特許第6963349号(P6963349)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963349
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子分散物
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20211025BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20211025BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20211025BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20211025BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20211025BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   H01B1/22 A
   B41J2/01 501
   B41M5/00 120
   C09D11/326
   C09D11/52
   H01B5/14 B
【請求項の数】5
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2017-530137(P2017-530137)
(86)(22)【出願日】2015年12月10日
(65)【公表番号】特表2018-508925(P2018-508925A)
(43)【公表日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】EP2015079281
(87)【国際公開番号】WO2016102192
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年6月6日
【審判番号】不服2020-5300(P2020-5300/J1)
【審判請求日】2020年4月20日
(31)【優先権主張番号】14199745.2
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504376795
【氏名又は名称】アグフア−ゲヴエルト
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボレン,ディルク
【合議体】
【審判長】 大島 祥吾
【審判官】 植前 充司
【審判官】 大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−522845(JP,A)
【文献】 特開2010−84173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 5/14
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/326
C09D 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の被膜またはパターンの調製方法であって、金属ナノ粒子および液体キャリア(carrier)を含む金属ナノ粒子分散物が支持体(support)上に適用され、焼結工程が続き、
前記分散物が更に、非ポリマーの分散安定化合物(DSC)を含むことを特徴とし、
前記分散物が25℃で90s-1の剪断速度において2〜100mPa.sの間の粘度を有し、
前記液体キャリアは有機溶媒であり、
前記分散安定化合物が、N,N−ジブチル−(2,5−ジヒドロ−5−チオキソ−1H−テトラゾール−1−イル−アセタミド、5−ヘプチル−2−メルカプト−1,3,4−オキサジアゾール、1−フェニル−5−メルカプトテトラゾールおよび5−メチル−1,2,4−トリアゾロ−(1,5−a)プリミジン−7−オールよりなる群から選択される、
方法。
【請求項2】
前記焼結工程は250℃未満の温度で実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記焼結工程における焼結時間は60分未満である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記液体キャリアが、2−フェノキシエタノール、4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、n−ブタノール、1,2−プロパンジオール、4−ヒドロキシ−4−メチルペンタン−2−オン、ペンタン−3−オン、2−ブトキシ−エタノール、1−メトキシ−2−プロパノールおよびそれらの混合物よりなる群から選択される高沸点溶媒である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子分散物が導電インクジェットインクまたは導電フレキソインクである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の分散安定化合物(dispersion−stabilizing compound)を含む金属ナノ粒子分散物、並びにそれから調製される導電(conductive)インクおよびペーストに関する。分散安定化合物は、低粘度においても分散物に対して改善された安定性を与える。本発明は更に、金属ナノ粒子分散物を調製する方法および穏やかな硬化条件下においてこれらの金属ナノ粒子分散物により形成される、導電層(conductive layer)または導体パターン(pattern)に関する。
【背景技術】
【0002】
過去数十年間、金属ナノ粒子を含む金属印刷または塗工流体(metallic printing or coating fluids)における興味は、ある金属のバルク特性に比較される時の、それらの独特な特性のために増大してきた。例えば、金属ナノ粒子の融点は、粒度の低下に伴って低下して、それらを印刷電子工学、電気化学的、光学的、磁気および生物学的適用に対して興味深いものにさせる。
【0003】
例えば、インクジェット印刷により印刷されるか、または高速で塗工することができる、安定で、濃厚化された、金属印刷または塗工流体の生産は、それが低価格で電子装置の製造を可能にするために、極めて興味深い。
【0004】
金属印刷または塗工流体は典型的には、金属ナノ粒子および分散媒を含む金属ナノ粒子分散物である。このような金属ナノ粒子分散物は印刷または塗工流体として直接使用されることができる。しかし、生成される金属印刷または塗工流体の特性を最適化するために、しばしば金属ナノ粒子分散物に更なる成分が添加される。
【0005】
金属ナノ粒子の調製は、例えばChalla S.S.R.Kumar,Wiley−VCH Verlag GmbH&Co.KGaA,Weinheimにより編纂された‘Approaches to the synthesis and Characterization of Spherical and Anisotropic Silver Nanomaterials(球形および異方性銀ナノ材料の合成法および特徴付け)’,Metallic Nanomaterial Vol.1.,中に開示された通りの、いわゆるポリオール合成により、ポリオール合成法から派生する方法(a
derivative)により、または様々な還元剤の存在下における金属塩の現位置(in−situ)還元により、水中または有機溶媒中で実施されることができる。このような方法は例えば、特許文献1〜17に開示されている(特許文献1〜17参照)。
【0006】
安定な金属印刷または塗工流体を得るための金属ナノ粒子の調製にはポリマー分散剤(dispersant)がしばしば使用される。前記に言及された銀ナノ粒子を調製するためのポリオール合成は典型的には、ポリビニルピロリドン(PVP)の存在下で実施される。不安定な金属ナノ粒子分散物は不可逆的相分離をもたらし、それはとりわけ、塗工またはプリントヘッドの詰まり(clogging)を惹起する可能性がある。金属ナノ粒子の凝集(agglomeration)はまた、導電率(conductivity)の低下をもたらす可能性がある。
【0007】
ポリマー分散剤(dispersant)は典型的には、分子の一部分内に、分散される金属粒子上に吸着するいわゆるアンカー基(anchor groups)を含む。分子の他の部分内では、ポリマー分散剤は、分散媒および最終的印刷または塗工流体中に存
在するすべての成分と相容性のポリマー鎖をもつ。
【0008】
ポリマー分散剤は典型的には、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルピロリジノン、ビニルブチラール、ビニルアセテートまたはビニルアルコールモノマーから調製されるホモポリマーまたはコポリマーである。
【0009】
典型的には支持体(substrate)上に金属印刷または塗工流体を適用後に、層の適用されたパターンの導電率を誘発/促進するために、高温における、硬化工程(curing step)とも呼ばれる焼結工程(sintering step)が実施される。金属印刷または塗工流体の有機成分、例えば、ポリマー分散剤は焼結効率(sintering efficiency)および従って層の適用されたパターンの導電率を低下させ得る。このために、有機成分を分解するために、しばしばより高い焼結温度およびより長い焼結時間が必要とされる。
【0010】
前記のもののような典型的なポリマー分散剤は、少なくとも350℃の全分解温度を特徴として示す。従って、このようなポリマー分散剤を含む金属印刷または塗工流体を使用して塗工または印刷される層またはパターンは典型的には、大部分のポリマー分散剤が確実に分解されるためには、高温における焼結工程を必要とする。
【0011】
このような高い焼結温度は、比較的低いガラス遷移温度をもつポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリカーボネートのような一般的なポリマー箔(polymer foil)と相容性ではない。これがポリイミドのような、より高価なポリマーに選択を限定させる。
【0012】
従って、導電層または導体パターンを得るために必要な焼結温度を低下する方法に興味がもたれる。
【0013】
特許文献18は、「熱重量分析(Thermal Gravimetric Analysis)」により測定される通りの300℃未満の温度において95重量%の分解率をもつポリマー分散剤を開示している(特許文献18参照)。このようなポリマー分散剤を含む金属印刷または塗工流体を使用することにより、焼結温度および時間を低下(短縮)させることができると考えられる。特許文献19および20において、焼結温度を更に低下させるために、特許文献18のポリマー分散剤と組み合わせて、いわゆる焼結添加剤が使用されている(特許文献19、20、18参照)。
【0014】
特許文献21は、ポリマー分散剤を使用せずに、より安定な分散物をもたらす特定の分散媒、例えば2−ピロリドンを含む金属ナノ粒子分散物を開示している(特許文献21参照)。
【0015】
しかしまだ、分散物を使用して得られる被膜またはパターンの導電率および/または硬化パラメーターに不都合に影響することなく、金属ナノ粒子分散物、特にインクジェット印刷法に使用される金属ナノ粒子分散物の安定性を更に改善する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第2010143591号明細書
【特許文献2】米国特許第2009142482号明細書
【特許文献3】米国特許第20060264518号明細書
【特許文献4】欧州特許第2147733号明細書
【特許文献5】欧州特許第2139007号明細書
【特許文献6】欧州特許第803551号明細書
【特許文献7】欧州特許第2012952号明細書
【特許文献8】欧州特許第2030706号明細書
【特許文献9】欧州特許第1683592号明細書
【特許文献10】欧州特許第166617号明細書
【特許文献11】欧州特許第2119747号明細書
【特許文献12】欧州特許第2087490号明細書
【特許文献13】欧州特許第2010314号明細書
【特許文献14】国際公開第2008/151066号パンフレット
【特許文献15】国際公開第2006/076603号パンフレット
【特許文献16】国際公開第2009/152388号パンフレット
【特許文献17】国際公開第2009/157393号パンフレット
【特許文献18】欧州特許第2468827号明細書
【特許文献19】欧州特許第2608218号明細書
【特許文献20】欧州特許第2608217号明細書
【特許文献21】欧州特許第2671927号明細書
【発明の概要】
【0017】
それをもって、高度に導電性の被膜またはパターンを、例えばインクジェット印刷法を使用して、緩和な硬化条件下で得ることができる、安定な金属ナノ粒子分散物を提供することが本発明の目的である。この目的は、請求項1に規定される金属ナノ粒子分散物により実現される。
【0018】
請求項1に規定される金属ナノ粒子分散物の調製法を提供することが本発明の更なる目的である。
【0019】
本発明の更なる利点および態様は以下の説明および付属請求項から明白になると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
定義
本明細書に使用される用語のポリマー支持体およびポリマー箔(foil)は、1枚以上の接着層(adhesion layers)、例えば下塗り層(subbing layers)を伴うことができる自立性の(self−supporting)ポリマー基材のシートを意味する。支持体および箔は通常、押し出し成形(extrusion)により製造される。
【0021】
本明細書で使用される用語の層は、自立性ではないと考えられ、(ポリマーの)支持体(support)または箔上にそれを塗工または噴霧することにより製造される。
【0022】
PETはポリエチレンテレフタレートの略語である。
【0023】
用語のアルキルは、アルキル基内の炭素原子の各数に対して可能なすべての変形物(variants)、すなわち、メチル、エチル、3個の炭素原子に対してはn−プロピルおよびイソプロピル、4個の炭素原子に対してはn−ブチル、イソブチルおよび第三級ブチル、5個の炭素原子に対しては、n−ペンチル、1,1−ジメチル−プロピル、2,2−ジメチルプロピルおよび2−メチル−ブチル、等、を意味する。
【0024】
別記されない限り、置換もしくは未置換アルキル基は好適には、C1〜C6−アルキル基
である。
【0025】
別記されない限り、置換もしくは未置換アルケニル基は好適には、C2〜C6−アルケニル基である。
【0026】
別記されない限り、置換もしくは未置換アルキニル基は好適には、C2〜C6−アルキニル基である。
【0027】
別記されない限り、置換もしくは未置換アラルキル基は好適には、1、2、3またはそれ以上のC1〜C6−アルキル基を含むフェニル基またはナフチル基である。
【0028】
別記されない限り、置換もしくは未置換アルカリール基は好適には、アリール基、好適にはフェニル基またはナフチル基を含むC1〜C6−アルキル基である。
【0029】
別記されない限り、置換もしくは未置換アリール基は好適には、置換もしくは未置換フェニル基またはナフチル基である。
【0030】
環状基は、少なくとも1個の環構造を含み、そして一緒に縮合された1個以上の環を意味する単環式または多環式基であることができる。
【0031】
複素環式基は、その1個または複数の環のメンバーとして少なくとも2個の異なる元素の原子を有する環式基である。複素環式基の対照語は、その環構造が炭素のみでできている同素環式基(homocyclic group)である。別記されない限り、置換もしくは未置換複素環式基は好適には酸素原子、窒素原子、硫黄原子、セレン原子またはそれらの組み合わせ物から選択される1、2、3もしくは4個のヘテロ原子により置換された、好適には5もしくは6員環である。
【0032】
脂環式(alicyclic)基は、その環原子が炭素原子よりなる、非芳香族の同素環式基である。
【0033】
用語のヘテロアリール基は、環構造中に炭素原子および、1個以上のヘテロ原子、好適には窒素、酸素、セレンおよび硫黄から独立して選択される1〜4個のヘテロ原子を含む、単環式または多環式芳香環を意味する。ヘテロアリール基の好適な例は、それらに限定はされないが、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジル、ピラジル、トリアジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、(1,2,3,)−および(1,2,4)−トリアゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、テトラゾリル、フリル、チエニル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリルおよびオキサゾリルを含む。ヘテロアリール基は未置換でも、または1、2またはそれ以上の適切な置換基で置換されてもよい。好適には、ヘテロアリール基はその環が1〜5個の炭素原子および1〜4個のヘテロ原子を含む単環式環である。
【0034】
例えば置換アルキル基中の用語、置換は、そのアルキル基が、このような基中に通常存在する原子、すなわち炭素および水素、以外の原子により置換されることができることを意味する。例えば、置換アルキル基はハロゲン原子またはチオール基を含むことができる。未置換アルキル基は炭素および水素原子のみを含む。
【0035】
別記されない限り、置換アルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基、置換アラルキル基、置換アルカリール基、置換アリール、置換ヘテロアリールおよび置換複素環式基は好適には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、1−イソブチル、2−イソブチルおよび第三級ブチル、エステル、アミド、エーテル、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、スルホキシド、スルホン、スルホネートエステル、スルホンアミド、−Cl、−Br、−I、−OH、−SH、−CNおよび−NO2よりなる群から選択される1個以上の置換基により置換される。
【0036】
金属ナノ粒子分散物
本発明に従う金属ナノ粒子分散物は、金属ナノ粒子、液体キャリアおよび分散安定化合物(DSC)を含む。金属ナノ粒子分散物は更に、ポリマー分散剤および、その特性を更に最適化するための添加剤(additives)を含むことができる。
【0037】
分散安定化合物(DSC)
本発明に従う金属ナノ粒子分散物は金属ナノ粒子および液体キャリアを含み、該分散物が更に、式I、II、IIIまたはIV、
【0038】
【化1】
【0039】
[式中、
Qは置換もしくは未置換の、5もしくは6員の複素環式芳香環を形成するために必要な原子を表わし、
Mはプロトン、一価のカチオン基およびアシル基よりなる群から選択され、
R1およびR2は水素、置換もしくは未置換アルキル基、置換もしくは未置換アルケニル基、置換もしくは未置換アルキニル基、置換もしくは未置換アルカリール基、置換もしくは未置換アラルキル基、置換もしくは未置換アリールもしくはヘテロアリール基、ヒドロキシル基、チオエーテル、エーテル、エステル、アミド、アミン、ハロゲン、ケトンおよびアルデヒドよりなる群から独立して選択され、
R1およびR2は5〜7員環を形成するために必要な原子を表わすことができ、
R3〜R5は水素、置換もしくは未置換アルキル基、置換もしくは未置換アルケニル基、置換もしくは未置換アルキニル基、置換もしくは未置換アルカリール基、置換もしくは未置換アラルキル基、置換もしくは未置換アリールもしくはヘテロアリール基、ヒドロキシル基、チオール、チオエーテル、スルホン、スルホキシド、エーテル、エステル、アミド、アミン、ハロゲン、ケトン、アルデヒド、ニトリルおよびニトロ基よりなる群から独立して選択され、
R4およびR5は5〜7員環を形成するために必要な原子を表わすことができる]
に従う分散安定化合物(DSC)を含むことを特徴とする。
【0040】
分散安定化合物は好適には式Iに従う化合物である。
【0041】
分散安定化合物はより好適には、そのQが5員の複素環式芳香環を形成するために必要な原子を表わす式Iに従う化合物である。
【0042】
特に好適な分散安定化合物は、そのQがイミダゾール、ベンズイミダゾール、チアゾール、ベンゾチアジール、オキサゾール、ベンズオキサゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾールおよびテトラゾールよりなる群から選択される5員の複素環式芳香環である、式Iに従う化合物である。
【0043】
本発明に従う分散安定化合物の幾つかの例は次の表に示される。
【0044】
【表1-1】
【0045】
【表1-2】
【0046】
【表1-3】
【0047】
分散安定化合物は好適には、N,N−ジブチル−(2,5−ジヒドロ−5−チオキソ−1H−テトラゾール−1−イル−アセタミド、5−ヘプチル−2−メルカプト−1,3,4−オキサジアゾール、1−フェニル−5−メルカプトテトラゾール、5−メチル−1,2,4−トリアゾロ−(1,5−a)プリミジン−7−オールおよびS−[5−[(エトキシカルボニル)アミノ]−1,3,4−チアジアゾール−2−イル]O−エチルチオカーボネートよりなる群から選択される。
【0048】
式I〜IVに従う分散安定化合物は好適には、非ポリマー化合物である。本明細書で使用される非ポリマー化合物は、好適には1000未満、より好適には500未満、最も好適には350未満の「分子量(Molecular Weight)」をもつ化合物を意味する。
【0049】
金属ナノ粒子中の銀(Ag)の総重量に対する重量%として表わされる分散安定化合物(DSC)の量は好適には、0.005〜10.0間、より好適には0.0075〜5.0間、最も好適には0.01〜2.5間である。金属ナノ粒子中の銀の総重量に対する分散安定化合物の量が低過ぎる時は、安定効果は低過ぎる可能性があり、他方、分散安定化合物の高過ぎる量は、金属ナノ粒子分散物により得られる被膜またはパターンの導電率に不都合な影響を与える可能性がある。
【0050】
金属ナノ粒子
本発明の金属ナノ粒子分散物は金属ナノ粒子を含む。
【0051】
金属ナノ粒子は元素または合金形態の1種以上の金属を含む。金属は好適には、銀、金、銅、ニッケル、コバルト、モリブデン、パラジウム、白金、錫、亜鉛、チタン、クロム、タンタル、タングステン、鉄、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、アルミニウムおよび鉛よりなる群から選択される。銀、銅、モリブデン、アルミニウム、金、銅またはそれらの組み合わせ物を基材にした金属ナノ粒子が特に好適である。最も好適なものは、銀基材の金属ナノ粒子である。
【0052】
用語「ナノ粒子」は100nm未満、好適には50nm未満、より好適には30nm未満、最も好適には20nm未満の平均粒度または平均粒径をもつ分散粒子を表わす。
【0053】
金属ナノ粒子分散物は、分散物の総重量に対して、好適には少なくとも5重量%、より好適には少なくとも10重量%、最も好適には少なくとも15重量%、特に好適には少なくとも20重量%の金属ナノ粒子を含む。
【0054】
ポリマー分散剤
金属ナノ粒子分散物はポリマー分散剤を含むことができる。
【0055】
ポリマー分散剤は典型的には、分子の一部分内に、分散される金属粒子上に吸着するいわゆるアンカー基(anchor group)を含む。分子の他の部分内では、ポリマー分散剤は、液体ビヒクル(vehicle)とも呼ばれる分散媒および、最終的印刷または塗工流体中に存在するすべての成分と相容性のポリマー鎖をもつ。
【0056】
ポリマー分散剤は典型的には、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルピロリジノン、ビニルブチラール、ビニルアセテートまたはビニルアルコールモノマーから調製されるホモポリマーもしくはコポリマーである。
【0057】
「熱重量分析(Thermal Gravimetric Analysis)」により測定される通りに300℃未満の温度で95重量%の分解率をもつ、欧州特許第2468827号明細書に開示されたポリマー分散剤も使用されることができる。
【0058】
しかし、好適な態様においては、本発明に従う金属ナノ粒子分散物は、分散物の総重量に対して5重量%未満、より好適には1重量%未満、最も好適には0.1重量%未満のポリマー分散剤を含む。特に好適な態様においては、分散物はポリマー分散剤を全く含まない。
【0059】
液体キャリア
金属ナノ粒子分散物は液体キャリアを含む。
【0060】
液体キャリアは好適には有機溶媒である。有機溶媒はアルコール、芳香族炭化水素、ケトン、エステル、脂肪族炭化水素、高級脂肪酸、カルビトール、セロソルブおよび高級脂肪酸エステルから選択されることができる。
【0061】
適切なアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、2−ブタノール、t−ブタノールを含む。
【0062】
適切な芳香族炭化水素はトルエンおよびキシレンを含む。
【0063】
適切なケトンはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2,4−ペンタンジオンおよびヘキサ−フルオロアセトンを含む。
【0064】
更にグリコール、グリコールエーテル、N,N−ジメチル−アセタミド、N,N−ジメチルホルムアミドを使用することができる。
【0065】
金属ナノ粒子分散物の特性を最適化するために、有機溶媒の混合物を使用することができる。
【0066】
好適な有機溶媒は高沸点溶媒である。本明細書で言及される高沸点有機溶媒は、水の沸点より高い(>100℃)沸点をもつ溶媒である。
【0067】
好適な高沸点溶媒は次の表に示される。
【0068】
【表2】
【0069】
特に好適な高沸点溶媒は2−フェノキシエタノール、ガンマ−ブチロラクトンおよびそれらの混合物である。
【0070】
液体キャリアはまた、下記の式Vに従う溶媒のような、ナノ粒子の製法に使用される溶媒を含むことができる。
【0071】
液体キャリアの量は印刷または塗工流体の所望粘度に左右される。液体キャリアの量は、金属ナノ粒子分散物の総重量に対して、好適には95重量%未満、より好適には90重量%未満、最も好適には85重量%未満である。
【0072】
添加剤
前記の金属ナノ粒子分散物に、塗工または印刷特性を最適化するために、そして更に、それがそのために使用される適用に応じて、還元剤、湿潤剤(wetting)/均染剤(levelling agents)、脱湿潤剤(dewetting agent)、レオロジー修飾剤、接着剤(adhesion agents)、粘性付与剤、湿潤剤(humectants)、噴射剤、硬化剤、殺生物剤(biocides)または抗酸化剤のような添加剤を添加することができる。
【0073】
金属ナノ粒子分散物は好適には、界面活性剤を含む。好適な界面活性剤は、双方とも修飾尿素の溶液であるByk(登録商標)410および411並びに高分子尿素で修飾された中度極性の(medium polar)ポリアミドの溶液のByk(登録商標)430である。
【0074】
界面活性剤の量は、金属ナノ粒子分散物の総量に対して、好適には0.01〜10重量%間、より好適には0.05〜5重量%間、最も好適には0.1〜0.5重量%間である。
【0075】
欧州特許第13175029.1号明細書(04−07−2013出願)に開示されたような金属ナノ粒子分散物から形成される金属層またはパターンの硬化中に、少量の、無機酸の金属または、そのような酸を生成することができる化合物を添加することは好都合かも知れない。このような金属ナノ粒子分散物から形成される層またはパターンの、より高い導電率および/またはより低い硬化温度が認められた。
【0076】
より高い導電率および/またはより低い硬化温度はまた、欧州特許第13175033.3号明細書(04−07−2013出願)に開示されたような、式X
【0077】
【化2】
【0078】
[式中、Xは置換もしくは未置換の環を形成するために必要な原子を表わす]
に従う化合物を含む金属ナノ粒子分散物を使用する時にも得ることができる。
【0079】
式Xに従う、特に好適な化合物はアスコルビン酸またはエリソルビン酸(erythorbic acid)誘導化合物である。
【0080】
金属ナノ粒子分散物の調製
本発明に従う金属ナノ粒子分散物の調製は典型的には、撹拌、高剪断混合、超音速処理またはそれらの組み合わせのような均質化法(homogenization technique)を使用することにより、液体キャリア、分散安定化合物および場合による添加剤の、金属ナノ粒子への添加を含む。
【0081】
金属ナノ粒子分散物がそれから製造される金属ナノ粒子は典型的には、金属ナノ粒子のペーストまたは高度濃厚化分散物である。金属ナノ粒子の好適な製法は下記の通りである。
【0082】
下記の通りに、金属ナノ粒子の製法中に、すべてのまたは一部の分散安定化合物が添加される時に、より良い結果が得られることが認められた。金属ナノ粒子へのそれらの吸着のために、金属ナノ粒子の調製中に添加される分散安定化合物は、たとえその製法中に1種以上の洗浄工程を実施したとしても、少なくとも一部は、最終的金属ナノ粒子分散物中に保持されると考えられる。
【0083】
均質化工程は100℃までの高温で実施することができる。好適な態様において、均質化工程は60℃以下の温度で実施される。
【0084】
好適な態様において、金属ナノ粒子分散物はインクジェット印刷法に使用される。金属インクジェット液もしくはインクまたは導電インクジェット液もしくはインクとも呼ばれるこのような金属ナノ粒子分散物は好適には、25℃で90s-1の剪断速度(shear
rate)で測定されて35mPa.s未満の、好適には28mPa.s未満の、そして最も好適には2〜25mPa.s間の粘度を有する。
【0085】
いわゆる貫流(throughflow)プリントヘッドを使用する時は、金属インクジェット液の粘度は比較的高く、好適には25℃で90s-1の剪断速度において60mPa.s未満であることができる。金属インクジェット液のより高い粘度限界は、液のより多くの組成のバリエーションを利用可能とし(opens up)、より濃厚なおよび/または安定な金属インクジェット液に向けて好都合であり得る。
【0086】
他の好適な態様において、金属ナノ粒子分散物はフレキソ印刷法に使用される。金属フレキソインクまたは導電フレキソインクとも呼ばれるこのような金属ナノ粒子分散物は、好適には、25℃で90s-1の剪断速度で測定されて、10〜200mPa.s間、より好適には25〜150mPa.s間、最も好適には50〜100mPa.s間の粘度を有する。
【0087】
金属層またはパターン
金属ナノ粒子分散物から印刷または塗工される薄層またはパターンは、従来の金属印刷または塗工流体を使用して得られるものに比較して、より低い焼結温度において導電性にされることができる。従って、本発明の金属印刷または塗工流体から製造される導電薄層またはパターンは、例えばPETのような、高温における熱処理に耐えることができない柔軟な支持体上に塗工または印刷されることができる。
【0088】
金属層またはパターンは支持体上に前記に規定された通りの金属ナノ粒子分散物を適用する工程およびそれに続く焼結工程を含む方法により調製される。
【0089】
支持体はガラス、紙またはポリマー支持体であることができる。
【0090】
好適なポリマー支持体は、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリビニルクロリド(PVC)基材の支持体である。
【0091】
前記の支持体は、適用される導電インクジェットまたはフレキソインクの付着性、吸収性または塗布性(spreading)を改善するための1枚以上の層を提供されることができる。
【0092】
ポリマー支持体は、適用される導電インクジェットまたはフレキソインクの付着性(adhesion)を改善するために、好適にはいわゆる下塗り層(subbing layer)を提供される。このような下塗り層は典型的には、ビニリデンコポリマー、ポリ
エステルまたは(メタ)アクリレート基材である。
【0093】
この目的のための有用な下塗り層は当該技術分野で周知であり、例えば、ビニリデンクロリド/アクリロニトリル/アクリル酸・ターポリマーまたはビニリデンクロリド/メチルアクリレート/イタコン酸・ターポリマーのようなビニリデンクロリドのポリマーを含む。
【0094】
適切なビニリデンクロリドコポリマーは、ビニリデンクロリド、N−tert.−ブチルアクリルアミド、n−ブチルアクリレート、およびN−ビニルピロリドンのコポリマー(例えば70:23:3:4)、ビニリデンクロリド、N−tert.−ブチルアクリルアミド、n−ブチルアクリレートおよびイタコン酸のコポリマー(例えば、70:21:5:2)、ビニリデンクロリド、N−tert.−ブチルアクリルアミドおよびイタコン酸のコポリマー(例えば88:10:2)、ビニリデンクロリド、n−ブチルマレイミドおよびイタコン酸のコポリマー(例えば90:8:2)、ビニルクロリド、ビニリデンクロリドおよびメタクリル酸のコポリマー(例えば、65:30:5)、ビニリデンクロリド、ビニルクロリドおよびイタコン酸のコポリマー(例えば、70:26:4)、ビニルクロリド、n−ブチルアクリレートおよびイタコン酸のコポリマー(例えば、66:30:4)、ビニリデンクロリド、n−ブチルアクリレートおよびイタコン酸のコポリマー(例えば、80:18:2)、ビニリデンクロリド、メチルアクリレートおよびイタコン酸のコポリマー(例えば、90:8:2)、ビニルクロリド、ビニリデンクロリド、N−tert.−ブチルアクリルアミドおよびイタコン酸のコポリマー(例えば、50:30:18:2):を含む。前記コポリマーにおける括弧内に与えられるすべての比率は重量比である。
【0095】
他の好適な下塗り層は、ポリエステル−ウレタンコポリマー基材の結合剤を含む。より好適な態様においては、ポリエステル−ウレタンコポリマーは、好適にはテレフタル酸およびエチレングリコール基材のポリエステルセグメントおよびヘキサメチレンジイソシアネートを使用するアイオノマー(ionomer)タイプのポリエステルウレタンである。適切なポリエステル−ウレタンコポリマーはDIC Europe GmbHからのHydranTM APX101 Hである。
【0096】
下塗り層の適用は、ハロゲン化銀の写真フィルムのポリエステル支持体製造の技術分野で周知である。例えば、このような下塗り層の調製は米国特許第3649336号および英国特許第1441591号明細書に開示されている。
【0097】
好適な態様において、下塗り層は0.2μm以下、または好適には200mg/m2以下の乾燥厚さを有する。
【0098】
他の好適な支持体はITO基材の支持体である。このような支持体は典型的には、その上にITO層またはパターンが提供されているガラスまたはポリマー支持体である。
【0099】
好適な紙基材の支持体はArjowiggins Creative Papersによる、印刷電子工学のためにデザインされた支持体の、Powercoat(登録商標)紙支持体である。
【0100】
複数の金属層またはパターン、すなわちパターンをもつ、またはパターンをもたない層の積み重ね(stack)を支持体上に適用することができる。従って、金属層またはパターンの調製法において言及される支持体はまた、前もって適用された金属層またはパターンをも包含する。
【0101】
金属層は、同時押し出し処理または、浸漬被覆、ナイフ被覆、押し出し被覆、スピン被覆、噴霧被覆、ブレード被覆、スロットダイ被覆、スライドホッパー被覆およびカーテン被覆のような、あらゆる従来の塗工法により、支持体上に提供されることができる。
【0102】
金属層および、とりわけ金属パターンは、彫り込み模様(intaglio)印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、グラビアオフセット印刷、等のような印刷法により、支持体上に提供されることができる。
【0103】
好適な印刷法はインクジェットおよびフレキソ印刷法である。
【0104】
支持体上に金属層またはパターンを提供する他の方法はエアゾールジェット印刷である。Optomecにより開発されてきたAerozosol Jet Printing(エアゾールジェット印刷)は、多数のその限界を縮小しながら、大部分のインクジェット印刷の利点を保持する。その方法は印刷電子工学の分野における使用のために開発されている。その方法は例えば、米国特許第2003/0048314号、同第2003/0020768号、同第2003/0228124号明細書および国際公開第2009/049072号パンフレットに開示されている。Aerosol Jet Print EngineはOptomec、例えばAerosol Jet Printer OPOTOMEC AJ 300 CEから市販されている。
【0105】
5000mPa.s未満の粘度を有する実質的にあらゆる液体は、Aerosol Jet Print法を使用して付着させることができる。より高い粘性の流体を使用することが金属インクの安定性に関して有益である可能性がある。
【0106】
インクジェット印刷装置
インクジェット印刷により本発明に従う金属ナノ粒子分散物から導電層または導体パターンを形成するための装置の様々な態様を使用することができる。
【0107】
平台印刷装置においては、支持体は平台上に提供される。金属インクジェット液の小滴が支持体上にプリントヘッドから射出される。
【0108】
プリントヘッドは典型的には、移動している支持体(y−方向)上を、横方向(x−方向)に往復走査(scan back and forth)する。このような双方向印刷はマルチパス印刷と呼ばれる。
【0109】
他の好適な印刷法は、そこでプリントヘッドまたは多数のジグザグ(staggered)プリントヘッドが支持体の幅全体をカバーするいわゆるシングルパス印刷法(single−pass printing method)である。このようなシングルパス印刷法においては、プリントヘッドは通常、支持体がプリントヘッドの下方を移動される(y−方向)間、不動のままである。
【0110】
最大のドット配置精度を得るために、プリントヘッドは支持体の表面にできるだけ近位に配置される。プリントヘッドと支持体の表面間の距離は好適には3mm未満、より好適には2mm未満、最も好適には1mm未満である。
【0111】
プリントヘッドと支持体の表面との間の距離はドットの配置精度に影響する可能性があるので、支持体の厚さを測定し、そして支持体の厚さの測定値に基づいて、プリントヘッドと支持体の表面間の距離を適合させることが好都合であるかも知れない。
【0112】
固定プリントヘッドと印刷装置上に取り付けられた支持体の表面間の距離はまた、例え
ば、支持体の波状形または支持体表面の他の不整形のために支持体全体にわたりばらつく可能性がある。従って、支持体の表面の形態を測定し、そして支持体上の硬化性液の小滴のいわゆる射撃持続時間(firing time)を調整することにより、またはプリントヘッドと支持体の表面間の距離を調整することにより、測定された表面の形態の相異(differences)を補うことが有益である可能性がある。平版印刷の支持体の表面の形態を測定するための測定装置の例はISO 12635:2008(E)に開示されている。
【0113】
好適な態様において、インクジェット印刷装置は、例えば真空により、いわゆる押さえ付け(hold−down)領域内に支持体を押さえ付けるために、支持体の下方の真空室のような押さえ付け装置を有する。より好適な態様においては、支持体は、2つ以上の押さえ付け領域が支持体上に形成されるように、支持体上の真空圧を高めるように独立して制御される、支持体の下方の複数の真空室のような、独立して作用する押さえ付け装置により、支持体に対して押さえ付けられる。支持体の押さえ付けは、射出小滴の落下配置(drop placement)および位置の精度(position accuracy)を高める。
【0114】
プリントヘッド
インクジェット印刷システムに好適なプリントヘッドは圧電ヘッドである。圧電インクジェット印刷は、電圧がそれにかかる時の、圧電セラミック変換器の動き(movement)に基づく。電圧の適用はプリントヘッド内の圧電セラミック変換器の形状を変化させて、空隙(void)を形成し、次にそれがインクで充填される。電圧が再度除かれると、セラミックは元の形状に膨張して、プリントヘッドから1滴のインクを射出する。しかし本発明に従うインクジェット印刷法は圧電インクジェット印刷に限定はされない。他のインクジェットプリントヘッドを使用することができ、連続印刷タイプのような様々なタイプを含むことができる。
【0115】
好適なプリントヘッドは≦50pl、より好適には≦35pl、最も好適には≦25pl、特に好適には≦15plの容量をもつ小滴を射出する。
【0116】
他の好適なプリントヘッドは貫流圧電インクジェットプリントヘッドである。貫流圧電インクジェットプリントヘッドは、そこで流れ中の撹乱効果および誤った落下配置を惹起する可能性がある液体中の凝集(agglomeration)を回避するために、液体の連続流がプリントヘッドの液体チャンネル中を循環しているプリントヘッドである。貫流圧電インクジェットプリントヘッドを使用することによる誤った落下配置を回避する方法は、支持体上の導電パターンの品質を改善することができる。このような貫流プリントヘッドを使用する他の利点は、射出される硬化性流体の、より高い粘度限界であり、それが流体の組成のバリエーション範囲を拡大する。
【0117】
硬化工程
層またはパターンが支持体上に適用される後に、硬化工程(curing step)とも呼ばれる焼結工程(sintering step)が実施される。この焼結工程中に、溶媒は蒸発し、金属粒子は一緒に焼結する。金属粒子間に一旦連続的浸透回路網(percolating network)網目が形成されると、層またはパターンが導電性になる。従来の焼結は典型的には、熱を適用することにより実施される。焼結温度および時間は、使用される支持体および金属層またはパターンの組成に左右される。金属層を硬化するための焼結工程は250℃未満、好適には200℃未満、より好適には180℃未満、最も好適には160℃未満の温度で実施されることができる。
【0118】
焼結時間は、選択される温度、支持体および金属層の組成に応じて60分未満、好適に
は2〜30分の間、そしてより好適には3〜20分の間であることができる。
【0119】
しかし、熱を適用することによる従来の焼結の代わりに、またはそれに加えて、アルゴンレーザー、マイクロウェーブ光線、UV光線または低圧アルゴンプラズマへの暴露、光硬化、プラズマもしくはプラズマ強化(plasma enhanced)、電子ビーム、レーザービームまたはパルス電流焼結のような代わりの焼結法を使用することができる。
【0120】
他の硬化法はいわゆる近赤外線(NIR)硬化法を使用する。被膜またはパターンの金属、例えば銀はNIR光線の吸収体(absorber)として働くことができる。
【0121】
本発明の金属層は先行技術の方法より低い硬化温度の使用を許容する。その結果、例えばPETのような、高温下の熱処理に耐えることができないポリマー支持体(substrates)を使用することができる。硬化時間もまた、実質的に短縮されて、先行技術の方法より、単位時間当りに、より高い生産量をもつ可能性をもたらすことができる。金属層の導電率は維持されるかまたは、特定の場合には改善されることすらある。
【0122】
導電率を更に高める、または硬化温度を低下するために、欧州特許第13175030.9号明細書(04−07−2013出願)に開示されたように、金属層またはパターンの硬化中に、酸または、その酸を放出することができる酸前駆体を含む溶液と、金属層またはパターンを接触させることは好都合である可能性がある。
【0123】
金属層またはパターンは例えば有機光電池(photo−voltaics)(OPV)、無機光電池(c−Si、a−Si、CdTe、CIGS)、OLEDディスプレイ、OLED照明、無機照明(lighting)、RFID、有機トランジスター、薄膜電池、タッチスクリーン、e−ペーパー、LCD、プラズマ、センサー、膜スイッチまたは電磁シールドのような、様々な電子装置またはそのような電子装置の部品に使用されることができる。
【0124】
金属ナノ粒子の調製
本発明に従う金属ナノ粒子はあらゆる調製法により調製されることができる。
【0125】
金属ナノ粒子を調製する好適な方法は、
− 分散工程であって、金属粒子または金属前駆体粒子がそこで、式V、
【0126】
【化3】
【0127】
[式中、
RaおよびRbは場合により置換されていてもよいアルキル基を表わし、そして
RaおよびRbは環を形成することができる]
に従う溶媒を含む分散媒中に分散される工程、
− 水を含む洗浄液を使用する洗浄工程であって、式Vに従う溶媒がそこで実質的に除去される、工程、並びに
− 蒸発工程であって、水がそこで実質的に除去される工程:
を含み、
該蒸発工程が、高沸点溶媒および前記の式I〜IVに従う分散安定化合物の存在下で実施されることを特徴とする。
【0128】
本明細書で言及される高沸点有機溶媒は、水の沸点より高い(>100℃)沸点をもつ溶媒である。
【0129】
好適な高沸点溶媒は、金属ナノ粒子分散物の液体キャリアとしての前記のものである。
【0130】
分散法は、沈殿、混合、ミル処理(milling)、現位置(in−situ)合成またはそれらの組み合わせを含む。温度、工程時間、エネルギー入力、等のような実験条件は選択される方法に左右される。分散法は連続的、バッチモードまたは半バッチモードで実施することができる。
【0131】
混合装置は圧力ニーダー、開放ニーダー、遊星形ミキサー、溶解機(dissolver)、高剪断スタンドミキサーおよびDalton Universal Mixerを含むことができる。適切なミル処理および分散装置はボールミル、パールミル、コロイドミル、高速ディスペンサー、二重ローラー、ビードミル、ペイントコンディショナーおよび三重ローラーである。ガラス、セラミックス、金属およびプラスチックのような多数の異なるタイプの材料をミル処理基材(milling media)として使用することができる。分散物はまた、超音波エネルギーを使用して調製されることができる。
【0132】
用語「ナノ粒子」は分散物調製の最後に100nm未満の平均粒度をもつ分散粒子を表わす。分散物調製工程の前に、金属粒子または金属前駆体の粒子は典型的には、粉末、フレーク、粒子または凝集粒子として入手可能である。それらの平均粒度が100nmを超える時は、分散工程は、粒度がナノ粒子範囲に低下するまで、必然的にミル処理または脱凝集作業を含む粒度低下工程を含む。分散物調製の前に、フレークまたは粉末は、乾燥ミル処理、湿式ミル処理またはふるい法により粒度を低下させることができる。1種以上の金属前駆体の1種以上の金属への転化(conversion)は、粒度低下工程と同時であることができる。
【0133】
好適な態様において、分散媒は式VI、
【0134】
【化4】
【0135】
[式中、Lは場合により置換されていてもよい直線状または分枝状C2−C11アルキレン基である]
に従う溶媒を含む。
【0136】
より好適な態様において、分散媒は、場合により置換されていてもよい2−ピロリドン、β−ラクタム、γ−ラクタム、δ−ラクタムまたはε−ラクタムから選択される溶媒を含む。
【0137】
更により好適な態様において、金属ナノ粒子分散物は、分散媒として2−ピロリドン、4−ヒドロキシ−2−ピロリドン、δ−バレロラクタムまたはε−カプロラクタムから選択される溶媒を含む。
【0138】
最も好適な態様において、分散媒は2−ピロリドンを含む。
【0139】
金属ナノ粒子分散物は、分散物の総重量に対して1〜99重量%間の、好適には5〜90重量%間の、より好適には10〜70重量%間の、最も好適には20〜50重量%間の量の、前記に規定の通りの溶媒を含む。
【0140】
金属ナノ粒子分散物の分散媒は、式VまたはVIに従う溶媒に加えて、共溶媒(co−solvent)、好適にはアルコールまたはケトンを含むことができる。共溶媒はより好適には、エタノールまたはメチルエチルケトン(MEK)である。共溶媒は金属ナノ粒子分散物の調製の当初から存在しても、または調製期間中または調製の最後に添加されてもよい。
【0141】
共溶媒の量は好適には、分散媒の総量に対して0〜75重量%間、より好適には5〜70重量%間である。
【0142】
好適な態様において、金属ナノ粒子分散物は、本発明の分散媒中への還元剤の存在下で、金属酸化物、金属水酸化物、金属塩またはそれらの組み合わせ物のような金属前駆体の混合下における現位置還元により調製される。
【0143】
好適な金属酸化物のナノ粒子は、銀酸化物、錫酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、カドミウム酸化物、銅酸化物または亜鉛酸化物を基材にする。
【0144】
ZnO:Al、SnO2:FまたはSnO2:Sbのようなドープ金属酸化物ナノ粒子も使用することができる。
【0145】
好適な金属水酸化物の粒子は、銅水酸化物、チタン水酸化物、ジルコニウム水酸化物、タングステン水酸化物、モリブデン水酸化物、カドミウム水酸化物または亜鉛水酸化物を基材にする。
【0146】
好適な金属塩は、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、リン酸塩、ほう酸塩、スルホン酸塩および硫酸塩のような無機酸塩、並びにステアリン酸塩、ミリスチン酸塩または酢酸塩のような有機酸塩を含む。
【0147】
前記の通りに、特に好適な金属ナノ粒子は銀ナノ粒子である。これらは例えば、酸化銀または酢酸銀の還元により調製されることができる。
【0148】
金属ナノ粒子への金属前駆体の還元度(degree of reduction)は好適には60〜100%間である。
【0149】
還元剤は分散媒に可溶性であり、ヒドロキシルアミンおよびその誘導体、ギ酸、蓚酸、アスコルビン酸、ヒドラジンおよびその誘導体、ジチオスレイトール(DTT)、亜リン酸塩、ヒドロ亜リン酸塩(hydrophosphites)、亜リン酸およびその誘導体、リチウムアルミニウム水素化物、ジイソブチルアルミニウム水素化物、ナトリウムホウ水素化物、亜硫酸塩、錫(II)錯体、鉄(II)錯体、亜鉛水銀アマルガム、ナトリ
ウムアマルガム、原子水素またはリンドラー(Lindlar)触媒、の群から選択されることができる。
【0150】
好適な態様に従うと、金属銀ナノ粒子は、還元剤との酸化銀の混合下における現位置還元により調製される。還元剤は好適には、還元剤の総重量に対して少なくとも50重量%のギ酸を含む。
【0151】
金属ナノ粒子分散物のpHは好適には、7〜10間、より好適には7.4〜9.0間である。
【0152】
本発明に従う金属ナノ粒子分散物を調製する方法は好適には洗浄工程を含む。
【0153】
液体キャリアまたは前記の通りの他の添加剤のような更なる成分が、前記の通りに調製される金属ナノ粒子に添加される時に、式VまたはVIに従う溶媒の存在は、このようにして得られる金属ナノ粒子分散物の特性に不都合な影響を与えるかも知れないことが認められている。例えば、金属ナノ粒子分散物が導電インクジェット液として使用される時には、2−ピロリドンの存在が流体を吸湿性(hygroscopic)にさせて、不安定化効果をもたらすことが認められている。2−ピロリドンの存在はまた、いわゆるインクのたまり(pooling)をもたらす可能性がある。
【0154】
今日、金属ナノ粒子の調製に使用される式VまたはVIに従う溶媒は、水を含む洗浄液を使用する洗浄工程、それに続く、水がそこで少なくとも実質的に除去される、前記の式I、II、IIIまたはIVに従う分散安定化合物および高沸点溶媒の存在下における蒸発工程、により除去されることができることが認められた。
【0155】
少なくとも実質的に除去される、とは、金属ナノ粒子分散物の含水量が10重量%未満、好適には5.0重量%未満、より好適には2.5重量%未満、最も好適には1.0重量%未満であることを意味する。
【0156】
式VまたはVIに従う溶媒中に分散される金属ナノ粒子への水の添加は、ナノ粒子の沈降(sedimentation)をもたらす。次にナノ粒子は簡単な瀘過により上澄み液から分離されることができる。水を使用する洗浄工程は数回反復されることができる。洗浄工程は、分散工程に使用される式VまたはVIに従う溶媒の、少なくとも実質的な除去をもたらす。
【0157】
他の溶媒は、1回または複数回の洗浄工程において、水と組み合わせて使用されることができる。
【0158】
瀘過後に、金属ナノ粒子はまだ幾らかの水を含むかも知れない。次に、この水は高温で、例えば30〜70℃間でそして/または減圧下で、少なくとも実質的に除去される。
【0159】
水の除去は好適には、前記の式I、II、IIIまたはIVに従う分散安定化合物および高沸点溶媒の存在下で実施される。本明細書で言及される高沸点有機溶媒は、水の沸点より高い沸点を有する有機溶媒を意味する。前記の式I、II、IIIまたはIVに従うこのような分散安定化合物および高沸点溶媒の不在下においては、液体キャリア中に金属ナノ粒子を再分散することは、より困難であるかまたは不可能ですらあるかも知れないことが認められた。
【0160】
本発明に従う金属ナノ粒子分散物を調製する方法は、更に、分散媒がそこで少なくとも一部は除去される、いわゆる「濃厚化工程(concentration step)」
を含むことができる。このような濃厚化は、例えば、限外瀘過法、溶媒の蒸発、非溶媒中の完全なもしくは不完全な沈殿(precipitation)または沈降(sedimentation)、遠心分離または限外遠心分離、あるいはそれらの組み合わせ物を含む。「濃厚化工程」後に、金属ナノ粒子分散物は25重量%を超える、好適には35重量%を超える、より好適には45重量%を超える金属ナノ粒子を含むことができる。
【実施例】
【0161】
材料
以下の実施例中に使用されたすべての材料は、別記されない限りALDRICH CHEMICAL Co.(ベルギー)およびACROS(ベルギー)のような標準製造元から容易に入手可能であった。使用された水は脱イオン水であった。
【0162】
DSC−01はChemosynthaから市販の分散安定化合物N−ジブチル−(2,5−ジヒドロ−5−チオキソ−1H−テトラゾール−1−イル)アセタミド(CASRN168612−06−4)
【0163】
【化5】
【0164】
である。
【0165】
DSC−02はUbichemから市販の分散安定化合物5−ヘプチル−2−メルカプト−1,3,4−オキサジアゾール(CASRN66473−10−7)
【0166】
【化6】
【0167】
である。
【0168】
DSC−03はSigma Aldrichから市販の分散安定化合物1−フェニル−5−メルカプトテトラゾール(CASRN86−93−1)である。
【0169】
DSC−04はSigma Aldrichから市販の分散安定化合物5−メチル−1,2,4−トリアゾロ−(1,5−a)プリミジン−7−オール(CASRN2503−56−2)
【0170】
【化7】
【0171】
である。
【0172】
DSC−05はABI chemから市販の分散安定化合物のエトキシカルボニル・チオチアジアゾリルカルバメート(CASRN21521−73−3)
【0173】
【化8】
【0174】
である。
【0175】
酸化銀(Ag2O)は水酸化ナトリウムのアルカリ性水溶液(33重量%)中の硝酸銀の沈殿、並びにそれに続く瀘過および乾燥により調製された。
【0176】
BASFから市販の2−フェノキシ−エタノール(CASRN122−99−6)。
【0177】
BASFから市販のガンマ−ブチロ−ラクトン(CASRN96−48−0)。
【0178】
Sigma Aldrichから市販のプロピレンカーボネート(CASRN108−32−7)。
【0179】
ACROS CHIMICAから市販のジアセトンアルコール(CASRN123−42−2)。
【0180】
ACROS CHIMICAから市販のn−ブタノール(CASRN71−36−3)。
【0181】
ACROS CHIMICAから市販の1,2プロパンジオール(CASRN57−55−6)。
【0182】
DOW CHEMICALSから市販の1−メトキシ−2−プロパノール(CASRN107−98−2)。
【0183】
DOW CHEMICALSから市販の2−ブトキシエタノール(CASRN111−76−2)。
【0184】
Agfa Gevaertからのビニリデンクロリド−メタクリル酸とイタコン酸とのコポリマーのCopol(ViCl2−MA−IA)。
【0185】
Lanxessからの界面活性剤のMersolat H40。
【0186】
BayerからのシリカのKieselsol 100F。
【0187】
測定法
銀被膜の導電率
銀被膜の表面抵抗(SER)は、四点の同一線上(collinear)プローブを使用して測定した。表面またはシート抵抗は以下の式:
SER = (π/ln2)*(V/I)
[式中、
SERは(Ω/ で表される層の表面抵抗である;
πはほぼ3.14に等しい数学の定数である;
ln2はほぼ0.693に等しい、値2の自然対数に等しい数学の定数である;
Vは四点プローブ測定装置の電圧計により測定された電圧である;
Iは四点プローブ測定装置により測定される供給源の電流である]
により計算された。
【0188】
各サンプルにつき、被膜の異なる位置において3回の測定を実施し、平均値を計算した。
【0189】
被膜の銀含量MAg(g/m2)はWD−XRFにより決定された。
【0190】
次に被覆層の導電率を、以下の式:
【0191】
【数1】
【0192】
[式中、ρAgは銀の密度(10.49g/cm3)であり、そしてσAgは銀の比導電率(6.3 105S/cmに等しい)である]
を使用して、銀のバルクの導電性の百分率として導電率を計算することにより決定した。
【0193】
銀インクジェットインクの安定性
安定性は、インクまたは被膜配合物の保管寿命(shelf life)を決定する、長期間にわたり安定である能力並びに/あるいは、特定の付着技術(deposition technology)により使用されそして/または、調製直後の(freshly prepared)対照に比較して、使用後に同一の特性をもつ能力、を表わす。
【0194】
インクまたは被膜配合物の不安定性は多くの場合、可逆性(凝集(flocculation))または不可逆性[凝結(aggregation)、結合(coalescence)、オズワルド熟成(Oswald ripening)]をもたらす粒子の沈降(sedimentation)に関連する。
【0195】
インクまたは被膜配合物の安定性は、インクジェットおよび/またはインクの意図された使用期間中のインクの安定性を測定する様々な方法:例えば、目視検査、粒度測定、光学的方法により決定されることができる。
【0196】
撹拌(agitation)を回避する垂直な試験管中のインクの目視検査は、試験管
中の垂直位に応じて光学的吸収に相異を示すことにより、垂直沈降により不安定性を示す。
【0197】
より定量的で、より好適な方法は、生成物の分散状態をモニターするために垂直走査(scanning)法と接続された複数の光線散乱法を使用する。沈降現象の加速は例えば、試験中の急速な遠心分離により使用することができる。市販の装置は例えば、LUM
GmbHからのLumisizer(登録商標)である。サンプルは880nmの光線を使用して3000rpmで24時間にわたり測定された。Lumisizer(登録商標)により提供される安定性指数(stability index)は、不安定性が0〜1に増加する場合の0と1間の範囲にある。
【実施例1】
【0198】
銀ナノ粒子分散物NPD−01の調製
20.0gの酸化銀(Umicoreからの)を40.0gのエタノールおよび23.0gの2−ピロリドンの混合物に、撹拌しながら添加した。次に該前駆分散物を24時間撹拌した。
【0199】
次に、室温で撹拌し、温度を維持しながら、2.67mlのギ酸を前駆分散物に添加した(1.25ml/分)。ギ酸の添加後に、混合物を更に23〜25℃で2.5時間撹拌した。
【0200】
次に、混合物を60μmの瀘布(filter cloth)を使用して瀘過した。次に、最初は110mbarで60分間、次に60mbarで30分間、40℃で瀘液を濃縮して、±45重量%の銀を含む銀ナノ粒子分散物を得た。
【0201】
銀ナノ粒子分散物NPD−02およびNPD−03の調製
NPD−02およびNPD−03を前記のNPD−01に記載の通りに調製した。しかし、ギ酸を添加する前に、0.09g(NPD−02)および0.18gのDSC−02をそれぞれ、24時間撹拌された前駆分散物に添加した。
【0202】
銀の総量に対するDSC−02の重量%(重量% DSC/Ag)はそれぞれ0.45および0.90%であった。
【0203】
銀インクAgInk−01〜AgInk−03の調製
銀インクAgInk−01〜AgInk−03を、50重量%のNPD−01〜NPD−03それぞれを、25重量%の2−フェノキシエタノールおよび25重量%のガンマ−ブチロ−ラクトンと混合することにより調製した。
【0204】
銀インクAgInk−04およびAgInk−05を、50重量%のNPD−01を、25重量%の2−フェノキシエタノール、25重量%のガンマ−ブチロ−ラクトンおよび、銀の総重量に対して0.45および0.90%それぞれのDSC−02の重量%を得るためのDSC−02の量、と混合することにより調製した。
【0205】
導電銀被膜SC−01〜SC−05の調製
次に、銀インクAgInk−01〜AgInk−05をポリエステル支持体上に被覆し(ブレードコーター、被膜厚さは10μmであった)、150℃で30分間硬化した。
【0206】
被覆層の導電率を前記の通りに測定した。結果は表1に示される。
【0207】
【表3】
【0208】
表1の結果から、銀インクに対する分散安定化合物DSC−02の添加が、それから得た被膜の、より高い導電率をもたらすことが明白である。分散安定化合物は、銀粒子(AgInk−02および03)の合成中または、後のインクジェットインク(AgInk−04および05)の調製中に添加されることができる。
【実施例2】
【0209】
銀ナノ粒子分散物NPD−04の調製
NPD−04は前記のNPD−01の通りに調製された。
【0210】
銀ナノ粒子分散物NPD−05およびNPD−06の調製
NPD−05およびNPD−06を前記のNPD−01に記載の通りに調製した。しかし、ギ酸を添加する前に、0.10g(NPD−05)および0.20g(NPD−06)のDSC−02それぞれを、24時間撹拌された前駆分散物に添加した。
【0211】
銀の総量に対するDSC−02の重量%(重量% DSC/Ag)はそれぞれ0.54および1.10%であった。
【0212】
銀インクAgInk−06〜AgInk−08の調製
銀インクAgInk−06〜AgInk−08を、50重量%のNPD−04〜NPD−06それぞれを25重量%の2−フェノキシエタノールおよび25重量%のガンマ−ブチロ−ラクトンと混合することにより調製した。
【0213】
導電銀被膜SC−06〜SC−08の調製
次に、銀インクAgInk−06〜AgInk−08を、ポリエステル支持体上に被覆し(ブレードコーター、被膜厚さは10μmであった)、150℃で30分間硬化した。
【0214】
被覆層の導電率を前記の通りに測定した。結果は表2に示される。
【0215】
銀インクの安定性を前記の通りに測定し、Lumisizer不安定性指数(instability index)として表わした。結果は表2に示される。
【0216】
【表4】
【0217】
表2の結果から、銀インクに対する分散安定化合物DSC−02の添加が、それから得た被膜の、より高い導電率をもたらすことが明白である。更に分散安定化合物DSC−02の添加が、より安定なインクジェットの銀インクをもたらすことが明白である。
【実施例3】
【0218】
銀ナノ粒子分散物NPD−07の調製
NPD−07は前記のNPD−01の通りに調製された。
【0219】
銀ナノ粒子分散物NPD−08〜NPD−17の調製
NPD−08〜NPD−17を前記のNPD−01に対して記載の通りに調製した。しかし、ギ酸を添加する前に、表3に示された通りの量の分散安定化合物(銀の総量に対する重量%のDSCとして表わされた、重量%DSC/Ag)を24時間撹拌された前駆分散物に添加した。
【0220】
銀インクAgInk−09〜AgInk−19の調製
銀インクAgInk−09〜AgInk−19を、50重量%のNPD−07〜NPD−17それぞれを、25重量%の2−フェノキシエタノール、25重量%のガンマ−ブチロ−ラクトンおよび0.04重量%の、2−ピロリドン中ビニルホスホン酸の5.0重量%溶液、と混合することにより調製した。
【0221】
導電銀被膜SC−09〜SC−30の調製
導電銀被膜SC−09〜SC−19を、銀インクAgInk−09〜AgInk−19をポリエステル支持体上に被覆することにより(ブレードコーター、被膜厚さは10μmであった)得て、150℃で30分間硬化した。導電銀被膜SC−20〜SC−30を、銀インクAgInk−09〜AgInk−19を、表3に示された組成をもつ下塗りを提供されたポリエステル支持体上に被覆することにより(ブレードコーター、被膜厚さは10μmであった)得て、150℃で30分間硬化した(導電銀被膜は下塗り上に提供される)。
【0222】
【表5】
【0223】
被覆層の導電率は前記の通りに測定された。結果は表4に示される。
【0224】
銀インクの安定性は、目視検査により前記の通りに測定されて、垂直な、撹拌されない試験管中で少なくとも5%の沈降度に達した。結果は表4に示される。
【0225】
【表6-1】
【0226】
【表6-2】
【0227】
表4の結果から、分散安定化合物の添加が、より安定なインクジェットの銀インクをもたらすことが明白である。その結果から更に、より高い量の分散安定化合物において、銀被膜の導電率が低下する可能性があることも明白である。
【0228】
表4の結果はまた、表3の組成をもつ下塗り上に適用された銀被膜が、下塗りされない支持体上に適用されたものに比較して、より高い導電率(より低いSER)をもつことも示す。これは、硬化中の下塗りからの酸、すなわちHClの放出によるかも知れない。
【実施例4】
【0229】
銀ナノ粒子分散物NPD−18〜NPD−25の調製
銀ナノ粒子分散物NPD−18〜NPD−25は、表5の、2−ピロリドン、エタノール、酸化銀、ギ酸およびDSC−01の量を使用して、NPD−01およびNPD−02に対して記載の通りに調製された。
【0230】
【表7】
【0231】
銀インクAgInk−20〜AgInk−27の調製
銀インクAgInk−20〜AgInk−27を、32重量%の2−フェノキシエタノールおよび32重量%のガンマ−ブチロ−ラクトンと、50重量%のNPD−18〜NPD−25それぞれを混合することにより調製した。
【0232】
導電銀被膜SC−31〜SC−44の調製
導電銀被膜SC−31〜SC−44を、前記の下塗りポリエステル支持体上に銀インクAgInk−20〜AgInk−27を被覆(ブレードコーター、被膜厚さは10μmであった)することにより得て、表6に示されたように硬化した。
【0233】
【表8】
【0234】
表6の結果から、分散安定化合物の存在が、銀被膜の、より高い導電率をもたらすことが明白である。結果はまた、150℃の硬化温度における15秒の硬化時間がすでに、銀被膜の高い導電率をもたらすことを示す。
【0235】
更に、表6の結果から、それが、銀ナノ粒子の調製に使用される分散安定化合物の絶対的量ではなくて、むしろ銀インクの最終的特性を決定する、銀の総量に対するDSCの重
量%として表わされる銀の量に対する量であることが明白である。
【実施例5】
【0236】
銀ナノ粒子分散物NPD−26の調製
100.0gの酸化銀(Umicoreからの)を450.0gのエタノールおよび115.0gの2−ピロリドンの混合物に、撹拌しながら添加した。次に前駆分散物を23℃で8時間撹拌した。
【0237】
次に0.62gのDSC−01を前駆分散物に添加し、続いて、撹拌し、23℃の温度を維持ながら、16.3gのギ酸を添加した(10.0ml/分)。ギ酸の添加後、混合物を更に23℃で2.5時間撹拌した。
【0238】
次に有機溶媒の蒸発により分散物をほぼ208.7gに濃厚化して、±44.6重量%の銀を含む銀ナノ粒子分散物を得た。
【0239】
25.0gの濃厚化分散物に、1.5gの、2−フェノキシエタノール/プロピレンカーボネートの50/50重量%混合物および75.0gの水を添加した。
【0240】
約1時間後、銀粒子の沈降が開始した。
【0241】
24時間後、上澄み液をデカントし、沈殿物を4−7μmの紙上で瀘取した。
【0242】
次に、瀘液を35℃で更に乾燥して水を除去し、90重量%を超える銀含量をもつ銀沈殿ペーストを得た。
【0243】
銀インクAgInk−28〜AgInk−35の調製
銀インクAgInk−28〜AgInk−35を22.3重量%の銀沈殿ペーストを77.0重量%の表7に示した溶媒と混合することにより調製した。
【0244】
【表9】
【0245】
表7から、他の溶媒と組み合わせた2−ピロリドンの存在が不安定な銀インクをもたらす可能性があることが明白である。銀ナノ粒子を調製するために2−ピロリドンが使用される時は、好適には水を使用する洗浄工程を実施することにより2−ピロリドンを除去し
、そして銀インクジェットインクを配合するために他の液体キャリアを使用することが好都合である。
【0246】
表7から、使用された液体キャリアはすべて、安定な銀インクジェットインクをもたらすことが明白である。
【実施例6】
【0247】
銀インクAgInk−36〜AgInk−41の調製
37.9gの酸化銀(Umicoreからの)を、329.1gのエタノールおよび164.5gの2−ピロリドンの混合物に、撹拌しながら添加した。次に前駆分散物を23℃で8時間撹拌した。
【0248】
次に、0.24gのDSC−01を前駆分散物に添加し、続いて、撹拌し、23℃の温度に維持しながら、6.2gのギ酸を添加した(10.0ml/分)。ギ酸の添加後、混合物を更に23℃で2.5時間撹拌した。
【0249】
次に有機溶媒の蒸発により、分散物を約79.2gに濃厚化させて、±44.6重量%の銀を含む銀ナノ粒子分散物を得た。
【0250】
25.0gの濃厚化分散物に75.0gの水を添加して銀粒子の沈降を誘発した。
【0251】
24時間後、上澄み液をデカントした。水(75.0g)の添加後、沈殿物を撹拌し、4−7μmの瀘紙上で瀘過して過剰上澄みを除去した。
【0252】
沈殿物にエタノールおよび表8に示された高沸点溶媒の混合物(HBS洗浄液)を添加した(1部の沈殿物/1部の高沸点溶媒/2部のエタノール)。次に沈殿物を更に40℃で乾燥して水およびエタノールを除去して、約40重量%の銀を含む銀ナノ粒子分散物を得た。
【0253】
次に銀インクAgInk−36〜AgInk−41を、50.0重量%の銀ナノ粒子分散物、表8に示された47.5重量%の高沸点溶媒(HBSインク)および粘度を低下するための2.5重量%のプロピレンカーボネートを混合することにより調製した。すべての銀インクAgInk−36〜AgInk−47が安定であった。
【0254】
【表10】
【0255】
次に銀インクAgInk−36〜AgInk−41を前記の通りの下塗りポリエステル支持体上に被覆し(ブレードコーター、被膜厚さは10μmであった)そして、150℃で15分間硬化した。被覆層の導電率を前記のように測定した。結果は表8に示される。
【0256】
表8の結果から、銀インクAgInk−36〜AgInk−41からのすべての被膜が良好な導電率を有したことは明白である。
【実施例7】
【0257】
銀インクAgInk−42〜AgInk−44の調製
113.7gの酸化銀(Umicoreから)を1083.8gのエタノールおよび397.0gの2−ピロリドンの混合物に、撹拌しながら添加した。次に前駆分散物を23℃で8時間撹拌した。
【0258】
次に18.6gのギ酸を、撹拌し、23℃の温度に維持しながら添加した(10.0ml/分)。ギ酸の添加後、混合物を更に23℃で2.5時間撹拌した。
【0259】
次に有機溶媒の蒸発により、分散物を約238.6gに濃厚化させて、濃厚化銀ナノ粒子分散物を得た。
【0260】
25.0gの濃厚化銀ナノ粒子分散物に75.0gの水を添加して銀粒子の沈降(sedimentation)を誘発した。
【0261】
24時間後、上澄み液をデカントした。水(75.0g)の添加後、沈殿物を撹拌し、
最初に17μmのフィルター上で、次に4〜7μmの瀘紙上で瀘過して過剰上澄みを除去した。
【0262】
エタノール、2−フェノキシエタノールおよび表9に示された量のDSC−01(銀の総量に対する重量%として表わされる)を銀沈殿物に添加した(1部の沈殿物/1部の2−フェノキシエタノール/2部のエタノール)。次に銀沈殿物を更に40℃で乾燥して水およびエタノールを除去して、約40重量%tの銀を含む銀ナノ粒子分散物を得た。
【0263】
次に銀インクAgInk−42〜AgInk−44を、50.0重量%の銀ナノ粒子分散物、47.5重量%2フェノキシエタノールおよび2.5重量%のプロピレンカーボネートを混合することにより調製した。
【0264】
次に銀インクAgInk−42〜AgInk−44を前記の通りの下塗りポリエステル支持体上に被覆し(ブレードコーター、被膜厚さは10μmであった)そして、150℃で15分間硬化した。被覆された層の導電率を前記のように測定した。結果は表9に示される。
【0265】
【表11】
【0266】
表9の結果から、DSC−01の増加していく量が、より安定な銀インクをもたらすことが明白である。
【実施例8】
【0267】
銀インクAgInk−45〜AgInk−53の調製
450gの酸化銀(Umicoreから)を875gのエタノールおよび517gの2−ピロリドンの混合物に撹拌しながら添加した。次に前駆分散物を23℃で15時間撹拌した。
【0268】
次に2.8gのDSC−01を、撹拌しそして23℃の温度に維持しながら混合物に添加し、続いて73gのギ酸を添加した(10.0ml/分)。ギ酸の添加後、混合物を更に23℃で15時間撹拌した。
【0269】
次に有機溶媒の蒸発により、分散物を濃厚化させて、約45重量%の銀を含む濃厚化銀ナノ粒子分散物を得た。
【0270】
次に銀インクAgInk−45〜AgInk−53を、44重量%の銀ナノ粒子分散物および、表10に示された2フェノキシエタノール、プロピレンカーボネートおよびn−ブタノールのそれぞれの量を混合することにより調製した。
【0271】
銀インクAgInk−45〜AgInk−53の安定性を前記の通りに測定し、Lum
isizer不安定性合指数として表わした。結果は表10に示される。不安定性指数に基づいてインクAgInk−45〜AgInk−47を最も安定なインクとして選択し、そこで安定な射出が達成される最高の射出周波数(jetting frequency)を決定するために使用した。射出試験は、10pLの公称の小滴容量を伴うDimatix材料印刷機(DMP−2831)および使い捨てカートリッジ(DMC−11610)を使用することにより実施された。結果は表10に示される。更に、幾つかのパターン(pattern)を前記の下塗りポリエステル支持体上にインクジェット印刷し、150℃で30分間硬化した。印刷されたパターンの導電率を前記の通りに測定した。結果は表10に示される。
【0272】
【表12】
【0273】
表10の結果から、溶媒の組成を最適化することにより安定な銀インクを得ることができることは明白である。更に、表10の結果から、n−ブタノールの添加が、印刷されたパターンの導電率に影響することなく、より高い最大射出周波数をもつ安定な銀インクをもたらすことが明白である。