(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963335
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】膜小胞組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20211025BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20211025BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20211025BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20211025BHJP
A23L 33/14 20160101ALI20211025BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20211025BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20211025BHJP
A61K 39/02 20060101ALI20211025BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20211025BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20211025BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20211025BHJP
A61K 36/064 20060101ALI20211025BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20211025BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20211025BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/14 A
C12N1/14 E
C12N1/16 G
A23L33/135
A23L33/14
A61K8/99
A61K8/9728
A61K39/02
A61K39/00 K
A61P37/04
A61K35/74 A
A61K36/064
A61K35/747
A61K35/745
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-500970(P2020-500970)
(86)(22)【出願日】2019年2月19日
(86)【国際出願番号】JP2019006134
(87)【国際公開番号】WO2019163785
(87)【国際公開日】20190829
【審査請求日】2020年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2018-27897(P2018-27897)
(32)【優先日】2018年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年8月21日、第59回歯科基礎医学会学術大会抄録(URL:http://www.jaob.jp/file/abstract/59/all.pdf)で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年9月17日、松本歯科大学キャンパスで開催された第59回歯科基礎医学会学術大会で発表
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11439
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100206944
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 絵美
(72)【発明者】
【氏名】中尾 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】吉益 由莉
(72)【発明者】
【氏名】池田 剛
(72)【発明者】
【氏名】生田 智樹
(72)【発明者】
【氏名】室井 康平
【審査官】
竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−527235(JP,A)
【文献】
特表2016−520040(JP,A)
【文献】
特表2013−505716(JP,A)
【文献】
吉益由莉、ほか,プロポリスは細菌表層での異常な小胞形成を誘導し迅速に殺菌する,日本細菌学雑誌、2017年、72巻、1号、135頁、P−257
【文献】
AGA H et al.,Isolation and Identification of Antimicrobial Compounds in Brazilian Propolis,Biosci. Biotech. Biochem., 1994, 58(5), pp.945-946
【文献】
西尾美緒、ほか,プロポリス中の抗う蝕性物質について,ミツバチ科学、1996年、17巻、4号、151−154頁
【文献】
大石誠子,水可溶性プロポリス溶液,食品と開発、2004年、39巻、4号、76−78頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌及び/又は菌類をアルテピリンCで処理して当該細菌及び/又は菌類に膜小胞を産生させる工程を含み、アルテピリンCで細菌及び/又は菌類を処理する際に、細菌及び/又は菌類を含む培地中にアルテピリンC以外のプロポリス由来成分が共存していない、膜小胞組成物の製造方法。
【請求項2】
前記細菌及び/又は菌類が、グラム陽性菌、グラム陰性菌及び酵母からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法によって膜小胞組成物を得る工程、及び、前記膜小胞組成物を配合する工程を含む、医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の製造方法によって膜小胞組成物を得る工程、及び、前記膜小胞組成物を含むワクチンの製造方法。
【請求項5】
免疫力賦活化剤の製造方法であって、
請求項1又は2に記載の製造方法によって細菌及び/又は菌類から膜小胞組成物を得る工程を含み、前記細菌及び/又は菌類が免疫力賦活化作用を有するものであり、前記免疫力賦活化剤が前記膜小胞組成物を有効成分として含む、製造方法。
【請求項6】
アルテピリンCを有効成分とする、細菌及び/又は菌類の膜小胞産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜小胞組成物の製造方法に関する。本発明はまた、医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品の製造方法、ワクチンの製造方法、及び免疫力賦活化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌及び菌類は広く膜小胞を産生することが知られている(非特許文献1)。細菌性髄膜炎等の疾患のワクチンの製造に、病原菌から採取した膜小胞が用いられている例がある(非特許文献2)。また、乳酸菌が膜小胞を産生し、当該膜小胞が免疫調節能を有することが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Brown et al., Nature Reviews Microbiology, 2015, Vol.13, No.10, p620-630
【非特許文献2】Acevedo et al., Frontiers in Immunology, 2014, Vol. 5, No.121, p1-7
【非特許文献3】Al-Nedawi et al., The FASEB Journal, 2015, Vol. 29, p684-695
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細菌又は菌類が産生した膜小胞は、通常、細菌又は菌類の培養液から超遠心法によって採取される。しかしながら、細菌又は菌類が産生する膜小胞は微量であり、上記方法で得られる量は少ないため、より効率よく膜小胞を産生する方法が求められている。
【0005】
本発明は、細菌及び/又は菌類の膜小胞をより効率よく得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、アルテピリンCに細菌及び菌類の膜小胞産生促進作用があることを見出した。
【0007】
本発明の膜小胞組成物の製造方法は、細菌及び/又は菌類をアルテピリンCで処理して当該細菌及び/又は菌類に膜小胞を産生させる工程を含む。上記製造方法により、細菌及び/又は菌類の膜小胞を効率よく得ることができる。
【0008】
上記製造方法において、細菌及び/又は菌類は、グラム陽性菌、グラム陰性菌及び酵母からなる群から選ばれる少なくとも1つであってよい。
【0009】
本発明はまた、上記製造方法で得られた膜小胞組成物を配合する工程を含む、医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品の製造方法を提供する。上記方法により、細菌及び/又は菌類が膜小胞中に産生する有用成分を含む医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品を製造することができる。
【0010】
本発明はまた、上記製造方法で得られた膜小胞組成物を含むワクチンの製造方法を提供する。当該製造方法により、膜小胞組成物を含むワクチンをより効率よく簡便に製造することができる。
【0011】
本発明はまた、免疫力賦活化剤の製造方法であって、該免疫力賦活化剤が、上記製造方法で得られた膜小胞組成物を有効成分として含み、上記細菌及び/又は菌類が、免疫力賦活化作用を有するものである製造方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、アルテピリンCを有効成分とする細菌及び/又は菌類の膜小胞産生促進剤を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、細菌及び/又は菌類の膜小胞をより効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】アルテピリンC処理前後の細菌を示すHS−AFM像である。
【
図3】アルテピリンC処理後のEscherichia coli Nissle 1917菌体を示す走査型電子顕微鏡像である。
【
図4】アルテピリンC処理後のLactobacillus kunkeei JCM 16173菌体を示す走査型電子顕微鏡像である。
【
図5】アルテピリンC処理後のLactobacillus kunkeei BPS402菌体を示す走査型電子顕微鏡像である。
【
図6】アルテピリンC処理後のBifidobacterium longum BB536菌体を示す走査型電子顕微鏡像である。
【
図7】アルテピリンC処理後のSaccharomyces cerevisiae d3010菌体を示す走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係る膜小胞組成物の製造方法は、細菌及び/又は菌類をアルテピリンCで処理して当該細菌及び/又は菌類に膜小胞を産生させる工程を含む。アルテピリンCは細菌及び菌類の膜小胞の産生を促進する作用を有するため、当該製造方法により、膜小胞をより効率よく簡便に得ることができる。
【0017】
<アルテピリンCによる細菌/菌類の処理>
細菌及び/又は菌類をアルテピリンCで処理することにより、当該細菌及び/又は菌類の体外の膜上での膜小胞産生を促進することができる。アルテピリンCによる細菌又は菌類の処理は、具体的には例えば、細菌及び/又は菌類とアルテピリンCとを培地中に共存させることにより行うことができる。培地は、例えば、液状、半固形状又は固形状であってよい。アルテピリンCによる細菌及び/又は菌類の処理は、具体的には例えば、生菌体を含む培養液又は固形培地に、アルテピリンCを添加して行うことができる。アルテピリンCによる細菌及び/又は菌類の処理時間は、例えば1分以上であってよく、5分以上、10分以上、15分以上、20分以上、30分以上であってよい。上記処理時間は例えば1時間以下であってよい。
【0018】
細菌及び/又は菌類に処理するアルテピリンCの濃度は、例えば、細菌及び/又は菌類を含む培地中、1〜2000μMであってよく、10〜1500μM、50〜1200μMであってもよく、2〜75μM、5〜50μM又は7〜30μMであってもよい。アルテピリンCによる細菌の処理は液中で行われることが好ましい。
【0019】
本実施形態に係る製造方法において用いられるアルテピリンCとしては、例えば、公知の方法で合成されたものであってよく、プロポリス等の天然原料由来のものであってもよい。アルテピリンCとしては、プロポリスを精製してプロポリス中のアルテピリンC濃度が高められたものを用いてもよい。アルテピリンCの市販品としては例えばアルテピリンC(和光純薬工業株式会社)等を用いることができる。
【0020】
アルテピリンCを細菌及び/又は菌類に処理する際には、細菌及び/又は菌類を含む培地中、ウルソール酸の濃度が62.5μM以下であることが好ましく、ウルソール酸を含まないことがより好ましく、培地中にアルテピリンC以外のプロポリス由来成分が共存していないことが更に好ましい。これにより、膜小胞の産生をより促進することができ、菌体の溶菌に伴う膜小胞の汚染を防ぐことができる。
【0021】
膜小胞の産生は、例えば、透過型又は操作型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等の顕微鏡により菌体を観察することにより確認することができる。
【0022】
<膜小胞組成物>
本実施形態に係る製造方法により得られる膜小胞組成物は、細菌及び/又は菌類が産生した膜小胞のみからなるものであってよく、膜小胞の一部の成分を含むものであってもよく、膜小胞又は膜小胞の一部の成分に加えてその他の成分が含まれるものであってもよい。膜小胞組成物は、懸濁液、ペースト、粉末等の形態であってよい。
【0023】
本実施形態の製造方法により得られる膜小胞組成物は、膜小胞に由来する成分を、例えば1〜100質量%含むものであってよく、膜小胞に由来する成分を10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上含むものであってもよい。膜小胞組成物は、分解せずに膜に覆われた構造を維持している膜小胞を含むことが好ましい。また、膜小胞組成物は、細菌及び/又は菌類菌体の破砕断片等を含まないことが好ましい。
【0024】
細菌及び菌類は広い範囲の種類において膜小胞産生能を有することが知られている。本実施形態に係る製造方法において用いられる細菌としては、膜小胞産生能を有するものであれば特に限定されない。細菌は、グラム陰性菌又はグラム陽性菌であってよい。細菌は、球菌、桿菌、らせん菌等であってよい。細菌は、好気性菌、嫌気性菌、通性嫌気性菌のいずれであってもよい。細菌は、例えば、髄膜炎菌、歯周病菌、大腸菌、緑膿菌、淋菌、腸炎ビブリオ菌、レジオネラ菌、赤痢菌、百日咳菌、サルモネラ菌、ピロリ菌、ライム菌(ライム病ボレリア)、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、結核菌、破傷風菌、ボツリヌス菌、炭疽菌、ジフテリア菌等の病原細菌、乳酸菌、ビフィズス菌、枯草菌、根粒菌(バクテロイドの形態であってもよい)、プレボテラ、クロストリジウム等であってよい。菌類は例えば酵母であってよい。
【0025】
細菌として病原細菌を用いる場合、当該病原細菌が産生した膜小胞又はそれに由来する成分は、公知の方法により、当該病原細菌を対象とするワクチン用の免疫原として用いることができる。したがって、本実施形態に係る膜小胞組成物の製造方法により得られた膜小胞組成物は、当該組成物を含むワクチンの製造に用いることができる。ワクチンは治療用であってもよく、予防用であってもよい。ワクチンは、ヒト用であってよく、魚類用、鳥類用、ほ乳類用等の動物用であってよい。ワクチンは、粉末状又は液状であってよい。ワクチンの形態は特に限定されず、例えば、素錠、糖衣錠、顆粒、粉末、タブレット、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、シームレスカプセル)であってよい。ワクチンがヒト用である場合、投与形態は特に限定されず、例えば、注射摂取、経皮摂取、経口摂取、経鼻摂取されてもよい。
【0026】
乳酸菌等の有用細菌及び/又は菌類が分泌する有用成分は、当該細菌及び/又は菌類が産生する膜小胞中にも含まれることが知られている。したがって細菌及び/又は菌類から得られた膜小胞は、当該細菌及び/又は菌類が有する効能を具備した成分として利用することができる。したがって、細菌又は菌類として例えば免疫力賦活化作用を有するものを用いて膜小胞を産生させることによって、免疫力賦活化作用を有する膜小胞組成物を得ることができる。本発明の一実施形態において、免疫力賦活化作用を有する細菌及び/又は菌類をアルテピリンCで処理して当該細菌及び/又は菌類に膜小胞を産生させる工程を含む、膜小胞組成物を有効成分として含む免疫力賦活化剤の製造方法が提供される。
【0027】
乳酸菌は、例えば、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、ラクトコッカス属、ビフィドバクテリウム属等であってよい。乳酸菌を用いることにより、当該乳酸菌が有する生理活性を有する細菌膜小胞を得ることができる。
【0028】
乳酸菌は、例えば、ラクトバチルス・クンキーであってよく、ラクトバチルス・クンキーBPS402(受託番号FERM BP−11439)であることが好ましい。ラクトバチルス・クンキーBPS402には高いIgA産生促進作用に基づく免疫力賦活化作用があることが分かっている。したがって本実施形態に係る細菌膜小胞組成物の製造方法において、例えば、細菌としてラクトバチルス・クンキーBPS402を用いることによって、免疫力賦活化の効果を有する細菌膜小胞組成物を得ることができる。一実施形態において、ラクトバチルス・クンキーBPS402由来の膜小胞組成物を有効成分として含む、免疫力賦活化剤、又はIgA等の免疫グロブリン産生促進剤の製造方法が提供される。ラクトバチルス・クンキーBPS402は、2011年10月3日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6、〒305−8566、現独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室、〒292−0818))に、受託番号FERM P−22177として寄託されており、入手可能である。また、当該菌株は、現在国際寄託に移管されており、受託番号はFERM BP−11439である。
【0029】
本実施形態に係る膜小胞組成物の製造方法において用いられる細菌及び/又は菌類は、各細菌及び/又は菌類において適した条件で予め培養して用意したものを用いることができる。
【0030】
<膜小胞>
本実施形態に係る製造方法において細菌及び/又は菌類により産生される膜小胞の大きさは、例えば、10〜600nm、20〜400nm、又は40〜300nmであってよい。膜小胞は、細胞膜により覆われた構造を有する。膜小胞は、例えば、DNA、RNA等の核酸、タンパク質、シグナル物質、病原物質、免疫調節因子、その他の生理活性物質を含んでいてよく、リポ多糖、リポタンパク質、ペプチドグリカン等の、細菌及び/又は菌類の細胞膜又は細胞壁由来の成分を含んでいてもよい。膜小胞は、例えば細菌及び/又は菌類の細胞膜又は外膜由来のものであってよい。
【0031】
本実施形態に係る膜小胞組成物の製造方法は、膜小胞組成物を単離する工程を更に含んでもよい。細菌及び/又は菌類の膜上に産生された膜小胞又は当該膜小胞を含む組成物は、公知の方法により単離することができる。具体的には例えば、菌体を含む培養液、又は菌体を含む培地を懸濁又は溶解させた液から、遠心機により菌体を取り除き、必要に応じて上清をろ過、精製等の処理を経て得ることができる。上清を更に超遠心機にかけて、膜小胞とその他の物質とを分離して精製してもよい。上清は濃縮してから精製してもよい。本実施形態に係る製造方法により得られた膜小胞組成物は、菌体から単離せずに菌体とともに用いられてもよい。
【0032】
<医薬品、医薬部外品、化粧品、食品>
本実施形態に係る膜小胞組成物の製造方法により得られた膜小胞組成物は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び/又は食品の成分として、これらの製品の製造に用いることができる。したがって、本発明の一実施形態は、上記膜小胞組成物の製造方法により得られた膜小胞組成物を配合する工程を含む、医薬品、医薬部外品、化粧品及び/又は食品の製造方法を提供する。膜小胞組成物は、必要に応じて、希釈、濃縮、乾燥、加熱等の処理をしたものを上記製品の製造に用いてもよい。
【0033】
特に細菌及び/又は菌類が乳酸菌等の有用細菌又は菌類である場合には、当該得られた膜小胞に由来する成分を医薬品、医薬部外品、化粧品及び/又は食品の成分として用いることにより、当該細菌及び/又は菌類が有する効能を具備する医薬品、医薬部外品、化粧品及び/又は食品を製造することができる。例えば免疫賦活化作用を有する細菌及び/又は菌類から得られた膜小胞由来の成分を、医薬品、医薬部外品、化粧品及び/又は食品の原料に配合することにより、免疫賦活化用医薬品、免疫賦活化用医薬部外品、免疫賦活化用化粧品、免疫賦活化用食品を製造することができる。
【0034】
膜小胞組成物の医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品への配合は、例えば、予め用意した膜小胞組成物を、医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品の原料と混合することによって行ってもよく、あるいは、医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品中に、アルテピリンCと、膜小胞を産生させる細菌及び/又は菌類とを配合しておくことにより、製品中で膜小胞組成物を産生させることによって行ってもよい。医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品は、アルテピリンCと、膜小胞を産生する細菌及び/又は菌類とを含んでいてもよい。
【0035】
医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品中の、膜小胞組成物の含有量は、例えば、0.001質量%以上であってよく、0.01質量%以上、0.1質量%以上、1質量%以上、5質量%以上又は10質量%以上であってもよい。医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品中の、膜小胞組成物の含有量は、例えば、100質量%以下、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下であってよい。
【0036】
医薬品又は医薬部外品としては、膜小胞又は膜小胞由来成分をそのまま用いてもよく、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤等を含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液若しくは電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)等の剤形としたものを用いてもよい。これらの各種製剤は、例えば、有効成分である膜小胞組成物と、必要に応じて他の成分とを混合して上記剤形に成形することによって調製することができる。
【0037】
医薬品又は医薬部外品に使用されるその他の成分としては、例えば、薬学的に許容される、賦形剤、結合材、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等を挙げることができる。
【0038】
本実施形態に係る化粧品には、膜小胞組成物以外に、通常化粧品に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0039】
本実施形態に係る化粧品の剤形は、例えば、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油2層系、水−油−粉末3層系等であってよい。上記化粧品は、例えば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パック、マスク、ミスト、UV予防化粧品等の基礎化粧品、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等のメークアップ化粧品、洗顔料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、へアートリートメント、整髪料、へアートニック剤、ヘアミスト、ヘアフォーム、ヘアリキッド、ヘアジェル、ヘアスプレー、育毛剤、制汗剤、入浴剤、マウスリンス、口腔化粧品、歯磨剤などであってよい。
【0040】
本実施形態に係る食品は、食品の3次機能(体調調節機能)が強調された食品であってもよい。食品の3次機能が強調された食品としては、例えば、健康食品、機能性表示食品、栄養補助食品、サプリメント及び特定保健用食品を挙げることができる。
【0041】
食品には、必要に応じて、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘昧料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等が配合されてもよい。食品は、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよい。
【0042】
食品としては例えば以下のものが挙げられる:コーヒー、茶飲料、ジュース、炭酸飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、並びに、日本酒、洋酒、果実酒及びハチミツ酒等の酒などの飲料;カスタードクリーム等のスプレッド;フルーツペースト等のペースト;チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ及びプリン等の洋菓子;大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ及び羊羹等の和菓子;アイスクリーム、アイスキャンデー及びシャーベット等の氷菓;カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等の調理済みの食品;ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料及びスープの素等の調味料。
【0043】
アルテピリンCは細菌及び菌類の膜小胞産生を促進する作用がある。したがって、本発明の一実施形態は、アルテピリンCを有効成分とする細菌及び/又は菌類の膜小胞産生促進剤を提供する。膜小胞産生促進剤における、アルテピリンC、細菌及び菌類の具体的な態様は、上述の膜小胞組成物の製造方法における態様を適用できる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[試験例1]
アルテピリンC(プロポリスからの精製品)をDMSOに溶解し、アルテピリンC25μM(7.5μg/mL)溶液を調製した。歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis ATCC 33277(ATCCより入手)を、HS−AFM(高速原子間力顕微鏡)観察用にガラススライド上に固定化した。固定化した菌体上にアルテピリンC溶液を滴下することによりアルテピリンC処理を行った。HS−AFM装置(オリンパス社製)を用いて、アルテピリンC処理前後のナノスケールでの細菌菌体の挙動を観察した。アルテピリンC処理前、処理後10分毎(t=10、20、30分)でのHS−AFM像を
図1に示す。各像の大きさは、1520nm×1140nm(x×y)の範囲を示す。
【0046】
アルテピリンC処理30分後の細菌菌体について、HS−AFM観察により、1つの細菌菌体当たり3つの異なる領域をランダムに選択し、それぞれにおける膜小胞の数を目視で数え、3つの領域における膜小胞の総数を求めた。3個の細菌菌体について同様に膜小胞の総数を求め、細菌菌体1つ当たりの平均値を求めた。結果を表1及び
図2に示す。アルテピリンC、エタノール抽出プロポリス100μg/mL、バッカリン(プロポリスからの精製品)100μM(56.3μg/mL)をDMSOに溶解したものを用いて、上記と同様に細菌に処理し、膜小胞の産生量を数えた。エタノール抽出プロポリス水溶液としては、プロポリス原塊をエタノールで抽出し、ろ過した後、濃縮したものを100μg/mLに調節したものを用いた。結果を表1及び
図2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
エタノール抽出プロポリス、アルテピリンC及びバッカリンによる処理において膜小胞の産生が確認された(表1、
図2)。アルテピリンCによる処理では、処理時間の経過とともに小胞数及び小胞直径が増大する傾向が見られた(
図1)。1μg/mL当たりに換算すると、アルテピリンC処理による膜小胞産生作用は、エタノール抽出プロポリス処理の18.75倍と算出された。
【0049】
また、アルテピリンC及びバッカリンは、使用したエタノール抽出プロポリス中にそれぞれ9.5質量%、3.5質量%の濃度で存在することが分かっている。したがってアルテピリンCはエタノール抽出プロポリス水溶液100μg/mL中に9.5μg/mLの濃度で存在している。ここで、アルテピリンC単独での結果から算出されたアルテピリンC1μg/mL当たりの膜小胞産生量は表1に示すとおり7.5個であるから、仮にエタノール抽出プロポリス中のアルテピリンCがアルテピリンC単独と同等の効果を発揮するとすれば、エタノール抽出プロポリス100μg/mLの処理により、少なくとも71.25個の膜小胞産生が見られるはずである。しかしながら実際のエタノール抽出プロポリス処理による膜小胞産生の効果はこの約半分であり、アルテピリンC単独で処理することの優位性が示された。
【0050】
[試験例2]
大腸菌(Escherichia coli Nissle 1917)、乳酸菌(Lactobacillus kunkeei JCM 16173、Lactobacillus kunkeei BPS402)、ビフィズス菌(Bifidobacterium longum BB536)及び酵母(Saccharomyces cerevisiae バラ蜂蜜由来 d3010)を用いて、アルテピリンCによる膜小胞産生促進作用を確認するための実験を行った。用意した各種菌体をPBSバッファーに懸濁し、菌体を含む液を基板上に添加して室温で10〜30分おき、基板上に菌体を接着させた。基板をPBSバッファーで洗浄した後、各被験物質を基板上に滴下し、室温で2時間反応させた。被験物質としては、DMSO10%水溶液にアルテピリンCを100μM又は1000μMの濃度で溶解した液を用いた。対照として、DMSO10%水溶液を用いた。
【0051】
処理後の菌体を2.5%グルタルアルデヒド/2%パラホルムアルデヒドを含むPBSで固定し、走査型電子顕微鏡にて観察した。結果を
図3〜7に示す。いずれの細菌及び菌類においても、100μM及び1000μMの濃度でアルテピリンCによる膜小胞産生促進の効果が確認された。乳酸菌では処理による菌体の形態変化はほぼ観察されず、外膜上に均一に小胞が形成されている傾向が観察された。原核生物でグラム陰性菌である大腸菌、グラム陽性菌である乳酸菌及びビフィズス菌、並びに真核生物である酵母において膜小胞産生活性が認められた。アルテピリンCの膜小胞誘導効果が、様々な細菌及び菌類に対して有効であることが確認された。