(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963423
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】接合基板、弾性表面波素子および接合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20211028BHJP
H03H 3/08 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
H03H9/25 Z
H03H9/25 C
H03H3/08
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-117281(P2017-117281)
(22)【出願日】2017年6月14日
(65)【公開番号】特開2019-4308(P2019-4308A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】栗本 浩平
(72)【発明者】
【氏名】岸田 和人
(72)【発明者】
【氏名】茅野 林造
(72)【発明者】
【氏名】水野 潤
(72)【発明者】
【氏名】垣尾 省司
【審査官】
▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−178331(JP,A)
【文献】
特開平11−122073(JP,A)
【文献】
特開2005−252550(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3187231(JP,U)
【文献】
特開平09−208399(JP,A)
【文献】
特開平07−154177(JP,A)
【文献】
特開2008−060382(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/081651(WO,A1)
【文献】
特開2002−009567(JP,A)
【文献】
特開2017−046033(JP,A)
【文献】
国際公開第2018/097016(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/031651(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007−H03H3/10
H03H9/00−H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶基板と、前記水晶基板上に接合され、漏洩弾性表面波が伝搬する圧電基板とを有し、接合界面において共有結合により接合されており、
前記水晶基板の方位と前記圧電基板の方位とが、接合面方向において直角方向側で交差しており、
前記水晶基板がATカット水晶基板またはSTカット水晶基板であり、
前記圧電基板は、36°YカットX伝搬タンタル酸リチウムまたは41°YカットX伝搬ニオブ酸リチウムからなり、
前記圧電基板は、厚さが、漏洩弾性表面波の波長に対し0.05〜1.0波長に相当し、
前記水晶基板と圧電基板との間にアモルファス層を有しており、前記水晶基板と前記アモルファス層の界面が前記接合界面となることを特徴とする接合基板。
【請求項2】
水晶基板と、前記水晶基板上に接合され、漏洩弾性表面波が伝搬する圧電基板とを有し、接合界面において共有結合により接合されており、
前記圧電基板は、厚さが、漏洩弾性表面波の波長に対し0.05〜1.0波長に相当し、
前記水晶基板と圧電基板との間にアモルファス層を有しており、前記水晶基板と前記アモルファス層の界面が前記接合界面となり、
前記水晶基板の方位と前記圧電基板の方位とが、接合面方向において65度〜115度の範囲で交差しており、
前記水晶基板がATカット水晶基板またはSTカット水晶基板であり、
前記圧電基板は、36°YカットX伝搬タンタル酸リチウムまたは41°YカットX伝搬ニオブ酸リチウムからなることを特徴とする接合基板。
【請求項3】
前記アモルファス層が、100nm以下の厚さであることを特徴とする請求項1または2に記載の接合基板。
【請求項4】
前記アモルファス層が、二酸化ケイ素または酸化アルミニウムからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項5】
前記水晶基板は、厚さが150〜500μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項6】
前記圧電基板は、厚さが0.1〜100μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の接合基板における圧電基板の主面上に、少なくとも1つの櫛型電極を備えていることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項8】
周波数温度特性(TCF)が−20〜+5ppm/℃であり、カップリングファクタ(K2)が5%以上であることを特徴とする請求項7に記載の弾性表面波素子。
【請求項9】
ATカットまたはSTカットの水晶基板と、36°YカットX伝搬タンタル酸リチウムまたは41°YカットX伝搬ニオブ酸リチウムからなり、漏洩弾性表面波が伝搬し、厚さが漏洩弾性表面波の波長に対し0.05〜1.0波長に相当する圧電基板とが接合された接合基板の製造方法であって、
水晶基板の接合面および圧電基板の接合面に、減圧下で紫外線を照射し、前記水晶基板と前記圧電基板とが、前記水晶基板の方位と前記圧電基板の方位とが、接合面方向において直角方向側で交差している状態で、照射後に、水晶基板の接合面と圧電基板の接合面とを接触させ、水晶基板と圧電基板とに厚さ方向に加圧をして前記接合面同士を共有結合により接合することを特徴とする接合基板の製造方法。
【請求項10】
前記加圧の際に、所定の温度に加熱をすることを特徴とする請求項9記載の接合基板の製造方法。
【請求項11】
前記水晶基板が、水熱合成法で結晶成長させ、任意の方向に切り出したものであることを特徴とする請求項9または10に記載の接合基板の製造方法。
【請求項12】
前記水晶基板と圧電基板の接合面の一方または両方にアモルファス層を介在させておくことを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の接合基板の製造方法。
【請求項13】
前記アモルファス層は、薄膜形成方法によって付着させたものであることを特徴とする請求項12記載の接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、弾性表面波を利用した接合基板、弾性表面波素
子および接合基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの移動体通信機器の進化に伴い弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)デバイスについても高性能化が要求されている。特に高周波化、広帯域化のために高速、高結合のSAWモード及び温度変化による通過帯域の移動を防止する優れた温度特性をもつSAW基板が要請されている。
さらに、漏洩弾性表面波(Leaky SAW: LSAW等とも呼ばれる)、縦型漏洩弾性表面波(Longitudinal−type Leaky SAW: LLSAW等とも呼ばれる)は、優れた位相速度を有しており、SAWデバイスの高周波化に有利な伝搬モードの一つである。しかし、大きな減衰伝搬を有している点で課題がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ニオブ酸リチウム基板表面付近にプロトン交換層を形成した後に、表層のみに逆プロトン交換層を形成することによって、LLSAWのバルク波放射に起因する損失を減少させようとする技術が提案されている。
【0004】
非特許文献1、非特許文献2にもLLSAWの低損失化の手法として、基板方位、電極膜厚の最適化が試みられている。
【0005】
また、温度特性については例えば、現状良く使われているタンタル酸リチウムの周波数変化の温度係数は−35ppm/℃、ニオブ酸リチウムでは−79ppm/℃であり、周波数変動が大きい。このため、周波数変化の温度係数を低減することが必要である。
一方ST−Cut水晶の温度係数は0ppm/℃であり優れた特性を示すが、伝搬速度や電気機械結合係数においてタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムに大きく劣る。
【0006】
特許文献2には、SAW伝搬基板と支持基板とを有機薄膜層によって接着したデバイスが記載されている。伝搬基板は例えば厚さ30μmのタンタル酸リチウム基板であり、これを厚さ300μmのガラス基板と厚さ15μmの有機接着剤によって貼り合わせている。
【0007】
特許文献3にもタンタル酸リチウム基板(厚さ:125μm)と石英ガラス基板(厚さ:125μm)とを接着剤で貼り合せたSAWデバイスが記載されている。
【0008】
特許文献4にはタンタル酸リチウム基板と支持基板の接着について有機接着層を薄層化することにより温度特性が改善されると報告されている。
【0009】
しかし、特許文献1では、LLSAWのバルク波放射に起因する損失が減少し、伝搬特性などが格段に向上することを確認しているが、提案構造ではデバイスの歩留りが極端に悪いという問題点がある。
特許文献2、3ともに温度特性が改善されたという具体的なデータは記載されていない。
特許文献4では有機接着層を薄層化することにより温度特性が改善されているが、それでも15ppm/℃ST−Cut水晶の0ppm/℃には到達しておらず、また接着剤で接合しているため歩留が悪い等の問題がある。
【0010】
本願発明者らは、非特許文献3〜5において、水晶基板と、圧電基板との接合において伝搬減衰が低減されることを明らかにしている。
例えば、非特許文献3では、弾性表面波(SAW)デバイスのために、STカット水晶とLiTaO
3(LT)の直接接合においてアモルファスSiO
2(α−SiO
2)中間層を使用して接合している。
非特許文献4では、ATカット水晶にXカット31°Y伝搬タンタル酸リチウム、Xカット36°Y伝搬ニオブ酸リチウムを接合して電気機械結合係数を高めたLLSAWが提案されている。
非特許文献5では、LiTaO
3またはLiNbO
3薄板と水晶基板との接合により縦型リーキー弾性表面波の高結合化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013−30829号公報
【特許文献2】特開2001−53579号公報
【特許文献3】特開2006−42008号公報
【特許文献4】特開2011−87079号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】”GHz−band surface acoustic wave devices using the second leaky mode” , Appl. Phis.,vol. 36,no9B,pp. 6083−6087,1997.
【非特許文献2】”LiNbO3の縦波型漏洩弾性表面波の共振器特性−有限要素解析結合法による解析”信学会基礎・境界ソサイエティ大会,A−195,p.196,1996.
【非特許文献3】”2016 International Conference on Electronics Packaging(ICEP)”、発行所 The Japan Institute of Electronics Packaging、発行日 平成28年4月20日
【非特許文献4】”平成27年度山梨大学工学部電気電子工学科卒業論文発表会要旨集”、発行所 山梨大学工学部電気電子工学科、発行日 平成28年2月16日
【非特許文献5】”平成27年度山梨大学工学部電気電子工学科卒業論文発表会”、開催日 平成28年2月16日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記した非特許文献3〜5では、電気機械結合係数が改善されていることが明らかにされている。しかし、弾性表面波素子では、周波数温度特性に優れていることが必要であり、良好な周波数温度特性が得られないと温度補償素子などを設けることによって温度依存性を低下させることが必要になる。非特許文献3〜5で提案されているLLSAWでは、電気機械結合係数の改善は見られるが周波数温度特性については改善が不十分である。
【0014】
ところで、LLSAWやLSAWでは、水晶基板と圧電基板の方位を同じ方向に揃えて接合することで機械的な接合強度を得ることが通常行われている。この方向が同方向でなく交差する方向にあると、接合後に行う熱処理を実施すると水晶基板の熱膨張係数がプラスで圧電基板の熱膨張係数がマイナスのため熱膨張差がさらに強まることから、両基板間の剥離などが生じやすくなると考えられている。
【0015】
本願発明者らは、鋭意研究した結果、水晶基板と圧電基板の方位を適切な方向に交差させることで周波数温度特性が向上するとともに、電気機械結合係数においても良好な特性が得られることを見いだした。また、比較的薄厚の圧電基板では、水晶基板との接合面において共有結合されていることで機械的な接合強度には問題がなく、剥離などの問題も生じないことも合わせて見いだした。
【0016】
本願発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、電気機械結合係数、周波数温度特性ともに良好な特性を有する接合基板、弾性表面波素
子および接合基板の製造方法を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の接合基板のうち、第1の形態は、 水晶基板と、前記水晶基板上に接合され、
漏洩弾性表面波が伝搬する圧電基板とを有し、接合界面において共有結合により接合されており、
前記水晶基板の方位と前記圧電基板の方位とが、接合面方向において直角方向側で交差しており、
前記水晶基板がATカット水晶基板またはSTカット水晶基板であり、
前記圧電基板は、36°YカットX伝搬タンタル酸リチウムまたは41°YカットX伝搬ニオブ酸リチウムからな
り、
前記圧電基板は、厚さが、漏洩弾性表面波の波長に対し0.05〜1.0波長に相当し、
前記水晶基板と圧電基板との間にアモルファス層を有しており、前記水晶基板と前記アモルファス層の界面が前記接合界面となることを特徴とする。
【0018】
他の形態の接合基板の発明は
、水晶基板と、前記水晶基板上に接合され、
漏洩弾性表面波が伝搬する圧電基板とを有し、接合界面において共有結合により接合されており、
前記圧電基板は、厚さが、漏洩弾性表面波の波長に対し0.05〜1.0波長に相当し、
前記水晶基板と圧電基板との間にアモルファス層を有しており、前記水晶基板と前記アモルファス層の界面が前記接合界面となり、
前記水晶基板の方位と前記圧電基板の方位とが、接合面方向において65度〜115度の範囲で交差しており、
前記水晶基板がATカット水晶基板またはSTカット水晶基板であり、
前記圧電基板は、36°YカットX伝搬タンタル酸リチウムまたは41°YカットX伝搬ニオブ酸リチウムからなることを特徴とする。
【0021】
他の形態の接合基板の発明は、前記形態の接合基板の発明において、前記アモルファス層が、100nm以下の厚さであることを特徴とする。
【0022】
他の形態の接合基板の発明は、前記形態の接合基板の発明において、前記アモルファス層が、二酸化ケイ素または酸化アルミニウムからなることを特徴とする。
【0024】
他の形態の接合基板の発明は、前記形態の接合基板の発明において、前記水晶基板は、厚さが150〜500μmであることを特徴とする。
【0027】
他の形態の接合基板の発明は、前記形態の接合基板の発明において、前記圧電基板は、厚さが0.1〜100μmであることを特徴とする。
【0029】
本発明の弾性表面波素子のうち第1の形態は、前記形態の接合基板における圧電基板の主面上に、少なくとも1つの櫛型電極を備えていることを特徴とする。
他の形態の弾性表面波素子の発明は、前記形態の弾性表面波素子の発明において、周波数温度特性(TCF)が−20〜+5ppm/℃であり、カップリングファクタ(K2)が5%以上であることを特徴とする。
【0031】
本発明の接合基板の製造方法のうち、第1の形態は、ATカットまたはSTカットの水晶基板と、36°YカットX伝搬タンタル酸リチウムまたは41°YカットX伝搬ニオブ酸リチウムからな
り、漏洩弾性表面波が伝搬し、厚さが漏洩弾性表面波の波長に対し0.05〜1.0波長に相当する圧電基板とが接合された接合基板の製造方法であって、
水晶基板の接合面および圧電基板の接合面に、減圧下で紫外線を照射し、前記水晶基板と前記圧電基板とが、
前記水晶基板の方位と前記圧電基板の方位とが、接合面方向において直角方向側で交差している状態で、照射後に、水晶基板の接合面と圧電基板の接合面とを接触させ、水晶基板と圧電基板とに厚さ方向に加圧をして前記接合面同士を
共有結合により接合することを特徴とする。
【0032】
他の形態の接合基板の製造方法の発明は、前記形態の接合基板の製造方法の発明において、前記加圧の際に、所定の温度に加熱をすることを特徴とする。
【0033】
他の形態の接合基板の製造方法の発明は、前記形態の接合基板の製造方法の発明において、前記水晶基板が、水熱合成法で結晶成長させ、任意の方向に切り出したものであることを特徴とする。
【0034】
他の形態の接合基板の製造方法の発明は、前記形態の接合基板の製造方法の発明において、前記水晶基板と圧電基板の接合面の一方または両方にアモルファス層を介在させておくことを特徴とする。
【0035】
他の形態の接合基板の製造方法の発明は、前記形態の接合基板の製造方法の発明において、前記アモルファス層は、薄膜形成方法によって付着させたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
すなわち、本発明によれば、周波数温度特性と電気機械結合係数に優れた特性を有する弾性表面波素子が得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の一実施形態の接合基板の接合状態を示す概略図である。
【
図2】同じく接合基板および弾性表面波素子を示す概略図である。
【
図3】他の実施形態における、接合基板および弾性表面波素子を示す概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態における接合基板の製造に用いられる接合処理装置を示す概略図である。
【
図5】同じく、水晶基板と圧電基板の接合形態を説明する図である。
【
図6】同じく、弾性表面波デバイスを示す概略図である。
【
図7】同じく、LN/AT90°X−QuartzのLSAWにおける圧電基板厚さに対する位相速度、伝搬減衰、TCFとK
2の関係を示すグラフである。
【
図8】同じく、LT/AT90°X−QuartzのLSAWにおける圧電基板厚さに対する位相速度、伝搬減衰、TCFとK
2の関係を示すグラフである。
【
図9】同じく、36°YX−LT/AT90°X−QuartzのLSAWの粒子変位分布を示すグラフである。
【
図10】同じく、FEM解析による36°YX−LT/AT90°X−Quartz上のLSAW共振特性(無限周期構造)を示すグラフである。
【
図11】同じく、交差角度と位相速度との関係を示す図である。
【
図12】同じく、交差角度と位相速度との関係および交差角度と電気機械結合係数との関係を示す図である。
【
図13】同じく、交差角度とTCFとの関係および交差角度と電気機械結合係数との関係を示すグラフである。
【
図14】同じく、圧電基板の厚さとTCFおよび電気機械結合係数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明の一実施形態の接合基板および弾性表面波素子について添付図面に基づいて説明する。
接合基板5は、水晶基板2と圧電基板3とが、接合界面4を介して共有結合によって接合されている。
水晶基板2は、好適には150〜500μmの厚さを有し、圧電基板3は、好適には弾性表面波の波長に対し、0.05〜1.0波長に相当する厚さを有している。なお、本発明としては、圧電基板の厚さは、弾性表面波の波長に対し、0.05〜0.8波長がさらに望ましく、さらに0.05〜0.25波長が一層望ましい。
水晶基板2は、例えば、水熱合成法で結晶成長させ、任意の方向に切り出したものを用いることができる。圧電基板3には、適宜の材料を用いることができるが、例えば、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムにより構成することができる。特に、面方位が36°Yカット、X伝搬のタンタル酸リチウム、または41°Yカット、X伝搬のニオブ酸リチウムを用いることができる。
【0039】
ただし、
図1に示すように接合に際しては、水晶基板2の方位2Dと、圧電基板3の方位3Dとが面方向において直角方向側に交差する状態にして接合する。直角方向側に交差するとは、両者の交差角が45度を超える角度を有していることを意味する。好適には、65度〜115度が望ましい。この交差角度を有することで両者が接合された接合基板では、優れた周波数温度特性と電気機械結合係数を有している。上記角度範囲を外れると、これらの両特性において満足した結果が得られない。上記交差角を有する接合基板では、TCFにおいて−20〜+5ppm/℃、電気機械結合係数K
2において5%以上の特性が得られる。
接合基板5には、
図2に示すように、櫛形電極10を設けることで弾性表面波素子1が得られる。なお、本発明では、方位は面方位を示している。この実施形態では、方位は、LTでは36°Yカット面のX方向、LNでは41°Yカット面のX方向を示し、水晶基板ではATまたはSTカット面のX方向を示す。
【0040】
また、水晶基板2と圧電基板3との間には、
図3に示すように、アモルファス層6を介在させた弾性表面波素子1Aとすることができる。なお、上記実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態においても、水晶基板2と、圧電基板3とは、水晶基板2の方位と、圧電基板3の方位とが面方向において直角方向側に交差する状態にして接合されている。
この実施形態で、アモルファス層6を介在させる場合、アモルファス層6と水晶基板2との間に接合界面が存在し、アモルファス層6の他面側でアモルファス層6と圧電基板3との間に接合界面が存在する。アモルファス層6の材質は本発明としては特に限定されないが、SiO
2やAl
2O
3などを用いることができる。また、アモルファス層の厚さは、100nm以下とするのが望ましい。
なお、アモルファス層6の形成では、水晶基板2または圧電基板3の表面に薄膜を形成するようにしてアモルファス層6を形成する。また、水晶基板2表面と圧電基板3表面の双方にアモルファス層を形成するものとしてもよい。
アモルファス層は、既知の方法により形成することができ、化学的蒸着や、スパッタリング等の物理的蒸着を利用することができる。
【0041】
次に、接合基板および弾性表面波素子の製造について
図4を参照して説明する。
所定材料の水晶基板と圧電素子を用意する。なお、接合面にアモルファス層を形成する場合は、形成の対象とする水晶基板と圧電素子の一方または両方に対し、接合面側に成膜処理を行う。成膜処理の方法としては特に限定されるものではなく、真空蒸着法、スパッタ法などの薄膜形成技術を用いることができる。例えば、Electron Cyclotron Resonanceプラズマ成膜にて接合面に100nm以下のアモルファス層を形成することができる。このアモルファス膜は膜密度が非常に高く形成できることから接合表面の活性化度合いが大であり、より多くのOH基が発生する。
【0042】
用意された水晶基板2と圧電基板3とは、密閉構造の処理装置20内に設置する。図では、水晶基板2のみを記載している。
処理装置20では、真空ポンプ21が接続され、処理装置20内を例えば10Pa以下に減圧する。処理装置20内には、放電ガスを導入し、処理装置20内で放電装置22によって放電を行って紫外線を発生させる。放電は、高周波電圧を印加する方法を使用するなどにより行うことができる。
水晶基板2と圧電基板3とは、紫外線が照射可能な状態で設置しており、接合面に紫外線を照射して活性化を図る。なお、水晶基板2と圧電基板3の一方または両方にアモルファス層が形成されている場合は、アモルファス層の表面を接合面として紫外線照射を行う。
【0043】
紫外線照射を行った、水晶基板2と圧電基板3とは、水晶基板2の方位と、圧電基板3の方位とが面方向において直角方向側に交差する状態にして接合面を接触させ、常温または200℃以内温度に加熱し、両者間に圧力を加えて接合を行う。圧力としては10Paを付加することができ、処理時間は5分〜4時間程度とすることができる。ただし、本発明としては圧力や処理時間が特に限定されるものではない。
上記処理によって、水晶基板2と圧電基板3とは接合界面において確実に共有結合で結合され、互いの方位が直角方向側に交差する状態で接合されている。
【0044】
図5は、水晶基板2と圧電基板3における接合面の状態を示すものである。
A図は、紫外線照射により接合面が活性化してOH基が表面に形成された状態を示している。B図は、基板同士を接触させ、加圧・昇温をして接合を行っている状態を示している。接合に際しては、OH基が作用して基板同士が共有結合される。余分なH
2Oは加熱時に外部に排除される。
【0045】
上記工程により接合基板が得られる。接合基板に対しては、圧電基板3の主面上に、
図1に示すように櫛形電極10をパターン形成する。櫛形電極10の形成方法は特に限定されず、適宜の方法を用いることができる。また、櫛形電極10の形状も適宜の形状を採択することができる。上記工程により弾性表面波素子1が得られる。弾性波の伝搬方向は、圧電基板3の方位に沿ったものとする。
弾性表面波素子1は、
図6に示すようにパッケージング31内に設置して図示しない電極に接続し、蓋32で封止して弾性表面波デバイス30として提供することができる。
【実施例1】
【0046】
以下に、本発明の実施例について説明する。
上記実施形態に基づいて接合基板が得られ、圧電基板の主面上にはLSAWの伝搬方向がX方向となるようにSAW共振器を設けた。
この例では、圧電基板として面方位が36°YカットX伝搬タンタル酸リチウムおよび41°YカットX伝搬ニオブ酸リチウムを用いた。また、水晶基板は水熱合成法で、結晶育成されたものについて厚み250μm、AT−Cut方向またはST−Cut方向に切り出したものを用いた。
接合したサンプルについて研磨にてタンタル酸リチウム側を薄くした。
得られた接合基板について、引張試験(ウェハ面に対し垂直に引張る)の方法によって接合強度の測定を行った。その結果、5MPa以上(単位面積で換算)の接合強度が得られていることが判明し、更にバルク破壊を生ずる優れた接合強度が得られていた。
【0047】
水晶基板と圧電基板とを接合した後に、圧電基板を薄くした供試材について、LSAWの位相速度と電気機械結合係数、周波数温度特性について計算した。なお、計算に際しては、日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会・編「弾性波デバイス技術」に記載されているKushibikiらの水晶定数(p.83)、Kushibikiらのニオブ酸リチウム(以下LNとする)定数、タンタル酸リチウム(以下LTとする)定数(p.377)を用いた。
伝搬減衰をもつLSAWの解析はYamanouchiらの方法に基づき、層構造に対する解析はFarnellとAdlerの方法を用いた。これらの解析では、弾性波動方程式と電荷保存式を境界条件の下で数値的に解くことにより、層構造上を伝搬するLSAWの位相速度と伝搬減衰を解析している。
自由表面(Free)の位相速度vfと、薄板の表面を電気的に短絡した場合(Metallized)の位相速度v
mを求め、K
2=2×(v
f−v
m)/v
fよりK
2を求めた.また、伝搬方向の線膨張係数を水晶支持基板のものと仮定し、短絡表面の周波数温度係数(Temperature Coefficient of Frequency: TCF)を計算した。
【0048】
水晶は異方性が大きいため、接合時の伝搬特性は水晶の伝搬方向に大きく依存すると考えられる。AT−カット水晶上のX軸からの伝搬角に対するLSAWの位相速度を計算した結果、LSAWでは0°X伝搬、および90°X伝搬において最も高速であることがわかった。これらの伝搬方位において、LN/LT単体と最大の位相速度差を有するため、粒子変位の集中効果が期待できる。
図7と
図8に、上記解析によって得られた、41°YX−LN薄板と36°YX−LT薄板をATカット90°X−水晶(90度の交差角度、以降同じ)と接合した場合のLSAWの(a)位相速度、(b)伝搬減衰、(c)TCFとK
2の計算値をそれぞれ示した。横軸は、波長λで規格化したLN、LT薄板の板厚h/λである。いずれの場合においても、板厚の増加に従って、水晶単体の位相速度から、LN/LT単体の位相速度に漸近することがわかる。K
2計算値に注目すると、いずれの場合においても単体の値よりも大きなK
2が得られる板厚が存在している。本願発明では、板厚の好適な範囲として弾性表面波の波長に対し、0.05〜1.0波長に相当する厚さを有しているものとしており、この範囲においては、LT・LN単体のTCFよりも良好な値を示している。また、K
2はLN単体に対しh/λが0.08以上、LT単体に対しh/λが0.04以上で上回っており、これらを考慮すると、板厚h/λを0.05〜0.8とするのが一層望ましい。
【0049】
41°YX−LN薄板の場合では、板厚h/λが0.19において単体の1.5倍(23.9%)のK
2を示し、その板厚の伝搬減衰は0.002dB/λ以下、短絡表面のTCFは−55ppm/℃と計算された。一方、36°YX−LT薄板の場合では、板厚h/λが0.17において、零のTCFと11.9%のK
2(単体の2.3倍)を同時に示した。その板厚の伝搬減衰は0.0002dB/λ以下であり、高安定、高結合、低損失な基板構造が得られることがわかった。
以上のような高結合化の要因を検討するために、LSAWの深さ方向に対する粒子変位分布を計算した。計算では上記解析を用いた。36°YX−LT/AT90°X−Quartz上のLSAWについて、短絡表面におけるSH成分(u
2)の変位分布を
図9に示す。変位は表面の値で規格化してある。接合構造の変位分布は、LT単体のものと比較して表面付近に集中すること、規格化板厚が薄いほど集中効果が高いことがわかった。
【0050】
次に、有限要素法(Finite Element Method:FEM)を用いて、LT/水晶接合構造上に形成したIDT型共振子(λ=8.0μm、交叉幅W=25λ)のLSAWの共振特性を解析した。解析ソフトウェアとしてFemtet(ムラタソフトウェア株式会社製)を用いた。解析モデルとして、支持基板の板厚を10λとし、1周期分のIDTの両側に周期境界条件(無限周期構造)を、底面に完全整合層をそれぞれ仮定した。
図10に、36°YX−LT/AT90°X−Quartz構造上のLSAWの解析例を示す。LT板厚は0.15λ、電極Al膜厚は0.09λである。接合構造では126dBのアドミタンス比が得られ、LT単体の72dBよりも格段に向上した。共振QはLT単体の1350から12050に一桁増大した。比帯域幅もLT単体の4.4%から5.7%に増加した。
【0051】
次に、41°YX−LNまたは36°YX−LTとATカット水晶基板の方位のずれによる位相速度の変化を段落0047に記載した前記解析により求め、
図11に示した。
図11から明らかなように、位相速度はATカット水晶基板とLNまたはLTの交差角度が0度と90度で最大になり、その角度を離れるに従って位相速度が小さくなっている。
次に、h/λが0.15の36°YX−LTと、STカット水晶基板との接合基板において、接合における方位角度差を変化させた場合の位相速度と電気機械結合係数の変化を上記解析によって算出し、
図12に示した。それぞれ方位交差角度が0度または90度で最大の数値を示しているが、5%以上の電気機械結合係数K
2を得るためには、30度以内または65度〜115度の交差角度が望ましいことが分かる。なお、5%の電気機械結合係数は、LT単体で得られるK
2であり、圧電基板と水晶を複合させるメリットとしては、電気機械結合係数が5%以上であることである。
【0052】
次に、36°YX−LTとATカット水晶基板とを交差角度0度で接合したものと、交差角度90度で結合したものについて、TCFと電気機械結合係数とを上記解析により算出し、その結果を
図13に示した。
図13の右図から明らかなように、交差角度が0度、90度の接合基板では、適切な厚さにおいていずれも高い電気機械結合係数を有している。圧電基板の厚さh/λについては、TCFが0°より上回る範囲として0.05〜0.25が挙げられる。
一方、TCFに関しては、交差角度が90度の接合基板では、厚さを適切に定めることで、TCFが0ppm/℃となる結果が得られるが、交差角度が0度のものでは、TCFが最も小さくなる場合でも−10ppm/℃程度であり、周波数温度特性において交差角度が90度のものよりも明らかに劣っている。したがって、TCF、電気機械結合係数の両方において優れた特性を得るためには、水晶基板と圧電基板とが接合面方向において直交する方向側で交差していることが必要である。
【0053】
交差角度が90度の結合基板において、TCFと電気機械結合係数をまとめて
図14に示した。この図から分かるように、より良好なTCFと電気機械結合係数を得るためには、圧電基板のh/λを適正に定めるのが望ましいことが分かる。この図の場合では、h/λは0.05〜1.0の範囲とすることで、周波数温度特性、結合特性の両方においてより望ましい結果が得られている。
【0054】
以上、本発明について、上記実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、本発明の範囲は上記説明の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは、上記実施形態および実施例について適宜の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、SAW共振器、SAWフィルタ、高機能圧電センサ、BAWデバイスなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 弾性表面波素子
1A 弾性表面波素子
2 水晶基板
2D 水晶基板方位
3 圧電基板
3D 圧電基板方位
4 接合界面
5 接合基板
10 櫛形電極
20 処理装置
30 弾性表面波デバイス