【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記EC画素部は、有機配位子と、前記有機配位子に配位された金属イオンとからなる有機/金属ハイブリッドポリマーからなるエレクトロクロミック材料を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のEC表示システム。
前記電磁波源は、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ(LD)、ライトペン、懐中電灯、アンテナを備えた電波源、および、プロジェクタからなる群から選択される、請求項5に記載のEC表示システム。
前記発信部は、前記電磁波信号の発信方向を手動にて操作する手動型、前記電磁波信号の発信方向を機械的に操作する機械駆動型、および、前記電磁波信号を投影して発信するプロジェクタ型からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載のEC表示システム。
前記EC画素部は、第1の電極と、前記第1の電極上に位置する前記エレクトロクロミック材料からなるエレクトロクロミック層、前記エレクトロクロミック層上に位置する電解質層と、前記電解質層上に位置する第2の電極とを備える、請求項4に記載のEC表示システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、配線を不要とするエレクトロクロミック(EC)表示システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるエレクトロクロミック(EC)表示システムは、電磁波信号を発信する発信部と、前記電磁波信号によって動作する複数のエレクトロクロミック(EC)表示デバイスとを備え、前記複数のEC表示デバイスのそれぞれは、前記電磁波信号を受信し、電気信号に変換する受信部と、前記受信部と電気的に接続され、前記電気信号によって可逆的に色が変化するエレクトロクロミック(EC)画素部とを備え、前記複数のEC表示デバイスのそれぞれは、互いに独立しており、これにより上記課題を解決する。
前記EC画素部は、有機配位子と、前記有機配位子に配位された金属イオンとからなる有機/金属ハイブリッドポリマーからなるエレクトロクロミック材料を含有してもよい。
前記発信部は、指向性を有する電磁波源を備えてもよい。
前記電磁波源は、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ(LD)、ライトペン、懐中電灯、アンテナを備えた電波源、および、プロジェクタからなる群から選択されてもよい。
前記発信部は、前記電磁波信号の発信方向を手動にて操作する手動型、前記電磁波信号の発信方向を機械的に操作する機械駆動型、および、前記電磁波信号を投影して発信するプロジェクタ型からなる群から選択されてもよい。
前記発信部は、前記機械駆動型または前記プロジェクタ型であり、前記複数のEC表示デバイスのそれぞれが有する前記受信部の属性を示す属性データを格納し、前記属性データに基づいて前記受信部を照射すべきパターンを作成する中央処理装置をさらに備え、前記発信部は、前記中央処理装置からの前記パターンに基づいて、前記受信部に前記電磁波信号を発信してもよい。
前記属性データは、前記受信部の位置情報、および/または、前記受信部に接続された前記EC画素部の色情報を有してもよい。
前記受信部は、撮像装置によって識別される識別マークを有し、前記属性データは、前記識別マークに基づいてもよい。
前記識別マークは、数字、文字、バーコード、QRコード(登録商標)およびカラーマーカからなる群から選択されてもよい。
前記パターンは、パルスからなってもよい。
前記受信部は、少なくとも、太陽電池またはフォトダイオードを備えてもよい。
前記受信部は、第1のフォトダイオード、第2のフォトダイオード、集積回路、および、駆動電源を備え、前記第1のフォトダイオードおよび前記フォトダイオードは、極性が同じ向きとなるように前記集積回路に接続されており、前記電磁波信号を受信すると、前記電気信号に変換し、変換した前記電気信号を前記集積回路に送信し、前記集積回路は、前記駆動電源によって電源が供給されており、前記集積回路は、前記第1のフォトダイオードからの前記電気信号を受信すると、前記受信部と電気的に接続された前記EC画素部が着色するように電圧を印加し、前記集積回路は、前記第2のフォトダイオードからの前記電気信号を受信すると、前記受信部と電気的に接続された前記EC画素部が消色するように、極性を切り替えて電圧を印加してもよい。
前記受信部は、第1の太陽電池および第2の太陽電池を備え、前記第1の太陽電池および前記第2の太陽電池は、極性が逆向きとなるように接続されており、前記第1の太陽電池が前記電磁波信号を受信すると、前記第1の太陽電池は、前記電磁波信号を前記電気信号に変換するとともに、前記受信部と電気的に接続された前記EC画素部が消色するように電圧を印加し、前記第2の太陽電池が前記電磁波信号を受信すると、前記第2の太陽電池は、前記電磁波信号を前記電気信号に変換するとともに、前記受信部と電気的に接続された前記EC画素部が着色するように電圧を印加してもよい。
前記受信部は、第1の太陽電池、第2の太陽電池、集積回路、および、駆動電源を備え、前記第1の太陽電池および前記第2の太陽電池は、極性が同じ向きとなるように前記集積回路に接続されており、前記電磁波信号を受信すると、前記電気信号に変換し、変換した前記電気信号を前記集積回路に送信し、前記集積回路は、前記駆動電源によって電源が供給されており、前記集積回路は、前記第1の太陽電池からの前記電気信号を受信すると、前記受信部と電気的に接続された前記EC画素部が着色するように電圧を印加し、前記集積回路は、前記第2の太陽電池からの前記電気信号を受信すると、前記受信部と電気的に接続された前記EC画素部が消色するように、極性を切り替えて電圧を印加してもよい。
前記駆動電源は、第3の太陽電池と、二次電池または電気二重層キャパシタとの組み合わせ、または、一次電池であってもよい。
前記有機配位子は、ターピリジン基、フェナントロリン基、ビピリジン基、イミノ基およびこれらの誘導体からなる群から選択されてもよい。
前記金属イオンは、Pt、Cu、Ni、Pd、Ag、Mo、Fe、Co、Ru、Rh、Eu、ZnおよびMnからなる群から選択される金属イオンであってもよい。
前記有機/金属ハイブリッドポリマーは、一般式(I)、(II)および(III)からなる群から選択される一般式で表される有機/金属ハイブリッドポリマーであってもよい。
【化1】
前記式(I)において、Mは金属イオンを示し、Xはカウンターアニオンを示し、Rは、炭素原子および水素原子を含むスペーサまたは2つのターピリジン基を直接接続するスペーサを示し、R
1〜R
4は、それぞれ独立に水素原子または置換基を示し、nは重合度を示す2以上の整数であり、
前記式(II)において、M
1〜M
N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に酸化還元電位の異なる金属イオンを示し、X
1〜X
n(nは2以上の整数)は、それぞれ独立にカウンターアニオンを示し、R
1〜R
N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に炭素原子および水素原子を含むスペーサまたは2つのターピリジン基を直接接続するスペーサを示し、R
11〜R
1N、R
21〜R
2N、R
31〜R
3N、R
41〜R
4N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に水素原子または置換基を示し、n
1〜n
Nは、それぞれ独立に重合度を示す2以上の整数であり、
前記式(III)において、Mは金属イオンを示し、Xはカウンターアニオンを示し、Aは、炭素原子および水素原子を含むスペーサまたは2つのフェナントロリン基を直接接続するスペーサを示し、R
1〜R
4は、それぞれ独立に水素原子または置換基を示し、nは重合度を示す2以上の整数である。
前記EC画素部は、第1の電極と、前記第1の電極上に位置する前記エレクトロクロミック材料からなるエレクトロクロミック層、前記エレクトロクロミック層上に位置する電解質層と、前記電解質層上に位置する第2の電極とを備えてもよい。
前記第1の電極および前記第2の電極の少なくともいずれか一方は、透明導電膜であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のエレクトロクロミック(EC)表示システムは、電磁波信号を発信する発信部と電磁波信号によって動作する複数のエレクトロクロミック(EC)表示デバイスとを備え、複数のEC表示デバイスのそれぞれが、電磁波信号を受信し、電気信号に変換する受信部と、受信部と電気的に接続され、電気信号によって可逆的に色が変化するエレクトロクロミック(EC)画素部とを備える。さらに、複数のEC表示デバイスのそれぞれは、物理的に互いに独立している。受信部およびEC画素部を備えるEC表示デバイスのそれぞれが物理的に配線されていなくても、EC画素部は、受信部が電磁波信号を受信することによって駆動され、色を可逆的に変化する。その結果、本発明のEC表示システムにおいて、ユーザは、複数のEC表示デバイスを任意の数を自由に配置できるので、設計の自由度が各段に上がる。
【0008】
特に、EC画素部にエレクトロクロミック材料として有機/金属ハイブリッドポリマーを用いれば、消費電力が極めて小さいため、EC表示デバイスは、電磁波信号によって容易に駆動される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0011】
本発明のエレクトロクロミック(EC)表示システム100の構成および動作について説明する。
図1は、本発明のエレクトロクロミック(EC)表示システム(A)およびエレクトロクロミック(EC)表示デバイス(B)を模式的に示す図である。
【0012】
図1(A)に示されるように、本発明のEC表示システム100は、電磁波信号110を発信する発信部120と、電磁波信号110によって動作する複数のEC表示デバイス130とを備える。ここで、複数のEC表示デバイス130のそれぞれは、配線等によって接続されておらず、互いに独立している。なお、本願明細書において、電磁波信号とは、赤外線、可視光線および紫外線等の光、ならびに、光より周波数の低いマイクロ波、超短波等の電波を意図する。
【0013】
図1(B)に示されるように、複数のEC表示デバイス130のそれぞれは、電磁波信号110を受信し、電気信号に変換する受信部140と、受信部140と電気的に接続され、電気信号によって可逆的に色が変化するエレクトロクロミック(EC)画素部150とを備える。また受信部140は、少なくとも、太陽電池またはフォトダイオードを備える。これら太陽電池およびフォトダイオードは、電磁波信号110を受信して、電気信号に変えることができる。後述するように、電磁波信号110として光を選択した場合、発信部120にはレーザ、LEDなどの光源が使用される。電磁波信号110として光より周波数の低い電波を選択した場合、発信部120には対応する周波数の発振回路および電波に指向性を持たせて送信するアンテナを備える。また受信部140は電波を受信するためのアンテナおよび該アンテナを電気信号に変換する回路を備える。
【0014】
本発明によれば、光または電波を用いた電磁波信号110から受信部120で得られた電気信号によって可逆的に色が変化し、電力消費無しでその変化した着色・消色状態を維持できるエレクトロクロミック材料を用いたEC画素部150を採用するため、上述のような、複数のEC表示デバイス130が互いに独立したEC表示システム100を可能にする。このため、ユーザは、複数のEC表示デバイス130を、任意の数だけ追加・削減可能とし、自由に配置できるので、本発明のEC表示システム100を用いれば、設計の自由度を各段に上げることができる。
【0015】
EC画素部150は、上述したようにエレクトロクロミック材料を用いるが、好ましくは、有機配位子と、有機配位子に配位された金属イオンとからなる有機/金属ハイブリッドポリマーからなるエレクトロクロミック材料を含有する。このような有機/金属ハイブリッドポリマーは、消費電力が小さため、電磁波信号から変換された電気信号によって容易に着色・消色する。
【0016】
ここで、有機/金属ハイブリッドポリマーについて詳述する。有機配位子とは、金属イオンを配位でき、重合によって高分子化可能である有機化合物であれば、特に制限はないが、好ましくは、ターピリジン基、フェナントロリン基、ビピリジン基、イミノ基およびこれらの誘導体からなる群から選択される。これらの有機配位子が金属イオンと配位し、錯形成することによって、有機配位子と金属イオンとが交互に連結した状態となり有機/金属ハイブリッドポリマーを構成する。
【0017】
ターピリジン基は、代表的には、2,2’:6’,2”−ターピリジンであるが、これに、種々の置換基を有した誘導体であってもよい。例示的な置換基は、ハロゲン原子、炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、アミノ基、置換アミノ基、アミド基、置換アミド基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。炭化水素基としては、例えば、C
1〜C
10等の直鎖または分岐のアルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が例示でき、さらに置換基としてこれらの炭化水素基にメチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、塩素、臭素等のハロゲン原子等の置換基であるが、これに限らない。
【0018】
ビピリジン基は、2,2’−ビピリジン、3,3’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、2,3’−ビピリジン、2,4’−ビピリジン、3,4’−ビピリジンであるが、これに種々の置換基を有した誘導体であってもよい。ここでも例示的な置換基は、上述したとおりである。
【0019】
イミノ基は、C=Nを有し、これに種々の置換基を有した誘導体であり得る。例示的な誘導体は、上述したとおりである。
【0020】
フェナントロリン基は、フェナントレンのうちの任意の2つの炭素原子を窒素原子で置換されたものであるが、これに種々の置換基を有した誘導体であってもよい。例示的な置換基は、メチル基、t−ブチル基、フェニル基、チエニル基、ビチエニル基、ターチエニル基、フェニルアセチル基等であるが、これに限らない。
【0021】
金属イオンは、酸化還元反応によって価数を変化させる任意の金属イオンであり得るが、好ましくは、Pt、Cu、Ni、Pd、Ag、Mo、Fe、Co、Ru、Rh、Eu、ZnおよびMnからなる群から選択される金属イオンである。これらの金属イオンは、上述の有機配位子と配位する。より好ましくは、有機配位子が、ターピリジン基またはその誘導体である場合には、6配位の金属イオンが選択され、有機配位子がフェナントロリン基、ビピリジン基、イミノ基またはこれらの誘導体である場合には、4配位の金属イオンが選択される。
【0022】
有機/金属ハイブリッドポリマーは、好ましくは、一般式(I)、(II)および(III)からなる群から選択される一般式で表される。
【0024】
式(I)および式(II)で表される有機/金属ハイブリッドポリマーは、いずれも、有機配位子としてターピリジン基またはその誘導体とそれに配位された金属イオンとからなる。式(III)で表される有機/金属ハイブリッドポリマーは、有機配位子としてフェナントロリン基またはその誘導体とそれに配位された金属イオンとからなる。
【0025】
式(I)において、Mは金属イオンを示し、Xはカウンターアニオンを示し、Rは、炭素原子および水素原子を含むスペーサまたは2つのターピリジン基を直接接続するスペーサを示し、R
1〜R
4は、それぞれ独立に水素原子または置換基を示し、nは重合度を示す2以上の整数である。
【0026】
式(II)において、M
1〜M
N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に酸化還元電位の異なる金属イオンを示し、X
1〜X
n(nは2以上の整数)は、それぞれ独立にカウンターアニオンを示し、R
1〜R
N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に炭素原子および水素原子を含むスペーサまたは2つのターピリジン基を直接接続するスペーサを示し、R
11〜R
1N、R
21〜R
2N、R
31〜R
3N、R
41〜R
4N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に水素原子または置換基を示し、n
1〜n
Nは、それぞれ独立に重合度を示す2以上の整数である。
【0027】
ここで、式(I)および式(II)における金属イオンは、好ましくは、Fe、Co、Ni、ZnおよびRhからなる群から選択される金属イオンであり得る。これらの金属イオンは6配位であるので、有機配位子との錯形成を可能にする。
【0028】
式(I)および式(II)におけるカウンターアニオンは、酢酸イオン、リン酸イオン、塩素イオン、六フッ化リンイオン、四フッ化ホウ素イオン、および、ポリオキソメタレートからなる群から選択され得る。これらのカウンターアニオンによって、有機/金属ハイブリッドポリマーは電気的に中性となり安定化する。
【0029】
式(I)および式(II)におけるスペーサが炭素原子および水素原子を含むスペーサである場合、このようなスペーサは炭素原子および水素原子を含む二価の有機基であり得る。例示的には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基等が挙げられる。中でも、フェニレン基、ビフェニレン基などのアリーレン基が好ましい。また、これらの炭化水素基はメチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、塩素、臭素等のハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。また、このようなスペーサは、酸素原子や硫黄原子をさらに含んでいてもよい。酸素原子や硫黄原子は修飾能を有するので、有機/金属ハイブリッドポリマーの材料設計に有利である。
【0030】
二価のアリーレン基の中でも以下に示すアリーレン基が好ましい。これらであれは、有機/金属ハイブリッドポリマーが安定化する。
【0032】
スペーサを構成する脂肪族炭化水素基としては、例えば、C
1〜C
6等のアルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が例示でき、さらにスペーサを構成する二価の有機基としてこれらの基にメチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、塩素、臭素等のハロゲン原子等の置換基を有するものを用いてもよい。
【0033】
式(I)のR
1〜R
4および式(II)のR
11〜R
1N、R
21〜R
2N、R
3N〜R
3N、R
41〜R
4Nは、それぞれ独立に水素原子または置換基を示し、置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭化水素基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、アミノ基、置換アミノ基、アミド基、置換アミド基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。炭化水素基としては、例えば、C
1〜C
10等の直鎖または分岐のアルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が例示でき、さらに置換基としてこれらの炭化水素基にメチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、塩素、臭素等のハロゲン原子等の置換基を有するものを用いてもよい。
【0034】
式(I)において、nは重合度を示す2以上の整数であり、例えば2〜5000、好ましくは10〜1000である。式(II)において、n
1〜n
Nは、それぞれ独立に重合度を示す2以上の整数であり、その合計n
1+n
2・・・+n
Nは、例えば2〜5000、好ましくは10〜1000である。
【0035】
式(III)において、Mは金属イオンを示し、Xはカウンターアニオンを示し、Aは、炭素原子および水素原子を含むスペーサまたは2つのフェナントロリン基を直接接続するスペーサを示し、R
1〜R
4は、それぞれ独立に水素原子または置換基を示し、nは重合度を示す2以上の整数である。
【0036】
ここで、式(III)における金属イオンは、Pt、Cu、Ni、AgおよびPdからなる群から選択される金属イオンであり得る。これらの金属イオンは4配位であるので、有機配位子との錯形成を可能にする。式(III)におけるカウンターアニオンは、過塩素酸イオン、トリフラートイオン、四フッ化ホウ素イオン、塩化物イオンおよび六フッ化リン酸イオンからなる群から選択され得る。これらのカウンターアニオンによって、有機/金属ハイブリッドポリマーは電気的に中性となり安定化する。
【0037】
式(III)におけるスペーサが炭素原子および水素原子を含むスペーサである場合、スペーサは、以下に示すように、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、チエニル基、ビチエニル基、ターチエニル基が代表例として挙げられる。また、ビス(フェナントロリン)誘導体の溶解性を高めるために、アルキル基(炭素数1から16)やアルコキシ基(炭素数1から16)で修飾したスペーサを用いることも望ましい。さらに、ジオキソアルキル基(炭素数2から16)でフェニル基間が連結されたスペーサを用いることもできる。
【0039】
式(III)におけるR
1およびR
2は、以下に示すように、水素、メチル基、t−ブチル基、フェニル基、チエニル基、ビチエニル基、ターチエニル基が挙げられる。式(III)におけるR
3およびR
4は、水素、フェニル基、フェニルアセチル基が挙げられる。
【0041】
式(III)において、nは重合度を示す2以上の整数であり、例えば2〜5000、好ましくは10〜1000である。
【0042】
有機/金属ハイブリッドポリマーは、金属イオンから有機配位子への電荷移動吸収に基づき呈色を示す。電気化学的に酸化されると発色が消えた消色状態となり、電気化学的に還元されると発色状態となる。この現象は繰り返し起こすことが可能である。したがって、低消費電力のエレクトロクロミック材料として機能する。なお、上述した有機/金属ハイブリッドポリマーは、例えば、特許文献1および特許文献2を参照して製造できる。
【0043】
また、有機/金属ハイブリッドポリマーはさらにイオン液体を含有してもよい。ここで、イオン液体は、上述の有機/金属ハイブリッドポリマーとイオン結合を形成し、複合体となり得る。複合体とすることにより、隣り合う電解質層230からのカウンターアニオンを複合体内に保持できるので、早い応答特性を達成できる。
【0044】
このようなイオン液体は、有機/金属ハイブリッドポリマーがイオン結合を形成する任意のイオン液体が採用されるが、具体的には、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、および、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)イミドからなる群から選択されるアニオンと、イミダゾリウム、ピロリジニウム、および、テトラアルキルアンモニウムからなる群から選択されるカチオンとの組み合わせである。
【0045】
より好ましくは、イオン液体は、室温以下の融点を有する。これにより、エレクトロクロミックデバイスの製造における、高分子のゲル化を促進する。さらに好ましくは、イオン液体は、0℃以下の融点を有する。これにより、イオン液体は確実に室温で液体となるので、エレクトロクロミックデバイスの製造において、有利となる。なお、本明細書では、室温を0℃より高く50℃以下の温度範囲を意図する。
【0046】
より好ましくは、イオン液体は、少なくとも−1V vs Ag/Ag
+以下の負電位から+2V vs Ag/Ag
+以上正電位までの範囲の電位窓を有する。さらに好ましくは、イオン液体は、−3V以下の負電位から+3V以上の正電位までの範囲の電位窓を有する。これにより、イオン液体の電気化学的な安定性がさらに高まるため、エレクトロクロミックデバイスの耐久性をさらに向上できる。
【0047】
再度
図1を参照する。発信部120は、指向性を有する電磁波源を備える。指向性を有する電磁波源を用いることにより、所望の受信部140に電磁波信号110を照射し、確実に所望のEC画素部150の着色・消色を可能にする。
【0048】
電磁波源は、好ましくは、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ(LD)、ライトペン、懐中電灯、アンテナを備えた電波源、および、プロジェクタからなる群から選択される。これらは指向性を有しており、汎用性もあるため、本発明のEC表示システムを構築しやすい。なお、分かりやすさのために、以降では、LED、LD、ライトペン、懐中電灯の光を発するものについては、光源と称する場合がある。
【0049】
発信部120は、電磁波信号110の発信方向を手動にて操作する手動型であってもよいし、電磁波信号110の発信方向を機械的に操作する機械駆動型であってもよいし、電磁波信号110を投影して発信するプロジェクタ型であってもよい。
【0050】
発信部120が手動型である場合、ユーザがライトペンや懐中電灯等に代表される光源である発信部120を手で持って操作できるので、簡便である。発信部120が機械駆動型である場合、例えば、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ(LD)、ライトペンおよび懐中電灯等の光源、あるいは、アンテナを備えた電波源等に代表される電磁波源をアクチュエータ等に接続して機械的に駆動させることができる。特に、PCなどの中央処理装置(例えば、
図2の210)からアクチュエータに指示を出すようにすれば、プログラミングによる機械制御も可能となる。発信部120がプロジェクタ型である場合、所望の絵柄やパターンを表示するよう、複数の受信部140に一度に電磁波信号110を照射することができる。
【0051】
図2は、本発明の別のEC表示システムを模式的に示す図である。
【0052】
図2に示されるように、本発明の別のEC表示システム200は、
図1の本発明のEC表示システム100において、発信部120が機械駆動型またはプロジェクタ型であり、発信部120に接続された中央処理装置210を備える点が異なる。
図1と同様の要素の説明を省略する。
【0053】
中央処理装置210は、上述したように、発信部120の動作を制御する情報を有し得る。詳細には、中央処理装置210は、複数のEC表示デバイス130のそれぞれが有する受信部140の属性を示す属性データを格納する。ここで、受信部140の属性は、好ましくは、受信部140それぞれの位置情報、および/または、受信部140に接続されたEC画素部150の色情報を有するが、それ以外の情報を含んでもよい。中央処理装置210は、上述の属性データに基づいて、受信部140を照射すべきパターンを作成でき、作成されたパターンに基づいて、発信部120は、所望の受信部140に電磁波信号110を発信する。
【0054】
さらに、受信部140は、デジタルカメラ等の撮像装置によって識別される識別マークを有していてもよい。識別マークは、例示的には、数字、文字、バーコード、QRコード(登録商標)およびカラーマークからなる群から選択され、中央処理装置210において処理される。処理には、画像認識ソフトなどを使用すればよい。このような識別マークを受信部140のそれぞれに付しておけば、容易に位置情報および/または色情報を得ることができ、このような識別マークに基づいて、上述の属性データが形成される。
【0055】
中央処理装置210が作成するパターンは、描きたい画像や文字情報を含む。例えば、発信部120が機械駆動型である場合には、パターンに基づいて、複数の受信部140のうち所定の受信部を所定の順番で照射することができる。例えば、発信部120がプロジェクタ型である場合には、パターンに基づいて、複数の受信部140のうち所定の受信部を一度に照射し、一度に描きたい画像や文字を表示することができる。
【0056】
パターンは、上述の描きたい画像や文字情報を含んだパルスであってもよい。例えば、EC画素部150のそれぞれが、R(赤)、G(緑)およびB(青)の3つの色を有する場合、パルス幅やパルス周期やパルス強度等を変調させることによって、パルスパターンとR、GおよBとを対応づけることができる。受信部140に設置した電子回路によってパルスパターンを読み取り、EC画素部150の所定の色のみを表示することもできる。ここでは、RGBの3色の例を示したが、これに限らない。EC画素部150はエレクトロクロミック材料を使用するため、種々の発色を可能にする。
【0057】
図3は、EC画素部を示す模式図である。
【0058】
EC画素部150は、第1の電極310と、第1の電極310上に位置するエレクトロクロミック材料からなるエレクトロクロミック層320と、エレクトロクロミック層320上に位置する電解質層330と、電解質層330上に位置する第2の電極340とを備える。
【0059】
第1の電極310および第2の電極340の少なくともいずれか一方は、透明電極であり、これによりエレクトロクロミック層320の発色を可能にする。電極材料として、SnO
2膜、In
2O
3膜またはIn
2O
3とSnO
2との混合物であるITO膜が好ましい。また、これら第1の電極210および第2の電極340は、任意の物理的気相成長法または化学的気相成長法によって、上述の透明電極材料をプラスチック等の樹脂基板、ガラス基板等の透明基板上に形成することによって得られる。
【0060】
エレクトロクロミック層320は、低消費電力であるエレクトロクロミック材料であれば特に制限はないが、好ましくは、上述した有機/金属ハイブリッドポリマーからなるエレクトロクロミック材料である。
【0061】
電解質層330は、エレクトロクロミック層320における金属イオンの酸化還元反応に伴う価数の変化に対し、その電荷を補償する機能を有する。このような電解質層330は、少なくとも、高分子および支持塩を含有する。高分子および支持塩によって上記の電荷補償の機能を達成する。
【0062】
高分子は、好ましくは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ(ビニリデンフルオライド−co−ヘキサフルオロイソプロピル)(PVdF−co−PHFP)、ポリプロピレンカーボネート(PPC)、ポリカーボネート、および、ポリアクリロニトリルからなる群から選択される。これらの高分子はゲル電解質層の構成に有利である。
【0063】
支持塩は、好ましくは、LiClO
4、LiBF
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3COO、リチウムビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(LiTFSI)、LiCH
3COO、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、KCl、NaClO
3、NaCl、NaBF
4、NaSCN、KBF
4、Mg(ClO
4)
2およびMg(BF
4)
2からなる群から選択される。これらの支持塩は、有機/金属ハイブリッドポリマーのカウンターアニオンとして効果的に機能する。
【0064】
好ましくは、電解質層330は、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチレン、γ−ブチロラクトン、スクシノニトリル、および、イオン液体からなる群から選択される可塑剤を含有する。可塑剤としてのイオン液体は、上述したイオン液体と同様のイオン液体を採用できるため、説明を省略する。例えば、上述の高分子および支持塩を脱水溶媒(後述する)に溶解させ、キャストしたのちに溶媒を除去すれば、高分子、可塑剤、および、支持塩が均一に分散して存在したゲル電解質層を構成できるので、エレクトロクロミックデバイス特性の向上と安定化につながる。
【0065】
また電解質層330は、ビオロゲン、N,N,N’,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミンおよび有機金属錯体からなる群から選択されるイオン蓄積材料をさらに含有してもよい。これにより、第1の電極310とエレクトロクロミック層320との間に電荷が蓄積することを抑制できるので、電荷の蓄積によって生じる第1の電極310の物理的な損傷を抑制することができる。例示的な有機金属錯体は、フェロセン、プルシアンブルー、ポルフィリン等である。なお、エレクトロクロミック層320に含有される有機/金属ハイブリッドポリマーも電荷の蓄積を抑制できるが、上述のイオン蓄積材料をさらに含有すれば、第1の電極310およびそれを備えた基板の損傷をより効果的に防ぐことができる。
【0066】
EC画素部150は、例示的には次のようにして製造される。
【0067】
第1の電極310(
図3)上に上述した有機/金属ハイブリッドポリマーを含有する材料を付与し、エレクトロクロミック層320(
図3)を形成する。付与は、第1の電極310上にエレクトロクロミック層320が形成される限り手段は問わないが、材料が液状である場合には、塗布、浸漬、スプレー等の手段である。なお、上述の有機/金属ハイブリッドポリマーは、メタノール、エタノール、2−プロパノール等の溶媒に溶解させてもよい。
【0068】
次いで、エレクトロクロミック層320上に電解質物質を付与し、電解質層330(
図3)を形成する。電解質層330の形成は、上述した電解質層330を構成する電解質物質(高分子、支持塩、イオン液体等を任意に含有する)をエレクトロクロミック層320上に付与すればよいが、付与は、塗布、浸漬、スプレー、電解重合等の手段を用いることができる。
【0069】
電解質物質は、好ましくは、脱水溶媒を含有する。これにより、電解質物質の塗布を容易にするだけでなく、電解質層330を構成する上述の高分子(ポリマーマトリクス)の結晶化が抑制され、応答速度の低下を防ぐことができる。脱水溶媒は、好ましくは、アセトニトリル、アセトン、および、テトラヒドロフランからなる群から選択される溶媒であり、脱水されているものがさらに好ましい。
【0070】
電解質層330、第2の電極340(
図3)とを合わせて、第1の電極310、エレクトロクロミック層320、電解質層330および第2の電極340からなる構造体を形成する。合わせるステップは、接触させ、押し付けるだけでよい。
【0071】
次いで、構造体を熱処理し、構造体中の不要な溶媒(例えば、実施例で使用するアセトニトリル)を除去する。これにより、応答速度、コントラスト、繰り返し駆動安定性(耐久性)を向上できる。
【0072】
次に、EC表示デバイス130をより具体的に説明する。
図4は、本発明のEC表示デバイスを模式的に示す図である。
【0073】
図4は、受信部140に太陽電池を用いたEC表示デバイス400を示す。受信部140は、第1の太陽電池410と、第1の太陽電池410と極性が逆向きとなるように接続された第2の太陽電池420とを備える。受信部140は、いずれかの太陽電池とEC画素部150とが接続するようスイッチ430をさらに備える。
【0074】
このようなEC表示デバイス400の動作を説明する。
スイッチ430が第1の太陽電池410に接続され、第1の太陽電池410が電磁波信号110を受信すると、電磁波信号110を電気信号に変換し、第1の太陽電池410は、受信部140と電気的に接続されたEC画素部150に電圧(ここでは、正のVaの電圧)を印加する。これにより、EC画素部150のエレクトロクロミック層は酸化反応により消色する。
【0075】
スイッチ430が第2の太陽電池420に接続され、第2の太陽電池420が電磁波信号110を受信すると、電磁波信号110を電気信号に変換し、第2の太陽電池420は、受信部140と電気的に接続されたEC画素部150に逆の電圧(ここでは、負のVaの電圧)を印加する。これにより、EC画素部150のエレクトロクロミック層は還元反応により着色する。
【0076】
なお、EC表示デバイス400において、スイッチ430の切り替えは、例えば、手動の切り替えスイッチによって行うことができるが、第1の太陽電池410および第2の太陽電池420のどちらか一方にしか電磁波信号110が照射されない場合は、スイッチ430を省略して、反対向きに並列接続した第1の太陽電池410および第2の太陽電池420を直接EC画素部150に接続することができる。この時、電磁波信号110は発信部120に例えば半導体レーザ(LD)のような十分指向性が高く、照射スポットが第1の太陽電池410と第2の太陽電池420との両方にまたがらないものを用いることが好ましい。
【0077】
図5は、本発明の別のEC表示デバイスを模式的に示す図である。
【0078】
図5は、受信部140に太陽電池を用いた別のEC表示デバイス500を示す。受信部140は、第1の太陽電池410と、第2の太陽電池420と、集積回路510と、駆動電源520とを備える。
【0079】
第1の太陽電池410と第2の太陽電池420は、極性が同じとなるように集積回路510に接続されており、それぞれ、電磁波信号110を受信すると、電気信号に変換し、それを集積回路510に送信する。
図5では、第1の太陽電池410および第2の太陽電池420は、それぞれ、集積回路510の入力IN1および入力IN2に接続されている。集積回路510は、受信した電気信号に応じて、出力を切り替え、出力OUT1およびOUT2を介してEC画素部150に電圧を印加する。駆動電源520は、集積回路510に電力を供給する。ここでは、駆動電源520は、集積回路510にVccの電源を供給している。
【0080】
駆動電源520は、電力供給できる構成であれば特に問わないが、例示的には、第3の太陽電池530と、電気二重層キャパシタまたは二次電池540とを備える。これにより、自然光や人工光を受光した第3の太陽電池530は、継続的に発電を行い、電力を電気二重層キャパシタまたは二次電池540に蓄えることができる。電気二重層キャパシタまたは二次電池540は、EC画素部150の消色または着色時にのみ給電を行う。なお、駆動電源520は、第3の太陽電池530と、電気二重層キャパシタまたは二次電池540との組み合わせに代えて、一次電池を備えていてもよい。
【0081】
このようなEC表示デバイス500の動作を説明する。
第1の太陽電池410が電磁波信号110を受信すると、電磁波信号110を電気信号に変換し、駆動電源520からの給電により集積回路510の入力IN1を電圧Highにする。その結果、受信部140と電気的に接続されたEC画素部150に電圧(ここでは、集積回路510の出力OUT1の電圧がHighである)を印加する。これにより、EC画素部150のエレクトロクロミック層は還元反応により着色する。
【0082】
第2の太陽電池420が電磁波信号110を受信すると、電磁波信号110を電気信号に変換し、駆動電源520からの給電により集積回路510の入力IN2を電圧Highにする。その結果、受信部140と電気的に接続されたEC画素部150に逆の電圧(ここでは、集積回路510の出力OUT2の電圧がHighである)を印加する。これにより、EC画素部150のエレクトロクロミック層は酸化反応により消色する。
【0083】
図6は、本発明のさらに別のEC表示デバイスを模式的に示す図である。
【0084】
図6は、受信部140にフォトダイオードを用いた別のEC表示デバイス600を示す。受信部140は、第1のフォトダイオード610と、第2のフォトダイオード620と、集積回路510と、駆動電源520とを備える。EC表示デバイス600は、EC表示デバイス500において第1の太陽電池410および第2の太陽電池420に代えて、第1のフォトダイオード610および第2のフォトダイオード620を用いた以外は、EC表示デバイス500と同様である。
図6では、第1のフォトダイオード610および第2のフォトダイオード620は、それぞれ、フォトダイオードが並列に接続した並列アレイを示すが、直列に接続した直列アレイであってもよい。
【0085】
EC表示デバイス600の動作は、
図5のEC表示デバイス500と同様であるため省略する。
【0086】
図4〜
図6において、具体的な本発明のEC表示デバイスを示したが、EC表示デバイスは、電磁波信号を受信し、電気信号に変換する受信部と、受信部と電気的に接続され、電気信号によって可逆的に色が変化するEC画素部とを備えていれば特に制限はなく、本発明のEC表示システムを実現できる。
【0087】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0088】
[材料]
以降の参考例および実施例で用いた材料について説明する。なお、すべての材料は特級試薬であり、精製することなく用いた。ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA、重量平均分子量=350kg/mol)、および、インジウムスズ酸化物(ITO)でコートされたガラス基板(ITOの厚さは、0.1μmであった。以降では簡単のため、ITO基板と称する。抵抗率=8〜12Ω/cm
2)を、Sigma−Aldrich Co.LLC.から購入した。
【0089】
メタノール(MeOH)、アセトニトリル(ACN)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスフォニル)イミド(以降では簡単のため、BMP−TFSIと称する)を、和光純薬工業株式会社より購入した。
【0090】
過塩素酸リチウム(LiClO
4)を関東化学株式会社から購入した。
【0091】
有機/金属ハイブリッドポリマーとして式(A)で示される高分子材料を用いた。高分子材料は、特許文献1あるいはF.S.HanらのJ.Am.Chem.Soc.,2008,130(6),pp2073−2081を参照し、株式会社ナード研究所が製造した。以降では、簡単のため、有機/金属ハイブリッドポリマーをpolyFeと称する。
【0092】
【化6】
【0093】
[参考例1]
図7は、参考例1におけるEC画素1を模式的に示す図である。
【0094】
参考例1は、EC画素部150として、第1の電極310としてITO基板、エレクトロクロミック層320としてpolyFe、電解質層330としてBMP−TFSIとLiClO
4とPMMAとを含有する電解質物質、第2の電極340としてITO基板を用いたEC画素1(3mm×3mm)を製造した。
【0095】
EC画素1は次のようにして製造した。ITO基板(厚さ0.1μmのITO膜を有する厚さ1〜3mmのガラス基板)上に、polyFeを付与し、エレクトロクロミック層320を形成した。polyFeを含有する溶液は、polyFe(4mg)をMeOH(1mL)に溶解し、シリンジフィルタ(ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、0.45μm)でろ過し、不溶残渣を除去することによって調製した。得られたpolyFeを含有する溶液(4mL)は、スプレーコート法によりITO基板(3×3cm)上に付与された。エレクトロクロミック層320の厚さは、0.2〜0.3μmであった。
【0096】
エレクトロクロミック層320上に電解質物質を付与し、電解質層330を形成した。イオン液体としてBMP−TFSIと、支持塩としてLiClO
4とを、脱水溶媒としてACNに溶解し、高分子としてPMMAを添加して、PMMAが完全に溶解するまで激しく撹拌し、電解質物質を得た。このようにして得られた電解質物質は、無色、透明な半ゲル状の粘性の液体であった。なお、PMMAとLiClO
4とBMP−TFSIとACNとの重量比は、7:3:20:70であった。得られた電解質物質をエレクトロクロミック層320上にドロップキャスト法により滴下し、電解質層330を形成した。電解質層330の厚さは、0.1〜1.0mmの範囲であった。
【0097】
電解質層330に第2の電極340を合わせて、ITO基板、polyFe膜、電解質層およびITO基板からなる構造体を得た。構造体を室温で24時間放置し、不溶な溶媒を除去した。次に、構造体を、100℃,3時間@相対湿度40%の条件で加熱処理を行い、不要な溶媒を除去した。熱処理は、真空オーブン(EYELA、VOS−201SD)を用いて行った。このようにしてEC画素部150としてEC画素1を製造した。
【0098】
得られたEC画素1の着色時および消色時の電流密度の時間変化を、電気化学アナライザ(BAS Inc.、ALS/CH Instruments Electrochemical Analyzer model 612B)により測定した。結果を
図8に示す。
【0099】
図8は、参考例1におけるEC画素1の消色時の電流密度の時間変化(A)および着色時の電流密度の時間変化(B)を示す図である。
【0100】
図8(A)によれば、EC画素1は、印加電圧Va=3Vにおいて、電気量0.0573mC(単位面積当たりの電気量:0.637mC/cm
2)で消色した。
図8(B)によれば、EC画素1は、印加電圧Va=−3Vにおいて、電気量0.109mC(単位面積当たりの電気量:1.21mC/cm
2)で着色した。
【0101】
[参考例2]
図9は、参考例2におけるEC画素2を模式的に示す図である。
【0102】
参考例2は、EC画素部150として、第1の電極310としてITO基板、エレクトロクロミック層320としてpolyFe、電解質層330としてBMP−TFSIとLiClO
4とPMMAとを含有する電解質物質、第2の電極340としてITO基板を用いたEC画素2(100mm×100mm)を製造した。エレクトロクロミック層の大きさを変えた以外は、参考例1と同様であるため、説明を省略する。参考例1と同様に、EC画素2の着色時および消色時の電流密度の時間変化を測定した。結果を
図10に示す。
【0103】
図10は、参考例2におけるEC画素2の消色時の電流密度の時間変化(A)および着色時の電流密度の時間変化(B)を示す図である。
【0104】
図10(A)によれば、EC画素2は、印加電圧Va=3Vにおいて、電気量221.8mC(単位面積当たりの電気量:2.22mC/cm
2)で消色した。
図10(B)によれば、EC画素2は、印加電圧Va=−3Vにおいて、電気量181.9mC(単位面積当たりの電気量:1.82mC/cm
2)で着色した。
【0105】
[参考例3]
参考例3は、EC画素部150として、第1の電極310としてITO基板、エレクトロクロミック層320としてpolyFe、電解質層330としてBMP−TFSIとLiClO
4とPMMAとを含有する電解質物質、第2の電極340としてITO基板を用いたEC画素3(20mm×60mm)を製造した。エレクトロクロミック層の大きさを変えた以外は、参考例1と同様であるため、説明を省略する。参考例1と同様に、EC画素3の着色時および消色時の電流密度の時間変化を測定した。印加電圧Va=3Vにおいて、電気量16.8mC(単位面積当たりの電気量:1.4mC/cm
2)で消色し、印加電圧Va=−3Vにおいて、電気量20.4mC(単位面積当たりの電気量:1.7mC/cm
2)で着色した。
【0106】
[実施例1]
実施例1は、
図4に示すEC表示デバイスと発信部とを備えた本発明のEC表示システムを構築した。
【0107】
発信部120として、手動にて操作する白色LED懐中電灯を用いた。白色LED懐中電灯は、パワー密度19mW/cm
2@波長550nmであり、照度49klxを有した。
【0108】
EC表示デバイス400(
図4)のEC画素部150(
図4)として、参考例1のEC画素1を用いた。受信部140(
図4)は、第1の太陽電池410(
図4)および第2の太陽電池420(
図4)としてパナソニック製太陽電池型番AM5815を用いた。AM5815は、パワー密度100mW/cm
2AM−1.5(25℃)において、最適動作電圧Vope=4.5V、最適動作電流Iope=2.5mAを有した。
【0109】
白色LED懐中電灯を手に持ち、受信部140との距離を30cmに保持し、第1の太陽電池410とスイッチ430(
図4)とを接続し、第1の太陽電池410に照射し、消色時間を調べた。次に、第2の太陽電池420とスイッチ430とを接続し、第2の太陽電池420に照射し、着色時間を調べた。結果を表2に示す。
【0110】
[実施例2]
実施例2は、
図4に示すEC表示デバイスと発信部とを備えた本発明のEC表示システムを構築した。実施例2では、発信部120として、実施例1の白色LED懐中電灯に代えて、超小型白色LEDライトを用いた以外は、実施例1と同様であった。超小型白色LEDライトは、パワー密度1.6mW/cm
2@波長550nmであり、照度0.1klxを有した。
【0111】
超小型白色LEDライトを手に持ち、受信部140との距離を10cmに保持し、第1の太陽電池410とスイッチ430とを接続し、第1の太陽電池410に照射し、消色時間を調べた。次に、第2の太陽電池420とスイッチ430とを接続し、第2の太陽電池420に照射し、着色時間を調べた。結果を表2に示す。
【0112】
[実施例3]
実施例3は、
図4に示すEC表示デバイスと発信部とを備えた本発明のEC表示システムを構築した。実施例3は、EC画素部150として、実施例2のEC画素1に代えて、参考例2のEC画素2を用いた以外は、実施例2と同様であった。実施例2と同様にして、消色時間および着色時間を調べた。結果を表2に示す。
【0113】
[実施例4]
実施例4は、
図5に示すEC表示デバイスと発信部とを備えた本発明のEC表示システムを構築した。
【0114】
発信部120として、手動にて操作する超小型白色LEDライトを用いた。EC表示デバイス500(
図5)のEC画素部150(
図5)として、参考例1のEC画素1を用いた。受信部140(
図5)は、第1の太陽電池410(
図5)および第2の太陽電池420(
図5)としてパナソニック製太陽電池型番AM5815を用い、集積回路510としてTI製型番DRV8832を用い、第3の太陽電池530としてパナソニック製太陽電池型番AM5613を用い、電気二重層キャパシタまたは二次電池540として、電気二重層キャパシタ(SII製型番CPZ10080C104F、3.3V)およびリチウムポリマー二次電池(Shenzhen Lefengtong Electronics Co.,Ltd.製型番501417、3.7V、70mAh)をそれぞれ用いた。AM5613は、パワー密度100mW/cm
2AM−1.5(25℃)において、最適動作電圧Vope=3.3V、最適動作電流Iope=31.6mAを有した。DRV8832は、極性を切り替えるHブリッジドライバを搭載しており、Vcc=2.75V〜6Vの範囲で駆動した。実施例2と同様にして、消色および着色を調べたところ、LEDライトの照射によって、消・着色することを確認した。
【0115】
[実施例5]
実施例5は、
図4に示すEC表示デバイスと発信部とを備えた本発明のEC表示システムを構築した。実施例5では、発信部120として、実施例1の白色LED懐中電灯に代えて、プロジェクタ(エプソン製型番EB−2265U)を用いた以外は、実施例1と同様であった。プロジェクタは、明るさ5,500lm、および、解像度WUXGA(1920×1200)を有した。
【0116】
プロジェクタを設置し、受信部140との距離を1.8mに保持し、第1の太陽電池410とスイッチ430とを接続し、第1の太陽電池410に照射し、消色時間を調べた。次に、第2の太陽電池420とスイッチ430とを接続し、第2の太陽電池420に照射し、着色時間を調べた。結果を表2に示す。
【0117】
[実施例6]
実施例6は、
図4に示すEC表示デバイスと発信部とを備えた本発明のEC表示システムを構築した。実施例6では、EC画素部150として、実施例5のEC画素1に代えて、参考例3のEC画素3を用いた以外は、実施例5と同様であった。実施例5と同様にして、消色時間および着色時間を調べた。結果を表2に示す。
【0118】
簡単のため、以上の実施例1〜6のEC表示システムの詳細と、消色時間および着色時間とを、それぞれ、表1および表2に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
表2に示されるように、いずれの実施例においても、発信部と、EC表示デバイスとを備えたEC表示システムは、発信部からの電磁波信号を照射するだけで、EC表示デバイスが有するEC画素部の着色および消色を制御できることが示された。実施例では単一のEC表示デバイスを有するEC表示システムについてのみ実施したが、これを複数のEC表示デバイスに拡張しても、同様の原理で実施され、各EC表示デバイス間に配線が不要となることは当業者であれば容易に理解する。