(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般にディーゼルエンジンを搭載する車両は、排気管内に排気フラップを備える。排気フラップは、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)の制御により、排気管を開放する開位置又は排気管を閉鎖する閉位置に動作する。
【0003】
排気フラップが排気管を閉鎖する閉位置に動作すると、排気管内の排気圧力が増加することでエンジンの回転抵抗が増加し、エンジンブレーキの作用が向上する。このように排気フラップを閉鎖させてエンジンブレーキの作用を向上させるブレーキを一般に排気ブレーキと呼ぶ。
【0004】
特許文献1には、排気ブレーキに関する技術が開示されている。具体的にはバタフライバルブ(排気フラップ)に孔を形成することで、排気フラップが全閉位置の場合でも一定の排気流量を確保する排気ブレーキが開示されている。この特許文献1に記載の技術によれば、排気流量の管理に要するコストを削減することができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ECUの故障や断線等により排気フラップが意図せず閉位置に動作すると、路面状態によってはエンジンブレーキが効きすぎてスリップが発生する。この場合、車両の安全性を確保するために排気フラップを開位置に戻す必要がある。しかしECUや信号線に何らかの不具合が生じていると、排気フラップを確実に開位置に動作させることができない場合がある。
【0007】
排気フラップを確実に開位置に動作させる構成としては、ECUと排気フラップとの間にリレーを配置し、リレーを動作させるための信号線を新たに追加する構成が考えられる。ECUは、このリレーを介して排気フラップに制御信号を送信し、排気フラップの開閉動作を制御する。
【0008】
上記構成を採用することにより、ECUや既存の信号線に何らかの不具合が生じた場合であっても、新たに追加した信号線を用いてリレーを動作させることにより、ECUから排気フラップに送信される制御信号を強制的に遮断することができる。これにより排気フラップの動作の安全性を簡易な構成で確保することができる。
【0009】
ここで、リレーが正常に動作している場合には上記構成を採用することにより排気フラップの動作の安全性を確保することができるが、リレーに固着等の何らかの不具合が生じている場合にはリレーを適切に動作させることができず、ECUから排気フラップに送信される制御信号を強制的に遮断することができない。
【0010】
よって排気フラップの動作の安全性をより確実に確保するためには、リレーが正常に動作するか否かを適宜診断することが望ましい。またこの診断は、排気フラップの開閉動作に遅延が生じないように迅速に実行されることが望ましい。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたものであり、リレーが正常に動作するか否かを適宜迅速に診断し得る電子制御装置及び排気ブレーキ制御装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するために、本発明においては、リレー(40)を介して制御信号(S1)を排気フラップ(19)に送信することによりこの排気フラップ(19)の開閉動作を制御するECU(30)において、ECU(30)のCPU(31)は、排気フラップ(19)に対して、開位置に動作させる制御信号(S1)を送信し、次いで閉位置に動作させる制御信号(S1)を送信し、開位置に動作させる制御信号(S1)を送信して一定時間経過した後の排気フラップ(19)の第1の実開度(A1)と、閉位置に動作させる制御信号(S1)を送信して一定時間経過した後の排気フラップ(19)の第2の実開度(A2)とに基づいて、リレー(40)が正常に動作しているか否かを判断するようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リレーが正常に動作するか否かの診断を適宜迅速に実行することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明について、図面を参照しながら本発明の一実施の形態を詳述する。なお以下の説明はあくまで本発明の一実施の形態にすぎず、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。
【0016】
図1は、車両1の吸気系及び排気系の全体構成を示す。
吸気系は、吸気管11、コンプレッサ12a、インタークーラ13及び吸気マニホルド14を備える。吸気iは、吸気管11を通って、コンプレッサ12aにより圧縮され、インタークーラ13により冷却され、吸気マニホルド14により各気筒に分配される。各気筒に分配された吸気iは、インジェクタ15から噴射される燃料と混合され、各気筒の燃焼室内で燃焼する。
【0017】
排気系は、排気マニホルド16、排気管17、排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)装置18、タービン12b、排気フラップ19及び排気浄化装置20を備える。各気筒の燃焼室から排出された排気eは、排気マニホルド16により統合された後、排気管17を通って、EGR装置18方向に流れる排気と、タービン12b方向に流れる排気とに分岐される。
【0018】
EGR装置18方向に流れる排気eは、EGR管18aを通って、EGRクーラ18bにより冷却され、EGR弁18cにより流量が調整されて再度、吸気マニホルド14により各気筒に分配される。各気筒に分配された排気eは、燃焼のために再利用される。
【0019】
一方で燃焼のために再利用されない排気eは、タービン12b方向に流れる。排気eは、タービン12bを介して、このタービン12bに接続されているコンプレッサ12aを回転駆動する。なおコンプレッサ12aの回転駆動により吸気iが圧縮される結果、燃焼室内での燃焼が促進される。コンプレッサ12a及びタービン12bは、一般にターボチャージャ12と呼ばれる。
【0020】
タービン12bを通過した排気eは、排気フラップ19により流量が調整される。この排気フラップ19の動作の詳細については後述するが、通常時には開位置に動作し、排気ブレーキ動作時には閉位置に動作する。排気フラップ19により流量が調整された排気eは、排気浄化装置20を通過した後、外部に排出される。
【0021】
排気浄化装置20は、DPF(Diesel Particulate Filter)装置20a及び尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)装置20bを備える。DPF装置20aは、排気eに含まれる粒子状物質を捕集し除去する。尿素SCR装置20bは、尿素水溶液を用いて排気eに含まれる窒素酸化物を人体に無害な窒素又は水蒸気に還元する。
【0022】
また車両1は、排気ブレーキ制御装置100を備える。
排気ブレーキ制御装置100は、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)30、リレー40、外部ECU50及び排気フラップ19を備える。
【0023】
ECU30は、車両1の各部に設置された各種センサ(図示省略)からの信号を受信し、また車両1の各部に設置された各種機器(図示省略)に対して制御信号を送信することにより、車両1の動作を統括的に制御する。
【0024】
特にここでは、ECU30は排気フラップ19を動作させるアクチュエータ(図示省略)に対して、リレー40を介して制御信号S1を送信する。これによりECU30は、通常、開位置にある排気フラップ19を排気ブレーキ動作時には閉位置に動作させることができる。なお閉位置には、排気管17を部分的に閉鎖する中間位置と、排気管17の全部を閉鎖する全閉位置とがある。
【0025】
またECU30は、閉位置にある排気フラップ19に対して制御信号S1を送信し、積極的に開位置に動作させることもできる。この場合、排気フラップ19について、バネ力の作用により自然に開位置に動作するよりも時間的に早く開位置に動作させることができる。
【0026】
またECU30は、外部ECU50からのスリップ検知信号S3を受信すると、リレー40が正常に動作するか否かについて診断を開始する。このときECU30は、暫定的にリレー40が正常動作していることを示す暫定正常信号S5を外部ECU50に送信する。スリップ状態の長期化などによりECU50の診断時間が遅延すると、外部ECU50が所定時間内に診断結果を受領することができない場合がある。この場合においてECU30が暫定正常信号S5を外部ECU60に事前に送信しておくことで、外部ECU50側においてリレー40の動作が異常であると誤診断することを防止することができる。ECU30は、診断を終了すると、診断結果信号S6を外部ECU50に送信する。
【0027】
リレー40は、ECU30と排気フラップ19との間に配置され、ECU30と排気フラップ19との間を通信可能に接続する。リレー40は、外部ECU50の制御により、通常時には信号線を導通してECU30からの制御信号S1を送信可能にする一方で、スリップ時には信号線を遮断するように動作する。
【0028】
外部ECU50は、ECU30とは別筐体のECUであり、具体的にはABS(Antilock Brake System)装置やESP(Electronic Stability Control)装置である。外部ECU50は、車両1のスリップを検知すると、スリップ検知信号S3を生成してECU30に送信する。また外部ECU50は、遮断信号S4をリレー40に送信する。これによりリレー40が動作してECU30からの制御信号S1を遮断し、排気フラップ19を開位置に動作させることができる。
【0029】
なお実際上、制御信号S1を遮断する構成に関して、リレー40のコイルの一端は外部ECU50に接続されており、他端はアースされている。外部ECU50がスリップを検知した場合、外部ECU50は内部のスイッチ(図示省略)をONにする。このときリレー40のコイルに電流が流れて、リレー40が動作することにより信号線が遮断され、制御信号S1が遮断される。
【0030】
排気フラップ19は、リターンスプリング等のバネ部材を備え(図示省略)、制御信号S1が送信されない通常時には、リターンスプリングのバネ力の作用により開位置の状態を維持する。これに対し排気フラップ19は、制御信号S1が送信される排気ブレーキ動作時には、リターンスプリングのバネ力に反して閉位置に動作する。
【0031】
また排気フラップ19は、位置センサを備え(図示省略)、開位置又は閉位置を示す位置信号S2をECU30に送信する。ECU30は、この位置信号S2に基づいて排気フラップ19の開閉動作を適宜制御する。
【0032】
図2は、排気ブレーキ制御装置100の内部構成を示す。
排気ブレーキ制御装置100は、上述の通り、ECU30、リレー40、外部ECU50及び排気フラップ19を備える。ECU30は、CPU(Central Processing Unit)31及びHブリッジ回路32を備える。
【0033】
CPU31は、ECU30の動作を統括的に制御する。ここでは排気フラップ19の動作を制御するため、CPU31は排気フラップ19からの位置信号S2を受信し、位置信号S2に基づいて、排気フラップ19の開閉位置を制御すべき場合はHブリッジ回路32に制御要求信号S11を送信する。
【0034】
Hブリッジ回路32は、CPU31からの制御要求信号S11に基づいて、排気フラップ19の開閉位置を制御する制御信号S1を送信する。制御信号S1は、リレー40を介してアクチュエータ(図示省略)に送信される。アクチュエータは、制御信号S1に基づいて、排気フラップ19が開位置にある場合には閉位置に動作させる。また排気フラップ19が閉位置にある場合には開位置に動作させる。
【0035】
外部ECU50は、車両1のスリップを検知するECUであり、例えばABSやESPである。外部ECU50のCPU51は、車両1のスリップを検知すると、CPU31にスリップ検知信号S3を送信するとともに、遮断信号S4をリレー40に送信する。これによりリレー40が動作し、ECU30からの制御信号S1を遮断することができる。制御信号S1が遮断されると、排気フラップ19は、リターンスプリングのバネ力の作用により開位置に動作する。
【0036】
図3は、リレー40の正常動作確認処理のフローチャートを示す。正常動作確認処理は、ECU30の電源がONの状態である場合に適宜実行される。処理主体をECU30のCPU31として以下詳細に説明する。
【0037】
まずCPU31は、スリップ検知信号S3を受信したか否かを判断する(SP1)。CPU31は、この判断で否定結果を得ると(SP1:N)、スリップ検知信号S3を受信するまでステップSP1の判断を繰り返す。
【0038】
これに対しCPU31は、肯定結果を得ると(SP1:Y)、外部ECU50によりリレー40が動作されたものと判断する一方で、実際上、このリレー40が正常に動作して制御信号S1が遮断されているか否かを確認するため、リレー動作確認処理を実行する(SP2)。
【0039】
なおリレー40が正常に動作している場合、制御信号S1は遮断されるため、排気フラップ19はバネ力の作用により開位置に動作することになる。これに対しリレー40が正常に動作していない場合、外部ECU50からリレー40に遮断信号S4が送信されたとしても、制御信号S1は遮断されない。この場合、制御信号S1によって排気フラップ19は開閉動作することになる。
【0040】
図4は、リレー動作確認処理のフローチャートを示す。CPU31は、外部ECU50からスリップ検知信号S3を受信すると(
図3:SP1)、これに応じて暫定正常信号S5を外部ECU50に送信する(SP21)。
【0041】
次いでCPU31は、開位置に動作させる制御信号S1を排気フラップ19に送信し(SP22)、一定時間経過したか否かを判断する(SP23)。一定時間は、例えば80ms程度である。
【0042】
CPU31は、一定時間が経過するまで待機し(SP23:N)、一定時間が経過した後(SP23:Y)、位置信号S2に基づいて、排気フラップ19のこのときの実開度A1を取得する(SP24)。
【0043】
ここで取得する実開度A1は、例えば排気フラップ19が全開位置にある場合、実開度A1=100%である。実際上、外部ECU50によりリレー40が動作されて信号線が遮断されており(
図3:SP1)、また仮に遮断されていない場合でも制御信号S1により排気フラップ19は開位置に動作されるため(SP22)、実開度A1は実開度A1=100%付近である。
【0044】
次いでCPU31は、今度は排気フラップ19を閉位置に動作させる制御信号S1を排気フラップ19に送信し(SP25)、一定時間経過したか否かを判断する(SP26)。一定時間は、例えば80ms程度である。
【0045】
CPU31は、一定時間が経過するまで待機し(SP26:N)、一定時間が経過した後(SP26:Y)、位置信号S2に基づいて、排気フラップ19のこのときの実開度A2を取得する(SP27)。
【0046】
ここで、外部ECU50によりリレー40が適切に動作され、制御信号S1が遮断される場合、制御信号S1により排気フラップ19は閉位置に動作しない。よってステップSP27で取得される実開度A2は、実開度A2=100%のままとなる。これに対しリレー40に固着等の不具合が生じ、外部ECU50によりリレー40が適切に動作されない場合、制御信号S1は遮断されない。よってこの場合、制御信号S1により排気フラップ19は閉位置に動作し、ステップSP27で取得される実開度A2は、実開度A2=0%などとなる。
【0047】
CPU31は、排気フラップ19を開位置に動作させる制御信号S1を送信した後の実開度A1(ステップSP24で取得)と、排気フラップ19を閉位置に動作させる制御信号S1を送信した後の実開度A2(ステップSP27で取得)とを比較して、実開度A1が実開度A2よりも大きいか否かを判断する(SP28)。
【0048】
CPU31は、ステップSP28の判断で否定結果を得ると(SP28:N)、実開度A1は実開度A2よりも大きくなく、制御信号S1により排気フラップ19が閉位置に動作していないと判断する。すなわち制御信号S1が遮断されていると判断し、リレー40は正常であると判断する(SP29)。
【0049】
これに対しCPU31は、ステップSP28の判断で肯定結果を得ると(SP28:Y)、実開度A1は実開度A2よりも大きく、制御信号S1により排気フラップ19が閉位置に動作していると判断する。すなわち制御信号S1が遮断されていないと判断し、リレー40に固着等の異常が発生していると判断する(SP30)。
【0050】
CPU31は、リレー40の動作が正常又は異常の何れであるかを判断した後、その結果を示す診断結果信号S6を外部ECU50に送信し(SP31)、本処理を終了する。
【0051】
以上のように本実施の形態によれば、外部ECU50からのスリップ検知信号S3を受信した場合、ECU30はリレー40を介して、排気フラップ19を一旦開位置に動作させる制御信号S1を送信し、このときの実開度A1を取得し、その後排気フラップ19を閉位置に動作させる制御信号S1を送信し、このときの実開度A2を取得し、実開度A1及びA2に基づいて、リレー40の動作が正常であるか否かを判断するようにした。
【0052】
これにより仮にリレー40の動作が異常である場合には排気フラップ19がバネ力の作用により開位置に戻る時間よりも早く開位置に移動させることができ、その結果、その後の処理において実開度A1及びA2に基づいてリレー40の異常を適宜迅速に判断することができる。