(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963336
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】改変EGFタンパク質、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20211025BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20211025BHJP
C07K 14/485 20060101ALI20211025BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20211025BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20211025BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20211025BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20211025BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20211025BHJP
C12N 15/19 20060101ALN20211025BHJP
C07K 1/22 20060101ALN20211025BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12P21/02 HZNA
C07K14/485
C12N5/10
A61K38/18
A61P17/00
A61K8/64
A61Q19/08
!C12N15/19
!C07K1/22
【請求項の数】22
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-542519(P2020-542519)
(86)(22)【出願日】2018年10月23日
(65)【公表番号】特表2021-500069(P2021-500069A)
(43)【公表日】2021年1月7日
(86)【国際出願番号】KR2018012569
(87)【国際公開番号】WO2019083256
(87)【国際公開日】20190502
【審査請求日】2020年6月9日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0137132
(32)【優先日】2017年10月23日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0137140
(32)【優先日】2017年10月23日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0125012
(32)【優先日】2018年10月19日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518438092
【氏名又は名称】プロゲン・シーオー.,エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】PROGEN CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ズンユン
(72)【発明者】
【氏名】ナム、ウンジュ
【審査官】
山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2015/0031611(US,A1)
【文献】
特表2005−521401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/63
C12P 21/02
C07K 14/485
C12N 5/10
A61K 38/18
A61P 17/00
A61K 8/64
A61Q 19/08
C12N 15/19
C07K 1/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する改変EGFタンパク質。
【請求項2】
前記配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する改変EGFタンパク質が、配列番号5で示される塩基配列によりコードされるものである、請求項1に記載の改変EGFタンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載の改変EGFタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項4】
請求項3に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項5】
前記宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)である、請求項4に記載の宿主細胞。
【請求項6】
改変EGFタンパク質を製造する方法であって、
工程1) 改変EGFタンパク質を産生する宿主細胞を培養温度35℃〜38℃で培養し;
工程2) 前記宿主細胞を、培養温度を32℃〜34℃に低下させた状態で培養する
工程を含み、
前記改変EGFタンパク質が、配列番号2又は配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する、方法。
【請求項7】
前記工程1の培養を3〜8日間行う、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程1の培養温度が37℃である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記工程1の培養をpH6.8〜7.3で行う、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記工程2の培養を7〜12日間行う、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記工程2の培養温度が33℃である、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記工程2の培養をpH6.8〜7.1で行う、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記工程1において培養した細胞の数が6×106〜9×106細胞/mlに達した場合に、培養温度を低下させる、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記工程1及び/又は工程2の培養が流加培養である、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
培養液から得た前記改変EGFタンパク質を精製することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項16】
前記精製をアフィニティークロマトグラフィーにより行う、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アフィニティークロマトグラフィーがプロテインA結合樹脂を使用する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)である、請求項6に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の改変EGFタンパク質を有効成分として含む、皮膚状態を改善するための化粧料組成物。
【請求項20】
前記皮膚状態の改善が、しわ形成の阻止、皮膚老化の阻止、皮膚弾力性、皮膚再生、外傷又は創傷治癒の改善、角質層の再生、皮膚刺激の緩和、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項19に記載の化粧料組成物。
【請求項21】
請求項1に記載の改変EGFタンパク質を有効成分として含む、皮膚疾患を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項22】
前記皮膚疾患が、足部潰瘍、褥瘡、口腔粘膜炎、熱傷、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項21に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変EGFタンパク質、その製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品業界の継続的な発展に伴い、素材に新技術を応用することにより得られた高機能化粧品が化粧品業界全体で開発されている。また、美白、シワ改善、皮膚再生などの効果を求める顧客の増加に伴い、化粧品業界では機能性化粧品の価値が高まり、さまざまな素材を化粧品に組み込む研究が盛んに行われている。最近、表皮成長因子(EGF)は、その優れた皮膚再生能力などにより多くの注目を集めている。
【0003】
EGFは6kDaの小さなタンパク質で、細胞の核に作用し表皮細胞の分裂及び増殖を促進することにより、皮膚の再生過程に関与している。また、このタンパク質は、コラーゲンシンターゼの分泌を調節し、角質層の潰瘍又は損傷の回復に大きな効果を示す(Young Seok Kim, 2006)。EGFは、皮膚状態を改善する化粧品、糖尿病性足潰瘍の治療薬、創傷治癒剤などに広く用いられているが、このタンパク質は、創傷領域への送達、持続性などが比較的低いという問題がある。したがって、増加したin vivoでの透過性及び持続性を有する新しいEGFタンパク質を開発する必要がある。
【発明の開示】
【0004】
本発明者らは、既存のEGFタンパク質と比較して、優れた細胞透過性、in vivo持続性及び安定性を有する改変EGFタンパク質を発見し、これにより、本発明を完成させた。
【0005】
本発明の目的は、改変EGFタンパク質、その製造方法及びその使用を提供することである。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する改変EGFタンパク質を提供する。
【0007】
また、本発明は前記改変EGFタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0008】
また、本発明は前記発現ベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0009】
また、本発明は、1)改変EGFタンパク質を産生する宿主細胞を培養温度35℃〜38℃で培養し;かつ、2)前記宿主細胞を、培養温度を32℃〜34℃に低下させた状態で培養する工程を含む、改変EGFタンパク質を製造する方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、本発明の改変EGFタンパク質を有効成分として含む、皮膚状態を改善するための化粧料組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、本発明の改変EGFタンパク質を有効成分として含む、皮膚疾患を予防又は治療するための医薬組成物を提供する。
【0012】
本発明の改変EGFタンパク質は細胞膜に結合し、EGFは効果的に細胞に送達され、それにより細胞透過性及び半減期が増加する。また、過酷な条件でEGFが完全な状態を維持するという点で、改変EGFタンパク質は向上した長期安定性を有する。したがって、タンパク質の変性のために有効期間が短く、保管及び流通が困難な化粧料組成物及び医薬組成物に、このタンパク質は、非常に効果的に応用することがでる。さらに、本発明の改変EGFタンパク質の製造方法は、改変EGFタンパク質を活性な形態で製造することが可能で、最適な培養温度及びpHの確立により優れた生産性で実施できるため、商業的に使用することができる。本発明のある態様では、改変EGFタンパク質は、2.3g/L以上の生産性及び75%以上の精製収率で生産され、このことは、本発明の改変EGFタンパク質の生産方法の優位性を示す。したがって、本発明の改変EGFタンパク質は、細胞透過性及びin vivoでの持続性と安定性の点で既存のEGFタンパク質よりも優れており、化粧料組成物又は医薬組成物として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、EGF-deriタンパク質を発現することができる遺伝子構築物の構造の概略図である。
【
図2】
図2は、選択した6つのリサーチセルバンク(RCB)候補細胞株で発現させたEGF-deriタンパク質のSDS−PAGEの結果である。
【
図3】
図3は、最終細胞株の長期継代安定性を確認するために、35継代の間に測定されたEGF-deriタンパク質の生産性及び倍加時間のグラフである。
【
図4A】
図4A〜4Cは、過酷な条件下での経時的なEGF-deriタンパク質の活性のグラフである。
図4Aは、初期段階でのEGF-deriタンパク質の活性を示す。
【
図4B】
図4A〜4Cは、過酷な条件下での経時的なEGF-deriタンパク質の活性のグラフである。
図4Bは、2か月後のEGF-deriタンパク質の活性を示す。
【
図4C】
図4A〜4Cは、過酷な条件下での経時的なEGF-deriタンパク質の活性のグラフである。
図4Cは、3か月後のEGF-deriタンパク質の活性を示す。
【
図5】
図5は、凍結解凍(F/T)の繰返しに応じた、EGF-deriタンパク質の活性の経時変化のグラフである。F/Tサイクルは合計5回繰り返した。
【
図6】
図6は、Balb/cマウス及びSKH-1ヘアレスマウスの皮膚をFITCで標識されたPBS、EGF、EGF-deri及びEGFリポソームタンパク質の各々で処置し、6時間及び12時間後に、共焦点蛍光顕微鏡を用いて皮膚のそれぞれの層におけるタンパク質の透過性を分析して得た結果である。
【
図7】
図7は、Balb/cマウス及びSKH-1ヘアレスマウスの皮膚を、FITCで標識されたPBS、EGF、EGF-deri及びEGFリポソームタンパク質の各々で処置し、血中EGF濃度を経時的に測定して得た結果である。EGF(s.c.)は、EGFを皮下注射した群を意味する。
【
図8A】
図8Aは、培養方法の開発においてサプリメントの最適な組合せを選択するために使用された結果である。
【
図8B】
図8Bは、培養方法の開発においてサプリメントの最適な組合せを選択するために使用された結果である。
【
図8C】
図8Cは、培養方法の開発においてサプリメントの最適な組合せを選択するために使用された結果である。
【
図9A】
図9Aは、最終的に確立された培養条件での生存細胞密度、生存能力及び生産性である。
【
図9B】
図9Bは、最終的に確立された培養条件での生存細胞密度、生存能力及び生産性である。
【
図9C】
図9Cは、最終的に確立された培養条件での生存細胞密度、生存能力及び生産性である。
【
図10A】
図10Aは、確立された精製方法に従って達成された精製収率及び純度である。
【
図10B】
図10Bは、確立された精製方法に従って達成された精製収率及び純度である。
【
図11】
図11は、標準的なEGFと比較したEGF-deriタンパク質のin vitro活性である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のある態様では、配列番号2又は配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する改変EGFタンパク質が提供される。
【0015】
本明細書では、「EGF」という用語は、分子量6kDaで53アミノ酸からなるタンパク質(配列番号1)を指す。EGFは表皮細胞の分裂及び増殖を促進し、それにより皮膚損傷を回復し、角質層潰瘍治癒を促進し、皮膚再生などを行い、また、新しい血管を形成し、線維芽細胞を増殖し、コラーゲンシンターゼを分泌する。
【0016】
本明細書では、「改変EGFタンパク質」という用語は、EGF誘導体(以下、EGF-deriという)を指してもよい。本発明では、EGF-deriは、配列番号5で示される塩基配列によりコードされるものであってもよい、配列番号4で示されるアミノ酸配列であってもよい。また、ある態様では、EGF-deriはシグナル配列を含んでいてもよい。シグナル配列を含むEGF-deriは、配列番号2で示されるアミノ酸配列であってもよく、それは配列番号3で示される塩基配列によりコードされてもよい。ある態様では、EGF-deriは、標準のEGFと比較してin vivoでの送達及び持続性が向上しているだけでなく、過酷な条件でも長期間タンパク質の活性を保持する可能性がある。したがって、タンパク質の変性のために有効期間が短く、保管及び流通が困難な化粧料組成物に、EGF-deriは、非常に効果的に応用することがでる。
【0017】
本発明の別の態様では、改変EGFタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び前記発現ベクターで形質転換された宿主細胞が提供される。前記発現ベクターはpAD15 EGF誘導体であってもよい。また、前記宿主細胞はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)であってもよい。ある態様では、EGF-deriタンパク質を発現する発現ベクターpAD15 EGF誘導体は、発現ベクター系(ProGen、韓国)を用いて構築された。次いで、このベクターをチャイニーズハムスター卵巣(CHO)-DG44 DHFR(−)細胞に導入し、その後、スクリーニングを2回行い、EGF-deriタンパク質が高発現している細胞株を選択した。
【0018】
本発明のさらに別の態様では、1)改変EGFタンパク質を産生する宿主細胞を培養温度35℃〜38℃で培養し;かつ、2)前記宿主細胞を、培養温度を32℃〜34℃に低下させた状態で培養する工程を含む、改変EGFタンパク質を製造する方法が提供される。前記宿主細胞はチャイニーズハムスター卵巣細胞であってもよく、改変EGFタンパク質は、配列番号2又は配列番号4で示されるアミノ酸配列を有してもよい。
【0019】
本発明の改変EGFタンパク質の製造方法において、工程1)及び/又は工程2)は流加培養であってもよい。本明細書では、「流加培養」という用語は、栄養培地が培養開始と同時に培養容器に徐々に添加され、培養液は培養終了まで容器から取り出されない培養方法を指す。流加培養では、培養物中の特定の物質の濃度は、その添加速度を微生物によるその消費速度と比例させることにより、あらかじめ設定した値に制御してもよい。
【0020】
本明細書では、「培地」という用語は、多細胞生物又は組織の外側である人工in vitro環境において、細胞を維持し、成長し、増殖し又は拡大するための栄養溶液を指す。培地は、特定の細胞を培養するために最適化してもよく、その例には、細胞増殖をサポートするために調製された基礎培地、モノクローナル抗体産生を促進するために調製された生産培地、及び栄養素が高濃度に濃縮された濃縮培地を含む。基礎培地は、最小限の細胞増殖をサポートすることができる培地を指す。基礎培地は、亜鉛、鉄、マグネシウム、カルシウム及びカリウムなどの標準的な無機塩、並びに微量元素、ビタミン、エネルギー源、バッファー系及びアミノ酸を供給する。本発明の基礎培地は、細胞増殖期である培養の初期に使用してもよい。ある態様では、Hycell CHO培地が基礎培地として用いられた。
【0021】
本発明の改変EGFタンパク質の製造方法は、当該改変EGFタンパク質を産生する宿主細胞を35℃〜38℃で培養する工程を含む。具体的には、37℃、pH6.8〜7.3で培養を行ってもよい。
【0022】
宿主細胞を35℃〜38℃で培養するこの工程は、細胞増殖工程であって、その間に急速な細胞増殖が生じる。一般に、細胞増殖の培養条件は、細胞の種類、生産しようとする目的タンパク質の種類などにより異なっていてもよい。本発明で使用するCHO細胞の場合、細胞数は、37℃、pH6.8〜7.3で最も活発に増加することが知られている。
【0023】
一方、本発明の培養において、細胞増殖期は、培養開始から3〜8日、特に4〜7日であってもよい。ある態様では、細胞増殖期は培養開始から7日であってもよい。また、ある態様では、細胞増殖期の培養温度は37℃であってもよい。
【0024】
本発明の改変EGFタンパク質の製造方法は、前記宿主細胞を、培養温度を32℃〜34℃に低下させた状態で培養する工程を含む。工程1)で、培養細胞数が6×10
6〜9×10
6細胞/mlに達すると、培養温度を低下させてもよい。具体的には、33℃、pH6.8〜7.1で培養を行ってもよい。
【0025】
上記工程に従い、細胞の培養温度を下げると、細胞は、目的タンパク質の生産を最大化する培養条件のタンパク質生産期に入る。細胞増殖期からタンパク質産生期に入るために、生存細胞密度が最大生存細胞密度の80%〜90%に達した時点で、培養条件を変更してもよい。ある態様では、生存細胞密度が約90%に達した時点で、培養条件を変更してもよい。
【0026】
ある態様では、細胞増殖期からタンパク質産生期への移行が起こる細胞の培養温度は、33℃であってもよい。培養温度が35℃以上の場合、得られた改変EGFタンパク質が不安定になるという問題があり、培養温度が31℃以下の場合、細胞が十分に増殖しないため、生産性が低下するという問題がある。そして、本発明による培養温度の変更は、培養6〜8日目に行ってもよく、ある態様では、変更は培養7日目に行ってもよい。他方、本発明の改変EGFタンパク質の製造方法では、培養温度を32℃〜34℃に低下させた状態で培養を行う期間は、35℃〜38℃で行われた培養の終了から7〜12日、特に8〜10日である。
【0027】
「生存細胞密度(VCD)」という用語は、一定の領域における生細胞の量又は数を指す。本発明では、目的タンパク質を高効率で生産するために、生存細胞密度を測定し、適当な数の細胞が生存する場合に培養条件を変更する。生存細胞密度は、細胞の吸光度の測定により確認してもよい。
【0028】
また、本発明では、宿主細胞を培養する工程で、タンパク質生産のために基礎培地にサプリメントを添加してもよい。本明細書では、「サプリメント」という用語は、細胞がタンパク質生産期に入ったときに、健康を維持しながらタンパク質を産生できるように、栄養素を十分に供給するために基礎培地にさらに含まれる物質を指す。一般に、サプリメントには脂質、アミノ酸、ビタミン、成長因子などが含まれる。タンパク質生産のために使用することができるサプリメントの種類は、当該技術分野においてよく知られており、その例には、ActiCHO(GE Healthcare)、Cell Boost(GE Healthcare)、ASF Feed2(味の素株式会社)が含まれるが、これらに限定されない。特に、サプリメントはCell Boost(CB)5及びASF Feed2であってもよい。
【0029】
サプリメントは、高レベルの組換えタンパク質を生産するために適当な量で添加してもよく、個別に又は組み合わせて使用してもよい。細胞が増殖期を終了しタンパク質生産期に入る直前の時点からサプリメントを添加してもよい。本発明の培養では、サプリメントはタンパク質生産のために温度を下げる1〜3日前から添加してもよい。ある態様では、サプリメントはタンパク質生産のために温度を下げる3日前から添加してもよい。サプリメントは、細胞の生存やタンパク質生産中に消費されるという点から、継続的に添加する必要がある。一般に、サプリメントは、添加した日から1〜3日間隔で定期的に添加してもよい。ある態様では、サプリメントは2日間隔で添加された。
【0030】
サプリメントとしてCB5を用いる場合、その濃度は3.0%〜5.0%であってもよい。ある態様では、CB5の濃度は、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%又は5.0%であってもよいが、これらに限定されず、3.0%が好ましい。また、サプリメントとしてASF Feed2を用いる場合、その濃度は0.5%〜2%であってもよい。ある態様では、ASF Feed2の濃度は、0.5%、1%、1.5%又は2%であってもよいが、これらに限定されず、2.0%が好ましい。そして、宿主細胞を培養する工程において、サプリメントとしてのCB5又はASF Feed2は、個別に又は組み合わせて添加してもよい。
【0031】
改変EGFタンパク質製造のためのサプリメントの最適な組合せを確認するために、サプリメントとしてCB5又はASF Feed2を、以下の組合せで培養中に添加した:CB5 4.5%+ASF Feed2 0.5%、CB5 3.5%+ASF Feed2 1.5%、CB5 5.0%、CB5 4.0%+ASF Feed2 1.0%又はCB5 3.0%+ASF Feed2 2.0%。その結果、培養中にサプリメントとしてCB5又はFeed2を添加した場合に、優れた生存細胞密度、細胞生存率及び改変EGFタンパク質の生産性が認められ、特に、CB5 3.0%+ASF Feed2 2.0%の組合せで最良の結果が得られた。
【0032】
本発明の改変EGFタンパク質製造のための培養は、10〜20日間、特に12〜18日間継続してもよく、ある態様では、培養は15日間継続してもよい。
【0033】
また、本発明の改変EGFタンパク質の製造方法は、培養液から得た改変EGFタンパク質を精製する工程をさらに含んでもよい。改変タンパク質を精製し、高収率で得るために、アフィニティークロマトグラフィーを実施してもよい。特に、プロテインA結合樹脂を充填したカラム、すなわち、樹脂リガンドとしてプロテインAを使用するアフィニティークロマトグラフィーにより、改変EGFタンパク質を得ることができる。
【0034】
本明細書では、「培養液」という用語は細胞培養後の培養液を指し、細胞が産生し分泌するタンパク質を含む様々な因子を含み、培養終了後、遠心分離で細胞を除去することにより入手してもよい。
【0035】
「アフィニティークロマトグラフィー」という用語は、特異的な生物学的親和性の高い2種類の物質の一方を固定相として用い、この固定相に対する親和性の差を利用して目的物質の分離を行うクロマトグラフィーの1つを指す。したがって、培養液から改変EGFタンパク質を得る工程において、当該培養液はプロテインA結合樹脂を充填したカラムを用いて精製してもよい。
【0036】
このアフィニティークロマトグラフィーで用いる樹脂は、マトリックス、親水性架橋剤及びリガンドから成る。ここで、当該マトリックスは、架橋アガロース、例えば、高度に架橋された高流量アガロースであってもよい。当該リガンドは、本発明の改変EGFタンパク質に特異的に結合するタンパク質であるプロテインAであってもよい。樹脂中で、改変EGFタンパク質はアガロースフラグメントに共有結合され、したがって、改変EGFタンパク質に選択的に結合してもよい。また、樹脂中のリガンドは長い親水性架橋剤を有するため、分離しようとする目的タンパク質はそこにたやすく結合してもよい。樹脂の例は、MabSelectであってもよい。
【0037】
本明細書では、「プロテインA」という用語は、配列番号2又は4で示されるアミノ酸配列を有する改変EGFタンパク質の特定のサブユニットをエピトープとして認識し、それに特異的に結合することができるタンパク質を指す。ある態様では、プロテインA結合樹脂を充填したカラムでは、改変EGFタンパク質はグリシン溶液で溶出してもよい。この溶液は、適当な濃度及びpHで使用してよく、これにより、当該溶液が標的タンパク質の特性や活性を変化させない範囲で、標的タンパク質がプロテインAに結合するのを防ぐかもしれない。この溶液の適当な濃度は50mM〜150mMであってもよく、本発明の態様によれば、溶液の濃度は0.1Mであってもよい。他方、この溶液の適当なpHは3.4〜4.4であってもよく、本発明の態様によれば、溶液のpHは3.8であってもよい。
【0038】
ある態様では、上記の確立された方法で精製工程を行う場合、公知のEGF産生と比較して、同様の活性を示しながら、高いタンパク質収量及び純度が認められる。
【0039】
したがって、本発明の改変EGFタンパク質の製造方法では、単純かつ経済的な製造工程が用いられているだけではなく、製造された改変EGFタンパク質は優れた活性を有し、このことは、上記方法で製造された改変EGFタンパク質をより安価に消費者に提供することを可能にする。
【0040】
本発明のさらに別の態様では、本発明の改変EGFタンパク質の製造方法により得られた改変EGFタンパク質を有効成分として含有する皮膚状態の改善用化粧料組成物が提供される。
【0041】
ここで、皮膚状態の改善とは、皮膚細胞の機能の低下又は損失から皮膚を保護すること、若しくは、しわ形成の阻止、皮膚老化の阻止、皮膚弾力性、皮膚再生、外傷又は創傷治癒の改善、角質層の再生、皮膚刺激の緩和、及びそれらの組合せからなる群から選択される皮膚状態を改善することを意味する。
【0042】
本発明では、化粧料組成物を使用して皮膚状態を改善する方法が提供される。
【0043】
皮膚状態を改善する方法は、本発明の化粧料組成物を、必要とする対象の皮膚に適用する工程を含んでいてもよい。対象は哺乳動物、具体的にはヒトであってもよい。
【0044】
本発明の化粧料組成物を皮膚に適用する工程は、その剤型に応じて、化粧料組成物を皮膚に直接適用又は噴霧することを含んでいてもよい。ここで、化粧料組成物の使用及び1日の使用回数は、使用者の年齢、性別、使用目的、症状の程度などにより、適当に設定してもよい。例えば、適当な量の化粧料組成物は、1日に1〜6回の頻度で皮膚に適用してもよい。
【0045】
本発明のさらに別の態様では、本発明の改変EGFタンパク質の製造方法により得られた改変EGFタンパク質を有効成分として含む、皮膚疾患を予防又は治療するための医薬組成物が提供される。
【0046】
皮膚疾患は、足部潰瘍、褥瘡、口腔粘膜炎、熱傷、及びそれらの組合せからなる群から選択されてもよい。
【0047】
医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでいてもよい。担体は、本発明の医薬組成物の総重量に基づいて、約1〜約99.99重量%、5〜90重量%、10〜85重量%、20〜60重量%、好ましくは約9〜約99.99重量%の量で含まれてもよい。
【0048】
本発明では、医薬組成物を使用して、皮膚疾患を予防又は治療する方法が提供される。
【0049】
皮膚疾患を予防又は治療する方法は、本発明の医薬組成物を、必要とする対象の皮膚に適用する工程を含んでいてもよい。医薬組成物を適用することができる対象は、哺乳動物、具体的にはヒトであってもよい。
【0050】
本発明の医薬組成物を皮膚に適用する工程は、その剤型に応じて、医薬組成物を皮膚に直接適用又は噴霧することを含んでいてもよい。医薬組成物の使用及び1日の使用回数は、使用者の年齢、性別、使用目的、症状の程度などにより、適当に設定してもよい。例えば、適当な量の医薬組成物は、1日に1〜6回の頻度で皮膚に適用してもよい。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例により、本発明をより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は本発明を説明するためだけのものであって、本発明の範囲はそこに限定されない。
【0052】
実施例1 改変EGFタンパク質発現ベクターの構築及び細胞株の開発
EGF-deriタンパク質を発現する発現ベクターpAD15 EGF誘導体を、発現ベクター系(ProGen、韓国)を用いて構築した。発現ベクターに挿入された遺伝子構築物の構造を
図1に示す。このベクターをチャイニーズハムスター卵巣(CHO)-DG44 DHFR(−)細胞に導入し、次いで、高発現モノクローナル細胞株のスクリーニングを2回行った。ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)は、細胞の増殖段階である遺伝子複製に必要な4つの要素の1つであるデオキシチミジン一リン酸(dTMP)の合成に不可欠な酵素である。物質HT(ヒポキサンチン及びチミジン)はdTMPの前駆体であり、細胞がdTMPを合成するのに使用する。
【0053】
CHO-DG44 DHFR(−)細胞にDHFR遺伝子を含む発現ベクターが導入される前は、細胞増殖を可能にするために、HTを含む培地で培養を行われなければならない。標的遺伝子及びDHFRを発現するプラスミドが安定に挿入され、DHFRタンパク質を発現した細胞株のみが生存し、選択されるように、発現ベクターの導入後は、HTを含まない培地で培養が行われた。これはHT選択工程と呼ばれる。このHT選択工程によるDHFR及びEGF-deriタンパク質を発現する細胞株の選択後、DHFRの強力な阻害剤であるメトトレキサート(MTX)の濃度を段階的に増加させながら、高発現細胞株を選択した。その後、1μMのMTXで60〜80μg/10
6細胞/日の生産性を有する細胞株を選択した。以下の表1に示す6つの細胞株を、RCB候補細胞株として選択した。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例2 EGF-deriタンパク質発現の確認
選択した6つのRCB候補細胞株でEGF-deriタンパク質が十分に発現しているかどうかを確認するために、6つの細胞株の培養液に対してSDS−PAGEを行った。各レーンにロードされた培養液を表2に示し、各培養液のSDS−PAGEの結果を
図2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
図2に示されるように、EGF-deriタンパク質は約62kDaの分子量を有することが確認された。また、選択した6つの細胞株の培養液では、EGF-deriタンパク質が80%以上を占めていた。EGF-deriタンパク質のほとんどは活性な単量体(62kDa)で存在し、5%以下が二量体型(124kDa)として観察され、切断型は観察されなかった。
【0058】
実験例1 RBC候補細胞株の長期継代安定性の確認
特定の細胞株を医薬品製造用の細胞株として使用するためには、生産中は、生産性と倍加時間をある範囲内で一定に保つ必要がある。実施例1で選択された各RCB細胞株を、マスターセルバンク(MCB)を介してワーキングセルバンク(WCB)とする場合、約10回以上の継代が必要であった。また、200L以上で本培養を行う場合、5継代以上の種培養が必要で、本培養は20継代以上必要であった。したがって、RCB細胞株を医薬品の製造に使用するには、35回以上の継代の間、生産性と倍加時間を安定に保つ必要がある。これを特定するために、選択したRCB候補細胞株のそれぞれについて、EGF-deriタンパク質の生産性と倍加時間を測定した。生産性の測定では、最初に、培養中の細胞培養物を遠心分離し、新しい培養液の濃度が5×10
5細胞/mlとなるように懸濁した。続いて、T-25フラスコを用い、この懸濁液の5mlを3日間培養した。次に、この培養液を1ml採取し、そのうちの0.5mlを用いて細胞数を測定し、また、残りの0.5mlを遠心分離して得た上清を使用して、ヒトIgGによるELISAで、1×10
6細胞あたりの生産性を測定した。倍加時間(Td)は以下のように測定した。培養中の細胞溶液を125mlフラスコに0.3×10
6細胞/mlで接種し、3日間培養した。その後、細胞数を測定した。次の式を用いて計算を行った:
Td=ln2/m (m=lnx2−lnx1/t2−t1)
式中、t1及びt2は培養の開始時間と終了時間、x1及びx2は培養前後の生存細胞数である。
選択されたRCB候補細胞株の中で、最良の長期継代安定性を示す細胞株が、医薬品開発のための最終細胞株として選択された。最終細胞株として選択された細胞株Fについて、35継代の間に測定した生産性及び倍加時間を表3及び
図3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3及び
図3に示すように、最終細胞株では、生産性は100〜132%に維持され、倍加時間は約25時間で一定に維持された。これは、選択された最終細胞株が医薬品製造用の細胞株として使用できることを示す。
【0061】
実験例2 過酷な条件下でのEGF-deriタンパク質の安定性の確認
過酷な条件下でのEGF-deriタンパク質の安定性を確認するために、126μg/mlのEGF-deriタンパク質を、温度40℃、相対湿度75±5%で3か月間保管し、EGF-deriの活性を測定した。経時的なEGF-deriタンパク質の量を表4に示し、経時的なEGF-deriタンパク質の活性を表5及び
図4A〜4Cに示す。
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
表4に示すように、40℃の過酷な条件で、EGF-deriタンパク質の形態は、時間の経過とともに79%、49.5%、32%と徐々に減少した。しかし、表5及び
図4A〜4Cに示すように、EGF-deriタンパク質の生物活性はほとんど保持されていた。これは、過酷な条件では、EGF-deriタンパク質の部分的な分解が生じたものの、分解物のほとんどは正常なEGFであり、活性を保持していたことを示す。これらの結果から、EGF-deriタンパク質は、過酷な条件下でも損失が少ないという活性保持の点で、高い安定性を示すことが確認された。
【0065】
実験例3 EGF-deriタンパク質の製剤化とその凍結融解
pH7.2±0.2の50mM Tris−HClを、EGF-deriタンパク質の製剤用緩衝液として用いた。次いで、この緩衝液を用いて製剤化したEGF-deriタンパク質を、−80〜−70℃で冷凍保存した。製剤化されたEGF-deriタンパク質の凍結融解(F/T)サイクルを合計5回行った。結果を表6及び
図5に示す。
【0066】
【表6】
【0067】
表6及び
図5に示すように、EGF-deriタンパク質の凍結解凍サイクルが増加すると、ピーク2が増加し、メインピークが減少した。最初の凍結融解サイクルでは、ピーク2が最も高い増加を示し、5回の凍結融解サイクル後、メインピークは約2%減少した。つまり、EGF-deriタンパク質は、合計5回の凍結解凍サイクル後でも約97%以上の純度を維持した。これらの結果から、EGF-deriタンパク質は、凍結融解サイクルを繰り返した過酷な条件下においても損失が少ないという活性保持の点で、高い安定性を示すことが確認された。
【0068】
実験例4 EGF-deriタンパク質の皮膚透過の分析
EGF-deriタンパク質の皮膚透過性を調べるために、実験動物として、脱毛したBalb/cマウス及びSKH-1無毛マウスを準備した。2種類のマウス、すなわち、脱毛クリームにより背の皮膚から体毛を除いたBalb/cマウス及び遺伝的に無毛のマウスを使用して、EGF-deriタンパク質の皮膚透過性が、脱毛による皮膚の人為的損傷により異なるかどうかを調べた。2種類のマウスを、皮膚に塗布するタンパク質に応じて、それぞれ、PBS群、EGF群、EGF-deri群、EGFリポソーム(H&A PharmaChem)群に分けた。それぞれのタンパク質の皮膚透過性を特定することができるように、各タンパク質を蛍光標識試薬であるフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識した。FITCで標識されたタンパク質の溶液を、FITCに基づいて200ngの量で、各群のマウスの皮膚に滴下し、ブラシを用いて塗布した。
【0069】
実験例4.1 EGF-deriタンパク質の経皮送達
FITCで標識された各タンパク質の溶液が各群のマウスの背の皮膚に塗布されてから6時間及び12時間経過後、マウスを殺し、皮膚組織を取り除いた。皮膚組織は、クライオスタットを用い縦方向の切片を得、その後、共焦点蛍光顕微鏡を用いて、各皮膚層の透過性を分析した。結果を
図6に示す。
【0070】
図6に示すように、経皮送達の6時間及び12時間後に、EGF-deri群のマウスの皮下組織層にFITCのシグナルが認められた。このパターンは、マウスの種類に関係なく同様に認められた。そして、この皮膚透過性は、経皮送達の効率的な方法として一般に知られているリポソームを用いた場合と類似していた。実験中の経皮送達による透過性は、個体差はあるものの、全体的なパターンは十分な再現性で類似していた。これは、EGF-deriタンパク質の皮膚透過性が高いことを示す。
【0071】
実験例4.2 EGF-deriタンパク質の安全性を評価するための採血実験
FITCで標識された各タンパク質の溶液を各群のマウスの背の皮膚に塗布し、その後、眼から採血して経時的な血中EGF濃度を測定した。結果を
図7に示す。
【0072】
図7に示すように、陰性対照であるPBS群と比較して、血中のEGF濃度の増加又は変化は、EGF群、EGF-deri群及びEGFリポソーム群のすべてにおいて、認められなかった。これは、EGFを皮下に注射した群においても同様であった。これは、血中に送達されるEGFの量は血中のEGF濃度に比べて非常に少なく、EGFが体内で急速に酵素分解され、長期的には血中のEGF濃度に影響を与えなかったことを示す。そして、これらの結果から、EGF-deriタンパク質は化粧料又は医薬品として安全に使用できることが理解された。
【0073】
実験例5 改変EGFタンパク質製造のための細胞培養条件の確認
実験例5.1 最適なサプリメントの確認
改変EGFタンパク質製造のためのサプリメントの最適条件を確立するために、サプリメントの様々な組合せのもとで細胞を培養した。最初に、0.5×10
5細胞/mlのクローンを37℃で6日間、Hycell CHO培地(HyClone、米国)中で培養し(増殖期)、温度を33℃に変えて、15日目までクローンを培養した(生産期)。培養pHは、増殖期はpH6.9〜7.3、生産期はpH6.9〜7.1であった。150rpmで開始した培養のかくはん速度は、培養4日目に200rpm、培養6日目に250rpmに増加した。グルコースを毎日3.0g/L以上に維持した。
【0074】
サプリメントの最適な組合せを確認するために、サプリメントとしてCell Boost 5(CB5、GE Healthcare、米国)及びASF Feed2(味の素株式会社)を、培養の4日目、6日目、8日目、10日目、12日目及び14日目に、以下の組合せで添加した:CB5 4.5%+ASF Feed2 0.5%、CB5 3.5%+ASF Feed2 1.5%、CB5 5.0%、CB5 4.0%+ASF Feed2 1.0%及びCB5 3.0%+ASF Feed2 2.0%。これは、以下の表7及び
図8A〜8Cに具体的に示されている。
【0075】
【表7】
【0076】
図8Aに示すように、生存細胞密度(VCD)値は、CB5 3.0%+ASF Feed2 2.0%、CB5 4.0%+ASF Feed2 1.0%及びCB5 3.5%+ASF Feed2 1.5%で、7.0×10
6〜8.0×10
6細胞/mLであった。これらのうち、最高のVCD値はCB5 3.0%+ASF Feed2 2.0%で得られた。そして、
図8Bに示すように、5つの異なるサプリメントの組合せの中で、CB5 3.0%+ASF Feed2 2.0%及びCB5 3.5%+ASF Feed2 1.5%の条件で最良の結果が得られ、15日間の培養中、細胞生存率が90%以上に維持された。また、
図8Cに示すように、培養終了時(15日目)の改変EGFタンパク質の生産性は、CB5 5.0%で1.0g/L、CB5 4.5%+ASF Feed2 0.5%で1.294g/L、CB5 4.0%+ASF Feed2 1.0%で1.44g/L、CB5 3.5%+ASF Feed2 1.5%で1.7g/L、そして、CB5 3.0%+ASF Feed2 2.0%で最高の生産性である1.74g/Lであった。
【0077】
これらの結果から、改変EGFタンパク質を製造するためのサプリメントの最適な組合せは、CB5 3.0%+ASF Feed2 2.0%であることが確認された。
【0078】
実験例5.2 確立された最適条件下での生存細胞密度、細胞生存率、及びEGFタンパク質の生産性の確認
表8に示すように、基礎培地としてHycell CHOを用いる流加法により、実験例5.1で確立された改変EGFタンパク質を生産するためのサプリメントの最適な組合せのもとで、0.5×10
6細胞/mLで播種した。培養温度は、培養7日目まで、すなわち増殖期は37℃に、その後、培養15日目までは33℃に保った。培養pHは、37℃で培養中(増殖期)はpH6.9〜7.3で、33℃で培養中(生産期)は、pH6.9〜7.1であった。150rpmで開始した培養のかくはん速度は、培養4日目に200rpm、培養6日目に250rpmに増加した。培養期間中、グルコース濃度は3.0g/L以上に維持した。培養の4、6、8、10、12及び14日目に、CB5 3.0%+ASF Feed2 2.0%をサプリメントとして添加した。結果を
図9A〜9Cに示す。
【0079】
【表8】
【0080】
図9A〜9Cに示すように、2回のバッチで得られた結果を参照すると、VCD値は8.0×10
6〜12.0×10
6細胞/mL(
図9A)で、細胞生存率は培養14日目までは90%以上、最終培養日である15日目は80%以上であった(
図9B)。改変EGFの生産性は2.3g/L以上であった(
図9C)。結果を表9に要約する。以上の結果から、標準的なEGFに比べてはるかに優れた培養生産性を有する方法が確立されたことがわかった。
【0081】
【表9】
【0082】
実験例5.3 改変EGFタンパク質の精製
EGF-deriの最適化された精製方法は以下のとおりである。まず、プロテインAを固定相とするカラムをMabselect系で準備し、得られた細胞上清を14gタンパク質/Lとなるようにカラムに注入した。続いて、50mM リン酸ナトリウム及び500mM NaClから成るpH7.0の洗浄バッファー1と、50mM 酢酸ナトリウムで構成されるpH4.5の洗浄バッファー2を順に用いて、不純物を除去した。次いで、100mM グリシンから成るpH3.8の溶出バッファーをカラムに注入し、改変EGFタンパク質を溶出した。結果を表10、並びに
図10A及び10Bに示す。
【0083】
【表10】
【0084】
図10A及び10Bに示されるように、SDS−PAGE及びサイズ排除HPLC(SE−HPLC)の結果から、改変EGFタンパク質は十分に精製されていることが確認された。また、表10に示されるように、精製された改変EGFタンパク質は、75%以上の精製収率及び97%以上の純度であった。
【0085】
実験例6 EGF標品とEGF-deriの生物活性の比較
標準的なEGFとEGF-deriの生物活性を比較するために、以下の方法で実験を行った。この実験で使用した標準的なEGFは、the National Institute for Biological Standards and Control(NIBSC)から得た。
【0086】
まず、NRK-49F細胞株(ATCC CRL-1570、ラット腎臓)を培地(5%新生仔牛血清(Gibco、Cat# 2610-074)+DMEM(ATCC、Cat# 30-2002)+1%抗生物質(Gibco、Cat# 15240-062))で培養した。続いて、50mLのアッセイ培地(0.5%新生仔牛血清(Gibco、Cat# 2610-074)+DMEM(ATCC、Cat# 30-2002))を用い、0.5×10
3細胞を96ウェルプレートの各ウェルに実験当日に播種した。次に、2つの試料、NIBSC EGF及びEGF-deriのそれぞれを、その最終濃度が100ng/mL、10ng/mL、1ng/mL、0.5ng/mL、0.2ng/mL、0.1ng/mL、0.05ng/mL、0.01ng/mL及び0.001ng/mLとなるように、同じアッセイ培地で希釈し、50mLをプレートの各ウェルに加えた。その後、37±0.5℃、5±0.5%CO
2で72時間培養した。培養終了後、100mLのCell titer-Glo 2.0試薬を各ウェルに分注し、遮光して室温で10分間反応を進行させた。そして、発光積分500、発光Lm1の条件で測定した。EC50値を測定結果に基づいて計算した。結果を
図11に示す。
【0087】
図11に示されるように、本発明の改変EGFタンパク質であるEGF-deriは、NIBSCで購入した標準的なEGFと同様の生物活性を示した。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]