特許第6963402号(P6963402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6963402-コンクリート表面の墨出し方法 図000002
  • 特許6963402-コンクリート表面の墨出し方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963402
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】コンクリート表面の墨出し方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 9/00 20060101AFI20211028BHJP
   E04G 21/18 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   E04G9/00 Z
   E04G21/18 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-67510(P2017-67510)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-168614(P2018-168614A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 儀晃
(72)【発明者】
【氏名】野澤 達也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕一
【審査官】 前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−151603(JP,A)
【文献】 特開平06−074372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 9/00
E04G 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠を用いて形成された現場打ちコンクリート構造物の底面部分の表面に、位置決め用の墨出しを行うコンクリート表面の墨出し方法であって、
型枠を組み立てた後、コンクリートが打設されるのに先立って、組み立てられた型枠における現場打ちコンクリート構造物の底面部分のコンクリート打設面に、硬化後のコンクリートの表面に転写可能な油性の着色塗料を用いて、底面部分の型枠を足場とした下を向いた作業によって、境界線、取付け位置等の位置決め用のマーキングを描いておき、打設したコンクリートが硬化した後、型枠を脱型した際に、描かれた位置決め用のマーキングを現場打ちコンクリート構造物の底面部分の表面に転写させて、位置決め用の墨出しを行うようになっており、
前記型枠は、天井スラブを形成するための型枠であって、下階で用いたものを上階で転用して再利用されるものとなっており、各階ごとに着色塗料の色を変えてマーキングを描いておくことで、各階毎に正しく位置決めされたマーキングを用いて次の作業を行なうようになっているコンクリート表面の墨出し方法。
【請求項2】
前記硬化後のコンクリートの表面に転写可能な着色塗料は、黒色以外の色の着色塗料である請求項1記載のコンクリート表面の墨出し方法。
【請求項3】
前記位置決め用のマーキングは、文字情報を含んだマーキングである請求項1又は2記載のコンクリート表面の墨出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面の墨出し方法に関し、特に、型枠を用いて形成された現場打ちコンクリート構造物の表面に、位置決め用の墨出しを行うコンクリート表面の墨出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、型枠を用いて形成された現場打ちコンクリート構造物の表面に、例えば断熱材を吹き付ける際の吹付け境界の位置や、空調用の室外機を取り付ける際のアンカーの打込み位置を位置決めするための、墨出し行う墨出し方法として、墨出し用の糸を有する墨つぼを用いた方法が知られている。また、型枠を組み立てた後に、鉄筋や箱抜きや埋設金物等の配置のための位置出しを、効率良く行うことができるようにした、コンクリート型枠用パネルも開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のコンクリート型枠用パネルでは、その片面又は両面に、所定の目盛が所定の配置で予め設けられており、これらの目盛りを参照しながら、鉄筋や箱抜きや埋設金物等の配設位置を決めることができるようになっている。また、特許文献1のコンクリート型枠用パネルでは、コンクリート面に転写可能な塗料を用いて目盛を形成することで、型枠用パネルを脱型した後の硬化した現場打ちコンクリート構造物の表面に、目盛りを転写させて、コンクリート面の下地処理に利用することで、下地処理のための墨出しや位置出しを効率良く行なうことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−151603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の墨つぼによる墨出し方法や、目盛が設けられた型枠用パネルを用いた墨出し方法では、特に硬化後の現場打ちコンクリート構造物の底面部分に、吹付け境界の位置や、アンカーの打込み位置を位置決めするための墨出しを行う際には、例えば墨出しを行うために設けた仮設足場の上で、作業員が、コンクリート構造物の底面を見上げた状態で行なう必要があるため、作業がやり難く、位置決めするための墨出しを効率良く行うことは困難である。
【0006】
本発明は、硬化後の現場打ちコンクリート構造物の、特に底面部分に、例えば吹付け境界の位置や、アンカーの打込み位置を位置決めするための墨出しを、容易に且つ効率良く行うことのできるコンクリート表面の墨出し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、型枠を用いて形成された現場打ちコンクリート構造物の底面部分の表面に、位置決め用の墨出しを行うコンクリート表面の墨出し方法であって、型枠を組み立てた後、コンクリートが打設されるのに先立って、組み立てられた型枠における現場打ちコンクリート構造物の底面部分のコンクリート打設面に、硬化後のコンクリートの表面に転写可能な油性の着色塗料を用いて、底面部分の型枠を足場とした下を向いた作業によって、境界線、取付け位置等の位置決め用のマーキングを描いておき、打設したコンクリートが硬化した後、型枠を脱型した際に、描かれた位置決め用のマーキングを現場打ちコンクリート構造物の底面部分の表面に転写させて、位置決め用の墨出しを行うようになっており、前記型枠は、天井スラブを形成するための型枠であって、下階で用いたものを上階で転用して再利用されるものとなっており、各階ごとに着色塗料の色を変えてマーキングを描いておくことで、各階毎に正しく位置決めされたマーキングを用いて次の作業を行なうようになっているコンクリート表面の墨出し方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0008】
そして、本発明のコンクリート表面の墨出し方法は、前記型枠が、天井スラブを形成するための型枠であって、下階で用いたものを上階で転用して再利用されるものとなっており、各階ごとに着色塗料の色を変えてマーキングを描いておくことで、各階毎に正しく位置決めされたマーキングを用いて次の作業を行えるようになっていることが好ましい。
【0009】
また、本発明のコンクリート表面の墨出し方法は、前記硬化後のコンクリートの表面に転写可能な着色塗料が、黒色以外の色の着色塗料であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明のコンクリート表面の墨出し方法は、前記位置決め用のマーキングは、文字情報を含んだマーキングであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコンクリート表面の墨出し方法によれば、硬化後の現場打ちコンクリート構造物の底面部分に、例えば吹付け境界の位置や、アンカーの打込み位置を位置決めするための墨出しを、各階ごとに容易に且つ効率良く行うことができると共に、各階ごとに正しく位置決めされたマーキングを用いて、次の作業を行うことができる
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の好ましい第1実施形態に係るコンクリート表面の墨出し方法を説明する、(a)は、天井スラブの部分を斜め下方から見た部分斜視図、(b)は、吹付け仕上げ材を吹き付けた後の天井スラブの部分を斜め下方から見た部分斜視図、(c)は、コンクリートを打設する前の天井スラブの部分の型枠を斜め上方から見た部分斜視図である。
図2】本発明の好ましい第2実施形態に係るコンクリート表面の墨出し方法の説明図する、(a)は、コンクリート製バルコニーの部分を斜め下方から見た部分斜視図、(b)は、コンクリートを打設する前のコンクリート製バルコニーの部分の型枠を斜め上方から見た部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1(a)〜(b)に示す本発明の好ましい第1実施形態に係るコンクリート表面の墨出し方法は、例えば鉄筋コンクリート造りの住宅建築物において、例えば上階と下階とを仕切る天井スラブ20を現場打ちコンクリート構造物として形成する際に、打設したコンクリートが硬化した後の天井スラブ20の底面部分20aに、例えば吹付け仕上げ材30(図1(c)参照)の吹付け境界31の位置を位置決めするための墨出し行う方法として採用されたものである。すなわち、本第1実施形態の墨出し方法は、硬化した後の天井スラブ20の底面部分20aに、例えば断熱材を吹付け仕上げ材30として吹き付けて断熱層を形成する際には、天井スラブ20の底面部分20aに沿って配置される他の仕上げ材等との関係で、断熱材30を吹き付けない部分との間に吹付け境界31を設ける必要があることから、吹付け境界31をマーキング21(図1(a)、(c)参照)により明示して位置決めする墨出しを、天井スラブ20の底面部分20aに容易に行うことができるようにするための方法として採用されたものである。また、本第1実施形態の墨出し方法は、従来の墨つぼを用いた墨出し方法では、天井スラブ20の底面部分20aに墨出しを行う際に、天井スラブ20の下方に設けた仮設足場の上で、作業員が、天井スラブ20の底面部分20aを見上げた状態で行なう必要があるため、作業がやり難く、効率良く墨出しを行うことは困難であったことから、底面部分20aを見上げた状態での作業や仮設足場を不要にして、下を向いた作業によって、効率良く墨出しできるようにするための方法として採用されたものである。
【0014】
そして、本第1実施形態のコンクリート表面の墨出し方法は、型枠10(図1(c)参照)を用いて形成された現場打ちコンクリート構造物の表面として、例えば天井スラブ20の底面部分20aに、位置決め用の墨出しを行うコンクリート表面の墨出し方法であって、型枠10を組み立てた後、コンクリートが打設されるのに先立って、組み立てられた型枠10における例えば天井スラブ20の底面部分20aのコンクリート打設面10aに、硬化後のコンクリートの表面に転写可能な着色塗料を用いて、境界線として、例えば断熱材の吹付け境界31の位置決め用のマーキング21を描いておく(図1(a)参照)。打設したコンクリートが硬化した後、型枠10を脱型した際に、描かれた吹付け境界31の位置決め用のマーキング21を天井スラブ20の底面部分20aに転写させて、位置決め用の墨出しを行うようになっている(図1(a)参照)。
【0015】
本実施形態では、型枠10を組み立てた後、コンクリートが打設されるのに先立って、図1(c)に示すように、組み立てられた型枠10における天井スラブ20の底面部分20a(図1(a)参照)のコンクリート打設面10aに、断熱材30の吹付け境界31を位置決めするための、位置決め用のマーキング21を描いておく(図1(a)参照)。位置決め用のマーキング21を描く作業は、天井スラブ20の底面部分20aの型枠10が組み立てられた後に、好ましくは鉄筋23が組み付けられる前に、例えばスケールや定規を使用すると共に、硬化後のコンクリートの表面に転写可能な着色塗料を使用して、容易に行うことができる。また、位置決め用のマーキング21を描く作業は、組み立てられた天井スラブ20の底面部分20aの型枠10を足場として、下を向いた作業によって、安定した状態で安全に、且つ所定の位置に精度良く位置決めしながら、効率良く行ってゆくことが可能である。
【0016】
ここで、硬化後のコンクリートの表面に転写可能な着色塗料としては、油性のマジックインキやペイントマーカー等の、市販されている種々の着色塗料を用いることができる。また、硬化後のコンクリートの表面に転写可能な着色塗料は、黒色以外の、例えば赤、青、緑等に着色された、その他の色の着色塗料を用いることが好ましい。これによって、例えば目立った色の着色塗料を用いることにより、型枠10を脱型した後に、天井スラブ20の底面部分20aに転写された位置決め用のマーキング21(図1(a)参照)が、よりはっきりと分かるようにすることが可能になる。天井スラブ20の底面部分20aは、後に天井仕上げ材によって覆い隠される部分となるため、目立った色の着色塗料を用いても、室内から見えないことになって、美観を損なうのを回避することが可能になる。
【0017】
また、本実施形態では、天井スラブ20を形成するための型枠10は、下階で用いたものを上階で転用して再利用される場合があるが、各階ごとに着色塗料の色を変えておくことで、例えば下階で使用した着色塗料の残りが上階の天井スラブ20の底面部分20aに付着しても、これらの色を判別することで、正しく位置決めされたマーキング21を用いて、次の作業を行うことが可能になる。
【0018】
さらに、本実施形態では、位置決め用のマーキング21は、文字情報を含んだマーキングとすることもできる。文字情報を含んだマーキングは、例えば断熱材30の吹付け境界31を示す線状のマーキング21に加えて、例えば1F、2F、3F等の文字情報を描いたものである。これらによって、上述のように、例えば下階で使用した着色塗料の残りが上階の天井スラブ20の底面部分20aに付着しても、これらの文字情報によって、正しく位置決めされたマーキング21を用いて、次の作業を行うことが可能になる。
【0019】
組み立てられた型枠10の天井スラブ20の底面部分20aのコンクリート打設面10aに、位置決め用のマーキング21を描いたら、鉄筋23を配筋すると共に、底面部分20a以外の型枠を組み立てた後に、天井スラブ20のコンクリートを打設する。打設したコンクリートが硬化したら、型枠10を脱型する。型枠10の脱型によって、型枠10の底面部分20aのコンクリート打設面10aに着色塗料によって描かれていたマーキング21は、コンクリート打設面10aから引き剥がされて、図1(b)に示すように、天井スラブ20の底面部分20aにスムーズに転写されることになる。
【0020】
これによって、本第1実施形態のコンクリート表面の墨出し方法によれば、硬化後の現場打ちコンクリート構造物である天井スラブ20の底面部分20aに、例えば断熱材30の吹付け境界31を位置決めするための墨出しを、底面部分20aを見上げた状態での作業や仮設足場を要することなく、着色塗料を用いて容易に且つ効率良く行うことが可能になる。
【0021】
図2(a)、(b)は、本発明の好ましい第2実施形態に係るコンクリート表面の墨出し方法を例示するものである。本第2実施形態の墨出し方法では、型枠を用いて形成された現場打ちコンクリート構造物の表面として、例えばコンクリート製バルコニー25の底面部分であるあげ裏部分25aa(図2(a)参照)に、位置決め用の墨出しを行うコンクリート表面の墨出し方法であって、型枠10’(図2(b)参照)を組み立てた後、コンクリートが打設されるのに先立って、組み立てられた型枠10’における例えばコンクリート製バルコニー25のあげ裏部分25aのコンクリート打設面10a’に、硬化後のコンクリートの表面に転写可能な着色塗料を用いて、例えば空調用の室外機を取り付ける際のアンカーの打込み位置32の位置決め用のマーキング26を描いておく(図2(b)参照)。打設したコンクリートが硬化した後、型枠10’を脱型した際に、描かれた打込み位置32の位置決め用のマーキング26をコンクリート製バルコニー25のあげ裏部分25aに転写させて、アンカーの打込み位置32の位置決め用の墨出しを行うようになっている(図2(a)参照)。
【0022】
本第2実施形態の墨出し方法によっても、位置決め用のマーキング26を描く作業は、組み立てられたコンクリート製バルコニー25のあげ裏部分25aの型枠10’を足場として、下を向いた作業によって、安定した状態で安全に、且つ所定の位置に精度良く位置決めしながら、効率良く行ってゆくことができる。打設したコンクリート製バルコニー25のコンクリートが硬化したら、型枠10’を脱型することにより、型枠10’のあげ裏部分25aのコンクリート打設面10a’に着色塗料によって描かれていたマーキング26(図2(b)参照)は、コンクリート打設面10a’から引き剥がされて、図2(a)に示すように、コンクリート製バルコニー25のあげ裏部分25aにスムーズに転写されることになるので、上記の第1実施形態のコンクリート表面の墨出し方法と同様の作用効果が奏される。
【0023】
また、本第2実施形態の墨出し方法では、硬化後のコンクリートの表面に転写可能な着色塗料として、例えば灰色等の、硬化後のコンクートの色に近い、図面を見て「この辺りにあるはず」と思って探さなければ、見つからないような色の着色塗料を用いることが好ましい。これによって、型枠10’の脱型後にコンクリートの表面がむき出しのままの状態となったり、簡易な仕上げしか行なわれない部位である、例えばコンクリート製バルコニー25のあげ裏部分25aの所定の領域に墨出しを行った場合でも、着色したマーキング26が目立たないようにして、美観が損なわれるのを効果的に回避することが可能になる。
【0024】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0025】
10,10’ 型枠
10a,10a’ コンクリート打設面
20 天井スラブ(現場打ちコンクリート構造物)
20a 底面部分
21 吹付け境界の位置決め用のマーキング
23 鉄筋
25 コンクリート製バルコニー(現場打ちコンクリート構造物)
25a あげ裏部分(底面部分)
26 アンカーの打込み位置の位置決め用のマーキング
30 吹付け仕上げ材
31 吹付け境界
32 アンカーの打込み位置
図1
図2