(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963538
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】油圧嵌め用ハブのシール機構及びシール補助具
(51)【国際特許分類】
F16D 1/06 20060101AFI20211028BHJP
F16B 4/00 20060101ALI20211028BHJP
F16D 3/50 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
F16D1/06 200
F16B4/00 C
F16D3/50 G
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-157313(P2018-157313)
(22)【出願日】2018年8月24日
(65)【公開番号】特開2020-29941(P2020-29941A)
(43)【公開日】2020年2月27日
【審査請求日】2021年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 広行
(72)【発明者】
【氏名】古川 泰成
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雄一郎
【審査官】
西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−169395(JP,A)
【文献】
特開昭54−28959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/06−1/097
F16B 4/00
F16D 3/50−3/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着部材と前記装着部材の外周側に油圧嵌めするハブとの間に供給する圧油の漏洩を抑制するシール機構であって、
前記ハブの端面に設けられた環状の凹部と、
前記ハブの端面に前記凹部を設けることにより前記凹部の内周側に設けられた環状の凸部と、
前記凹部に差し込まれ、前記凸部を径方向内方へ向け押圧することにより前記凸部を塑性変形させるシール補助具と、を備えることを特徴とする油圧嵌め用ハブのシール機構。
【請求項2】
請求項1記載のシール機構に用いられるシール補助具であって、
前記凹部に差し込まれる差し込み部を有する環状体を円周上二つ割りした形状を呈し、
前記二つ割りによる分割体同士を互いに近付く方向にボルト締めすることにより前記凸部を径方向内方へ向け押圧することを特徴とするシール補助具。
【請求項3】
請求項1記載のシール機構に用いられるシール補助具であって、
前記凹部に差し込まれる差し込み部を有する環状体を円周上1箇所でカットした形状を呈し、
前記カットによるカット端部同士を互いに近付く方向にボルト締めすることにより前記凸部を径方向内方へ向け押圧することを特徴とするシール補助具。
【請求項4】
請求項2または3記載のシール補助具であって、
前記装着部材とハブとの嵌合面の軸方向端部から噴出する圧油を受け止める圧油飛散防止ガードを備えることを特徴とするシール補助具。
【請求項5】
請求項1記載のシール機構において、
前記ハブは、ダイアフラムを介してセンターチューブに連結されるダイアフラムカップリング用ハブとして用いられることを特徴とする油圧嵌め用ハブのシール機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着部材と前記装着部材の外周側に油圧嵌めするハブとの間に供給する圧油の漏洩を抑制する油圧嵌め用ハブのシール機構とシール補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から例えば
図6に示すダイアフラムカップリング1が知られており、このダイアフラムカップリング1は、ハブ11からダイアフラム31を介してセンターチューブ41に連なる、或いは反対にセンターチューブ41からダイアフラム31を介してハブ11に連なる回転トルク伝達経路を備えている。
【0003】
ハブ11は、円筒状を呈するハブ本体12を備え、このハブ本体12の軸方向一方の端部にダイアフラム31を保持するためのフランジ部13が一体に設けられている。
【0004】
また、ハブ11は、その内周側に挿入する出力軸または入力軸等の装着部材51に連結される。
【0005】
装着部材51とハブ11との連結は、いわゆる油圧嵌めにより行われる。
【0006】
すなわち油圧嵌めは、装着部材51とハブ11とを油圧を利用して嵌合するもので、装着部材51とハブ11とを嵌合するとき、またはハブ11から装着部材51を引き抜くときに、装着部材51とハブ11との嵌合面に圧油を供給してハブ11を拡径させることにより、嵌合および引き抜きを可能としている。
【0007】
このため、装着部材51の外周面にテーパー面54が設けられるとともに対応してハブ11の内周面にテーパー面14が設けられている。また装着部材51の内部に圧油の供給路55が設けられ、供給路55は装着部材51の外周面に開口している。したがって供給路55から装着部材51とハブ11との嵌合面に圧油を供給すると(矢印A)、ハブ11が油圧で拡径するので、装着部材51とハブ11とを嵌合することが可能とされ、またハブ11から装着部材51を引き抜くことが可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−185525公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記油圧嵌め構造によると、装着部材51とハブ11との間に供給する圧油が両部品11,51間の軸方向端部から漏洩することがあり(矢印B)、圧油が多量に漏洩すると、ハブ11の拡径量が不足して油圧嵌めが円滑に行われなかったり、或いは漏洩した圧油がダイアフラム31等の周辺部品を汚損したりすることが懸念される。
【0010】
本発明は以上の点に鑑みて、装着部材とハブとの間に供給する圧油が両部品間の軸方向端部から漏洩するのを抑制することができる油圧嵌め用ハブのシール機構と同機構に用いるシール補助具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の油圧嵌め用ハブのシール機構は、装着部材と前記装着部材の外周側に油圧嵌めするハブとの間に供給する圧油の漏洩を抑制するシール機構であって、前記ハブの端面に設けられた環状の凹部と、前記ハブの端面に前記凹部を設けることにより前記凹部の内周側に設けられた環状の凸部と、前記凹部に差し込まれ、前記凸部を径方向内方へ向け押圧することにより前記凸部を塑性変形させるシール補助具と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のシール補助具は、上記記載のシール機構に用いられるシール補助具であって、前記凹部に差し込まれる差し込み部を有する環状体を円周上二つ割りした形状を呈し、前記二つ割りによる分割体同士を互いに近付く方向にボルト締めすることにより前記凸部を径方向内方へ向け押圧することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のシール補助具は、上記記載のシール機構に用いられるシール補助具であって、前記凹部に差し込まれる差し込み部を有する環状体を円周上1箇所でカットした形状を呈し、前記カットによるカット端部同士を互いに近付く方向にボルト締めすることにより前記凸部を径方向内方へ向け押圧することを特徴とする。
【0014】
また、本発明のシール補助具は、上記記載のシール補助具であって、前記装着部材とハブとの嵌合面の軸方向端部から噴出する圧油を受け止める圧油飛散防止ガードを備えることを特徴とする。
【0015】
更にまた、本発明のシール機構は、上記記載のシール機構において、前記ハブは、ダイアフラムを介してセンターチューブに連結されるダイアフラムカップリング用ハブとして用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、ハブの端面に設けられた環状の凸部がシール補助具によって径方向内方へ向け押圧されることにより塑性変形するため、この凸部によって堰状ないしリップ状のシール部が形成される。したがって装着部材とハブとの間に供給する圧油が両部品間の軸方向端部から多量に漏洩するのを抑制することができ、これによりハブの拡径量が不足して油圧嵌めが円滑に行われなかったり、或いは漏洩した圧油がダイアフラム等の周辺部品を汚損したりするのを抑制することができる。また、シール補助具が圧油飛散防止ガードを備えることにより、装着部材とハブとの嵌合面の軸方向端部から噴出する圧油をこのガードによって受け止め、圧油が飛散するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態に係るシール機構を備える油圧嵌め用ハブの断面図
【
図2】同シール機構に備えられるシール補助具の作動を示す図であって、(A)はシール補助具を凹部に差し込んだ状態の断面図、(B)はシール補助具によって凸部を押圧した状態の断面図
【
図5】(A)(B)ともシール補助具の差し込み部の他の例を示す断面図
【
図6】従来例に係る油圧嵌め用ハブを備えるダイアフラムカップリングの断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すように、ハブ11は、円筒状を呈するハブ本体12を備え、このハブ本体12の軸方向一方(図では左方)の端部にフランジ部13が一体に設けられている。ハブ11は例えば、ダイアフラム31(
図6)を介してセンターチューブ41(
図6)に連結されるダイアフラムカップリング用のハブとして用いられる。
【0019】
ハブ11は、その内周側に挿入する出力軸または入力軸等の装着部材51に連結される。ハブ11および装着部材51は何れも金属製の部品である。
【0020】
装着部材51とハブ11との連結は、油圧嵌めにより行われる。
【0021】
油圧嵌めは、装着部材51とハブ11とを油圧を利用して嵌合するものであって、すなわち装着部材51とハブ11とを嵌合するとき、またはハブ11から装着部材51を引き抜くときに、装着部材51とハブ11との嵌合面に圧油を供給してハブ11を拡径させることにより、嵌合および引き抜きを可能としている。
【0022】
このため、装着部材51の外周面に、軸方向一方(フランジ側)から軸方向他方(図では右方、反フランジ側))へかけて外径寸法が徐々に拡大する向きのテーパー面54が設けられるとともに、対応してハブ11の内周面に、軸方向一方から軸方向他方へかけて内径寸法が徐々に拡大する向きのテーパー面14が設けられている。また装着部材51の内部に圧油の供給路55が設けられ、供給路55は装着部材51の外周面に開口している。したがって供給路55から装着部材51とハブ11との嵌合面に圧油が供給されると(矢印A)、このときハブ11が油圧で拡径するので、装着部材51とハブ11とを嵌合することが可能とされ、またハブ11から装着部材51を引き抜くことが可能とされる。装着部材51はその外周面にテーパー面54が設けられているので、テーパー軸と称されることがある。
【0023】
上記構成の油圧嵌め構造では、装着部材51とハブ11との間に供給する圧油が両部品11,51の軸方向一方の端部から漏洩することがあり、圧油が多量に漏洩して油圧が低下すると、ハブ11の拡径量が不足して油圧嵌めが円滑に行われなかったり、或いは漏洩した圧油がダイアフラム31等の周辺部品を汚損したりすることが懸念される。そこで当該実施の形態では、以下のような圧油に対するシール機構が設けられている。
【0024】
すなわち
図2に拡大して示すように、ハブ11の軸方向一方の端面15に環状の凹部16が設けられ、これによりこの凹部16の内周側に環状の凸部17が設けられている。凸部17はその径方向幅よりも軸方向長さのほうが大きく形成されている。
【0025】
また、シール機構は、シール補助具21を備えている。
【0026】
このシール補助具21は、
図2(A)に示すように凹部16に差し込まれ、次いで
図2(B)に示すように凸部17を径方向内方へ向け押圧することにより凸部17を塑性変形させるものであって、このため
図3に示すように、凹部16に差し込まれる差し込み部23(
図2(A)(B)参照)を先端部に設けるとともにボルト締結用のフランジ部24を外周部に設けた環状体22を円周上二つ割りした形状を呈し、二つ割りによる分割体22A,22B同士を互いに近付く方向にボルト25およびナット26の組み合わせで締め付けることにより差し込み部23を縮径させ、縮径する差し込み部23によって凸部17を径方向内方へ向け押圧し、これにより凸部17を塑性変形させるものとされている。
【0027】
塑性変形した凸部17は、
図2(B)に示すようにその内周面に、凸部先端17aへ向けて内径寸法が徐々に縮小する向きのテーパー部18が設けられるとともに、その外周面にも同じ方向に傾斜するテーパー部19が設けられ、これにより凸部17はその全体がリップ状とされ、凸部先端17aが装着部材51の外周面に接触することにより圧油に対してシール作用を発揮する堰状シールないしリップ状シールとして作動することが可能とされている。
【0028】
尚、上記したようにハブ11の内周面にはテーパー面14が設けられているので、凸部17の内周面に設けるテーパー部18はその傾斜角度θ
1をハブ11の内周面に設けるテーパー面14の傾斜角度θ
2より大きく形成し(θ
1>θ
2)、これにより凸部17が堰状シールないしリップ状シールとして装着部材51の外周面に接触するようにする。接触圧の大きさはボルト25の締め付け量によって調整することが可能とされている。
【0029】
また、
図1に示すようにシール補助具21の内周部に、装着部材51とハブ11との嵌合面の軸方向端部から噴出する圧油を受け止めるための、内向きフランジ状の圧油飛散防止ガード27が一体に設けられている。
【0030】
上記構成のシール機構によれば、ハブ11の端面15に設けられた環状の凸部17がシール補助具21によって径方向内方へ向け押圧されることにより塑性変形するため、この凸部17によって堰状シールないしリップ状シールが形成される。したがって装着部材51とハブ11との間に供給する圧油が両部品11,51間の軸方向端部から多量に漏洩するのを抑制することができ、これによりハブ11の拡径量が不足して油圧嵌めが円滑に行われなかったり、或いは漏洩した圧油がダイアフラム等の周辺部品を汚損したりするのを抑制することができる。
【0031】
また、シール補助具21の内周部に圧油飛散防止ガード27が一体に設けられているため、装着部材51とハブ11との嵌合面の軸方向端部から噴出する圧油をこの圧油飛散防止ガード27によって受け止めることが可能とされている。したがって圧油が飛散するのを抑制することができ、飛散する圧油がダイアフラム等の周辺部品を汚損するのを抑制することができる。
【0032】
上記実施の形態において、シール補助具21は円周上二つ割りされた二つ割り構造とされているが、凸部17を締め付けることができればその構造はとくに限定されない。
【0033】
図4ではその一例として、シール補助具21が、環状体22を円周上1箇所でカットした形状を呈し(カット部を符号28にて示す)、カット端部28a,28b同士を互いに近付く方向にボルト25およびナット26の組み合わせで締め付けることにより差し込み部23(
図2(A)(B)参照)を縮径させ、縮径する差し込み部23によって凸部17を径方向内方へ向け押圧し、これにより凸部17を塑性変形させるものとされている。
【0034】
また、差し込み部23については
図5(A)に示すように、先端内周に面取り部29を設けることにより差し込み部23を凹部16へ差し込やすくすることができる。また
図5(B)に示すように、先端内周に面取り部29および尖端部30を設けることにより差し込み部23を凹部16へ差し込みやすくすることができ、加えて締め付けのピーク値を増大させることができる。
【0035】
更にまた、上記のように塑性変形される凸部17は、装着部材51の外周面に接触することなく、装着部材51の外周面との間に微小な径方向間隙を形成する非接触式のシールを形成するものとしても良い。また、凸部先端17aが係合可能な環状の溝や段差部、端面部などを装着部材51の外周面に設けることも考えられる。
【符号の説明】
【0036】
1 ダイアフラムカップリング
11 ハブ
12 ハブ本体
13 フランジ部
14,54 テーパー面
15 端面
16 凹部
17 凸部
17a 凸部先端
18,19 テーパー部
21 シール補助具
22 環状体
22A,22B 分割体
23 差し込み部
24 フランジ部
25 ボルト
26 ナット
27 圧油飛散防止ガード
28 カット部
28a,28b カット端部
29 面取り部
30 尖端部
31 ダイアフラム
41 センターチューブ
51 装着部材
55 圧油供給路