特許第6963345号(P6963345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6963345加工装置、相対位置関係特定方法およびレーザ光量特定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6963345
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】加工装置、相対位置関係特定方法およびレーザ光量特定方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20211025BHJP
【FI】
   B23K26/00 M
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2021-511010(P2021-511010)
(86)(22)【出願日】2020年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2020014710
【審査請求日】2021年2月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−159318(JP,A)
【文献】 特開2013−022676(JP,A)
【文献】 特開2003−025118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置であって、
被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させる送り機構と、
レーザ光を受光する受光部と、
受光したレーザ光の強度を検出する強度検出部と、
検出した光強度が減少するタイミングで、レーザ光が被加工部材に切り込み始めたことを判定する制御部と、
を備える加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、レーザ光の強度を、レーザ光が被加工部材を加工するレベルよりも低く設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、検出した光強度にもとづいて、レーザ光と被加工部材の切れ刃稜線の相対位置関係を特定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の加工装置。
【請求項4】
レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置であって、
被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させる送り機構と、
被加工部材の加工に利用されずに通過したレーザ光を受光する受光部と、
受光したレーザ光の強度を検出する強度検出部と、
検出した光強度にもとづいて、被加工部材の加工に利用されているレーザ光の量を特定する制御部と、
を備える加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、検出した光強度が減少するタイミングで、レーザ光が被加工部材に切り込み始めたことを判定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の加工装置。
【請求項6】
レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置において、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定する方法であって、
被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させるステップと、
レーザ光を受光するステップと、
受光したレーザ光の強度を検出するステップと、
検出した光強度が減少するタイミングで、レーザ光が被加工部材に切り込み始めたことを判定するステップと、
を備える相対位置関係特定方法。
【請求項7】
レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置において、レーザ光量を特定する方法であって、
被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させるステップと、
被加工部材の加工に利用されずに通過したレーザ光を受光するステップと、
受光したレーザ光の強度を検出するステップと、
検出した光強度にもとづいて、被加工部材の加工に利用されているレーザ光の量を特定するステップと、
を備えるレーザ光量特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定する技術および/またはレーザ光による加工を監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を利用した加工法として、パルスレーザ光を集光し、集束箇所を含む筒状の照射領域を被加工部材の表面上で走査して面加工するパルスレーザ研削が知られている。特許文献1は、パルスレーザ光において筒状に延び且つ加工可能なエネルギをもつ照射領域を加工対象物の表面側の部位に重ねて、加工可能な速度で走査することで、加工対象物の表面領域を除去する方法を開示する。非特許文献1は、パルスレーザ研削により工具母材の逃げ面を2方向に加工して、V字形状の切れ刃を形成する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−159318号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hiroshi Saito, Hongjin Jung, Eiji Shamoto, Shinya Suganuma, and Fumihiro Itoigawa;「Mirror Surface Machining of Steel by Elliptical Vibration Cutting with Diamond-Coated Tools Sharpened by Pulse Laser Grinding」, International Journal of Automation Technology, Vol.12, No.4, pp.573-581(2018年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1(a)および図1(b)は、非特許文献1に記載された、パルスレーザ研削によりダイヤモンドコーティング工具の刃先を鋭利化する方法を説明するための図である。図1(a)は、すくい面側をパルスレーザ研削する様子を示し、図1(b)は、逃げ面側を2方向にパルスレーザ研削する様子を示す。パルスレーザ研削を利用すると、工具刃先に対してレーザ光をわずかに切り込ませ、その状態で刃先稜線に沿った送り運動をレーザ光と工具の間に与えることで、刃先の鋭利化を行うことができる。
【0006】
現在のところ、レーザ光が工具刃先に切り込んだことを検出する技術が開発されていないため、レーザ研削を自動化するには至っていない。現状では、わずかな切込み時に発生するプラズマを作業者が目視またはカメラの撮影画像を利用して視認することで、レーザ光が工具刃先に当たったことを確認している。そこでレーザ研削加工において、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定する技術の開発が望まれている。またレーザ研削加工を監視する技術の開発も望まれている。
【0007】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところの1つは、レーザ研削加工において、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定する技術を提供することにある。また本開示の目的の1つは、レーザ研削加工を監視する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の加工装置は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置であって、被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させる送り機構と、被加工部材に照射されなかったレーザ光を受光する受光部と、受光したレーザ光の強度を検出する強度検出部と、検出した光強度にもとづいて、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定する制御部とを備える。
【0009】
本開示の別の態様の加工装置は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置であって、被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させる送り機構と、被加工部材に照射されなかったレーザ光を受光する受光部と、受光したレーザ光の強度を検出する強度検出部と、検出した光強度にもとづいて、被加工部材の加工に利用されているレーザ光の量を特定する制御部とを備える。
【0010】
本開示の別の態様は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置において、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定する方法であって、被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させるステップと、被加工部材に照射されなかったレーザ光を受光するステップと、受光したレーザ光の強度を検出するステップと、検出した光強度にもとづいて、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定するステップとを備える。
【0011】
本開示の別の態様は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置において、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定する方法であって、被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させるステップと、被加工部材に照射されなかったレーザ光を受光するステップと、受光したレーザ光の強度を検出するステップと、検出した光強度にもとづいて、被加工部材の加工に利用されているレーザ光の量を特定するステップとを備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】パルスレーザ研削によりダイヤモンドコーティング工具の刃先を鋭利化する方法を説明するための図である。
図2】パルスレーザ研削を説明するための図である。
図3】レーザ加工装置の概略構成を示す図である。
図4】原点設定処理を説明するための図である。
図5】(a)は原点設定処理における送り量の時間変化を示す図であり、(b)は原点設定処理における光強度の時間変化を示す図である。
図6】(a)は、パルスレーザ研削の様子を示す図であり、(b)はパルスレーザ研削中の光強度の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図2は、パルスレーザ研削を説明するための図である。パルスレーザ研削は、特許文献1および非特許文献1に開示されるように、レーザ光2の光軸方向に延び且つ加工可能なエネルギをもつ円筒状の照射領域を被加工部材20の表面に重ねて、その光軸と交差する方向へ走査することで、円筒状の照射領域が通過した被加工部材20の表面領域を除去する加工法である。パルスレーザ研削は、被加工部材20の表面に、光軸方向および走査方向に平行な面を成形する。
【0014】
図3は、パルスレーザ研削を行うレーザ加工装置1の概略構成を示す。レーザ加工装置1は、レーザ光2を出射するレーザ光照射部10、被加工部材20を支持する支持装置14、レーザ光照射部10の被加工部材20に対する相対的な移動を可能とする案内機構11、案内機構11に沿って所定の移動を実現するためのアクチュエータ12、およびレーザ加工装置1の全体の動作を制御する制御部13を備える。案内機構11およびアクチュエータ12は、被加工部材20をレーザ光2の筒状照射領域に対して相対移動させる送り機構を構成する。実施形態において被加工部材20は切削工具であって、レーザ加工装置1は、切削工具の刃先を先鋭化するパルスレーザ研削を行うが、被加工部材20は他の種類の部材であってもよい。
【0015】
レーザ光照射部10は、レーザ光を発生するレーザ発振器、レーザ光の出力を調整する減衰器、レーザ光の向きを変えるミラーなどを備え、これらを経たレーザ光2が光学レンズ経由で集光され、出射されるように構成される。たとえばレーザ発振器は、Nd:YAGパルスレーザ光を発生してよい。
【0016】
実施形態の送り機構は、被加工部材20に対するレーザ光照射部10の相対的な位置を変化させるものであって、相対的な姿勢を変化させるための機構も有してよい。アクチュエータ12は、制御部13からの指令に応じて所望の相対移動を行い、これにより被加工部材20に対するレーザ光照射部10の相対位置、さらに必要に応じて相対姿勢を変化させる。なお図3に示すレーザ加工装置1では、案内機構11がレーザ光照射部10の位置、さらに必要に応じて姿勢を変化させるが、レーザ光照射部10を固定することが好ましい場合は、支持装置14の位置、さらに必要に応じて姿勢を変化させてよい。いずれにしても送り機構は、被加工部材20を、レーザ光2の筒状照射領域に対して相対的に移動させ、また必要に応じて相対的に姿勢変化させるための機構を有する。
【0017】
実施形態のレーザ加工装置1は、レーザ光照射部10より出射されて、被加工部材20を通過し、被加工部材20に照射されなかったレーザ光を受光する受光部16を備える。受光部16はレーザ光照射口に対向して、所定距離だけ離れた位置に配置される。送り機構によってレーザ光照射部10が動かされる場合、受光部16はレーザ光照射部10との相対位置関係を維持しながら、レーザ光照射部10とともに動かされる。
【0018】
パルスレーザ研削は被加工部材20の表面に、レーザ光2の光軸方向および走査方向に平行な面を成形する加工法であるため、レーザ光2の一部のみが被加工部材20の材料除去に利用され、レーザ光2の大部分は被加工部材20を照射せずに通過する。そこで実施形態の受光部16は、被加工部材20の加工に利用されずに通過したレーザ光2を受光する。強度検出部18は、受光部16が受光したレーザ光の強度を検出する。受光部16および強度検出部18は、別体として設けられてよいが、一体として設けられてもよい。
【0019】
パルスレーザ研削に利用されるレーザ光2は、被加工部材20の付近で集束するように出射されるため、被加工部材20の付近で最も高いエネルギ密度をもつ。受光部16の破損および劣化を防ぐため、受光部16は、集束した筒状照射領域から、ある程度離れた位置に設置されることが好ましい。たとえばレーザ光照射部10のレーザ光を集光する光学レンズから被加工部材20までの距離Lに対して、被加工部材20から受光部16までの距離は、L以上すなわち同程度以上に設定されることが好ましい。
【0020】
レーザ加工装置1は、レーザ光2の筒状照射領域を被加工部材20に対して徐々に切り込む(食い込む)ように移動させる際に、切り込み始める瞬間の相対位置(原点)を正確に特定することで、被加工部材20に対して正確な除去量(切込み量)の加工を実現できる。そこで実施形態のレーザ加工装置1は、パルスレーザ研削を行う前に、強度検出部18が検出した光強度にもとづいて、レーザ光2が被加工部材20に切り込み始める瞬間の相対位置を特定する機能(原点設定機能)を備える。
【0021】
図4(a)〜(c)は、レーザ加工装置1における原点設定処理を説明するための図である。図4(a)〜(c)は、送り機構がレーザ光2を被加工部材20に切り込む方向(近づける方向)に移動させる様子を示すが、実際には被加工部材20をレーザ光2に近づける方向に移動させてよい。ここでは送り方向をx軸正方向とし、移動速度vを一定とする。
【0022】
図4(a)は、レーザ光2の光軸中心のx座標が初期位置xにある状態を示す。この状態から、送り機構がレーザ光2を切込み方向に一定速度vで動かす。図4(b)は、レーザ光2の筒状照射領域の最外周部分が被加工部材20に当たった瞬間、すなわち切り込み始めた瞬間の状態を示す。このときのレーザ光軸中心のx座標はxである。送り機構が引き続きレーザ光2を一定速度vで動かすと、レーザ光2の一部分が被加工部材20を照射する。図4(c)は、レーザ光2の筒状照射領域の一部分が被加工部材20を照射しているときの状態を示す。このときのレーザ光軸中心のx座標はxである。
【0023】
実施形態の制御部13は、レーザ光2の筒状照射領域が被加工部材20に切り込み始めたときの座標xを原点座標として特定することで、その後のレーザパルス研削の切込み量を正確に設定できる。
【0024】
図5(a)は、送り量の時間変化を示す。図5(a)には、時間tから時間tまでの間、光軸中心がxからxまで一定速度で動かされて、その後移動を停止されたレーザ光2の送り動作が示される。
【0025】
図5(b)は、強度検出部18が検出する光強度の時間変化を示す。制御部13は、強度検出部18が検出する光強度を監視する。図4(a)および図4(b)に示されるように、光軸中心がxからxまで移動する間(つまり時間tから時間tまでの間)、筒状照射領域は被加工部材20に切り込まない、つまり当たらないため、強度検出部18が検出する光強度は、基準値である初期値Iから変化しない。制御部13は、光強度が初期値Iで一定である場合に、レーザ光2が被加工部材20に切り込んでいないことを判定する。
【0026】
時間tでレーザ光2の筒状照射領域の最外周部分が被加工部材20に切り込み始めると、被加工部材20に切り込んだ(入り込んだ)レーザ光のエネルギは被加工部材20の加工に利用されるため、強度検出部18が検出する光強度は減少する。制御部13は、強度検出部18が検出した光強度が初期値Iから減少するタイミングで、レーザ光照射部10から出射されるレーザ光2が被加工部材20に切り込み始めたことを判定する。この例では、時間tのタイミングで、つまりはx軸において光軸中心のx座標がxになったときに、制御部13は、筒状照射領域の最外周部分が被加工部材20に切り込み始めたことを特定する。この特定処理は、いわゆる原点設定処理に相当し、制御部13は、xの座標値を基準として、その後のパルスレーザ研削の切込み量を正確に設定できる。
【0027】
なお図5(a)に示す送り動作例では、送り機構が、レーザ光2の光軸中心をxまで移動して停止している。図5(b)に示すように、時間tから時間tまでの間、レーザ光2が被加工部材20を照射する面積が増えることで、強度検出部18が検出する光強度は徐々に減少する。基準値である初期値Iからの光強度減少分は、被加工部材20の加工に利用されているレーザ光の量に対応し、このレーザ光量は、被加工部材20の材料除去に利用されているエネルギに対応する。したがって制御部13は、初期値Iからの光強度減少分を監視することで、被加工部材20の加工に利用されているレーザ光の量を特定し、現在加工中の被加工部材20の除去面積を推定できる。
【0028】
被加工部材20の除去面積を推定する際、強度検出部18がレーザ光強度の変動を監視し、制御部13が、被加工部材20に向けて出射される光強度の変動分を加味して、加工に利用されているレーザ光の量を特定してよい。たとえば強度検出部18は、光強度変動の監視用に、レーザ光2の一部を分岐して光強度を常時監視する。制御部13は、光強度の監視結果から光強度の変動割合を算出し、変動割合を用いて被加工部材20に向けて出射される光強度の瞬時値Iを算出して、出射光強度Iからの光強度減少分を監視することで、被加工部材20の加工に利用されているレーザ光の量を特定してよい。これにより被加工部材20の除去面積をより正確に推定できるようになる。
【0029】
一方、時間tから時間tまでの間、強度検出部18が検出する光強度は徐々に増加してIに近い値に復帰する。時間tでレーザ光2の送り動作が停止されると(図4(c)に示す状態)、レーザ光2による材料除去がレーザ光2の進行方向に進み、材料が除去されて被加工部材20を通過(貫通)するレーザ光が増え、強度検出部18が検出する光強度は徐々に増加する。なお原点設定処理のためには、光強度が減少する時間tさえ分かればよいため、制御部13は、時間tにおけるx座標(x)を特定した時点で、送り機構の動作を停止させてよい。
【0030】
加工対象となる被加工部材20の切れ刃が円弧形状を有する場合、原点設定処理は、被加工部材20の切れ刃稜線に沿って複数の点で、または連続的に実施されることが好ましい。レーザ光2と切れ刃稜線の間の原点設定を複数の点で行うことで、レーザ光2と被加工部材20の切れ刃稜線との相対位置関係を同定することができ、レーザ加工装置1が高精度な刃先加工を実現できるようになる。なお、原点設定処理の点数が2つ以上の場合には切れ刃稜線の傾きを同定することができ、3つ以上の場合には円弧形状の切れ刃稜線に対してその相対的な中心位置と半径を同定することができる。
【0031】
原点設定処理において制御部13は、レーザ光照射部10が出力するレーザ光2の強度を、レーザ光2が被加工部材20を加工するレベルよりも低く設定してよい。原点設定処理時のレーザ光強度を加工レベルよりも低く設定することで、レーザ光2が被加工部材20を加工しないため、強度検出部18が、送り速度に依存することなく、被加工部材20に照射されなかったレーザ光の強度を正確に測定できる。これにより制御部13は原点の座標値を正確に導出でき、原点座標値を用いた高精度なレーザパルス研削を実行できる。原点設定処理に際して、制御部13は、レーザ光照射部10が出力するレーザ光2の強度を、被加工部材20に熱的な損傷を与えない程度に十分低く設定してもよい。
【0032】
図6(a)は、パルスレーザ研削の様子の一例を示す。制御部13は、複数の点で原点設定処理を行った後、被加工部材20の切れ刃稜線を特定し、特定した切れ刃稜線に沿って刃先を加工する。図6(a)に示す例では、被加工部材20の刃先に対してΔxだけ筒状照射領域を入り込ませ、筒状照射領域を切れ刃稜線に沿って一定の送り速度で移動させる。
【0033】
図6(b)は、パルスレーザ研削中の光強度の時間変化を示す。レーザ加工装置1が、一定の送り速度で刃先加工する場合、筒状照射領域の進入量(Δx)が刃先稜線に沿って一定であり、レーザ光軸方向の被加工部材厚さが各進入深さ位置で一定であれば、強度検出部18が検出する光強度は一定となる。この状態が、実線で示される。一方で、進入量が刃先稜線に沿って次第に小さくなる(進入不足)と、強度検出部18が検出する光強度は次第に大きくなり、進入量が刃先稜線に沿って次第に大きくなる(進入し過ぎ)と、強度検出部18が検出する光強度は次第に小さくなる。このように制御部13は、パルスレーザ研削時の光強度を監視することで、パルスレーザ研削が適切に実施されているか判断できる。なお光強度の監視中に、突然光強度が大きくなった場合、制御部13は、刃先に欠損が生じていることを判定してよい。
【0034】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0035】
本開示の態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置であって、被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させる送り機構と、被加工部材に照射されなかったレーザ光を受光する受光部と、受光したレーザ光の強度を検出する強度検出部と、検出した光強度にもとづいて、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定する制御部とを備える。
【0036】
パルスレーザ研削では被加工部材の材料除去に利用されないレーザ光が、被加工部材を照射せずに通過することを利用して、制御部は、通過したレーザ光の強度にもとづいて、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定できる。たとえばレーザ光が被加工部材に入り込んでいないときの光強度をIとすると、送り機構が被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して近づけても光強度がIで変化しなければ、制御部は、レーザ光が被加工部材に当たっていないことを判定してよい。
【0037】
制御部は、検出した光強度が減少するタイミングで、レーザ光が被加工部材に切り込み始めたことを判定してよい。相対位置関係を特定する際、制御部は、レーザ光の強度を、レーザ光が被加工部材を加工するレベルよりも低く設定してよい。制御部は、レーザ光と被加工部材の切れ刃稜線の相対位置関係を特定してもよい。
【0038】
本開示の別の態様は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置であって、被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させる送り機構と、被加工部材に照射されなかったレーザ光を受光する受光部と、受光したレーザ光の強度を検出する強度検出部と、検出した光強度にもとづいて、被加工部材の加工に利用されているレーザ光の量を特定する制御部とを備える。
【0039】
制御部は、被加工部材の加工に利用されているレーザ光の量を特定することで、被加工部材の加工状況を監視することが可能となる。
【0040】
本開示の別の態様は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置において、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定する方法であって、被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させるステップと、被加工部材に照射されなかったレーザ光を受光するステップと、受光したレーザ光の強度を検出するステップと、検出した光強度にもとづいて、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定するステップとを備える。
【0041】
本開示の別の態様は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、被加工部材を加工する加工装置において、レーザ光と被加工部材との相対位置関係を特定する方法であって、被加工部材をレーザ光の筒状照射領域に対して相対移動させるステップと、被加工部材に照射されなかったレーザ光を受光するステップと、受光したレーザ光の強度を検出するステップと、検出した光強度にもとづいて、被加工部材の加工に利用されているレーザ光の量を特定するステップとを備える。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本開示は、パルスレーザ研削の加工装置において利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1・・・レーザ加工装置、2・・・レーザ光、10・・・レーザ光照射部、11・・・案内機構、12・・・アクチュエータ、13・・・制御部、14・・・支持装置、16・・・受光部、18・・・強度検出部、20・・・被加工部材。
【要約】
送り機構は、被加工部材20をレーザ光2の筒状照射領域に対して相対移動させる。受光部16は、被加工部材に照射されなかったレーザ光を受光する。強度検出部18は、受光したレーザ光の強度を検出する。制御部13は、検出した光強度にもとづいて、レーザ光と被加工部材20との相対位置関係を特定する。制御部13は、検出した光強度が減少するタイミングで、レーザ光が被加工部材20に切り込み始めたことを判定する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6