(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963485
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20211028BHJP
【FI】
B60C11/03 300E
B60C11/03 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-238851(P2017-238851)
(22)【出願日】2017年12月13日
(65)【公開番号】特開2019-104407(P2019-104407A)
(43)【公開日】2019年6月27日
【審査請求日】2020年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】安永 智一
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−354011(JP,A)
【文献】
特開2004−276861(JP,A)
【文献】
特開2002−029222(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0217775(US,A1)
【文献】
特開2017−121846(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0190220(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第106945469(CN,A)
【文献】
特開2017−088135(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0136827(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第107031300(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延びる主溝及びタイヤ幅方向に延びる横溝によって形成されたブロックを有し、前記ブロックの踏み込み側の端部に切欠きを有し、回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記切欠きと隣接する前記横溝がタイヤ接地端側ほど後から接地するように傾斜して延び、
前記切欠きのタイヤ接地端側において前記切欠きと隣接する部分が、タイヤ赤道側に向かって鋭角を形成して突出する突起であり、
前記切欠きと前記突起との境界線が、後に接地する所ほどタイヤ接地端側へ向かうよう傾斜し、
前記切欠きの底面が、前記横溝の底部よりも高くなった棚部の上面である、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記突起の先端が前記横溝内に突出した、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、空気入りタイヤのトレッドのブロックの端部をジグザグ状にすることが提案されていた。このような空気入りタイヤではブロックのジグザグ状の端部がエッジ効果を発揮するため、空気入りタイヤの雪上性能が良い。
【0003】
しかし、従来は、トレッドと雪との具体的な作用を考慮した上でのブロックの端部のジグザグ形状の細かい設計がなされていなかった。
【0004】
また特許文献2に記載のように、ブロックの端部(すなわち横溝の溝壁)を、タイヤ幅方向外側へ水が流れるようなジグザグ形状とし、排水性を良くすることが提案されていた。具体的には、特許文献2では、ブロックの端部に多数の小さな三角形の切欠きを形成し、隣接する2つの切欠きがタイヤ幅方向外側を向く鋭角を形成するようにすることが提案されていた。
【0005】
特許文献2のこの構造の場合、排水性は良いが、雪上では横溝に侵入した雪をタイヤ幅方向外側へ排出してしまい、ブロックの端部が雪に食い込まないため、雪上性能は必ずしも良くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−14644号公報
【特許文献2】特開2002−36820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、より雪上走行に適した空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延びる主溝及びタイヤ幅方向に延びる横溝によって形成されたブロックを有し、前記ブロックの踏み込み側の端部に切欠きを有
し、回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、前記切欠きと隣接する前記横溝がタイヤ接地端側ほど後から接地するように傾斜して延び、前記切欠きのタイヤ接地端側において前記切欠きと隣接する部分が、タイヤ赤道側に向かって鋭角を形成して突出する突起であ
り、前記切欠きと前記突起との境界線が、後に接地する所ほどタイヤ接地端側へ向かうよう傾斜し、前記切欠きの底面が、前記横溝の底部よりも高くなった棚部の上面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
実施形態の空気入りタイヤは、上記の特徴のため、より雪上走行に適している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施形態の空気入りタイヤのトレッドパターン。
【
図3】
図2のトレッドパターンのメディエイトブロック及びショルダーブロックの拡大図。
【
図5】変更例の空気入りタイヤのトレッドパターン。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に例示するように、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向両側にビード部2が設けられている。ビード部2は、円形に巻かれた鋼線からなるビードコア2aと、ビードコア2aの径方向外側に設けられたゴム製のビードフィラー2bとからなる。タイヤ幅方向両側のビード部2にはカーカスプライ5が架け渡されている。カーカスプライ5はタイヤ周方向に直交する方向に並べられた多数のプライコードがゴムで被覆されたシート状の部材である。カーカスプライ5は、タイヤ幅方向両側のビード部2の間で空気入りタイヤ1の骨格形状を形成するとともに、ビード部2の周りでタイヤ幅方向内側から外側に折り返されることによりビード部2を包んでいる。カーカスプライ5の内側には空気の透過性の低いゴムからなるシート状のインナーライナー6が貼り付けられている。
【0012】
カーカスプライ5のタイヤ径方向外側には1枚又は複数枚のベルト7が設けられている。ベルト7はスチール製の多数のコードがゴムで被覆されて出来た部材である。ベルト7のタイヤ径方向外側には路面との接地面(以下「接地面」とする)を有するトレッドゴム3が設けられている。また、カーカスプライ5のタイヤ幅方向両側にはサイドウォールゴム4が設けられている。これらの部材の他にも、空気入りタイヤ1の機能上の必要に応じて、ベルト下パッドやチェーハー等の部材が設けられている。
【0013】
トレッドゴム3の表面には
図2に示すトレッドパターンが形成されている。なお
図2において、上下方向がタイヤ周方向、左右方向がタイヤ幅方向である。このトレッドパターンには、タイヤ周方向に延びる幅広の溝である主溝として、タイヤ赤道C側(すなわちタイヤ幅方向内側)の2本のセンター主溝10と、タイヤ接地端E側(すなわちタイヤ幅方向外側)の2本のショルダー主溝15との合計4本の主溝が設けられている。そして、2本のセンター主溝10の間のセンター陸部30と、センター主溝10とショルダー主溝15との間のメディエイト陸部35と、ショルダー主溝15とタイヤ接地端Eとの間のショルダー陸部40とが設けられている。
【0014】
ここで陸部とは溝によって区画されて形成された部分のことである。またタイヤ接地端Eとは負荷状態における接地面のタイヤ幅方向端部のことである。なお負荷状態とは、空気入りタイヤが正規リムにリム組みされ正規内圧とされ正規荷重が負荷された状態のことである。ここで正規リムとはJATMA、TRA、ETRTO等の規格に定められている標準リムのことである。また正規荷重とは前記規格に定められている最大荷重のことである。また正規内圧とは前記最大荷重に対応した内圧のことである。
【0015】
センター主溝10は、タイヤ周方向に対して傾斜して延びる長い第1溝部11と、タイヤ周方向に対して傾斜し第1溝部11とは別の方向へ延びる短い第2溝部12とからなる。そして、第1溝部11と第2溝部12とが交互に並び、それによりセンター主溝10がジグザグ状になっている。
図2ではタイヤ転動時(すなわち車両走行時)に下側から先に接地する。この図からわかるように、第1溝部11は後に接地する所ほど(換言すれば回転方向後方ほど)タイヤ接地端E側へ向かうよう傾斜している。
【0016】
またショルダー主溝15は、タイヤ周方向に対して傾斜して延びる長い第1溝部16と、タイヤ周方向に対して傾斜し第1溝部16とは別の方向へ延びる短い第2溝部17とからなる。そして、第1溝部16と第2溝部17とが交互に並び、それによりショルダー主溝15がジグザグ状になっている。
図2からわかるように、第1溝部16は後に接地する所ほどタイヤ接地端E側へ向かうよう傾斜している。
【0017】
また、タイヤ幅方向に延びる横溝として、第1横溝20と第2横溝25とが設けられている。第1横溝20と第2横溝25とはタイヤ周方向に交互に設けられている。第1横溝20及び第2横溝25はタイヤ接地端E側ほど後から接地するように傾斜して延びている。
【0018】
第1横溝20は、ショルダー陸部40及びメディエイト陸部35を横断し、さらにセンター陸部30にまで延びてセンター陸部30内で閉塞している。そのため、センター陸部30には第1横溝20の一部であるノッチ21が形成されている。
【0019】
また第2横溝25は、ショルダー陸部40を横断し、さらにメディエイト陸部35にまで延びてメディエイト陸部35内で閉塞している。そのため、メディエイト陸部35には第2横溝25の一部であるノッチ26が形成されている。
【0020】
なお上記のショルダー主溝15の第2溝部17は第1横溝20及び第2横溝25と重なっている。
【0021】
以上のような溝の構造のため、2本のセンター主溝10の間のセンター陸部30は、横溝で分断されることなくタイヤ周方向へ延びるリブとなっている。またメディエイト陸部35は第1横溝20によって分断され、タイヤ周方向に並ぶ複数のメディエイトブロック36の列となっている。メディエイトブロック36のうち、ノッチ26よりも先に接地する部分を踏み込み側ブロック部37、ノッチ26よりも後に接地する部分を蹴り出し側ブロック部38とする。踏み込み側ブロック部37及び蹴り出し側ブロック部38はそれぞれ実質的にブロックとみなすことができる。またショルダー陸部40は第1横溝20及び第2横溝25によって分断され、タイヤ周方向に並ぶ複数のショルダーブロック41の列となっている。
【0022】
図2及び
図4に示すように、メディエイトブロック36の踏み込み側の端部(すなわち、タイヤ周方向両端部のうち、先に接地する方の端部)には切欠き50が形成されている。切欠き50のタイヤ接地端E側において切欠き50と隣接する部分は、タイヤ赤道C側に向かって鋭角を形成して突出する突起51となっている。なお鋭角か鈍角かはトレッドパターンをタイヤ接地面に垂直な方向から見て判断する。ここで
図4に示すように、切欠き50と突起51との境界線55は、後に接地する所ほどタイヤ接地端E側へ向かうよう傾斜している。
【0023】
図4に示すように、切欠き50の底面52は、第1横溝20の底部よりも高くなった棚部53の上面である。そのため切欠き50は第1横溝20よりも浅い。切欠き50の深さ(すなわち接地面から底面52までの深さ)は第1横溝20の深さの50%以下であることが望ましい。なお
図3に示すように突起51の先端は第1横溝20内に突出している。
【0024】
また、
図2〜
図4に示すように、メディエイトブロック36の蹴り出し側ブロック部38の踏み込み側の端部には切欠き60が形成されている。切欠き60は平面視で(すなわちタイヤ外径側から見て)三角形であり、その三角形は、ノッチ26との境界線64(
図3参照)を底辺とするとタイヤ接地端E側(
図3の右側)の底角が鈍角でタイヤ赤道C側(
図3の左側)の底角が鋭角である。
【0025】
切欠き60がこのような形状であるため、切欠き60のタイヤ接地端E側において切欠き60と隣接する部分が、タイヤ赤道C側に向かって鋭角を形成して突出する突起61となっている。ここで、切欠き60と突起61との境界線65は、後に接地する所ほどタイヤ接地端E側へ向かうよう傾斜している。
【0026】
図4に示すように、切欠き60の底面62は、ノッチ26の底部よりも高くなった棚部の上面である。そのため切欠き60はノッチ26よりも浅い。切欠き60の深さ(すなわち接地面から底面62までの深さ)はノッチ26の深さの50%以下であることが望ましい。なお
図3に示すように突起61の先端はノッチ26内に突出している。
【0027】
また、
図2〜4に示すように、ショルダーブロック41の踏み込み側の端部には切欠き70が形成されている。
図2〜4の場合は、1つのショルダーブロック41に2つの切欠き70が形成されている。切欠き70は平面視で(すなわちタイヤ外径側から見て)三角形であり、その三角形は、第1横溝20又は第2横溝25との境界線74(
図3参照)を底辺とするとタイヤ接地端E側(
図3の右側)の底角が鈍角でタイヤ赤道C側(
図3の左側)の底角が鋭角である。
【0028】
切欠き70がこのような形状であるため、切欠き70のタイヤ接地端E側において切欠き70と隣接する部分が、タイヤ赤道C側に向かって鋭角を形成して突出する突起71となっている。ここで、切欠き70と突起71との境界線75は、後に接地する所ほどタイヤ接地端E側へ向かうよう傾斜している。
【0029】
図4に示すように、切欠き70の底面72は、切欠き70に隣接する横溝(第1横溝20又は第2横溝25)の底部よりも高くなった棚部73の上面である。そのため切欠き70は隣接する横溝よりも浅い。切欠き70の深さ(すなわち接地面から底面72までの深さ)は隣接する横溝の深さの50%以下であることが望ましい。なお
図3に示すように突起71の先端は隣接する横溝内に突出している。
【0030】
以上のように、メディエイトブロック36の踏み込み側ブロック部37、蹴り出し側ブロック部38、及びショルダーブロック41のそれぞれの踏み込み側の端部に切欠き50、60、70が形成され、切欠き50、60、70のタイヤ接地端E側において切欠き50、60、70と隣接する部分が、タイヤ赤道C側に向かって鋭角を形成して突出する突起51、61、71である。そのため、空気入りタイヤ1が雪上で転動した場合、各ブロックの踏み込み側で突起51、61、71が雪に食い込むこととなり、トラクション性が良くなる。従ってこの空気入りタイヤ1は雪上走行に適している。
【0031】
ここで、切欠き50、60、70と隣接する第1横溝20及び第2横溝25がタイヤ接地端E側ほど後から接地するように傾斜して延びているため、タイヤ赤道C側に向かって突出する突起51、61、71の先端がより鋭くなっている。そのため突起51、61、71が雪により深く食い込むこととなり、トラクション性が良くなる。
【0032】
また、突起51、61、71の先端が隣接する横溝内に突出しているため、突起51、61、71が雪により深く食い込むこととなり、トラクション性が良くなる。
【0033】
また、切欠き50、60、70の底面が隣接する横溝の底部よりも高くなっているため、突起51、61、71の剛性が確保されている。切欠き50、60、70の深さが隣接する横溝の深さの50%以下であれば、突起51、61、71の剛性が十分に確保される。
【0034】
以上の実施形態は例示であり、発明の範囲はこれに限定されない。以上の実施形態に対し、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、様々な変更を行うことができる。
【0035】
変更例のトレッドパターンを
図5に示す。
図5のトレッドパターンでは、
図2のトレッドパターンにおけるメディエイト陸部35内で閉塞する第2横溝25の代わりに、ショルダー陸部40及びメディエイト陸部35を横断してセンター主溝10に開口して止まる第2横溝125が設けられている。そのため、
図2のトレッドパターンにおける第1横溝20で分断されノッチ26が形成されたメディエイトブロック36の代わりに、第1横溝20及び第2横溝125で分断されたメディエイトブロック136が設けられている。そして、メディエイトブロック136の踏み込み側の端部のうち、第1横溝20と隣接する部分には
図2と同じ切欠き50や突起51が形成され、第2横溝125と隣接する部分には切欠き70や突起71と同様の切欠き150や突起151が形成されている。
【0036】
なお、以上のような切欠きや突起は、メディエイトブロック36(又は136)のみ又はショルダーブロック41のみに形成されていても効果を発揮できる。
【符号の説明】
【0037】
C…タイヤ赤道、E…タイヤ接地端、1…空気入りタイヤ、2…ビード部、2a…ビードコア、2b…ビードフィラー、3…トレッドゴム、4…サイドウォールゴム、5…カーカスプライ、6…インナーライナー、7…ベルト、10…センター主溝、11…第1溝部、12…第2溝部、15…ショルダー主溝、16…第1溝部、17…第2溝部、20…第1横溝、21…ノッチ、25…第2横溝、26…ノッチ、30…センター陸部、35…メディエイト陸部、36…メディエイトブロック、37…踏み込み側ブロック部、38…蹴り出し側ブロック部、40…ショルダー陸部、41…ショルダーブロック、50…切欠き、51…突起、52…底面、53…棚部、54…境界線、55…境界線、60…切欠き、61…突起、62…底面、64…境界線、65…境界線、70…切欠き、71…突起、72…底面、73…棚部、74…境界線、75…境界線、125…第2横溝、136…メディエイトブロック、150…切欠き、151…突起