【実施例1】
【0011】
<画像形成装置>
図1は、実施例1の画像形成装置100の断面図である。画像形成装置100は、電子写真方式を用いて複数色のトナーで記録媒体にカラー画像を形成するプリンターである。画像形成装置100は、4つの画像形成部101(101Y、101M、101C、101K)を有する。画像形成部101Yは、イエロートナーを用いてイエロー画像を形成する。画像形成部101Mは、マゼンタトナーを用いてマゼンタ画像を形成する。画像形成部101Cは、シアントナーを用いてシアン画像を形成する。画像形成部101Kは、ブラックトナーを用いてブラック画像を形成する。参照符号の添字Y、M、CおよびKは、それぞれイエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックを示す。以下の説明において、特に必要でない場合、参照符号の添字Y、M、C、Kを省略することが有る。4つの画像形成部101は、現像剤(トナー)の色を除いて同一の構造を有する。
【0012】
画像形成部101は、感光体としての感光ドラム(像担持体)102を有する。感光ドラム102の周りには、帯電装置103、光走査装置104、現像装置105、一次転写装置111及びドラムクリーニング装置106が配置されている。トナー補給装置130は、トナーボトル131から現像装置105へトナーを補給する。感光ドラム102の下方には、無端状の中間転写ベルト(中間転写体)107が配置されている。
【0013】
中間転写ベルト107は、駆動ローラ108、従動ローラ109及び110に張架されている。中間転写ベルト107は、画像形成の際に
図1の矢印R1で示す方向に回転する。一次転写装置(一次転写ローラ)111は、中間転写ベルト107を介して感光ドラム102に対向して配置されている。一次転写装置111は、感光ドラム102上のトナー像を中間転写ベルト107へ転写する。二次転写装置(二次転写ローラ)112は、中間転写ベルト107を介して従動ローラ110に対向して配置されている。二次転写装置112は、中間転写ベルト107上のトナー像を記録媒体へ転写する。
【0014】
画像形成装置100の下部には、シートS又は封筒Pなどの記録媒体Qを収容する給送カセット120が配置されている。記録媒体Qは、給送カセット120からピックアップローラ121により繰り出され、給送ローラ122、搬送ローラ123及びレジストレーションローラ124により二次転写装置112へ搬送される。記録媒体Qの搬送方向CDにおいて、二次転写装置112の下流には、搬送ベルト125及び定着装置113が配置されている。定着装置113は、トナー像を記録媒体Qに定着させる。
【0015】
(画像形成プロセス)
次に、画像形成装置100の画像形成プロセスを説明する。4つの画像形成部101における画像形成プロセスは同一であるので、イエロートナー像を形成する画像形成部101Yにおける画像形成プロセスを説明する。マゼンタトナー像を形成する画像形成部101M、シアントナー像を形成する画像形成部101C及びブラックトナー像を形成する画像形成部101Kにおける画像形成プロセスの説明は、省略する。
【0016】
感光ドラム102Yは、
図1の矢印R2で示す方向に回転する。帯電装置103Yは、感光ドラム102Yの表面を所定の電位に均一に帯電する(帯電工程)。光走査装置104Yは、イエローの画像情報に従って変調されたレーザ光(光ビーム)を光源としての半導体レーザ(不図示)から出射して、均一に帯電された感光ドラム102Yの表面上に静電潜像を形成する(露光工程)。現像装置105Yは、イエロートナー(現像剤)により静電潜像を現像してイエロートナー画像にする(現像工程)。一次転写装置111Yは、感光ドラム102Y上のイエロートナー像を中間転写ベルト7上へ一次転写する(転写工程)。一次転写の後に感光ドラム102Y上に残ったトナーは、ドラムクリーニング装置106Yにより回収される。
【0017】
同様にして、画像形成部101Mにより形成されたマゼンタトナー像は、中間転写ベルト107上のイエロートナー像の上に精度よく重ねて転写される。以下、シアントナー像およびブラックトナー像が、中間転写ベルト107上のマゼンタトナー像の上に順次重ねて転写される。その結果、中間転写ベルト107上に4色のトナー像が重ね合わされる。
【0018】
給送カセット120から搬送された記録媒体Qは、レジストレーションローラ124により中間転写ベルト107上のトナー像とタイミングを合わせて二次転写装置112へ搬送される。中間転写ベルト107上の4色のトナー像は、二次転写装置112により一括して記録媒体Qへ二次転写される。二次転写の後に中間転写ベルト107上に残ったトナーは、中間転写ベルトクリーナ114により回収される。トナー像が転写された記録媒体Qは、搬送ベルト125により定着装置113へ搬送される。定着装置113は、記録媒体Qを加熱および加圧してトナー像を記録媒体Qへ定着させる。画像が形成された記録媒体Qは、定着出口ローラ126及び排出ローラ127により画像形成装置100の外へ排出される。
【0019】
<定着装置>
以下の説明において、定着装置113の長手方向LD(
図3)は、記録媒体Qの搬送路の面内において搬送方向CDに直交する。定着装置113の短手方向TD(
図2)は、記録媒体Qの搬送方向CDに平行である。定着装置113の正面は、定着装置113を記録媒体Qの入口側ES(
図4)から見た面である。定着装置113の背面は、正面の反対側(出口側)から見た面である。定着装置113の左右は、定着装置113を正面から見て左又は右である。上流と下流は、記録媒体Qの搬送方向CDに関して定着装置1113の上流側と下流側である。
【0020】
図2は、実施例1の定着装置113の短手方向TDに沿って取った断面図である。定着装置113は、定着ベルト1、加圧ローラ2、誘導加熱装置90及び制御回路部92からなる。加熱回転体としての定着ベルト1は、金属層(導電層)を有する無端ベルトである。加圧回転体としての加圧ローラ2は、定着ベルト1に対向して配置されている。加圧ローラ2は、定着ベルト1の外周と接触可能である。圧力付与部材3は、定着ベルト1の内側で加圧ローラ2に対向して配置されている。圧力付与部材3は、定着ベルト1と加圧ローラ2との間に加圧力を付与して定着ニップFNを形成する。加圧ローラ2は、定着ベルト1とともに回転して、定着ニップFNで記録媒体Qを挟持し搬送する。圧力付与部材3は、上流突起部(凸部)3a、平坦部3b及び下流突起部(凸部)3cからなる。圧力付与部材3は、保持部材としての金属製のステー4により保持されている。ステー4の励磁コイル6の側には、定着ベルト1を効率的に加熱するために誘導磁場を定着ベルト1へ集中させるための磁気体コア(内コア)5が設けられている。
【0021】
誘導加熱装置90は、定着ベルト1を誘導加熱する加熱源(誘導加熱手段)である。誘導加熱装置90は、励磁コイル6、外側磁性体コア7a、モールド部材7b及び電源装置(励磁回路)91を有する。励磁コイル6は、定着ベルト1の外周面の一部に対向して配置された長手方向LDに延在する船底状のリッツ線などの電線のコイルである。外側磁性体コア7aは、励磁コイル6によって発生した磁界が定着ベルト1の金属層以外へ実質的に漏れないように励磁コイル6を覆う。モールド部材7bは、励磁コイル6及び外側磁性体コア7aを電気絶縁性の樹脂によって支持する。誘導加熱装置90は、定着ベルト1の外周面の上側において、定着ベルト1に所定のギャップ(隙間)を設けて対面して配置されている。
【0022】
定着ベルト1の回転状態において、電源装置91は、20〜50kHzの高周波電流(電力)を誘導加熱装置90の励磁コイル6へ印加する。励磁コイル6は、磁界を発生する。励磁コイル6の磁界は、定着ベルト1の金属層(導電層)を誘導加熱する。サーミスタなどの温度センサ(温度検出素子)9は、長手方向LDにおける定着ベルト1の中央部の内面に当接して配置されている。温度センサ9は、通紙領域における定着ベルト1の温度を検出し、検出温度を制御回路部92へフィードバックする。制御回路部92は、温度センサ9から入力される検出温度が目標温度(定着温度)に維持されるように電源装置91から励磁コイル6へ印加される高周波電流を制御する。すなわち、定着ベルト1の検出温度が目標温度に昇温すると、励磁コイル6への通電が遮断される。本実施例では、画像形成装置100の立ち上げ中は、定着ベルト1の温度が目標温度である180℃で一定になるように、温度センサ9の検出温度に基づいて高周波電流の周波数を変化させて励磁コイル6に入力する電力を制御して定着ベルト1の温度調節を行う。目標温度は、画像形成装置100の本体に配置されている温湿度センサ11により推測される記録媒体Qの温度に基づいて変更されてもよい。
【0023】
温度センサ9は、圧力付与部材3に弾性支持部材12を介して取り付けられている。定着ベルト1の当接面が波打つなどの位置変動が生じたとしても、温度センサ9は、弾性支持部材12の弾性変形により定着ベルト1の当接面に追従して良好な接触状態を維持する。定着ベルト1は、制御回路部92により制御されるモータ(駆動手段)93により駆動される加圧ローラ2の回転に従動して回転される。定着ベルト1の回転速度は、制御回路部92がモータ93を制御することにより制御される。定着ベルト1は、少なくとも画像形成動作中は、二次転写装置112から搬送ベルト125により搬送される未定着トナー画像を担持した記録媒体Qの搬送速度とほぼ同じ周速度で回転される。
【0024】
定着装置113の動作を説明する。制御回路部92は、電源装置91を制御して高周波電流を電源装置91から誘導加熱装置90の励磁コイル6へ印加する。定着ベルト1は、誘導加熱装置90により誘導加熱される。定着ベルト1の温度は、制御回路部92により目標温度に維持される。未定着トナー像が転写された記録媒体Qは、ガイド部材(不図示)により定着ベルト1と加圧ローラ2の間の定着ニップFNへ案内される。記録媒体Qは、トナー像を担持する面を定着ベルト1へ向けて定着ニップFNへ導入される。記録媒体Qは、定着ニップFNにおいて定着ベルト1と加圧ローラ2により挟持される。記録媒体Qは、定着ベルト1の外周面に密着し、定着ベルト1と一緒に搬送される。これにより、定着ベルト1の熱が記録媒体Qへ付与される。定着ベルト1は、トナー像を記録媒体Qに熱定着させるための加熱回転体(加熱手段)である。記録媒体Qが定着ニップFNの加圧力を受けて、未定着トナー像は、記録媒体Qの表面に熱圧定着される。定着ニップFNを通った記録媒体Qは、定着ベルト1の表面が定着ニップFNの出口部分で変形することにより、定着ベルト1の外周面から自己分離され、定着装置113の外へ搬送される。
【0025】
<圧力付与部材>
図3は、実施例1の定着装置113の長手方向LDに沿って取った断面図である。定着装置113の長手方向LDの両端部には、定着ベルト1の長手方向の移動および周方向の形状を規制する規制部材としての定着フランジ22がそれぞれ設けられている。ステー4の両端部は、定着フランジ22内に挿通して配設されている。圧力付与部材3は、ステー4の下面に設けられている。加圧レバー33と固定ビス34との間に、加圧バネ34aが縮設されている。加圧バネ34aは、加圧レバー33へ押し下げ力を作用させ、加圧レバー33が定着フランジ22を押し下げている。これにより、定着フランジ22に保持されたステー4に設けられた圧力付与部材3の下面と加圧ローラ2の上面とが定着ベルト1を挟んで圧接して所定幅の定着ニップFNを形成する。
【0026】
圧力付与部材3は、定着ベルト1と加圧ローラ2との間に加圧力を作用させて定着ニップFNを形成する。圧力付与部材3は、金属製のステー4により保持されている。圧力付与部材3は、耐熱性樹脂で形成されている。ステー4は、圧力付与部材3へ押圧力を作用させるための剛性が必要であるので、本実施例では、鉄製である。圧力付与部材3は、加圧ローラ2へ圧力をかけた時の圧力付与部材3の撓みを補正するために、圧力付与部材3の中央部が端部より加圧ローラ2へ向かって突出したクラウン形状を有する。本実施例において、圧力付与部材3のクラウン量CR(
図9(a))は、圧力付与部材3の中央部と端部(中央部から200mmの位置)の間で1.6mmである。
図2に示すように、圧力付与部材3は、定着ニップFNの上流に上流突起部3a、定着ニップFNの下流に下流突起部3cを有する。圧力付与部材3は、上流突起部3aと下流突起部3cの間に平坦部3bを有する。
【0027】
<加圧・圧解除機構>
図4は、入口側ESから見た定着装置113の斜視図である。定着装置113の長手方向LDの両端部には、加圧・圧解除手段(加圧力切替手段)としての加圧・圧解除機構(加圧力切替機構)30がそれぞれ設けられている。加圧・圧解除機構30は、回転部材としての回転駆動軸31、加圧部材としての加圧レバー33、固定ビス34及び付勢手段としての加圧バネ34aを有する。なお、固定ビス34と加圧バネ34aは、バネ付きビスとして一体に形成されていてもよい。
【0028】
回転駆動軸31は、長手方向LDの両端部に配置されている側板19に回転自在に保持されている。側板19は、定着装置113の枠体を構成する。長手方向LDにおける回転駆動軸31の両端部には、圧解除部材としての偏心カム32がそれぞれ設けられている。また、長手方向LDにおける回転駆動軸31の一端部には、圧解除ギア35が設けられている。定着着脱モータ300の回転は、後述するCPU(制御部)251からの制御信号に従って制御される。定着着脱モータ300の回転は、駆動伝達ギア(不図示)を介して、圧解除ギア35へ伝達され、圧解除ギア35を所定の方向へ所定量だけ回転させる。圧解除ギア35の回転に従って回転駆動軸31が回転し、これに伴い偏心カム32が回転する。
【0029】
加圧レバー33の一端部は、側板19に設けられている支持軸17に回動自在に保持されている。加圧レバー33の他端部は、固定ビス34の加圧バネ34aにより定着フランジ22へ向かって付勢されている。加圧レバー33は、支持軸17を支点として回動することにより、定着フランジ22に圧接したり、定着フランジ22から離間したりする。
【0030】
図5は、実施例1の偏心カム32の説明図である。偏心カム32は、第一のピーク位置PP1および第二のピーク位置PP2の2つの位置にピークを有する形状に形成されている。また、偏心カム32は、回転駆動軸31からの距離が最も小さい非係合位置PP3に平坦部が形成されている。
図6は、実施例1の定着装置113の加圧力の切り替え動作の説明図である。
図6を用いて、偏心カム32の回転による加圧力の切り替え動作を説明する。
図6(a)は、偏心カム32が加圧レバー33を押し上げていない状態を示す図である。偏心カム32の非係合位置PP3の平坦部が加圧レバー33の下面に対向しているので、偏心カム32は、加圧レバー33の下面に係合していない。すなわち、偏心カム32は、加圧レバー33を押し上げていない。偏心カム32が加圧レバー33を押し上げていないとき、加圧バネ34aの付勢力により加圧レバー33は、定着フランジ22に最も大きな加圧力を作用している。このとき、定着ニップFNにおける定着ベルト1と加圧ローラの間の加圧力が最も大きい。
図6(a)に示す状態を通常圧モード(第一の状態)という。通常圧モードにおける加圧力は、500[N]である。定着装置113は、通常圧モードにおいて、普通紙などのシートにトナー像を定着させる。
【0031】
図6(b)は、偏心カム32が第一のピーク位置PP1で加圧レバー33を押し上げている状態を示す図である。偏心カム32が回転し、加圧レバー33を偏心カム32の第一のピーク位置PP1まで押し上げると、定着フランジ22への加圧力は低減する。
図6(b)に示すように、定着フランジ22の位置は、
図6(a)に示す通常圧モードにおける位置よりΔY1だけ上へ上がる。このとき、定着ニップFNにおける定着ベルト1と加圧ローラの間の加圧力が低減される。
図6(b)に示す状態を封筒圧モード(第二の状態)という。封筒圧モードにおける加圧力は、300[N]である。封筒圧モードにおける加圧力(第二の加圧力)は、通常圧モードにおける加圧力(第一の加圧力)より小さい。本実施例において、封筒圧モードにおける加圧力は、通常圧モードにおける加圧力の約0.6倍である。定着装置113は、封筒圧モードにおいて、封筒にトナー像を定着させる。
【0032】
図6(c)は、偏心カム32が第二のピーク位置PP2で加圧レバー33を押し上げている状態を示す図である。偏心カム32が更に回転し、加圧レバー33を偏心カム32の第二のピーク位置PP2まで押し上げると、定着フランジ22への加圧力は更に低減する。
図6(c)に示すように、定着フランジ22の位置は、
図6(b)に示す封筒圧モードにおける位置より更にΔY2だけ上へ上がる。このとき、定着ニップFにおける定着ベルト1と加圧ローラ2は、離間する。
図6(c)に示す状態を圧解除モード(第三の状態)という。なお、定着フランジ22は、バネなどの付勢部材(不図示)により上方へ付勢されているので、
図6(c)に示す圧解除モードにおいて、定着ベルト1は、加圧ローラ2から離間される。
【0033】
<加圧モードについて>
加圧・圧解除機構30は、定着装置113の加圧モードを、通常圧モード(第一の加圧モード)と、封筒圧モード(第二の加圧モード)と、圧解除モードとへ切り替える。以下、
図7及び
図8を参照して、定着装置113の通常圧モード及び封筒圧モードにおける定着ニップFNの状態を説明する。
図7は、通常圧モードにおいて封筒Pに皺が発生するメカニズムの説明図である。
図8は、封筒圧モードにおいて封筒Pに皺が発生することを防止するメカニズムの説明図である。
図7(a)及び
図8(a)は、通常圧モード及び封筒圧モードにおいて封筒P以外のシートSが定着ニップFNを通過するときの定着装置113の断面図である。
図7(b)及び
図8(b)は、通常圧モード及び封筒圧モードにおいて封筒Pが定着ニップFNを通過するときの定着装置113の断面図である。
図7(c)及び
図8(c)は、通常圧モード及び封筒圧モードにおいて定着ニップFNを通過する封筒Pの表面および裏面の速度分布を示す図である。
【0034】
図7(a)及び
図7(b)に示す通常圧モードにおいて、圧力付与部材3の上流突起部3a、平坦部3b及び下流突起部3cは、定着ベルト1を介して加圧ローラ2に圧接する。通常圧モードにおいて、定着ニップFNは、圧力付与部材3の上流突起部3a、平坦部3b及び下流突起部3cにより上凸形状になる。そのため、
図7(a)に示すように、定着ニップFNから出てくる封筒P以外の記録媒体QであるシートSの先端部は、下方向へ進む。これにより、坪量が小さく剛性が低いシートSであっても、定着装置113から排出されるときに、シートSは、定着ベルト1から十分に分離される。
【0035】
図7(b)は、通常圧モードにおいて定着ニップFNを通過する封筒Pの模式図である。封筒Pは、表紙(上面シート)と裏紙(下面シート)の二枚のシートが重ねられて拘束部分Xで表紙と裏紙が接続されている。定着ニップFNは、通常圧モードにおいて上凸形状になっているので、封筒Pの底部や側部などの拘束部分X以外の表紙と裏紙は、それぞれ変形する。そのため、
図7(b)の矢印の大きさで示すように表紙と裏紙で搬送速度(搬送量)の差が発生する。
図7(c)は、通常圧モードにおいて封筒Pが長型3号である場合の封筒Pの表紙の搬送速度(実線矢印)と裏紙の搬送速度(点線矢印)を示す図である。封筒Pの表紙の搬送速度は、裏紙の搬送速度より大きい。封筒Pの表紙と裏紙は、定着ベルト1の回転軸線RA(
図3)の方向において封筒Pの少なくとも一辺で互いに拘束(接続)されている。長型3号の封筒Pの場合、
図7(c)に示すように、拘束部分Xの三辺で表紙と裏紙が接続されている。拘束部分Xにおいて表紙と裏紙は連続しているので、拘束部分Xは、表紙の搬送速度と裏紙の搬送速度の中間的な搬送速度で定着ニップFNを通過する。回転軸線RAの方向において、封筒Pの拘束部分Xの搬送量(送り量)と非拘束部分の搬送量(送り量)の差により、白抜き矢印のような回転モーメントが発生し、ストレスの蓄積に紙の剛性が耐えきれなくなったところから皺Wが発生する。
【0036】
図8(a)及び
図8(b)に示す封筒圧モードにおいて、圧力付与部材3の上流突起部3a及び下流突起部3cは、定着ベルト1を介して加圧ローラ2に圧接しているが、平坦部3bは、定着ベルト1から離間している。封筒圧モードにおいて、定着ニップFNは、圧力付与部材3の上流突起部3a及び下流突起部3c並びに定着ベルト1の剛性により、上凸形状にならずにストレート形状になる。そのため、
図8(a)に示すように、シートSは、ストレート形状で定着ニップFNを通過する。定着ニップFNから出てくるシートSの先端部は、水平方向へ進む。この場合、定着ベルト1の曲率が十分に確保できないので、坪量が小さく剛性が低いシートSは、定着装置113から排出されるときに定着ベルト1から十分に分離されないことがある。
【0037】
図8(b)は、封筒圧モードにおいて定着ニップFNを通過する封筒Pの模式図である。定着ニップFNは、封筒圧モードにおいて上凸形状にならずにストレート形状になる。
二枚のシートが重なっている封筒Pは、剛性が高いので、定着ニップFNがストレート形状になっていても、封筒Pが定着装置113から排出されるときに、定着ベルト1から十分に分離される。また、定着ニップFNがストレート形状になっているので、封筒Pの表紙と裏紙の変形が抑えられ、表紙と裏紙の搬送速度(搬送量)の差が抑制される。
図8(c)は、封筒圧モードにおいて封筒Pが長型3号である場合の封筒Pの表面の搬送速度(実線矢印)と裏面の搬送速度(点線矢印)を示す図である。封筒Pの表紙の搬送速度は、裏紙の搬送速度と略同じである。従って、回転軸線RAの方向において、封筒Pの拘束部分Xの搬送量(送り量)と非拘束部分の搬送量(送り量)のずれの発生が抑制され、封筒Pに皺が発生することを防ぐことができる。
【0038】
<長手方向端部の定着性について>
封筒圧モードは、封筒Pに皺が発生することを有効に防ぐことができる。しかし、定着装置113の長手方向LDにおける両端部において定着性が低下することがある。すなわち、記録媒体Q上に転写されたトナーの量が多い場合、長手方向LDにおける定着ベルト1の両端部を通過するトナー像は十分に定着されず、トナー剥がれ等の画像不良が発生する可能性がある。
【0039】
以下、
図9を参照して、封筒圧モードにおいて長手方向LDにおける定着ベルト1の両端部における定着性が低下する理由を説明する。
図9は、封筒圧モードにおいて長手方向LDにおける両端部の定着性が低下する理由の説明図である。
図9(a)は、圧解除モードにおける定着ベルト1及び圧力付与部材3の模式図である。圧解除モードにおいては、
図6(c)を用いて説明したように加圧レバー33が定着フランジへ加える加圧力が小さいので、定着ベルト1は、加圧ローラ2から離間されている。圧力付与部材3は、長手方向LDの中央部が下方へすなわち加圧ローラ2へ向かって突出するクラウン形状を有する。本実施例において、圧力付与部材3の中央部が端部に対して突出するクラウン量CRは、1.6mmである。定着ベルト1の下面は、圧力付与部材3のクラウン形状に沿って湾曲している。なお、
図9は、理解を容易にするために、圧力付与部材3のクラウン形状を、縮尺を無視して非常に極端に図示している。
【0040】
図9(b)は、通常圧モードにおける定着ベルト1、加圧ローラ2及び圧力付与部材3の模式図である。通常圧モードにおいては、
図6(a)を用いて説明したように加圧レバー33が定着フランジ22のステー4を介して圧力付与部材3へ加圧力を加えるので、圧力付与部材3は、定着ベルト1を介して加圧ローラ2に圧接され、定着ニップFNを形成する。通常圧モードにおいては、長手方向LDにおける定着ベルト1の両端部は、加圧ローラ2に密着する。又は、定着ベルト1の両端部と加圧ローラ2の間に非常に小さい隙間が形成される。よって、定着装置113は、長手方向LDにおける定着ベルト1の両端部を通過する記録媒体Q上のトナーへ十分な熱量を与えることができるので、トナー量が多い場合でも記録媒体Qへトナー像を定着することができる。
【0041】
図9(c)は、封筒圧モードにおける定着ベルト1、加圧ローラ2及び圧力付与部材3の模式図である。封筒圧モードにおいては、
図6(b)を用いて説明したように加圧レバー33が定着フランジ22へ加える加圧力が通常圧モードと比較して小さいので、長手方向LDにおける定着ベルト1の両端部は、加圧ローラ2に密着していない。定着ベルト1の両端部と加圧ローラ2の間に大きな隙間Gが形成される。そのため、定着装置113は、長手方向LDにおける定着ベルト1の両端部を通過する記録媒体Q上のトナーへ十分な熱量を与えることができず、定着不良が発生しやすい。このように、封筒圧モードにおいては、長手方向LDにおける定着ベルト1の両端部における定着性が低下する。
【0042】
<制御ブロック図>
図10は、画像形成装置100の制御システム220のブロック図である。制御システム220は、ビデオコントローラ部200及びエンジンコントローラ部250を含む。ビデオコントローラ部200は、バスライン215に接続されたCPU201、ROM202、RAM203、画像処理部204、シリアル通信IF205を有する。ビデオコントローラ部200は、更に、バスライン215に接続された不揮発性記憶部206、ネットワークIF部207、オプションIF部208、画像圧縮伸張部209、RIP部210及び画素値カウント部211を有する。エンジンコントローラ部250は、バスライン265に接続されたCPU251、ROM252、RAM253、PWM出力部254、シリアル通信IF255及びI/O部256を有する。I/O部256は、定着着脱モータ300に電気的に接続されている。
【0043】
CPU(中央演算処理装置)201は、ビデオコントローラ部200を構成する各部へ指示を行なう。ROM202は、起動プログラムを保存するブートROM(読取専用メモリ)である。不揮発性記憶部206は、ビデオコントローラ部200の制御プログラムおよび入力画像データを保存するハードディスクドライブである。RAM203は、ビデオコントローラ部200の制御プログラムの作業用データを保存するランダムアクセスメモリである。ネットワークIF部207は、外部コンピュータ(不図示)との間で画像データの受け渡しを行なうLANカードである。オプションIF部208は、原稿の画像を読み取る画像読取装置(不図示)やFAX回線(不図示)との間で画像データの受け渡しを行なうためのインタフェースである。オプションIF部208は、画像読取装置に接続されるラティスコネクタおよび公衆回線に接続されるモデムから構成される。
【0044】
ネットワークIF部207又はオプションIF部208を介して入力される画像データは、画像圧縮伸張部209により圧縮されて不揮発性記憶部206に保存される。なお、本実施例における画像データの解像度は、1200dpiである。画像データがネットワークIFを介して入力されたページ記述言語(PDL:Page Discription Languate)である場合、ラスターイメージプロセッサとしてのRIP部210は、PDLコードをラスターイメージデータへ展開する。ラスターイメージデータは、画像圧縮伸張部209により圧縮され、不揮発性記憶部206に保存される。画像処理部204は、入力された画像データに対して、画像形成装置100の特性に合わせた画像処理を施す。
【0045】
カラーの画像データは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の画像データを含む。モノクロの画像データは、ブラック(K)の画像データを含む。画素値カウント部211は、入力された画像データの色成分ごとの画像データを構成する各画素の濃度値を積算する。本実施例では、各画素の濃度値は、8bit(0〜255)の階調で表される。一例として、Yの画像データの1画素目濃度値が100で、2画素目の濃度値が50であれば、1画素目と2画素目の積算値は、150となる。画素値カウント部211は、画素の濃度値(以下、画素値という)の積算を、設定された領域内の全ての画素に対して、全ての色成分について行う。画素値カウント部211によりカウントされた画素値の積算値は、画素値カウント部211の内部のレジスタ(不図示)に保存される。画素値カウント部211は、設定された領域内の全ての画素の画素値のカウントが終了すると、CPU201へ割込み信号を送出する。CPU201は、割込み信号をトリガとして、制御プログラムに従って画素値カウント部211のレジスタ(不図示)に保存された画素値の積算値を読み出す。CPU201は、画素値のカウントが終了した時点で画素値の積算値を取得することができる。
【0046】
ビデオコントローラ部200において、CPU201は、制御プログラムに従って画像形成装置100の本体の動作に同期して、不揮発性記憶部206に保存された画像データを読出し、画像圧縮伸張部209により画像データを伸張する。CPU201は、画像処理部204により画像処理を実行し、画素値カウント部211により画素値をカウントして積算値を取得した後、画像処理部204からエンジンコントローラ部250のPWM出力部254へ画像信号を送出する。
【0047】
CPU(中央演算処理装置)251は、エンジンコントローラ部250を構成する各部へ指示を行なう。ROM252は、制御プログラムとしてのファームウェアを保存する読取専用メモリである。RAM253は、エンジンコントローラ部250の制御プログラムの作業用データを保存するランダムアクセスメモリである。PWM出力部254は、ビデオコントローラ部200の画像処理部204に電気的に接続されており、画像処理部204から送出される画像信号に基づいてPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成する。I/O部256は、画像形成装置100に備わる各種のアクチュエータおよびセンサ(不図示)に電気的に接続されている。圧解除ギア35を回転させるための定着着脱モータ300は、I/O部256に電気的に接続されている。エンジンコントローラ部250は、制御プログラムに基づくCPU251の指示に従い、画像形成装置100の各部を駆動して電子写真プロセス方式により印刷動作を実行する。
【0048】
ビデオコントローラ部200とエンジンコントローラ部250は、三線式のシリアル通信IF205と255をそれぞれ備えている。CPU201とCPU251は、シリアル通信IF205と255を介してデータの送受信を行なう。ビデオコントローラ部200からエンジンコントローラ部250へは、主に、入力された画像データのサイズや解像度、使用する記録媒体の種類(普通紙や厚紙等)、画素値などのプリントジョブに関する情報の通知が行われる。また、エンジンコントローラ部250からビデオコントローラ部200へは、画像形成装置100の本体が準備動作状態であるかプリント可能状態であるかという装置の状態および給送カセット120内の記録媒体の有無の情報の通知が行われる。
【0049】
<領域分割と画素値カウント>
以下、
図11及び
図12を参照して、実施例1における画素値カウントの方法を説明する。
図11は、実施例1における画像領域IAの分割方法の説明図である。
図11において、斜線部は、画像形成部101によりトナー像を形成可能な画像領域を示している。記録媒体の搬送方向CDに直行する方向を主走査方向MSといい、搬送方向CDに平行な方向を副走査方向SSという。本実施例では、画像領域IAのどのあたりにどの程度の濃度のトナー像が形成されているかというトナー量分布を知る必要があるため、画素値カウント部211は、画像領域IAを主走査方向MSに複数の領域に分割し、領域ごとに画素値をカウントする。画素値の積算値が大きいほど、その領域のトナー量が多い。画素値の積算値はトナー量に比例するので、画素値カウント部211は、複数の領域のそれぞれのトナー量に関する情報を取得する取得手段として機能する。
【0050】
画像領域IAの主走査方向MSの幅は、画像形成装置100が印刷可能な画像の最大幅と等しく、本実施例の場合、330mmである。また、本実施例における画像データは、1200dpiであるので、主走査方向MSの画素数は、15600画素である。実施例1においては、画像領域IAの主走査方向MSの幅は、X0、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8及びX9で示す10の領域に分割される。すなわち、主走査方向MSの1領域の幅は、1560画素である。一方、画像領域IAの副走査方向SSの長さLは、使用する記録媒体の長さに等しい。以上のように、画像領域IAは、主走査方向MSに複数の領域X0−X9に分割され、領域ごとに画素値の積算値が算出される。なお、主走査方向MSの領域X0−X9の数は10に限るものではなく、求められるトナー量分布の精度に応じて分割される領域の数を変えてもよい。
【0051】
図12は、実施例1における画素値カウントの例を示す図である。
図12(a)は、角型2号(240mm×332mm)の封筒Pの主走査方向MSの端部のトナー量が多い画像の例を示す図である。
図12(a)に示すように、領域X1とX2に帯状の画像が形成され、領域X7に文字が形成される。
図12(c)は、
図12(a)に示す画像の例において領域X0−X9の画素値の積算値を示す表である。帯状の画像が形成される領域X1とX2は、画素値の積算値が大きく、文字が形成される領域X7は画素値の積算値が小さい。それ以外の領域は、トナー像が形成されないため、画素値の積算値は0である。一方、
図12(b)は、角型2号の封筒Pの主走査方向MSの端部のトナー量が少ない画像の例を示す図である。
図12(b)に示すように、領域X1に文字のみの画像が形成される。
図12(d)は、
図12(b)に示す画像の例において領域X0−X9の画素値の積算値を示す表である。
図12(b)に示す画像の例においては、
図12(a)に示す画像の例に比べて、領域X1とX2の画素値の積算値が小さい。
図12(a)に示す画像の例のように主走査方向MSの端部の領域の画素値の積算値が大きい場合、封筒圧モードでトナー像を封筒Pに定着するときに定着不良が発生しやすい。
【0052】
<積算値に応じた加圧モード選択>
封筒Pに皺が発生することを抑制するためには、加圧力の弱い封筒圧モードで定着する必要があるが、封筒圧モードでは、上述のように、定着装置113の長手方向LDの端部の定着性が低く、定着不良が発生しやすいという問題がある。この問題を解決するために、前述の画像領域IAの端部の領域の画素値の積算値が所定の閾値より小さい場合に封筒圧モードで定着処理を実行する。端部の領域の画素値の積算値が所定の閾値より小さい場合、端部の領域のトナー量が少ないので、端部の定着性が低い封筒圧モードで定着処理を実行しても定着不良が発生しにくい。よって、幅の広い封筒であっても定着不良が発生することなく、かつ封筒に皺が発生することを抑制できる。画像領域IAの端部は、主走査方向MSにおける一端部の領域から所定の数の領域までと他端部の領域から所定の数の領域までを含む。本実施例では、所定の数を3とし、一端部の領域X0から領域X2までおよび領域X7から他端部の領域X9までを画像領域IAの端部と定義する。なお、画像領域IAの端部は、複数の領域X0〜X9のうちすくなくとも画像領域IAの主走査方向MSにおける両端部の領域X0及びX9を含んでいるとよい。
【0053】
本実施例において、所定の閾値(第一の値)を5×10
8に設定した。すなわち、所定の領域X0〜X2およびX7〜X9のそれぞれの画素値の積算値がすべて5×10
8の所定の閾値未満である場合に封筒圧モードで定着処理を実行する。なお、画像領域IAの端部の定義はこれに限られるものではなく、X0とX9のみを端部と定義するなど、定着装置113の構成に応じて対象とする領域を変えてもよい。同様に、所定の閾値も5×10
8の値に限られるものではなく、封筒圧モードにおいて定着可能なトナー量を実験的に求めて所定の閾値を設定してもよいし、記録媒体の副走査方向SSの長さに応じて所定の閾値を変更するようにしてもよい。
【0054】
以上の制御を実現するためにエンジンコントローラ部250のCPU251が実行する処理を、
図13を参照して説明する。
図13は、実施例1におけるCPU251が実行するプリント動作を示す流れ図である。CPU251は、ROM252に保存されたプログラムに従ってプリント動作を実行する。実施例1のプリント待機状態において、定着装置113は、通常圧モードで待機している。プリントジョブが開始されると、CPU251は、記録媒体Qが封筒Pであるか否かを判断する(S101)。使用する記録媒体Qの種類に関する情報は、プリントジョブの開始時にビデオコントローラ部200からシリアル通信IF205及び255を通じてエンジンコントローラ部250へ通知される。CPU251は、記録媒体Qの種類に関する情報を参照して、使用する記録媒体Qが封筒Pであるか否かを判断する。記録媒体Qが封筒Pでない場合(S101でNO)、処理は、S105へ進む。CPU251は、定着装置113に通常圧モードでトナー像を記録媒体Qに定着させる(S105)。
【0055】
記録媒体Qが封筒Pである場合(S101でYES)、処理は、S102へ進む。CPU251は、画像領域IAの主走査方向MSに分割された各領域の画素値の積算値を取得する。すなわち、
図12(c)及び
図12(d)で示した例のように領域X0〜X9のそれぞれの画素値の積算値を取得する。画素値カウント部211によりカウントされた各領域の画素値の積算値は、ビデオコントローラ部200からシリアル通信IF205及び255を通じてエンジンコントローラ部250へ通知される。CPU251は、領域X0〜X9のそれぞれの積算値をRAM253に保存する。
【0056】
CPU251は、取得した各領域X0〜X9の積算値を参照し、主走査方向MSにおける端部の所定の領域X0〜X2およびX7〜X9の積算値がすべて5×10
8の所定の閾値未満であるか否かを判断する(S103)。所定の領域X0〜X2およびX7〜X9の積算値がすべて5×10
8未満である場合(S103でYES)、処理は、S104へ進む。CPU251は、定着着脱モータ300を駆動することにより定着装置113の加圧モードを通常圧モードから封筒圧モードへ切り替える(S104)。その後、処理は、S105へ進む。CPU251は、定着装置113に封筒圧モードでトナー像を封筒Pに定着させる(S105)。所定の領域X0〜X2およびX7〜X9の中で1つでも積算値が5×10
8の所定の閾値以上の領域がある場合(S103でNO)、CPU251は、S104をスキップしてS105へ進み、定着装置113の加圧モードを通常圧モードに維持する。CPU251は、定着装置113に通常圧モードでトナー像を封筒Pに定着させる(S105)。
【0057】
なお、記録媒体Qが封筒Pであり、封筒Pの主走査方向MSの幅が十分に小さい(明らかに所定の領域X0〜X2およびX7〜X9に画像が形成されない)場合、画素値の積算値に基づく判断を行うまでもなく封筒圧モードで定着処理を実行できる。従って、S101において記録媒体Qが主走査方向MSの幅が所定値より小さい封筒Pであると判断された場合、S102とS103の処理をスキップしてS104へと進むようにしてもよい。
【0058】
定着処理が実行された後、CPU251は、記録媒体Qが定着ニップFNを抜けるまで待機する(S106)。記録媒体Qが定着ニップFNを抜けたらば(S106でYES)、実行中のプリントジョブに次のページが存在するか否かを判断する(S107)。次のページが存在しない場合(S107でNO)、CPU251は、定着装置113を通常圧モードに設定し(S108)、プリントジョブを終了する。次のページが存在する場合(S107でYES)、CPU251は、S101へ戻り、次のページのプリント動作を実行する。なお、複数の同じ種類の記録媒体に同じ画像を形成する場合、次の記録媒体についてはS101〜S104の処理をスキップしてもよい。例えば、ビデオコントローラ部200から得られた情報に基づいて、次の記録媒体が前の記録媒体と同じであり且つ同じ画像を形成すると判断できる場合、次の記録媒体についてはS101〜S104の処理をスキップしてもよい。
【0059】
以上のように、封筒Pの端部の領域の定着不良の発生を抑制しつつ、封筒Pに皺が発生することを抑制できる。実施例1によれば、封筒Pの端部の領域のトナー像の定着不良を防止することができる。
【実施例2】
【0060】
以下、実施例2を説明する。実施例2において、実施例1と同様の構造には同様の参照符号を付して説明を省略する。実施例2の画像形成装置100、定着装置113、圧力付与部材3及び加圧・圧解除機構30は、実施例1と同様であるので説明を省略する。実施例2は、画像領域IAを主走査方向MSだけでなく副走査方向SSにも分割した領域の画素値の積算値に基づいて定着装置113の加圧モードを設定する点で、実施例1と異なる。以下、異なる点を主に説明する。
【0061】
<領域分割と画素値カウント>
以下、
図14を参照して、実施例2における画素値カウントの方法を説明する。
図14は、実施例2における画像領域IAの分割方法の説明図である。
図14において、斜線部は、画像形成部101によりトナー像を形成可能な画像領域IAを示している。実施例1では画像領域IAを主走査方向MSのみに分割したが、実施例2では主走査方向MSに加えて副走査方向SSにも設定された数で分割する。画像領域IAの主走査方向MSの幅は、実施例1と同様に330mmである。主走査方向MSの画素数は、15600画素である。実施例2においても、実施例1と同様に、画像領域IAの主走査方向MSの幅は、X0、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8及びX9で示す10の領域に分割される。一方、画像領域IAの副走査方向SSの長さは、使用する記録媒体の長さに応じて可変である。本実施例では、副走査方向SSの1つの領域の長さを4160画素とする。副走査方向SSにおける分割領域の数は、記録媒体が画像領域IAの範囲内に入るように設定される。副走査方向SSにおける分割領域の数が可変であるので、
図14中では分割領域Y0、Y1、・・・、Ynという領域名で示している。
【0062】
実施例2において、画素値カウント部211は、画像領域IAを主走査方向MSと副走査方向SSとにそれぞれ設定された数で分割し、分割領域ごとに画素値をカウントして積算値を算出する。画素値の積算値はトナー量に比例するので、画素値カウント部211は、複数の領域のそれぞれのトナー量に関する情報を取得する取得手段として機能する。分割領域X0Y0〜X9Ynは、主走査方向MSの領域X0〜X9と副走査方向SSの分割領域Y0〜Ynを組み合わせて判別される。
【0063】
図15は、実施例2における画像領域IAの分割例を示す図である。
図15(a)は、記録媒体Qとして角型2号(240mm×332mm)の封筒Pを用いた場合の例である。主走査方向MSについてはX0〜X9の10領域に分割される。一方、副走査方向SSについては、角型2号の封筒Pの長さが332mm=15684画素であるので、分割領域Y0〜Y3の4つの分割領域に分割される。すなわち、画像領域IAは、分割領域X0Y0〜X9Y3の40の分割領域に分割される。
図15(b)は、記録媒体Qとして長形3号(120mm×235mm)の封筒Pを用いた場合の例である。主走査方向MSについては、
図15(a)と同様に10領域に分割される。副走査方向SSについては、長形3号の封筒Pの長さが235mm=11100画素であるので、分割領域Y0〜Y2の3つの分割領域に分割される。すなわち、画像領域IAは、分割領域X0Y0〜X9Y2の30の分割領域に分割される。
【0064】
なお、実施例1と同様に、主走査方向MSの領域X0−X9の数は10に限るものではなく、求められるトナー量分布の精度に応じて分割される領域の数を変えてもよい。また、副走査方向SSの分割領域の長さや分割方法もこれに限るものではなく、領域の数をあらかじめ決めておき、印刷する画像の長さを予め決められた領域の数で等分する方法などでもよい。
【0065】
図16は、実施例2における画素値カウントの例を示す図である。
図16(a)は、角型2号(240mm×332mm)の封筒Pに印刷する画像の例を示す図である。
図16(a)に示すように、トナー量の多い図形が分割領域X1Y3及びX2Y3に形成されている。
図16(b)は、
図16(a)に示す画像の例において各領域の画素値の積算値を示す表である。なお、画素値の積算値が0の領域については記載を省略している。分割領域X1Y3及びX2Y3は、トナー量の多い図形が形成されているので、画素値の積算値が大きい。分割領域X1Y2、X7Y0及びX7Y1は、文字のみの画像が形成されているので、画素値の積算値は小さい。それ以外の領域は、トナー像は形成されないため、画素値の積算値は0である。
図16(a)に示す画像の例のように、主走査方向MSの端部の領域の画素値の積算値が大きい場合、封筒圧モードでトナー像を封筒Pに定着するときに定着不良が発生しやすい。
【0066】
<積算値に応じた加圧モード選択>
主走査方向MSの端部での定着不良の発生を抑制するために、画像領域IAの主走査方向MSの端部に属する領域の積算値がすべて所定の閾値未満であるときに封筒圧モードで定着処理を実行する。実施例2は、主走査方向MSの端部の領域が副走査方向SSにおいても分割されている点で実施例1と異なる。本実施例では、領域X0〜X2およびX7〜X9を画像領域IAの端部と定義する。所定の閾値(第二の値)を3×10
8に設定した。すなわち、分割領域X0Y0〜X2Y3およびX7Y0〜X9Y3の合計24の分割領域のそれぞれの画素値の積算値がすべて3×10
8の所定の閾値未満である場合に封筒圧モードで定着処理を実行する。なお、実施例1と同様に、画像領域IAの端部の定義はこれに限られるものではなく、X0とX9のみを端部と定義するなど、定着装置113の構成に応じて対象とする領域を変えてもよい。同様に、所定の閾値も3×10
8の値に限られるものではなく、封筒圧モードにおいて定着可能なトナー量を実験的に求めて所定の閾値を設定してもよいし、記録媒体の副走査方向SSの長さに応じて所定の閾値を変更するようにしてもよい。
【0067】
以上の制御を実現するためにエンジンコントローラ部250のCPU251が実行する処理を、
図17を参照して説明する。
図17は、実施例2におけるCPU251が実行するプリント動作を示す流れ図である。CPU251は、ROM252に保存されたプログラムに従ってプリント動作を実行する。実施例2のプリント待機状態において、定着装置113は、通常圧モードで待機している。プリントジョブが開始されると、CPU251は、記録媒体Qが封筒Pであるか否かを判断する(S201)。使用する記録媒体Qの種類に関する情報は、プリントジョブの開始時にビデオコントローラ部200からシリアル通信IF205及び255を通じてエンジンコントローラ部250へ通知される。CPU251は、記録媒体Qの種類に関する情報を参照して、使用する記録媒体Qが封筒Pであるか否かを判断する。記録媒体Qが封筒Pでない場合(S201でNO)、処理は、S205へ進む。CPU251は、定着装置113に通常モードでトナー像を記録媒体Qに定着させる(S205)。
【0068】
記録媒体Qが封筒Pである場合(S201でYES)、処理は、S202へ進む。CPU251は、画像領域IAの主走査方向MSと副走査方向SSに分割された各分割領域の画素値の積算値を取得する。すなわち、
図16(b)で示した例のように分割領域X0Y0〜X2Y3およびX7Y0〜X9Y3のそれぞれの画素値の積算値を取得する。画素値カウント部211によりカウントされた各分割領域の画素値の積算値は、ビデオコントローラ部200からシリアル通信IF205及び255を通じてエンジンコントローラ部250へ通知される。CPU251は、分割領域X0Y0〜X9Y3のそれぞれの積算値をRAM253に保存する。
【0069】
CPU251は、取得した各分割領域X0Y0〜X9Y3の積算値を参照し、主走査方向MSにおける端部の分割領域X0Y0〜X2Y3およびX7Y0〜X9Y3の積算値がすべて3×10
8の所定の閾値未満であるか否かを判断する(S203)。領域X0〜X2およびX7〜X9の積算値がすべて3×10
8未満である場合(S203でYES)、処理は、S204へ進む。CPU251は、定着着脱モータ300を駆動することにより定着装置113の加圧モードを通常モードから封筒圧モードへ切り替える(S204)。その後、処理は、S205へ進む。CPU251は、定着装置113に封筒圧モードでトナー像を封筒Pに定着させる(S205)。分割領域X0Y0〜X2Y3およびX7Y0〜X9Y3の中で1つでも積算値が3×10
8の所定の閾値以上の領域がある場合(S203でNO)、CPU251は、S204をスキップしてS205へ進み、定着装置113の加圧モードを通常圧モードに維持する。CPU251は、定着装置113に通常圧モードでトナー像を封筒Pに定着させる(S205)。以降の処理は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0070】
以上のように、封筒Pの端部の領域の定着不良の発生を抑制しつつ、封筒Pに皺が発生することを抑制できる。実施例2によれば、封筒Pの端部の領域のトナー像の定着不良を防止することができる。