【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、総括実施型研究、研究プロジェクト名「ERATO美濃島知的シンセサイザプロジェクト」に係る産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
周波数軸で零に対して第一の周波数オフセットを有する第一の周波数モードと前記周波数軸で前記第一の周波数モードに対して第一の周波数間隔の整数倍の間隔をあけて並ぶ複数の第三の周波数モードとを有する第一の光コムと、
前記周波数軸で零に対して第二の周波数オフセットを有する第二の周波数モードと前記周波数軸で前記第二の周波数モードに対して第二の周波数間隔の整数倍の間隔をあけて並ぶ複数の第四の周波数モードとを有する第二の光コムと、を用いて、
前記第一の周波数オフセット、前記第二の周波数オフセット、前記第一の周波数オフセットと前記第二の周波数オフセットとの差、前記第一の周波数間隔、前記第二の周波数間隔、及び前記第一の周波数間隔と前記第二の周波数間隔との差が互いに整数比で表されるように、前記第一の周波数オフセット、前記第二の周波数オフセット、前記第一の周波数間隔、及び前記第二の周波数間隔を制御することによって前記第一の周波数オフセットと前記第二の周波数オフセットとの差を制御する制御工程を備えることを特徴とする光コムの制御方法。
周波数軸で零に対して第一の周波数オフセットを有する第一の周波数モードと前記周波数軸で前記第一の周波数モードに対して第一の周波数間隔の整数倍の間隔をあけて並ぶ複数の第三の周波数モードとを有する第一の光コムにおける前記第一の周波数オフセット及び前記第一の周波数間隔とを制御すると共に、
前記周波数軸で零に対して第二の周波数オフセットを有する第二の周波数モードと前記周波数軸で前記第二の周波数モードに対して第二の周波数間隔の整数倍の間隔をあけて並ぶ複数の第四の周波数モードとを有する第二の光コムにおける前記第二の周波数オフセット及び前記第二の周波数間隔とを制御する周波数制御機構を備え、
前記周波数制御機構は、前記第一の周波数オフセット、前記第二の周波数オフセット、前記第一の周波数オフセットと前記第二の周波数オフセットとの差、前記第一の周波数間隔、前記第二の周波数間隔、及び前記第一の周波数間隔と前記第二の周波数間隔との差が互いに整数比で表されるように前記第一の周波数オフセット、前記第二の周波数オフセット、前記第一の周波数間隔、及び前記第二の周波数間隔を制御可能に構成されていることを特徴とする光コムの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の光コムの制御方法及び光コムの制御装置の一実施形態について、図面を参照し、説明する。なお、以下の説明で参照する図面の各構成要素の長さ、幅、及び厚みの比率等は、模式的である。
【0021】
モード同期レーザーは、時間領域において周期的なパルス列を出力する。モード同期レーザーから出力されるパルス列は、高速に振動している電場(すなわち、キャリア)と包絡線の関数によって図示することができる。包絡線の伝搬速度を群速度v
gとし、キャリアの伝搬速度を位相速度v
pとすると、(4)式及び(5)式で表される関係が成り立つ。
【0023】
(4)式において、nは光コムが伝搬する媒質の屈折率を表す。λは光コムの中心波長を表す。
【0025】
群速度v
gと位相速度v
pとは異なるため、時間が進むにしたがって、パルスの包絡線とキャリアのピーク部とは徐々にずれていく。位相のずれ(すなわち、位相差)は、キャリア・エンベロープ・オフセット・フェーズ(Carrier-Envelope offset Phase:CEP)と呼ばれる。時間軸上で隣り合うパルス列同士の相対的なCEPの差Δφ
CEPは、パルス間で周期的にずれており、一定の周期T
CEOを有する。周期T
CEOの逆数は、周波数領域のキャリア・エンベロープ・オフセット周波数(単に、オフセット周波数ともいう)f
CEOに相当する。モード同期レーザーから出力される光コムを周波数領域で観察すると、モード同期レーザーの縦モードが、パルスの繰り返し周期T
repの逆数である繰り返し周波数(周波数間隔)f
repの間隔で極めて一様に分布している。オフセット周波数f
CEOと繰り返し周波数f
repとの関係は、相対的なCEPの差Δφ
CEPを用いて、(6)式に示すように表される。
【0027】
図1には、二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれの時間領域における波形と周波数領域におけるスペクトルが模式的に示されている。
図1に示すように、光コム(第一の光コム)Comb1は、周波数軸で零に対してオフセット周波数(第一の周波数オフセット)f
CEO1を有する光周波数モード(第一の周波数モード)FM1と、周波数軸で光周波数モードFM1に対して繰り返し周波数(第一の周波数間隔)f
rep1の整数倍の間隔をあけて並ぶ複数の光周波数モード(第三の光周波数モード)FM3と、を有する。光コム(第二の光コム)Comb2は、周波数軸で零に対してオフセット周波数(第二の周波数オフセット)f
CEO2を有する光周波数モード(第二の周波数モード)FM2と、周波数軸で光周波数モードFM2に対して繰り返し周波数(第二の周波数間隔)f
rep2の整数倍の間隔をあけて並ぶ複数の光周波数モード(第四の光周波数モード)FM4と、を有する。
【0028】
(6)式から、光コムComb1におけるオフセット周波数f
CEO1と繰り返し周波数f
rep1との対応関係として、(7)式が成り立つ。
【0030】
同様に、(6)式から、光コムComb2におけるオフセット周波数f
CEO2と繰り返し周波数f
rep2の対応関係として、(8)式の関係が成り立つ。
【0032】
(7)式において、Δφ
CEP1は光コムComb1の相対的なCEPを表す。(8)式において、Δφ
CEP2は光コムComb2の相対的なCEPを示す。
【0033】
(7)式及び(8)式に示すように、オフセット周波数f
CEO1,f
CEO2は、パルス間のCEPの変化量、すなわち相対的なCEPΔφ
CEP1,Δφ
CEP2と対応づけられる。言い換えると、オフセット周波数f
CEO1,f
CEO2を制御することで、光コムComb1,Comb2のそれぞれのパルス列のコヒーレンスを制御できる。
【0034】
図2及び
図3には、二つの光コムComb1,Comb2を共通の時間軸で見たときの波形が模式的に示されている。
図2に示すように、二つの光コムComb1,Comb2の波形の時間軸上の位置が揃ったときの各波形を一番目の波形と称する。二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれの一番目の波形の位置から時間軸上を進んだ二番目の波形同士の時間軸上の差を時間差ΔT
repとする。二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれの三番目の波形同士の時間軸上の差は時間差(2×ΔT
rep)となる。すなわち、二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれの(M+1)番目の波形同士の時間軸上の差は時間差(M×ΔT
rep)となる。Mは、任意の自然数を表す。つまり、時間領域において、二つの光コムComb1,Comb2の波形は、繰り返し周波数差Δf
repに応じて少しずつ均等にずれていく。繰り返し周波数差Δf
repは、周波数差|f
rep1−f
rep2|である。
【0035】
二つの光コムComb1,Comb2の一番目の波形の時間軸上の位置から時間(1/Δf
rep)が経過すると、二つの光コムComb1,Comb2同士の波形の時間軸上の位置が再び揃う。言い換えれば、二つの光コムComb1,Comb2の各々のパルスのタイミングは、(1/Δf
rep)の周期で変化する。一番目の波形の時間軸上の位置から時間(1/Δf
rep)が経過した後の波形をそれぞれ、光コムComb1の(M+2)番目の波形と、光コムComb2の(M+1)番目の波形とすると、(9)式及び(10)式の関係が成り立つ。
【0038】
一方、二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれのCEPは、共通の時間軸上の位置において、相対的な関係を有している。
図3に示すように、相対的な関係(すなわち、CEPの差)を有する各波形を一番目の波形とすると、二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれの一番目の波形のCEPと二番目の波形のCEPとの位相差は、Δφ
CEP1,Δφ
CEP2である。また、二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれの一番目の波形のCEPと三番目の波形のCEPとの位相差は、2×Δφ
CEP1,2×Δφ
CEP2である。すなわち、二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれの(M+1)番目の波形同士の時間軸上の差は時間差(M×Δφ
CEP1),(M×Δφ
CEP2)となる。つまり、時間領域において、二つの光コムComb1,Comb2の相対的なCEPは、オフセット周波数差Δf
CEOに応じて少しずつ均等にずれていく。オフセット周波数差Δf
CEOは、周波数差|f
CEO1−f
CEO2|)である。
【0039】
したがって、二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれの一番目の波形の時間軸上の位置から時間が(1/Δf
CEO)経過した後に、位相差Δφ
CEP1と位相差Δφ
CEP2とのずれが2πになる。このとき、二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれの一番目のパルス列の波形同士の相対的なCEPの関係と同じ関係の波形を有するパルス列が現れる。
図3ではわかりやすく説明するために、二つの光コムComb1,Comb2の繰り返し周波数差Δf
repが0であると仮定した。そのため、二つの光コムComb1,Comb2の一番目のパルス列同士の相対的なCEPの関係と同じ関係の波形を有するパルス列の時間軸上の位置が揃っている。すなわち、二つの光コムComb1,Comb2の相対的なCEPの関係は、(1/Δf
CEO)の周期で変化する。
【0040】
(光コムの制御方法)
上述したように、光コムの繰り返し周波数f
rep及びオフセット周波数f
CEOは、パルス列の特性を示す重要な周波数パラメータである。二つの光コムの相対関係を考えると、それぞれの光コムの繰り返し周波数f
rep及びオフセット周波数f
CEOに加えて、繰り返し周波数差Δf
rep及びオフセット周波数差Δf
CEOがパルス列の特性を示す重要な周波数パラメータである。従来、オフセット周波数差Δf
CEOは固定のパラメータとして扱われてきた。しかしながら、オフセット周波数差Δf
CEOを制御することによって、CEPを任意に制御できる。本発明では、オフセット周波数差Δf
CEOの制御の自由度を積極的に活用する。
【0041】
本発明に係る光コムの制御方法は、光周波数モードFM1と複数の光周波数モードFM3とを有する光コムComb1と、光周波数モードFM2と複数の光周波数モードFM4とを有する光コムComb2とを用いて、オフセット周波数f
CEO1,f
CEO2の差(オフセット周波数差、第一の周波数オフセットと第二の周波数オフセットとの差)Δf
CEOを制御する制御工程を備える。
【0042】
オフセット周波数差Δf
CEOは、二つの光コムComb1,Comb2のオフセット周波数f
CEO1,f
CEO2同士の差である。(7)式及び(8)式で示すように、二つの光コムComb1,Comb2の繰り返し周波数f
rep1,f
rep2はそれぞれ、オフセット周波数f
CEO1,f
CEO2のそれぞれと相対関係を有する。したがって、オフセット周波数差Δf
CEOを制御するために、二つの光コムComb1,Comb2のオフセット周波数差Δf
CEO、光コムComb1のオフセット周波数f
CEO1、光コムComb2のオフセット周波数f
CEO2、二つの光コムComb1,Comb2の繰り返し周波数差Δf
rep、光コムComb1のオフセット周波数f
rep1、光コムComb2のオフセット周波数f
rep2の六つのパラメータ同士が任意の整数比で表されるように各パラメータを制御することが好ましい。具体的には、上述の六つのパラメータ同士が任意の整数比で表される相対関係(所定の条件)が、オフセット周波数f
CEO1,f
CEO2及び繰り返し周波数f
rep1,f
rep2の四つのパラメータの制御によって成り立つことが好ましい。
【0043】
例えば、オフセット周波数差Δf
CEOが(1)式から(3)式の少なくとも一式以上を満たすようにオフセット周波数差Δf
CEO以外の各パラメータを設定できる。オフセット周波数差Δf
CEOが(1)式から(3)式のいずれか二式を同時に満たすようにオフセット周波数差Δf
CEO以外の各パラメータを設定できる。オフセット周波数差△f
CEOが前述の(1)式から(3)式の全て満たすようにオフセット周波数差Δf
CEO以外の各パラメータを設定してもよい。
【0044】
(光コムの制御装置)
先ず、本発明の光コムの制御方法に適用可能な光コムの制御装置に用いられる光コム出力機構について説明する。光コム出力機構は、本発明の光コムの制御方法の制御工程において、所定の関係(いわゆる、1f−2fの関係)を満たす二つの光コムのモード同士の干渉信号を検出する。この干渉信号は、ビート信号であって、二つの光コムのモード同士の周波数差に基づく。光コム出力機構は、二つの光コムのモード同士の干渉信号を検出することによって、オフセット周波数及び繰り返し周波数を制御可能に構成されている。
【0045】
図4に示すように、光コム出力機構10は、光コム光源12、光干渉部14、ビート信号検出部16、オフセット周波数制御部18、光コム出力部20、及び繰り返し周波数制御部22を備えている。
【0046】
光コム光源12は、ループ型のファイバレーザとして構成される。光コム光源12は、エルビウム添加ファイバ(Erbium doped optical fiber:EDF)24と、光カプラ25を介してEDF24に励起光を供給することによってEDF24を励起する半導体レーザー(以下、励起LDとする)26と、を備える。EDF24からの光の出射方向(
図4の紙面における時計回りの方向)に沿って光アイソレータ34、光カプラ32、前述のファイバレーザの共振器長を変更可能なピエゾ(PZT)素子30、及び偏波コントローラ28がEDF24によって連結される。光コム光源12の構成は、光コムを出射可能であれば、上述の構成に限定されない。
【0047】
光カプラ32から出射された光コムは、光干渉部14と光コム出力部20に供給される。光カプラ32と光干渉部14及び光コム出力部20との間には、光カプラ32に近い側から順に偏波コントローラ38、EDF増幅器40が設けられる。EDF増幅器40は、EDF39と、励起LD41と、光カプラ43で構成される。光カプラ32と光干渉部14までの各構成と、光カプラ32と出力部20までの各構成は、光ファイバ36によって連結される。
【0048】
EDF増幅器40Aと光干渉部14との間には、高非線形光ファイバ(High-nonlinear fiber:HNLF)42が配置される。偏波コントローラ38A及びEDF増幅器40Aによって偏波制御及び増幅された光コムは、HNLF42によって、HNLF42に入射する前よりも広帯域な光コムとして出射される。
【0049】
光干渉部14は、光コム光源12に近い側から順に、ファイバコリメータ44、集光レンズ46、λ/2波長板48、周期分極反転ニオブ酸リチウム (periodically-poled lithium niobate:PPLN)50、光バンドパスフィルタ52を備える。HNLF42から出射された広帯域の光コムは、光干渉部14に入射し、PPLN50に集光される。PPLN50から、広帯域の光コムの第二高調波W
Sが出射される。すなわち、PPLN50から、広帯域の光コムの成分(2f)と、PPLN50で新たに生成された第二高調波の成分(2×1f)とが重なって出射される。
【0050】
広帯域光コムにおいて周波数軸で零からn番目のモードの周波数f
Bは、(11)式のように表される。
【0052】
(11)式のnは、任意の自然数である。
【0053】
広帯域の光コムのn番目のモードの周波数に対して、第二高調波W
Sのスペクトルの周波数f
Sは、(12)式のように表される。
【0055】
(12)式で表される広帯域の光コムにおける周波数f
Sのモードに低周波数側で隣り合う2n番目のモードの周波数f
Wは、(13)式のように表される。
【0057】
広帯域の光コムと第二高調波は、ビート信号検出部16で干渉する。ビート信号検出部16では、広帯域の光コムと第二高調波とのビート信号が検出される。(12)式及び(13)式で表される周波数のスペクトル同士のビート信号を検出することによって、オフセット周波数差f
CEOが検出される。言い換えれば、(12)式及び(13)式で表される周波数のスペクトル同士のビート信号が干渉光としてビート信号検出部16に出射される。ビート信号検出部16は、フォトディテクタ54で構成されている。PPLN50から出射した光は、フォトディテクタ54によって検出される。PPLN50を出射した光の強弱は、電気信号の大小に変換される。
【0058】
フォトディテクタ54から出力された電気信号は、電気ケーブル56を介してオフセット周波数制御部18に伝送され、電気ケーブル58を介して繰り返し周波数制御部22に伝送される。
【0059】
オフセット周波数制御部18は、高周波バンドパスフィルタ61、高周波アンプ62、ファンクションジェネレータ(Function generator:FG)64、周波数変換器(Double Balanced Mixer:DBM)66、ループフィルタ68を備える。高周波バンドパスフィルタ61は、フォトディテクタ54から出力された電気信号からオフセット周波数成分を抽出する。高周波アンプ62は、高周波バンドパスフィルタ61から出射された電気信号を増幅する。FG64は、所望の周波数を設定することによって該周波数の参照信号を発信できる。DBM66は、増幅された電気信号とFG64から発信された参照信号とを混合する。ループフィルタ68は、混合された電気信号に応じて光コム光源12の励起LD26の印加電流にフィードバックをかける。
【0060】
オフセット周波数制御部18では、FG64から発信される参照信号の周波数が変更されると、ループフィルタ68によって光コム光源12の励起LD26の印加電流にフィードバックがかかる。励起LD26の印加電流が変更され、光コム光源12から出射される光コムのオフセット周波数f
CEOがFG64から発信される参照信号の周波数に揃う。言い換えれば、FG64から発信される参照信号の周波数を制御することによって、光コム光源12から出射される光コムのオフセット周波数f
CEOを制御できる。
【0061】
繰り返し周波数制御部22は、高周波バンドパスフィルタ71、高周波アンプ72、FG74、DBM76、ループフィルタ78を備える。高周波バンドパスフィルタ71は、フォトディテクタ54から出力された電気信号から繰り返し周波数成分を抽出する。高周波アンプ72は、高周波バンドパスフィルタ71からの電気信号を増幅する。FG74は、所望の周波数を設定することによって該周波数の参照信号を発信できる。DBM76は、増幅された電気信号とFG74から発信された参照信号とを混合する。ループフィルタ78は、混合された電気信号に応じて、光コム光源12のPZT素子30に印加される電圧にフィードバックをかける。
【0062】
繰り返し周波数制御部22では、FG74から発信される参照信号の周波数が変更されると、ループフィルタ78によって前述のように光コム光源12のPZT素子30にフィードバックがかかる。これにより、光コム光源12のファイバレーザの共振器長が変更され、光コム光源12から出射される光コムの繰り返し周波数f
repがFG74から発信される参照信号の周波数に揃うようになる。言い換えれば、FG74から発信される参照信号の周波数を制御することによって光コム光源12から出射される光コムの繰り返し周波数f
repを制御できる。
【0063】
次いで、本発明の光コムの制御装置の構成及び制御手順を説明する。
【0064】
図5に示すように、本発明の制御装置(光コムの制御装置)100は、光コム出力機構10A,10Bと、周波数制御機構90と、連続発振レーザー(以下、CWレーザー)92と、周波数安定化機構94と、を備える。光コム出力機構10Aは光コムComb1を出射させるために設けられ、光コム出力機構10Bは光コムComb2を出射させるために設けられる。周波数制御機構90は、光コム出力機構10A,10Bのそれぞれに対してオフセット周波数差Δf
CEOを制御するための基準信号を入力する。CWレーザー92は、二つの光コムComb1,Comb2同士の位相を同期させる。周波数安定化機構94は、CWレーザー92から出射された連続発振光(以下、CW光)と二つの光コムComb1,Comb2のそれぞれとのビート信号を制御する。
【0065】
図5では、光コム出力機構10A,10Bのそれぞれの光コム出力部20、オフセット周波数制御部18のFG64、繰り返し周波数制御部22のFG74、PZT12等の主要部分を図示し、主要部分以外の図示は省略する。
【0066】
制御装置100は、二つの光コム出力機構10A,10Bを備えることで、FG64とFG74とをそれぞれ二つ備える。つまり、制御装置100は、二つの光コムComb1,Comb2のオフセット周波数f
CEO1,f
CEO2及び繰り返し周波数f
rep1,f
rep2の合計四つのパラメータを制御可能な構成として、FG64とFG74とをそれぞれ二つを備え、二つのFG64に対して基準信号を送信する周波数制御機構90をさらに備える。
【0067】
周波数安定化機構94は、コンピュータに内蔵されたプログラム等からなる周波数制御機構90と、FG130,132と、DBM108,118と、PID制御器110,120と、を備える。光コム出力機構10Aの光コム出力部20から出射された光コムComb1は、光カプラ102を介して光カプラ104に入射する。CWレーザー92から出射されたCW光は、光カプラ112を介して光カプラ104に入射する。光カプラ104で合わさった光コムComb1とCW光はフォトディテクタ等の受光部106で受光され、電気信号に変換される。受光部106から発せられた電気信号は、DBM108に入力され、FG130からの参照信号と合わさる。DBM108からの出力は、PID制御器110に入力される。PID制御器110からの出力は、CWレーザー92への入力電流値にフィードバックされる。
【0068】
CWレーザー92から出射されたCW光は、光カプラ112を介して光カプラ114にも入射する。光コム出力機構10Bの光コム出力部20から出射された光コムComb2は、光カプラ122を介して光カプラ114に入射する。光カプラ114で合わさった光コムComb2とCW光はフォトディテクタ等の受光部116で受光され、電気信号に変換される。受光部116から発せられた電気信号は、DBM118に入力され、FG132からの参照信号と合わさる。DBM118からの出力は、PID制御器120に入力される。PID制御器110からの出力は、光コム出力機構10Bの光コム光源12におけるPZT30の変位量にフィードバックされる。
【0069】
次いで、制御装置100を用いたオフセット周波数差Δf
CEOの制御手順の一例を説明する。
【0070】
先ず、光コムComb1の繰り返し周波数f
rep1及びオフセット周波数f
CEO1を、
図4を参照して説明した制御手順に従い、光コム出力機構10AのFG64,74から発信される参照信号の周波数に合わせて安定化させる。
【0071】
次に、光コム出力機構10Aの光コム出力部20より出力される光コムComb1とCW光とのビート信号を検出する。検出したビート信号をFG130からの参照信号に対して安定化させる。このような手順により、光コムComb1の繰り返し周波数f
rep1及びオフセット周波数f
CEO1にCW光の周波数を追随させる。
【0072】
次に、
図4を参照して説明した制御手順で、光コム出力機構10Bの光コム出力部20より出力される光コムComb2のオフセット周波数f
CEO2を安定化させたうえで、CW光と光コムComb2とのビート信号を検出し、検出したビート信号をFG118からの参照信号に対して安定化させる。このような手順により、光コムComb2の繰り返し周波数f
rep2をCW光の周波数に対して追随させる。その結果、光コムComb1に対してComb2が追随し、位相同期のとれたデュアルコム光源が得られる。
【0073】
光コム出力機構10AのFG64は、光コムComb1のオフセット周波数f
CEO1の参照信号を発する。光コム出力機構10AのFG74は、光コムComb1の繰り返し周波数f
rep1の参照信号を発する。FG132は、光コムComb2の繰り返し周波数f
rep2の参照信号を発する。周波数制御機構90によってFG64、FG64、FG132のそれぞれの設定を制御することで、任意の繰り返し周波数差やオフセット周波数差が得られる。周波数制御機構90は、オフセット周波数差Δf
CEOを制御するために、オフセット周波数差Δf
CEO、オフセット周波数f
CEO1、オフセット周波数f
CEO2、繰り返し周波数差Δf
rep、オフセット周波数f
rep1、オフセット周波数f
rep2の六つのパラメータ同士が任意の整数比で表される相対関係(所定の条件)が成り立つように、オフセット周波数f
CEO1,f
CEO2及びオフセット周波数f
rep1,f
rep2の四つのパラメータを制御する。つまり、制御装置100によって、二つの光コムComb1,Comb2のオフセット周波数差Δf
CEOが任意に制御される。
【0074】
上述の制御手順によれば、所望のオフセット周波数差Δf
CEOを有し、かつ互いに位相制御された光コムComb1,Comb2が光コム出力機構10A,10Bから出力される。
【0075】
以上説明したように、本発明の光コムの制御方法では、二つの光コムComb1,Comb2のオフセット周波数差Δf
CEOを積極的に制御することによって、二つの光コムComb1,Comb2のCEPを任意に制御できる。本発明の光コムの制御方法では、光コムのパルス列の特性を決める重要なパラメータ同士の対応関係を適切に制御できるので、任意のコヒーレント変調を行うことができる。コヒーレント変調を行う応用としては、例えばコヒーレント分光やコヒーレント物性解析、コヒーレント時間分解計測等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
本発明の制御装置100は、周波数制御機構90から任意の周波数の参照信号を光コム出力機構10AのFG64,74と、FG130,132と、光コム出力機構10BのFG64のそれぞれに入力することにより、互いに位相制御された光コムComb1,Comb2を生成できる。なお、前述のように、FG132から出力された参照信号は間接的に光コム出力機構10BのPZT30に入力される。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0081】
(実施例1)
図5に示すように、制御装置100の光コム出力機構10Aの光コム出力部20から出射される光コムComb1と制御装置100の光コム出力機構10Bの光コム出力部20から出射される光コムComb2とを合わせて干渉させ、干渉信号(Interferogram:IGM)を高速ディテクタ96によって受光した。高速ディテクタ96によって受光したIGMをデータ処理部98によって後処理することによって、IGMを不図示のディスプレイに可視化した。
【0082】
図7に示すように、二つの光コムComb1,Comb2同士の繰り返し周波数差Δf
repは、IGMが検出される周期に影響する。IGMが検出される周期は、
図7に示すIGMのプロット同士の時間軸上の間隔に相当する。時間軸上の位置が揃ったときの二つの光コムComb1,Comb2の一番目の波形に起因するIGMのプロットと、一番目の波形のタイミングから時間周期T
IGM=(1/Δf
rep)が経過した後の光コムComb1の(M+2)番目の波形及び光コムComb2の(M+1)番目の波形に起因するIGMのプロットは重なる。二つの光コムComb1,Comb2同士のオフセット周波数差Δf
CEOは、IGMの位相に影響する。IGMの位相は、
図7に示すIGMの波形の形状で示される。
【0083】
IGMをフーリエ解析することにより、例えば光コムComb1の出射方向の前方に試料Sやレーザー媒質を配置すれば、試料Sの光学的特性等の情報を含むスペクトルを取得できる。試料Sは、例えばシリコン,ヒ化ガリウム等の半導体である。レーザー媒質は、例えばEr:YAG、Nd:YAG等である。取得したスペクトルに含まれる光学的特性から、試料Sの様々な情報を得ることができる。
【0084】
本実施例では、繰り返し周波数Δf
rep=120.6Hzとし、オフセット周波数Δf
CEOが繰り返し周波数差Δf
repの整数の逆数倍になるように制御し、IGMを測定した。
図8A、
図8B、
図8Cの各図において、上段のグラフは所定の時間経過後のIGMを時間軸上で重ねて表示したものであり、下段のグラフは所定の時間経過後のIGMを紙面の上下方向にシフトさせて表示したものである。
【0085】
図8Aに示すように、オフセット周波数Δf
CEOを0に設定すると、時間が経過してもIGMの波形が変化せず、二つの光コムComb1,Comb2同士のオフセット周波数差Δf
CEOがIGMの波形に影響することが明らかにわかる。
【0086】
図8Bに示すように、オフセット周波数Δf
CEOを(Δf
rep/2)に設定すると、所定の時間が経過したときにIGMの波形が反転し、2π/2=πの位相シフトが生じたことがわかる。IGMにπの位相シフトが生じるように制御すると共に、連続的に取得されかつ互いに反転した分布を有するIGM同士の差分平均をとることにより、
図9に示すように、IGM同士に共通するノイズやバイアス等をキャンセルできる。
図8B及び
図9に示す測定結果により、オフセット周波数Δf
CEOが(Δf
rep/2)となるように制御することで、環境変動にロバストなIGMを検出できることを確認した。
【0087】
図8Cに示すように、オフセット周波数Δf
CEOをΔf
rep/3に設定すると、所定の時間が経過するに従ってIGMの波形が三つのパターンで繰り返され、2π/3の位相シフトが生じたことがわかる。
図8Cでは、IGMの三つのパターンがそれぞれ、実線、破線、一点鎖線で図示される。
【0088】
図8Aから
図8Cに示すように、オフセット周波数Δf
CEOが繰り返し周波数差Δ
repの(1/N)になるように制御することによって、IGMごとに(2π/N)の位相シフトを発生させ、コヒーレントな波形制御ができることを確認した。Nは、任意の自然数である。
【0089】
(実施例2)
図10Aに示すように、実施例2では、パルス列間の相対的なCEPを安定化させた光コム光源110を用意した。光コム光源110から出射された光コムComb1をAOM120に入射させ、光コムComb1の0次回折光と1次回折光とのオフセット周波数差Δf
CEOを制御した。また、いわゆるデュアルコム分光を行うために、光コム光源110とは別の光コム光源112を用意した。光コム光源110,112の中心波長λを1560nmとした。光コム光源110から発せられる光コムComb1の繰り返し周波数f
rep1を56.5MHzとした。光コムComb1と光コム光源112から発せられる光コムComb2との繰り返し周波数差Δf
repを120.6Hzとした。
【0090】
光コム光源110からの光コムComb1の出射方向の前方に、光コムComb1を所定の方向の直線偏光に変換するための(1/4)波長板116及び(1/2)波長板118を配置した。(1/2)波長板118からの光コムComb1の出射方向の前方に、AOM120を配置した。AOM120から、光コムComb1の0次回折光(
図10A)に示す0
th)と1次回折光(
図10Aに示す1
st)が平面視において互いに異なる角度で出射される。
図10Bに示すように、AOM120に周波数f
AOMで変調を加えることにより、光コムComb1の0次回折光と1次回折光とのオフセット周波数差Δf
CEOは、(14)式のように表される。
【0091】
【数14】
【0092】
図10Aに示すように、光コムComb1の0次回折光の出射方向の前方に、光路長変更部122を配置した。光コムComb1の1次回折光の出射方向の前方に、(1/2)波長板124を配置した。この配置により、光コムComb1の1次回折光の直線偏光の方向を光コムComb1の0次回折光の直線偏光の方向に対して直交させた。0次回折光と1次回折光とを偏光ビームスプリッタ(Polarizing Beam Splitter:PBS)126で合わせ、コヒーレント制御及び偏光変調された光パルスを生成した。
図10Cに示すように、コヒーレント制御及び偏光変調された光パルスでは、光コムComb1の0次回折光のパルス列の振動方向と1次回折光のパルス列の振動方向が互いに直交する。光コムComb1の0次回折光と1次回折光との相対的なCEP:Δφ
CEP´が生じ、(15)式が成り立つ。
【0093】
【数15】
【0094】
(15)式のtは、時間を表す。
【0095】
図10Aに示すように、光コム光源112からの光コムComb2の出射方向の前方に、光コムComb2を所定の方向の直線偏光に変換するための(1/4)波長板130、(1/2)波長板132、及び偏光板134を配置した。所定の直線偏光とした光コムComb2を、上述のようにコヒーレント制御及び偏光変調された光コムComb1の0次回折光及び1次回折光とビームスプリッタ(Beam Splitter:BS)138で合わせた。二つの光コムComb1,Comb2の干渉光をフォトディテクタ140で検出した。この構成では、光コムComb2は、ローカルオシレーター(local oscillator:LO)信号として機能する。フォトディテクタ140によって受光した干渉光をディジタイザ(データ処理部)142によって処理することで、干渉光を不図示のディスプレイに可視化した。ディジタイザ142に、参照用のクロック信号として、光コム光源112から出射されかつ(1/4)波長板130、(1/2)波長板132、及び偏光板134を通過していない光コムComb2を入力した。
【0096】
光路長変更部122を用いて、光コムComb1の0次回折光と1次回折光とのタイミングを合わせた。
図11Aに示すように、光コムComb1の0次回折光と1次回折光との相対的なCEP:Δφ
CEP´を、Δf
CEO=(Δf
rep/4)の条件下で変化させた。
【0097】
図11B及び
図11Cに示すように、LO信号としての光コムComb2の直線偏光の向きを紙面にて斜め右下がりにした場合、光コムComb1の直線偏光の向きが紙面にて斜め右下がりになったときに、光コムComb2の直線偏光の向きと互いに同一になり、強い干渉信号が生じた。光コムComb1が紙面にて左回りまたは右回りの円偏光になったときは、光コムComb1が光コムComb2の直線偏光を部分的に含む。このとき、光コムComb1の直線偏光の向きが紙面にて斜め右下がりである場合に比べて、弱い干渉信号が生じた。光コムComb1の直線偏光の向きが斜め左下がりであり、且つ光コムComb2の直線偏光の向きと互いに直交した場合、光コムComb1,Comb2が互いに干渉せず、他の場合に比べて干渉信号が非常に弱くなった。
【0098】
図11D及び
図11Eに示すように、LO信号としての光コムComb2の直線偏光の向きを紙面にて斜め左下がりにした場合、光コムComb1の直線偏光の向きが紙面にて斜め左下がりになったときに、光コムComb2の直線偏光の向きと互いに同一になり、強い干渉信号が生じた。光コムComb1が紙面にて左回りまたは右回りの円偏光となったときには、光コムComb1が光コムComb2の直線偏光を部分的に含む。このとき、光コムComb1の直線偏光の向きが紙面にて斜め左下がりである場合に比べて、弱い干渉信号が生じた。光コムComb1が斜め右下がりになり、且つ光コムComb2の直線偏光の向きと互いに直交した場合、光コムComb1,Comb2が互いに干渉せず、他の場合に比べて非常に弱い干渉信号が生じた。
【0099】
図11Aから
図11Eに示す結果からわかるように、AOMを用いた周波数シフトによって、Comb1の0次回折光と1次回折光とのオフセット周波数差Δf
CEOが所望の条件(本実施例では、Δf
CEO=Δf
rep/4)を満たすように制御できる。また、本実施例では、Comb1の0次回折光と1次回折光とを互いに直交させ、空間的及び時間的に重ね合わせた。このとき、前述の所望の条件に応じて、直線偏光や楕円偏光、円偏光等に変調された偏光干渉波形を生成した。本発明を適用することによって、偏光干渉による相対的なCEPの高速変調及びコヒーレント検出が可能になることを確認した。