特許第6963555号(P6963555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6963555多能性幹細胞からミクログリアを得る方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963555
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】多能性幹細胞からミクログリアを得る方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20211028BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20211028BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20211028BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20211028BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N5/078
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
   A61K35/30
   A61P25/28
   A61P25/08
   A61P25/16
   A61P25/00
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-537566(P2018-537566)
(86)(22)【出願日】2017年9月1日
(86)【国際出願番号】JP2017031635
(87)【国際公開番号】WO2018043714
(87)【国際公開日】20180308
【審査請求日】2020年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-171690(P2016-171690)
(32)【優先日】2016年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302019245
【氏名又は名称】タカラバイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 弘樹
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0186137(US,A1)
【文献】 Journal of Neurosurgery,2013年08月,Vol.119, No.2, Abstract No.628,p.A544
【文献】 Frontiers in Cellular Neuroscience,2015年05月,Vol.9, Article 184,pp.1-5
【文献】 Neuropathol. Appl. Neurobiol.,2014年10月,Vol.40, No.6,pp.697-713
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、多能性幹細胞からミクログリアを製造する方法:
(a)多能性幹細胞を7日間以上フィーダー細胞と共培養し、血液前駆細胞を得る工程、
(b)工程(a)で得られた血液前駆細胞をIL−3及び/又はGM−CSFの存在下でフィーダー細胞と共培養し、胚型単球を得る工程、及び
(c)工程(b)で得られた胚型単球をM−CSFの存在下でアストロサイトと共培養る工程。
【請求項2】
工程(a)の培養期間が、13日以上である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(c)において、IL−34の存在下で培養することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
工程(b)において、IL−3及びGM−CSFの存在下で培養することを特徴とする、請求項1〜3いずれかに記載の方法。
【請求項5】
フィーダー細胞が、10T1/2細胞又はOP9細胞である、請求項1〜4いずれかに記載の方法。
【請求項6】
工程(a)において、VEGFの存在下で培養することを特徴とする、請求項1〜5いずれかに記載の方法。
【請求項7】
多能性幹細胞が、iPS細胞である、請求項1〜6いずれかに記載の方法。
【請求項8】
iPS細胞が、ヒト又はマウス由来である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
以下の工程を含む、ミクログリアが関与する疾患の予防若しくは治療剤又は記憶若しくは学習能力改善剤のスクリーニング方法
(a)多能性幹細胞を7日間以上フィーダー細胞と共培養し、血液前駆細胞を得る工程、
(b)工程(a)で得られた血液前駆細胞をIL−3及び/又はGM−CSFの存在下でフィーダー細胞と共培養し、胚型単球を得る工程、
(c)工程(b)で得られた胚型単球をM−CSFの存在下でアストロサイトと共培養し、ミクログリアを得る工程、及び
(d)工程(c)で得られたミクログリアを用いて、ミクログリアが関与する疾患の予防若しくは治療剤又は記憶若しくは学習能力改善剤をスクリーニングする工程
【請求項10】
ミクログリアが関与する疾患が、脊髄の外傷、脳卒中による神経障害、てんかん、神経障害性疼痛、血管閉塞性の眼疾患、脱髄疾患、精神疾患、脳梗塞、那須ハコラ病又は神経変性疾患である、請求項9記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病又は筋萎縮性側索硬化症である、請求項10記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞からミクログリアを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクログリアとは、脳脊髄中に存在する神経膠細胞であり、Hortega細胞とも呼ばれる。中胚葉由来であり、脳内へのウイルス等異物の侵入及び外傷により活性化し、殺菌、組織の修復の他、抗腫瘍作用等、様々な生理機能を担うことが知られている。また、ミクログリアはアポトーシスや損傷による死細胞やアミロイドβ等の老廃物を貪食作用により除去する。
【0003】
疾患との関係では、アルツハイマー病、パーキンソン病のような神経変性を伴う慢性神経変性疾患や、脳梗塞等の様々な疾患にミクログリアが関与すること、アミロイドβに代表される脳内で蓄積する老廃物により反応性が変化することが報告されている(非特許文献1)。
したがって、これらのミクログリアに関連する疾患の治療薬の開発と評価のためにミクログリアを用いることが必要である。そこで、ミクログリアを調製するために様々な方法が試みられている。
【0004】
非特許文献2には、マウスES細胞からミクログリアを得る方法が記載されている。
特許文献1には、ヒトiPS細胞からミクログリア前駆細胞を得る方法が記載されているが、実施例1に記載の通り、分化して得られるCD45に対して免疫反応性を持つ細胞(ミクログリア前駆細胞)はわずか2〜10%である。
非特許文献3にも記載されているように、数多くの研究室においてiPS細胞からミクログリアへの分化が試みられているにも関わらず、現時点において、ヒトiPS細胞からミクログリアを得る効率的な方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/125110号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Neuroinflammation, Vol.1, pp.14 (2004)
【非特許文献2】Nature Protocols, 5, 1481-1494(2010)
【非特許文献3】Brain Research,Volume 1656, Pages 98−106 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多能性幹細胞から効率よくミクログリアを製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、ミクログリアが胎生初期に卵黄嚢マクロファージから発生し、中枢神経系へ遊走することが示唆されている(Nature Review Immunology, 2011, 11, 775−787)ことを参考に、効率よくミクログリアを製造することに成功した。具体的にはヒト由来のiPS細胞をフィーダー細胞上で血液前駆細胞を作製し(工程(a))、血液前駆細胞から胚型造血で単球を作製し(工程(b))、さらにアストロサイトと共培養する(工程(c))ことによって、ミクログリアを作製した。工程(a)で得られた細胞を全て工程(b)に付すと、全ての細胞(100%)が胚型単球として得られた。その後、工程(c)に付すと、胚型単球は全て(100%)ミクログリアに分化した。つまり、非特許文献3にも記載の通り、ミクログリアを得る効率的な方法は知られていない現状において、本発明において、ミクログリア及びマクロファージに特有の細胞表面マーカー(Iba1)を発現し、かつ、マクロファージには存在せず、ミクログリアに存在する形状である突起を有する細胞が、非常に効率よく樹立された。
【0009】
さらに、本発明者は研究を進め、製造効率を上げるためには、工程(a)の培養期間が7日以上(特に、13日以上)であること、工程(b)においてIL−3を25ng/ml以上もしくはGM−CSFを50ng/ml以上添加すること、工程(c)においてM−CSFを25ng/ml以上添加することが特に好ましいこと、また、工程(b)の培養期間は大きく影響しないことを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に関する。
(1)以下の工程を含む、多能性幹細胞からミクログリアを製造する方法:
(a)多能性幹細胞を7日間以上フィーダー細胞と共培養し、血液前駆細胞を得る工程、
(b)工程(a)で得られた血液前駆細胞をIL−3及び/又はGM−CSFの存在下でフィーダー細胞と共培養し、胚型単球を得る工程、及び
(c)工程(b)で得られた胚型単球をM−CSFの存在下でアストロサイトと共培養又はアストロサイト上清を用いて培養する工程。
(2)工程(a)の培養期間が、13日以上である、(1)記載の方法。
(3)工程(c)において、IL−34の存在下で培養することを特徴とする(1)又は(2)記載の方法。
(4)工程(b)において、IL−3及びGM−CSFの存在下で培養することを特徴とする、(1)〜(3)いずれかに記載の方法。
(5)フィーダー細胞が、10T1/2細胞又はOP9細胞である、(1)〜(4)いずれかに記載の方法。
(6)工程(a)において、VEGFの存在下で培養することを特徴とする、(1)〜(5)いずれかに記載の方法。
(7)多能性幹細胞が、iPS細胞である、(1)〜(6)いずれかに記載の方法。
(8)iPS細胞が、ヒト又はマウス由来である、(7)記載の方法。
(9)(1)〜(8)の方法で製造されたミクログリアを用いることを特徴とする、ミクログリアが関与する疾患の予防若しくは治療剤又は記憶若しくは学習能力改善剤のスクリーニング方法。
(10)ミクログリアが関与する疾患が、脊髄の外傷、脳卒中による神経障害、てんかん、神経障害性疼痛、血管閉塞性の眼疾患、脱髄疾患、精神疾患、脳梗塞、那須ハコラ病又は神経変性疾患である、(9)記載のスクリーニング方法。
(11)神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病又は筋萎縮性側索硬化症である、(10)記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、多能性幹細胞から効率よくミクログリアが製造できる。得られるミクログリアは、ミクログリア自体の研究、ミクログリアが関連する疾患の研究等、様々な基礎研究に利用可能である。また、ミクログリアを用いることを特徴とする、ミクログリアが関与する疾患の治療薬のスクリーニング方法、又は、個々の患者から樹立した多能性幹細胞から作製したミクログリアを用いて個人に最適な治療薬を選別する、いわゆるオーダーメード治療薬の選択において極めて有用である。さらに、細胞治療への利用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の方法で分化誘導後の細胞のIba1免疫染色像
図2】(a)、(b)共に本発明の方法で分化誘導後の細胞の拡大像
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において使用される用語は、特に言及する場合を除いて、当該分野で通常用いられる意味で用いられる。なお、本明細書において、特に指示のない限り、分子生物学的手法及び免疫学的手法等は公知の方法が採用される。
【0014】
I.多能性幹細胞からミクログリアへの分化誘導方法
本発明の多能性幹細胞のミクログリアへの分化誘導方法は、以下の工程を含む方法である。
(a)多能性幹細胞を7日間以上フィーダー細胞と共培養し、血液前駆細胞を得る工程、
(b)工程(a)で得られた血液前駆細胞をIL−3及び/又はGM−CSFの存在下でフィーダー細胞と共培養し、胚型単球を得る工程、及び
(c)工程(b)で得られた胚型単球をM−CSFの存在下でアストロサイトと共培養又はアストロサイト上清を用いて培養する工程。
【0015】
詳しくは、工程(a)において、多能性幹細胞を、血液前駆細胞への分化を促進させるのに適した条件下で培養する。「血液前駆細胞への分化を促進させるのに適した条件下」とは、多能性幹細胞とフィーダー細胞を共培養することを意味する。
【0016】
「多能性幹細胞」とは、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)に代表される未分化・多能性を維持する細胞を指す。ES細胞は体細胞から核初期化されて生じたES細胞であっても良い。またES細胞以外では、始原生殖細胞に由来するEmbryonic Germ Cell(EG cell)、精巣から単離されたmultipotent germline stem cell (mGS cell)、骨髄から単離されるMultipotent adult progenitor cell (MAPC)等が挙げられる。本発明において、これら多能性幹細胞の由来はヒト由来である。本発明において、多能性幹細胞は好ましくはiPS細胞、特に好ましくはヒトiPS(hiPS)細胞である。
【0017】
多能性幹細胞は公知の方法により作成可能である。例えば、以下に具体的に記載されている。国際公開第2007/069666号、国際公開第2010/068955号、国際公開第2011/030915号、国際公開第2013/094771号、国際公開第2014/014119号、国際公開第2014/065435号。
また、ヒトiPS細胞株は、例えば、TkDA3−4は東京大学ステムセルバンクから、201B7は京都大学iPS細胞研究所から入手可能である。
ヒトES細胞株は、例えばWA01(H1)及びWA09(H9)は、WiCell Reserch Instituteから、KhES−1、KhES−2及びKhES−3は、京都大学再生医科学研究所から入手可能である。
【0018】
多能性幹細胞としてES細胞又はiPS細胞を用いる場合、例えば、培地としては、最終濃度15%のFBSを添加したIMDMを用い、その他無血清の場合においても適宜増殖因子及びサプリメント等を加えたものを使用することができる。なお、VEGFを加えてもよいし、低酸素環境下での培養を行う場合には、VEGFを添加しなくても、VEGFを添加した場合と同等の効果を得ることができる。
【0019】
VEGFの濃度は、血液前駆細胞が得られる濃度であれば特に問わないが、5ng/ml〜50ng/mlでもよく、好ましくは、20ng/ml以上である。
【0020】
「低酸素条件」とは、細胞を培養する際の雰囲気中の酸素濃度が、大気中のそれよりも有意に低いことを意味する。具体的には、通常の細胞培養で一般的に使用される5〜10%CO/95〜90%大気の雰囲気中の酸素濃度よりも低い酸素濃度の条件が挙げられ、例えば雰囲気中の酸素濃度が18%以下の条件が該当する。好ましくは、雰囲気中の酸素濃度は15%以下(例、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下等)、10%以下(例、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下等)、又は5%以下(例、4%以下、3%以下、2%以下等)である。また、雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは0.1%以上(例、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上等)、0.5%以上(例、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.95以上等)、又は1%以上(例、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上等)である。
【0021】
細胞の環境において低酸素状態を創出する手法は特に制限されないが、酸素濃度の調節可能なCOインキュベーター内で細胞を培養する方法が最も容易であり、好適な例として挙げられる。酸素濃度の調節可能なCOインキュベーターは、種々の機器メーカーから販売されている(例えば、Thermo scientific社、池本理化学工業、十慈フィールド、和研薬株式会社等のメーカー製の低酸素培養用COインキュベーターを用いることができる)。
【0022】
「フィーダー細胞」としては、多能性幹細胞の分化誘導に寄与する細胞であればいずれも使用可能であり、例えば、マウス胚線維芽細胞、好ましくは、10T1/2細胞株、OP9細胞等を用いることができる。フィーダー細胞を用いるときには、例えば、放射線を照射する等して、細胞の増殖を抑止しておくのがよい。
【0023】
培養する期間は、多能性幹細胞が「血液前駆細胞への分化」するに十分な日数である限り、特に限定されない。例えば、7日以上、10日以上、13日以上の期間等が挙げられるが、それらに限定されない。当業者は用いる条件に応じて適宜当該培養期間を調整することができる。
【0024】
その他の培養条件としては、例えば、5%CO、36〜38℃、好ましくは37℃の条件を用いることができるが、これに限定されるものではない。上記条件での培養は、例えば公知のCOインキュベーターを用いて行なうことができる。
【0025】
「血液前駆細胞」とは、CD34陰性細胞、CD34陽性細胞、Lin陰性細胞(CD2陰性細胞、CD3陰性細胞、CD4陰性細胞、CD7陰性細胞、CD8陰性細胞、CD10陰性細胞、CD14陰性細胞、CD16陰性細胞、CD19陰性細胞、CD20陰性細胞、CD24陰性細胞、CD41陰性細胞、CD45陰性細胞、CD56陰性細胞、CD66b陰性細胞、又は、CD235a陰性細胞)、CD38陰性細胞、CD90陽性細胞、CD49f陽性細胞、VEGFR2陽性細胞、CD31陽性細胞、CD43陽性細胞、CD34陽性、かつ、CD45陽性細胞、Rhodamine弱陽性細胞、あるいは、Hoechst陰性/弱陽性細胞のうち、単独、あるいは複数のマーカーの組み合わせで特徴付けられる造血系の細胞である。
【0026】
工程(b)において、工程(a)で得られた血液前駆細胞を、胚型単球への分化を促進させるのに適した条件下で培養する(胚型造血が起こる)。「胚型単球への分化を促進させるのに適した条件下」とは、血液前駆細胞とフィーダー細胞を共培養することを意味する。より詳しくは、例えば、IL−3及び/又はGM−CSFの存在下で血液前駆細胞とフィーダー細胞を共培養する。
【0027】
IL−3及びGM−CSFの濃度は、胚型単球が得られる濃度であれば特に限定されない。例えば、IL−3は、1ng/ml〜200ng/ml、20ng/ml〜150ng/ml、25ng/ml〜100ng/mlである。GM−CSFは、1ng/ml〜200ng/ml、20ng/ml〜150ng/ml、25ng/ml〜100ng/mlである。なお、効率的な製造のためには、IL−3は25ng/ml以上、GM−CSFは50ng/ml以上が特に好ましい。
【0028】
培養する期間は、「単球への分化」するに十分な日数であり、かつ、胚型造血可能な日数である限り、特に限定されない。当業者は用いる条件に応じて適宜当該培養期間を調整することができる。
【0029】
その他の培養条件は、工程(a)(上記[002])と同様である。
【0030】
「単球」とは、CD11b陽性細胞、CD14陽性細胞、CD15陽性細胞、CD4陽性細胞、CD163陽性細胞、CD9陽性細胞、CD11c陽性細胞、CDw12陽性細胞、CD13陽性、CD17陽性細胞、CD31陽性細胞、CD32陽性細胞、CD33陽性細胞、CD35陽性細胞、CD36陽性細胞、CD38陽性細胞、CD40陽性細胞、CD43陽性細胞、CD45RO陽性細胞、CD45RA陽性細胞、CD45RB陽性細胞、CD49b陽性細胞、CD49e陽性細胞、CD49f陽性細胞、CD63陽性細胞、CD64陽性細胞、CD65s陽性細胞、CD68陽性細胞、CD74陽性細胞、CD84陽性細胞、CD85陽性細胞、CD86陽性細胞、CD87陽性細胞、CD89陽性細胞、CD91陽性細胞、CD92陽性細胞、CD93陽性細胞、CD98陽性細胞、CD101陽性細胞、CD102陽性細胞、CD111陽性細胞、CD112陽性細胞、CD115陽性細胞、CD116陽性細胞、CD119陽性細胞、CD121b陽性細胞、CD123陽性細胞、CD127陽性細胞、CD128b陽性細胞、CD131陽性細胞、CD142陽性細胞、CD147陽性細胞、CD156a陽性細胞、CD155陽性細胞、CD157陽性細胞、CD162陽性細胞、CD163陽性細胞、CD164陽性細胞、CD168陽性細胞、CD170陽性細胞、CD171陽性細胞、CD172a陽性細胞、CD172b陽性細胞、CD180陽性細胞、CD184陽性細胞、CD191陽性細胞、CD192陽性細胞、CD195陽性細胞、CDw198陽性細胞、CD206陽性細胞、CDw210陽性細胞、CD213a1陽性細胞、CD213a2陽性細胞、CD226陽性細胞、CD277陽性細胞、CD281陽性細胞、CD282陽性細胞、CD284陽性細胞、CD295陽性細胞、CD300a陽性細胞、CD300c陽性細胞、CD300e陽性細胞、CD302陽性細胞、CD305陽性細胞、CD312陽性細胞、CD317陽性細胞、CD322陽性細胞、CD328陽性細胞、CD329陽性細胞のうち、単独、あるいは複数のマーカーの組み合わせで特徴づけられる細胞である。
【0031】
「胚型造血」とは、本来、胎生初期に卵黄嚢において一過性に起こる造血である。本明細書において、造血段階が「胚型」であることは、例えば、実施例1(5)工程2に記載の方法で確認することができる。
【0032】
工程(c)において、工程(b)で得られた胚型単球を、ミクログリアへの分化を促進させるのに適した条件下で培養する。「ミクログリアへの分化を促進させるのに適した条件下」とは、胚型単球とアストロサイトを共培養すること、又は胚型単球をアストロサイト上清を用いて培養することを意味する。より詳しくは、例えば、M−CSFの存在下で胚型単球と、アストロサイトを共培養する又はアストロサイト上清を用いて培養する。さらに、IL−34が存在していてもよい。
【0033】
IL−34及び/又はM−CSFの濃度は、ミクログリアが得られる濃度であれば特に限定されない。例えば、IL−34は、1ng/ml〜200ng/ml、20ng/ml〜150ng/ml、25ng/ml〜100ng/mlである。M−CSFは、1ng/ml〜200ng/ml、20ng/ml〜150ng/ml、25ng/ml〜100ng/mlである。なお、M−CSFは効率的なミクログリアの製造に対する影響が大きく、25ng/ml以上が特に好ましい。
【0034】
「アストロサイト上清」とは、神経組織より採取したアストロサイトを栄養培地中で培養することにより得られる。例えば、国際公開第2006/028049号に記載の方法を参考に調製することができる。
【0035】
培養する期間は、「ミクログリアへの分化」するに十分な日数である限り特に限定されない。例えば、3日以上、5日以上、7日以上、8日以上の期間等が挙げられるが、それらに限定されない。特に好ましくは7日以上である。当業者は用いる条件に応じて適宜当該培養期間を調整することができる。
【0036】
その他の培養条件は、工程(a)(上記[002])と同様である。



【0037】
得られた細胞が「ミクログリア」であることは、公知の指標を用いて確認することができる。例えば、「ミクログリア」とは、Iba1陽性細胞、CD11b陽性細胞、P2Y12陽性細胞、P2X7陽性細胞、P2X4陽性細胞、IL―1β陽性細胞、CX3CR1陽性細胞、CCR2陽性細胞、CCR7陽性細胞、CD80陽性細胞、CD209陽性細胞、CD23陽性細胞、CD163陽性細胞、TREM2陽性細胞、CD45陽性細胞、P2X2陽性細胞、CCL21陽性細胞、IRF8陽性細胞、IRF5陽性細胞、TLR−4陽性細胞、OX42陽性細胞、CD14陽性細胞、CD16陽性細胞、インテグリンーα4陽性細胞、インテグリンーβ1陽性細胞、CD68陽性細胞のうち、単独、あるいは複数のマーカーの組み合わせで特徴づけられる細胞である。
上記マーカーのうち、例えば、Iba1陽性細胞、CD11b陽性細胞等は、ミクログリアだけでなく、マクロファージでも発現している。例えば、以下のいずれかの特徴と組み合わせることによって、マクロファージではなく、ミクログリアであると、判断することが可能である。
− ミクログリアに特徴的な形態(突起)
− プリン作動性受容体であるP2Y12の発現
【0038】
本発明において、特記がない限り、培地は基本培地として作成してよい。その基本培地の例としては、IMDM培地や199培地、イーグル最小必須培地(EMEM)、アルファ−MEM培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地、RPMI1640培地、フィッシャー培地、グラスゴーMEM、及びそれらの混合物が挙げられる。基本培地は血清又はサイトカインを含有していてよい。
【0039】
接着型の培養の場合は、細胞の接着特性の向上のために、培養皿の表面をコラーゲンI、コラーゲンIV、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲルTM(Becton,Dickinson and Company)等の細胞支持基質でコートしてもよい。
【0040】
本発明において使用するVEGF、IL−3、IL−34、M−CSF、GM−CSF等のサイトカインは、天然のものを用いてもよいし、遺伝子工学により調製したリコンビナントサイトカインを用いてもよい。その際、これらのサイトカインの全長を含む必要は無く、レセプターとの結合に関る領域を含む一部分の蛋白質やペプチドでもよい。また、レセプターとの結合力を失わない程度にアミノ酸配列や立体構造に改変を加えた蛋白質やペプチドでもよい。さらには、これらのサイトカインのレセプターに対してアゴニストとして機能しうる蛋白質やペプチドや薬剤等でもよい。
【0041】
II.スクリーニング方法
(ミクログリアの活性化が関与する疾患の治療薬のスクリーニング方法)
本発明は、上記Iにより得られたミクログリアと試験物質とを接触させ、ミクログリアに対して作用する物質のスクリーニング方法を提供する。
【0042】
「試験物質」は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0043】
スクリーニングの方法においては、上記Iにより得られたミクログリアを試験物質と接触させ、ミクログリアへの影響(例えば、形態変化、サイトカイン産生・放出、貪食等)の程度を測定する。そしてその程度と、試験物質と接触させないミクログリアの場合の程度とを比較して、影響の程度を、試験物質と接触させない場合と比較して著しく変化させる試験物質を、効果的な構成要素として選択する。
【0044】
測定法においては、当該分野で公知の方法を利用することができる。例えばミクログリアを撮像して画像処理することによって形態変化を捉えたり、培養上清に放出されたサイトカインの濃度をELISA法で測定したり、ビーズを貪食した様子を画像処理によって数値化することができる。
【0045】
このようにして、スクリーニングされた試験物質は、脊髄の外傷、脳卒中による神経障害、てんかん、神経障害性疼痛、血管閉塞性の眼疾患、脱髄疾患(多発性硬化症、ギランバレー症候群等)、精神疾患(抑うつ、統合失調症、自閉症、発達障害、依存症等)、脳梗塞、那須ハコラ病、神経変性疾患(特に、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症等)等の予防若しくは治療剤又は記憶若しくは学習能力改善剤として使用しうる。
【0046】
(オーダーメード治療薬をスクリーニングする方法)
本発明において、「オーダーメード治療薬」とは、ある患者個人の個性にかなった最適な治療薬を意味する。
本発明では、脊髄の外傷、脳卒中による神経障害、てんかん、神経障害性疼痛、血管閉塞性の眼疾患又は神経変性疾患を罹患する対象の体細胞から製造された人工多能性幹細胞を分化誘導させることにより得られた前記ミクログリアと既存の治療薬を接触させ、ミクログリアに対して作用する治療薬のスクリーニング方法を提供する。このように、スクリーニングされた治療薬は、人工多能性幹細胞を樹立された対象にとって最適な治療薬と成りうる。
【0047】
本発明における既存の治療薬として、例えば、バクロフェン、チザニジン等の脊髄の外傷治療薬、フェニトイン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、バルプロ酸、エトスクシミド、ゾニサミド、ガバペンチン、トピラマート、ラモトリギン、レベチラセタム等のてんかん薬、プレガバリン等の神経障害性疼痛治療薬、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン等のアルツハイマー病治療薬等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0049】
実施例1 ミクログリアの製造
(1)フィーダー細胞(Mouse Embryonic Fibroblast; MEF)
マウス(系統;ICR)の胎仔(E13.5)を実体顕微鏡下で解剖し、脱血後ピンセットで頭部、手足、内臓を取り除いた。残った部位をハサミで細かく刻み、消化液(0.05%トリプシン−エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(Invitrogen社)+1/1000 recombinant DNase(Takara社))を胎仔1体あたり10ml加えた。室温で約1時間、スターラーで攪拌しながら分散し、等量の培地A(D−MEM(Sigma社)+10%ウシ胎児血清(FBS)(Equitech−Bio社)+1/100ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen社))を加えて酵素反応を停止させた。細胞分散液をセルストレーナー(70φ;BD Falcon社)に通して回収し、遠心分離(300G, 3分)後上清を除いた。ペレットを培地Aに再懸濁して計数後、30分間0.1%ゼラチン(Sigma社)/リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(wako社)コートしたフラスコ(150cm; TPP社)に4x10個/フラスコで播種した。3日間の培養後、PBSで洗浄後0.05%トリプシン−EDTAを加えて細胞を剥離させた。等量の培地Aを加えて酵素反応を停止して回収し、遠心分離後のペレットをセルバンカー1(日本全薬工業株式会社)に懸濁して凍結保存した。次に凍結保存した細胞を起こし、上記と同様の条件でゼラチンコートしたフラスコに2x10個/フラスコで播種した。3日間培養後、上記と同様の手法にて細胞を剥離させ、新しく上記同様の条件でゼラチンコートしたフラスコに2x10個/フラスコで播種した。3日間培養後、フラスコ内の培地を培地Aに10μg/mlのマイトマイシンC(MMC;Sigma社)を添加したものに交換して増殖を停止させ、90分培養後にPBSで洗浄した後に、上記と同様の手法にて細胞を剥離させた。得られた細胞は上記と同様の手法にて凍結保存した。凍結保存したMMC処理済みMEFは使用する前日に起こし、ゼラチンコートした10cm細胞培養ディッシュに5x10個/ディッシュで播種した。
【0050】
(2)hiPS細胞
東京大学ステムセルバンクより購入したTkDA3−4株と京都大学iPS細胞研究所より購入した201B7株を使用した。
フィーダー細胞は(1)に記載の方法で作製したMEFを用い、培地はDMEM(Invitrogen社)+20%KnockOut Serum Replacement(KSR)(Gibco社)+1/100ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen社)とし、細胞剥離液はDissociation Solution(ReproCELL社)を使用した。
【0051】
(3)ストローマ細胞(10T1/2)
独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターから入手した。
培地はBME(Invitrogen社)+10%ウシ胎児血清(FCS)(Hyclone社)+1/100GlutaMAX1(Invitrogen社)+1/100ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen社))、細胞剥離液は0.05%トリプシン−EDTA(Invitrogen社)を使用した。(150cmフラスコで継代維持し、週2回の頻度で継代し毎回約1/8倍(1フラスコの細胞を約8フラスコに継代)の細胞密度にした(5x10〜5x10個/フラスコの範囲内で維持)。継代数p30までの物をMMCによる増殖阻害をした上で使用した。MMC処理済み10T1/2はゼラチンコートした10cm細胞培養ディッシュ上に1x10個/ディッシュで播種した。
【0052】
(4)初代培養ラットアストロサイト
新生仔(P5−7)から大脳を分離して、実体顕微鏡下でピンセットを用いて髄膜を剥がした。培地B(AdDMEM/F12(Invitrogen社)+10%ウシ胎児血清(FCS)(Hyclone社)+1/100GlutaMAX1(Invitrogen社)+1/100ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen社))を添加してピペッティングすることにより、機械的に脳を破壊して分散させた。静置した際の上清を回収し、セルストレーナー(100Φ; BD Falcon社)に通して遠心分離(200G 4分)し、ペレットを回収した。得られた細胞を培地Bに再懸濁し、計数後ポリ-D-リシン(PDL)コートフラスコ(75cm; BD社)に5x10個/フラスコで播種した。播種2日及び5日後に培地Bを交換(シェイカーで3時間振とう後)し、7日間培養したものを使用した。細胞回収前にシェイカーで3時間振とうし、培地BをPBSに置換した後にさらに5時間振とうした。PBSを除去後に0.25%トリプシン−EDTA(ナカライテスク株式会社)を添加し、シェイカーで3分振とう後に等量の培地Bで酵素反応を停止後回収した。得られた細胞は遠心分離(300G 3分)し、ペレットをセルバンカーで凍結保存した。凍結保存したアストロサイトを起こし、ゼラチンコートした10cm細胞培養ディッシュに2.5x10個/ディッシュで播種し、4日後に培地Bを交換、7日目に共培養用培地C(DMEM(Invitrogen社)+10%FCS(Hyclone社)+1/100GlutaMAX1(Invitrogen社)+1/100ピルビン酸ナトリウム(Invitrogen社)+1/100 HEPES(Invitrogen社)+1/100ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen社))に交換後3時間培養してから使用した。
【0053】
(5)分化誘導
工程1
(2)記載の方法で継代したhiPS細胞が接着した10cm細胞培養ディッシュをPBSで洗浄し、Dissociation Solution(ReproCELL社)を1.5ml入れ、ゆすりながらMEFを剥がした。剥がれたMEFをアスピレーターで吸い取って、さらにPBSで洗浄後、分化培地D(IMDM(Invitrogen社)+15% ウシ胎児血清(FCS)(EquitechLab社)+1/100 GlutaMAX1)(Invitrogen社)+1/100 ITS−X(Invitrogen社)+0.5mmol/l モノチオグリセロール(wako社)+50μg/ml L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩n水和物(wako社)+1/100 ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen社))を10ml添加し、セルスクレーパーでhiPS細胞をかきとった。得られたhiPS細胞を(3)に記載の方法で継代した10T1/2上に1/40(1ディッシュの細胞を約40ディッシュに播種)の密度で、20ng/ml VEGF(PEPROTECH社;非特許文献4:Blood 2008 111:5298−5306によれば添加しなくても良い)を加えて播種した。播種3、6、8、10、12日後に分化培地E(IMDM(Invitrogen社)+15% ウシ胎児血清(FCS)(EquitechLab社)+1/100 GlutaMAX1)(Invitrogen社)+1/100 ITS−G(Invitrogen社)+0.5mmol/l モノチオグリセロール(wako社)+50μg/ml L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩n水和物(wako社)+1/100 ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen社))に20ng/ml VEGF(PEPROTECH社;非特許文献4によれば添加しなくても良い)を加えたものに交換し、13日目に回収した。セルスクレーパーでSacを破壊しながら細胞培養ディッシュから剥がして、セルストレーナー(40Φ)を通して回収した。遠心分離(120G(100〜150Gで回収率と純度に影響がないことを確認済)10分ブレーキ無し)したペレットを分化培地Eに再懸濁した。得られた細胞は約50%がCD34陽性であることから、血液前駆細胞を作製できたと判断した。
工程2
工程1で得られた血液前駆細胞を、50ng/ml エリスロポエチン(PEPROTECH社)を添加して10T1/2上で培養して得られた赤血球のヘモグロビンの型が6日目まで全て胎児型であることから、血液前駆細胞からの分化誘導6日目までは全てが胚型造血であると判断した。
工程1で得られた全細胞に50ng/ml IL−3(PEPROTECH社)と50ng/ml GM−CSF(PEPROTECH社)を添加して細胞培養ディッシュ5枚分の再懸濁液を1枚の細胞培養ディッシュ内の10T1/2上に播種した。3日後に50ng/ml IL−3と50ng/ml GM−CSFを含む分化培地Eを5ml追加し、6日後にピペッティングによって回収した。回収した細胞懸濁液を遠心分離(300G 3分)し、ペレットの細胞が全て(100%)CD14陽性であることから、6日目までは胚型造血であることと合わせて判断し、これらを胚型単球とした。
工程3
工程2で得られた胚型単球は共培養用培地F(DMEM(Invitrogen社)+10%FCS(EquitechLab社)+1/100GlutaMAX1(Invitrogen社)+1/100ピルビン酸ナトリウム(Invitrogen社)+1/100 HEPES(Invitrogen社)+1/100ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen社))で再懸濁し、50ng/ml M−CSF(PEPROTECH社)と50ng/ml IL−34(PEPROTECH社)を添加して、(4)記載の初代培養ラットアストロサイト上に1/2の密度で播種した。播種2日後に培地Fに50ng/ml M−CSFと50ng/ml IL−34を加えた培地を5ml追加し、4日及び7日目には培地を7ml回収して遠心分離(300G 3分)し、上記の培地FにM−CSFとIL−34を加えた培地に50ng/ml TGF−β1(PEPROTECH社;入れなくても分化率に影響がない)を加えた培地8mlでペレットを再懸濁して戻した。播種9日後(25日後までは同様の結果が得られた)にピペッティングによって細胞を回収した。
【0054】
(6)Iba1免疫染色
(5)に記載の方法で回収した細胞をPDL/ラミニンコートプレート(Biocoat; Corning社)に播種し、翌日接着細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)/PBSを用いて4℃で1時間固定した。固定した細胞はPBSで3回洗浄後、0.1% TritonX−100/PBSで5分処置し、PBSで3回洗浄後にブロッキング溶液(1.5% ロバ血清/PBS)で30分処置した。次に1/50 抗Iba1抗体(Abcam社)/ブロッキング溶液を4℃で一晩反応させ、PBSで3回洗浄後に1/500 AlexaFluor 488 donkey anti−goat IgG(H+L)+1/10,000 Hoechst33342(Invitrogen社)/ブロッキング溶液を加えて90分反応させた。最後にPBSで3回洗浄し、蛍光顕微鏡観察した。
蛍光顕微鏡で撮影した像を図1に示す。回収した細胞の全て(100%)がIba1陽性であり、突起を伸長していた(図2)。これは本方法によって、hiPS細胞より分化した細胞が、ミクログリアであることを示している。
【0055】
実施例2 フィーダーフリーiPS細胞を用いたミクログリアの製造
(1)フィーダーフリーiPS細胞の維持培養
東京大学ステムセルバンクより購入したTkDA3−4株を使用した。コーティングにはiMatrix−511(nippi社)を、剥離液には0.5xTriple select(Triple TM select CTS(Invitrogen社)と0.5mol/l EDTA pH8.0(NacalaiTesque社)、PBS(Wako社)を2:1:1で混ぜ合わせたもの)、培地はAK03N(Ajinomoto社)を使用した。
【0056】
(2)分化誘導
工程1
(1)に記載の方法で継代したiPS細胞が接着した6穴細胞接着プレートをPBSで洗浄し、ReLeSR(STEM CELL Technologies社)を1ml/well入れ、37℃で10分間処置した。再度PBSで洗浄後、分化培地Dを10ml添加し、セルスクレーパーでhiPS細胞をかきとった。得られたhiPS細胞を実施例1の(3)に記載の方法で継代した10T1/2上に約1/10(6wellプレート1well分の細胞を10cmディッシュ2ディッシュに播種)の密度で、20ng/ml VEGF(PEPROTECH社;非特許文献4によれば添加しなくても良い)を加えて播種した。播種3、6、8、10、12日後に分化培地Eに20ng/ml VEGF(PEPROTECH社;非特許文献4によれば添加しなくても良い )を加えたものに交換し、13日目に回収した。セルスクレーパーでSacを破壊しながら細胞培養ディッシュから剥がして、セルストレーナー(40Φ)を通して回収した。遠心分離(120G(100〜150Gで回転率と純度に影響がないことを確認済)10分ブレーキ無し)したペレットを分化培地Eに再懸濁した。
工程2
工程1で得られた全細胞にIL−3(50ng/ml; PEPROTECH社)とGM−CSF(50ng/ml; PEPROTECH社)を添加して細胞培養ディッシュ5枚分の再懸濁液を1枚の細胞培養ディッシュ内の10T1/2上に播種した。3日後にIL−3とGM−CSFを含む分化培地Eを5ml追加し、6日後にピペッティングによって回収した。
工程3
工程2で得られた胚型単球は共培養用培地Fで再懸濁し、50ng/ml M−CSF(PEPROTECH社)と50ng/ml IL−34(PEPROTECH社)を添加して、実施例1の(4)記載の初代培養ラットアストロサイト上に1/2の密度で播種した。播種2日後に血球分化培地FにM−CSFとIL−34を加えた培地を5ml追加し、4日及び7日目には培地を7ml回収して遠心分離(300G 3分)し、上記の血球分化培地FにM−CSFとIL−34を加えた培地に50ng/ml TGF−β1(PEPROTECH社;入れなくても分化率に影響がないことを確認済み)を加えた培地8mlでペレットを再懸濁して戻した。播種9日後にピペッティングによって細胞を回収した。
【0057】
(3)Iba1免疫染色
工程3で回収した細胞をPDL/ラミニンコートプレート(Biocoat; Corning社)に播種し、翌日接着細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)/PBSを用いて4℃で1時間固定した。固定した細胞はPBSで3回洗浄後、0.1% TritonX−100/PBSで5分処置し、PBSで3回洗浄後にブロッキング溶液(1.5% ロバ血清/PBS)で30分処置した。次に1/50 抗Iba1抗体(Abcam社)/ブロッキング溶液を4℃で一晩反応させ、PBSで3回洗浄後に1/500 AlexaFluor 488 donkey anti−goat IgG(H+L)+1/10,000 Hoechst33342(Invitrogen社)/ブロッキング溶液を加えて90分反応させた。最後にPBSで3回洗浄し、蛍光顕微鏡観察した。その結果、回収した細胞の全て(100%)がIba1陽性であり、突起を伸長していた。これは本方法によって、フィーダーフリーhiPS細胞より分化した細胞が、ミクログリアであることを示している。
【0058】
実施例3 血液前駆細胞作製段階の分化誘導期間検討
(1)分化誘導
工程1
実施例1の(2)記載の方法で継代したhiPS細胞が接着した10cm細胞培養ディッシュをPBSで洗浄し、Dissociation Solution(ReproCELL社)を1.5ml入れ、ゆすりながらMEFを剥がした。剥がれたMEFをアスピレーターで吸い取って、さらにPBSで洗浄後、分化培地Dを10ml添加し、セルスクレーパーでhiPS細胞をかきとった。得られたhiPS細胞を実施例1の(3)に記載の方法で継代した10T1/2上に1/40(1ディッシュの細胞を約40ディッシュに播種)の密度で、20ng/ml VEGF(PEPROTECH社;非特許文献4によれば添加しなくても良い)を加えて播種した。播種3、6、8、10、12日後に分化培地Eに20ng/ml VEGF(PEPROTECH社;非特許文献4によれば添加しなくても良い )を加えたものに交換し、任意の日数培養後回収した。セルスクレーパーでSacを破壊しながら細胞培養ディッシュから剥がして、セルストレーナー(40Φ)を通して回収した。遠心分離(120G(100〜150Gで回収率と純度に影響がないことを確認済)10分ブレーキ無し)したペレットを分化培地Eに再懸濁した。
工程2〜工程3
実施例2の工程2〜工程3と同じ方法で実施した。
【0059】
(2)Iba1免疫染色
実施例2の(3)と同じ方法で実施した。
血液前駆細胞作製期間を6、13、20、27日間に設定してミクログリアへの分化誘導を実施したところ、全ての条件でミクログリア作製可能であるが、特に13〜27日間においてミクログリア分化誘導効率が良かった。
【0060】
実施例4 胚型単球作製段階の分化誘導期間検討
(1)分化誘導
工程1
実施例1の(2)記載の方法で継代したhiPS細胞が接着した10cm細胞培養ディッシュをPBSで洗浄し、Dissociation Solution(ReproCELL社)を1.5ml入れ、ゆすりながらMEFを剥がした。剥がれたMEFをアスピレーターで吸い取って、さらにPBSで洗浄後、分化培地Dを10ml添加し、セルスクレーパーでhiPS細胞をかきとった。得られたhiPS細胞を実施例1の(3)に記載の方法で継代した10T1/2上に1/40(1ディッシュの細胞を約40ディッシュに播種)の密度で、20ng/ml VEGF(PEPROTECH社;非特許文献4によれば添加しなくても良い )を加えて播種した。播種3、6、8、10、12日後に分化培地Eに20ng/ml VEGF(PEPROTECH社;非特許文献4によれば添加しなくても良い )を加えたものに交換し、13日目に回収した。セルスクレーパーでSacを破壊しながら細胞培養ディッシュから剥がして、セルストレーナー(40Φ)を通して回収した。遠心分離(120G(100〜150Gで回収率と純度に影響がないことを確認済)10分ブレーキ無し)したペレットを分化培地Eに再懸濁した。
【0061】
工程2
工程1で得られた全細胞にIL−3(50ng/ml; PEPROTECH社)とGM−CSF(50ng/ml; PEPROTECH社)を添加して細胞培養ディッシュ5枚分の再懸濁液を1枚の細胞培養ディッシュ内の10T1/2上に播種した。3日後にIL−3とGM−CSFを含む分化培地Eを5ml追加し、任意の期間培養後にピペッティングによって回収した。回収した細胞懸濁液を遠心分離(300G 3分)し、ペレットの細胞を次の工程に供した。
【0062】
工程3
工程2で得られた単球は共培養用培地Fで再懸濁し、M−CSF(50ng/ml; PEPROTECH社)とIL−34(50ng/ml; PEPROTECH社)を添加して、実施例1の(4)記載の初代培養ラットアストロサイト上に1/2の密度で播種
した。播種2日後に培地FにM−CSFとIL−34を加えた培地を5ml追加し、4日及び7日目には培地を7ml回収して遠心分離(300G 3分)し、培地FにM−CSFとIL−34を加えた培地にTGF−β1(50ng/ml; PEPROTECH社;なくても分化率に影響がないことを確認済み)を加えた培地8mlでペレットを再懸濁して戻した。播種9日後にピペッティングによって細胞を回収した。
【0063】
(2)Iba1免疫染色
実施例2の(3)と同じ方法で実施した。
単球誘導日数を0(工程2をスキップしたものを便宜上0日と表記した)、1、6、10、13、17、20日間で実験したところ、全ての誘導日数においてミクログリアを効率良く作製できた。
【0064】
実施例5 サイトカイン濃度検討
(1)分化誘導
工程1
実施例4の工程1と同様の方法で血液前駆細胞を作製した。
工程2
工程1で得られた全細胞にそれぞれ任意の濃度でIL−3(PEPROTECH社)とGM−CSF(PEPROTECH社)を添加して細胞培養ディッシュ5枚分の再懸濁液を1枚の細胞培養ディッシュ内の10T1/2上に播種した。3日後に細胞播種時と同濃度のIL−3とGM−CSFを含む分化培地Eを5ml追加し、6日間培養後にピペッティングによって回収した。回収した細胞懸濁液を遠心分離(300G 3分)し、ペレットの細胞を次の工程に供した。
【0065】
工程3
工程2で得られた単球は共培養用培地Fで再懸濁し、それぞれ任意の濃度でM−CSF(PEPROTECH社)とIL−34(PEPROTECH社)を添加して、実施例1の(4)記載の初代培養ラットアストロサイト上に1/2の密度で播種した。播種2日後に培地FにM−CSFとIL−34を細胞播種時と同じ濃度で加えた培地を5ml追加し、4日及び7日目には培地を7ml回収して遠心分離(300G 3分)し、上記の培地FにM−CSFとIL−34を細胞播種時と同じ濃度で加えた培地にTGF−β1(PEPROTECH社)を加えた培地8mlでペレットを再懸濁して戻した。播種9日後にピペッティングによって細胞を回収した。
【0066】
(2)Iba1免疫染色
実施例2の(3)と同じ方法で実施した。結果を表1にまとめる。実施例1の結果を基準とし、同等の分化誘導効率を○、1/10以下の分化誘導効率を△とした。
各サイトカイン濃度はそれぞれ0、25、50、100ng/mlで実験を行い、全ての条件でミクログリアを作製可能であった。工程2ではIL−3を25ng/ml以上、もしくはGM−CSFを50ng/ml以上添加すると、特に分化誘導効率が良かった。工程3ではM−CSFを25ng/ml以上で添加すると特に効率が良かった。
【0067】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の方法により、多能性幹細胞から効率よくミクログリアが製造できる。得られるミクログリアは、ミクログリア自体の研究、ミクログリアが関連する疾患の研究等、様々な基礎研究に利用可能である。また、ミクログリアを用いることを特徴とする、ミクログリアが関与する疾患の治療薬のスクリーニング方法、又は、個々の患者から樹立したミクログリアを用いて個人に最適な治療薬を選別する、いわゆるオーダーメード治療薬の選択において極めて有用である。さらに、細胞治療への利用も期待される。
図1
図2