(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963550
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】薄型空気浄化装置及び室内の空気浄化システム
(51)【国際特許分類】
A61L 9/00 20060101AFI20211028BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20211028BHJP
A61L 9/014 20060101ALI20211028BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20211028BHJP
F24F 7/003 20210101ALI20211028BHJP
【FI】
A61L9/00 C
A61L9/20
A61L9/014
A61L9/01 B
F24F7/003
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-529447(P2018-529447)
(86)(22)【出願日】2017年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2017023110
(87)【国際公開番号】WO2018020920
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2020年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-147030(P2016-147030)
(32)【優先日】2016年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515316458
【氏名又は名称】株式会社Nano Wave
(74)【代理人】
【識別番号】100142550
【弁理士】
【氏名又は名称】重泉 達志
(72)【発明者】
【氏名】今井 勇次
【審査官】
松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−034771(JP,A)
【文献】
特開2000−167353(JP,A)
【文献】
特開2016−090088(JP,A)
【文献】
特開2006−007806(JP,A)
【文献】
特開2005−261832(JP,A)
【文献】
特開2015−150393(JP,A)
【文献】
特開2006−271636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00− 9/22
F24F 1/00
F24F 1/02
F24F 7/00− 7/007
B60H 1/00− 3/06
F24F 3/00− 3/16
F24F 7/013− 7/02
F24F 7/04− 7/06
F24F 7/08− 9/00
F24F 13/00− 13/078
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンを含む板状の光触媒部材と、
前記光触媒部材に対して紫外光を照射し、複数のLED素子を含む板状の発光部と、
板状の活性炭部材と、
前記光触媒部材、前記発光部及び前記活性炭部材の外縁の少なくとも一部を、前記光触媒部材、前記発光部及び前記活性炭部材を厚さ方向に並べた状態で把持する枠体と、を備え、
前記発光部は、前記各LED素子が実装された板状の実装基板であり、厚さが3mm〜15mmであり、前記各LED素子が実装された面が前記光触媒部材の一面と対向し、
前記光触媒部材は、内部が三次元網目構造のポリエステルの表面に、前記チタンの粒子がコーティングされ、
互いに対向する板状の前記発光部と板状の前記光触媒部材の間の間隙は、3mm〜15mmであり、
前記活性炭部材は、前記光触媒部材の他面側に接触して配置され、
前記枠体は、前記光触媒部材と前記発光部の間に外縁側から入り込み前記光触媒部材の一面及び前記発光部の他面を支持する支持部と、前記発光部の一面の外縁側を押さえ込む第1押さえ部と、前記活性炭部材の他面の外縁側を押さえ込む第2押さえ部と、を有し、
前記第1押さえ部及び前記第2押さえ部が、前記枠体の厚さ方向の両端をなし、
前記枠体の厚さ方向寸法が、30mm以下であり、
前記枠体内にファンが設けられていない薄型空気浄化装置。
【請求項2】
前記光触媒部材の前記一面及び前記他面には、波状の凹凸が形成されている請求項1に記載の薄型空気浄化装置。
【請求項3】
前記第2押さえ部は、前記薄型空気浄化装置が平坦面上に載置された際に前記平坦面と接触し、前記平坦面と前記活性炭部材の間に空間を作り出す請求項1または2に記載の薄型空気浄化装置。
【請求項4】
前記光触媒部材は、平面視にて、前記発光部と重ならない部分を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の薄型空気浄化装置。
【請求項5】
室内の仕切り部に設けられるものであって、
前記室内側から、前記発光部、前記光触媒部材、前記活性炭部材の順に並べられる請求項1から4のいずれか1項に記載の薄型空気浄化装置。
【請求項6】
室内の空気浄化システムであって、
前記室内に設けられた請求項1から5のいずれか1項に記載の薄型空気浄化装置と、
前記室内の空気を循環させる空気循環装置と、を有する室内の空気浄化システム。
【請求項7】
前記薄型空気浄化装置の近傍の空気の流速は、0.2m/s以上2.0m/s以下である請求項6に記載の室内の空気浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を用いた薄型空気浄化装置及びこれを備えた室内の空気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン(TiO
2)等の光触媒は、紫外線の照射を受けると活性化して強力な酸化還元作用を生じ、窒素酸化物(NO
X)、硫黄酸化物(SO
X)等の有害化合物や汚濁物等を効果的に分解する作用を発揮する。光触媒を利用した空気浄化装置として、吸気口及び排気口を備えた筐体内に、紫外線ランプを収納すると共に、該紫外線ランプで生成される紫外線の照射範囲内に光触媒を配置したものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の空気浄化装置では、酸化チタンを励起する際に、蛍光管のブラックライトを多数用いないと、アセトアルデヒドの除去性能が不十分であるという問題点があった。そこで、光触媒部材に対して紫外光を照射する複数のLED素子を含む発光部を設ける構成が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−220123号公報
【特許文献2】国際公開第2016/104022号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1及び特許文献2に記載の空気浄化装置では、筐体内にファンを設けていることから、ファンの騒音及び振動が問題となる。また、装置が比較的大型となることから、装置の設置場所が限定されてしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、静粛性を飛躍的に向上させるとともに、装置の設置場所の自由度を確保することのできる薄型空気浄化装置及びこれを備えた室内の空気浄化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、酸化チタンを含む板状の光触媒部材と、前記光触媒部材に対して紫外光を照射し、複数のLED素子を含む板状の発光部と、板状の活性炭部材と、前記光触媒部材、前記発光部及び前記活性炭部材の外縁の少なくとも一部を、前記光触媒部材、前記発光部及び前記活性炭部材を厚さ方向に並べた状態で把持する枠体と、を備えた薄型空気浄化装置が提供される。
【0008】
上記薄型空気浄化装置において、前記発光部は、前記光触媒部材の一面側に離隔して配置され、前記活性炭部材は、前記光触媒部材の他面側に接触して配置されてもよい。
【0009】
上記薄型空気浄化装置において、前記光触媒部材は、平面視にて、前記発光部と重ならない部分を有してもよい。
【0010】
上記薄型空気浄化装置において、厚さ方向寸法が、30mm以下であってもよい。
【0011】
上記薄型空気浄化装置において、室内の仕切り部に設けられるものであって、前記室内側から、前記発光部、前記光触媒部材、前記活性炭部材の順に並べられてもよい。
【0012】
また、本発明では、室内の空気浄化システムであって、前記室内に設けられた請求項1から5のいずれか1項に記載の薄型空気浄化装置と、前記室内の空気を循環させる空気循環装置と、を有する室内の空気浄化システムが提供される。
【0013】
上記空気浄化システムにおいて、前記薄型空気浄化装置の近傍の空気の流速は、0.2m/s以上2.0m/s以下であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、静粛性を飛躍的に向上させるとともに、空気浄化装置の設置場所の自由度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態を示す薄型空気浄化装置の概略側面断面図である。
【
図2】
図2は、薄型空気浄化装置の概略正面図である。
【
図4】
図4は、比較例1におけるアセトアルデヒドの除去性能を示すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例2におけるアセトアルデヒドの除去性能を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例におけるアセトアルデヒドの除去性能を示すグラフである。
【
図7】
図7は、変形例を示す薄型空気浄化装置の概略側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1から
図3は本発明の一実施形態を示し、
図1は薄型空気浄化装置の概略側面断面図、
図2は薄型空気浄化装置の概略正面図、
図3は発光部の背面図である。
【0017】
図1に示すように、この薄型空気浄化装置1は、概略板状に形成され、酸化チタン(TiO
2)を含む板状の光触媒部材2と、光触媒部材2に対して紫外光を照射する板状の発光部3と、板状の活性炭フィルター4と、光触媒部材2、発光部3及び活性炭フィルター4を厚さ方向に並べた状態で把持する枠体5と、を備えている。薄型空気浄化装置1の厚さは任意であるが、例えば30mm以下とすることができる。この薄型空気浄化装置1は、家屋、車両等の室内の空気浄化に用いられ、家屋、車両等において室内外の仕切り部である壁部、ドア等に好適に設けられる。薄型空気浄化装置1の壁部、ドア等への設置状態は任意であり、例えば、壁部、ドア等の平坦面上に載置してもよいし、壁部、ドア等に埋設してもよい。
図1には、仕切り部の平坦面10上に載置した状態を示している。本実施形態においては、室内側から、発光部3、光触媒部材2、活性炭フィルター4の順に並べられ、発光部3と光触媒部材2の間に間隙6が形成されている。
【0018】
枠体5は、光触媒部材2、発光部3及び活性炭フィルター4の外縁の少なくとも一部を着脱自在に把持する。本実施形態においては、
図2に示すように、光触媒部材2、発光部3及び活性炭フィルター4の外縁を周方向にわたって把持する。
図1に示すように、枠体5は、光触媒部材2と発光部3の間に外縁側から入り込む支持部5aと、発光部3の室内側の外縁側を押さえ込む第1押さえ部5bと、活性炭フィルター4の室内と反対側の外縁側を押さえ込む第2押さえ部5cと、を有する。第2押さえ部5cは、薄型空気浄化装置1が平坦面10上に載置された際に当該平坦面10と接触し、平坦面10と活性炭フィルター4の間に空間9を作り出す。また、特に図示していないが、枠体5は、光触媒部材2、発光部3及び活性炭フィルター4の側と、装置外側とを連通する孔部を有している。枠体5の材質は任意であるが、例えばアルミニウム等の金属材料とすることができる。
【0019】
板状の光触媒部材2は、例えばポリエステル等のプラスチック材料からなり、内部が三次元網目構造となっている。プラスチック材料の表面には、酸化チタンの粒子がコーティングされている。また、光触媒部材2の一面及び他面には、波状の凹凸が形成されている。酸化チタンは410nm以下の波長の光で励起可能であり、励起状態となると付近の空気を浄化する。尚、酸化チタンを含んでいれば、光触媒部材2としてセラミック材料や水等の液体を用いることもできる。本実施形態においては、光触媒部材2の厚さは5mm〜30mmである。
【0020】
発光部3は、複数のLED素子7(
図3参照)が実装された板状の実装基板である。発光部3は、LED素子7が実装された面が、光触媒部材2と対向するように、光触媒部材2の一面側と離隔して配置される。
図3に示すように、発光部3は長方形状に形成され、各LED素子7が縦方向及び横方向に整列して配置される。また、
図1に示すように、板状の光触媒部材2及び発光部3の平面視にて、光触媒部材2の一部が、発光部3と重ならないよう構成されている。本実施形態においては、平面視にて、発光部3の各長辺3aが、光触媒部材2の側辺よりも内側に形成されている。これにより、室内の空気が間隙6へ流入しやすく、また、間隙6の空気が室内へ流出しやすくなっている。ここで、光触媒部材2及び活性炭フィルター4は通気性を有しており、室内から装置内へ流入した空気は、光触媒部材2及び活性炭フィルター4を通り抜けて空間9へ到達可能となっている。
【0021】
図3に示すように、実装基板の回路パターンは、アノード電極3b及びカソード電極3cを有し、各LED素子7へ電力を供給する。本実施形態においては、13個のLED素子7が並べられた4つの直列接続部が並列に接続され、計52個のLED素子7が使用される。発光部3は、AC駆動であっても、DC駆動であってもよい。本実施形態においては、発光部3の厚さは3mm〜15mmである。また、発光部3と光触媒部材2の間の間隙は3mm〜15mmである。
【0022】
各LED素子7は、例えばInGaN系の発光層を有し、紫外光を発する。本実施形態においては、各LED素子7のピーク波長は405nmである。尚、各LED素子7のピーク波長はこれに限定されず例えば365nmとすることもできる。本実施形態においては、各LED素子7はフェイスアップ型であり、それぞれワイヤにより回路パターンと電気的に接続される。
【0023】
活性炭フィルター4は、光触媒部材2の他面側に接触して配置される。活性炭フィルター4は、大部分の炭素の他、酸素、水素、カルシウム等を含む多孔質の物質からなり、その微細な穴に多くの物質を吸着させる。表面が非極性の性質を持つため、細孔より小さな粒状の有機物を選択的に吸着し、脱臭作用を得ることができる。本実施形態においては、活性炭フィルター4の厚さは5mm〜30mmである。
【0024】
図1の矢印に示すように、この薄型空気浄化装置1が設けられる室内の空気は循環しており、薄型空気浄化装置1の近傍でも所定の風速の空気の流れが生じている。具体的に、この薄型空気浄化装置1を用いた室内の空気浄化システムは、室内の空気を循環させる空調装置、サーキュレーター、扇風機等の空気循環装置を有している。効率的に空気の浄化を行うため、薄型空気浄化装置1の近傍の風速を0.2m/s以上とすることが好ましい。また、従来の筐体内にファンを有する空気浄化装置のように筐体内の風速を3.0m/s以上とする必要はなく、薄型空気浄化装置1の近傍の風速が2.0m/s以下であれば、十分な空気浄化性能が発揮されることが確認されている。
【0025】
以上のように構成された薄型空気浄化装置1では、発光部3から光触媒部材2に対して紫外光を照射することにより、室内から枠体5内へ流入した空気を光触媒部材2で浄化した後、再び室内へ流出することができる。本実施形態においては、光触媒部材2に加えて、活性炭フィルター4によっても空気が浄化されるため、アセトアルデヒド除去性能を飛躍的に向上させることができる。また、ファンを設けていないことから、静粛性を飛躍的に向上させるとともに、装置の設置場所の自由度を確保することができる。
【0026】
また、本実施形態によれば、活性炭フィルター4を室内と反対側に配置したので、活性炭フィルター4へ進入する空気を光触媒部材2で予め浄化させておくことができる。従って、活性炭フィルター4の劣化を抑制して、活性炭フィルター4の浄化性能を長期間にわたって維持することができる。また、発光部3から照射される励起光が光触媒部材2で遮られ、活性炭フィルター4へ直接的に入射することはないので、これによっても活性炭フィルター4の劣化を抑制することができる。
【0027】
図4から
図6は、横軸を時間、縦軸をアセトアルデヒド濃度としたアセトアルデヒドの除去性能を示すグラフである。アセトアルデヒドの除去性能を調べるにあたり、光触媒部材2単体によるもの(以下、比較例1)と、活性炭フィルター4単体によるもの(以下、比較例2)と、光触媒部材2及び活性炭フィルター4を積層したもの(以下、実施例)を比較した。データを取得するにあたり、比較例1及び実施例では、開始直後から紫外線照射を開始した。
図5に示すように、活性炭フィルター4のみで浄化を行う比較例2では、一定時間を経過すると、アセトアルデヒドの濃度が変化しなくなる。これに対し、
図4に示すように、光触媒部材2のみで浄化を行う比較例1では、開始直後のアセトアルデヒドの濃度の減少率は比較例1に劣るものの、一定時間経過後もアセトアルデヒドの濃度が減少する。そして、
図6に示すように、光触媒部材2及び活性炭フィルター4を積層した実施例では、比較例1と比べ開始直後からアセトアルデヒドの濃度を急激に減少させつつ、一定時間経過後もアセトアルデヒドの濃度を減少させ続けることができる。
すなわち、活性炭フィルター4は吸着反応により空気浄化を行うため、脱臭特性が飽和してしまう。一方、光触媒部材2は分解反応により空気浄化を行うため、脱臭特性が飽和することなく、脱臭率100%まで脱臭し続けることができる。そして、活性炭フィルター4と光触媒部材2を重ねることによって両方の作用効果を得ることができ、板状のような薄型であっても良好な脱臭特性を得ることができる。
【0028】
尚、前記実施形態においては、室内側から発光部3、光触媒部材2、活性炭フィルター4の順に並んだ薄型空気浄化装置1を示したが、例えば
図7に示すように、室内側から活性炭フィルター4、光触媒部材2、発光部3の順に並べた薄型空気浄化装置101とすることもできる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組み合わせの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明の薄型空気浄化装置は、静粛性を飛躍的に向上させるとともに、装置の設置場所の自由度を確保することができ、本発明の薄型空気浄化装置及びこれを備えた室内の空気浄化システムは産業上有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 薄型空気浄化装置
2 光触媒部材
3 発光部
4 活性炭フィルター
5 枠体
7 LED素子
101 薄型空気浄化装置