(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内部を所定の真空度に保持する外囲器と、前記外囲器内に設けられた電子放出用の陰極と、前記外囲器内に前記陰極に対向して設けられたX線発生用の陽極と、を備えたX線管であって、
前記外囲器が、外囲器本体と、前記外囲器本体よりX線透過率および電気伝導率が高いX線窓部とを有しており、
前記X線窓部または前記陽極のいずれか一方の部位が、前記X線窓部または前記陽極のいずれか他方の部位および前記陰極のいずれよりも低電位に設定されたとき、前記一方の部位を介したイオン電流の検出と、前記他方の部位を介した電子電流の検出との、少なくとも一方の検出が可能であることを特徴とするX線管。
前記イオン電流検出部と、前記電子電流を検出する電子電流検出部との、少なくとも一方の検出部の検出情報に基づいて前記外囲器内の前記真空度に関連する情報を出力する情報出力部を有することを特徴とする請求項5に記載のX線発生装置。
前記情報出力部から出力される前記出力情報は、前記外囲器内の前記真空度が許容範囲内から外れるまでの残寿命または該残寿命の適否を示す情報であることを特徴とする請求項6に記載のX線発生装置。
前記情報出力部から出力される前記出力情報は、イオン電流または電子電流、またはイオン電流と電子電流の電流比、もしくはこれらの時間増大率の少なくとも一つから算出されることを特徴とする請求項7ないし請求項8に記載のX線発生装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来のX線管およびX線発生装置にあっては、X線管内の高真空度を高精度に検出できないという問題があった。
【0008】
具体的には、X線管の稼働真空領域が10
−4Pa(製造直後)程度から10Pa(寿命到達)程度であること、およびX線管が陰極側にフィラメントを有することを考慮すると、高精度の真空度計測機能をX線管に持たせるべく、真空度検出部にいわゆる電離真空計の原理を利用することが考えられる。
【0009】
電離真空計は、フィラメントとグリッドとイオンコレクタの3極構造を有するが、フィラメントから放出され正の高電位のグリッドで加速された電子が衝突することで電離した気体すなわち陽イオンをイオンコレクタに集めイオン電流I
iを計測し、一方、フィラメントから放出された電子は正の高電位のグリッドに到着させて電子電流Ieを計測することで、次の式(1)から真空度Pを計測するものである。
P =(1/S)・(Ii/Ie) ......(1)
式(1)において、Sは感度という係数であり、イオンコレクタのイオン捕集効率をβ、気体のイオン化効率(電子が気体分子を電離させる確率)をσ、電子の飛行距離をL、ボルツマン定数をk、気体の絶対温度をTとするとき、次の式(2)で表現することができる。
S = β・(σ/kT)・L ......(2)
これをX線管に適用した場合、X線管の一方の電極側のフィラメントから放出された電子をフィラメント近傍に付随した集束電極を正の高電位とすることで加速し、この加速された電子をX線管内の気体分子に衝突させ、気体分子を電離させて、陽イオンを生じさせ、その陽イオンを他方の電極であるターゲット側に到着させ、これをイオンコレクタとして、イオン電流を計測することができ、一方、グリッドとした正の高電位の集束電極に電子を到着させて電子電流を計測することができる。
【0010】
しかしながら、そのようにX線管の外囲器内の電極を利用してX線管に真空度計測機能を付加しようとする場合、通常サイズのX線管ではフィラメントと集束電極の距離を長くすることが困難であり、感度Sが小さくなることから、イオン電流が微弱となり10
−4 Pa程度の所要真空度の検出感度が得られなかった。
【0011】
また、X線管の陰極であるフィラメントを負電位のままとして真空度測定をした場合、フィラメント近傍で生成された陽イオンの一部がフィラメント側に到着してしまい、ターゲットに到着する陽イオンが減少し、イオン電流の検出効率が大きく低下してしまうという問題もあった。
【0012】
したがって、従来は、X線管に真空度計測機能を持たせたとしても、X線管の真空度を高感度に検出することが困難であり、X線管の異常放電の未然防止や寿命時期の監視を的確に行うことができないという問題があった。
【0013】
本発明は、上述のような従来の課題を解決すべくなされたものであり、X線管の真空度を高感度に検出することができるX線管およびX線発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るX線管は、上記目的達成のため、内部を所定の真空度に保持する外囲器と、前記外囲器内に設けられた電子放出用の陰極と、前記外囲器内に前記陰極に対向して設けられたX線発生用の陽極と、を備えたX線管であって、前記外囲器が、外囲器本体と、前記外囲器本体よりX線透過率および電気伝導率が高いX線窓部とを有しており、前記X線窓部または前記陽極のいずれか一方の部位が、前記X線窓部または前記陽極のいずれか他方の部位および前記陰極のいずれよりも低電位に設定されたとき、前記一方の部位を介したイオン電流の検出と、前記他方の部位を介した電子電流の検出との、少なくとも一方の検出が可能であることを特徴とする。
【0015】
本発明では、陰極から陽極に飛行する電子との衝突により外囲器内の気体分子の一部が電離して陽イオンとなり、X線窓部または陽極のいずれか一方の部位および陰極のいずれかよりも低電位に設定されたX線窓部または陽極のいずれか他方の部位に陽イオンが到達することで、X線窓部または陽極のいずれか他方の部位を介してイオン電流が流れる。この場合、陰極とX線窓部または陽極とが離れていることから電子の飛行距離を長くでき、電子と気体分子の衝突確率が高くなることでイオン電流が計測し易くなり、X線管の真空度を高感度に検出することが可能となる。
【0016】
本発明において、前記一方の部位は前記X線窓部であり、前記他方の部位は前記陽極である構成とすることができる。あるいは、前記一方の部位は前記陽極であり、前記他方の部位は前記X線窓部である構成とすることもできる。
【0017】
また、前記X線管の前記X線窓部は、所定の電気伝導率を有する金属製で、外周側に外部接続用の電極が配置されている構成とすることもできる。
【0018】
本発明に係るX線発生装置は、上記構成のX線管を備えたX線発生装置であって、前記陰極および前記陽極に第1の電位差で電圧を印加して前記X線管にX線を発生させる第1の電圧印加状態と、前記陰極および前記他方に前記第1の電位差より小さい第2の電位差で電圧を印加する第2の電圧印加状態とに切替え可能な電圧印加部と、前記一方の部位に接続され、前記電圧印加部が前記第2の電圧印加状態にあるとき、前記イオン電流を検出するイオン電流検出部と、前記他方の部位に接続され、前記電圧印加部が前記第2の電圧印加状態にあるとき、前記電子電流を検出する電子電流検出部との、少なくとも一方の検出部を有することを特徴とする。
【0019】
本発明のX線発生装置では、X線管を作動させる第1の電圧印加状態と、イオン電流検出と電子電流検出との少なくとも一方の検出が可能となる第2の電圧印加状態とが切り替えられることで、必要時に第2の電圧印加状態として、X線管の真空度を高感度に検出することが可能となる。
【0020】
前記X線発生装置は、前記イオン電流検出部と、前記電子電流を検出する電子電流検出部との、少なくとも一方の検出部の検出情報に基づいて前記外囲器内の前記真空度に関連する情報を出力する情報出力部を有する構成とすることができる。また、前記情報出力部から出力される前記出力情報は、前記外囲器内の前記真空度または該真空度の適否を示す情報であってもよい。あるいは、前記情報出力部から出力される前記出力情報は、前記外囲器内の前記真空度が許容範囲内から外れるまでの残寿命または該残寿命の適否を示す情報であってもよい。
【0021】
ここでより具体的には、前記情報出力部から出力される(真空度および残寿命に関連した)前記出力情報は、イオン電流または電子電流の検出情報またはイオン電流と電子電流の電流比である算出情報の少なくとも一つを、前記X線管において予め測定したイオン電流と電子電流及びこれらの電流比と比較して、算出するものである。さらに、前記出力情報は、前記イオン電流と前記電子電流及びこれら電流の電流比の検出情報と算出情報の時間増大率の経時変化を、予め測定したこれら検出情報と算出情報の時間増大率の経時変化と比較して、算出するものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高真空領域の真空度を高感度に検出でき、異常放電の未然防止や寿命時期の監視を的確に行うことができるX線管およびX線発生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
[一実施形態]
図1ないし
図3は、本発明の一実施形態に係るX線管を有するX線発生装置およびそれを備えたX線検査装置を示している。
【0027】
図1および
図2に示すように、本実施形態のX線検査装置1は、X線発生部2(X線発生装置)、X線検出部3およびX線検査制御部4を備えている。
【0028】
X線発生源としてのX線発生部2は、
図1および
図2に示すように、金属製の箱体Bの内部に例えば2極X線管タイプのX線管10を有しており、そのX線管10を箱体B内の冷却用の絶縁油Cに浸漬した構成を有している。このX線管10は、外囲器11の内部を所定の真空度、例えば10
−4Pa程度の高真空にした真空封止品である。
【0029】
X線管10は、外囲器11内で陰極側のフィラメント12から放出されて集束電極13により集束される電子を、フィラメント12に対向する陽極14側のターゲット15に衝突させ、ターゲット15からX線を発生させるようになっている。フィラメント12、集束電極13およびターゲット15は、それぞれ外囲器11に対し、電気絶縁されている状態で取付けられている。
【0030】
また、X線管10は、その長手方向が例えば被検査物Wの搬送方向(
図2中のX方向)となるように配置されており、X線管10により発生させたX線は、X線管10のX線窓部16から下向きにかつ搬送方向と直交するよう照射されるようになっている。なお、陽極14は、説明の便宜上ここでは固定タイプのものとするが、回転タイプのもであってもよい。
【0031】
図1および
図2に示すように、X線発生部2は、X線管10をX線発生が可能な状態に駆動する駆動電源回路21A、21Bと、駆動電源回路21A、21Bの非作動中に使用され、X線管10を真空度計測器として作動させることができる測定電源回路22A、22Bとを併有している。
【0032】
駆動電源回路21Aは、陰極側の集束電極13に対し所定の運転時電圧に対応する電位を印加するとともに、陰極側のフィラメント12に熱電子放出エネルギを与える所定の点灯電圧を印加するようになっている。駆動電源回路21Bは、陽極14に高電圧の運転時陽極電圧に対応する正電位を印加するようになっている。ここでのX線発生のための電位や電位差は、それぞれ従来の範囲内で任意に設定され得る。また、駆動電源回路21A、21Bとの接点を接地することにより、回路を簡単に構成することができる。
【0033】
真空度の測定電源回路22Aは、集束電極13に対し所定の測定時電圧に対応する正電位V2を印加するとともに、陰極側のフィラメント12に熱電子放出エネルギを与える点灯電圧V1を印加するようになっている。同じく測定電源回路22Bは、陽極14に所定の測定時電圧に対応する正電位V3を印加するようになっている。
【0034】
X線検出部3は、検査空間23をコンベア搬送される被検査物Wに対し、前後の遮蔽カーテン24の間で上方のX線発生部2から照射され被検査物Wを透過したX線を検出するものであり、X線ラインセンサ31と、被検査物Wを搬送するベルトコンベア32と、その搬送駆動用の複数のローラ33、34とにより構成されている。
【0035】
X線ラインセンサ31は、被検査物Wのコンベア搬送面に沿って搬送方向と直交する方向に延びており、例えばライン状に整列配設された複数のフォトダイオードおよびその上方で前記延在方向に延びたシンチレータとによって構成されている。また、X線ラインセンサ31には、
図2に示すように、A/D変換部41が設けられており、このA/D変換部41からX線の透過濃度データをX線画像のライン画像データとして順次出力するようになっている。
【0036】
図1に戻り、X線発生部2のX線管10の外囲器11は、電気絶縁性を有する素材からなる外囲器本体11aと、外囲器本体11aよりX線透過率および電気伝導率が高い素材からなるX線窓部16とを有している。さらに、X線窓部16の外周側には、外部接続用の電極17が設けられている。なお、外囲器本体11aを導電性を有する素材とし、X線窓部16が外囲器本体11aに電気絶縁した状態で取り付けられている構成であってもよい。
【0037】
このX線窓部16は、陰極側のフィラメント12および集束電極13と陽極14側のターゲット15とのいずれに対しても、それより低電位に設定されており、ここでは外部接続用の電極17を介して接地されている。
【0038】
X線検査装置1のX線検査制御部4には、A/D変換部41を介してX線ラインセンサ31からのX線画像が入力されるようになっている。
【0039】
このX線検査制御部4は、X線ラインセンサ31から受け取ったX線画像を記憶するX線画像記憶部42と、X線画像記憶部42からの読出し画像データに対して各種画像処理アルゴリズム等を適用した画像処理を施す画像処理部43と、画像処理結果を基に被検査物W中の混入異物の有無を判定する判定部44と、を備えている。ここにいう画像処理アルゴリズムとは、例えば複数の画像処理フィルタや特徴抽出のための画像処理を組み合わせたものである。
【0040】
X線検査制御部4には、さらに、各種パラメータ等の設定入力を行う設定操作部45と、検査結果等を含むX線検査に関係する各種の情報とイオン電流・電子電流を含む真空度計測に関係する各種情報を表示出力する表示部46と、が設けられている。
【0041】
設定操作部45は、ユーザが操作する複数のキーやスイッチ等で構成され、X線検査制御部4への各種パラメータ等の設定入力や動作モードの選択を行うものである。設定操作部45と表示部46は、例えばタッチパネル式表示器として一体構成してもよい。また、表示部46は、他の報知手段や情報出力手段であってもよい。
【0042】
X線検査制御部4には、また、ROMに格納された検査制御プログラムに従ってX線検査装置1の主たる制御を行う主制御部51と、主制御部51からの制御入力に応じてX線発生部2を制御するX線発生制御部52とが併設されている。
【0043】
主制御部51は、X線発生制御部52にX線管制御指令を出力するとともにX線検査装置1の全体制御に係る制御指令を出力するものであり、X線発生制御部52は、X線管10をX線管制御指令に応じて制御するものである。
【0044】
主制御部51は、X線検査装置1にX線を発生させるX線検査制御モードと、X線検査装置1にX線を発生させずにX線管10内の真空度測定を行うことができる真空度計測モードとに切り替え可能となっている。
【0045】
X線発生制御部52は、X線検査制御モード選択時に、X線管10の集束電極13と陽極14との間に高電圧を印加しつつ、フィラメント12にはさらに点灯電圧V1を印加して、電子を放出させるようになっている。
【0046】
図3に示すように、X線発生制御部52は、主制御部51と協働し複数の制御プログラムを実行することで、条件切替部55、X線制御部56および真空度測定制御部57としての機能を発揮できるようになっている。
【0047】
X線制御部56は、前述のX線検査制御モードにおいて、X線管10のX線発生用の駆動電源回路21A、21Bを作動させることができる。
【0048】
条件切替部55は、前述のX線検査制御モードと真空度計測モードとを切り替え可能とするもので、設定操作部45からの切替え要求操作入力に基づく手動切替えにより、あるいは、主制御部51からの所定運転期間経過ごとの測定要求入力に基づく自動切替えにより、X線制御部56と真空度測定制御部57とを択一的に作動させるようになっている。また、真空度測定制御部57は、前述の真空度計測モードにおいて、X線管10の測定電源回路22A、22Bを作動させることができる。
【0049】
より具体的には、X線発生制御部52とX線管10の間には、X線管10の真空度を測定・算出しX線検査制御部4を介して表示部46に出力する真空度計測部61と、前述のX線検査制御モードと真空度計測モードとを切替え制御しつつX線管10を駆動するX線管駆動部62とが設けられている。
【0050】
真空度計測部61は、X線管10に選択的に接続されるイオン電流・電子電流検出部63と、イオン電流・電子電流検出部63がX線管10に接続されたときにイオン電流・電子電流検出部63からのイオン電流と電子電流の少なくとも一方の検出情報を基にX線管10の真空度を推定する真空度算出部64とを含んでいる。
【0051】
イオン電流・電子電流検出部63のイオン電流検出は、外部接続用の電極17を介してX線管10のX線窓部16に接続されたとき、X線窓部16から接地電位に流れる電流を微弱電流計18によりイオン電流Ii(
図1参照)として検出することができるようになっている。
【0052】
一方、イオン電流・電子電流検出部63の電子電流検出は、測定用電源回路22Bと電流計19を介してX線管10の陽極14に接続されたとき、接地電位から陽極14に流れる電流を電流計19により電子電流Ie(
図1参照)として検出することができるようになっている。
【0053】
真空度算出部64は、真空度測定に先立って予めイオン電流と電子電流の真空度依存性を測定した結果を記憶しておき、X線管10のイオン電流Iiもしくは電子電流Ie、または電流比Ii/Ie(イオン電流/電子電流)から、対応するX線管10の真空度を算出することができる。また、真空度算出部64は、X線管10の真空度(イオン電流もしくは電子電流またはその電流比)の経時変化から、X線管10の残寿命を算出し、X線検査制御部4内の他の機能部(例えば、残寿命報知機能部)に出力する機能も有している。
【0054】
X線管駆動部62は、X線制御部56および真空度測定制御部57に対応する高圧電源制御部66および測定用電源制御部67を有しており、X線管10のX線発生用の駆動電源回路21A、21Bを有する高圧電源回路65と、測定電源回路22A、22Bを有する真空度計測時の測定用電源回路68とを切替え制御することができる。
【0055】
このX線管駆動部62は、高圧電源制御部66により高圧電源回路65からX線管10の陰極および陽極に第1の電位差Vaでそれぞれの電位に対応する駆動電圧を印加してX線管10にX線を発生させる第1の電圧印加状態と、測定用電源制御部67により測定用電源回路68からX線管10の陰極および陽極に第1の電位差Vaより小さい第2の電位差Vbでそれぞれの電位V2、V3に対応する真空度測定時の電圧を印加する第2の電圧印加状態とに切替え可能な電圧印加部となっている。
【0056】
本実施形態におけるX線検査装置1の表示部46は、イオン電流と電子電流の検出情報に基づいて外囲器11内の真空度に関連する情報を出力する情報出力部の機能を有している。また、表示部46から出力される出力情報は、外囲器11内の真空度またはその真空度の適否を示す情報であってもよい。さらに、表示部46から出力される出力情報は、外囲器11内の真空度が予め設定されたその許容範囲内から外れるまでの残寿命、あるいはその残寿命の適否を示す情報(例えば、X線管10の交換時期を示す文字やマークの表示)であってもよい。
【0057】
次に、本実施形態におけるX線検査装置1の動作について説明する。
【0058】
上述のように構成された本実施形態のX線検査装置1は、X線検査と真空度計測が可能であり、通常はX線検査を行い、真空度計測は定期的(1回/日、1回/週など)に行う。このX線検査装置1のX線検査時と真空度計測時のX線管10の動作について、それぞれ以下に説明する。
【0059】
先ず、X線検査時のX線管10の動作について説明する。X線検査装置1のX線検査は、従来のX線検査と同様である。
【0060】
X線発生制御部52の条件切替部55からの切替え指令に応じてX線制御部56が作動するとき(X線検査制御モード時)、高圧電源制御部66を通じて駆動電源回路21A、21Bにより、陰極には直流の負電位、例えば−50kVが印加される。さらに、フィラメント12には、直流または交流の電圧、例えば10V程度が印加され、フィラメント12が点灯して高温となり、電子が放出される。また、集束電極13にも、直流の負電位、例えば−50kVが印加され、フィラメント12から放出された電子を収束する役割を果たす。一方、ターゲット15は、直流の正電位、例えば+50kV程度が印加され、これによりフィラメント12から放出された電子が加速されて、ターゲット15に衝突して、ターゲット15からX線を発生させる。そして、発生したX線は、X線窓部16を透過して、外部に出射される。そして、出射したX線により被検査物Wの検査が行われる。
【0061】
次に、真空度計測時のX線管10の動作について説明する。
【0062】
条件切替部55からの切替え指令に応じて真空度測定制御部57が作動する真空度計測モードにおいて、測定用電源制御部67の測定電源回路22Aにより、陰極側のフィラメント12と集束電極13に対し所定の正電位V2を印加するとともに、陰極側のフィラメント12に熱電子放出エネルギを与える点灯電圧V1が印加される。また、測定電源回路22Bにより、陽極14側のターゲット15にV2よりも高い所定の正電位V3が印加される。そして、イオンコレクタとしてのX線窓部16は、直流電源を接続することなく接地電位にされる。
【0063】
陰極側のフィラメント12と集束電極13には正電位V2を印加するが、ここで、正電位V2は、0Vより高ければ任意の電位でよく、例えば10Vから100V程度までの範囲内に設定するが、特に10V以上50V以下が望ましい。
【0064】
フィラメント12を点灯させる電圧V1は、個々のフィラメントに依存するが、直流電圧でも交流電圧でもよい。
【0065】
陽極14側のターゲット15に与えられる正電位V3は、フィラメント12に与えられる正電位V2より100V程度以上高い電位であればよく、例えば100V以上5kV以下であるが、イオン電流Iiの計測安定性を考慮すると、100V以上3kV以下であるのがより好ましい。
【0066】
この真空度計測モードにおいて、フィラメント12から放出された電子が、より高い正電位V3のグリッドである陽極14側のターゲット15に引き寄せられて加速し、外囲器11内に残留する気体の分子に衝突して、この分子を電離(イオン化)させる。そして、気体分子の電離後の陽イオンは、より低電位である接地電位に引き寄せられ、X線窓部16に到達して中和もしくは失活して気体分子に戻る。このとき、X線窓部16から接地電位に微弱電流であるイオン電流Iiが流れる。一方、接地電位からグリッドとしての陽極14側のターゲット15に電子電流Ieが流れる。
【0067】
X線窓部16に流れるイオン電流Iiと陽極14側のターゲット15に流れる電子電流Ieは、イオン電流・電子電流検出部63の微弱電流計18と電流計19によりそれぞれ計測され、真空度算出部64に出力され、真空度および残寿命に変換される。
【0068】
この真空度計測モードにおける本発明の真空度計測の特徴について述べる。
【0069】
ターゲット15と陽極側フィラメント12の距離は、集束電極13とフィラメント12の距離よりも十分に長い。これにより、電子の飛行距離Lを長くでき、真空度測定の感度S(電離真空計係数)を向上させることができる。
【0070】
また、この真空度計測モードにおいて、イオンコレクタとしてのX線窓部16は、イオン電流Iiを擾乱させる浮遊電子等の発生要因を取り除いたものとなっている。また、X線窓部16は、例えば金属ベリリウム製の略円板状のもので、ターゲット15の面積よりも大きい面積を有している。これにより、イオン捕集効率βを増大でき、真空度測定の感度S(電離真空計係数)を向上させることができる。
【0071】
したがって、電離真空計の原理で、X線管10の真空度を高感度に検出することが可能となる。
【0072】
加えて、本実施形態では、検証例として後述するように、間欠的な異常放電が発生する真空度(10
−2Pa)以上において、真空度増大とともに電子電流Ieが微増から急増する。一方、イオン電流Iiの線形以上の増大が発現する。
【0073】
この現象を用いて、電子電流Ieもしくはイオン電流Ii、またはイオン電流Ii/電子電流Ieの測定データを保持しておき、時間増大率(例えば、([今回データ]−[前回データ])/[前回データ])をモニタすることで、異常放電の発生と寿命に到達する真空度の計測の確度を向上させることができる。
【0074】
このように、本実施形態においては、高真空領域の真空度を高感度に検出でき、異常放電の未然防止や寿命時期の監視を的確に行うことのできるX線管10およびX線検査装置1を提供することができる。
【0075】
[検証例1]
図4は、本実施形態のX線管10で検出したイオン電流と電子電流から真空度計測が可能なことを検証するシステムの構成を示す。
【0076】
同図に示すように、この検証システムは、真空ポンプ71、真空計72、開度調整可能なガス導入バルブ73および導入ガスタンク74を、真空配管75を介してX線管10に接続したものであり、試験用のX線管10の外囲器11内を真空ポンプ71により排気するとともに、開度調整可能なガス導入バルブ73を介して導入ガスタンク74から外囲器11内に不活性ガスである窒素ガスを断続的に導入することで、外囲器11内を所要の真空排気状態にすることができる。
【0077】
この検証システムによる検証に際しては、真空排気と併せて、測定電源回路22Aから陰極側のフィラメント12と集束電極13に対し所定の正電位V2を印加するとともに、陰極側のフィラメント12に点灯電圧V1を印加し、測定電源回路22Bから陽極14側のターゲット15に所定の正電位V3を印加する。
【0078】
そして、X線管10として使用される真空状態を含む所定の真空度範囲について、所定の圧力間隔でX線管10のイオン電流Iiを微弱電流計18で、電子電流Ieを電流計19で検出する。
【0079】
図4に示した検証システムによる検証例1として、フィラメント12と集束電極13に印加する正電位V2を一定に設定し、また、グリッド(陽極14側のターゲット15)に印加する正電位V3を一定に設定して、導入する窒素ガス流量を変更して真空度をパラメータとし、グリッドに流れる電子電流IeとX線窓部16に流れるイオン電流Iiの真空依存性を測定した。
【0080】
図5(a)、
図5(b)および
図5(c)に、フィラメント12と集束電極13側の正電位V2=20V、グリッド側の正電位V3=250Vとした検証例1の場合のイオン電流(Ii)、電子電流(Ie)、および電流比(Ii/Ie)のそれぞれの真空度依存性を示している。
【0081】
この場合、10
−4Paから10
−2Paの真空度領域において、イオン電流Iiは10
−9(A)から10
−12(A)程度と非常に微弱な電流であるが、真空度に対し1乗で増大し、電子電流Ieは一定である。
【0082】
これは、フィラメント12から放出され正電位V3により加速された多数の電子のうち1つの電子に着目すると、その電子が飛行途中で気体分子と衝突し、気体イオンを1個生成することを反映する。すなわち、この真空領域では、気体の濃度である真空度の1乗でイオン電流Iiは増大し、一方、電子電流Ieは、気体衝突による電子の増加が多くないので、一定電流を示す。また、これらを反映して、イオン電流Iiと電子電流Ieの電流比Ii/Ieは、真空度の1乗に従う。なお、この10
−4Paから10
−2Paの真空度領域において、本実施例のX線管10は、異常放電がほとんど発生しなかった。
【0083】
一方、10
−2Paから1Paの真空度領域においては、イオン電流Iiは真空度の1乗以上で増大し、電子電流Ieは一定値から徐々に増大する。
【0084】
また、これらイオン電流Iiと電子電流Ieの増加率が低真空度側(図中の間欠放電側)で大きくなる。この真空領域では、気体濃度が高くなるので、気体に衝突した電子または気体から電離した電子がグリッド電位V3によって再加速され、これらの電子が再度気体分子に衝突し、イオン電流Iiをより増加させながら電子電流Ieを増加させるからであると考えられる。これらを反映して、イオン電流Iiと電子電流Ieの電流比Ii/Ieは、真空度の1乗以上の非線形で増大している。なお、この10
−2Pa程度以上の圧力となる真空度において、X線管10は間欠的な異常放電を発現することが確認された。
【0085】
以上の結果から、本実施例の真空度計測機能付きのX線管10では、X線管のイオン電流Iiと電子電流Ieを測定し、イオン電流Iiもしくは電子電流Ie、またはこれらの電流比Ii/Ieをモニタすることで、異常放電が発現しない10
−4Pa程度の真空度から間欠的な異常放電が発現する10
−2Pa程度までの真空度で、そして異常放電が頻発する1Pa程度の真空度までに亘り、広範囲の真空度を測定することができることがわかる。
【0086】
ところで、
図5(a)ないし
図5(c)に示した検証例1では、フィラメント側の正電位V2=20V、グリッド側の正電位V3=250Vであったが、その場合、10
−4Paオーダーの真空度のときのイオン電流が10
−12(A)程度の微弱になり実用上問題となり得る。
【0087】
[検証例2]
そこで、検証例2として、10
−4Paオーダーの真空度のときのイオン電流Iiを増大させ、かつ10
−2Paから1Paの真空度で発現するイオン電流Iiの真空度に対する1乗以上の増大と電子電流Ieの一定値からの非線形な増大とを確保することのできる、フィラメント側の正電位V2およびグリッド側の正電位V3の設定範囲について調べた。
【0088】
フィラメント側の正電位V2は、イオンコレクタにイオンを集めるために正電位であればよく、実験において10Vから100Vの正電位としたが、イオン電流の変化は小さかった。したがって、フィラメント側の正電位V2は100V以下の正電位に設定すればよいと決定した。
【0089】
次に、フィラメント側の正電位V2は20Vに固定し、グリッド側の正電位V3を250Vから5kVまで変更して、イオン電流Iiと電子電流Ieの真空依存性を測定した。
図6にフィラメント側の正電位V2=20V、グリッド側の正電位V3=3kVの場合の真空度依存性を示す。
【0090】
グリッド側の正電位V3を250Vから3kVにすることで、
図6に示すように、10
−4Paの真空度のときのイオン電流Iiが検証例1での5×10
−12(A)から検証例2での1×10
−9(A)程度へと約2桁増大した。
【0091】
これはグリッド電位V3を3kVとすることで、飛行電子の運動エネルギが増大し、電子が気体に衝突した時のイオン化効率σiが増大したためであると考えられる。10
−4Paでの電子電流Ieも、1×10
−4(A)から1×10
−3(A)程度へと1桁増大した。
【0092】
一方、10
−2Paから1Paの真空度で発現したイオン電流Iiの真空度に対する1乗以上の増大と電子電流Ieの一定値からの非線形な増大傾向については、その傾きが減少した。
【0093】
これは、グリッド電位V3を3kVとしたことで、元々のイオン電流と電子電流が増加したためであり、10
−2Paから1Paの真空度におけるイオン電流と電子電流の非線形な増大量は、グリッド電位V3=250Vのときと比較して減少し5倍程度となっている。
【0094】
以上より、本実施例では、グリッド電位V3=3kVのときにおいて、X線管のイオン電流もしくは電子電流、またはこれらの電流比Ii/Ieの測定は比較的容易であったが、イオン電流Iiまたは電子電流Ieの非線形な増大率をモニタするのには、グリッド電位V3=3kVは限界に近く、実際、グリッド電位5kV程度がイオン電流と電子電流の非線形な増大率の測定限界となった。
【0095】
このような結果から、グリッド電位V3は5kV以下に設定するのがよい。
【0096】
以上の結果からも、本実施形態のX線管10において異常放電が発現しない10
−4Pa程度の真空度から異常放電が頻発し寿命到達となる10Paの真空度までの広域の真空度を測定できる機能を持たせたX線管10を提供することができる。
【0097】
また、X線管製造直後の初期からの実用的な高真空度(例えば10
−4Pa)の測定を可能とすることができる。
【0098】
さらに、イオン電流Iiもしくは電子電流Ie、またはこれらの電流比の増大率をモニタすることで、X線管の異常放電が発現する真空度の測定精度を高めることができる。
【0099】
よって、電極をそのまま利用した真空度計測機能付きのX線管でありながら、その電子の飛行距離Lを長くでき、原理的に高感度で広範囲の真空度計測が可能で、かつ、異常放電が発生する真空度領域で真空度計測のためのイオン電流と電子電流の非線形増大を利用することで高確度に異常放電の発生が予測できるX線管となることがわかる。
【0100】
ところで、上述の一実施形態では、真空度計測モードにおいて、X線フィラメントをそのままフィラメントとし、X線ターゲットをグリッドとし、X線窓をイオンコレクタとするものであったが、本発明は、X線窓をグリッドとし、X線ターゲットをイオンコレクタとするものであってもよい。すなわち、本発明においては、X線管のX線窓部または陽極のいずれか一方(任意の一方)が、X線窓部または陽極のいずれか他方よりも低電位に設定されるとともに、陰極よりも低電位に設定され、X線窓部または陽極のうち任意の一方を介してイオン電流を検出可能な構成であればよい。よって、ここにいう一方がX線窓部であり、他方が陽極である一実施形態のような構成以外に、以下に述べる他の実施形態のように、イオンコレクタの配置を逆にした構成とすることもできる。
【0101】
[他の実施形態]
図7は、本発明の他の実施形態に係るX線発生装置を示している。
【0102】
本実施形態は、X線管の真空度計測モードにおいて、X線窓をグリッドとし、X線ターゲットをイオンコレクタとする点以外は、上述の一実施形態と同様である。したがって、一実施形態と同一の構成については同一符号を用い、一実施形態との相違点について説明する。
【0103】
本実施形態では、X線発生制御部52の条件切替え部56が真空度計測モードに切り換えられたとき、イオン電流・電子電流検出部63が陽極14に選択的に接続できるようになっており、その接続時にターゲット15から外部に流れる漏れ電流をイオン電流Iiとして検出することができるようになっている。
【0104】
真空度算出部64は、一実施形態の場合と同様に、真空度測定に先立ってX線管10毎に予め電子電流とイオン電流の真空度依存性を測定した結果を記憶しておき、X線管10の電子電流Ieもしくはイオン電流Iiを検出し、または電流比Ii/Ieを算出することで、対応するX線管10の真空度を推定するようになっている。
【0105】
このように、X線窓部16または陽極14のいずれか一方が陽極であり、他方がX線窓部16である本実施形態においては、フィラメント12側からX線窓部16側に加速される電子が気体分子に衝突することで電離した気体すなわち陽イオンを、イオンコレクタであるターゲット15に集め、外囲器11内の真空度に略比例するイオン電流Iiを計測することができる。
【0106】
したがって、外囲器11内の電極をそのまま利用した真空度計測機能を確保しつつ、フィラメント12および集束電極13側からX線窓部16側への電子の飛行距離Lを長くでき、高真空領域の真空度を高感度に検出でき、異常放電の未然防止や寿命時期の監視を的確に行うことのできるX線管10およびX線検査装置1を提供することができる。
【0107】
また、本実施形態においても、原理的に高感度で広範囲の真空度計測が可能で、かつ、異常放電が発生する真空度領域で真空度計測のためのイオン電流Iiと電子電流Ieの非線形増大を利用することにより高確度に異常放電の発生が予測できるX線管10を提供することができる。
【0108】
なお、上述の各実施形態においては、本発明は、X線管を使用するX線検査装置およびそのX線発生部2に相当するX線発生装置としたが、本発明は、X線検査装置に用いるX線発生装置のみならず、X線管を使用する他タイプのX線発生装置やX線診断装置の分野においても有用である。
【0109】
以上説明したように、本発明は、高真空領域の真空度を高感度に検出でき、異常放電の未然防止や寿命時期の監視を的確に行うことができるX線管およびX線発生装置を提供できるものであり、外囲器内の真空度計測が可能なX線管およびX線発生装置全般に有用である。