【実施例1】
【0016】
まず、本発明である中性子発生装置の構造について説明する。
図1は、中性子発生装置の構造を示す断面図である。
図2は、中性子発生装置のターゲットに照射された陽子の飛程と線エネルギー付与の関係を説明するグラフである。
図3は、中性子発生装置の支持材として使用する元素から中性子照射によって生成される主な放射性核種の半減期を示す表である。
図4は、中性子発生装置においてターゲットの装着を説明する図である。なお、中性子発生装置の真空にされた筐体内に設置されたターゲットについて、照射された陽子が衝突する側(筐体の内部側)を表面、その反対側を裏面とする。
【0017】
図1に示すように、中性子発生装置100は、陽子ビーム500を照射して中性子を発生させるためのターゲット200と、ターゲット200に照射された陽子が停止したときに生じる水素510を拡散させるための支持材210と、支持材210を筐体400内に設置するためのベース材300と、を備える。
【0018】
ターゲット200は、中性子源であり、陽子ビーム500や重陽子ビーム等の荷電粒子が照射されると中性子を生じる。本実施例においては、陽子を使用する。陽子は、ターゲット200に入射されてからエネルギーを失うまで進んで(飛程)、停止すると水素510になる。なお、
図2のブラッグ曲線に示すように、陽子の飛程におけるエネルギー損失は、ターゲット200に入射してから徐々に増加していき、停止する直前のブラッグピークで線エネルギー付与が急激に大きく(極大に)なり、そして急激に低下して失われる(図中、約0.2mm付近)。
【0019】
ターゲット200としては、ベリリウムやリチウム又はそれらの合金などがある。本実施例においては、リチウム7(
7Li)を使用する。陽子とリチウム7が反応すると、ベリリウム7(
7Be)と中性子を生じるが、ベリリウム7は、約53日の半減期でリチウム7に戻る。なお、
図2に示すように、ターゲット200の厚さは、最終的に水素に変わるが、水素として積極的に支持材210に吸収されるように陽子の飛程の2分の1以下にする。例えば、陽子の飛程が約0.2mmであれば、ターゲット200の厚さを0.1mm以下にすれば良い。この様に、ターゲット200の厚みを薄くすることで中性子発生量が少なくなる可能性があるが、その最大発生量は陽子ビームの核反応エネルギー(しきい値1.881MeV)と電流量に依存することから、陽子ビームが停止する直前のブラッグピーク付近まで厚みを増やしたとしても、得られる中性子量は必ずしも比例するわけではなく、かえってブリスタリングのリスクが大きくなるので、中性子の多くを発生する範囲(飛程の2分の1以下)をターゲット200にして、それ以外をブリスタリングが生じにくく水素を積極的に吸収する支持材210にする。
【0020】
支持材210は、ターゲット200の裏面に接合されて、ターゲット200を筐体400内に設置するための部材である。ターゲット200の厚さは、陽子の飛程より短いことから、ターゲット200に照射された陽子は、支持材210まで到達する。そのため、支持材210としては、中性子照射によって生成される放射性核種の半減期が短いものを使用する。例えば、
図3に示すように、半減期が1日よりも短い、より好ましくは分オーダー以下の金属又はその合金を使用する。なお、バナジウム(
52V)の場合で約3.7分、パラジウム(
109Pd)の場合で約13.7時間、パラジウム(
111Pd)の場合で約23.4分である。
【0021】
また、支持材210に到達した陽子は、停止したときに水素510となる。そのため、支持材210としては、水素吸蔵性の高い金属又はその合金を使用する。さらに、支持材210に取り込まれた水素510は、拡散させて外部に放出させないと、支持材210が水素脆化して破壊される。そのため、支持材210としては、水素拡散が大きく水素脆化が少ない金属又はその合金を使用する。このようなものとして、
図3に示すように、バナジウム(V)やパラジウム(Pd)などがあり、本実施例においては、バナジウムを使用する。
【0022】
支持材210の表面には、ターゲット200に接合されている部分と、ターゲット200と接合していない空スペース220が存在する。例えば、支持材210の中心部にターゲット200を接合した場合、支持材210の周縁部に空スペース220を確保すれば良い。支持材210に拡散された水素510は、空スペース220から真空の筐体400内に放出される。これにより、支持材210に溜まる水素510が低減され、支持材210の水素脆化が防止される。なお、支持材210の厚さは、加速器による陽子エネルギー幅を考慮して陽子が支持材210内で停止するのに必要なだけあれば良い。即ち、陽子の加速エネルギーによって飛程とブラッグピークが違うので、最大値と最小値での飛程とブラッグピークの加工公差を考慮して決定すればよい。
【0023】
ベース材300は、筐体400の金属製フランジ420の一部である。筐体400は、円筒状のビーム導入管410の開口面を円板状の金属製フランジ420で塞ぐことにより高真空に封止される。なお、ガスケット等のシール材430を用いて気密性を保持し、筐体400内を減圧することにより真空状態にする。
【0024】
ターゲット200に陽子ビーム500の照射が可能となるように、ベース材300の内面にターゲット200及び支持材300が設置されれば良い。ベース材300及び金属製フランジ420を支持材210と同じ素材にするとコスト高となり、特に、バナジウムの場合、酸化もされやすい。そのため、ベース材300としては、中性子照射によって生成される放射性核種の半減期が短く、コストが安く、加工性に優れ、耐水性の良いチタン(Ti)を用いることが好ましい。
【0025】
支持材210をベース材300に直接接合させるには、拡散接合により行う。拡散接合は、材料を密着させて熱を加えることにより一体化するものである。なお、バナジウムとチタンを拡散接合する場合、温度が1000℃以上と高くなるが、チタンは600℃以上に昇温すると結晶粒が粗大化(六方最密充填構造から体心立方構造に転移)して極端に強度が低下してしまう。
【0026】
そのため、支持材210とベース材300の間に接合材230を介して拡散接合させる。例えば、ベース材300としてチタンを用いる場合は、400〜500℃で拡散接合が可能で、中性子照射によって生成される放射性核種の半減期が短く、熱伝導率が高いアルミニウム(Al)を接合材230として用いれば良い。
【0027】
冷却管440はベース材300を介して、支持材210を冷却する。支持材210に陽子が到達し、ブラッグピークも支持材210内となるので、エネルギー損失に伴う発熱によりターゲット200及び支持材210が融解等するのを防止する。なお、支持材210と冷媒とを直接に接触させずに、間接的に冷却すれば良いので、冷媒としては、水などの液体を使用しても良い。
【0028】
図4に示すように、筐体400内の気密性を維持するために、ベース材300は、ターゲット200、支持材210及びベース材300のみを別部材とし、金属製フランジ420に差し込んで電子ビーム溶接により取り付ける。
【0029】
このように、支持材210に拡散した水素510を真空中に放出することにより、ターゲット200の水素脆化を防止することができる。
【0030】
以上、本発明の実施例を述べたが、これらに限定されるものではない。本発明は、科学・医療・産業分野の中性子関係施設及び装置で利用可能である。