に付し、酸化グラフェンを沈殿させた。沈殿物を回収し、60℃にて乾燥させ、酸化グラフェン粉末を得た。アセトンを溶剤としたソックスレー抽出を60℃で行うことにより、酸化グラフェン粉末にわずかに残っている溶媒を取り除いた。酸化グラフェン粉末0.5gを超純水に加え、10g/Lの酸化グラフェンコロイド溶液を調製した。別途、混合ニトロセルロース支持基材(孔径0.05μm,ミリポア社製)を2.5容量%の3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製)水溶液に15分間以上浸し、次いで超純水に浸した後、吸引ろ過器にセットして上から超純水を流して洗浄することでシランカップリング剤で処理した混合ニトロセルロース支持基材を得た。この支持基材の上に、上記酸化グラフェンナノシートコロイド溶液を吸引ろ過することで、酸化グラフェンナノシート積層体を支持基材上に作製した。また、酸化グラフェンナノシートコロイド溶液を全て吸引ろ過した後も、そのまま吸引ろ過を続け、酸化グラフェンナノシートを十分に減圧乾燥させた。このように減圧乾燥させることで、酸化グラフェンナノシート積層体中のナノシート間の水分を除去しシート同士の密着性を高めた。なお、形成された酸化グラフェンナノシート積層体の厚みは酸化グラフェンナノシートコロイド溶液の濃度や量に依存し、例えば1μmの積層体を作る場合には1g/Lの酸化グラフェンナノシートコロイド溶液を7.04mL採って超純水で希釈し全量50mLにした溶液を吸引ろ過した。供給する溶液の濃度や量を適宜調節することで積層体の厚みを変化させた。
上記分離膜を、それぞれ水に浸漬し、72時間後、外観を観察し、且つ上記(3−3)と同様の条件でX線回折測定を行い、層間距離を求めた。浸漬前後の各分離膜の外観写真を図11に、X線回折測定結果を図12に示す。図11,12の通り、酸化グラフェン分離膜は、水への浸漬により層間距離が2倍に広がり、その結果一部が支持基板から分離してしまった。それに対して本発明に係る分離膜は、水へ浸漬しても層間距離も外観もほとんど変化しなかった。このように本発明に係る分離膜は、構造安定性に優れていることが証明された。
【0091】
(5)金属酸化物ナノシート積層体の膜厚の検討
上記(1−1)〜(1−2)において、ニオブ酸ナノシートコロイド溶液の濃度と吸引ろ過時間を調整し、3−アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理された混合ニトロセルロース支持基材上に、厚さ20nm、50nmまたは70nmのニオブ酸ナノシート積層体を形成した。上記(3−1)と同様に、得られた各分離膜の透水性と分離性能を試験した。ニオブ酸ナノシート積層体の膜厚と、透水速度およびPEG阻止率との関係を図13(1)に、ニオブ酸ナノシート積層体の膜厚とPEGの分子量とPEG阻止率との関係を図13(2)に示す。
図13に示す結果の通り、ニオブ酸ナノシート積層体の膜厚が薄いほど透水性が高かった。また、一般的な分離膜では膜厚が厚いほど分離性能が優れているといえるが、本発明の分離膜の場合、ニオブ酸ナノシート積層体の膜厚が薄いほど分離性能はかえって優れていることが示された。
【0092】
(6)減圧乾燥処理の効果の検討
上記(1−1)〜(1−2)において、シランカップリング剤で処理した混合ニトロセルロース製の支持基材上でニオブ酸ナノシートコロイド溶液を供給して吸引ろ過し、支持基材上にニオブ酸ナノシート積層体を形成した後、更なる吸引ろ過を行わないか、または更なる吸引ろ過の時間を10分間、30分間または2時間とした以外は同様にして、分離膜を作製した。
得られた各分離膜につき上記(3−3)と同様の条件でX線回折測定を行い、回折角度2θを求めた。また、上記(3−1)と同様に、得られた各分離膜の透水性と分離性能を試験した。各ニオブ酸ナノシート積層体の回折角度2θを図14(1)に、透水速度とPEG阻止率を図14(2)に示す。図14(1)に示す結果の通り、追加ろ過時間が長いほど回折角度2θが大きくなり、ニオブ酸ナノシート間の距離が小さくなっていることが分かった。また、図14(2)に示す結果の通り、追加ろ過時間が長いほど透水速度が小さくなる傾向があるのに対して、溶質の阻止率は高くなった。かかる結果は、追加ろ過により水が除去され、ニオブ酸ナノシートの表面とトリエタノールアミンとの配位結合や水素結合が有効に形成されることにより、阻止率が向上したことを示す。このように、本発明の分離膜の作製時においてろ過を十分に行って金属酸化物ナノシートから水を除去することは、高性能な分離膜の作製に重要であることが明らかとなった。
【0093】
(7)溶質の阻止性能の検討
塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、アシッドレッド265またはエチレンブルー(EB)を0.5〜1.0質量%の割合で溶解し、そのpHを、塩酸、硫酸または水酸化ナトリウムにより7に調整した。また、上記(1−1)〜(1−2)と同様にして、厚さ20μmのニオブ酸ナノシート積層体を有する分離膜を作製した。上記(2)と同様にして、上記溶液(40mL)を透過させ、透過液における各溶質の濃度を紫外可視近赤外分光光度計(「V−650」Jasco社製)およびコンパクトナトリウムイオンメータ(「LAQUAtwin B−722」堀場製作所社製)により測定し、各溶質の阻止率を算出した。結果を図15(1)に示す。
また、上記塩化ナトリウム溶液のpHを3〜10に調整し、同様に塩化ナトリウムの阻止率を算出した。更に、pHを3〜10に調整した水溶液中で、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(「ELSZ1000」大塚電子社製)によりニオブ酸ナノシートのゼータ電位を測定した。結果を図15(2)に示す。
図15(1)に示す結果の通り、特に比較的大きな硫酸ナトリウム、アシッドレッド265およびエチレンブルーに対する本発明の分離膜の阻止率は高かった。両イオンが比較的小さい塩化ナトリウムに対する阻止率は比較的低かったが、pHが高くなるにつれ阻止率は向上した。その理由としては、ゼータ電位の測定結果の通り、低pHの場合にはM−OH+H+→M+OH2+の反応によりアルカノールアミンと反応する表面水酸基が失われるのに対して、高pHの場合にはM−OH+OH-→M−O-+H2Oの反応によりナノシート表面にマイナス電位が生じ、アニオンが静電反発により除去され、且つカチオンが吸着されたことによると考えられる。
【0094】
(8)第四級アンモニウム塩を含む分離膜との比較
上記(1−2)項に記載の方法に準じて、ニオブ酸ナノシート積層体の厚みが20nm、50nmおよび100nmの本発明に係る分離膜を作製した。
別途、炭酸カリウムと酸化ニオブを1.1:3のモル比でメノウ乳鉢を用いて粉砕混合し、600℃で2時間、900℃で3時間焼成することによりKNb38の粉末を得た。当該KNb38粉末を2M塩酸に60℃で1週間浸漬することによりカチオン交換し、150℃で3時間焼成することによりHNb38の粉末を得た。当該粉末をテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に添加して常温で3週間振とうすることにより、層状のHNb38粉末を剥離してHNb38単層のコロイド液を得た。当該コロイド液を用いた以外は上記(1−2)項と同様にして、ニオブ酸ナノシート積層体を有する分離膜を作製した。但し、当該分離膜の積層体は、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)を含む。以下、当該分離膜を「TBAOH−分離膜」と略記する。
ニオブ酸ナノシート積層体の厚みが20nmの本発明に係る分離膜とTBAOH−分離膜の透水速度を測定した。結果を図16(1)に示す。また、様々な分子質量のPEGに対する上記分離膜の阻止率を測定した。結果を図16(2)に示す。図16に示す結果の通り、ニオブ酸ナノシート積層体中にアルカノールアミンを含む本発明に係る分離膜は、第四級アンモニウム塩を含む分離膜に比べ、透水性と阻止性能の両方に優れていた。その理由としては、本発明に係る分離膜では、アルカノールアミンによりニオブ酸ナノシート間の密着性が顕著に向上することにより、分離性能が改善されていると考えられる。
【0095】
(9)アルカノールアミンの種類の検討
上記(1−1)〜(1−2)において、トリエタノールアミンをトリイソプロパノールアミンに変更した以外は同様にして分離膜を作製した。
トリエタノールアミン含む分離膜とトリイソプロパノールアミンを含む分離膜について、透水速度、硫酸ナトリウムの阻止率、およびPEGの阻止率を測定した。各結果を図17(1)〜(3)に示す。図17に示す結果の通り、ニオブ酸ナノシート積層体にトリイソプロパノールアミンを含む分離膜は、トリエタノールアミンを含む分離膜と同等の透水性能と分離性能を示すことが明らかとなった。
【0096】
(10)酸化グラフェン層を含む分離膜との比較
上記(1−2)項に記載の方法に準じて、ニオブ酸ナノシート積層体の厚みが20nmの本発明に係る分離膜を作製した。
酸化グラフェン(GO)に超純水を加え、超音波処理を10分間行うことで、100mg/LのGO懸濁液を調製した。膜の厚みを制御するため、当該懸濁液を希釈して、濃度を3.0〜22.5μg/mLに調整した。希釈したGO懸濁液を、ポリアクリルニトリルナノファイバーマット上に30mLずつ吸引ろ過を行った後、空気中で乾燥して、厚さ128nmのGO層を含む分離膜を得た。以下、当該分離膜を「G1」という。
また、50mLの水に適量のGOを加え、超音波処理を10分間行ってGO懸濁液を得た。膜の厚みを制御するため、得られた懸濁液を希釈して濃度を0.36μg/mLから0.864μg/mLへ調整した。希釈したGO懸濁液50mLを、200nmの孔径の陽極酸化アルミナ膜上に吸引ろ過を行った後、40℃で24時間乾燥して、厚さ53μmのGO層を含む分離膜を得た。以下、当該分離膜を「G2」という。
塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムを0.5〜1.0質量%の割合で溶解し、そのpHを、塩酸、硫酸または水酸化ナトリウムにより7に調整した。得られた溶液を用いて、上記分離膜の透水速度と溶質阻止率を測定した。結果を図18に示す。
図18に示す結果の通り、本発明に係る分離膜は、酸化グラフェン分離膜に比べて透水性が明らかに優れている。本発明に係る分離膜の透水性能が優れているのは、酸化グラフェンシートは平面方向長さで1μm以上と比較的大きいのに対して、本発明に係る分離膜の金属酸化物ナノシートは平面方向長さで50〜200nm程度と比較的小さいため、分離膜表面での開孔率が高く、また膜構造の空隙率が高いことが挙げられる。また酸化グラフェンシート間の間隔は比較的広いので、酸化グラフェン分離膜では液体が酸化グラフェンシート間を透過するのに対して、金属酸化物ナノシートはシート間の密着性が高いため、図2の通り、液体がシート積層体の隙間を透過するため、透水経路が短くなる。上記のことが、本発明分離膜の透水性能が高い理由として考えられる。また、本発明分離膜の分離性能は、シート積層体厚さが薄いにもかかわらず、酸化グラフェン分離膜と同等またはより優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、高度に分離性能が制御された分離膜を得ることができる。得られた分離膜は、廃水処理、浄水処理、有用物質の分離回収、細菌やウィルスの分離・除去、気固分離処理等に適用することができる。
図1
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