特許第6963369号(P6963369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6963369シューズ用ソール構造およびそれを用いたシューズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963369
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】シューズ用ソール構造およびそれを用いたシューズ
(51)【国際特許分類】
   A43B 5/06 20060101AFI20211028BHJP
   A43B 13/00 20060101ALI20211028BHJP
   A43B 17/00 20060101ALI20211028BHJP
   A43B 13/14 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   A43B5/06
   A43B13/00 Z
   A43B17/00 Z
   A43B13/14 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-193397(P2016-193397)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-51156(P2018-51156A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井内 一憲
(72)【発明者】
【氏名】井出 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏樹
【審査官】 山田 由希子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0167401(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105876997(CN,A)
【文献】 国際公開第2008/047538(WO,A1)
【文献】 特表2002−501393(JP,A)
【文献】 特開2009−233260(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/049983(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 5/06
A43B 13/00
A43B 13/12
A43B 13/14
A43B 13/18
A43B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下面に接地面を有し、着用者の前足部から後足部に至る範囲に対応して設けられるアウトソールと、
前記アウトソールの上側に積層配置された弾性材からなり、着用者の前足部から後足部に至る範囲に対応して設けられるミッドソールと、を備えるシューズ用ソール構造であって、
前記ミッドソールは、
着用者の足の踵部を支持する踵部領域の内甲側に配設され、着用者の足の舟状骨から踵骨の後側までの位置に対応するように前後方向に延びる内甲側ミッドソール部と、
前記内甲側ミッドソール部と足幅方向に間隔をあけて対向するように前記踵部領域の外甲側に配設され、着用者の足の立方骨から踵骨の後側までの位置に対応するように前後方向に延びる外甲側ミッドソール部と、を含み、
前記内甲側ミッドソール部の上面は前後方向に沿って連続する一方、前記外甲側ミッドソール部の上面は前後方向に沿って不連続となるように構成されており、
前記外甲側ミッドソール部は、
前後方向において間隙をあけて並設され、足の踵部を支持する複数の支持部と、
隣り合う前記支持部同士を、前記間隙の位置で前記支持部間の足幅方向に沿ったずれ乃至ねじれが抑制されるように連結する連結部と、を有し、
前記各支持部は、底面視で下面の前端部が前方に向かって突出するように形成されており、
前記連結部は、足幅方向の長さが上下方向の厚みよりも長くなる平板状に形成され、かつ前記支持部同士と一体に形成され、当該連結部の上方には、空間部が設けられており、
前記アウトソールは、着用者の足の中足部から後足部までの範囲を支持するように配置される複数の後部アウトソールを含み、
前記複数の後部アウトソールは、内甲側に位置する部分が前記内甲側ミッドソール部の下面に積層配置される一方、外甲側に位置する部分が、前後方向において間隙をあけて並設されかつ前記外甲側ミッドソール部の前記各支持部の下面に積層配置されるように構成されている、シューズ用ソール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシューズ用ソール構造において、
前記連結部は、側面視で前記間隙における上下方向略中央の位置に配置されており、
前記空間部は、前記支持部同士が干渉しないようにするものである、シューズ用ソール構造。
【請求項3】
請求項2に記載のシューズ用ソール構造において、
前記連結部の上部には、下方に向かって凹陥しかつ足幅方向に延びる凹溝部が形成されている、シューズ用ソール構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシューズ用ソール構造を備えるシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズ用ソール構造およびそれを用いたシューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軟質弾性材からなるミッドソールと、該ミッドソールの下面に貼り合わされたアウトソールとを主な構成要素とするシューズ用のソール構造が一般に広く知られている。このようなソール構造として、例えば特許文献1のようなスポーツ用シューズのソール構造が提案されている。また、着地時におけるソール構造の屈曲性を高めたものとして、例えば特許文献2のようなスポーツ用シューズのソール構造が提案されている。
【0003】
特許文献1に開示されているソール構造は、下面に接地面を有するアウトソールと、アウトソールの上側に積層配置された弾性材からなるミッドソールと、を備えている。ミッドソールは、足における後足部の内甲側に対応する位置に配設され、前後方向に延びる内甲側ミッドソール部と、内甲側ミッドソール部と足幅方向に間隔をあけて対向するように後足部の外甲側に対応する位置に配設され、前後方向に延びる外甲側ミッドソール部と、を有している。
【0004】
また、特許文献2に開示されているソール構造は、アウトソールの接地面よりも上方に向かうように凹陥し、かつ足幅方向に沿って直線状に延びる複数の溝部(サイプ)を有している。この複数の屈曲溝は、足の前足部から後足部に亘って前後方向に間隔をあけて設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−333707号公報
【特許文献2】特表2007−508055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的に歩行中または走行中にシューズが路面に接したときには、シューズを着用した者(以下「着用者」という)の足において、後足部における踵部領域の外甲側部分から後足部の足幅方向の中央領域、中足部の中央部分および前足部の内甲側部分を経由してつま先に抜ける体重移動の荷重軌跡(いわゆるロードパス)が生じるようになっている。このような荷重軌跡によれば、着用者の足が路面に接したときに生じる初期衝撃は主に踵部領域に加わることになる。
【0007】
しかしながら、特許文献1のソール構造では、内甲側および外甲側ミッドソール部のいずれも前後方向に沿って長く延びるように形成されており、着用者の足の踵部が路面に接したときに各ミッドソール部が前後方向にしなるように屈曲するものではなかった。すなわち、内甲側および外甲側ミッドソール部は、上記ロードパスに沿って足の踵部を段階的に接地させかつ足の踵部に柔らかな接地感を与えるように構成されたものではなかった。このため、当該ソール構造では、例えば走行中における着用者の足関節の角速度(いわゆる底屈角速度)を適切に抑えることができず、踵部が路面に安定的に接地している時間を十分に保つことができないことから、上記初期衝撃を内甲側および外甲側ミッドソール部で十分に緩和することができなかった。
【0008】
また、仮に特許文献1の内甲側および外甲側ミッドソール部に対し特許文献2に示された複数の溝部を設けて各ミッドソール部を前後方向に分割した構成にしたとしても、ソール構造の後足部における屈曲性が向上する反面、各ミッドソール部における分割部分のそれぞれが上記初期衝撃を受けたときに内甲側または外甲側に向かって過度に倒れ込んで不安定になってしまうおそれがある。
【0009】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、着用者の足が路面に接したときに生じる初期衝撃を緩和して足に柔らかな接地感を与えるとともに、足を安定させた状態で路面に接地させることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の形態はシューズ用ソール構造に係るものであり、このソール構造は、下面に接地面を有し、着用者の前足部から後足部に至る範囲に対応して設けられるアウトソールと、アウトソールの上側に積層配置された弾性材からなり、着用者の前足部から後足部に至る範囲に対応して設けられるミッドソールと、を備える。ミッドソールは、着用者の足の踵部を支持する踵部領域の内甲側に配設され、着用者の足の舟状骨から踵骨の後側までの位置に対応するように前後方向に延びる内甲側ミッドソール部と、内甲側ミッドソール部と足幅方向に間隔をあけて対向するように踵部領域の外甲側に配設され、着用者の足の立方骨から踵骨の後側までの位置に対応するように前後方向に延びる外甲側ミッドソール部と、を含む。内甲側ミッドソール部の上面は前後方向に沿って連続する一方、前記外甲側ミッドソール部の上面は前後方向に沿って不連続となるように構成されている。外甲側ミッドソール部は、前後方向において間隙をあけて並設され、足の踵部を支持する複数の支持部と、隣り合う支持部同士を、間隙の位置で支持部間の足幅方向に沿ったずれ乃至ねじれが抑制されるように連結する連結部と、を有する。各支持部は、底面視で下面の前端部が前方に向かって突出するように形成されている。連結部は、足幅方向の長さが上下方向の厚みよりも長くなる平板状に形成され、かつ支持部同士と一体に形成され、当該連結部の上方には、空間部が設けられている。アウトソールは、着用者の足の中足部から後足部までの範囲を支持するように配置される複数の後部アウトソールを含む。複数の後部アウトソールは、内甲側に位置する部分が内甲側ミッドソール部の下面に積層配置される一方、外甲側に位置する部分が、前後方向において間隙をあけて並設されかつ外甲側ミッドソール部の各支持部の下面に積層配置されるように構成されている。
【0011】
第1の形態では、外甲側ミッドソール部において、足の踵部を支持する複数の支持部が前後方向に間隙をあけて並設されている。この間隙により、ソール構造が路面に接地するときに隣り合う支持部同士が間隙の位置で互いに接離する方向(すなわち前後方向)に移動するようになる。このため、着用者の足が路面に接したときに複数の支持部を有する外甲側ミッドソール部が前後方向に屈曲しやすくなっている。この屈曲動作により、上記荷重軌跡に従って、最後尾に位置する支持部が最初に路面に接し、その前方に位置する各支持部が順次路面に接するようになる。このように、上記ロードパスに沿って外甲側ミッドソール部を前後方向にしなるように屈曲させることにより、着用者の足関節における角速度(いわゆる底屈角速度)を適切に抑えて、足の踵部領域の外甲側が路面に安定的に接地する時間を十分に保つことができる。その結果、第1の形態では、足の踵部領域における外甲側に対する初期衝撃を十分に緩和することが可能となる。また、間隙の位置で支持部間の足幅方向に沿ったずれ乃至ねじれが抑制されるように構成された連結部により、各支持部は、上記初期衝撃を受けても足幅方向に過度に倒れ込まないように安定した状態に保たれる。すなわち、第1の形態では、連結部により各支持部が足幅方向にぶれないように安定した状態で着用者の足を路面に接地させることが可能となる。したがって、第1の形態によれば、着用者の足が路面に接したときに生じる初期衝撃を緩和して着用者の足に柔らかな接地感を与えることができるとともに、踵部領域が左右方向にぶれないように安定させた状態で着用者の足を路面に接地させることができる。
【0012】
さらに、第1の形態において、連結部は、足幅方向の長さが上下方向の厚みよりも長くなる平板状に形成されている。すなわち、連結部の上下方向における肉厚が相対的に薄いことにより連結部における前後方向の曲げ剛性が下がるとともに、連結部における足幅方向の長さが相対的に長いことにより連結部における足幅方向の曲げ剛性が向上する。したがって、第1の形態では、連結部を起点にしてミッドソール部が前後方向に屈曲しやすくなるとともに、各支持部が上記初期衝撃を受けても内甲側または外甲側に向かって過度に倒れ込まないようにすることができる。
【0013】
第2の形態は、第1の形態において、連結部は、側面視で間隙における上下方向略中央の位置に配置されており、前記空間部は、支持部同士が干渉しないようにするものであることを特徴とする。
【0014】
この第2の形態では、連結部が側面視で間隙における上下方向略中央の位置に配置されていることから、支持部同士が連結部を起点にして前後方向に相対的に移動しやすくなっている。また、連結部の上方に支持部同士が干渉しないようにする空間部が設けられているため、ミッドソール部が上方に向かって屈曲したときに支持部同士が連結部の上方に位置する空間部で干渉しないようになっている。これにより、第3の形態では、ミッドソール部の屈曲性をより一層向上させることができる。
【0015】
第3の形態は、第2の形態において、連結部の上部には、下方に向かって凹陥しかつ足幅方向に延びる凹溝部が形成されていることを特徴とする。
【0016】
この第3の形態では、支持部同士が連結部の凹溝部を起点にして前後方向に相対的に移動しやすくなっているため、ミッドソール部の屈曲性をより一層向上させることができる。
【0017】
第4の形態は、第1〜第3の形態のいずれか1つのシューズ用ソール構造を備える、シューズである。
【0018】
この第4の形態では、上記第1〜第3の形態と同様の作用効果を奏するシューズを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によると、着用者の足が路面に接したときに生じる初期衝撃を緩和して足に柔らかな接地感を与えることができるとともに、踵部領域が左右方向にぶれないように安定させた状態で足を路面に接地させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るソール構造の底面図である。
図2図2は、ソール構造を内甲側から見て示す側面図である。
図3図3は、ソール構造を外甲側から見て示す側面図である。
図4図4は、図1のIV−IV線断面図である。
図5図5は、図1のV−V線断面図である。
図6図6は、第1実施形態に係るソール構造の変形例を示す図2相当図である。
図7図7は、第1実施形態に係るソール構造の変形例を示す図3相当図である。
図8図8は、本発明の第2実施形態に係るソール構造の図1相当図である。
図9図9は、第2実施形態に係るソール構造を示す図2相当図である。
図10図10は、第2実施形態に係るソール構造を示す図3相当図である。
図11図11は、その他の実施形態に係るソール構造の連結部付近における構造を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の各実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
[第1実施形態]
図1図3は、本発明の実施形態に係るシューズ用のソール構造1の全体を示し、このソール構造1にアッパー(図示せず)などが設けられたシューズは、例えばランニング用や各種競技用のスポーツシューズ、日常使用のスニーカー、またはリハビリ用シューズとして使用される。
【0023】
ここで、ソール構造1は、左足用シューズのソール構造のみを例示している。右足用シューズのソール構造は、左足用シューズのものと左右対称になるように構成されているので、以下の説明(実施形態及び変形例を含む)では左足用シューズのソール構造のみについて説明し、右足用シューズのソール構造の説明は省略する。また、以下の説明において、上方(上側)および下方(下側)とはソール構造1の上下方向の位置関係を表し、前方(前側)および後方(後側)とはソール構造1の前後方向の位置関係を表し、内甲側および外甲側とはソール構造1の足幅方向の位置関係を表すものとする。
【0024】
ソール構造1は、着用者の前足部F前側から後足部H(踵部)後側に至る範囲に設けられたアウトソール2を備えている。このアウトソール2は、後述するミッドソール6よりも高硬度の硬質弾性部材で構成されており、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性樹脂、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂、またはブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材が適している。
【0025】
アウトソール2は、前足部Fを支持する前部アウトソール3,3,…と、この前部アウトソール3,3,…とは分離され、中足部Mから後足部Hまでの範囲を支持する後部アウトソール4,4,…とにより構成されている。各前部アウトソール3および各後部アウトソール4の下面には、路面に接する接地面5がそれぞれ形成されている。
【0026】
次に、ソール構造1は、前足部Fから後足部Hまでの足裏面を支持するミッドソール6を備えている。このミッドソール6は、軟質の弾性材からなり、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂やその発泡体、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂やその発泡体、ブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材やその発泡体などが適している。また、ミッドソール6の周縁部には、使用者の足を覆うアッパー(図示せず)が設けられている。
【0027】
ミッドソール6は、上下に分離されている。具体的に、ミッドソール6は、アウトソール2(前部および後部アウトソール3,4)の上側に積層配置された下部ミッドソール8と、後述する波形プレート30を介して下部ミッドソール8の上側に積層配置された上部ミッドソール7とを有している。
【0028】
上部ミッドソール7は、前足部Fの前側から後足部Hの後側までの足裏面を支持する足裏支持面9を有している。図4および図5に示すように、足裏支持面9は、アウトソール2に向かって下方に湾曲しており、内甲側および外甲側に対応する位置の周縁部が足幅方向の中央部分よりも上方に位置するように形成されている。
【0029】
図1図3に示すように、下部ミッドソール8は、前足側ミッドソール部11を有している。前足側ミッドソール部11は、着用者の足の前足部に対応する位置に配設されている。
【0030】
図1および図2に示すように、下部ミッドソール8は、着用者の足の踵部を支持する踵部領域hにおいて、踵部領域hの内甲側に対応する位置に配設された内甲側ミッドソール部12を有している。内甲側ミッドソール部12は、例えば着用者の足の舟状骨から踵骨の後側までの位置に対応するように前後方向に延びており、上下方向の厚さが前足側ミッドソール部11の上下方向の厚さよりも大きくなるように形成されている。これにより、ソール構造1における踵部領域hの内甲側のクッション性が高められている。なお、踵部領域hは、着用者の足における中足部Mから後足部Hまでの領域を含むものとするが、この領域に限定されない。
【0031】
次に、図1および図3に示すように、下部ミッドソール8は、踵部領域hの外甲側に対応する位置に配設された外甲側ミッドソール部13を有している。外甲側ミッドソール部13は、内甲側ミッドソール部12と足幅方向に間隔をあけて対向するように配置されている。外甲側ミッドソール部13は、例えば着用者の足の立方骨から踵骨の後側までの位置に対応するように前後方向に延びている。
【0032】
外甲側ミッドソール部13は、前端部が前足側ミッドソール部11の後端部と連続するように前足側ミッドソール部11と一体に形成されている。また、外甲側ミッドソール部13は、後端部が下部ミッドソール8の一部からなる接続部14を介して内甲側ミッドソール部12の後端部と連続するように内甲側ミッドソール部12と一体に形成されている。
【0033】
なお、この実施形態に係るソール構造1では、前足側ミッドソール部11と内甲側ミッドソール部12とが一体に形成されていない(すなわち、前足側ミッドソール部11と内甲側ミッドソール部12とが分離して形成されている)が、この形態に限定されず、前足側ミッドソール部11の後端部と内甲側ミッドソール部12の前端部とが互いに連続するように一体に形成されていてもよい。他方、上述のように、前足側ミッドソール部11と外甲側ミッドソール部13とが一体に形成されているが、この形態に限定されず、前足側ミッドソール部11と外甲側ミッドソール部13とが分離して形成された形態であってもよい。
【0034】
また、外甲側ミッドソール部13は、足の外甲側の踵部を支持する複数の支持部21,21,…(図示例では3つ)を有している。この支持部21,21同士の間には前後方向に間隙22が形成されており、支持部21,21,…は間隙22をあけて前後方向に並設されている。
【0035】
各支持部21は、その上下方向の厚さが前足側ミッドソール部11の上下方向の厚さよりも大きくなるように形成されている。これにより、ソール構造1における踵部領域hの外甲側のクッション性が高められている。
【0036】
ここで、図1に示すように、前足側ミッドソール部11に隣り合う支持部21は、底面視で後端辺の略中央が前方に向かって窪むように形成されている。前側から2つ目の支持部21についても同様に形成されている。また、前側から2つ目および3つ目に配置されている支持部21,21は、底面視で前端辺の略中央が前方に向かって突出するように形成されている。
【0037】
また、図1および図3に示すように、支持部21,21同士の間隙22には、隣り合う支持部21,21同士を連結する連結部23が設けられている。この連結部23は、間隙22の位置で支持部21,21間の足幅方向に沿ったずれ乃至ねじれが抑制されるように構成されている。なお、図1および図3では、各連結部23を強調して示すために、各連結部23をドットハッチングにより表している。
【0038】
各連結部23は、外甲側ミッドソール部13の一部からなる平板状に形成され、かつ支持部21,21と一体に形成されている。具体的に、各連結部23は、前端部が前側に位置する支持部21の後端部と連続し、かつ後端部が後側に位置する支持部21の前端部と連続している。また、各連結部23は、底面視で略逆V字状に形成されている。さらに、図5に示すように、各連結部23は、足幅方向の長さが上下方向の厚みよりも長く形成されている。
【0039】
図3に示すように、各連結部23は、外甲側から見て各間隙22における上下方向略中央の位置に配置されている。また、各連結部23の上部には、下方に向かって凹陥しかつ足幅方向に延びる凹溝部24が形成されている。そして、図5にも示すように、凹溝部24と後述する波形プレート30の下部との間には、足幅方向に延びる空間部25が形成されている。具体的に、空間部25は、前後方向に隣り合う支持部21,21との間隙22の位置において、凹溝部24を底部としかつ支持部21,21の前後端部および波形プレート30の下部(間隙22の上部)により囲われた空間として構成されている。この空間部25が連結部23の上方に設けられていることにより、ソール構造1が前後方向に屈曲したときに前後方向で隣り合う支持部21,21同士が干渉しないようになっている。
【0040】
次に、図1図5に示すように、ソール構造1は、ミッドソール6の厚さ方向中間部であって、上部および下部ミッドソール7,8間に積層配置された波形プレート30を備えている。この波形プレート30は、ミッドソール6よりも硬質な薄肉層からなり、好ましくは硬質弾性部材により構成されている。硬質弾性部材の具体例としては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、またはエポキシ樹脂等や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。なお、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等を強化用繊維とし、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック(FRP)を用いてもよい。
【0041】
波形プレート30は、中足部Mから後足部Hに亘る範囲において前後方向に延びており、側面視で上下に波打つように湾曲形成されている。また、図4および図5に示すように、波形プレート30は、その幅(足幅方向の長さ)が上部ミッドソール7の幅(足幅方向の長さ)と略同じ長さになるように形成されている。そして、波形プレート30は、下面が下部ミッドソール8の上面に、また上面が上部ミッドソール7の下面にそれぞれ接着剤などによって固着されている。
【0042】
この波形プレート30を設けることにより、主に後足部Hに鉛直上下方向の衝撃が生じてもミッドソール6が局所的に大きく変形することがなく、歩行時または走行時における足首が内側方向または外側方向に向かって過度に倒れ込むような状態を抑制して、より優れた安定性を保つことができる。
【0043】
[実施形態の作用効果]
一般的に歩行中または走行中にシューズが路面に接したときには、着用者の足において、後足部Hにおける踵部領域hの外甲側部分から後足部Hの足幅方向の中央領域、中足部Mの中央部分および前足部Fの内甲側部分を経由してつま先に抜ける体重移動の荷重軌跡(いわゆるロードパス)が生じるようになっている。このような荷重軌跡によれば、着用者の足が路面に接したときに生じる初期衝撃は主に踵部領域hに加わることになる。
【0044】
そして、この実施形態に係るソール構造1では、外甲側ミッドソール部13において足の外甲側の踵部を支持する支持部21,21,…が前後方向に間隙22をあけて並設されている。この間隙22により、ソール構造1が路面に接地するときに隣り合う支持部21,21同士が間隙22の位置で互いに接離する方向(すなわち前後方向)に移動するようになる。このため、上記荷重軌跡に従って着用者の足が路面に接したときに支持部21,21,…を有する外甲側ミッドソール部13が前後方向に屈曲しやすくなっている。この外甲側ミッドソール部13の屈曲動作により、上記荷重軌跡に従って、最後尾に位置する支持部21が最初に路面に接し、その前方に位置する各支持部21が順次路面に接するようになる。このように、上記荷重軌跡に沿って外甲側ミッドソール部13を前後方向にしなるように屈曲させることにより、着用者の足関節における角速度(いわゆる底屈角速度)を適切に抑えて、足の踵部領域hが路面に安定的に接地する時間を十分に保つことができる。その結果、ソール構造1では、着用者の足に対する初期衝撃を十分に緩和することが可能となる。
【0045】
また、隣り合う支持部21,21同士を連結する連結部23は、間隙22の位置で支持部21,21間の足幅方向に沿ったずれ乃至ねじれが抑制されるように構成されている。この連結部23により、各支持部21は、上記初期衝撃を受けても内甲側または外甲側に向かって過度に倒れ込まないように安定した状態に保たれる。すなわち、ソール構造1では、連結部23,23により、踵部領域hの外甲側に配設された外甲側ミッドソール部13の各支持部21が足幅方向にぶれないように安定した状態で着用者の足を路面に接地させることが可能となる。
【0046】
したがって、ソール構造1によれば、着用者の足が路面に接したときに生じる初期衝撃を緩和して足に柔らかな接地感を与えることができるとともに、特に踵部領域hの外甲側が左右方向にぶれないように足を安定させた状態で路面に接地させることができる。その結果、ソール構造1では、歩行中または走行中における着用者の足の体重移動を最適な荷重軌跡に沿うように誘導することが可能となる。
【0047】
また、連結部23は、足幅方向の長さが上下方向の厚みよりも長く形成されている。すなわち、連結部23の上下方向における肉厚を相対的に薄く形成することにより連結部23における前後方向の曲げ剛性を下げるとともに、連結部23における足幅方向の長さを相対的に長く形成することにより連結部23における足幅方向の曲げ剛性を向上させることが可能となる。したがって、連結部23を起点にして外甲側ミッドソール部13が前後方向に屈曲しやすくなるとともに、各支持部21が上記初期衝撃を受けても内甲側または外甲側に向かって過度に倒れ込まないようにすることができる。
【0048】
また、連結部23が側面視で間隙22における上下方向略中央の位置に配置されているため、支持部21同士が連結部23を起点にして前後方向に相対的に移動しやすくなっている。そして、連結部23の上方に支持部21,21同士が干渉しないようにする空間部25が設けられているため、外甲側ミッドソール部13が上方に向かって屈曲したときに支持部21、21同士が連結部23の上方に位置する空間部25で干渉しないようになっている。これにより、ソール構造1では、外甲側ミッドソール部13の屈曲性をより一層向上させることができる。
【0049】
また、連結部23の上部には凹溝部24が形成されているため、支持部21,21同士が連結部23の凹溝部24を起点にして前後方向に相対的に移動しやすくなっている。このため、外甲側ミッドソール部13の屈曲性をより一層向上させることができる。
【0050】
[第1実施形態の変形例]
図6および図7は、第1実施形態の変形例を示すものである。なお、以下に示す変形例に係るソール構造1の他の構成は、第1実施形態に係るソール構造1の構成と同様である。このため、以下の説明では、図1図5と同じ部分について同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0051】
図6および図7に示すように、この変形例に係るソール構造1では、波形プレート30が設けられていない。すなわち、このソール構造1では、上部ミッドソール7が波形プレート30を介さずに下部ミッドソール8の上側に積層配置されている。また、図7に示すように、空間部25は、前後方向に隣り合う支持部21,21との間隙22の位置において、凹溝部24を底部としかつ支持部21,21の前後端部および上部ミッドソール7の下部(間隙22の上部)により囲われた空間として構成されている。このような変形例に係るソール構造1であっても、外甲側ミッドソール部13に設けられた支持部21,21,…および連結部23,23により、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0052】
[第2実施形態]
図8図10は、本発明の第2実施形態に係るソール構造1を示す。この実施形態では、第1実施形態と比較して、特に支持部21,21,…および連結部23,23の配置が異なっている。また、この実施形態では、第1実施形態と比較して、ミッドソール6の構成が異なり、かつ波形プレート30が設けられていない。なお、この実施形態に係るソール構造1の他の構成は、第1実施形態に係るソール構造1の構成と同様である。このため、以下の説明では、図1図5と同じ部分について同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0053】
図8図10に示すように、この実施形態のミッドソール6は、第1実施形態と異なり、上下に分離されていない。すなわち、ミッドソール6は、第1実施形態の下部ミッドソール8と上部ミッドソール7とが一体に形成された構造になっている。
【0054】
また、ミッドソール6は、前足側ミッドソール部11、内甲側ミッドソール部12、および外甲側ミッドソール部13を有している。この外甲側ミッドソール部13は、複数の支持部21,21,…(図示例では3つ)のみを有している。すなわち、この実施形態の外甲側ミッドソール部13は、第1実施形態のものと異なり、外甲側ミッドソール部13において、支持部21,21同士の間隙22の位置に連結部23が設けられていない。一方、この実施形態において、内甲側ミッドソール部12は、複数の支持部21,21,…(図示例では3つ)および連結部23,23を有している。なお、図8図10では、第1実施形態と同様、連結部23を強調して示すために、連結部23をドットハッチングにより表している。
【0055】
図8に示すように、各支持部21は、底面視で前端辺が足幅方向に沿って直線状になるように形成されている。また、前足側ミッドソール部11に隣り合う支持部21および前側から2つ目の支持部21は、底面視で後端辺が足幅方向に沿って直線状になるように形成されている。そして、各連結部23は、底面視で略矩形状に形成されている。なお、その他の連結部23の構成は、第1実施形態のものと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0056】
また、図9に示すように、空間部25は、前後方向に隣り合う支持部21,21との間隙22の位置において、凹溝部24を底部としかつ支持部21,21の前後端部および間隙22の上部により囲われた空間として構成されている。その他の凹溝部24および空間部25の構成については第1実施形態のものと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0057】
以上のように、この実施形態に係るソール構造1では、内甲側ミッドソール部12が支持部21,21,…および連結部23,23を有する一方、外甲側ミッドソール部13が支持部21,21,…のみを有する形態となっている。このため、着用者の足が路面に接したときに生じる初期衝撃が内甲側および外甲側ミッドソール部12,13の双方により緩和されて足に柔らかな接地感を与えることができるとともに、踵部領域hの内甲側が左右方向にぶれないように安定させた状態で着用者の足を路面に接地させることができる。
【0058】
[その他の実施形態]
上記実施形態に係るソール構造1では、平板状に形成された各連結部23を備える形態を示したが、この形態に限られない。例えば、図11に示すように、ソール構造1は、格子状に形成された各連結部23を備える形態であってもよい。このような形態であっても、各連結部23における足幅方向の曲げ剛性を向上させることが可能となり、支持部21,21,…が初期衝撃を受けても内甲側または外甲側に向かって過度に倒れ込まないようにすることができる。
【0059】
また、上記実施形態に係るソール構造1では、連結部23,23が外甲側ミッドソール部13の一部からなる形態を示したが、この形態に限られない。すなわち、連結部23,23は、外甲側ミッドソール部13と異なる材質からなるものであってもよい。
【0060】
また、内甲側および外甲側ミッドソール部12,13の各々が支持部21,21,…および連結部23,23を有する形態であってもよい。このような形態であれば、着用者の足が路面に接したときに生じる初期衝撃が内甲側および外甲側ミッドソール部12,13の双方により緩和されて足に柔らかな接地感を与えることができるとともに、踵部領域hの内甲側および外甲側の双方が左右方向にぶれないように安定させた状態で足を路面に接地させることができる。
【0061】
また、上記各実施形態に係るソール構造1では、各連結部23が外甲側または内甲側から見て各間隙22における上下方向略中央の位置に配置されている形態を示したが、この形態に限られない。例えば、各連結部23が上下方向略中央よりも上方に配置された形態では、ミッドソール6の踵部領域hにおける前後方向の屈曲性を向上させることができる。一方、各連結部23が上下方向略中央よりも下方に配置された形態では、ミッドソール6の踵部領域hにおける曲げ剛性を向上させることができる。このように、各連結部23の配置を変えることにより、ミッドソール6の踵部領域hにおける屈曲性および曲げ剛性の双方の特性を適宜調整することが可能となる。
【0062】
以上、本発明についての実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態のみに限定されず、発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、例えばウォーキング用、ランニング用や各種競技用のスポーツシューズ、またはリハビリ用シューズに適用されるシューズ用ソール構造、およびそれを用いたシューズとして産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1:ソール構造
2:アウトソール
3:前部アウトソール
4:後部アウトソール
5:接地面
6:ミッドソール
11:前足側ミッドソール部
12:内甲側ミッドソール部
13:外甲側ミッドソール部
21:支持部
22:間隙
23:連結部
24:凹溝部
25:空間部
30:波形プレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11