(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2の回転砥石は、内周から外周にかけて砥粒の含有率又は密度が変化するが、内周と外周とで構成する材料は同じである。同一材料を用いる場合は、砥粒の含有率又は密度を最大限に増加させても研削能力に限界があり、回転砥石の最外周における研削能力が不十分な場合があることが考えられる。研削能力の高い砥粒の含有量を多くしすぎることによって製造にかかるコストが高くなることも危惧される。
【0007】
また、内周から外周にかけて砥粒の量を漸増させるものでは、内周側で砥粒の量が少なくなるので、内周側の研削能力が低くなる。
【0008】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、研削能力が極めて高く、しかも製造コストを低くした回転砥石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、軸方向にオフセットされたオフセット基部を有する環状の回転砥石において、前記回転砥石における前記オフセット基部のオフセット方向とは反対側の面において、前記回転砥石の外周に沿って環状に拡がった外周研削部であって、その環の外径と内径との差が前記回転砥石の半径に対して0.2以上で且つ0.6以下である外周研削部と、前記外周研削部に続いてその内周側おいて環状に拡がった内周研削部と、を設け、被研削物の研削量を研削物の摩耗量で割った比を研削比としたとき、前記外周研削部に用いるA材料の研削比を前記内周研削部に用いるB材料の研削比よりも大きくした。
【0010】
本発明に係る回転砥石では、研削に主として用いられる外周研削部に、研削能力の高いA材料を用い、その外周研削部の環の幅を、回転砥石の半径に対して0.2以上としたことから、A材料の高い研削能力を発揮できる。また、外周研削部の環の幅を回転砥石の半径に対して0.6以下としたことから、研削能力の高いA材料を必要な領域にのみに用い、製造コストを低くすることができる。また、内周研削部にB材料を用い所定の研削能力を確保することができる。
【0011】
一実施形態では、前記内周研削部は、前記外周研削部に続いてその内周側において環状に拡がった第1内周部であって、前記A材料と前記B材料との混合材料が用いられている第1内周部と、前記第1内周部に続いてその内周側において環状に拡がった第2内周部であって、前記B材料のみが用いられる第2内周部とを設けた。
【0012】
これによれば、前記内周研削部の外周に近い第1内周部で、A材料とB材料との混合材料を用いることから、A材料とB材料とで研削能力に差が大きい場合にも外周研削部と内周研削部との境界において研削能力が急変することを避けることが出来る。
【0013】
一実施形態では、前記A材料の研削比を20以上且つ25以下とし、前記B材料の研削比を5以上且つ10以下とした。また、前記第1内周部は、外周側から内周側に向かって前記混合材料におけるA材料の含有率を漸次的に小さくするのが好ましい。
【0014】
一実施形態では、前記回転砥石を使用した際における、被研削物の研削量を前記回転砥石の摩耗量で割った比を20以上とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、使用頻度の高い外周研削部に研削能力の高い材料を使用し、研削能力が極めて高く、しかも製造コストを低くした回転砥石を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0018】
<回転砥石の構成>
図1及び
図2は本発明の実施形態に係る回転砥石10を示す。
【0019】
回転砥石10は、中心部分が軸方向にオフセットされた半径Rの環状に形成されており、中心部分がオフセットされた環状の基板20と、基板20上に補強用のガラスクロス30を介して設けられた研削層40とを備える。また、必要に応じて回転砥石10を支持するためにパッド50を用いてもよい。
【0020】
基板20は中心に孔が形成された円盤状に形成され、中心の孔周辺には軸心方向にオフセットされたオフセット基部11が形成されている。基板20の中心の孔は、グラインダの回転軸を取り付けるための取付孔21であり、取付孔21は芯金22で補強されている。
【0021】
基板20の材料は多数の砥粒、砥粒を結合する結合剤としての熱硬化性樹脂、及び無機充填剤からなる。基板20の砥粒の好ましい例としては、アランダム砥粒、アルミナ砥粒、炭化ケイ素砥粒等があげられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。無機充填材としては、硫化鉄、硫酸カリウム、クリオライト、酸化カルシウム、塩化カリウム等をあげることができる。
【0022】
基板20に形成されたオフセット基部11のオフセット方向とは反対側の面には、ガラス繊維からなる格子状のガラスクロス30が設けられている。ガラスクロス30は、回転砥石10のオフセット基部11を除いた基板20表面全体を覆うように環状に形成されている。
【0023】
基板20のガラスクロス30の上には、ガラスクロス30が覆っている範囲を全面に亘って環状に覆うように研削層40が設けられている。
【0024】
研削層40の表面には、必要に応じて、格子状の溝41が形成されている。回転砥石10で被研削物を研削する際には、回転砥石10の面を被研削物の当接面に対して傾けて押しつけるが、このとき回転砥石10は溝41に沿って屈曲することにより撓む構成になっている。
【0025】
研削層40の材料は下記で明らかになるように、基板20の材料と同様に多数の砥粒、砥粒を結合するための結合剤である熱硬化性樹脂、及び無機充填剤からなる。
【0026】
研削層40は、その外周に沿って幅w
outで環状に拡がった外周研削部42と、外周研削部42に続いてその内周側に幅w
inで環状に拡がった内周研削部43とに分かれている。なお、内周研削部43の内周よりも更に内周はオフセット基部11となっており、研削には用いられない。
【0027】
内周研削部43を構成する材料には、例えば、アランダム砥粒、ホワイトアランダム砥粒、ガーネット、骨材等を用い、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂、エポキシ樹脂等を用い、無機充填材料としてクリオライト等を用い、これらを混合したB材料45が用いられる。このようなB材料45は、回転砥石10の研削層40全体に用いたとき、被研削物の研削量を回転砥石10の摩耗量で割った研削比が5〜10となる。
【0028】
外周研削部42を構成する材料には、B材料45に比べ、研削力が大きい砥粒を用いる。そのような材料として、例えば、砥粒としてジルコニア砥粒、セラミック砥粒、超砥粒等を用い、熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を用い、無機充填材料としてクリオライト等を用い、これらを混合したA材料44が用いられる。このようなA材料44は、回転砥石10の研削層40全体に用いたとき、被研削材の研削量を回転砥石10の摩耗量で割った研削比が20〜25となる。
【0029】
内周研削部43は、更に、内周研削部43の外周に沿って幅dで環状に拡がった第1内周部43aと、第1内周部43aに続いてその内周側に環状に拡がった第2内周部43bとに分かれている。第1内周部43aにおいては、A材料44とB材料45とが混合されて用いられており、第1内周部43aの外周から内周に向かって、A材料44の含有率が漸次的に小さくなっている。第2内周部43bにおいては、B材料45のみが用いられている。
【0030】
外周研削部42に用いるA材料44は、砥粒の研削力が大きく、摩耗量が少ないので、外周研削部42は研削能力が高い。そのようなA材料44は高価であることから、A材料44を用いる外周研削部42の寸法w
outを、回転砥石10の研削能力を落とさない範囲で小さくすることがコスト面では望ましい。そのような寸法w
outの好ましい大きさは、回転砥石の半径Rに対する比として表すと、R=50mm〜63mmの場合は、w
out/R=0.20〜0.40、より好ましくは0.24〜0.36、更に好ましくは0.27〜0.31であり、R=75mm〜115mmの場合は、w
out/R=0.40〜0.60、より好ましくは0.42〜0.57、更に好ましくは0.46〜0.51である。
【0031】
A材料は内周研削部43の第1内周部43aにも用いられる。第1内周部43aの寸法dは、好ましくはd/R=0.05〜0.4、より好ましくは0.1〜0.3、更に好ましくは0.1〜0.2である。内周研削部43における内周部分も研削に使用する可能性がある場合は、d=w
inとして、内周研削部43全体に亘ってA材料が含まれるようにしてもよい。
【0032】
<回転砥石の製造方法>
[金型]
図3は、回転砥石10を製造するために用いる下型60と上型70とを示す。
【0033】
下型60は、製造する回転砥石10の直径とほぼ同じ大きさの内径を有するリング部61と、リング部61の内側に設けられ中央部分が下方に窪んだ底部62と、底部62の中心に設けられた芯部63とからなる。以上の構成によって、下型60には内径の周辺部分が窪んだ環状凹部が形成される。
【0034】
上型70は、外径が下型60のリング部61内径とほぼ同じで、内径が下型60の芯部63の径とほぼ同じある環状凸部が下方に形成されている。上型の環状凸部の内径周辺は下型60の底部62の窪みに対応した形状に突出している。
【0035】
以上の構成により、下型60と上型70とは雌雄一対の形状をなしている。
【0036】
[製造工程]
図4は、回転砥石10の製造工程を示す。
【0037】
まず、砥粒と、熱硬化性樹脂及び無機充填剤の粉体とを混合した基板材料23を基板成形用の下型60の環状凹部に投入して成型する。
【0038】
次に、成型した基板材料23の上にガラスクロス30を載せ、上型70を降ろして加圧する。
【0039】
加圧後、上型70を上げて、ガラスクロス30の上からB材料45を、下型60の環状凹部の内周壁を構成する芯部63の側壁から外周方向へ幅w
in−d/2に亘る環状の領域に投入する。
【0040】
続いて、更にA材料44を、下型60の環状凹部において、リング部61の側壁から内周方向へ幅w
out+d/2に亘る環状の領域に投入する。
【0041】
上記のようにしてA材料とB材料とを投入した後に成型することで、下型60のガラスクロス30の上には、芯部63周りにB材料からなる幅w
in−dの環状領域と、それに続く外周部分にA材料とB材料との混合材料からなる幅dの環状領域と、それに続く最外周部分にはA材料からなる幅w
outの環状領域とが形成される。
【0042】
次に、再び上型70を降ろして加圧し、加圧後、樹脂硬化性樹脂粉末を加熱硬化させることで、環の幅w
outの外周研削部42と環の幅w
inの内周研削部43とからなる研削層40が、基板20上にガラスクロス30を介して形成される。
【0043】
最後に、中央の孔に芯金22を取り付け、回転砥石10を完成させる。
【実施例】
【0044】
下記のように本発明に係る回転砥石を製造し、研削能力を検証するために評価実験を行った。
【0045】
<回転砥石>
基板材料には、砥粒としてアランダム砥粒、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂、無機充填材料としてクリオライトを用いた。また、A材料には、砥粒としてセラミック砥粒、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂、無機充填材料としてクリオライトを用い、B材料には、砥粒としてアランダム砥粒、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂、無機充填材料としてクリオライトを用いた。
【0046】
上記のA材料及びB材料は、それぞれを単独で回転砥石の研削層として用いたとき、A材料の研削比は20であり、B材料の研削比は5であった。
【0047】
以上の基板材料、A材料及びB材料を用いて、前述の製造工程に従い回転砥石を製造した。製造した回転砥石は、半径Rが50.7mmであり、このうちオフセット基部と取付孔との領域を除いた研削に使用可能な環状部分の寸法(外径と内径との差)は約30mmであった。また、外周研削部の寸法(外径と内径との差w
out)を9.1mm,10.2mm,12.2mm,13.8mm,15.6mm,18.3mmとし、6種類の回転砥石を製造した。
【0048】
<研削性能の評価実験>
上記の回転砥石の研削性能の評価実験とその結果を示す。
【0049】
研削性能の評価実験にあたっては、被研削材を幅6mmの一般構造用圧延鋼材であるSS400として、グラインダ(12,000rpm)を用いた。以上の条件の下、製造した6種類の回転砥石を用いてそれぞれ5分間研削を行った。
【0050】
表1は、上記の評価実験で研削された被研削材の研削量(g)と、回転砥石の摩耗量(g)と、研削量を摩耗量で割った研削比とを示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1によると、外周研削部の寸法w
outが大きいほど、被研削材の研削量が大きく、回転砥石の摩耗量が小さく、また研削比が大きくなっている。すなわち、A材料を用いた外周研削部の寸法w
outを大きくすることによって、回転砥石全体の研削能力が高くなることを示している。特に、w
out=13.8mm,15.6mm,18.3mmにおいて、研削比は21を超えており、研削能力が極めて高い。
【0053】
図5は、表1に示した研削比を、w
out/Rに対してプロットしたグラフである。
【0054】
図5によると、w
out/R=0.18,0.20,0.24において研削比が15以下であるのに対して、w
out/R=0.27においては研削比が21.5、w
out/R=0.31及びw
out/R=0.36では22.7であり、研削比が非常に高くなっている。
【0055】
回転砥石の高い研削能力を維持しつつも、製造のコスト面からA材料の使用量を少なくすることを考えると、外周研削部の寸法w
outをw
out/R=0.27とすることが、特に好ましいことがわかる。