【文献】
「むぎ焼酎 焼酎百景」発売(合同酒精), 日経テレコン, [online], 日本食糧新聞,2009年3月25日,p.11, [Retrieved on 11-03-2021], Retrieved from the internet: <URL: http://t21.nikkei.co.jp>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る混和麦焼酎は、乙類麦焼酎、甲類焼酎、及びピラジン類を含有する。本実施形態によれば、ピラジン類を含有することにより、混和麦焼酎に特有の刺激臭を低減し、まろやかな味わいにすることができる。
【0010】
1:乙類麦焼酎及び甲類焼酎
乙類麦焼酎とは、麦を含む原料を用いた乙類焼酎である。乙類焼酎とは、単式蒸留によって得られる焼酎である。乙類焼酎は、減圧蒸留により得られた焼酎であってもよく、常圧蒸留により得られた焼酎であってもよく、これらを混合した焼酎であってもよい。
【0011】
甲類焼酎とは、連続式蒸留によって得られる焼酎である。甲類焼酎の原料は特に限定されず、例えば、とうもろこし、糖蜜、麦などを用いることができる。
【0012】
混和麦焼酎において、乙類麦焼酎の混和比率は、5%以上50%未満であることが好ましい。すなわち、混和麦焼酎は、甲乙混和麦焼酎であることが好ましい。このような混和比率を有する混和麦焼酎は、すっきりとした味わいを有するものの、刺激臭(辛さ)が目立ちやすい。これに対して、本実施形態によれば、ピラジン類を含有するため、刺激臭を低減させることができる。刺激臭を目立たせることなく、すっきりとした味わいを有する焼酎を得ることができる。さらに、ピラジン類を含有することで、すっきりとした味わいを有しながらも、まろやかな味わいを有する焼酎を得ることができる。
より好ましくは、乙類麦焼酎の混和比率は、10〜44%であり、更に好ましくは、13〜37%である。
【0013】
尚、混和比率とは、エタノール度数を考慮に入れた値である。具体的には、対象となる焼酎の混和比率は、「全ての焼酎由来のエタノールの合計含有量(L)」に対する「対象焼酎由来のエタノール(エタノール)含有量(L)」の割合(%)である(1%未満の端数は四捨五入)。
例えば、エタノール濃度25%の乙類麦焼酎0.2Lと、エタノール濃度20%の甲類焼酎0.8Lとを混和して混和麦焼酎を得た場合、乙類麦焼酎の混和比率は、下記式2により、24%となる。
(数式2):「乙類麦焼酎の混和比率」=0.2L×0.25/(0.2L×0.25+0.8L×0.2)×100=24(%)
【0014】
2:ピラジン類
ピラジン類とは、ピラジン環構造を有する飲用可能な物質である。好ましくは、混和麦焼酎は、2,3,5−トリメチルピラジン、3−エチル−2,5−ジメチルピラジン、3−エチル−2,6−ジメチルピラジン,2−メチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、2−エチル−3−メチルピラジン、2−エチル−3,5ジメチルピラジン、及び2−エチル−3,6ジメチルピラジンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。
より好ましくは、ピラジン類は、2,3,5−トリメチルピラジン、3−エチル−2,5−ジメチルピラジン、及び3−エチル−2,6ジメチルピラジンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。
【0015】
更に好ましくは、混和麦焼酎は、2,3,5−トリメチルピラジンを含む。混和麦焼酎中の2,3,5−トリメチルピラジンの含有量は、エタノール濃度25v/v%換算で、0.01ppb以上であることが好ましく、0.05ppb以上であることがより好ましく、0.1ppb以上であることが更に好ましい。また、2,3,5−トリメチルピラジンの含有量は、エタノール濃度25v/v%換算で、25ppb以下であることが好ましく、10ppb以下であることがより好ましく、5.0ppb以下であることが更に好ましく、2.0ppb未満であることが特に好ましく、1.0ppb以下であることが最も好ましい。
【0016】
尚、「エタノール濃度25v/v%換算の含有量」とは、混和麦焼酎をエタノール濃度が25v/v%になるように希釈又は濃縮した場合の、対象成分の含有量を示す。例えば、エタノール濃度が20v/v%である混和麦焼酎に1ppbの成分Aが含まれていた場合、エタノール濃度25v/v%換算の成分Aの含有量は、下記式1により、1.25ppbとなる。
(数式1):「エタノール濃度25v/v%換算の成分Aの含有量」=1(ppb)×25/20=1.25(ppb)
【0017】
一態様において、ピラジン類は、焙煎焼酎由来とすることができる。焙煎焼酎とは、焙煎した原料を一部に使用した乙類焼酎である。焼酎の原料となる穀物等を焙煎することにより、ピラジン類が生成する。ピラジン類を含有する原料を使用することにより、ピラジン類を含有する乙類焼酎を得ることができる。この乙類焼酎を使用することにより、混和麦焼酎中にピラジン類を含有させることができる。
好ましくは、焙煎焼酎は、焙煎した麦を使用した焙煎麦焼酎である。この場合、ピラジン類は、乙類麦焼酎の一部に由来することになる。
また、焙煎焼酎を使用する場合、焙煎焼酎の混和比率は、例えば0.1%以上、好ましくは0.3%以上、より好ましくは1.2%以上であり、例えば10%以下、好ましくは6.0%以下、より好ましくは3.0%以下である。
【0018】
3:製造方法
本実施形態に係る混和麦焼酎の製造方法は、乙類麦焼酎を調製する工程(工程1)と、甲類焼酎を調製する工程(工程2)と、乙類麦焼酎を甲類焼酎と混和する工程(工程3)とを有する。以下、各工程について説明する。
【0019】
工程1:乙類麦焼酎の調製
乙類麦焼酎の調製方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、以下に説明する方法により、乙類麦焼酎を調製することができる。
まず、麹、酵母、及び水を混合し、所定の期間発酵させ、一次醪を得る。麹としては、例えば、米麹及び麦麹などを用いることができる。
次いで、一次醪に対して、麦を含む主原料、及び必要に応じて水を加え、所定期間発酵させる。これにより、二次醪が得られる。
得られた二次醪を、単式蒸留機を用いて蒸留する。この際、蒸留法としては、減圧蒸留法を用いてもよく、常圧蒸留法を用いてもよい。これにより、乙類麦焼酎の原酒が得られる。
得られた原酒は、必要に応じて、加水および熟成され、乙類麦焼酎が得られる。
【0020】
また、乙類麦焼酎の一部として、ピラジン類を含有する焙煎焼酎を調製する。焙煎焼酎は、例えば、焙煎した穀物又は麹、好ましくは焙煎した麦を原料として用いる他は、上記の乙類麦焼酎と同様の方法により、調製することができる。
【0021】
工程2:甲類焼酎の調製
甲類焼酎の調製方法も特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、以下に説明する方法により、甲類焼酎を調製することができる。
まず、糖蜜、酵母、及び水を混合し、所定の期間発酵させ、醪を得る。
得られた醪を、連続式蒸留機を用いて蒸留する。これにより、甲類焼酎の原酒が得られる。
得られた原酒は、必要に応じて、加水および熟成され、甲類焼酎が得られる。
【0022】
工程3:乙類麦焼酎を甲類焼酎との混和
続いて、調製した乙類麦焼酎(焙煎焼酎を含む)と甲類焼酎とを混和する。
これにより、混和麦焼酎を得ることができる。
【0023】
4:混和麦焼酎用刺激臭低減剤
上記の知見を活かして、ピラジン類を含有する材料を、混和麦焼酎用刺激臭低減剤としても使用することができる。
【0024】
[実施例]
(実験例1)
甲乙混和麦焼酎である市販品A(乙類麦焼酎の混和比率=34%、エタノール濃度25v/v%)を、対照1として準備した。
尚、市販品Aにピラジン類は含まれていなかった。
【0025】
一方で、ピラジン類(2,3,5−トリメチルピラジン及び3−エチル−2,5−ジメチルピラジン)を含有する焙煎焼酎の原酒(エタノール濃度25v/v%)を調製した。
具体的には、原料として、麦焼酎に通常使用される大麦を用い、この大麦を未精白の状態で熱風式焙煎機に投入し、大麦の品温が40分程度で135℃以上になるように加熱して、約70分後200℃になるように焙煎した。その後、約220℃まで昇温して、約10分間焙煎して焙煎大麦を得た。
得られた焙煎大麦を掛け原料の一部として使用し、焙煎焼酎を製造した。
具体的には、まず、大麦麹600g、汲み水700ml、及び焼酎用鹿児島酵母1mlを原料として使用し、約25℃の雰囲気で約5日間、一次発酵を行い、一次醪を得た。
次に、一次醪を二次醗酵の原料として用い、これに蒸麦1600g、焙煎大麦400g、及び汲み水3000mlを添加し、約28℃の雰囲気下、約10日間、二次発酵を行い、二次醪を得た。
次いで、二次醪を、減圧蒸留法にて蒸留し、得られた蒸留液を純水により、エタノール濃度25v/v%に調製することで焙煎焼酎の原酒を得た。
【0026】
市販品Aに、調製した焙煎焼酎の原酒を添加し、焙煎焼酎の添加量が異なる試験例1乃至4に係る混和麦焼酎を得た。
【0027】
得られた試験例1乃至4に係る混和麦焼酎中のピラジン類(2,3,5−トリメチルピラジン及び3−エチル−2,5−ジメチルピラジン)の濃度を測定した。
また、得られた混和麦焼酎(原液、常温)について、戻り香で強く感じられるピリピリとした刺激感、および、味覚として感じる刺激が減ったことを意味するまろやかさについて、5名の専門パネルによる官能評価を行った。刺激感については、下記の3段階により、対照1に比べて刺激感が増しているか否かを評価した。
〇:対照と比べて刺激感が抑えられた。
△:対照と刺激感が同等であった。
×:対照と刺激感が増加した。
まろやかさについては、下記の3段階により、対照1に比べてまろやかさが増しているか否かを評価した。
〇:対照と比べてまろやかさが増強した。
△:対照とまろやかさが同等であった。
×:対照とまろやかさが低下した。
【0028】
試験例1乃至4におけるピラジン類の濃度、及び官能評価結果を、表1に示す。
表1に示されるように、ピラジン類を含有する焙煎焼酎の原酒を添加することにより、刺激感が抑制された。特に、焙煎焼酎の混和比率が1.2%以上(2,3,5−トリメチルピラジン濃度が0.20ppb以上)である試験例2乃至4においては、過半数の専門パネルが、刺激感が抑えられ、まろやかさが増していると評価していた。
【0029】
(実験例2)
A:乙類麦焼酎の製造
蒸麦1kg当たり白麹菌Aspergillus kawachii 1gを接種して混合し、製麹装置にて麦麹を製造した。得られた麦麹から600gを秤量し、汲み水700mlと焼酎用鹿児島酵母1mlを混和・発酵させることで、一次醪を製造した。次に、一次醪を二次醗酵の原料として用い、これに蒸麦を2000g、汲み水3000mlを混合・発酵させることで二次醪を製造した。得られた二次醪を単式蒸留し、得られた蒸留液を純水により、エタノール濃度25v/v%に調製することで乙類麦焼酎を得た。
【0030】
B:甲乙混和麦焼酎の製造
表2に示されるように、市販の甲類焼酎(エタノール濃度25v/v%)85mLと、上記で製造した焙煎原酒を含む乙類麦焼酎15mLを混合し、エタノール濃度が25v/v%である混和麦焼酎を得た。焙煎焼酎の原酒を含まない混和麦焼酎を対照2とし、焙煎焼酎の原酒を含むものを試験例5乃至8とした。
【0031】
試験例5乃至8に係る焼酎について、ピラジン類の濃度を測定した。
また、対照2を基準として、刺激感およびまろやかさについての官能評価を行った。
【0032】
実験例2の結果を表2に示す。
表2に示されるように、乙類麦焼酎の混和比率が15%程度である混和麦焼酎においても、ピラジン類を含有する焙煎焼酎の原酒を添加することにより、刺激感が抑制され、まろやかさが増すことが判った。また、焙煎焼酎の混和比率が1.2%以上(2,3,5−トリメチルピラジン濃度が0.20ppb以上)である試験例6乃至8においては、過半数の専門パネルが、刺激感が抑えられ、まろやかさが増していると評価していた。
【0033】
(実験例3)
実験例1で使用した市販品Aを対照3として準備した。対照3に対して、2,3,5−トリメチルピラジンを添加し、2,3,5−トリメチルピラジンの濃度が異なる試験例9乃至14に係る混和麦焼酎を得た。
得られた混和麦焼酎について、対照3を基準として、刺激感についての官能評価を行った。
【0034】
実験例3の結果を表3に示す。
表3に示されるように、2,3,5−トリメチルピラジンを添加することにより、刺激感が抑えられ、まろやかさが増強されることが判った。
特に、2,3,5−トリメチルピラジン濃度が0.1ppb以上である試験例10乃至14においては、過半数の専門パネルが、刺激感が抑えられ、まろやかさが増していると評価していた。2,3,5−トリメチルピラジン濃度が0.2〜5.0ppbの範囲にある試験例11乃至13では、刺激感の低減効果およびまろやかさの増強効果がより強く確認された。
一方、2,3,5−トリメチルピラジン濃度が25ppbである試験例14では、香ばしいというコメントや焦げ・苦味がするとのコメントが得られた。一方、試験例9〜13ではそのようなコメントは得られなかった。すなわち、2,3,5−トリメチルピラジンが10ppb以下である場合には、焦げ・苦味等の香味の点に関する負の影響もないことが確認された。ピラジン類は香ばしい香りを有することが知られているが、実験例3の結果から、ピラジン類は、香ばしさとは別に、刺激感を抑制し、さらに味覚においてもまろやかさを増強するという新たな効果を有することが見出された。
【0035】
(実験例4)
市販品A(実験例1参照)及び試作品A(実験例2の対照2)に加えて、市販品B乃至Gに係る焼酎を準備した。市販品B及びCは、混和麦焼酎である。一方、市販品Dは、混和芋焼酎である。市販品Eは、本格芋焼酎(乙類芋焼酎)である。市販品Fは、本格麦焼酎(乙類麦焼酎)である。市販品Gは、甲類焼酎である。尚、市販品A乃至G及び試作品Aは、いずれも、エタノール濃度が25v/v%であった。また、2,3,5−トリメチルピラジンの濃度を測定したところ、2,3,5−トリメチルピラジンは含まれていなかった。
準備した市販品A乃至G及び試作品Aのそれぞれについて、2,3,5−トリメチルピラジンを1ppb添加し、試験例15乃至22に係る焼酎を得た。そして、それぞれ、添加前の液を対照として官能評価を行い、刺激感が低減されるか否かおよびまろやかさが増強されるか否かを評価した。
【0036】
結果を表4に示す。
表4に示されるように、混和麦焼酎である市販品A乃至C及び試作品Aについては、2,3,5−トリメチルピラジン添加による刺激感低減効果およびまろやかさ増強効果が確認された。しかしながら、芋焼酎である市販品D及びEについては、2,3,5−トリメチルピラジン添加による刺激感低減効果およびまろやかさ増強効果のいずれも確認できなかった。また、混和焼酎ではない市販品F及びGにおいても、2,3,5−トリメチルピラジン添加による刺激感低減効果およびまろやかさ増強効果のいずれも確認されなかった。
すなわち、2,3,5−トリメチルピラジン添加による刺激感低減効果およびまろやかさ増強効果は、混和麦焼酎に対して特別に得られる効果であることが理解される。
【0037】
(実験例5)
市販品Aを対照5として準備した。市販品Aに対して、3−エチル−2,5−ジメチルピラジンおよび3−エチル−2,6−ジメチルピラジンを、合計5.0ppbの添加量で添加し、試験例23に係る混和麦焼酎を得た。得られた試験例23について、対照5を基準として官能評価を行い、刺激感の低減効果およびまろやかさ増強効果を確認した。
【0038】
結果を表5に示す。
表5に示されるように、試験例23では、過半数の専門パネルが、刺激感が抑制され、まろやかさが増したと評価しており、3−エチル−2,5−ジメチルピラジンおよび3−エチル−2,6−ジメチルピラジンを用いた場合であっても、刺激感低減効果およびまろやかさ増強効果が得られることが確認された。
【0039】
(定量方法)
尚、実験例1、2、及び4においては、以下の方法によってピラジン類の濃度を測定した。
(1)前処理
試料を20mlずつ秤取し、内部標準液(0.5ppm 2-メチル-3-プロピルピラジン、1.2ppm C13-2-アセチル-1-ピロリン)を50μl添加後に、検量線用混合標準液(1ppm 2,3,5-トリメチルピラジン、1ppm 3-エチル-2,5-ジメチルピラジン)をそれぞれ0、50、100、200μl添加した。コンディショニングした強アニオン交換カラム(2g/12ml)に20mLの試料をチャージし、素通り画分および超純水による洗浄画分(10ml)を回収した。得られた画分は、1Mクエン酸バッファー及び1N 塩酸によりpH5に調整した。
(2)抽出
得られた画分に塩化ナトリウム 5g及びジクロロメタン5mlを加え、200rpm、10分間の撹拌抽出を行った。遠心分離(3000rpm、10分間)により下層(ジクロロメタン)を採取し、残った上層に同様の抽出操作をさらに2回行った。得られた下層は遠心分離(3000rpm、10分間)し、上層の水層をパスツールピペットで除去した。その後、5gの無水硫酸ナトリウムを加えて30分以上脱水し、別容器に移して窒素パージにより100μl程度まで濃縮した。濃縮液はGC−MS分析を行い、内部標準法により成分の定量を行った。
【0040】
(定量条件)
・GC/MS:GC−7890,MS−5973
・カラム:DB−17(30m×0.25mmI.D.×0.5μmF.T.)
・オーブン昇温条件(RunTime:51min):40℃(5min)→5℃/min→220℃(0min)→10℃/min→280℃(5min)
・注入口温度:230℃
・注入条件:PulsedSplitless(23.2psi;2min、1.5min後パージ)
・流量:Constant Flowモード 1.0ml/min
・トランスファライン温度:250℃
・SIMモード:2,3,5-トリメチルピラジン(m/z 122)、3-エチル-2,5-ジメチルピラジン(m/z 135)
【0041】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】