(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6963347
(24)【登録日】2021年10月19日
    
      
        (45)【発行日】2021年11月5日
      
    (54)【発明の名称】磁気パターン転写用マスター及びその製造方法、磁気パターン転写方法
(51)【国際特許分類】
   G11B   5/86        20060101AFI20211025BHJP        
【FI】
   G11B5/86 C
   G11B5/86 101B
【請求項の数】8
【全頁数】15
      (21)【出願番号】特願2021-545408(P2021-545408)
(86)(22)【出願日】2019年12月6日
    
      (86)【国際出願番号】JP2019047723
    【審査請求日】2021年8月3日
【早期審査対象出願】
      
        
          (73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
          (74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀  城之
          (74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島  幸彦
          (74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上  大勇
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】小峰  啓史
              
            
        
      
    
      【審査官】
        川中  龍太
      
    (56)【参考文献】
      
        【文献】
          特開2010−086606(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2005−228462(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2004−246995(JP,A)      
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B      5/86
G11B      5/62  −    5/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  予め設定された磁気パターンを磁気記録媒体の表面に転写するマスターとなる磁気パターン転写用マスターであって、
  平板状の基板と、
  第1の飽和磁界及び第1の核形成磁界を有する第1の硬磁性材料で構成され平面視において前記基板の表面に部分的に形成された第1磁性体層と、
  共に前記第1の核形成磁界よりも小さな第2の飽和磁界及び第2の核形成磁界を有する第2の硬磁性材料で構成され平面視において前記基板の表面における前記第1磁性体層が形成された領域以外の領域に形成され、前記第1磁性体層と異なる保磁力を有する第2磁性体層と、
  を具備し、
  前記第1磁性体層の表面と前記第2磁性体層の表面との高さの差が、前記第1磁性体層、前記第2磁性体層の平面視における最小パターン幅の1/2未満であることを特徴とする磁気パターン転写用マスター。
【請求項2】
  前記基板の表面において、前記第1磁性体層、前記第2磁性体層のうちの一方が隣接して形成された間を、前記第1磁性体層、前記第2磁性体層のうちの他方が充填するように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の磁気パターン転写用マスター。
【請求項3】
  前記第1磁性体層の表面と前記第2磁性体層の表面は共通の平面上に存在することを特徴とする請求項2に記載の磁気パターン転写用マスター。
【請求項4】
  前記第1の硬磁性材料、前記第2の硬磁性材料は、それぞれFe又はCoを含む合金であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の磁気パターン転写用マスター。
【請求項5】
  請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の磁気パターン転写用マスターの製造方法であって、
  前記基板上に前記第1磁性体層を形成する第1磁性体層形成工程と、
  前記基板上の、平面視における前記第1磁性体層が形成された領域及び前記第1磁性体層が形成されない領域に、前記第1磁性体層が形成されない領域を埋め込むように、前記第2の硬磁性材料を成膜する第2成膜工程と、
  前記第1磁性体層の上の前記第2の硬磁性材料を除去し、上面から見て前記第1磁性体層を露出させると共に、前記第1磁性体層が形成されない領域に前記第2磁性体層を形成する平坦化工程と、
を具備することを特徴とする磁気パターン転写用マスターの製造方法。
【請求項6】
  前記平坦化工程は、化学機械研磨により行われることを特徴とする請求項5に記載の磁気パターン転写用マスターの製造方法。
【請求項7】
  前記第1磁性体層形成工程において、
  前記基板上に前記第1の硬磁性材料を成膜した後に、成膜された前記第1の硬磁性材料を部分的に除去することを特徴とする請求項5又は6に記載の磁気パターン転写用マスターの製造方法。
【請求項8】
  請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の磁気パターン転写用マスターを用いた磁気パターン転写方法であって、
  前記磁気記録媒体であるスレーブの表面の磁化を一様に前記スレーブの法線方向に沿った一方の向きにするスレーブ磁化工程と、
  マスター初期化磁場を前記磁気パターン転写用マスターの法線方向に印加することにより前記磁気パターン転写用マスターの表面の磁化を一様に前記磁気パターン転写用マスターの法線方向に沿った一方の向きにするマスター磁化工程と、
  前記スレーブ磁化工程後の前記スレーブの表面に、前記マスター磁化工程後の前記磁気パターン転写用マスターの表面を当接又は近接させ、前記第2の飽和磁界よりも大きく、かつ前記第1の核形成磁界よりも小さく、かつ前記マスター初期化磁場と逆向きのバイアス磁場を前記磁気パターン転写用マスターに印加する転写工程と、
  を具備することを特徴とする磁気パターン転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、磁性記録媒体に一定のパターンを記録するために用いられる磁気パターン転写用マスター、及びその製造方法、この磁気パターン転写用マスターを用いた磁気パターン転写方法に関する。
 
【背景技術】
【0002】
  ハードディスク等の高密度の磁気記録媒体におけるデータの記録や読出しに際しては、磁気ヘッドを磁気記録媒体に近接させて制御する必要がある。記録の高密度化に伴って、この際の磁気記録媒体と磁気ヘッドの間の位置関係の制御には、高い精度が要求される。このために、磁気記録媒体の一部には、本来これが使用される際に記録されるべきデータとは別に、磁気ヘッドを適切に誘導してその位置精度を高めるために用いられる専用の信号となるサーボ信号が記録されている。通常のデータと同様の方法でこのサーボ信号を磁気記録媒体に記録することも不可能ではないが、特に磁気記録媒体を大量に生産する場合においては、この手法では個々の磁気記録媒体にサーボ信号を記録するために長時間を要するため、生産効率が著しく低下する。
【0003】
  磁気記録媒体を大量生産する場合において、記録されるサーボ信号は共通であるために、このサーボ信号に対応したマスター(磁気パターン転写用マスター)を予め製造し、新たに製造された磁気記録媒体(スレーブ)にこのマスターにおけるサーボ信号に対応した記録パターンを転写することによって、サーボ信号を記録するための作業時間を大幅に短縮化できる。
図8A、
図8B、
図8Cは、この場合におけるスレーブ、サーボ信号、マスターの例をそれぞれ示す。
図8Aにおいて、磁気記録媒体であるスレーブ10は、スレーブ基板11の上に強磁性体材料で構成された磁気記録層12が形成された平板状とされる。このスレーブ10に対して、法線方向の一様な磁場(スレーブ初期化磁場B0)が印加された場合、磁気記録層12はスレーブ初期化磁場B0と同一の方向の初期磁化M0で一様に磁化する。ここで、矢印は磁化の向きを示す。なお、
図8Aにおいては、便宜上磁気記録層12が面内方向において分割されて示されているが、この分割は以降の説明に対応するような仮想的なものである。また、スレーブ10は後にハードディスクとして用いられるために、磁気記録層12の表面は、磁気ヘッドと接触することがないように高い平坦性を具備する。
【0004】
  図8Bは、ここでスレーブ10に記録されるべきサーボ信号の例であり、これはスレーブ10(磁気記録層12)の表面に形成されるべき2次元の磁気記録パターンに対応する。
図8Bにおいて、ハッチングされた領域とハッチングされない領域では磁気記録層12の表面における磁化の向きが逆転するように設定される。すなわち、例えば、
図8Bにおけるハッチングされた領域の磁化は紙面手前向き、ハッチングされない領域の磁化は紙面奥向き(あるいはこの逆)となる。
【0005】
  図8Cは、このサーボ信号の一部に対応して形成されるマスター90の構造を示す斜視図である。マスター90は磁性材料で構成され、その表面には、サーボ信号の磁気記録パターンに対応した凹凸が形成され、特にこの凸部は磁路となる。なお、マスター90もスレーブ10と同様の基板を具備してもよいが、ここではその記載は省略されている。ここで、例えば
図8B中のXの範囲では、この磁気記録パターンは図中横方向(1次元)で単純なライン&スペースのパターンとなる。以下では、マスター90、スレーブ10におけるこのXの範囲に対応する部分について説明する。
図8Cでは、マスター90に形成された凹凸はこのライン&スペースのパターンに対応するように形成される。マスター90における凸部90Aは、
図8BにおけるXの範囲においてハッチングされた領域、凹部90Bはハッチングされない領域に対応する。
【0006】
  図9A〜
図9Cにおいては、
図8Aのスレーブ10に対して
図8Cのマスター90によって書き込みが行われる際の状況が、鉛直方向の断面に沿って模式的に示されている。
図9Aに示されるように、
図8Aのように初期磁化M0が一様に付与されたスレーブ10に対して、
図8Cとは上下が反転した状態で、表面の凸部90Aが磁気記録層12と当接するようにマスター90が接する。この状態で
図9Bに示されるようにスレーブ10から見て前記の初期化磁場B0とは逆向きの転写磁場B1が印加されると、転写磁場B1により凸部90Aからスレーブ10内に至る磁場(記録磁場B5)が生成され、記録磁場B5の向きは初期磁化M0とは逆向きとなる。このため、その後にマスター90を除去した後で、マスター90における凸部90Aと接する磁気記録層12側の領域(反転領域12A)では、その磁化は、初期磁化M0とは逆向きの書き換え磁化M1となる。凹部90Bを介してスレーブ10側に向かう磁場が無視できれば、凹部90Bに対応する磁気記録層12側の領域(非反転領域12B)では、磁化の反転は生じず、その磁化は初期磁化M0のままとなる。このため、磁気記録層12において、
図8BのXの範囲に対応した磁気記録パターンが形成される。
【0007】
  上記の例では、サーボ信号に対応するパターンが単純なライン&スペースのパターンである部分について説明されたが、
図8Bにおけるハッチングされた領域に対応するように凸部が2次元パターンとして形成されたマスターを用いることにより、上記の手法によって
図8Bのパターンをそのままスレーブに転写することができる。
【0008】
  このようなマスター90を用いてサーボ信号をスレーブ10に転写する際には、マスター90を上記のようにスレーブ10に当接させて転写磁場B1を印加するという単純な工程が用いられるため、この工程に要する時間は短い。このため、サーボ信号が記録済みである磁気記録媒体(スレーブ10)を高い生産性で得ることができる。また、サーボ信号が共通であれば、これに対応する共通のマスター90を多数の磁気記録媒体に対して繰り返し用いることができるために、マスターを製造することによる製造コストの上昇も僅かである。記録の高密度化に伴ってマスターに形成される凹凸パターンを微細化する必要があるが、このパターンは、例えば電子線リソグラフィ等を用いて容易に形成することができる。
【0009】
  特許文献1、2には、このような凹凸構造を具備するマスターにおいて、特に凸部の表面の磁性体の構造を調整することによって、転写後における上記の初期磁化M0や書き換え磁化M1の絶対値を大きく保つ(磁化のコントラストを高める)ことができる技術が記載されている。これによって、書き込みエラーを低減することができ、磁気記録媒体を特に安価とすることができる。
 
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−259372号公報
【特許文献2】特開2009−295250号公報
 
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
  しかしながら、
図9Bの状態において、スレーブ10の磁気記録層12における非反転領域12B(反転領域12Aと隣接する領域)も、実際には転写磁場B1の影響を受ける。非反転領域12Bにおける磁化は本来は前記のように初期磁化M0とすべきであるが、これにより、非反転領域12Bの磁化が影響を受けることがあった。あるいは、非反転領域12Bに磁場が漏れるために、反転領域12Aにおける記録磁場B5を十分に高めることが困難となり、書き込み効率を十分に高めることは困難であった。すなわち、マスターを用いて磁気パターンを磁気記録媒体(スレーブ)に転写する際の書き込み効率を十分に高くすることが求められた。
【0012】
  本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0013】
  本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
  本発明の磁気パターン転写用マスターは、予め設定された磁気パターンを磁気記録媒体の表面に転写するマスターとなる磁気パターン転写用マスターであって、平板状の基板と、第1の飽和磁界及び第1の核形成磁界を有する第1の硬磁性材料で構成され平面視において前記基板の表面に部分的に形成された第1磁性体層と、共に前記第1の核形成磁界よりも小さな第2の飽和磁界及び第2の核形成磁界を有する第2の硬磁性材料で構成され平面視において前記基板の表面における前記第1磁性体層が形成された領域以外の領域に形成され、前記第1磁性体層と異なる保磁力を有する第2磁性体層と、を具備し、前記第1磁性体層の表面と前記第2磁性体層の表面との高さの差が、前記第1磁性体層、前記第2磁性体層の平面視における最小パターン幅の1/2未満であることを特徴とする。
  本発明の磁気パターン転写用マスターは、
前記基板の表面において、前記
第1磁性体層、前記第2磁性体層のうちの一方が隣接して形成された間を、前記
第1磁性体層、前記第2磁性体層のうちの他方が充填するように形成されたことを特徴とする。
  本発明の磁気パターン転写用マスターにおいて、前記第1磁性体層の表面と前記第2磁性体層の表面は共通の平面上に存在することを特徴とする。
  本発明の磁気パターン転写用マスターにおいて、前記第1の硬磁性材料、前記第2の硬磁性材料は、それぞれFe又はCoを含む合金であることを特徴とする。
  本発明の磁気パターン転写用マスターの製造方法は、前記磁気パターン転写用マスターの製造方法であって、前記基板上に前記第1磁性体層を形成する第1磁性体層形成工程と、前記基板上の、平面視における前記第1磁性体層が形成された領域及び前記第1磁性体層が形成されない領域に、前記第1磁性体層が形成されない領域を埋め込むように、前記第2の硬
磁性材料を成膜する第2成膜工程と、前記第1磁性体層の上の前記第2の硬
磁性材料を除去し、上面から見て前記第1磁性体層を露出させると共に、前記第1磁性体層が形成されない領域に前記第2磁性体層を形成する平坦化工程と、を具備することを特徴とする。
  本発明の磁気パターン転写用マスターの製造方法において、前記平坦化工程は、化学機械研磨により行われることを特徴とする。
  本発明の磁気パターン転写用マスターの製造方法は、前記第1磁性体層形成工程において、前記基板上に前記第1の硬磁性材料を成膜した後に、成膜された前記第1の硬磁性材料を部分的に除去することを特徴とする。
  本発明の磁気パターン転写方法は、前記磁気パターン転写用マスターを用いた磁気パターン転写方法であって、前記磁気記録媒体であるスレーブの表面の磁化を一様に前記スレーブの法線方向に沿った一方の向きにするスレーブ磁化工程と、マスター初期化磁場を前記磁気パターン転写用マスターの法線方向に印加することにより前記磁気パターン転写用マスターの表面の磁化を一様に前記磁気パターン転写用マスターの法線方向に沿った一方の向きにするマスター磁化工程と、前記スレーブ磁化工程後の前記スレーブの表面に、前記マスター磁化工程後の前記磁気パターン転写用マスターの表面を当接又は近接させ、前記第2の飽和磁界よりも大きく、かつ前記第1の核形成磁界よりも小さく、かつ前記マスター初期化磁場と逆向きのバイアス磁場を前記磁気パターン転写用マスターに印加する転写工程と、を具備することを特徴とする。
 
【発明の効果】
【0014】
  本発明は以上のように構成されているので、磁気パターンを磁気記録媒体に転写する際の書き込み効率を十分に高くすることができる。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターの構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターにおいて用いられる2種類の磁性体材料の磁気ヒステリシス特性を示す図である。
【
図3A】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターにおけるバイアス磁場印加の前後の磁化の状況を示す図(その1)である。
【
図3B】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターにおけるバイアス磁場印加の前後の磁化の状況を示す図(その2)である。
【
図4A】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターを用いたスレーブへの磁気パターン転写方法(特に転写工程)を示す図(その1)である。
【
図4B】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターを用いたスレーブへの磁気パターン転写方法(特に転写工程)を示す図(その2)である。
【
図4C】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターを用いたスレーブへの磁気パターン転写方法(特に転写工程)を示す図(その3)である。
【
図4D】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターを用いたスレーブへの磁気パターン転写方法(特に転写工程)を示す図(その4)である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターを用いた場合(実施例)と、従来のマスターを用いた場合(比較例)における記録磁場を比較した計算結果である。
【
図6A】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターの製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【
図6B】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターの製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【
図6C】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターの製造方法を示す工程断面図(その3)である。
【
図6D】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターの製造方法を示す工程断面図(その4)である。
【
図6E】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターの製造方法を示す工程断面図(その5)である。
【
図6F】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターの製造方法を示す工程断面図(その6)である。
【
図6G】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターの製造方法を示す工程断面図(その7)である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターの製造方法に用いられる平坦化工程における形態を示す図である。
【
図8A】従来の磁気パターン転写方法を実行する際のスレーブの構造を示す図である。
【
図8B】従来の磁気パターン転写方法を実行する際の転写される磁気パターンの例を示す図である。
【
図8C】従来の磁気パターン転写方法を実行する際の磁気パターン転写用マスターの構造を示す図である。
【
図9A】従来の磁気パターン転写用マスターを用いた磁気パターン転写方法を示す図(その1)である。
【
図9B】従来の磁気パターン転写用マスターを用いた磁気パターン転写方法を示す図(その2)である。
【
図9C】従来の磁気パターン転写用マスターを用いた磁気パターン転写方法を示す図(その3)である。
 
【発明を実施するための形態】
【0016】
  本発明の実施の形態に係る磁気パターン転写用マスターについて説明する。
図1は、この磁気パターン転写用マスター(マスター)20の断面図であり、これは
図9A、
図9Bにおけるマスター90を上下反転させた状態に対応する。また、ここでも、マスター20における
図8B中のXの範囲に対応する部分、すなわち、記録される磁気パターンが単純なライン&スペースである箇所が示されている。また、このマスター20を用いて磁気パターンが転写される磁気記録媒体(スレーブ10)は、前記のものと同様に、前記の磁気パターンに対応するサーボ信号が書き込まれるハードディスクである。ただし、後述するように、ハードディスク以外であっても磁気パターンが書き込まれるものであればスレーブ10とすることができ、ここでは、磁気パターンが記録されるものを磁気記録媒体と呼称する。
 
【0017】
  このマスター20においては、基板21の上に、第1磁性体層22、第2磁性体層23が交互に形成され、第1磁性体層22の表面、第2磁性体層23の表面は共通の平面を構成する。また、第1磁性体層22(第2磁性体層23)が形成されない領域は第2磁性体層23(第1磁性体層22)で充填されているため、マスター20の表面は平坦とされる。基板21としては、マスター20として機能させるだけの十分な面積を確保することができ、第1磁性体層22、第2磁性体層23をその上に形成することが可能であり充分な機械的強度を有する非磁性の材料が用いられ、例えばガラス基板が用いられる。
 
【0018】
  第1磁性体層22は第1の硬磁性材料、第2磁性体層23は第1の硬磁性材料とは異なる第2の硬磁性材料で構成され、両者の磁気特性は異なる。
図2は、これらの磁気ヒステリシス特性(横軸:印加磁場、縦軸:磁化)を示す図である。ここで、第1磁性体層22の磁気ヒステリシス特性は実線、第2磁性体層23の磁気ヒステリシス特性は点線で示されている。ここで示されるように、両者の間では特に保磁力が大きく異なり、第1磁性体層22の保磁力は第2磁性体層23の保磁力よりも大きく設定される。
 
【0019】
  具体的には、第1の硬磁性材料としては、Fe−Pt合金やCo−Pt合金を用いることができ、第2の硬磁性材料としては、他のFe合金、Co合金を用いることができる。これらの合金組成は、上記のような保磁力や飽和磁化等に応じて適宜設定される。
 
【0020】
  図1の状態の法線方向(
図1における上下方向)において、第1磁性体層22、第2磁性体層23の磁化を共に飽和させる程度の磁場(
図2におけるマスター初期化磁場B2)を印加した場合には、第1磁性体層22の磁化はM21、第2磁性体層23の磁化はM22となる。M21、M22の絶対値は異なっていても、その向きは等しく、
図2においては負側となる。この場合におけるマスター20の磁化の状況は、
図3Aに示される通りとなる。
 
【0021】
  その後に、マスター初期化磁場B2と逆向きであり、かつ
図2に示されるように第2磁性体層23の磁化は飽和させるが第1磁性体層22の磁化は飽和させない強度の磁場(バイアス磁場B3、|B2|>|B3|)を印加した場合には、第1磁性体層22の磁化はM31、第2磁性体層23の磁化はM32となり、
図2より、M31≒M21、M32≒−M22となる。すなわち、バイアス磁場B3を印加することによって、
図3Bに示されるように、第1磁性体層22の磁化、第2磁性体層23の磁化を逆向きとすることができる。これにより、
図3Bに示される記録磁場B4を生成することができる。
 
【0022】
  図2において、第1磁性体層22(第1の硬磁性材料)における保磁力、核形成磁界、飽和磁界はそれぞれHc1、Hn1、Hs1であり、第2磁性体層23(第2の硬磁性材料)における保磁力、核形成磁界、飽和磁界はそれぞれHc2、Hn2、Hs2である。上記のような作用を奏するようにB3(バイアス磁場)を余裕度をもって設定できるためには、第1磁性体層22の核形成磁界Hn1、バイアス磁場B3、第2磁性体層23の飽和磁界Hs2の間が十分に離れている(それぞれの磁場強度が異なる)ことが好ましい。このためには、第2の飽和磁界Hs2、第2の核形成磁界Hn2は、第1の核形成磁界Hn1よりも十分に小さいことが好ましい。
 
【0023】
  このマスター20を用いて磁気記録パターンをスレーブ10に転写する際の磁気パターン転写方法について説明する。
図4A〜
図4Dは、この磁気パターン転写方法を示す図である。ここでは、まず
図4Aに示されるように、
図9A〜
図9Cの場合と同様に一様の磁化が付与されたスレーブ10と、前記のように一様の向きの磁化が付与されたマスター20が準備される。
図4A〜
図4Dにおいては、マスター20は
図3における場合と上下が逆転して示されている。
 
【0024】
  一様に初期磁化M0が付与されたスレーブ10(磁気記録層12)を得るためには、
図8Aに示されたように、スレーブ10にスレーブ初期化磁場B0が印加される(スレーブ磁化工程)。また、
図3Aに示されたような一様の向きに磁化されたマスター20を得るためには、前記の通り、マスター20にマスター初期化磁場B2が印加される。これによって、第1磁性体層22の磁化をM21、第2磁性体層23の磁化をM21と同じ向きのM22としたマスター20が準備される(マスター磁化工程)。なお、便宜上
図3A、
図4Aにおいては磁化M21、M22は同様に示されているが、磁化M21、M22の絶対値が等しい必要はない。
 
【0025】
  次に、
図4Bに示されるように、この状態のマスター20と、スレーブ10の磁気記録層12とを密着させる。前記の通り、スレーブ10、マスター20の表面は平坦であるため、これらの表面を密着させる、あるいはこれらの表面間の距離を極めて狭くすることができる。この状態で前記のようにマスター20にバイアス磁場B3を印加した場合には、
図3Bに示されるように第1磁性体層22の磁化は反転せず、第2磁性体層23の磁化だけが反転するため、
図4Cに示されるように、前記の記録磁場B4が生成される(転写工程)。この記録磁場B4の向きは、スレーブ10の磁気記録層12において磁化を反転させるべき反転領域12Aにおいては初期磁化M0と逆向きに、磁化を反転させない非反転領域12Bにおいては初期磁化M0と同じ向きとなる。
 
【0026】
  このため、バイアス磁場B3とマスター20を除去した後は、
図4Dに示されるように、
図9Cと同様に、非反転領域12Bにおける磁化を初期磁化M0とし、反転領域12Aにおける磁化をこれと逆向きの書き換え磁化M1とすることができる。ただし、上記の記録磁場B4は非反転領域12Bと反転領域12Aにおいては逆向きに作用するため、書き込み効率を
図9Cの場合よりも高めることができる。
 
【0027】
  図5は、このようにスレーブ10の表面における磁場(記録磁場)の強度分布を
図4C(実施例)、
図9B(比較例)の場合において計算した結果である。ここでは、1組の反転領域12A、非反転領域12Bが隣接する範囲(幅50nm)についての結果が示されており、実施例(
図4C)におけるバイアス磁場B3、比較例(
図9B)における転写磁場B1は共に5kOeとしている。この結果より、幅50nmの範囲内においても、実施例においては、反転領域12A、非反転領域12Bにおける記録磁場B3の差(コントラスト)を高めることができる。これにより、磁気パターンの書き込み効率を高めることができる。
 
【0028】
  次に、上記のマスター20の製造方法について説明する。
図6A〜
図6Gは、この製造方法を示す工程断面図である。ここでは、まず、
図6Aに示されるように、基板21の全面に一様に、第1磁性体層22を構成する第1の硬磁性材料41を、スパッタリング法等によって成膜する(第1成膜工程)。この際の成膜厚さは、最終的なスレーブ20(
図1等)における第1磁性体層22厚さに設定され、例えば10nmとすることができる。その後、
図6Bに示されるように、フォトレジスト層100を、電子線リソグラフィを用いて形成する。フォトレジスト層100の幅、間隔は、それぞれ
図1における第1磁性体層22の幅、第2磁性体層23の幅に対応し、例えば10nm〜15nmとすることができる。このような幅、間隔のフォトレジスト層100は、特に電子線リソグラフィによって形成することができる。
 
【0029】
  その後、
図6Cに示されるように、フォトレジスト層100をマスクとして第1の硬磁性材料41のドライエッチングを行った後に、
図6Dに示されるように、フォトレジスト層100を除去すれば、パターニングされた第1磁性体層22が得られる(パターニング工程)。すなわち、第1磁性体層22を得るための第1磁性体層形成工程として、第1成膜工程(
図6A)と、パターニング工程(
図6B,
図6C)が行われる。
 
【0030】
  その後、
図6Eに示されるように、第2磁性体層23を構成する第2の硬磁性材料42を全面に成膜する(第2成膜工程)。この場合の成膜方法は、
図6Aの場合と同様にスパッタリング法等を用いることができ、成膜される厚さは、隣接する第1磁性体層22の間が十分に充填される程度とする。この場合に形成される構造の表面は第2の硬磁性材料42で構成され、第1磁性体層22のある箇所が凸部となり第1磁性体層22のない箇所が凹部となるような凹凸が形成される。
 
【0031】
  その後に、
図6Eの状態の表面に対する平坦化処理を行う(平坦化工程)。この平坦化処理は、第1磁性体層22間の第2の硬磁性材料42を残存させた状態で第1磁性体層22上の第2の硬磁性材料42を除去することにより、第2磁性体層23を得るために行われる。具体的には、この平坦化処理として、CMP(化学機械研磨)を行うことができる。
図7は、CMPを行う際の形態を模式的に示す斜視図である。ここでは、回転する研磨治具110の下面に、
図6Eの状態のウェハ(基板21)が
図6Eとは上下反転された形態で装着され、その下側において回転する大きな研磨盤120と当接する。この際に、研磨盤120には、スラリーが滴下される。研磨盤120やスラリーは、第2の硬磁性材料42に対する研磨速度が高く、第1の硬磁性材料41(第1磁性体層22)に対する研磨速度が低くなるように設定される。第1の硬磁性材料41と第2の硬磁性材料42とは異なるために、こうした設定を行うことができる。
 
【0032】
  このため、
図6Fに示されるように、
図6Eの状態における第2磁性体層23で構成された表面を平坦化し、最終的に、
図6Gに示されるように、第1磁性体層22の表面を露出させると共に、第1磁性体層22の間に第2磁性体層23を形成することができる。この際、第1磁性体層22の表面と第2磁性体層23の表面が同一の平面を構成する、すなわち、これらで構成された表面が平坦とされたマスター20が得られる。
 
【0033】
  なお、上記の製造方法においては、初めに第1磁性体層22が成膜され(第1成膜行程:
図6A)、その後に第1磁性体層22がパターニングされた(パターニング工程:
図6B、
図6C)後で第2磁性体層23が成膜された(第2成膜工程:
図6E)。しかしながら、第1磁性体層22(第1の硬磁性材料41)と第2磁性体層23(第2の硬磁性材料42)をこの例と入れ替えて上記の製造方法を同様に行うこともできる。平坦化(
図6F、
図6G)の条件は、これに応じて設定が可能である。この際、第1の硬磁性材料41、第2の硬磁性材料42のうち上記のような平坦化処理(
図6F、
図6G)を行うことが容易である一方を後に成膜し(
図6E)、他方を先に成膜しパターニングする(
図6C)ことができる。あるいは、第1の硬磁性材料41、第2の硬磁性材料42のうちパターニングする(
図6C)ことが容易となる一方を先に成膜してパターニングし(
図6A〜
図6C)、他方をその後で成膜し(
図6E)、平坦化する(
図6F、
図6G)こともできる。すなわち、成膜の順序等は、第1の硬磁性材料41、第2の硬磁性材料42の種類に応じて適宜設定が可能である。
 
【0034】
  上記の製造方法においては、
図1における第1磁性体層22、第2磁性体層23のパターンは、
図6Bにおけるフォトレジスト層100で定まる。前記のような幅、間隔10nmの第1磁性体層22のパターンは、電子線リソグラフィを用いて容易に実現することができる。その後のリソグラフィは不要である。このため、上記の製造方法によってこのマスター20を安価に製造することができる。
 
【0035】
  また、
図6A〜
図6Gにおいては、マスター20の
図8B中のXの範囲に対応した部分が示されたが、
図8Bにおけるハッチングされた領域(あるいはハッチングされない領域)を
図6Bにフォトレジスト層100のパターンとして形成すれば、
図8Bのパターン全体に対応したマスター20を、
図6A〜
図6Gの製造方法によって製造することができる。すなわち、任意の磁気パターンに対応したマスター20を上記の製造方法によって製造することができる。
 
【0036】
  なお、
図6Gの状態において、第1磁性体層22の表面と第2磁性体層23の表面は同一の平面を構成する、すなわち、これらで構成される表面は完全に平坦であるものとした。実際には、これらで構成される表面を完全に平坦とすることは困難であり、かつ上記の効果を得るためにこの表面が完全に平坦である必要もない。ただし、この表面が平坦に近いことが好ましいことは明らかである。このように要求される平坦度は、最小パターン幅に依存し、最小パターン幅が小さいほど高い平坦度が要求される。ここで、最小パターン幅とは、平面視における第1磁性体層22のパターン、第2磁性体層23のパターンのうちで最小の幅を意味する。具体的には、第1磁性体層22の表面と第2磁性体層23の表面との高さの差が、この最小パターン幅の1/2未満であればよい。例えば、最小パターン幅が10nmであれば、この高さの差が5nm未満であればよい。こうした平坦性は、CMPによって実現することが可能である。こうした場合においても、
図4Cの状態が実現できるように、マスター20とスレーブ10(磁気記録層12)とが十分に近接した状態を実現させることができる。また、平坦化のために、CMP以外の手法を用いてもよい。
 
【0037】
  なお、上記の例では、マスター20がスレーブ10に転写するのはサーボ信号のパターンであるものとしたが、スレーブ(磁気記録媒体)に記録すべき任意のパターンに対して、上記の磁気パターン転写用マスター、磁気パターン転写方法を同様に用いることができることは明らかであり、これによって、このパターン(信号)が転写された磁気記録媒体を安価に得ることができる。更に、予め定められた磁気パターンが用いられる磁気エンコーダ等の製造においても、上記の磁気パターン転写用マスター、磁気パターン転写方法が有効であることが明らかである。すなわち、上記のスレーブ10として用いられる磁気記録媒体は、ハードディスクとして用いられるものに限定されず、磁気パターンが記録される任意のものをスレーブ10とすることができる。
 
 
【符号の説明】
【0038】
10  スレーブ(磁気記録媒体)
11  スレーブ基板
12  磁気記録層
12A  反転領域
12B  非反転領域
20、90  マスター(磁気パターン転写用マスター)
21  基板
22  第1磁性体層
23  第2磁性体層
41  第1の硬磁性材料
42  第2の硬磁性材料
90A  凸部
90B  凹部
100  フォトレジスト層
110  研磨治具
120  研磨盤
B0  スレーブ初期化磁場
B1  転写磁場
B2  マスター初期化磁場
B3  バイアス磁場
B4、B5  記録磁場
M0  初期磁化
M1  書き換え磁化
M21、M22、M31、M32  磁化
 
【要約】
  磁気パターンを磁気記録媒体に転写する際の書き込み効率を十分に高くする。
  一様の磁化が付与されたスレーブ(10)と、一様の向きの磁化が付与されたマスター(20)が準備される。次に、この状態のマスター(20)と、スレーブ(10)の磁気記録層(12)とを密着させる。この状態で前記のようにマスター(20)にバイアス磁場(B3)を印加した場合には、第1磁性体層(22)の磁化は反転せず、第2磁性体層(23)の磁化だけが反転するため、
図4Cに示されるように、記録磁場(B4)が生成される。このため、バイアス磁場(B3)とマスター(20)を除去した後は、非反転領域(12B)における磁化を初期磁化(M0)とし、反転領域(12A)における磁化をこれと逆向きの書き換え磁化(M1)とすることができる