(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブに用いられる磁気記録媒体は、記録密度の著しい向上が図られつつある。特に、MR(magneto resistive)ヘッドやPRML(Partial Response Maximum Likelihood)技術が導入されて以来、磁気記録媒体の面記録密度の上昇は、更に激しさを増している。
【0003】
また、近年のインタ−ネット網の発展やビッグデータの活用の拡大から、データセンターにおけるデータの蓄積量も増大を続けている。そして、データセンターのスペース上の問題から、データセンターの単位体積当たりの記憶容量を高める必要性が生じている。すなわち、規格化されたハードディスクドライブの一台当たりの記憶容量を高めるため、磁気記録媒体の一枚当たりの記憶容量を高めることに加え、ドライブケースの内部に納める磁気記録媒体の枚数を増やすことが試みられている。
【0004】
磁気記録媒体用基板としては、主に、アルミニウム合金基板とガラス基板が用いられている。このうち、アルミニウム合金基板は、ガラス基板に比べて、靱性が高く、製造が容易であることから、外径が比較的大きい磁気記録媒体に用いられている。3.5インチのハードディスクドライブの磁気記録媒体に用いられるアルミニウム合金基板の厚さは、通常、1.27mmであるため、ドライブケースの内部には、最大で5枚の磁気記録媒体を納めることができる。
【0005】
ドライブケースの内部に納める磁気記録媒体の枚数を増やすため、磁気記録媒体に用いられる基板を薄くすることが試みられている。
【0006】
しかしながら、基板を薄くした場合、アルミニウム合金基板は、ガラス基板に比べて、フラッタリングが生じやすい。
【0007】
フラッタリングとは、磁気記録媒体を高速回転させた場合に生じる磁気記録媒体のばたつきであり、フラッタリングが大きくなると、ハードディスクドライブにおける安定した読み取りが困難になる。
【0008】
例えば、ガラス基板においては、フラッタリングを抑制するために、磁気記録媒体用基板の材料として、比弾性(比ヤング率)の高い材料を使用することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、3.5インチのハードディスクドライブのドライブケースの内部にヘリウムガスを充填することで、フラッタリングを低減し、これにより、アルミニウム合金基板を薄くし、ドライブケースの内部に6枚以上の磁気記録媒体を収納することが試みられている。
【0010】
磁気記録媒体用基板は、一般的には、以下の工程によって製造される。先ず、アルミニウム合金鋳塊を圧延して、厚さ2mm以下程度のアルミニウム合金板材を得て、得られたアルミニウム合金板材を円盤状に打ち抜いて所望の寸法にする。次に、打ち抜かれたアルミニウム合金板材の円盤に対して、内外径の面取り加工およびデータ面の旋削加工を施した後、旋削加工後のアルミニウム合金板材の表面粗さやうねりを下げるために、砥石による研削加工を施し、アルミニウム合金基板とする。その後、表面硬さの付与と表面欠陥の抑制を目的として、アルミニウム合金基板の表面にNiPめっきを施す。次に、NiPめっき被膜が形成されたアルミニウム合金基板の両面(データ面)に対して、研磨加工を施す。
【0011】
磁気記録媒体用基板は、大量生産品であり、高いコストパフォーマンスが求められるため、アルミニウム合金には、高い機械加工性と廉価性が求められる。
【0012】
特許文献2には、Mg:0.3〜6質量%、Si:0.3〜10質量%、Zn:0.05〜1質量%およびSr:0.001〜0.3質量%を含み、残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金が開示されている。
【0013】
また、特許文献3には、0.5質量%以上24.0質量%以下のSiと、0.01質量%以上3.00質量%以下のFeとを含有し、残部Alと不可避的不純物からなる磁気ディスク用アルミニウム合金基板が開示されている。
【0014】
また、特許文献4には、Zr0.1wt%以下を含有するAl−Mg系合金を板厚が4〜10mmの薄板に連続鋳造を行い、この鋳造板を均熱処理を行わずに50%以上の強加工率で冷間圧延を行った後、300〜400℃の温度において焼鈍を行い、表層部の平均結晶粒径が15μm以下の圧延板を製造する磁気ディスク用Al−Mg系合金圧延板の製造法が開示されている。ここで、Al−Mg系合金は、Mg2.0〜6.0wt%、Ti、Bの1種または2種0.01〜0.1wt%含有し、さらに、Cr0.03〜0.3wt%、Mn0.03〜0.3wt%の1種または2種を含有する。
【0015】
また、特許文献5には、ヤング率が高く機械加工性に優れた磁気記録媒体用基板を提供するため、Mgを0.2〜6質量%の範囲内、Siを3〜17質量%の範囲内、Znを0.05〜2質量%の範囲内、Srを0.001〜1質量%の範囲内で含み、アルミニウム合金基板の合金組織においてSi粒子の平均粒径が2μm以下とすることが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体用アルミニウム合金基板、磁気記録媒体用基板、磁気記録媒体、ハードディスクドライブについて、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。
【0029】
[磁気記録媒体用アルミニウム合金基板]
本実施形態における磁気記録媒体用アルミニウム合金基板は、Siを9.5質量%以上13.0質量%以下の範囲内、Cuを0.5質量%以上3.0質量%以下の範囲内で含む。本実施形態の磁気記録媒体用アルミニウム合金基板において、Siは少なくとも一部がSi粒子として存在している。そして、そのSi粒子のうち最長径が0.5μm以上の粒子の平均粒子は2μm以下とされている。
【0030】
本実施形態の磁気記録媒体用アルミニウム合金基板は、さらに、Srを0.005質量%以上0.1質量%以下の範囲内、Znを0.01質量%以上0.4質量%以下の範囲内で、Cr、TiおよびNiからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を合計で0.005質量%以上1.0質量%以下の範囲内で、Mnを0.05質量%以上0.4質量%以下の範囲内で、Zrを0.03質量%以上0.3質量%以下の範囲内でそれぞれ含んでいてもよい。
【0031】
本実施形態の磁気記録媒体用アルミニウム合金基板は、上記の金属元素と、不可避不純物と、残部のAlによって構成されている。不可避不純物は、原料及び製造工程から不回避的に混入する不純物である。本実施形態では、不可避不純物として、Feの含有量が0.01質量%未満とされている。また、Mgの含有量は0.05質量%未満、Bの含有量は0.001質量%未満、Pの含有量は0.001質量%未満とされていることが好ましい。
【0032】
さらに、本実施形態の磁気記録媒体用アルミニウム合金基板は、中心に開口部を有する円盤状とされている。アルミニウム合金基板のサイズは、直径が53mm以上97mm以下の範囲内にあり、厚さが0.4mm以上0.9mm以下の範囲内とされている。
以下、本実施形態の磁気記録媒体用アルミニウム合金基板に含まれている各元素、Si粒子の平均粒子径、サイズ(直径、厚さ)について説明する。
【0033】
(Si)
Siは、Al中への固溶量が少ないため、主にSi単体のSi粒子としてアルミニウム合金組織中に分散している。Si粒子が分散しているアルミニウム合金基板は、剛性が向上する。また、切削工具による加工時において、Si粒子の粉砕、あるいは、Si粒子とAl母相との界面での剥離により、切屑が分断し易い、即ち切屑分断性が向上する。このため、アルミニウム合金基板を製造する際の加工性が向上する。
【0034】
Si含有量が9.5質量%未満であると、上記の効果が得られにくくなるおそれがある。一方、Si含有量が13.0質量%を超えると、アルミニウム合金組織中に分散しているSi粒子の平均粒子径が大きくなり、アルミニウム合金の切屑分断性は向上するものの、加工後の切削工具の摩耗が著しく大きくなって、アルミニウム合金基板の生産性が低下するおそれがある。また、Si粒子はNiP系めっき被膜を形成しにくいため、平均粒子径が過度に大きいSi粒子が分散しているアルミニウム合金基板は、均一なNiP系めっき被膜を形成しにくく、このアルミニウム合金基板を用いた磁気記録媒体用基板はめっき性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態では、Siの含有量は9.5質量%以上13.0質量%以下の範囲内とされている。Siの含有量は、10.0質量%以上12.0質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0035】
(Si粒子の平均粒子径)
前述のとおり、平均粒子径が過度に大きいSi粒子が分散しているアルミニウム合金基板を用いた磁気記録媒体用基板はめっき性が低下するおそれがある。
本発明者らの検討によると、最長径が0.5μm以上のSi粒子の平均粒子径が2μmを超えるアルミニウム合金基板を用いた磁気記録媒体用基板は、めっき性が大きく低下する傾向があることが範囲した。
このため、本実施形態では、最長径が0.5μm以上のSi粒子の平均粒子径は2μm以下とされている。
【0036】
なお、Si粒子の平均粒子径は、アルミニウム合金基板の断面画像から画像解析法によって求めた値である。より具体的には、Si粒子の平均粒子径は、FE−SEMなどの電子顕微鏡を用いてアルミニウム合金基板の断面画像を撮影し、次いで、得られた断面画像から画像解析法によって最長径が0.5μm以上のSi粒子を抽出して、その抽出されたSi粒子の最長径を測定し、測定した最長径の平均値を算出することによって求めた値である。
【0037】
(Cu)
Cuは、アルミニウム合金組織中に固溶することにより、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果を有する。また、Cuは、アルミニウム合金組織中にAl
2Cu相を形成することによって、アルミニウム合金基板の剛性をさらに向上させる効果を有する。
【0038】
Cuの含有量が0.5質量%未満であると、上記の効果が得られにくくなるおそれがある。一方、Cuの含有量が3.0質量%を超えると、アルミニウム合金基板の密度が高くなり、これを用いた磁気記録媒体用基板は、フラッタリングが悪化するおそれがある。
このため、本実施形態では、Cuの含有量は0.5質量%以上3.0質量%以下の範囲内とされている。Cuの含有量は、1.0質量%以上2.8質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0039】
(Sr)
Srは、Siと共存することで、凝固時の共晶Si、初晶Siを球状化させると共に、Si粒子を微細化させる効果を有する。このSi粒子を微細化させる効果によって、間接的にアルミニウム合金の切屑分断性が良好となり、アルミニウム合金の加工性が向上すると共に、加工時の切削工具の摩耗や損傷を抑制することができる。また、鋳造、押出、引抜き等の工程で、Si粒子を均一かつ微細に分散させ、合金の切削性を一層向上させる効果を有する。加えて、アルミニウム合金基板の表面に形成するNiP系めっき被膜の組織を均一とし、そして、NiP系めっき被膜の膜質も均一とする効果を有する。
【0040】
Srの含有量が0.005質量%未満であると、上記の効果が得られにくくなるおそれがある。すなわち、Si粒子が球状化せず、鋭角部が生じることで、加工時の切削工具の摩耗や損傷が起こり易くなるおそれがある。一方、Srの含有量が0.1質量%を超えると、合金の切削性を向上させる効果が飽和して、それ以上添加する意味が乏しくなる。また、Srの含有量が多くなると、SrAl
4が生成し、このSrAl
4が核として作用して、初晶のSiが粗大になり、Si粒子の平均粒子径が大きくなることがある。
このため、本実施形態では、Srの含有量は0.005質量%以上0.1質量%以下の範囲内とされている。Srの含有量は、0.01質量%以上0.05質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0041】
(Zn)
Znは、アルミニウム合金組織中に固溶すると共に、他の添加物と結合して、析出物として、アルミニウム合金組織中に分散する。これによって、アルミニウム合金の機械的強度を高めると共に、他の固溶型元素との相乗効果により、アルミニウム合金基板を製造する際の加工性(切削性)を向上させる他、NiP系めっき膜形成を促進させる効果を有する。
【0042】
Znの含有量が0.01質量%未満であると、上記の効果が得られにくくなるおそれがある。一方、Znの含有量が0.4質量%を超えると、合金の耐食性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態では、Znの含有量は0.01質量%以上0.4質量%以下の範囲内とされている。
【0043】
(Cr、TiおよびNi)
Crは圧延組織を微細化するので強度が向上でき、Tiは鋳造組織が微細化できるので鋳造時の漏れ防止に効果があり、Niはヤング率を向上する効果がある。これらの効果によって、Cr、TiおよびNiのうちの1種を添加することによって、アルミニウム合金鋳塊を鋳造する際の鋳造性(原料混合物の溶湯の流動性、引け特性、耐熱間割れ性)が向上すると共に、機械的強度が高くなり、アルミニウム合金基板を製造する際の加工性(切削性)が向上する。Cr、TiおよびNiは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0044】
Cr、TiおよびNiの合計含有量が0.005質量%未満であると、上記の効果が得られにくくなるおそれがある。一方、Cr、TiおよびNiの合計含有量が1.0質量%を超えると、上記の効果が飽和して、それ以上添加する意味が乏しくなる。
このため、本実施形態では、Cr、TiおよびNiの合計含有量は0.005質量%以上1.0質量%以下の範囲内とされている。
【0045】
(Mn)
Mnは、アルミニウム合金組織中に微細析出し、合金の機械的強度を高めて、アルミニウム合金基板を製造する際の加工性を向上させる効果がある。
Mnの含有量が0.05質量%未満であると、上記の効果が得られにくくなるおそれがある。一方、Mnの含有量が0.4質量%を超えると、上記の効果が飽和して、それ以上添加する意味が乏しくなる。
このため、本実施形態では、Mnの含有量は0.05質量%以上0.4質量%以下の範囲内とされている。
【0046】
(Zr)
Zrは、Srと同様にSi粒子を微細化させる効果を有する。また、アルミニウム合金組織内に微細なSi
2Zr化合物を形成することによって、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果がある。
【0047】
Zrの含有量が0.03質量%未満であると、上記の効果が得られにくくなるおそれがある。一方、Zrの含有量が0.3質量%を超えると、上記の効果が飽和して、それ以上添加する意味が乏しくなる。
このため、本実施形態では、Zrの含有量は0.03質量%以上0.3質量%以下の範囲内とされている。
【0048】
(Fe)
Feは、原料から不回避的に混入する不純物である。Feの含有量が0.01質量%以上であると、Al−Si−Fe化合物の粗大な晶出物がアルミニウム合金組織に生成することがある。粗大なAl−Si−Fe化合物の晶出物が生成すると、アルミニウム合金基板を製造する際の研削加工時に多数のスクラッチが生成して、磁気記録媒体用として使用できない部分が多く発生するなど加工性が低下するおそれがある。また、粗大なAl−Si−Fe化合物の晶出物が生成したアルミニウム合金基板を用いた磁気記録媒体用基板は、Al−Si−Fe化合物が加工時に脱落してくぼみができ、めっき性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態では、Feの含有量は0.01質量%未満とされている。
【0049】
(Mg)
Mgは、主に原料から不回避的に混入する不純物である。Mgの含有量が0.05質量%以上であると、アルミニウム合金鋳塊を鋳造する際の鋳造性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態では、Mgの含有量は0.05質量%未満とされている。
【0050】
(B)
Bは、主に原料から不回避的に混入する不純物である。Bの含有量が0.001質量%以上であると、Sr添加によるSi粒子の微細化の効果が低下するおそれがある。
このため、本実施形態では、Bの含有量は0.001質量%未満とされている。
【0051】
(P)
Pは、主に原料から不回避的に混入する不純物である。P含有量が0.001質量%以上であると、AlP粒子を核とした粗大なSi粒子が生成し、アルミニウム合金基板製造時の加工性やめっき性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態では、Pの含有量は0.001質量%未満とされている。
【0052】
(サイズ:直径、厚さ)
本実施形態の磁気記録媒体用アルミニウム合金基板は、主として、ハードディスクドライブの磁気記録媒体用として使用される。磁気記録媒体は、規格化されたハードディスクドライブ、すなわち、2.5インチのハードディスクドライブ、3.5インチのハードディスクドライブ等に収納することができる必要がある。例えば、2.5インチのハードディスクドライブでは、最大直径で約67mmの磁気記録媒体が用いられ、3.5インチのハードディスクドライブでは、最大直径で約97mmの磁気記録媒体が用いられる。
このため、本実施形態では、アルミニウム合金基板の直径を53mm以上97mm以下の範囲内とされている。
【0053】
また、ハードディスクドライブでは、記録容量を増加させるために、ケース内に収納する磁気記録媒体の枚数を増やすることが有効である。例えば、通常の3.5インチのハードディスクドライブでは、厚さ1.27mmの磁気記録媒体が最大で5枚収納されているが、磁気記録媒体を6枚以上収納することができれば、記録容量を増加させることが可能となる。
このため、本実施形態では、アルミニウム合金基板の厚さは0.4mm以上0.9mm以下の範囲内とされている。
【0054】
[磁気記録媒体用アルミニウム合金基板の製造方法]
本実施形態の磁気記録媒体用アルミニウム合金基板は、例えば、上述の元素を含有するアルミニウム合金鋳塊を作製する鋳造工程と、アルミニウム合金鋳塊を板状に圧延してアルミニウム合金板材を得る圧延工程と、アルミニウム合金板材を磁気記録媒体用アルミニウム合金基板に成形する加工工程とを含む方法によって製造することができる。
【0055】
(鋳造工程)
鋳造工程では、上述の元素を含有する原料の混合物を鋳造して、アルミニウム合金鋳塊を作製する。
原料の混合物を鋳造する方法としては、例えば、ダイレクトチル鋳造法(DC鋳造法)を用いることができる。ダイレクトチル鋳造法とは、原料混合物の溶湯を、鋳型に注湯し、その後鋳型を直接冷却水に接触させて、アルミニウム合金鋳塊を鋳造する方法である。
【0056】
得られたアルミニウム合金鋳塊は、均質化処理を行うことが好ましい。均質化処理は、例えば、アルミニウム合金鋳塊を、300℃以上600℃以下の温度で、1時間以上5時間以下の範囲内で加熱することによって行う。
【0057】
(圧延工程)
圧延工程では、上記の鋳造工程で得られたアルミニウム合金鋳塊を板状に圧延してアルミニウム合金板材を得る。圧延方法としては、特に制限はなく、熱間圧延法および冷間圧延法を用いることができる。圧延の条件には、特に制限はなく、アルミニウム合金鋳塊の圧延で行われている通常の条件とすることができる。
【0058】
(加工工程)
加工工程では、まず、上記圧延工程で得られたアルミニウム合金板材を円盤状に打ち抜いて、アルミニウム合金円盤を得る。次いで、アルミニウム合金円盤を300℃以上500℃以下の温度で、0.5時間以上5時間以下の範囲内で加熱して、焼鈍する。焼鈍を行うることによって、アルミニウム合金円盤基板に内在する歪を緩和し、得られるアルミニウム合金基板の剛性を適正な範囲内に調整することができる。次に、焼鈍したアルミニウム合金円盤の表面、端面を、切削工具を用いて切削加工する。切削工具としては、例えば、ダイヤモンドバイトを用いることができる。なお、焼鈍は切削加工後に行ってもよい。
【0059】
[磁気記録媒体用基板]
図1は、本実施形態に係る磁気記録媒体用基板の一例の断面図である。
図1に示すように、磁気記録媒体用基板10は、アルミニウム合金基板11と、アルミニウム合金基板11の少なくとも一方の表面に形成されているNiP系めっき被膜12とを有する。本実施形態の磁気記録媒体用基板10は、単位がGPaで表されるヤング率Eと、単位がg/cm
3で表される密度ρとの比E/ρは29以上であることが好ましい。
【0060】
(アルミニウム合金基板)
アルミニウム合金基板11としては、上述の本実施形態のアルミニウム合金基板が用いられる。
【0061】
(NiP系めっき被膜)
NiP系めっき被膜12は、磁気記録媒体用基板10の剛性(ヤング率)を向上させる効果を有する。
NiP系めっき被膜12は、NiとP以外の元素を含有していてもよい。NiP系めっき被膜12は、NiとPとを含むNiP合金、もしくはNiとWとPとを含むNiWP合金で形成されていることが好ましい。NiP合金は、Pを10質量%以上15質量%以下の範囲内で含み、残部がNi及び不可避不純物であることが好ましい。NiWP合金は、Wを15質量%以上22質量%以下の範囲内で、Pを3質量%以上10質量%以下の範囲内で含み、残部がNi及び不可避不純物であることが好ましい。NiP系めっき被膜12を、上記の組成を有するNiP合金もしくはNiWP合金で形成することによって、磁気記録媒体用基板10の剛性を確実に向上させることができる。
【0062】
NiP系めっき被膜12の厚さは、7μm以上であることが好ましく、9μm以上であることが特に好ましい。NiP系めっき被膜12の厚さをこの厚さとすることによって、磁気記録媒体用基板10の剛性を確実に向上させることができる。
また、NiP系めっき被膜12の厚さは、20μm以下であることが好ましく、17μm以下であることが特に好ましい。NiP系めっき被膜12の厚さをこの厚さとすることによって、磁気記録媒体用基板10の平坦性と軽量性を両立できる。
【0063】
(ヤング率Eと密度ρとの比E/ρ)
磁気記録媒体用基板のフラッタリングを抑制し、フラッタリングによる変位の幅(NRRO)の増大を抑えるために、磁気記録媒体用基板の剛性を高くすることは有効な方法の一つであると考えられる。一方、本発明者らの検討によると、通常の使用時において、5000rpm以上と極めて速い回転速度で回転させる磁気記録媒体においては、磁気記録媒体用基板の密度によってもNRROが変動することが判明した。そして、材料の剛性を指標する一つの物性値であるヤング率に着目し、磁気記録媒体用基板のヤング率E(単位:GPa)と密度ρ(単位:g/cm
3)とNRROとの関係を検討した結果、ヤング率Eと密度ρとの比E/ρが29以上となると、NRROの増大が抑えられること、即ちフラッタリングを抑制できることを見出した。
このため、本実施形態では、ヤング率Eと密度ρとの比E/ρは29以上とされている。比E/ρは、32以下であることが好ましい。
【0064】
本実施形態の磁気記録媒体用基板10は、ヤング率Eが79GPa以上87GPa以下の範囲内にあって、密度ρが2.6g/cm
3以上3.0g/cm
3以下の範囲内にあることによって、E/ρが29以上とされていることが好ましい。
【0065】
[磁気記録媒体用基板の製造方法]
本実施形態の磁気記録媒体用基板10は、例えば、アルミニウム合金基板11にめっき法によってNiP系めっき被膜12を形成するめっき工程と、NiP系めっき被膜付アルミニウム合金基板の表面に対して研磨加工を施す研磨加工工程とを含む方法によって製造することができる。
【0066】
(めっき工程)
めっき工程において、アルミニウム合金基板11にNiP系めっき被膜12を形成する方法としては、無電解めっき法を用いることが好ましい。NiP合金からなるめっき被膜は、従来から使用されている方法を用いて形成することができる。NiWP合金からなるめっき被膜は、NiP合金用のめっき液に、タングステン塩を添加しためっき液を用いることができる。タングステン塩としては、例えば、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウム等を用いることができる。
【0067】
NiP系めっき被膜の厚さは、めっき液への浸漬時間、めっき液の温度によって調整することが可能である。めっき条件は、特に限定されるものではないが、めっき液のpHを5.0〜8.6とし、めっき液の温度を70〜100℃、好ましくは85〜95℃とし、めっき液への浸漬時間を90〜150分間とするのが好ましい。
【0068】
得られたNiP系めっき被膜付アルミニウム合金基板は、加熱処理を施すことが好ましい。これにより、NiP系めっき被膜の硬度をより高め、磁気記録媒体用基板のヤング率をさらに高めることができる。加熱処理の温度は、300℃以上とすることが好ましい。
【0069】
(研磨加工工程)
研磨加工工程では、めっき工程で得られたNiP系めっき被膜付アルミニウム合金基板の表面を研磨する。研磨加工工程は、平滑で、傷が少ないといった表面品質の向上と生産性の向上との両立の観点から、複数の独立した研磨盤を用いた2段階以上の研磨工程を有する多段階研磨方式を採用するのが好ましい。例えば、第1の研磨盤を用いて、アルミナ砥粒を含む研磨液を供給しながら研磨する粗研磨工程と、研磨されたアルミニウム合金基板を洗浄した後に、第2の研磨盤を用いて、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を供給しながら研磨する仕上げ研磨工程を行う。
【0070】
図2は、研磨加工工程で用いることができる研磨盤の一例を示す斜視図である。
図2に示すように、第1及び第2の研磨盤20は、上下一対の定盤21、22を備え、互いに逆向きに回転する定盤21、22の間で複数枚の基板Wを挟み込みながら、これら基板Wの両面を定盤21、22に設けられた研磨パッド23により研磨する。
【0071】
[磁気記録媒体]
図3は、本実施形態における磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
図3に示すように、磁気記録媒体30は、上述の磁気記録媒体用基板10と、磁気記録媒体用基板10のNiP系めっき被膜12の表面に備えられている磁性層31とを含む。磁性層31の表面には、さらに、保護層32と潤滑剤層33とがこの順序で積層されている。
【0072】
磁性層31は、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた磁性膜からなる。磁性層31は、CoとPtを含むものであり、更にSNR特性を改善するために、酸化物や、Cr、B、Cu、Ta、Zrなどを含むものであってもよい。磁性層31に含有される酸化物としては、SiO
2、SiO、Cr
2O
3、CoO、Ta
2O
3、TiO
2などが挙げられる。磁性層31は、1層からなるものであってもよいし、組成の異なる材料からなる複数層からなるものであってもよい。
磁性層31の厚みは、5〜25nmとすることが好ましい。
【0073】
保護層32は、磁性層31を保護するものである。保護層32の材料としては、例えば窒化炭素を用いることができる。保護層32は、一層からなるものであってもよいし、複数層からなるものであってもよい。
保護層32の膜厚は1nm〜10nmの範囲内であることが好ましい。
【0074】
潤滑剤層33は、磁気記録媒体30の汚染を防止すると共に、磁気記録媒体30上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、磁気記録媒体30の耐久性を向上させるものである。潤滑剤層33の材料としては、例えば、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤や脂肪族炭化水素系潤滑剤を用いることができる。
潤滑剤層33の膜厚は0.5nm〜2nmの範囲内であることが好ましい。
【0075】
本実施形態における磁気記録媒体30の層構成には、特に制限はなく、公知の積層構造を適用することができる。例えば、磁気記録媒体30は、磁気記録媒体用基板10と磁性層31との間に、密着層(不図示)と軟磁性下地層(不図示)とシード層(不図示)と配向制御層(不図示)とがこの順序で積層されていてもよい。
【0076】
[ハードディスクドライブ]
図4は、本実施形態におけるハードディスクドライブの一例を示す斜視図である。
図4に示すように、ハードディスクドライブ40は、上述の磁気記録媒体30と、磁気記録媒体30を記録方向に駆動する媒体駆動部41と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド42と、磁気ヘッド42を磁気記録媒体30に対して相対移動させるヘッド移動部43と、磁気ヘッド42からの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部44とを具備する。
【0077】
磁気記録媒体用基板10は、フラッタリングが低減されるため、薄くすることが可能である。このため、規格化されたハードディスクドライブケースの内部に納められる磁気記録媒体30の枚数を増やすことにより、高記録容量のハードディスクドライブ40を提供することを可能とする。
【0078】
また、磁気記録媒体用基板10は、機械加工性が高く、廉価で製造することが可能であるため、高記録容量のハードディスクドライブのビット単価を下げることができる。
【0079】
また、磁気記録媒体用基板10は、大気中でのフラッタリングが低減されるため、ハードディスクドライブケースの内部にヘリウム等の低分子量のガスを封入する必要がなくなり、高記録容量のハードディスクドライブ40の製造コストを低減することができる。
【0080】
また、ハードディスクドライブ40は、特に、高記録容量の3.5インチのハードディスクドライブに用いるのが好ましい。
【0081】
以上のような構成とされた本実施形態の磁気記録媒体用アルミニウム合金基板は、Si、Cuを上述の量にて含むので剛性が高く、最長径が0.5μm以上のSi粒子の平均粒子径が2μm以下とされていて、粗大なSi粒子の含有量が少ないので、均一なNiP形めっき被膜の形成が容易である。
【0082】
また、本実施形態の磁気記録媒体用基板は、上述の磁気記録媒体用アルミニウム合金基板とNiP系めっき被膜とを有するので、直径が53mm以上97mm以下の範囲内にあり、厚さが0.4mm以上0.9mm以下の範囲内にある薄型形状であっても、フラッタリングを抑制しながらめっき性を向上させることができる。
【0083】
また、本実施形態の磁気記録媒体は、上述の磁気記録媒体用基板の表面に磁性層を備えるので、規格化されたハードディスクドライブのドライブケースに、従来よりも多数枚収容することができる薄型形状とすることができる。
【0084】
そして、本実施形態のハードディスクドライブは、上述の磁気記録媒体を具備するので、従来よりも多数枚の磁気記録媒体をドライブケースに収納することができ、これにより、記録容量が増加する。
【実施例】
【0085】
<実施例1〜24、比較例1〜7>
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0086】
[アルミニウム合金基板の製造]
Al原料として純Al塊、Si、Cu、Sr、Zn、Cr、Ti、Ni、Mn、Zr、Fe、Mg、Bの原料としては単体あるいはAlとの合金塊、PについてはSiとの混合物塊を用意した。なお、Al、Si、Cu、Sr、Zn、Cr、Ti、Ni、Mn、Zrの各原料については、Feの含有量が0.01質量%未満、Mgの含有量が0.05質量%未満、Bの含有量が0.001質量%未満、Pの含有量が0.001質量%未満のものを用意した。
【0087】
用意した各元素の原料を、鋳造後の組成が表1に示す組成となるように秤量し、これらを大気中で820℃で溶解し、ダイレクトチル鋳造法(DC鋳造法)を用いて、アルミニウム合金鋳塊を作製した。なお、鋳造の温度は700℃、鋳造速度は40〜60mm/分とした。次に、得られたアルミニウム合金鋳塊を460℃で2時間保持して均質化処理した。その後、圧延して厚さ1.2mmの板材とした。得られたアルミニウム合金板材を、中央に開口部を有する直径97mmの円盤状に打ち抜き、380℃で1時間焼鈍した。その後、アルミニウム合金円盤の表面と端面をダイヤモンドバイトにより切削加工し、直径96mm、厚さ0.8mmのアルミニウム合金基板を得た。
ただし、実施例4は、本願発明の実施例ではない。
【0088】
[磁気記録媒体用基板の製造]
アルミニウム合金基板をNiP系めっき液に浸漬し、無電解めっき法を用いてアルミニウム合金基板の表面に、NiP系めっき被膜としてNi
88P
12(Pの含有量12質量%、残部Ni)膜を形成した。
【0089】
NiP系めっき液には、硫酸ニッケル(ニッケル源)と、次亜リン酸ナトリウム(リン源)とを含み、酢酸鉛、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムを適宜加えて、上記組成のNiP系めっき被膜が得られるように、成分の分量を調整したものを用いた。NiP系めっき被膜の形成時のNiP系めっき液はpHを6、液温を90℃に調整した。アルミニウム合金基板のNiP系めっき液への浸漬時間は2時間とした。
次いで、NiP系めっき被膜を形成したアルミニウム合金基板を300℃で3分間加熱して、NiP系めっき被膜付アルミニウム合金基板を得た。
【0090】
次に、研磨盤として、上下一対の定盤を備える3段のラッピングマシーンを用いて、NiP系めっき被膜付アルミニウム合金基板の表面に対して、研磨加工を施し、磁気記録媒体用基板を作製した。このとき、研磨パッドには、スエードタイプ(Filwel社製)を用いた。そして、第1段目の研磨には、D50が0.5μmのアルミナ砥粒を、第2段目の研磨には、D50が30nmのコロイダルシリカ砥粒を、第3段目の研磨には、D50が10nmのコロイダルシリカ砥粒を用いた。また、研磨時間を各段5分間とした。
【0091】
[評価]
以下の項目を、評価した。
(アルミニウム合金基板の組成)
得られたアルミニウム基板について、Srについては湿式分析、その他の元素についてはカントレット分析により組成を確認した。その結果、各金属元素の含有量は、表1に記載の含有量と同じであることが確認された。
【0092】
(鋳造性)
鋳造性を、圧延前のアルミニウム合金鋳塊と圧延後のアルミニウム合金板材の形状を目視により評価した。アルミニウム合金鋳塊とアルミニウム合金板材ともに形状に異常がない場合を◎、アルミニウム合金板材の端部に微細なひびや割れが見られるが実用上問題ない場合を○、アルミニウム合金板材の端部に歪みが見られるが実用上問題ない場合を△として、判定した。その結果を、下記の表2に示す。
【0093】
(加工性)
アルミニウム合金基板の製造時の加工性を、切削加工後のアルミニウム合金基板の表面を1000倍の微分干渉型光学顕微鏡で観察し、その平坦性から評価した。なお、平坦性が優れている場合を◎、わずかにスクラッチが見られるが実用上問題がない場合を○、多数のスクラッチが見られ、使用できない部分が多く発生した場合を×として、判定した。その結果を、下記の表2に示す。
また、加工後の切削工具の表面を目視で観察した。その結果、切削工具の摩耗が大きいものは、表2に「切削工具の摩耗大」と記載した。
【0094】
(Si粒子の平均粒子径)
アルミニウム合金基板の合金組織を断面観察し、Si粒子の最長径、最長径が0.5μm以上の粒子の分布密度を測定した。そして、測定した最長径が0.5μm以上の粒子の分布密度から平均粒子径を算出した。
【0095】
具体的には、アルミニウム合金基板を10mm角に切断して、樹脂包埋させ、サンプルを作製した。このとき、包埋樹脂としては、Demotec20(Bodson Quality Control社製)(粉:液=2:1(質量比)で混合、常温硬化タイプ)を使用した。次に、サンプルに対して、湿式研磨により、圧延方向に対して、水平な方向に断面出しした後に、サンプルをエッチングした。このとき、常温において、2.3質量%フッ化水素酸水溶液にサンプルを30秒間浸漬し、取り出した後、流水で1分間洗浄することで、サンプルをエッチングした。
【0096】
ここで、FE−SEMのJSM−7000F(日本電子社製)を用いて、エッチング後のサンプルの合金組織の反射電子像を撮影した。このとき、サンプルは、あらかじめ、カーボン蒸着により導電処理し、倍率を2000倍に設定して反射電子像を撮影した。視野面積2774μm
2であるこの反射電子像より、WinROOF(Ver6.5)を使用して2値化処理し、Si粒子の最長径および最長径が0.5μm以上である粒子の分布密度を測定した。具体的には、判別分析法により、閾値を200〜255(2値化が上手くいかない場合は、135〜255)に設定し、2値化処理した。得られた画像に対して、穴うめ処理および粒子径が0.5μm以下である粒子を除去する処理を実施し、最長径が0.5μm以上であるSi粒子の最長径の分布密度を測定した。
【0097】
(めっき性)
アルミニウム合金基板をNiP系めっき液に浸漬し、無電解めっき法を用いてアルミニウム合金基板の表面に、NiP系めっき被膜としてNi
88P
12膜を形成し、次いで、アルミニウム合金基板を300℃で3分間加熱して、NiP系めっき被膜付アルミニウム合金基板を製造した。NiP系めっき被膜の形成条件は、磁気記録媒体用基板の製造のときと同じ条件とした。
【0098】
NiP系めっき被膜付アルミニウム合金基板のNiP系めっき被膜の表面を、倍率1000倍の微分干渉型光学顕微鏡で観察し、平坦性、細穴の有無からめっき性を評価した。なお、めっき性が特に優れている場合を◎、めっき性が特に優れている場合を○、使用することが可能な範囲である場合を△、劣っている場合を×として、判定した。その結果を、下記の表2に示す。
【0099】
(ヤング率E、密度ρ、比E/ρ)
磁気記録媒体用基板のヤング率を、日本工業規格JIS Z 2280−1993に基づいて、常温で測定した。なお、ヤング率は、磁気記録媒体用基板を、長さ50mm、幅10mm、厚さ0.8mmの短冊状に切り出し、これを試験片として測定した。
【0100】
磁気記録媒体用基板の密度を、構成元素の密度の文献値を用いて求めた。
そして、上記のヤング率Eと密度ρとの比E/ρを算出した。その結果を、下記の表2に示す。
【0101】
(フラッタリング)
フラッタリングはNRROを測定して評価した。NRROは磁気記録媒体用基板を10000rpmで1分間回転させ、磁気記録媒体用基板の最外周面で生ずるフラッタリングによる変位の幅を、He−Neレーザー変位計を用いて測定し、得られた変位の幅の最大値をNRROとした。
NRROが3.2μm以下であったものを◎、3.2μmを超え3.4μm以下であったものを○、3.4μmを超え3.6μm以下であったものを△、3.6μmを超えたものを×と評価した。その結果を、下記の表2に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
比較例1では、アルミニウム合金基板のSi粒子の平均粒子径は2μm以下であるが、磁気記録媒体用基板はヤング率が低く、フラッタリングが悪化した。また、アルミニウム合金基板製造時の加工性が低下した。これは、Siの含有量が本発明の範囲よりも少ないためであると考えられる。一方、比較例2では、アルミニウム合金基板のSi粒子の平均粒子径が3.0μmと大きく、磁気記録媒体用基板はめっき性が低下した。また、加工(切削)時の切削工具の摩耗が大きくなった。これは、Siの含有量が本発明の範囲を超えたためであると考えられる。
【0105】
比較例3では、アルミニウム合金基板のSi粒子の平均粒子径は2μm以下であるが、磁気記録媒体用基板はヤング率Eが低く、フラッタリングが悪化した。これは、Cuの含有量が本発明の範囲よりも少ないためであると推察される。一方、比較例4では、アルミニウム合金基板のSi粒子の平均粒子径は2μm以下であるが、磁気記録媒体用基板の密度ρが高く、フラッタリングが悪化した。これは、Cuの含有量が本発明の範囲を超えたためであると推察される。
【0106】
比較例5では、アルミニウム合金基板のSi粒子の平均粒子径が5.0μmと大きく、磁気記録媒体用基板はめっき性が低下した。また、加工(切削)時の切削工具の摩耗が大きくなった。これは、Srの含有量が少ないことによって、Si粒子が粗大になったためと考えられる。一方、比較例6では、アルミニウム合金基板のSi粒子の平均粒子径が11.0μmと大きく、磁気記録媒体用基板はめっき性が低下した。また、加工(切削)時の切削工具の摩耗が大きくなった。これは、Srの含有量が多いことによって、SrAl
4が核となり、初晶のSi粒子が粗大になったためと考えられる。
【0107】
比較例7では、アルミニウム合金基板製造の際の加工時にスクラッチが多く発生し、加工性が低下した。また、磁気記録媒体用基板はめっき性が低下した。これは、Feの含有量が本発明の範囲を超えたことによって、Al−Si−Fe化合物の粗大な晶出物が発生したためであると考えられる。
【0108】
これに対して、Si、Cuを本発明の範囲で含み、Si粒子の平均粒子径の平均粒子径が本発明の範囲にある実施例1〜24では、磁気記録媒体用基板は、フラッタリングを抑制しながらめっき性が向上した。
【0109】
また、Zn、Cr、Ti、Mn、Zr、Mg、B、Pの各元素をそれぞれ所定の範囲で含む実施例8では、鋳造性と加工性がさらに向上し、磁気記録媒体用基板のめっき性がさらに向上し、フラッタリングさらに抑制された。
【0110】
また、Znを所定の範囲で含む実施例9〜10では、加工性がさらに向上し、磁気記録媒体用基板はフラッタリングがさらに抑制された。
【0111】
また、Cr、Ti、Niを所定の範囲で含む実施例11〜17では、鋳造性と加工性とがさらに向上した。
【0112】
また、Mnを所定の範囲で含む実施例18〜19では、加工性がさらに向上した。
【0113】
また、Zrを所定の範囲で含む実施例20〜21では、磁気記録媒体用基板のめっき性がさらに向上し、フラッタリングがさらに抑制された。
【0114】
また、Mgの含有量がやや多い実施例22では、鋳造性がわずかに低下した。
また、Bの含有量がやや多い実施例23では、Siの平均粒子径が大きくなった。
そして、Pの含有量がやや多い実施例24では、加工性とめっき性がわずかに低下した。