(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外装缶と、封口缶と、前記外装缶と前記封口缶との間に配置されたガスケットと、前記外装缶、前記封口缶及び前記ガスケットにより形成された収容空間内に配置された発電要素とを備えたコイン形電池の製造方法であって、
前記外装缶は、底面部と周壁部とを備え、高さ方向において、前記底面部とは反対側に開口を有し、
前記封口缶は、平面部と側壁部とを備え、高さ方向において、前記平面部とは反対側に開口を有し、
前記封口缶の側壁部は、基端部と、拡径部と、径方向に拡がる段状の肩部とを有し、
前記ガスケットは、前記外装缶の周壁部と前記封口缶の側壁部との間に配置される、筒状に形成されたガスケット周壁部と、前記外装缶の底面部と前記封口缶の側壁部の開口端部との間に配置されるガスケット底部とを備え、かつ断面が鉤状の環状体であり、
前記ガスケット周壁部の上端部の内周側に切り落とし部を有し、
前記封口缶の高さをh1(mm)とし、
前記封口缶の側壁部において、開口端部の外径をd5(mm)、開口端部の先端から平面部側にh1の7/10の位置における外径及び缶厚みを、それぞれd6(mm)及びt1(mm)とし、開口端部の先端から平面部側にt1の1/2の位置における缶厚みをt2(mm)とし、
前記ガスケット周壁部の、前記切り落とし部以外での内径をd7(mm)としたときに、 −0.1≦d5−d6≦0.1、d6>d7、及び、t2/t1≧0.9を満たし、
前記ガスケット周壁部の内側に前記封口缶の側壁部を嵌め込む工程と、
前記外装缶の周壁部をかしめて封止する工程とを有する、コイン形電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0016】
(全体構成)
図1は、本発明のコイン形電池の製造方法により作製されるコイン形電池の一実施形態の概略構成を示す断面図である。このコイン形電池1は、有底円筒状の外装缶としての正極缶10と、正極缶10の開口を覆う封口缶としての負極缶20と、正極缶10と負極缶20との間に挟み込まれるガスケット30と、正極缶10及び負極缶20の間に形成される収容空間S内に収容される電極体40(発電要素)とを備える。したがって、コイン形電池1は、正極缶10と負極缶20とを合わせることによって、高さ方向の寸法よりも径方向の寸法が大きい扁平なコイン状となる。コイン形電池1の正極缶10及び負極缶20の間に形成される収容空間S内には、電極体40以外に、非水電解液(図示省略)も封入されている。なお、
図1における符号Pは、コイン形電池1の高さ方向に延びる軸線である。以下の説明では、コイン形電池1において、軸線方向を高さ方向といい、軸線方向と直交する方向を径方向という。
【0017】
正極缶10は、ステンレス(例えばSUS316等)などの金属材料からなる。正極缶10は、外面にNiメッキなどが形成可能であり、プレス成形によって有底円筒状に形成されている。正極缶10は、円形状の底面部11と、その外周に該底面部11と連続して形成された円筒状の周壁部12とを備える。この周壁部12は、縦断面視(
図1に図示した状態)で、底面部11の外周端からコイン形電池1の高さ方向に延びるように設けられている。すなわち、周壁部12は、底面部11から軸線方向に延びている。また、正極缶10は、前記軸線方向において、底面部11とは反対側に開口を有する。
【0018】
正極缶10は、後述するように、負極缶20との間にガスケット30を挟んだ状態で、周壁部12の開口端部13(周壁部12の開口側の端部)が正極缶10の径方向内方に倒れるような変形を生じていることにより、該負極缶20に対してかしめられている。
【0019】
負極缶20も、ステンレス(例えばNAS64等)などの金属材料からなる。負極缶20は、外面にNiメッキなどが形成可能であり、プレス成形によって有底円筒状に形成されている。負極缶20は、正極缶10の周壁部12よりも外形が小さい概略円筒状の側壁部22と、その一方の開口を塞ぐ円形状の平面部21と、を有する。この側壁部22も、正極缶10と同様、縦断面視で、平面部21の外周端からコイン形電池1の高さ方向に延びるように設けられている。すなわち、側壁部22は、平面部21から前記軸線方向に延びている。また、負極缶20は、前記軸線方向において、平面部21とは反対側に開口を有する。
【0020】
なお、側壁部22は、先端部分で折り返されることなく、前記軸線方向に延びている。すなわち、負極缶20は、側壁部22の先端部分に折り返しがない、いわゆるストレート缶である。
【0021】
また、側壁部22には、平面部21側の基端部22aに比べて径が大きくなる拡径部22bが形成されている。すなわち、側壁部22には、基端部22aと拡径部22bとの間に径方向に拡がる段状の肩部22cが形成されている。本実施形態の構成では、側壁部22に対して、後述するガスケット30を挟んだ状態で正極缶10の周壁部12が径方向に押し付けられている。
【0022】
なお、正極缶10の周壁部12において、開口端部13は、周壁部12の他の部分に比べて径方向に大きく変位することにより、負極缶20の肩部22cにも、正極缶10の周壁部12による押し付け力の一部を付与することができる。そのため、負極缶20の側壁部22の開口端部23(側壁部22の開口側の端部)が、後述するガスケット30のガスケット底部32を、正極缶10の底面部11との間で挟み込む。
【0023】
次に、本発明のコイン形電池の製造方法により作製されるコイン形電池において、高容量化及び優れた封止性を実現するために好適と思われる実施形態を、以下に具体的に説明する。
【0024】
正極缶10の底面部11の外径d1及び負極缶20の平面部21の外径d3は、0.8≦d3/d1≦0.9を満たすことが好ましい。
【0025】
本実施形態では、正極缶10の底面部11の外径d1は、コイン形電池1の外径にほぼ等しい。そのため、負極缶20の平面部21の外径d3を、正極缶10の底面部11の外径d1に対して80%以上にすることで、コイン形電池1の実体積(コイン形電池1の外形寸法から求められる体積)に対する負極缶20の内部の空間の割合を大きくすることができる。すなわち、d3/d1≧0.8を満たすことで、コイン形電池1の実体積に対して電極体40の収容空間Sの割合を大きくすることができる。これにより、コイン形電池1の電池容量を大きくすることが可能になる。
【0026】
一方、負極缶20の平面部21の外径d3は、正極缶10の底面部11の外径d1に対して90%以下とすることが好ましく、88%以下とすることがより好ましい。これにより、正極缶10の周壁部12の開口端部13を、径方向に一定以上変位させて負極缶20の側壁部22にかしめることが可能になる。したがって、コイン形電池1において、良好な封止性を確保することが可能になる。
【0027】
また、負極缶20の側壁部22の開口端部23の外径d4、及び、負極缶20に対してガスケット30を挟んでかしめられた状態における正極缶10の周壁部12の開口端部13の内径d2は、0.98≦d2/d4≦1.06を満たすことが好ましい。
【0028】
負極缶20の側壁部22における開口端部23の外径d4と正極缶10の周壁部12における開口端部13の内径d2との関係は、負極缶20の側壁部22に対する正極缶10の周壁部12の嵌合構造によって変化する。例えば、負極缶の側壁部の肩部に正極缶の周壁部がかしめられ、封口缶の側壁部の開口端部と外装缶の底面部との間でガスケットが押圧されることにより封止される、従来のコイン形電池の構成では、d2/d4の値は、0.9程度の小さな値である。
【0029】
これに対し、本実施形態では、正極缶10の周壁部12を径方向に変位させることにより、正極缶10の周壁部12を負極缶20の側壁部22に押圧している。すなわち、正極缶10の周壁部12は、負極缶20の側壁部22に対して径方向に嵌合している。
【0030】
前記嵌合構造において、正極缶10の周壁部12における開口端部13の内径d2と負極缶20の側壁部22における開口端部23の外径d4との関係を0.98≦d2/d4≦1.06とすることにより、正極缶10の周壁部12がガスケット30を径方向に押圧する力が大きくなる。これにより、正極缶10の周壁部12と負極缶20の側壁部22との間に配置されたガスケット30の封止性能を向上させることができる。
【0031】
d2/d4の値が0.98よりも小さくなると、負極缶20の側壁部22の開口端部23などの一部の部位に押圧力が集中する。そのため、正極缶10の周壁部12がガスケット30を径方向に押圧する力が減少して、電池全体の封止性能が低下する可能性がある。
【0032】
一方、d2/d4の値が1.06よりも大きくなると、正極缶10の周壁部12と負極缶20の側壁部22とのかしめが不充分になる。そのため、この場合にも電池全体の封止性能が低下する可能性がある。
【0033】
さらに、負極缶20の平面部21の外径d3、及び負極缶20の側壁部22における開口端部23の外径d4は、d3/d4≧0.85を満たすことが好ましい。
【0034】
負極缶20の平面部21の外径d3と負極缶20の側壁部22における開口端部23の外径d4との関係も、負極缶20の側壁部22に対する正極缶10の周壁部12の嵌合構造によって変化する。例えば、負極缶の側壁部の肩部に正極缶の周壁部がかしめられる従来のコイン形電池の構成では、前記肩部が一定以上の幅寸法を有するよう設計されており、d3/d4の値は0.8程度である。
【0035】
これに対し、本実施形態では、上述のように、正極缶10の周壁部12は、負極缶20の側壁部22に対して径方向に嵌合している。そのため、コイン形電池1の径方向において、負極缶20の側壁部22における肩部22cの突出寸法を従来の構成に比べて小さくすることができ、電極体40の収容に必要な空間以外のデッドスペースを減らして電池の高容量化を図ることができる。前記観点から、d3/d4の値は、0.87以上であることがより好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
【0036】
ただし、肩部22cの突出寸法を所定の寸法以上にして、負極缶20の側壁部22の開口端部23が後述のガスケット底部32を正極缶10の底面部11に対して押圧する力を生じさせることにより、ガスケット底部32と正極缶10の底面部11との間で一定の封止性を確保するためには、d3/d4の値は0.97以下とすることが好ましい。
【0037】
このように、コイン形電池1の径方向において、負極缶20の側壁部22における肩部22cの突出寸法を小さくすることにより、コイン形電池1における嵌合構造を小型化することができる。したがって、電極体40を収容する収容空間Sを大きくしつつコイン形電池1の小型化を実現することが可能である。
【0038】
なお、本実施形態において、外径は、径方向において、対象とする部分の最外周位置における直径を意味する。内径は、径方向において、対象とする部分の最も内側の位置における直径を意味する。
図1に、d1〜d4の寸法を具体的に図示する。
【0039】
コイン形電池1の実体積に対して電極体40の収容空間Sの割合を大きくするためには、d3/d1の値は、0.81以上とすることがより好ましく、0.82以上とすることが特に好ましい。一方、正極缶10の周壁部12における開口端部13のかしめをより良好にして封止性を向上するためには、d3/d1の値は、0.88以下とすることがより好ましく、0.87以下とすることが特に好ましく、0.85以下とすることが最も好ましい。
【0040】
また、正極缶10の周壁部12による径方向の押圧をより良好にするために、d2/d4の値は、0.99以上とすることがより好ましく、1以上であることが特に好ましい。一方、必要なかしめの量を確保するためには、d2/d4の値は、1.05以下とすることがより好ましく、1.03以下とすることが特に好ましい。
【0041】
ガスケット30は、例えばポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン樹脂のほか、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などの樹脂によって構成することができる。ガスケット30は、高温での封止性の低下を防ぐため、融点または熱分解温度が200℃以上の耐熱樹脂により構成されることが好ましい。
【0042】
ガスケット30は、ガスケット周壁部31と、ガスケット底部32とを備える。
図6は、コイン形電池を組立てる前のガスケット30の概略構成を示す断面図である。
【0043】
ガスケット周壁部31は、前記軸線方向に延びる円筒状に形成されている。ガスケット周壁部31は、正極缶10の周壁部12と負極缶20の側壁部22との間に配置される。ガスケット底部32は、ガスケット周壁部31の前記軸線方向における一方の端部からガスケット周壁部31の内方に向かって延びる円環状に形成されている。すなわち、ガスケット30は、ガスケット底部32によって囲まれた穴部30aを有する。これにより、ガスケット30は、鉤状の断面を有する環状体として形成されている。ガスケット底部32は、負極缶20の側壁部22における開口端部23と正極缶10の底面部11との間に挟みこまれている。
【0044】
ガスケット30は、
図1に示すように、正極缶10と負極缶20との間に挟みこまれた状態で、負極缶20の側壁部22の外方に位置する。なお、
図1には図示されていないが、正極缶10及び負極缶20の封止の際に、負極缶20の側壁部22の開口端部23によりガスケット底部32が押圧されるため、側壁部22の開口端部23付近の内周側には、変形したガスケット底部32の一部が接触している。
【0045】
電極体40は、
図2にも示すように、袋状のセパレータ44内に収容された略円板状の正極41と、略円板状の負極46と、をコイン形電池1の高さ方向に交互に複数、積層してなる。これにより、電極体40は、全体として前記軸線方向に延びる略円柱状の形状を有する。また、電極体40は、前記軸線方向の両端面が負極になるように、複数の正極41及び複数の負極46が積層されている。
【0046】
正極41は、
図2に示すように、例えば、コバルト酸リチウム等の正極活物質を含有する正極活物質層42が、アルミニウム等の金属箔製の正極集電体43の両面に形成された部材である。
【0047】
負極46は、
図2に示すように、黒鉛等の負極活物質を含有する負極活物質層47が、銅等の金属箔製の負極集電体48の両面に形成された部材である。ただし、略円柱状の電極体40の軸方向両端に位置する負極は、それぞれ、負極集電体48,48が電極体40の軸方向端部に位置するように、負極集電体48の一面側のみに負極活物質層47を有する。すなわち、略円柱状の電極体40は、その両端に負極集電体48,48が露出している。この電極体40の一方の負極集電体48は、正極集電体43及び絶縁シート49を介して正極缶10の底面部11上に位置づけられる(
図1及び
図2参照)。電極体40の他方の負極集電体48は、電極体40が正極缶10と負極缶20との間に配置された状態で、該負極缶20の平面部21に当接する(
図1参照)。
【0048】
セパレータ44は、平面視で略円形状に形成された袋状の部材であり、略円板状の正極41を収納可能な大きさに形成されている。セパレータ44は、絶縁性に優れたポリエチレン製の微多孔性薄膜によって構成されている。このように、セパレータ44を微多孔性薄膜によって構成することで、リチウムイオンが該セパレータ44を透過することができる。セパレータ44は、略円形状の2枚の微多孔性薄膜の周縁部を熱溶着等によって接着することにより形成される。
【0049】
図1及び
図2に示すように、正極41の正極集電体43には、平面視で該正極集電体43の外方に向かって延びる導電性の正極リード51が一体形成されている。この正極リード51の正極集電体43側も、セパレータ44によって覆われている。なお、絶縁シート49と正極缶10の底面部11との間には、正極活物質層42が設けられていない正極集電体43が配置されている。すなわち、この正極集電体43は、正極缶10の底面部11に電気的に接触している。
【0050】
負極46の負極集電体48には、平面視で負極集電体48の外方に向かって延びる導電性の負極リード52が一体形成されている。
【0051】
図1及び
図2に示すように、正極41及び負極46は、各正極41の正極リード51が一側に位置し、且つ、各負極46の負極リード52が該正極リード51とは反対側に位置するように、積層される。
【0052】
上述のように複数の正極41及び負極46をコイン形電池1の高さ方向に積層した状態で、複数の正極リード51は、先端側を前記高さ方向に重ね合わされて、超音波溶接等によって接続される。これにより、複数の正極リード51を介して、複数の正極41同士が電気的に接続されるとともに、各正極41と正極缶10とがそれぞれ電気的に接続される。一方、複数の負極リード52も、先端側を前記高さ方向に重ね合わされて超音波溶接等によって互いに接続される。これにより、複数の負極リード52を介して、複数の負極46同士が電気的に接続されるとともに、各負極46と負極缶20とがそれぞれ電気的に接続される。
【0053】
(コイン形電池の製造方法)
次に、上述のような構成を有するコイン形電池1を製造するための、本発明のコイン形電池1の製造方法について説明する。
【0054】
図3は、電池の組み立てに用いる封口缶(負極缶)の概略構成を示す断面図である。また、
図4及び
図5は、封口缶の側壁部の要部(拡径部)の断面を拡大して示す部分拡大断面図である。
図4は、本発明のコイン形電池の製造方法に用いられる封口缶の一実施態様を示す部分拡大断面図であり、
図5は、従来の封口缶の一例を示す部分拡大断面図である。
【0055】
封口缶は、前述したように、概略円筒状の側壁部22と、その一方の開口を塞ぐ円形状の平面部21と、を有する。この側壁部22は、縦断面視で、平面部21の外周端から平面部21と直交する方向(高さ方向)に延びるように設けられている。すなわち、側壁部22は、平面部21から前記軸線方向に延びている。また、封口缶は、前記軸線方向において、平面部21とは反対側に開口を有する。なお、
図3における符号Pは、封口缶の高さ方向に延びる軸線である。
【0056】
また、側壁部22は、上述したように、平面部21側の基端部22aと、開口端部23側の拡径部22bと、それらの間に形成された肩部22cとを有する。肩部22cが形成される位置は、電池の内容積を大きくするために、できるだけ平面部21に近い位置とすることが好ましい。すなわち、前記高さ方向において、拡径部22bをできるだけ大きくすることが好ましい。具体的には、封口缶の高さをh1(mm)としたときに、拡径部22bがh1の7/10よりも高い位置に形成されるようにすればよい。すなわち、封口缶の側壁部22において、開口端部23の外径をd5(mm)、開口端部23の先端23aから平面部21側にh1の7/10の位置における外径をd6(mm)としたときに、肩部22cの前記高さ方向の位置は、d5とd6が等しくなる位置が好ましい。なお、実際には、製造時の公差を考慮して、−0.1≦d5−d6≦0.1となるよう拡径部22bを形成すればよい。
【0057】
一方、肩部22cの位置が平面部21に近づきすぎると、外装缶による封止が困難になる。そのため、側壁部22において、開口端部23の先端23aから平面部21側にh1の9/10に位置する部分は、基端部22aであることが好ましい。
【0058】
また、
図5に示すように、開口端部23の先端23aの形状が鋭角である場合には、ガスケットに封口缶の側壁部22を嵌め込む際に開口端部23の先端23aがガスケット周壁部を傷つけたり、開口端部23の先端23aがガスケット底部を押圧する際に切れ目ができたりするなどの問題が生じやすい。よって、組み立て後の電池において漏液が発生しやすくなる。このため、封口缶の側壁部22の先端23aは、
図4に示すように、縦断面において外形が曲線である断面形状を有することが好ましい。なお、
図4及び
図5における符号Qは、拡径部22bにおける径方向の厚みの中心位置を示す中心線である。
【0059】
開口端部23の先端23aの形状ができるだけ鋭角にならないようにするためには、開口端部23の先端23aから平面部21側にh1の7/10の位置における封口缶の缶厚みをt1(mm)としたときに、開口端部23の先端23aにできるだけ近い位置まで前記缶厚みが維持されるように封口缶を形成すればよい。
【0060】
具体的には、開口端部23の先端23aから平面部21側にt1の1/2の位置における缶厚みをt2(mm)としたときに、t2/t1≧0.9を満たすように先端23aを形成すればよい。一般的に、t2/t1の値の上限は1であるが、製造時の公差などを考慮し、t2/t1の値は、1よりも若干大きな値であってもよい。
【0061】
また、開口端部23の先端23aが、
図5に示すように中心線Qよりも径方向外周側に位置する場合よりも、
図4に示すように中心線Qよりも径方向内周側に位置する場合の方が、前記問題はより生じ難くなる。よって、開口端部23の先端23aを、径方向において中心線Qよりも径方向内周側に形成することが好ましい。
【0062】
さらに、
図4に示すように、開口端部23の外周側部分23bにRを設けることにより、ガスケット周壁部の損傷の発生をより一層抑制することが可能となる。開口端部23のRの曲率半径は、特に限定されないが、加工性も考慮して、0.01〜0.5mm程度にすればよいと考えられる。
【0063】
前記の形状を有する封口缶は、プレス成形の際の周知の条件を調整することでプレス成形によって得ることができる。
【0064】
また、
図6に示すように、電池の組み立てに用いるガスケット30は、ガスケット周壁部31と、ガスケット底部32とを備える。電池の組み立て時に、ガスケット周壁部31の内周側に封口缶の側壁部22が嵌め込まれることにより、コイン形電池1の封止が行われる。ガスケット周壁部31の内周面35と側壁部22の拡径部22bの外周面との密着性を高め、封止性を向上させるために、ガスケット周壁部31の内径をd7(mm)としたときに、d6>d7となるよう前記内径が調整される。すなわち、ガスケット周壁部31の内径を、封口缶の側壁部22の拡径部22bの外径よりも小さくなるよう設定する。
【0065】
なお、封止性をより向上させるためには、d7がd6よりも一定以上小さくなるようにすればよい。具体的には、d6とd7との差d6−d7を、0.001以上とすることが好ましく、0.005以上とすることがより好ましく、0.008以上とすることが特に好ましい。
【0066】
なお、前記のように、本実施形態においてコイン形電池の組み立てに用いられる封口缶は、ガスケット周壁部31と接する拡径部22bの面積が大きい。そのため、たとえ開口端部23の先端23aを前記のような形状にした場合であっても、d7がd6よりも一定以上小さい場合には、ガスケット周壁部31と拡径部22bとの摩擦が大きくなって、嵌め込み不良及びガスケットの損傷などが生じる可能性がある。d6>d7の場合にガスケット30に対して封口缶の側壁部22を嵌め込みやすくするためには、
図6に示すように、ガスケット周壁部31の上端部33の内周側に切り落とし部34を形成すればよい。
【0067】
特に限定されないが、封口缶の開口端部23の先端23aをなめらかにガスケット周壁部31の径方向内方に誘導するために、ガスケット周壁部31の上端部33の端面33aにおける内径d8(mm)がd5よりも大きくなるように切り落とし部34を形成すればよい。通常は、d8−d5がおよそ0.1以上1以下の範囲となるように切り落とし部34を設ければよい。
【0068】
また、切り落とし部34を軸線方向で見た場合、その巾t3(mm)が、およそ0.1以上1以下の範囲となるように切り落とし部34を設計すればよい。ガスケット周壁部31の上端部33の端面33aに対する傾斜が緩くなりすぎて、切り落とし部34の効果が得られ難くなるのを防ぐために、t3≧(d8−d7)/6とすることが好ましく、t3≧(d8−d7)/3とすることがより好ましい。
【0069】
一方、切り落とし部34の面積が大きくなりすぎて封止性が低下するのを防ぐために、t3≦(d8−d7)×2とすることが好ましく、t3≦d8−d7とすることがより好ましい。
【0070】
なお、d7の値がd6よりも小さすぎる場合には、たとえ切り落とし部34を形成しても、ガスケット周壁部31と拡径部22bとの摩擦により、側壁部22の嵌め込みが困難になったり、組み立て時にガスケット周壁部31を傷つけたり、封止ができなくなったりするなどの問題を生じやすくなる。このため、d7とd6の差が大きくなりすぎないように封口缶及びガスケット30を設計する必要がある。具体的には、d6−d7の値を0.08以下とすることが好ましく、0.05以下とすることがより好ましく、0.03以下とすることが特に好ましい。
【0071】
また、封口缶の嵌め込み不良、ガスケットの損傷、あるいは電池の封止性の低下などが生じなければ、
図7に示すように、ガスケット30のガスケット周壁部31の内周面35には、凸部35aまたは凹部35bが形成されていてもよい。ガスケット30のガスケット底部32についても同様に、内周部36に凸部36aまたは凹部36bを形成することも可能である。
【0072】
なお、ガスケット周壁部31の内径d7は、ガスケット周壁部31において前記切り落とし部34を除く部分の内径である。また、ガスケット周壁部31の内周面35の一部に前記凸部または前記凹部が形成されている場合には、ガスケット周壁部31の内径d7は、ガスケット周壁部31において前記凸部または前記凹部が形成されている部分を除いた部分の内径である。
【0073】
また、
図6には、ガスケット周壁部31の切り落とし部34を、縦断面で見て直線状に形成する実施態様を示したが、切り落とし部34の断面は、必ずしも直線状である必要はなく、縦断面で見て曲線状であってもよい。例えば、
図7に示すように、縦断面で見て、切り落とし部34は、円弧状であってもよい。
【0074】
また、ガスケット周壁部31の外径を、ガスケット底部32の側から上端部33の側に向けて高さ方向に徐々に大きくすることにより、ガスケット周壁部31の径方向の厚みをテーパー状に変化させてもよい。これにより、外装缶の周壁部の開口端部を封口缶の肩部22cにかしめた際に、封止性を向上させることができる。
【0075】
なお、ガスケット30は、成形型等に樹脂材料を注入することによって形成されてもよい。
【0076】
以下、前記封口缶(負極缶)及び前記ガスケットを用いてコイン形電池を製造する工程を説明する。なお、外装缶(正極缶)は、円形状の底面部と、その外周に前記底面部と連続して形成された軸線方向に延びる円筒状の周壁部とを備え、前記底面部の反対側に開口を有する、汎用の外装缶を用いればよい。
【0077】
まず、セパレータ44によって覆われた複数の板状の正極41と、複数の板状の負極46とを高さ方向に積層して、
図1に示すような略円柱状の電極体40を構成する。電極体40は、従来の方法と同様の方法によって製造されるため、詳しい製造方法については説明を省略する。
【0078】
正極缶10内に、円筒状のガスケット30を配置した後、電極体40を絶縁シート49等とともに配置し、非水電解液を注入する。そして、負極缶20を、正極缶10の開口を覆うように配置する。その状態で、正極缶10の周壁部12を、負極缶20の側壁部22に対して径方向内方に押し付けてかしめる。
【0079】
この際、負極缶20の側壁部22と正極缶10の周壁部12との間にガスケット周壁部31を挟み込むとともに、負極缶20の側壁部22における開口端部23と正極缶10の底面部11との間にガスケット底部32を挟み込むように、負極缶20と正極缶10との間にガスケット30を配置した状態で、正極缶10の周壁部12を、負極缶20の側壁部22に対して径方向に変位させることによって、正極缶10の周壁部12と負極缶20の側壁部22とを嵌合させる。
【0080】
なお、ガスケット底部32は、負極缶20の側壁部22における開口端部23と正極缶10の底面部11との間に挟み込まれた状態で厚み方向に力が加わると、内周部36の近傍がガスケット底部32の厚み方向に変形を生じる。そのため、側壁部22の開口端部23付近の内周面にガスケット底部32の前記変形した部分が接触する。
【0081】
以上により、前述の構成のコイン形電池1が得られる。電池の封止性をより一層向上させるために、電池の組み立て前に、負極缶20の側壁部22、正極缶10の周壁部12及び底面部11のうち、ガスケット30と接触する部分に、あらかじめ汎用の封止剤を塗布することが好ましい。また、ガスケット30側に封止剤を塗布してもよい。
【0082】
ガスケットに傷がある場合は、前記封止剤を使用しても封止性の向上効果が充分に得られない。しかしながら、本発明のコイン形電池の製造方法は、ガスケットの損傷及びガスケットの嵌合不良を防ぐことができるので、封止剤の効果をより効果的に得ることができる。
【0083】
以上の工程を経て作製されるコイン形電池1は、前述したように、正極缶10の周壁部12の外径d1及び負極缶20の平面部21の外径d3が、0.8≦d3/d1≦0.9を満たすように設計されることが好ましい。また、コイン形電池1は、負極缶20に対してガスケット30を挟んでかしめられた状態において正極缶10の周壁部12の開口端部13の内径d2及び負極缶20の側壁部22の開口端部23の外径d4が、0.98≦d2/d4≦1.06を満たすように設計されることが好ましい。
【0084】
これにより、コイン形電池1内の収容空間Sを、従来の構成に比べて大きくすることができ、コイン形電池1の高容量化を図れる。すなわち、負極缶20の平面部21の外径d3と正極缶10の底面部11の外径d1との関係を0.8≦d3/d1≦0.9にすることで、電池の外形寸法に対して、負極缶20の内部の空間を大きくすることができる。
【0085】
また、負極缶20の側壁部22における開口端部23の外径d4と正極缶10の周壁部12における開口端部13の内径d2との関係を0.98≦d2/d4≦1.06にすることで、電池の実体積に対して負極缶20の内部空間の割合を大きくした電池構造において、封止性能を高めることができる。よって、コンパクトな封止構造を実現できるため、コイン形電池1が大型化することなく電池容量を高めることができる。
【0086】
なお、コイン形電池1において、正極缶10の周壁部12は、かしめられることにより変位する量が比較的小さいため、負極缶20の形状は、元の封口缶の形状がほぼそのまま保たれている。したがって、前記元の封口缶における側壁部22の開口端部23での外径d5と、組み立てられたコイン形電池1の負極缶20における側壁部22の開口端部23での外径d4は、ほぼ同じである。また、負極缶の平面部21の外径d3とd4との比(d3/d4)を、0.85以上かつ0.97以下の範囲とするためには、前記元の封口缶における平面部21の外径とd5との比を、ほぼ0.85以上かつ0.97以下の範囲に設定すればよい。
【実施例】
【0087】
次に、本発明のコイン形電池1の製造方法について、以下の実施例及び比較例により具体的に説明する。
【0088】
[実施例1]
<正極の作製>
正極活物質としてLiCoO
2を、導電助剤としてカーボンブラックを、バインダとしてPVDFを、それぞれ用いて、以下のように正極を作製した。
【0089】
まず、LiCoO
2:93質量部とカーボンブラック:3質量部とを混合し、得られた混合物とPVDF:4質量部を予めNMPに溶解させておいたバインダ溶液とを混合して正極合剤ペーストを調製した。得られた正極合剤ペーストを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面にアプリケータにより塗布した。なお、塗布部と未塗布部とが交互になるように、且つ、表面が塗布部の部分は、裏面でも塗布部となるように、正極合剤ペーストを正極集電体上に塗布した。続いて、塗布した正極合剤ペーストを乾燥させて正極活物質層を形成し、ロールプレスした後、所定の大きさに切断することにより、帯状の正極シートを得た。なお、この正極シートは、正極活物質層が形成された部分の全体厚みが140μmとなるように形成した。
【0090】
前記帯状の正極シートを、正極活物質層が形成された部分が本体部(円弧の部分の直径:5.6mm)となり、正極活物質層が形成されていない部分が正極タブ部(幅:2.0mm)となるように打ち抜くことにより、正極を得た。
図8に、打ち抜き後の正極を模式的に表した平面図を示す。正極41は、正極集電体43の両面に正極活物質層42がそれぞれ形成された本体部41aと、本体部41aから突出し且つ本体部41aよりも幅が狭い正極タブ部41bとを有する。
【0091】
<負極の作製>
負極活物質として黒鉛を、バインダとしてPVDFを、それぞれ用いて、以下のように負極を作製した。
【0092】
まず、黒鉛:94質量部と、PVDF:6質量部を予めNMPに溶解させておいたバインダ溶液とを混合して、負極合剤ペーストを調製した。得られた負極合剤ペーストを厚さ10μmの銅箔からなる負極集電体の片面または両面にアプリケータにより塗布した。なお、塗布部と未塗布部とが交互になるように、且つ、集電体の両面に負極合剤ペーストを塗布した場合には、表面が塗布部の部分は裏面でも塗布部となるように、負極合剤ペーストを負極集電体上に塗布した。続いて、塗布した負極合剤ペーストを乾燥させて負極活物質層を形成し、ロールプレスした後、所定の大きさに切断することにより、帯状の負極シートを得た。なお、この負極シートは、負極活物質層が形成された部分の全体厚みが、集電体の両面に負極活物質層が形成された場合は190μm、集電体の片面に負極活物質層が形成された場合は100μmとなるように、形成した。
【0093】
前記帯状の負極シートを、負極活物質層が形成された部分が本体部(円弧の部分の直径:6.2mm)となり、負極活物質層が形成されていない部分が負極タブ部となるように打ち抜いて、集電体の片面に負極活物質層を有する負極と、集電体の両面に負極活物質層を有する負極とをそれぞれ得た。なお、集電体の片面に負極活物質層を有する負極のうち、外装缶側に配置される負極については、前記帯状の負極シートの集電体の露出面に、厚みが100μmのPETフィルム(絶縁シート)を貼り付けた後に打ち抜いた。
図9に、打ち抜き後の負極を模式的に表した平面図を示す。負極46は、負極集電体48の両面または片面に負極活物質層47が形成された本体部46aと、本体部46aから突出し且つ本体部46aよりも幅が狭い負極タブ部46bとを有する。
【0094】
<非水電解液の調製>
エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとの体積比が1:2の混合溶媒に、LiPF
6を1.2mol/lの濃度で溶解させることにより、非水電解液を作製した。
【0095】
<正極とセパレータとの一体化>
図10に、本実施例で使用したセパレータを模式的に表す。上述のように作製した正極41の両面に、
図10に示す形状のポリエチレン製微多孔フィルム(厚み16μm)をそれぞれ配置して、両セパレータ44の主体部44aの周縁部の一部と張り出し部44bの一部とを加熱プレス(温度170℃、プレス時間2秒)によって溶着し、2枚のセパレータ44における主体部44aの周縁部の一部及び張り出し部44bの周縁部の一部に接合部を形成することにより、正極41とセパレータ44とを一体化した。
【0096】
図10は、正極41、負極46及びセパレータ44が積層された電極体を示している。
図10では、セパレータ44の下に配置される正極41を点線で示し、それらの更に下側に配置される負極46の負極タブ部46bを一点鎖線で示し、電極体の各構成要素の位置ずれを抑えるための結束テープ9を二点鎖線で示している。また、
図10に示す正極41は、電極体において、正極41を厚み方向に挟んで一体化された一対のセパレータ44のうち一方を介して負極46と積層されている。なお、
図10では特に図示していないが、セパレータ44の下側(
図10における紙面奥側)に負極を配置した。
【0097】
図10に示すセパレータ44は、正極41(図中点線で表示)をその厚み方向に挟んで下側(
図10における紙面奥側)に配置された他のセパレータ44に、周縁部で溶着された接合部44c(図中、格子模様で表示)を有する。すなわち、正極41を厚み方向に挟んで配置された一対のセパレータ44は、周縁部で互いに溶着されて袋状になっていて、その内部に正極41が収容されることで、正極41とセパレータ44とが一体化されている。
【0098】
なお、
図10に示すセパレータ44は、正極41の本体部41aの全面を覆う主体部44a(すなわち、正極41の本体部41aよりも平面視の面積が大きい主体部44a)と、主体部44aから突出し、正極41の正極タブ部41bにおける本体部41aとの境界部を覆う張り出し部44bとを有する。そして、セパレータ44の主体部44a及び張り出し部44bの周縁部の少なくとも一部に、正極41の両面に配置された一対のセパレータ44同士を互いに溶着する接合部44cが設けられている。また、主体部44aの周縁部の一部には、セパレータ44同士が溶着されない非溶着部44dが設けられている。
【0099】
なお、本実施例において、セパレータ44の主体部44a及び張り出し部44bにそれぞれ設けられている接合部44cの幅は0.3mmであり、張り出し部44bの周縁部における主体部44aからの突出方向の長さは0.5mmであった。また、セパレータ44の主体部44aの外縁のうち、90%の長さ部分を接合部とした。
【0100】
<電池の組み立て>
前記セパレータと一体化された正極11枚と、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極10枚と、負極集電体の片面に負極活物質層が形成された負極2枚(このうち1枚は、集電体の露出面にPETフィルムが貼り付けられた負極)とを用いて、負極集電体の片面に負極活物質層が形成された負極が最外部の電極になるように、正極と負極とを交互に重ねて、全体を結束テープで固定することにより電極体を得た。
【0101】
次に電極体の一方に突出している各正極の正極タブ部、及び、該正極タブ部とは反対方向に突出している各負極の負極タブ部を、それぞれ纏めた状態で溶接することにより一体化した。
【0102】
外装缶として、SUS316によって構成された厚みが0.1mmの板材をプレス成形することにより、円形状の底面部と、その外周端から前記底面部と直交する方向(高さ方向)に形成された円筒状の周壁部とを有し、前記底面部とは反対側に開口を有する金属缶を作製した。なお、外装缶の外面にはNiメッキが施されている。外装缶の底面部の外径は7.85mmとした。
【0103】
また、封口缶として、NAS64によって構成された厚みが0.1mmの板材をプレス成形することにより、円形状の平面部と、その外周端から前記平面部と直交する方向(高さ方向)に形成された側壁部とを有し、前記平面部とは反対側に開口を有する、
図3に示す金属缶をプレス成形により作製した。なお、封口缶の外面にはNiメッキが施されている。封口缶の高さh1を3.25mmとし、平面部の外径を6.80(mm)とした。側壁部には、開口端部の先端から平面部側に2.68mm(h1の82/100)の位置に肩部を形成した。また、開口端部での側壁部の外径d5を7.10mm、開口端部の先端から平面部側にh1の7/10の位置における側壁部の外径d6及び缶厚みt1を、それぞれ7.10mm及び0.10mmとし、開口端部の先端から平面部側にt1の1/2の位置における側壁部の缶厚みt2を0.10mmとした。すなわち、d5−d6=0及びt2/t1=1となるように、側壁部の拡径部22bを形成した。
【0104】
なお、開口端部の先端は、拡径部における径方向の厚みの中心線よりも径方向内周側に位置していた。
【0105】
また、ポリフェニレンサルファイド製で、
図6に示す断面形状を有する環状のガスケットを用いた。なお、ガスケット周壁部の上端部の内周側には切り落とし部を設けた。ガスケット周壁部における切り落とし部以外での内径d7を7.09mmとした。上端部の端面における内径d8を7.39mm、外径を7.74mmとした。軸線方向における切り落とし部の巾t3を0.15mmとした。ガスケット底部の軸線方向における厚みを0.50mmとした。また、ガスケット周壁部の径方向の厚みが、ガスケット底部の近傍において0.25mmとなるよう、ガスケット周壁部の外径をテーパー状に変化させた。
【0106】
前記外装缶内に、前記電極体の負極のPETフィルムが外装缶の内面と対向するように配置し、前記一体化した各正極の正極タブ部を外装缶の内面に溶接した。
【0107】
次に、前記ガスケットのガスケット周壁部の内側に前記封口缶の側壁部を嵌め込んで一体化した。前記ガスケットが装着された前記封口缶内に、前記非水電解液を注入した後、前記電極体が収容された前記外装缶を前記封口缶に被せ、該外装缶の周壁部を前記封口缶の側壁部に対してかしめることにより封止を行った。これにより、
図1に示す電池と同様の構造を有し、外径が7.85mmで且つ高さが4mmのコイン形非水二次電池を得た。
【0108】
なお、前記封口缶の側壁部の外周面、及び、前記外装缶の内面には、前記ガスケットと接触する部分に、あらかじめポリオレフィン系の熱可塑性エラストマーを含む市販の封止剤を塗布した。電池の組み立て後に、前記ガスケットと前記封口缶及び前記外装缶との間に前記封止剤が介在するように封止を行った。
【0109】
この電池における外装缶の底面部の外径d1は7.85(mm)であった。外装缶の周壁部における開口端部の内径d2は7.2(mm)であった。封口缶の平面部の外径d3は6.8(mm)であった。封口缶の側壁部における開口端部の外径d4は7.1(mm)であった。よって、前記電池では、d3/d1=0.866、d2/d4=1.014、d3/d4=0.958であった。
【0110】
[実施例2]
ガスケット周壁部31の径方向の厚みを全体に厚くすることにより、ガスケット周壁部の切り落とし部34以外での内径d7を7.04mmとした以外は、実施例1と同様にしてコイン形非水二次電池を作製した。
【0111】
[比較例1]
封口缶の開口端部での側壁部の外径d5を7.25mmとし、d5とd6の差(d5−d6)を0.15とした以外は、実施例1と同様にしてコイン形非水二次電池を作製した。
【0112】
[比較例2]
封口缶の開口端部での側壁部の外径d5を6.95mmとし、d5とd6の差(d5−d6)を−0.15とした以外は、実施例1と同様にしてコイン形非水二次電池を作製した。
【0113】
[比較例3]
ガスケット周壁部の径方向の厚みを全体に薄くすることにより、ガスケット周壁部の切り落とし部以外での内径d7を7.15mmとした以外は、実施例1と同様にしてコイン形非水二次電池を作製した。
【0114】
[比較例4]
封口缶の開口端部の先端から平面部側にt1の1/2の位置における側壁部の缶厚みt2を0.03mmとし、t2/t1=0.3となるように側壁部の拡径部22bを鋭角に形成した以外は、実施例1と同様にしてコイン形非水二次電池を作製した。
【0115】
[比較例5]
ガスケット周壁部の内周側に切り落とし部を設けず、ガスケット周壁部の上端部の端面における内径d8を7.09mmとした以外は、実施例1と同様にしてコイン形非水二次電池を作製した。
【0116】
各実施例及び各比較例の電池をそれぞれ100個ずつ作製した。電池の組み立て後に60℃の温度環境下で24時間貯蔵し、貯蔵後に漏液が認められた電池の個数を確認した。
【0117】
なお、比較例5については、ガスケット周壁部の内側に封口缶の側壁部を嵌め込む際に嵌め込み不良が多く発生したため、前記貯蔵による漏液の確認を行わなかった。
【0118】
各実施例及び各比較例における封口缶及びガスケットの設計寸法、封口缶及びガスケットの寸法の相互関係、及び、電池の貯蔵後の漏液確認の結果を、表1及び表2に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
本発明のコイン形電池の製造方法により作製された実施例1の電池では、組み立て時のガスケットの損傷などを防ぐことができたため、組み立て後の電池の漏液が抑制された。したがって、本発明のコイン形電池の製造方法により、封止性に優れた電池を得ることができた。特に、d6とd7の差を0.05以下とした実施例1の電池では、封止性をより一層向上させることができた。
【0122】
一方、比較例1の電池では、封口缶の側壁部の先端部が径方向外側に屈曲してd5−d6の値が0.1よりも大きくなったため、ガスケットに封口缶を嵌め込む際に該封口缶の側壁部の先端部によってガスケットに微小な傷が生じた。そのため、漏液を生じる電池が多く発生した。
【0123】
また、比較例2の電池では、封口缶の側壁部の先端部が径方向内側に屈曲してd5−d6の値が−0.1よりも小さくなったため、組み立て後の電池において封口缶によるガスケット底部の押圧が不充分となり、漏液を生じる電池が多く発生した。
【0124】
また、比較例3の電池では、ガスケット周壁部の内径が封口缶の側壁部の拡径部の外径よりも大きいため、封口缶に対して外装缶をかしめた際に、ガスケット周壁部と封口缶の側壁部との密着が不充分となり、漏液を生じる電池が多く発生した。
【0125】
また、比較例4の電池では、封口缶の側壁部における先端部の形状が鋭角であるため、ガスケットに封口缶を嵌め込む際に該封口缶の側壁部の先端部によってガスケットに微小な傷が生じたり、封口缶に対して外装缶をかしめた際に、該封口缶の側壁部の先端部に押圧されたガスケット底部に切れ目が生じたりしたことにより、漏液を生じる電池が多く発生した。また、ガスケット底部に切れ目が生じ、封口缶の側壁部の先端部が外装缶の底面部に接触したことによると思われる短絡も、一部の電池で認められた。
【0126】
[比較例6]
開口端部で側壁部が折り返された従来構造の封口缶と、前記封口缶に対応して縦断面がU字状の環状のガスケットと、実施例1と同じ外装缶とを用いてコイン形電池を作製した。
【0127】
なお、比較例6の電池では、実施例1の電池に比べて電極体を収容する収容空間が減少したため、それに合わせて電極体の外径を小さくする必要があった。
【0128】
<電池容量の測定>
実施例1及び比較例6の各電池に対し、正極の理論容量を1C(mAh)とした場合に、4.2Vまで0.5C(mA)の定電流充電を行った後、4.2Vで定電圧充電を行い、0.05Cまで電流値が減少した時点で充電を終了した。また、充電後の電池を、0.2C(mA)の定電流で放電させ、電池の電圧が3Vに達するまでの放電容量を測定した。測定結果を表3に示す。
【0129】
【表3】
【0130】
本発明のコイン形電池の製造方法により作製された電池は、外径が7.85mmの電池の場合、従来構成の電池に比べて放電容量を15%高容量化することができた。
【0131】
次に、上述の実施形態のコイン形電池及び従来の構成(ガスケットが断面U字状)のコイン形電池について、それぞれ、以下のように実施例1、3及び比較例7〜11のコイン形電池を製作して、実施例1、3及び比較例7については電池容量を、実施例1及び比較例8〜11については短絡の有無及び封止性能をそれぞれ確認した。なお、以下の説明における実施例1のコイン形電池は、上述の実施例1のコイン形電池と同じであるため、説明を省略する。
【0132】
[実施例3]
電池の外装缶における底面部の外径(以下、単に、電池の外径という)がそれぞれ6.7mm、8.5mm、10mm及び11.5mmであり、前記電池の外径に応じて、正極及び負極におけるそれぞれの本体部及びタブ部の大きさ、並びにセパレータの大きさが変更された電極体を用いることにより、
図1に示す電池と同様の構造を有するコイン形非水二次電池を作製した。なお、この実施例3に係る各電池では、ガスケット周壁部の厚み及びガスケット底部の厚みが実施例1と同じであり、大きさを前記電池の外径に応じて変更した鉤状ガスケットを用いて、d3/d1の値及びd2/d4の値が、それぞれ0.8≦d3/d1≦0.88及び0.98≦d2/d4≦1.06の範囲になるように電池の組み立てを行った。
【0133】
[比較例7]
電池の外径がそれぞれ6.7mm、7mm、10mm及び11.5mmであり、U字状の断面を有する環状体のガスケット(「U字状ガスケット」)を用いるとともに、前記電池の直径に応じて外径が変更された電極体を用いることにより、コイン形非水二次電池を得た。この比較例7に係る各電池は、電池の直径、電極体の直径及びガスケット以外は、上述の実施例1と同様にして作製された。なお、比較例7の各電池は、封口缶の側壁部の内方にもガスケットが存在するため、同じ直径を有する上述の実施例の電池に比べて、電極体の外径を小さくする必要があった。
【0134】
<電池容量の測定>
実施例1,3及び比較例7の各電池において、正極の理論容量を1C(mAh)とした場合に、4.2Vまで0.5C(mA)の定電流充電を行った後、4.2Vでの定電圧充電を行い、0.05Cまで電流値が減少した時点で充電を終了した。また、充電後の電池を、0.2C(mA)の定電流で放電させ、電池の電圧が3Vに達するまでの放電容量を測定した。また、各外径の電池において、本実施形態におけるガスケットである「鉤状ガスケット」の電池の容量をC1とし、従来のガスケットである「U字状ガスケット」の電池の容量をC2としたときに、「鉤状ガスケット」の電池の容量と「U字状ガスケット」の電池の容量との容量差を、(C1−C2)/C2×100(%)の式を用いて求めた。
【0135】
表4に、「鉤状ガスケット」及び「U字状ガスケット」の電池の容量の測定結果、及び、それらの電池の容量差を示す。
【表4】
【0136】
表4の結果から、電池外径が小さくなるほど、「鉤状ガスケット」の電池の容量と「U字状ガスケット」の電池の容量との容量差が大きくなることが分かる。また、外径が10mm以下の電池では、前記容量差がより大きくなり、特に、外径が8.5mm以下の電池では前記容量差が顕著になることが分かる。ただし、電池外径が6mm未満になると、電池の組み立てが困難になるため、電池外径は6mm以上であることが好ましい。
【0137】
次に、「鉤状ガスケット」を用いた電池の絶縁性能及び封止性能を確認するために、以下のようにして比較例8〜11を作製した。
【0138】
[比較例8]
封口缶の平面部の外径d3を5.9mmとし、d3/d1=0.752とした以外は、実施例1と同様にして、コイン形非水二次電池を作製した。
【0139】
[比較例9]
封口缶の平面部の外径d3を7.08mmとし、d3/d1=0.902とした以外は、実施例1と同様にして、コイン形非水二次電池を作製した。
【0140】
[比較例10]
外装缶の周壁部における開口端部の内径d2を6.8mmとし、d2/d4=0.958とした以外は、実施例1と同様にして、コイン形非水二次電池を作製した。
【0141】
[比較例11]
外装缶の周壁部における開口端部の内径d2を7.6mmとし、d2/d4=1.070とした以外は、実施例1と同様にして、コイン形非水二次電池を作製した。
【0142】
<絶縁の有無及び封止性能の確認>
実施例1及び比較例8〜11の各電池において、上述の電池容量の測定と同じ条件で充放電を行って、放電後の電池の内部抵抗を測定することにより、電池内部での短絡の有無を調べた。
【0143】
また、上述の電池容量の測定と同じ条件で充電を行って、充電後の電池を60℃で且つ相対湿度90%の環境下において50日間貯蔵した後、電池の漏液の有無を調べた。
【0144】
それらの結果を表5に示す。なお、表5では、短絡、漏液がそれぞれない電池を○として表し、短絡、漏液が生じた電池をそれぞれ×として表している。
【表5】
【0145】
表5から分かるように、d3/d1及びd2/d4の値が、それぞれ0.8≦d3/d1≦0.88及び0.98≦d2/d4≦1.06の範囲内である実施例1の電池は、短絡及び漏液を生じなかった。一方、比較例8の電池では、実施例1の電池に比べて、電極体の収容空間の割合が小さいため、短絡を生じ、比較例9〜11の電池では、封止性能の低下により漏液を生じた。以上より明らかなように、本発明により、封止性能を維持しつつ、小型のコイン形電池の高容量化を図ることができる。
【0146】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0147】
前記実施形態では、電極体40を、複数の正極41及び負極46を交互に積層した構成としているが、電極体の構成はこれ以外の構成であってもよい。
【0148】
前記実施形態では、正極41は、コバルト酸リチウム等の正極活物質を含有する正極活物質層を含んでおり、負極46は、黒鉛等の負極活物質を含有する負極活物質層47を含んでいる。しかしながら、正極及び負極の構成は、上述以外の構成であってもよい。
【0149】
前記実施形態では、正極缶10を外装缶としていて、負極缶20を封口缶としているが、逆に正極缶が封口缶で、負極缶が外装缶であってもよい。