特許第6963553号(P6963553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963553
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】導電性構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20211028BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20211028BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20211028BHJP
   B01J 23/50 20060101ALI20211028BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20211028BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   B01J37/16
   B01J37/34
   B01J23/50 M
   D01F1/10
   D01D5/04
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-532205(P2018-532205)
(86)(22)【出願日】2016年12月22日
(65)【公表番号】特表2019-501017(P2019-501017A)
(43)【公表日】2019年1月17日
(86)【国際出願番号】EP2016082480
(87)【国際公開番号】WO2017109131
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年12月20日
(31)【優先権主張番号】102015122788.6
(32)【優先日】2015年12月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500449008
【氏名又は名称】ライプニッツ−インスティトゥート フィア ノイエ マテリアーリエン ゲマインニュッツィゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクタ ハフトゥンク
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オリヴェイラ ペーター ウィリアム デ
(72)【発明者】
【氏名】アチソン ジェニファー エス.
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−207178(JP,A)
【文献】 特表2014−504330(JP,A)
【文献】 特開2002−285036(JP,A)
【文献】 CHEMICAL PHYSICS LETTERS,394,pp 387-391,2.Experimental, 3.Results and discussionの記載参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
D01F 1/10
D01D 5/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)光触媒成分を含有するナノファイバーを基板上に提供する工程と、
b)少なくとも1種の金属構造体の前駆体化合物を、前記ナノファイバーと接触させる工程と、
c)前記光触媒成分に対する電磁放射線の作用によって、前記少なくとも1種の前駆体化合物を金属構造体へと還元する工程と、
を含み、
前記光触媒成分が二酸化チタンを含むことと、
前記二酸化チタンが、少なくともアナターゼ型二酸化チタン及びアモルファス型二酸化チタンとして存在することと、
を特徴とする、
金属構造体の製造方法。
【請求項2】
前記ナノファイバーが電界紡糸によって得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ファイバーが、少なくとも80m/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆体化合物が、銀錯体、金錯体、又は、銅錯体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノファイバーが、10μmを超える平均長さを有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アナターゼ型二酸化チタン及びアモルファス型二酸化チタンを含有し、光触媒活性を有する複合ファイバーの製造方法であって、
a)少なくとも1種の加水分解性チタン化合物又はその縮合物と、少なくとも1種の有機ポリマー及び/又はオリゴマーとを含有する紡糸組成物を準備する工程と、
b)前記組成物を電界紡糸する工程と、
c)得られたファイバーを、400℃超、かつ500℃未満で熱処理する工程と、
を含む、製造方法。
【請求項7】
前記工程c)の熱処理を、420℃超、かつ480℃未満で行うことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アモルファス型二酸化チタンのマトリックス中にアナターゼ型二酸化チタンの結晶子を含有し、光触媒活性を有する複合ファイバー。
【請求項9】
請求項8に記載の複合ファイバーを少なくとも1種備える被覆基板。
【請求項10】
基板上に提供される光触媒成分を含有するナノファイバーを含み、
前記光触媒成分が二酸化チタンを含むことと、
前記二酸化チタンが、少なくともアナターゼ型二酸化チタン及びアモルファス型二酸化チタンとして存在することと、
を特徴とする、金属構造体、
基板上に提供される光触媒成分を含有するナノファイバーを含み、
前記光触媒成分が二酸化チタンを含むことと、
前記二酸化チタンが、少なくともアナターゼ型二酸化チタン及びアモルファス型二酸化チタンとして存在することと、
前記ファイバーが、少なくとも80m/gの比表面積を有することと、
を特徴とする、金属構造体、
基板上に提供される光触媒成分を含有するナノファイバーを含み、
前記光触媒成分が二酸化チタンを含むことと、
前記二酸化チタンが、少なくともアナターゼ型二酸化チタン及びアモルファス型二酸化チタンとして存在することと、
前記ナノファイバーが、10μmを超える平均長さを有することと、
を特徴とする、金属構造体、
基板上に提供される光触媒成分を含有するナノファイバーを含み、
前記光触媒成分が二酸化チタンを含むことと、
前記二酸化チタンが、少なくともアナターゼ型二酸化チタン及びアモルファス型二酸化チタンとして存在することと、
前記ファイバーが、少なくとも80m/gの比表面積を有することと、
前記ナノファイバーが、10μmを超える平均長さを有することと、
を特徴とする、金属構造体、又は、
アナターゼ型二酸化チタン及びアモルファス型二酸化チタンを含有し、光触媒活性を有する複合ファイバー、
を備える被覆基板。
【請求項11】
少なくとも部分的に透明な外観を有することを特徴とする、請求項9又は10に記載の被覆基板。
【請求項12】
コーティングが導電性であることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の被覆基板。
【請求項13】
前記コーティングが異方性抵抗を有することを特徴とする、請求項12に記載の被覆基板。
【請求項14】
エレクトロニクス用途における導体トラックとしての、タッチスクリーンディスプレイにおける、ソーラーコレクタにおける、ディスプレイにおける、RFIDアンテナとしての、又はトランジスタにおける、請求項9〜13のいずれか一項に記載の基板の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属構造体、特に、導電性の構造体の製造方法、並びに、この種の基板及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電界紡糸によって得られるファイバーは非常にアスペクト比が高く、これは、低体積に加えて大表面積を必要とする用途において有利である。例えば、銀ナノ粒子で被覆されたTiOナノファイバーは、表面増強ラマン分光、抗菌性コーティング、光触媒作用、及び、エネルギー変換に使用されている。導電性ナノファイバーも、電極として、又は、タッチスクリーンのために提案されている。
【0003】
それと同時に、既知の方法は非常に複雑であることが多く、得られるコーティングをうまく構造化できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が取り組む課題は、ナノファイバーに基づく金属構造体、特に、透明伝導性構造体を製造することのできる方法を特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、特許請求の範囲に記載の独立項の特徴を有する発明によって達成される。これらの発明の有利な発展形態は、特許請求の範囲に記載の従属項において特定される。特許請求の範囲に記載の全ての請求項における表現は、引用することにより本明細書の一部をなす。これらの発明には、思いつく全ての上記独立項及び/又は上記従属項の組み合わせ、特に、言及した全ての上記独立項及び/又は上記従属項の組み合わせが包含される。
【0006】
上記課題は、金属構造体の製造方法によって達成される。以下、本方法の各工程を詳細に説明する。これらの工程は、必ずしも特定された順番で行う必要はなく、以下で概説される方法は、特定されない工程を更に含んでもよい。本方法は、
a)光触媒成分を含有するナノファイバーを基板上に提供する工程と、
b)少なくとも1種の金属構造体の前駆体化合物を、ナノファイバーと接触させる工程と、
c)光触媒成分に対する電磁放射線の作用によって、少なくとも1種の前駆体化合物を金属構造体へと還元する工程と、
を含む。
【0007】
工程c)において、典型的には、金属層が形成される。この場合、本発明の文脈における金属層は、金属の層を意味するものと理解される。この種の層は、適切な厚さを有するものであれば、導電性であってもよく、この種の導電性層が特に好ましい。ここで、「導電性」は、導体トラックを本質的に構成する構造体の製造を必ずしも意味するものではなく、導電性材料からのドットの製造も、原則として、導電性構造体を構成するものとする。
【0008】
ナノファイバーを使用すると、ファイバーに沿って金属層を形成することができ、これにより、導電性構造体をより薄型化することができる。ファイバーの光触媒作用によって、このファイバーにおいて選択的還元を行うことができる。前駆体化合物自体は、感光性があったとしてもわずかであるので、取り扱いがより容易である。
【0009】
ナノファイバーを提供する基板は、この目的に好適な材料であればいずれでもよい。好適な材料の例としては、金属又は金属合金、ガラス、酸化物セラミック、ガラスセラミック等のセラミック、プラスチック、並びに、紙及び他のセルロース系材料が挙げられる。当然ながら、上述の材料からなる表層を有する基板を使用することも可能である。この表層は、例えば、メタライズ層、エナメル層、ガラス層、若しくは、セラミック層、又は、塗装系とすることができる。
【0010】
金属又は金属合金の例としては、ステンレス鋼を含む鋼、クロム、銅、チタン、錫、亜鉛、黄銅、及び、アルミニウムが挙げられる。ガラスの例としては、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛クリスタルガラス、及び、シリカガラスが挙げられる。このガラスは、例えば、板ガラス、ガラス容器等の中空ガラス、又は、実験ガラス機器であってよい。セラミックは、例えば、SiO、Al、ZrO、若しくは、MgOといった酸化物、又は、これらに対応する混合酸化物に基づくセラミックとすることができる。プラスチックは、金属と同様フィルムの形態で存在し得るが、その例としては、HDPE又はLDPE等のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルブチラール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリメタクリレート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、再生セルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、三酢酸セルロース(TAC)、酢酸酪酸セルロース、及び、塩酸ゴムが挙げられる。塗装表面は、標準ベースコート又は塗料から形成することができる。好ましい実施の形態においては、基板はフィルムであり、特に、ポリエチレンテレフタレートフィルム、又は、ポリイミドフィルムである。構造体の製造を表面上に直接行う場合には、この表面は温度等の製造条件に耐えることができなければならない。
【0011】
ナノファイバーは、少なくとも1つの光触媒活性成分を含有する。この光触媒活性成分は、それ自体分解することなく、金属錯体中の金属イオンを金属へと直接還元する化合物、及び/又は、金属錯体若しくは更なる物質を酸化老化することにより間接的に還元する化合物を意味するものと理解される。酸化において発生する生成物は、金属錯体の分解、及び、この錯体中の金属イオンの還元を引き起こす。光触媒材料は、ZnO又はTiOとすることができ、TiOであることが好ましく、アナターゼ型TiOがより好ましい。
【0012】
本発明の特に好ましい実施形態では、二酸化チタンが、少なくともアナターゼ型二酸化チタン及びアモルファス型二酸化チタンとして存在する。アモルファス型二酸化チタンのマトリックス中に埋め込まれたアナターゼ型二酸化チタンの結晶子のサイズ(X線回折によって求められる)が、20nm未満であることがより好ましく、10nm未満であることが更に好ましい。ファイバーは、アナターゼ型二酸化チタンとアモルファス型二酸化チタンとの複合体からなる。これらの二酸化チタンの転換は、焼成条件の選択によって制御することができる。
【0013】
ファイバー、特に、アナターゼ型二酸化チタンとアモルファス型二酸化チタンとの複合体からなるファイバーは、その比表面積が少なくとも80m/gであることが特に好ましく、少なくとも90m/gであることが特に好ましい。
【0014】
ナノファイバーが10μmを超える平均長さを有することが好ましく、特に、20μmを超える平均長さを有することが好ましく、50μmを超える平均長さを有することがより好ましい。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、ナノファイバーが電界紡糸によって得られる。
【0016】
このために、マトリックス材料又はその前駆体と、光触媒成分又はその前駆体とを含有する組成物を準備する。
【0017】
この組成物を電界紡糸によって紡糸して、ナノファイバーを得る。
【0018】
得られたファイバーを処理する、例えば、200℃未満、特に、150℃未満の温度で乾燥することが必要となり得る。
【0019】
電界紡糸の直後に、更に加工を行う前に、少なくとも12時間ファイバーを休ませることが必要となり得る。
【0020】
最終基板にナノファイバーを適用することが必要となり得る。
【0021】
電界紡糸後のナノファイバーは、平均直径が1μm未満、特に500nm未満(ESEMによって求められる)、特に400nm未満であることが好ましい。ファイバーは円形断面を有することが好ましい。その直径は、30nm〜500nm、特に50nm〜350nmであることが好ましい。
【0022】
ファイバーはその使用前に、300℃超で、特に400℃超で熱処理することが必要となり得る。熱処理の温度は、好ましくは300℃〜800℃であり、特に好ましくは300℃〜600℃である。熱処理時間は、1分〜5時間とすることができる。その結果、二酸化チタンを使用する場合には、アナターゼ型二酸化チタンを得ることができる。
【0023】
本発明の一実施の形態においては、光触媒活性成分はナノ粒子、好ましくは、非加水分解ゾルゲルプロセスによって製造されたナノ粒子を含む。このために、加水分解性チタン化合物及び/又は加水分解性亜鉛化合物を、アルコール及び/又は酸、好ましくは炭酸と、好ましくは保護ガス雰囲気下で、反応させる。この反応は、10℃〜100℃の温度で行うことが好ましく、15℃〜30℃の温度で行うことがより好ましい。一実施の形態においては、この反応は室温で行うことができる。
【0024】
加水分解性チタン化合物は、特に、TiXの式で表される化合物である。式中、加水分解性基Xは、同一でも異なってもよく、例えば、水素、ハロゲン(F、Cl、Br、又は、I、特に、Cl及びBr)、アルコキシ(好ましくはC〜Cアルコキシ、特に好ましくは、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、ブトキシ、i−ブトキシ、sec−ブトキシ、及び、tert−ブトキシ等のC〜Cアルコキシ)、アリールオキシ(好ましくは、フェノキシ等のC〜C10アリールオキシ)、アシルオキシ(例えば、アセトキシ、又は、プロピオニルオキシ等のC〜Cアシルオキシ)、又は、アルキルカルボニル(好ましくは、アセチル等のC〜Cアルキルカルボニル)である。ハロゲン化物の一例としては、TiClが挙げられる。加水分解性ラジカルXは、アルコキシ基であることが更に好ましく、C〜Cアルコキシであることが特に好ましい。具体的なチタン酸塩としては、Ti(OCH、Ti(OC、及び、Ti(n−又はi−OCが挙げられる。
【0025】
亜鉛化合物の場合、Zn(OAc)等の亜鉛の炭酸化合物が1つの選択肢として挙げられる。
【0026】
上記アルコール及び/又は酸は、通常、低級アルコール、及び、無機酸又はカルボン酸である。このような化合物の例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、及び、ネオペンタノール等のアルキルアルコール、グリコール、プロパン−1,3−ジオール、並びに、芳香環上で置換されてもよいベンジルアルコール等のベンジルアルコールが挙げられる。カルボン酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、及び、シュウ酸が挙げられる。溶媒の混合物を使用することも可能である。この化合物は、溶媒として使用する、すなわち、明らかに過量に用いることも好ましい。無機酸の例としては、塩酸、硫酸、リン酸、及び、硝酸が挙げられる。これらの酸は、水溶液として、又は、アルコール溶液として用いることができる。水を添加することによって加水分解を援助することが必要となり得る。
【0027】
結晶性ナノ粒子を得るためには、熱処理を行うこと、好ましくは、例えば、自発生圧力下で熱処理を行うことが必要となり得る。このために、反応混合物を閉鎖容器中で50℃〜300℃の温度で2時間〜48時間処理する。
【0028】
得られたナノ粒子は、簡易な遠心分離及び溶媒の除去を行うことによって得ることができる。
【0029】
このナノ粒子は、200mm未満の平均直径(TEMによって求められる)を有することが好ましく、より好ましくは100mm未満、特に好ましくは50nm未満の平均直径を有する。
【0030】
このナノ粒子は、例えば、その吸収領域を他のスペクトル領域にシフトするため、ドープしたものであってもよい。
【0031】
このために、ナノ粒子においては、その製造において、適当な金属化合物、例えば、酸化物、塩、又は、錯体、例えば、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩(例えば、酢酸塩)、又は、アセチルアセトネートをドープのために使用することができる。この化合物は、ナノ粒子の製造に使用する溶媒に適切に可溶でなければならない。好適な金属としては、いかなる金属であってもよいが、特に、元素周期表の第5族〜第14族、ランタノイド、及び、アクチノイドから選ばれる金属である。ここで、これらの族は、Roempp Chemie Lexikon(第9版)に示された新IUPACシステムに従ってリストアップしている。この金属は、化合物中、適当な酸化前駆体中に生成し得る。
【0032】
上記金属化合物のための好適な金属の例としては、W、Mo、Zn、Cu、Ag、Au、Sn、In、Fe、Co、Ni、Mn、Ru、V、Nb、Ir、Rh、Os、Pd、及び、Ptが挙げられる。W(VI)、Mo(VI)、Zn(II)、Cu(II)、Au(III)、Sn(IV)、In(III)、Fe(III)、Co(II)、V(V)、及び、Pt(IV)の金属化合物を使用することが好ましい。特に、W(VI)、Mo(VI)、Zn(II)、Cu(II)、Sn(IV)、In(III)、及び、Fe(III)の場合に、非常に良好な結果が得られる。金属化合物の好適な具体例としては、WO、MoO、FeCl、酢酸銀、塩化亜鉛、塩化銅(II)、酸化インジウム(III)、及び、酢酸錫(IV)が挙げられる。
【0033】
上記金属化合物と上記チタン化合物又は亜鉛化合物との割合は、使用する金属、及び、その酸化状態にも左右される。上記チタン化合物又は亜鉛化合物のチタン/亜鉛に対する、上記金属化合物の金属のモル比(Me/Ti(Zn))が、0.0005:1〜0.2:1、好ましくは0.001:1〜0.1:1、より好ましくは0.005:1〜0.1:1となるような割合を使用するのが一般的である。
【0034】
得られたナノ粒子は、例えば、それに使用するマトリックス材料に対する親和性を与えるために、表面改質を行ってもよい。例えば、フッ素化基による表面改質によって、ファイバーに対してナノ粒子の濃度勾配をつくることも可能である。ナノ粒子はファイバーの表面に蓄積している。
【0035】
本発明の別の実施の形態においては、上記組成物は、光触媒活性成分の前駆体化合物を含む。この前駆体化合物は、例えば、上述の、ナノ粒子のための加水分解性化合物である。まず、この化合物をゾルに変換することが必要となり得る。これは、例えば、酢酸、塩酸等の酸を添加することによって達成することができる。
【0036】
上記組成物は、少なくとも1種のマトリックス材料、又は、少なくとも1種のその前駆体も含有する。これは、有機マトリックス形成材料、無機マトリックス形成材料、又は、有機的に改質された無機マトリックス形成材料とすることができ、特に、無機ゾル、又は、有機的に改質された無機ハイブリッド材料を含むことが好ましい。その例としては、少なくとも1つのガラス形成元素M、又は、少なくとも1つのセラミック形成元素Mの、任意に有機的に改質されていてもよい酸化物、加水分解物、及び、(ポリ)縮合物が挙げられ、元素Mは、特に、元素周期表の第3族〜第5族及び/又は第12族〜第15族から選ばれる元素Mであり、好ましくは、Si、Al、B、Ge、Pb、Sn、Ti、Zr、V、及び、Zn、又は、その混合物である。或る割合の周期表第1族及び第2族の元素(例えば、Na、K、Ca、及び、Mg)並びに周期表第5族〜第10族の元素(例えば、Mn、Cr、Fe、及び、Ni)、又は、ランタノイドを、上記酸化物、加水分解物、又は、(ポリ)縮合物中に存在させることも可能である。これは、例えば、Tiを含有するゾルであってもよく、このゾルは、任意で、同時に光触媒活性成分の前駆体ともなり得る。
【0037】
有機マトリックス材料の場合には、有機ポリマー及び/又はオリゴマー、好ましくはヒドロキシル基、第1級、第2級、若しくは、第3級アミノ基、カルボキシル基、又は、カルボン酸基等の極性基を有する有機ポリマー及び/又はオリゴマーを使用することができる。典型的な例としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルピリジン、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸、ポリビニルブチラール等のポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリル酸、デンプン、アラビアゴム、並びに、ポリエチレン−ポリビニルアルコール共重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及び、ポリ(4−ビニルフェノール)等の他のポリマーアルコール、又は、それら由来のモノマー若しくはオリゴマーが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドン(PVA)が好ましい。
【0038】
200000g/molを超え、かつ300000g/molまでの分子質量(平均分子量;M)を有する有機ポリマーが好ましい。
【0039】
上記組成物は、少なくとも1種の溶媒を含んでもよい。全ての構成成分は、その溶媒に対して溶解性又は分散性を有していなければならない。溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、又は、イソプロパノール等のアルコールとすることができる。150℃未満、特に、100℃未満の沸点を有する1種以上の溶媒が好ましい。
【0040】
界面活性剤、酸化防止剤、可塑剤等の添加剤を更に存在させることもできる。
【0041】
上記組成物の粘度は、電界紡糸の条件に従って調整することができる。
【0042】
組成物にもよるが、マトリックス成分が有機マトリックス成分である場合のマトリックス成分の含有率は、組成物に対して、2重量%〜15重量%、特に、2重量%〜10重量%である。
【0043】
特に、上記組成物が加水分解性化合物を含む場合には、電界紡糸の前に、組成物を1時間〜72時間混合することが必要となり得る。
【0044】
電界紡糸の好ましい条件としては、電圧が8kV〜20kV、紡糸ドープの流速が0.3mL/h〜1.5mL/hが挙げられる。ファイバーを集める表面からの距離は、10cm〜30cmが好ましい。0.4mm〜2mmの内径を有するニードルを使用することが好ましい。
【0045】
本発明の一実施の形態においては、上記ファイバーを、同心円状のリングノズルを用いた電界紡糸によって製造する。この種のノズルは、中心開口部と、その周囲の環状開口部とを有する。そのため、ファイバーを2種の異なる組成物から製造することができる。2種の異なる組成物の一方はファイバーのコアを形成する組成物(中心リングノズル)であり、もう一方はファイバーのシェルを形成する組成物(周囲のリング開口部)である。これにより、例えば、シェルのみに光触媒成分を含有し、コアには含有しないファイバーを製造することが可能となる。
【0046】
本発明の好ましい実施の形態(i)においては、上記紡糸組成物は、光触媒活性を有するナノ粒子、好ましくはTiO、より好ましくはアナターゼ型TiOと、少なくとも1種の有機ポリマー、好ましくはPVAとを含有する。このために、上述のように製造したナノ粒子を使用することが好ましい。
【0047】
本発明の更に好ましい実施の形態(ii)においては、上記紡糸組成物は、上述のように、光触媒成分の前駆体、特に、加水分解性チタン化合物又はその縮合物と、少なくとも1種の有機ポリマー及び/又はオリゴマーとを含有する。この前駆体は、例えば、上述の、ナノ粒子のための加水分解性化合物である。まず、この化合物をゾルに変換することが必要となり得る。これは、例えば、酢酸、塩酸等の酸を添加することによって達成することができる。
【0048】
本発明の更に好ましい実施の形態(iii)においては、ファイバーのシェルのための上記組成物は光触媒活性を有するナノ粒子を含有し、ファイバーのコアのための上記組成物は少なくとも1種の有機ポリマーを含有する。この場合、同軸リングノズルを用いた電界紡糸によってファイバーを得る。後工程において、例えば、溶媒及び/又は焼成によってポリマーを除去することができる。これにより、光触媒活性を有するチューブが得られる。
【0049】
本発明の更に好ましい実施の形態(iv)においては、シェルのための上記組成物は光触媒活性を有するナノ粒子を含有し、コアのための上記組成物は光触媒成分の前駆体化合物を少なくとも1種含有する。
【0050】
(ii)に係る本発明の特定の実施の形態においては、上記前駆体化合物は、二酸化チタンの前駆体化合物であり、製造したファイバーに対して、使用する前に熱処理を行う。熱処理条件は、前駆体化合物がアナターゼ型二酸化チタンとアモルファス型二酸化チタンとの複合体となるように、特に、アモルファス型二酸化チタンのマトリックス中にアナターゼ型二酸化チタンの結晶子が埋め込まれるように選択することが好ましい。これは、特に、400℃超、かつ500℃未満、好ましくは420℃超、かつ480℃未満、更に好ましくは430℃超、かつ470℃未満、特に好ましくは440℃〜460℃の焼成温度によって達成される。この加熱処理の時間は30分〜4時間であることが好ましい。特に、430℃〜470℃の温度においては、気孔率が特に高いと同時に、アモルファス型二酸化チタンのマトリックス中にアナターゼ型二酸化チタンの結晶子を含有するファイバーが得られる。これは、金属化を均一に行うために特に有益である。このようにして、導電性構造体を得ることができる。加熱速度は、1℃/分〜3℃/分であることが好ましい。
【0051】
熱処理を最終基板に対して行うことができる。
【0052】
次工程において、金属層の前駆体化合物を少なくとも1種含有する前駆体組成物を基板上に塗布する。この前駆体組成物は、常法、例えば、ディッピング、圧延法、ナイフコーティング、フローコーティング、延伸法、スプレー法、紡糸法、又は、塗装法を使用することによって塗布することができる。上記前駆体組成物は、典型的には、上記少なくとも1種の前駆体化合物の溶液又は懸濁液である。この溶液は、複数の前駆体化合物の混合物を含んでもよい。溶液中に、還元剤又は湿潤助剤等の助剤を更に存在させることもできる。
【0053】
上記前駆体化合物は、金属錯体であることが好ましい。金属錯体は、少なくとも1種の金属イオン又は金属原子と、少なくとも1種の配位子とを有する。金属は、例えば、銅、銀、金、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、チタン、クロム、マンガン、タングステン、白金、又は、パラジウムである。好ましい実施の形態においては、上記前駆体化合物は、銀錯体、金錯体、又は、銅錯体であり、銀錯体であることがより好ましい。上記前駆体化合物は、複数種類の金属を含有してもよく、又は、金属錯体の混合物を含有してもよい。
【0054】
使用する配位子は、通常、キレート配位子である。この配位子は、特に安定な錯体を形成することができ、複数のヒドロキシル基及び/又はアミノ基を有する化合物である。200g/mol未満の分子量を有する化合物が好ましく、少なくとも1つのヒドロキシル基と、少なくとも1つのアミノ基とを有する化合物が特に好ましい。考え得る化合物の例としては、3−アミノプロパン−1,2−ジオール、2−アミノ−1−ブタノール、トリス−(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、NH、ニコチンアミド、及び、6−アミノヘキサン酸が挙げられる。これらの配位子の混合物を使用することも可能である。好適な銀錯体の場合、配位子としてはTrisが好ましい。
【0055】
上記前駆体組成物は、上記前駆体化合物の溶液であることが好ましい。有用な溶媒としては、適切な溶媒であればいずれでもよく、例えば、水、又は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、若しくは、i−プロパノール等のアルコールである。溶媒の混合物、好ましくは水とエタノールとの混合物を使用することも可能である。好適な混合割合としては、HO:アルコール、好ましくは、HO:エタノールの比が、50重量%:50重量%〜20重量%:80重量%である。
【0056】
それに加えて、上記前駆体組成物は、界面活性剤又は還元助剤等の助剤を更に含有することもできる。
【0057】
上記前駆体組成物は、所望の方法で基板上に塗布することができる。ナノファイバーの光触媒活性が直接的又は間接的に、金属イオンの金属への還元を誘発することができるように、上記前駆体組成物を塗布する。これは、典型的には、ナノファイバーに直接上記前駆体組成物を塗布することによって達成される。
【0058】
上記前駆体組成物の塗布は、標準的な方法、例えば、ディッピング、スプレー法、圧延法、ナイフコーティング、フローコーティング、延伸法、スプレー法、紡糸法、又は、塗装法を用いて行うことができる。
【0059】
例えば、上記前駆体組成物の塗布は、基板上に載置した枠を介して行うことができ、枠の載置により形成される、枠によって囲まれたスペースに上記前駆体組成物を導入する。枠は、弾性材料からなるものとすることができ、所望の形状であればいかなる形状を有していてもよく、典型的には、長方形状の枠である。枠は、例えば、基板上の、辺長1cm〜25cm、面積1cm〜625cmの領域を囲む。基板上の枠の高さによって、塗布する上記前駆体組成物の厚さが決まる。枠は、25μm〜5mm、好ましくは30μm〜2mmの高さを有することができる。
【0060】
次工程において、ファイバーの光触媒成分への電磁放射線の作用によって、上記前駆体化合物の金属イオンを金属へと還元する。これにより、金属層が形成される。電磁放射線とは、光触媒成分を励起する波長の放射線である。その照射は、ランプ等の面放射源、又は、レーザーを使用することによって行うことができる。電磁スペクトルの可視領域又は紫外(UV)領域の波長、好ましくは、500nm未満、例えば、200nm〜450nm、又は、250nm〜410nmの波長の放射線を使用することが好ましい。400nm未満の波長の放射線が好ましい。
【0061】
使用する光源は、適切な光源であればいずれでもよい。光源の例としては、水銀灯、及び、キセノンランプが挙げられる。
【0062】
上記光源は、露光する基板から適切な距離に配置される。その距離は、例えば、2.5cm〜50cmとすることができる。250nm〜410nmのスペクトル領域における放射線の強度は、30mW/cm〜70mW/cmとすることができる。
【0063】
照射は、露光する表面に対してできる限り直角に行わなければならない。
【0064】
照射は、金属層を形成するのに十分な時間行う。ここで、照射時間は、コーティング、開始剤の種類、ランプの種類、使用する波長領域、及び、照射強度によって決まる。導電性構造体を作りたい場合には、照射時間を長くすることが必要とされ得る。照射時間は、5秒〜30分であることが好ましく、20秒〜15分であることがより好ましい。
【0065】
照射にレーザーを使用する場合には、例えば、アルゴンイオンレーザー(351nm)を10mWで使用することができる。この場合、そのレーザービームを、照射する基板にわたって、集束的かつ平行に、2mm/秒のスピードで誘導する。
【0066】
本発明の更なる実施の形態においては、照射及び上記前駆体化合物の還元後に、上記基板を更に処理する。例えば、脱イオン水又は他の適切な物質によって表面をすすぐことによって、未還元の余剰前駆体組成物を除去することができる。次いで、オーブン加熱、圧縮空気、及び/又は、室温乾燥等によって、被覆基板を乾燥することができる。
【0067】
照射は、例えば、2回、3回、又は、4回と繰り返して行うこともできる。
【0068】
好ましい実施の形態においては、初回の照射後、上記基板を洗浄し、次いで、照射を少なくとももう1回行う。これにより、表面上の非選択的析出を減少することができる。
【0069】
例えば、酸化、水、又は、紫外線から被覆表面を保護するために、層を更に設けることも可能である。
【0070】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記前駆体組成物の塗布及び/又は還元にて、構造化が達成される。本発明の文脈においては、これは、空間的に限られた金属構造体の構築を意味するものと理解され、様々な方法によって可能である。まず、上記基板の特定の領域のみをナノファイバーで被覆することができる。特定の領域のみに上記前駆体組成物を塗布することも可能である。また、電磁放射線の作用を特定の領域に限定することも当然可能である。当然ながら、これらの方法を組み合わせて使用することもできる。例えば、上記前駆体組成物を全領域に塗布し、次いで、マスクを介して露光することも可能である。同様に、上記前駆体組成物を選択的に塗布し、次いで、全領域を露光することも当然可能である。
【0071】
特に、電界紡糸を使用する場合には、紡糸したファイバーを、構造化した基板、特に、細長い凹部を有する基板に塗布することも可能である。その長さによって、ファイバーは凹部に沿って秩序化される。
【0072】
このプロセス後、例えば、基板の被覆表面を紫外線から保護するために、層を更に設けることも可能である。
【0073】
構造化によって設けられる構造体は、実際には何ら制限されない。例えば、導体トラック等の接続構造体を設けることができ、ドット状の構造体を設けることもできる。良好な解像度を与えるため、このプロセスによって、目には見えない導電性ドットをフィルムに設けることができる。これは、タッチスクリーンの表面の製造において、非常に重要である。
【0074】
また、本発明は、上述の(ii)に係る実施の形態のように、金属化を行わない、アナターゼ型二酸化チタンとアモルファス型二酸化チタンとを含有し、光触媒活性を有する複合ファイバーを製造する方法に関する。ここで、紡糸組成物は、上述のように、少なくとも1種の加水分解性チタン化合物又はその縮合物と、少なくとも1種の有機ポリマー及び/又はオリゴマーとを含有する。この加水分解性チタン化合物は、例えば、上述の、ナノ粒子のための加水分解性チタン化合物である。まず、この化合物をゾルに変換することが必要となり得る。これは、例えば、酢酸、塩酸等の酸を添加することによって達成することができる。
【0075】
上記紡糸組成物を電界紡糸によって紡糸し、ファイバーを基板に適用する。次いで、上述のように、400℃超、かつ500℃未満、好ましくは420℃超、かつ480℃未満、更に好ましくは430℃超、かつ470℃未満、特に440℃〜460℃にて熱処理を行う。この熱処理の時間は30分〜4時間であることが好ましい。特に、430℃〜470℃の温度においては、気孔率が特に高いと同時に、アモルファス型二酸化チタンのマトリックス中にアナターゼ型二酸化チタンの結晶子を含有するファイバーが得られる。これは、金属化を均一に行うために特に有益である。このようにして、導電性構造体を得ることができる。加熱速度は、1℃/分〜3℃/分であることが好ましい。
【0076】
このようにして得られるファイバーは、本発明の金属構造体の製造方法に特に有利である。
【0077】
また、本発明は、本発明の方法によって得られる複合ファイバーに関する。
【0078】
また、本発明は、本発明の方法によって得られる複合ファイバーを少なくとも1種備える基板に関する。
【0079】
また、本発明は、本発明の方法によって得られる被覆基板に関する。このような基板は、光触媒活性を有するナノファイバーを含む光触媒活性を有する層を特徴とする。この層は、50nm〜200μmの厚さを有する。層の厚さは、好ましくは、100nm〜1μm、より好ましくは50nm〜700nmである。
【0080】
上記ファイバーは、アナターゼ型二酸化チタンとアモルファス型二酸化チタンとで構成される複合体、特に、本発明の方法によって得られるような複合体を含むことが好ましい。
【0081】
本発明の更なる実施の形態においては、上記ファイバーは、少なくとも部分的に金属化されている。ここで有用な金属は、特に、銅、銀、金、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、チタン、クロム、マンガン、タングステン、白金、又は、パラジウムであり、好ましくは、銀、又は、金である。これらの金属は、個々の粒子であってもよい。上記ファイバーは、上記金属によって被覆されていることが好ましく、これは、TEMによって検出することができる。基板上のコーティングが導電性であることがより好ましく、これは、5mmの距離で、少なくとも1つの方向において、3MΩ未満、好ましくは2MΩ、最も好ましくは1MΩの抵抗を有する構造体を意味するものと理解される。製造された構造体は、そのファイバー構造によって、異方性抵抗を有することが好ましい。異方性抵抗とは、抵抗が、測定の方向に応じて、少なくとも2倍、少なくとも10倍、特に、100倍に変化することを意味する。
【0082】
金属層の厚さは、200mmまでとすることができる。層の厚さは、好ましくは、10nm〜100nm、より好ましくは5nm〜50nmである。
【0083】
本発明の特に有利な実施の形態においては、基板上のコーティングは、少なくとも部分的に透明であり、特に、全体的に透明である。これは、基板の表面上の被覆領域における電界紡糸後のファイバーによる被覆率を、基板の被覆表面領域の20%未満、特に、10%〜20%、好ましくは10%〜15%とすることによって、達成することができる。これは、例えば、電界紡糸時間によって、達成することができる。上記被覆率は、平均透過率及びヘイズを電界紡糸時間の関数として測定することによって求めることができる。
【0084】
ファイバーによるコーティングは、平均透過率を最大でも5%しか減らさないことが好ましい。
【0085】
本発明の発展形態においては、上記基板は、50μm未満、好ましくは10μm未満の大きさを有する構造要素によって構造化されている。この構造要素は、金属領域及び/又は非金属領域を提供するものであってよい。より好ましくは、金属構造体は、ナノファイバーの金属コーティングである。
【0086】
本発明の特に有利な発展形態においては、上記被覆基板は、少なくとも部分的に透明な金属構造体を備える。これは、20μm未満、好ましくは10μm未満の解像度を有する構造体を透明基板に適用することによって、達成することができる。
【0087】
本発明の方法によって得られる被覆基板は、多くの用途に使用することができる。
【0088】
第一に、本方法は反射金属層を表面に塗布するのに好適である。これらの被覆基板は、例えばホログラフィー用途における反射層として使用することができる。
【0089】
本発明の特定の利点は導電性構造体の製造にある。これらの導電性構造体は、エレクトロニクス用途における導体トラックとして、特にタッチスクリーンディスプレイにおいて、ソーラーコレクタにおいて、ディスプレイにおいて、RFIDアンテナとして、又はトランジスタにおいて好適である。したがって、導電性構造体は、ITO(酸化インジウムスズ)をベースに、例えばTCOコーティング(TCO:透明な導電性酸化物)においてこれまで製造されてきた製品における代替物として好適である。特に、透明構造体、及び、異方性抵抗を有する構造体を得ることが可能である。
【0090】
本構造体はトランジスタ分野において代替的に使用することができる。
【0091】
更なる詳細及び特徴は、従属項と併せて後続の好ましい実施例の記載により明らかとなろう。この文脈において、それぞれの特徴自体、又は、それらのいくつかを互いに組み合わせて実行することができる。課題を解決するための手段はこれらの実施例に限定されるものではない。例えば、指定範囲は常に、明示されていない全ての中間の値及び考え得る全ての部分区間を含む。
【0092】
実施例は概略図において示されている。個々の図面における同一の参照符号は、同一であるか又は同じ機能を有するか又はそれらの機能の点で相互に対応する要素を示す。具体的には、図は以下のことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1】a)製造直後のファイバーの直径の分布(「ファイバー直径」(nm)対パルス(カウント))を示す図である。b)(i)の後のファイバーのESEM(環境制御型走査電子顕微鏡)画像である。
図2】a)ファイバーの直径の分布(「ファイバー直径」(nm)対パルス(カウント))を示す図である。b)(ii)の後のファイバーのESEM(環境制御型走査電子顕微鏡)画像である。
図3】a)製造後(「紡糸したままの状態」)、500℃で5分焼成後(5分焼成)、及び、500℃で30分焼成後(30分焼成)のファイバーの直径の分布(「ファイバー直径」(nm))を示す図である。b)30分焼成後のサンプルのESEM画像である。
図4】製造後(「紡糸したままの状態」、下のグラフ)、5分焼成後(真ん中のグラフ)、及び、30分焼成後(上のグラフ)のファイバーのEDSスペクトル(エネルギー(keV)対強度)を示す図である。
図5】5分焼成後(下のグラフ)、及び、30分焼成後(上のグラフ)のサンプルのXRDスペクトルを示す図である。アナターゼのシグナルは、25.32°、38°、及び、48.01°である。
図6】3分照射後(A)、5分照射後(B)、及び、7分照射後(C)に、ファイバー上に形成された銀粒子の直径のサイズ分布(nm範囲)を示す図である。
図7】AgNO−Tris錯体の存在下で、4分間UV露光した後のTiOマットのESEM画像(左側)と、同じように同条件下で4分間UV露光した後の、ガラス上の被覆率30%のファイバーのESEM画像(右側)である。
図8】製造したファイバーの直径の分布をTEMで測定した結果を示す図である。
図9】450℃の焼成温度、並びに、a)FD10cm、CT30分、b)FD20cm、CT30分、c)FD10cm、CT60分、及び、d)FD20cm、CT60分で得たサンプルのESEM画像である。
図10】(a)450℃、60分、(b)475℃、60分、及び、(c)500℃、60分で焼成したファイバーを表すTEM画像である。各々の場合において、FDは10cmである。
図11】450℃、475℃、及び、500℃で焼成したファイバーを表すラマンスペクトルである。
図12】450℃(左側、FD20cm)、475℃(真ん中、FD15cm)、及び、500℃(右側、FD15cm)(各々の場合において、CTは60分)で焼成したサンプルのガス吸着分析プロットを示す図である。X軸は分圧P/P0を示し、各場合におけるY軸は吸着量(cc/g STP)を示し、四角記号は吸着量、丸記号は脱着量を示す。
図13】a)450℃、FD20cm、CT60分で焼成、及び、b)475℃、FD20cm、CT60分で焼成したファイバー上に銀を析出させた後のファイバーの画像である。
図14】被覆率を析出時間の関数として求めた図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0094】
ナノファイバーの電界紡糸プロセスのために、様々な戦略を用いた。
【0095】
(i)水熱法により作製したTiOナノ結晶を、ポリマー化合物に導入し、電界紡糸してナノファイバーを得る。
(ii)チタンアルコキシド前駆体化合物から得たTiO及びポリマー紡糸化合物からアナターゼ含有ファイバーを作製する。
(iii)ポリマーコアと、水熱法により転換されたTiO結晶であるシェルとを有するファイバーを、同軸電界紡糸により得て、熱処理後、ポリマーを洗浄してアナターゼ型二酸化チタンのチューブを得る。
(iv)チタンアルコキシドであるコアと、水熱法により作製したTiO結晶であるシェルとを有するファイバーを、同軸電界紡糸により得る。
【0096】
基板は全て光化学的に銀を析出させるために使用する。
【0097】
(i)に係る実験
水熱焼成したTiOナノ結晶の水系ゾルを電界紡糸することにより、極細ファイバーを得た。このために、チタンテトライソプロポキシドを、イソプロパノール及び塩酸と混合し、TiOネットワークを得た。これに、水及びイソプロパノールを添加して、ゾルを得た。次いで、ゾルを一定容積のオートクレーブに導入し、250℃まで加熱して、アナターゼ型TiOを得た。得られたナノ結晶を再分散し、任意で、表面改質を行った。この組成物に対し、高分子量ポリビニルピロリドン(Mw=1300000g/mol、hPVP)を、(組成物全体に対して)4重量%の含有率まで添加した。
【0098】
得られたファイバーを図1に示す。このファイバーの直径は非常に小さく、やや起伏のある表面を有していた。これは、TiO粒子がファイバー内に配置されていることを示唆している。
【0099】
(ii)に係る実験
アナターゼ含有ナノファイバーを以下のようにして得た。チタンテトライソプロポキシド(Ti(O−iPr))を、酢酸とエタノールとの混合物中0.25:1:1の割合とし、徐々に加水分解してゾルを得た。このゾルに対し、高分子量ポリビニルピロリドン(Mw=1300000g/mol、hPVP)を添加し、エタノールを添加することにより完全に溶解させた。hPVPの含有率は、組成物全体に対して9重量%であった。
【0100】
エタノールの添加量を変えることによって、ポリマー濃度が5重量%の組成物も作製した。
【0101】
このゾルを(適宜、わずかに撹拌しながら)24時間放置し、以下の条件下で電界紡糸した:
21G紡糸口金を、アルミニウム泊で被覆した接地銅板に対して直角に、15cmの距離に設置した。シリンジポンプを使用して、紡糸ドープの流速を0.82mL/h又は0.5mL/分〜0.8mL/分(温度21℃、空気湿度43%)とした。18kV〜21kV、特に、18kV〜20kVの電圧で、紡糸繊維を形成した。
【0102】
光学試験のために、3cm×3cmのガラス板を、上記紡糸口金下に(10cm〜20cmの距離で)時間を変えて(1秒及び15秒)、保持した。図2に、ファイバーのファイバー直径の典型的な分布を示す。ファイバーは、103nm±53nmの平均直径を有し、平滑な円筒状の形態を示している。
【0103】
個々のファイバーを表面に適用するために、ファイバーの適用は、上記ガラス板を動かしながら、12秒〜15秒間行った(5重量%、0.5mL/分〜0.8mL/分、21ゲージ、18kV〜20kV、FD10cm〜20cm)。これにより、ガラス表面の12%〜15%がファイバーによって被覆された。ファイバー同士は20μm〜100μm離れており、焼成後、全てのファイバーが500nm未満の最大直径を有している。
【0104】
紡糸後、基板上に適用したファイバーを120℃で12時間加熱して、水及び溶媒を除去した。80℃で12時間〜24時間でも除去することができる。
【0105】
その後、500℃で焼成した(加熱速度及び冷却速度は、各々、2.66℃/分)。アナターゼ型二酸化チタンの最適な形成条件を調べるため、5分及び30分の2つの異なる保持時間で調べた。30分の保持時間で得たファイバーは、後に、銀による被覆率の向上を示した。図1図6に示す全ての例は、500℃で30分間焼成したものであった。他のサンプルの場合には、焼成温度及び時間はそれぞれ定められている。加熱後、規定の時間、焼成温度を維持した。
【0106】
サンプルを少なくとも3時間かけて室温まで冷却した。
【0107】
焼成によるファイバー直径の変化を図3に示す。ファイバーは明らかに細くなり、サイズ分布は狭くなっている。図4に示されるEDSスペクトルには、PVP([CNO])における炭素及び酸素のKα線に対応する、0.277keV及び0.525keVにおけるピークが減少していることがはっきりと示されている。4.508keVにおけるピークは、チタンのKαに対応している。焼成が長くなれば、炭素が反応してCOとなり、酸素はTiOを形成する。0.452keVにおけるTiのLαもスペクトルにおいて明らかである。炭素の低吸収は、サンプルの固定バンドに起因するものと考えられる。
【0108】
焼成によってアナターゼ型結晶が生成していることは、X線回折(図5)によっても示されている。
【0109】
図6に、様々な照射時間で表面に形成した銀ナノ粒子のサイズ分布を示す。
【0110】
以下の例における金属化のために、金属層の前駆体として、Tris錯体を含む硝酸銀水溶液を使用した。組成物を新しく調製し、ガラス板に適用したファイバー上に分注してから、30秒待機した。その後、ファイバーに、UV光(1000W)を3分間照射した後、サンプルを洗浄し、再度UV光(1000W)を2分間照射した。洗浄によって、ガラス表面に銀が自然析出するのを減少させる。
【0111】
図7の左側には、AgNO−Tris錯体の存在下で4分間露光した後のファイバーマット(500℃で30分間焼成)を示す。銀コーティングは、金属性で、接触抵抗を有して導電性(11.8Ωcm)である。左側の画像のファイバーも、同条件下で4分間露光したものであるが、銀による被覆が不完全で非導電性である。
【0112】
更なる実験のため、考え得るファクターとして、電界紡糸における基板衝突前の距離(「飛距離」、FD)、焼成時間(CT)、及び、焼成温度の影響を調べた。ファイバーはそれぞれ、3つの異なる出発原料バッチから作製した。
【0113】
ガラス上に作製した全てのファイバーの透過率を測定した。その結果を表1に示す。サンプルの表示において、FDは飛距離を表し、CTは焼成時間(分)を表す。よって、FD10CT60は、10cmの飛距離で、60分の焼成時間を意味する。ガラス表面のファイバーによる被覆率が15%の場合には、いずれも、透過率の明らかな減少は見られない。
【0114】
ガラス表面のファイバーによる被覆率が12%〜15%の場合には、未処理のガラスと比較して、最大1%の透明性の低下が測定され、銀析出後には、最大2.5%の低下が測定される。
【0115】
被覆率を求めた結果を図14に示す。このために、透過率又はヘイズを電界紡糸時間の関数として測定した。括弧内の数字は、測定した透過率及びヘイズを示している。
【0116】
図8に、飛距離(X軸の上段が10cm又は20cmを示す)、焼成時間(真ん中の段の数字が30分又は60分を示す)、及び、焼成温度(上に配されたこれらの飛距離と焼成時間との4つの組み合わせに対して、450℃、475℃、及び、500℃)の関数として作製したファイバーの直径の分布を示す。10cmの飛距離で紡糸したサンプルは、非常に細いファイバーとより太いファイバーとの二峰性分布を有するため、より広い分布を有する(例えば、図9a)。450℃で焼成したファイバーは、より高温で焼成したファイバーに比べて収縮が小さい。このようなファイバーの画像を図9に示す。図の幅は、1.25μmに対応している。直径を求めるため、上述の条件下で作製したファイバーマット中の多数のファイバーの直径を測定した。ファイバーは、円形の直径を有している。
【0117】
図10に、様々な焼成温度でのファイバーのTEM画像を示す。温度が高くなるにつれて、ファイバーの結晶化度が高くなっている。
【0118】
図10に、様々な温度における焼成後のファイバーのTEM画像を示す。焼成温度が高くなるにつれて、結晶性二酸化チタンの割合、すなわち、結晶性組織のサイズが著しく大きくなっている。これは、図11に示すラマンスペクトルからも明らかである。振幅が小さく、ピークの幅が小さい程、結晶化度が低く、すなわちナノ結晶であることを示している。450℃の場合のピークは、475℃又は500℃の場合に比べて非常に小さい。そして、450℃で得たサンプルは、特有のバックグラウンド蛍光を示し、O−Ti−O B1g、及び、O−Ti−O A1g/B1gに対するピークが非常に不明確である。これは、このファイバーにおいて、広がったTi−O−Tiネットワーク中にアナターゼ型二酸化チタンが存在していることを示唆している。そのため、450℃で焼成したファイバーの場合には、アモルファス型二酸化チタンと結晶性二酸化チタンとの複合体が存在する。具体的には、アモルファス型二酸化チタンは、明らかに高い気孔率を特徴とする。
【0119】
気孔率の高さは、ガス吸着能(図12)においても示されている。450℃で焼成したファイバーの場合には102m2/g(図12の左側)の比表面積(SSA)が測定されたのに対して、475℃及び500℃で焼成したファイバーは、各々、66m2/g(図12の真ん中)及び52m2/g(図12の右側)の表面積を有していた。
【0120】
以下の銀析出実験のため、上述のAgNO/Tris錯体を使用した。還元後、サンプルを洗浄し、2時間乾燥して、金属化の前後で透過率を測定した。その結果を表2に示す。金属化によって、透過率が1%〜4%減少するが、ほとんどのサンプルの場合、その減少はわずか1%前後である。
【0121】
450℃で焼成したサンプルは全て、導電率を測定することができた。このために、接点接続のためガラスの両端に銀ペーストを塗布し、導電率を測定した。接点間の距離は5mmとした。サンプルのファイバー形状に起因して、異方性抵抗が得られた。その結果を表3に示す。抵抗は、どのくらいの数のファイバーが接点に接触するかにも左右される。
【0122】
図13に、2つの異なる金属化サンプルを示す。図13aは、導電性を示すサンプルの金属化ファイバー(400℃、FD20cm、CT60分)を示し、図13bは、導電性を示さないサンプルの金属化ファイバー(475℃、FD20cm、CT60分)を示す。図13aにおいては、ファイバーの周りにシェルを形成するように銀が析出しており、これにより導電性が得られることが明らかである。図13bにおいては、同条件下において、より大きい個々の銀粒子のみが形成されているが、この粒子によって導電性は得られない。図13aのファイバー中に存在するアモルファス型二酸化チタンとアターゼ型二酸化チタンとの複合体によって、金属銀のシェルの形成がもたらされるものと考えられる。
【0123】
わずか400℃で焼成したサンプルは、いずれも導電性を示さなかった。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
図1
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