(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、対象者の頸部において集音される咽喉音は、嚥下音であるとは限られず、例えば咀嚼、発話等によるノイズである場合もある。咽喉音が嚥下音であるかノイズであるかを正確に区別することは容易ではない。
【0006】
そこで、本発明は、咽喉音が嚥下音であるか否かを精度良く判定することができる嚥下音判定装置及び嚥下音判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の事実を新たに見出した。すなわち、対象者の咽喉部において生成された咽喉音が、対象者の頸部における互いに異なる2箇所の部位で集音され、それぞれ音響信号として取得された場合、これらの音響信号の相互相関値は、咽喉音が嚥下音であるときと咽喉音以外のノイズであるときとで互いに異なる傾向を示す。
【0008】
かかる事実を踏まえ、本発明に係る嚥下音判定装置は、対象者の咽喉部において生成された咽喉音が対象者の嚥下による嚥下音であるか否かを判定する嚥下音判定装置であって、対象者の頸部の第1部位において集音された咽喉音を第1音響信号として取得する第1信号取得部と、対象者の頸部の第1部位とは異なる第2部位において集音された咽喉音を第2音響信号として取得する第2信号取得部と、第1信号取得部により取得された第1音響信号と第2信号取得部により取得された第2音響信号との相互相関値を算出する算出部と、算出部により算出された相互相関値に基づいて、咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する判定部と、判定部による判定結果を出力する出力部と、を備える。
【0009】
この嚥下音判定装置によれば、対象者の頸部の第1部位において集音された咽喉音が信号として取得された第1音響信号と、対象者の頸部の第2部位において集音された当該咽喉音が信号として取得された第2音響信号と、の相互相関値が算出される。咽喉音が嚥下音である場合と咽喉音以外のノイズである場合とでは、算出された相互相関値は互いに異なる傾向を示す。そこで、この装置は、算出された相互相関値に基づいて当該咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する。よって、この装置は、咽喉音が嚥下音であるか否かを精度良く判定することができる。
【0010】
本発明に係る嚥下音判定装置では、算出部は、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、互いに異なる遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を取得し、複数の遅延音響信号のそれぞれと第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方とに基づいて相互相関をそれぞれ算出し、複数の相互相関のうちの最大値、又は、複数の相互相関の平均値を相互相関値として用いてもよい。これによれば、この装置は、咽喉音の生成位置と第1部位との距離と、咽喉音の生成位置と第2部位との距離と、に差があることの影響を効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明に係る嚥下音判定装置では、算出部は、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、所定の遅延時間だけ遅延させた遅延音響信号を取得し、遅延音響信号と第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方とに基づいて相互相関を算出し、相互相関を相互相関値として用いてもよい。これによれば、この装置は、咽喉音の生成位置と第1部位との距離と、咽喉音の生成位置と第2部位との距離と、に差があることの影響を簡便な処理により抑制することができる。
【0012】
本発明に係る嚥下音判定装置では、判定部は、相互相関値に基づいて、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定し、咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音であると判定し、咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音でないと判定してもよい。咽喉音が嚥下音である場合、対象者による嚥下の動作の段階によって(すなわち、対象者が嚥下しようとしている嚥下対象物の咽喉部における位置によって)、咽喉音の生成位置が経時的に変化する。咽喉音の生成位置が経時的に変化すると、咽喉音の生成位置と第1部位との位置関係、及び、咽喉音の生成部位と第2部位との位置関係が経時的に変化するため、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値は比較的小さくなる傾向を示す。一方、咽喉音が嚥下音以外のノイズである場合、対象者による嚥下の動作の段階によって、咽喉音の生成位置が経時的に変化しない。咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと、咽喉音の生成位置と第1部位との位置関係、及び、咽喉音の生成部位と第2部位との位置関係が経時的に変化しないため、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値は比較的大きくなる傾向を示す。そこで、この装置は、相互相関値に基づいて咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音であると判定し、一方、相互相関値に基づいて咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音でないと判定する。よって、この装置は、咽喉音が嚥下音であるか否かを精度良く判定することができる。
【0013】
本発明に係る嚥下音判定装置では、判定部は、相互相関値と予め設定された閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定してもよい。これによれば、相互相関値との比較対象として予め設定された閾値が用いられるため、この装置は、咽喉音が嚥下音であるか否かを簡便な処理により判定することができる。
【0014】
本発明に係る嚥下音判定装置では、判定部は、相互相関値を含む複数の特徴量を用いた機械学習により咽喉音が嚥下音であるか否かを識別するモデルを学習し、当該モデルに基づいて咽喉音が嚥下音であるか否かを判定してもよい。これによれば、相互相関値のみならず他の特徴量も用いた機械学習により咽喉音が嚥下音であるか否かが総合的に判定されるため、この装置は、咽喉音が嚥下音であるか否かをより精度良く判定することができる。
【0015】
本発明に係る嚥下音判定装置では、第1信号取得部は、第1部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第1音響信号として抽出し、第2信号取得部は、第2部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第2音響信号として抽出してもよい。これによれば、咽喉音を含む全区間に亘って取得された音響信号のうちから咽喉音に対応する区間の音響信号を手動で抽出する必要がないため、この装置は、処理の自動化を図ることができる。
【0016】
本発明に係る嚥下音判定装置は、判定部により嚥下音であると判定された咽喉音の数を計数する計数部を備えてもよい。これによれば、この装置は、例えば対象者の嚥下機能の状態を把握するための検査等の自動化を図ることができる。
【0017】
本発明に係る嚥下音判定装置では、第1部位は、対象者の頸部の側面において中咽頭部に対応する部位であり、第2部位は、対象者の頸部の側面において下咽頭部に対応する部位であってもよい。これによれば、この装置は、第1音響信号及び第2音響信号をより確実に取得することができるため、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値をより適切に算出することが可能となる。よって、この装置は、咽喉音が嚥下音であるか否かをより精度良く判定することができる。
【0018】
本発明に係る嚥下音判定方法は、対象者の咽喉部において生成された咽喉音が対象者の嚥下による嚥下音であるか否かを判定する嚥下音判定方法であって、対象者の頸部の第1部位において集音された咽喉音を第1音響信号として取得すると共に、対象者の頸部の第1部位とは異なる第2部位において集音された咽喉音を第2音響信号として取得する信号取得ステップと、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値を算出する算出ステップと、相互相関値に基づいて、咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する判定ステップと、判定ステップにおける判定結果を出力する出力ステップと、を備える。
【0019】
この嚥下音判定方法によれば、対象者の頸部の第1部位において集音された咽喉音が信号として取得された第1音響信号と、対象者の頸部の第2部位において集音された当該咽喉音が信号として取得された第2音響信号と、の相互相関値が算出される。咽喉音が嚥下音である場合と咽喉音以外のノイズである場合とでは、算出された相互相関値は互いに異なる傾向を示す。そこで、この方法では、算出された相互相関値に基づいて当該咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する。よって、この方法では、咽喉音が嚥下音であるか否かを精度良く判定することができる。
【0020】
本発明に係る嚥下音判定方法では、算出ステップにおいては、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、互いに異なる遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を取得し、複数の遅延音響信号のそれぞれと第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方とに基づいて相互相関をそれぞれ算出し、複数の相互相関のうちの最大値、又は、複数の相互相関の平均値を相互相関値として用いてもよい。これによれば、この方法では、咽喉音の生成位置と第1部位との距離と、咽喉音の生成位置と第2部位との距離と、に差があることの影響を効果的に抑制することができる。
【0021】
本発明に係る嚥下音判定方法では、算出ステップにおいては、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、所定の遅延時間だけ遅延させた遅延音響信号を取得し、遅延音響信号と第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方とに基づいて相互相関を算出し、相互相関を相互相関値として用いてもよい。これによれば、この方法では、咽喉音の生成位置と第1部位との距離と、咽喉音の生成位置と第2部位との距離と、に差があることの影響を簡便な処理により抑制することができる。
【0022】
本発明に係る嚥下音判定方法では、判定ステップにおいては、相互相関値に基づいて、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定し、咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音であると判定し、咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音でないと判定してもよい。咽喉音が嚥下音である場合、対象者による嚥下の動作の段階によって(すなわち、対象者が嚥下しようとしている嚥下対象物の咽喉部における位置によって)、咽喉音の生成位置が経時的に変化する。咽喉音の生成位置が経時的に変化すると、咽喉音の生成位置と第1部位との位置関係、及び、咽喉音の生成部位と第2部位との位置関係が経時的に変化するため、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値は比較的小さくなる傾向を示す。一方、咽喉音が嚥下音以外のノイズである場合、対象者による嚥下の動作の段階によって、咽喉音の生成位置が経時的に変化しない。咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと、咽喉音の生成位置と第1部位との位置関係、及び、咽喉音の生成部位と第2部位との位置関係が経時的に変化しないため、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値は比較的大きくなる傾向を示す。そこで、この方法では、相互相関値に基づいて咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音であると判定し、一方、相互相関値に基づいて咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音でないと判定する。よって、この方法では、咽喉音が嚥下音であるか否かを精度良く判定することができる。
【0023】
本発明に係る嚥下音判定方法では、判定ステップにおいては、相互相関値と予め設定された閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定してもよい。これによれば、相互相関値との比較対象として予め設定された閾値が用いられるため、この方法では、咽喉音が嚥下音であるか否かを簡便な処理により判定することができる。
【0024】
本発明に係る嚥下音判定方法では、判定ステップにおいては、相互相関値を含む複数の特徴量を用いた機械学習により咽喉音が嚥下音であるか否かを識別するモデルを学習し、当該モデルに基づいて咽喉音が嚥下音であるか否かを判定してもよい。これによれば、相互相関値のみならず他の特徴量も用いた機械学習により咽喉音が嚥下音であるか否かが総合的に判定されるため、この方法では、咽喉音が嚥下音であるか否かをより精度良く判定することができる。
【0025】
本発明に係る嚥下音判定方法では、信号取得ステップにおいては、第1部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第1音響信号として抽出し、第2部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第2音響信号として抽出してもよい。これによれば、咽喉音を含む全区間に亘って取得された音響信号のうちから咽喉音に対応する区間の音響信号を手動で抽出する必要がないため、この方法では、処理の自動化を図ることができる。
【0026】
本発明に係る嚥下音判定方法は、判定ステップにおいて嚥下音であると判定した咽喉音の数を計数する計数ステップを備えてもよい。これによれば、この方法では、例えば対象者の嚥下機能の状態を把握するための検査等の自動化を図ることができる。
【0027】
本発明に係る嚥下音判定方法では、第1部位は、対象者の頸部の側面において中咽頭部に対応する部位であり、第2部位は、対象者の頸部の側面において下咽頭部に対応する部位であってもよい。これによれば、この方法では、第1音響信号及び第2音響信号をより確実に取得することができるため、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値をより適切に算出することが可能となる。よって、この方法では、咽喉音が嚥下音であるか否かをより精度良く判定することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、咽喉音が嚥下音であるか否かを精度良く判定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0031】
図1は、実施形態に係る嚥下音判定装置10を示すブロック図である。
図2は、嚥下音判定装置10が使用される態様の一例を示す図である。
図3は、咽喉部Tを説明するための図である。
図1〜
図3に示されるように、嚥下音判定装置10は、対象者Pの咽喉部Tにおいて生成(「産生」ともいう)された咽喉音を対象者Pの頸部Nにおいて集音し、当該咽喉音が対象者Pの嚥下による嚥下音であるか否かを判定する装置である。
【0032】
「頸部N」とは、対象者Pの身体において、頭部と胴体部とを接続し、胴体部に対して頭部を支持する部分である。「咽喉部T」とは、ここでは口腔A、咽頭B、喉頭C、及び食道Dを含む頸部N周辺の内部器官である。咽頭Bは、上咽頭部B1、中咽頭部B2、及び下咽頭部B3を含む。「咽喉音」とは、咽喉部Tにおいて生成される各種の音であり、対象者Pの嚥下による嚥下音、及び、対象者Pの咀嚼、発話等によるノイズを含む。「嚥下音」とは、対象者Pによる嚥下対象物(例えば、食べ物、飲み物、唾液等)の嚥下に伴って咽喉部Tにおいて生成される音である。
【0033】
嚥下音の咽喉部Tにおける生成位置は、対象者Pによる嚥下の動作の段階によって(すなわち、対象者Pが嚥下しようとしている嚥下対象物の咽喉部Tにおける位置によって)、経時的に変化する。より詳細には、嚥下対象物が口腔A内から中咽頭部B2及び下咽頭部B3を経て食道Dに至る各段階において、咽喉部Tにおける内部圧力が順次変化することで、嚥下音の咽喉部Tにおける生成位置が経時的に変化すると考えられる。これに対し、ノイズの咽喉部Tにおける生成位置は、対象者Pによる嚥下の動作の段階によって、経時的に変化しない。例えば、一般に、対象者Pの咀嚼によるノイズは主に口腔A内において生成され、対象者Pの発話によるノイズは主に喉頭Cの声帯において生成される。なお、「咽喉音の生成位置が経時的に変化する」とは、咽喉音の生成位置が時間の経過に伴って順次変化することを意味する。また、「咽喉音の生成位置が経時的に変化しない」とは、必ずしも咽喉音の生成位置が経時的に全く変化しない場合に限られず、後述するように咽喉音が嚥下音であるか否かを判定可能であれば、咽喉音の生成位置が経時的に多少変化する場合を含んでもよい。
【0034】
嚥下音判定装置10は、装置を統括的に制御するECU[Electronic Control Unit]を備えている。ECUは、CPU[CentralProcessing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]を有する電子制御ユニットである。ECUは、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより、後述する嚥下音判定の各機能を実現する。
【0035】
嚥下音判定装置10には、第1集音部1、第2集音部2、及び報知部3が接続されている。
【0036】
第1集音部1は、対象者Pの頸部Nにおいて咽喉音を集音する機器であり、例えばマイクロフォンによって構成される。第1集音部1は、対象者Pの頸部Nの第1部位に配置される。「第1部位」とは、対象者Pの頸部Nにおいて、後述する第2部位とは異なる部位である。好適には、第1部位は、対象者Pの頸部Nの側面において中咽頭部B2に対応する部位であってもよい。なお、第1部位は、ここでは対象者Pの頸部Nの皮膚の表面上の部位であるが、対象者Pの頸部Nの皮膚から離間した部位であってもよい。第1集音部1は、頸部Nの外周面に沿う円弧状の保持具4の一端部に設けられている。第1集音部1は、保持具4が対象者Pの頸部Nに係止されることで、対象者Pの頸部Nの第1部位に配置される。
【0037】
第1集音部1は、集音した咽喉音を第1音響信号として嚥下音判定装置10に出力する。第1集音部1と嚥下音判定装置10との通信手段は特に限定されず、有線通信であっても無線通信であってもよい(一例として、
図2には、有線通信を採用した態様が示されている。)。第1集音部1と嚥下音判定装置10とは一体の機器であってもよい。
【0038】
第2集音部2は、対象者Pの頸部Nにおいて咽喉音を集音する機器であり、例えばマイクロフォンによって構成される。第2集音部2は、対象者Pの頸部Nの第2部位に配置される。「第2部位」とは、対象者Pの頸部Nにおいて、第1部位とは異なる部位である。好適には、第2部位は、対象者Pの頸部Nの側面において下咽頭部B3に対応する部位であってもよい。なお、第2部位は、ここでは対象者Pの頸部Nの皮膚の表面上の部位であるが、対象者Pの頸部Nの皮膚から離間した部位であってもよい。第2集音部2は、頸部Nの外周面に沿う円弧状の保持具5の一端部に設けられている。第2集音部2は、保持具5が対象者Pの頸部Nに係止されることで、対象者Pの頸部Nの第2部位に配置される。保持具4,5は、それぞれの延在方向における中央部で互いに結束されている。
【0039】
第2集音部2は、集音した咽喉音を第2音響信号として嚥下音判定装置10に出力する。第2集音部2と嚥下音判定装置10との通信手段は特に限定されず、有線通信であっても無線通信であってもよい(一例として、
図2には、有線通信を採用した態様が示されている。)。第2集音部2と嚥下音判定装置10とは一体の機器であってもよい。
【0040】
報知部3は、嚥下音判定装置10から入力される情報を報知する機器である。例えば、報知部3は、嚥下音判定装置10によって咽喉音が嚥下音であると判定された判定結果、又は、嚥下音判定装置10によって咽喉音が嚥下音でないと判定された判定結果を報知する。ここでは一例として、報知部3は、ディスプレイを備えており、嚥下音判定装置10から入力される情報を所定の態様で表示する。なお、
図2には、報知部3と嚥下音判定装置10とが一体の携帯端末として構成された態様が例示されている。
【0041】
次に、嚥下音判定装置10の機能的構成について、
図4及び
図5に示される音響信号の具体例を参照しつつ説明する。
図4は、嚥下音に係る第1音響信号W1及び第2音響信号W2の波形の一例を示す図である。
図5は、ノイズに係る第1音響信号W3及び第2音響信号W4の波形の一例を示す図である。
図5では、ノイズとして、対象者Pによる「疲れた」との発話が例示されている。
図4及び
図5では、横軸に時間が示され、縦軸に音響信号の強度(振幅)が示されている。
【0042】
図1に示されるように、嚥下音判定装置10は、第1信号取得部11、第2信号取得部12、算出部13、判定部14、計数部15、及び出力部16を備えている。
【0043】
第1信号取得部11は、対象者Pの頸部Nの第1部位において集音された咽喉音を第1音響信号W1,W3として取得する。第1信号取得部11は、有音区間であるか無音区間であるかにかかわらず、第1部位において集音される全区間に亘って音響信号を取得する。「区間」とは、ある時点から別のある時点までの時間的に連続した期間である。「有音区間」とは、所定強度以上の咽喉音が生成されている区間である。例えば、有音区間は、音響信号の振幅が所定値以上の区間である。「無音区間」とは、所定強度以上の咽喉音が生成されていない区間である。例えば、無音区間は、音響信号の振幅が所定値未満の区間である。
【0044】
第1信号取得部11は、第1部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第1音響信号W1,W3として抽出して取得する。具体的には、第1信号取得部11は、無音区間から有音区間に移行したことを検出した時点(或いは、当該時点から所定時間だけ遡った時点又は経過した時点)を、第1音響信号W1,W3の始点と判断してもよい。また、第1信号取得部11は、有音区間から無音区間に移行し、当該無音区間が所定時間継続した時点(或いは、当該時点から所定時間だけ遡った時点又は経過した時点)を、第1音響信号W1,W3の終点と判断してもよい。
【0045】
第2信号取得部12は、対象者Pの頸部Nの第2部位において集音された咽喉音を第2音響信号W2,W4として取得する。第2信号取得部12は、有音区間であるか無音区間であるかにかかわらず、第2部位において集音される全区間に亘って音響信号を取得する。
【0046】
第2信号取得部12は、第2部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第2音響信号W2,W4として抽出して取得する。具体的には、第2信号取得部12は、無音区間から有音区間に移行したことを検出した時点(或いは、当該時点から所定時間だけ遡った時点)を、第2音響信号W2,W4の始点と判断してもよい。また、第2信号取得部12は、有音区間から無音区間に移行し、当該無音区間が所定時間継続した時点(或いは、当該時点から所定時間だけ遡った時点)を、第2音響信号W2,W4の終点と判断してもよい。
【0047】
算出部13は、第1信号取得部11により取得された第1音響信号と第2信号取得部12により取得された第2音響信号との相互相関値を算出する。例えば、算出部13は、第1音響信号W1と第2音響信号W2との相互相関値、或いは、第1音響信号W3と第2音響信号W4との相互相関値を算出する。相互相関値は、有音区間をN個(例えば、3個)の区間に分割(例えば、等分割)した各区間においてそれぞれ算出されてもよい。
【0048】
ここで、「相互相関値」とは、第1音響信号に基づく信号系列値と第2音響信号に基づく信号系列値との間の類似性を示す値(指標)である。相互相関値は、例えば、第1音響信号に基づく信号系列値と第2音響信号に基づく信号系列値との間の類似性が高いほど大きい値となり、類似性が低いほど0に近い値となる。「類似性」とは、例えば各信号系列値により表される各信号の位相差及び振幅比の経時的な変化の程度を示していてもよい。この場合、「類似性が高い」状態とは、「類似性が低い」状態と比較して、各信号の位相差及び振幅比の経時的な変化の程度が小さい状態を意味していてもよい。
【0049】
「第1音響信号に基づく信号系列値」とは、第1音響信号そのものを表す系列値、又は、第1音響信号を互いに異なる遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を表す系列値である。「第2音響信号に基づく信号系列値」とは、第2音響信号そのものを表す系列値、又は、第2音響信号を互いに異なる遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を表す系列値である。
【0050】
算出部13は、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値を算出する際に、まず、第1音響信号に基づく信号系列値と第2音響信号に基づく信号系列値との相互相関を算出する。算出部13は、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、互いに異なる遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を取得する。本実施形態では、「第1音響信号に基づく信号系列値」が第1音響信号そのものを表す系列値であるときには、「第2音響信号に基づく信号系列値」は第2音響信号を互いに異なる遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を表す系列値である。一方、「第1音響信号に基づく信号系列値」が第1音響信号を互いに異なる遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を表す系列値であるときには、「第2音響信号に基づく信号系列値」は第2音響信号そのものを表す系列値である。算出部13は、遅延時間τを所定の時間範囲内で変化させながら、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、各遅延時間τだけ遅延させた複数の遅延音響信号を取得する。そして、算出部13は、取得した複数の遅延音響信号のそれぞれの信号系列値と、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方そのものの信号系列値と、に基づいて相互相関I(τ)をそれぞれ算出する。
【0051】
より詳細には、第1音響信号に基づく信号系列値及び第2音響信号に基づく信号系列値がベクトルと考えられる場合、相互相関I(τ)は、例えば、第1音響信号に基づく信号系列値と第2音響信号に基づく信号系列値との内積の値である。つまり、相互相関値は、第1音響信号に基づく信号系列値と第2音響信号に基づく信号系列値との積が、対象区間である有音区間(換言すると、当該区間内の咽喉音が嚥下音であるか否かを判定すべき有音区間)に亘って加算された値である。第1音響信号がf(t)、第2音響信号がg(t)とそれぞれ表される場合には、相互相関I(τ)は、下記の式(1)のように表される。ここで、tは時刻を表す。相互相関I(τ)は、互いに異なる遅延時間τに応じた値である。以上により、算出部13は、複数の相互相関I(τ)を算出する。
【数1】
【0052】
次に、算出部13は、算出した複数の相互相関I(τ)のうちの最大値を取得し、当該最大値を相互相関値として用いる。このように相互相関I(τ)が最大となる値に遅延時間τが設定されることで、咽喉音の生成位置と第1部位との距離と、咽喉音の生成位置と第2部位との距離と、に差があることの影響が抑制される。なお、算出部13は、算出した複数の相互相関I(τ)の平均値を取得し、当該平均値を相互相関値として用いてもよい。以上により、算出部13は、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値を算出する。
【0053】
例えば
図4に示される具体例では、嚥下音に係る第1音響信号W1と第2音響信号W2との位相差及び振幅比は経時的に大きく変化している。このため、算出部13は、嚥下音に係る第1音響信号W1と第2音響信号W2との相互相関値を比較的小さな値に算出する。
【0054】
一方、
図5に示される具体例では、ノイズに係る第1音響信号W3及び第2音響信号W4の位相差及び振幅比は経時的に大きく変化していない。このため、算出部13は、ノイズに係る第1音響信号W3と第2音響信号W4との相互相関値を比較的大きな値に算出する。
【0055】
判定部14は、算出部13により算出された相互相関値に基づいて、咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する。まず、判定部14は、相互相関値に基づいて、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定する。より詳細には、判定部14は、相互相関値と予め設定された閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定する。判定部14は、相互相関値が閾値未満である場合には、咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定する。一方、判定部14は、相互相関値が閾値以上である場合には、咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定する。そして、判定部14は、咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音であると判定する。一方、判定部14は、咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音でないと判定する。
【0056】
計数部15は、集音される全区間に亘って、判定部14により嚥下音であると判定された咽喉音の数を計数する(すなわち、カウントする)。計数部15は、公知の計数回路によって構成されてよい。なお、計数部15は、所定の手段により計数開始の指令が入力されたときに計数を開始してもよく、所定の手段により計数終了の指令が入力されたときに計数を終了してもよい。計数部15は、計数を終了するとき又は新たに計数を開始するときに、計数した結果をリセットしてもよい。
【0057】
出力部16は、判定部14による判定結果を出力する。例えば、出力部16は、判定部14による判定結果を報知部3に出力する。この場合、報知部3は、出力部16から入力された判定結果を報知する。出力部16は、判定部14により咽喉音が嚥下音であると判定された各タイミングで、当該咽喉音が嚥下音であるとの判定結果を出力してもよい。或いは、出力部16は、判定部14により嚥下音であると判定された咽喉音の数を計数部15により計数した計数結果を判定結果として出力してもよい。なお、出力部16は、判定部14による判定結果を、各種の記憶媒体に出力してもよい。この場合、記憶媒体は、出力部16から入力された判定結果を記憶する。
【0058】
以下、嚥下音判定装置10によって行われる嚥下音判定方法について説明する。嚥下音判定方法は、対象者Pの咽喉部Tにおいて生成された咽喉音が対象者Pの嚥下による嚥下音であるか否かを判定する方法である。ここでは、上述した嚥下音判定装置10を用いて実行される嚥下音判定方法について説明するが、嚥下音判定方法は嚥下音判定装置10を用いずに実行されてもよい。
【0059】
図6は、嚥下音判定方法の処理を示すフローチャートである。
図6に示されるように、ステップS10において、対象者Pの頸部Nの側面において中咽頭部B2に対応する部位(第1部位)に第1集音部1が配置されると共に、対象者Pの頸部Nの側面において下咽頭部B3に対応する部位(第2部位)に第2集音部2が配置される。具体的には、対象者Pの頸部Nに保持具4,5が係止されることで、第1集音部1が第1部位に配置されると共に、第2集音部2が第2部位に配置される。その後、嚥下音判定方法の処理は、ステップS12に移行する。
【0060】
ステップS12において、第1集音部1が対象者Pの頸部Nの第1部位において音を集音すると共に、第2集音部2が対象者Pの頸部Nの第2部位において音を集音する。ここでは、第1集音部1及び第2集音部2は、咽喉音(例えば、嚥下音又はノイズ)を含む有音区間及び咽喉音を含まない無音区間の両方を含む区間(すなわち、全区間)に亘って音を集音する。つまり、第1集音部1及び第2集音部2は、互いに同一の咽喉音を、互いに異なる部位で互いに同時に集音することとなる。その後、嚥下音判定方法の処理は、ステップS14に移行する。
【0061】
ステップS14において、嚥下音判定装置10は、第1集音部1により第1部位において集音された音のうちの有音区間の音である咽喉音を、第1信号取得部11により第1音響信号W1,W3として取得すると共に、第2集音部2により第2部位において集音された音のうちの有音区間の音である咽喉音を、第2信号取得部12により第2音響信号W2,W4として取得する(信号取得ステップ)。換言すると、嚥下音判定装置10は、第1集音部1により第1部位において集音される全区間に亘って取得した音響信号のうち、有音区間における音響信号を、第1信号取得部11により第1音響信号W1,W3として抽出して取得すると共に、第2集音部2により第2部位において集音される全区間に亘って取得した音響信号のうち、有音区間における音響信号を、第2信号取得部12により第2音響信号W2,W4として抽出して取得する。その後、嚥下音判定方法の処理は、ステップS16に移行する。
【0062】
ステップS16において、嚥下音判定装置10は、算出部13により、第1音響信号W1,W3と第2音響信号W2,W4との相互相関値を算出する(算出ステップ)。より詳細には、嚥下音判定装置10は、算出部13により、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、互いに異なる遅延時間τだけ遅延させた複数の遅延音響信号を取得し、複数の遅延音響信号のそれぞれと第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方とに基づいて相互相関I(τ)をそれぞれ算出し、複数の相互相関I(τ)のうちの最大値、又は、複数の相互相関I(τ)の平均値を相互相関値として用いる。その後、嚥下音判定方法の処理は、ステップS18に移行する。
【0063】
ステップS18において、嚥下音判定装置10は、詳しくは後述するように、判定部14により、相互相関値に基づいて咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する(判定ステップ)。その後、嚥下音判定方法の処理は、ステップS20に移行する。
【0064】
ステップS20において、嚥下音判定装置10は、第1集音部1及び第2集音部2により集音される全区間に亘って、計数部15により、嚥下音であると判定された咽喉音の数を計数する(計数ステップ)。その後、嚥下音判定方法の処理は、ステップS22に移行する。
【0065】
ステップS22において、嚥下音判定装置10は、出力部16により、判定部14による判定結果を報知部3に出力する(出力ステップ)。出力部16は、各咽喉音が嚥下音であるか否かについての判定部14による判定結果として出力する。なお、出力部16は、計数部15による計数結果を判定結果として報知部3に出力してもよい。その後、嚥下音判定方法の処理は、ステップS24に移行する。
【0066】
ステップS24において、報知部3は、出力部16から入力された判定結果を報知する。具体的には、報知部3は、当該判定結果をディスプレイに表示する。咽喉音が嚥下音であるか否かについての判定結果が報知されると、嚥下音判定方法の今回の処理は終了する。
【0067】
続いて、判定ステップにおける咽喉音が嚥下音であるか否かについての具体的な判定処理について説明する。以下に説明する判定処理は、
図6のステップS18に対応する。
【0068】
図7は、判定ステップの処理を示すフローチャートである。
図7に示されるように、ステップS30において、嚥下音判定装置10は、判定部14により、相互相関値と予め設定された閾値とを比較し、相互相関値が閾値未満であるか否かを判定する。判定ステップの処理は、相互相関値が閾値未満である場合(ステップS30:YES)、ステップS32に移行する。一方、判定ステップの処理は、相互相関値が閾値以上である場合(ステップS30:NO)、ステップS36に移行する。
【0069】
ステップS32において、嚥下音判定装置10は、判定部14により、咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定する。その後、判定ステップの処理は、ステップS34に移行する。
【0070】
ステップS34において、嚥下音判定装置10は、判定部14により、咽喉音が嚥下音であると判定する。判定部14により咽喉音が嚥下音であると判定されると、判定ステップの今回の処理は終了する。
【0071】
ステップS36において、嚥下音判定装置10は、判定部14により、咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定する。その後、判定ステップの処理は、ステップS38に移行する。
【0072】
ステップS38において、嚥下音判定装置10は、判定部14により、咽喉音が嚥下音でないと判定する。判定部14により咽喉音が嚥下音でないと判定されると、判定ステップの今回の処理は終了する。
【0073】
以上説明したように、嚥下音判定装置10は、対象者Pの咽喉部Tにおいて生成された咽喉音が対象者Pの嚥下による嚥下音であるか否かを判定する嚥下音判定装置10であって、対象者Pの頸部Nの第1部位において集音された咽喉音を第1音響信号W1,W3として取得する第1信号取得部11と、対象者Pの頸部Nの第1部位とは異なる第2部位において集音された咽喉音を第2音響信号W2,W4として取得する第2信号取得部12と、第1信号取得部11により取得された第1音響信号W1,W3と第2信号取得部12により取得された第2音響信号W2,W4との相互相関値を算出する算出部13と、算出部13により算出された相互相関値に基づいて、咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する判定部14と、判定部14による判定結果を出力する出力部16と、を備える。
【0074】
嚥下音判定装置10によれば、対象者Pの頸部Nの第1部位において集音された咽喉音が信号として取得された第1音響信号W1,W3と、対象者Pの頸部Nの第2部位において集音された当該咽喉音が信号として取得された第2音響信号W2,W4と、の相互相関値が算出される。咽喉音が嚥下音である場合と咽喉音以外のノイズである場合とでは、算出された相互相関値は互いに異なる傾向を示す。そこで、嚥下音判定装置10は、算出された相互相関値に基づいて当該咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する。よって、嚥下音判定装置10は、咽喉音が嚥下音であるか否かを精度良く判定することができる。
【0075】
嚥下音判定装置10では、算出部13は、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、互いに異なる遅延時間τだけ遅延させた複数の遅延音響信号を取得し、複数の遅延音響信号のそれぞれと第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方とに基づいて相互相関I(τ)をそれぞれ算出し、複数の相互相関I(τ)のうちの最大値、又は、複数の相互相関I(τ)の平均値を相互相関値として用いる。これにより、嚥下音判定装置10は、咽喉音の生成位置と第1部位との距離と、咽喉音の生成位置と第2部位との距離と、に差があることの影響を効果的に抑制することができる。
【0076】
嚥下音判定装置10では、判定部14は、相互相関値に基づいて、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定し、咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音であると判定し、咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音でないと判定する。咽喉音が嚥下音である場合、対象者Pによる嚥下の動作の段階によって(すなわち、対象者Pが嚥下しようとしている嚥下対象物の咽喉部Tにおける位置によって)、咽喉音の生成位置が経時的に変化する。咽喉音の生成位置が経時的に変化すると、咽喉音の生成位置と第1部位との位置関係、及び、咽喉音の生成部位と第2部位との位置関係が経時的に変化するため、第1音響信号W1と第2音響信号W2との相互相関値は比較的小さくなる傾向を示す。一方、咽喉音が嚥下音以外のノイズである場合、対象者Pによる嚥下の動作の段階によって、咽喉音の生成位置が経時的に変化しない。咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと、咽喉音の生成位置と第1部位との位置関係、及び、咽喉音の生成部位と第2部位との位置関係が経時的に変化しないため、第1音響信号W3と第2音響信号W4との相互相関値は比較的大きくなる傾向を示す。そこで、嚥下音判定装置10は、相互相関値に基づいて咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音であると判定し、一方、相互相関値に基づいて咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音でないと判定する。よって、嚥下音判定装置10は、咽喉音が嚥下音であるか否かを精度良く判定することができる。
【0077】
嚥下音判定装置10では、判定部14は、相互相関値と予め設定された閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定する。これにより、相互相関値との比較対象として予め設定された閾値が用いられるため、嚥下音判定装置10は、咽喉音が嚥下音であるか否かを簡便な処理により判定することができる。
【0078】
嚥下音判定装置10では、第1信号取得部11は、第1部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第1音響信号W1,W3として抽出し、第2信号取得部12は、第2部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第2音響信号W2,W4として抽出する。これにより、咽喉音を含む全区間に亘って取得された音響信号のうちから咽喉音に対応する区間の音響信号を手動で抽出する必要がないため、嚥下音判定装置10は、処理の自動化を図ることができる。
【0079】
嚥下音判定装置10は、判定部14により嚥下音であると判定された咽喉音の数を計数する計数部15を備える。これにより、嚥下音判定装置10は、例えば対象者Pの嚥下機能の状態を把握するための検査等の自動化を図ることができる。
【0080】
嚥下音判定装置10では、第1部位は、対象者Pの頸部Nの側面において中咽頭部B2に対応する部位であり、第2部位は、対象者Pの頸部Nの側面において下咽頭部B3に対応する部位である。これにより、嚥下音判定装置10は、第1音響信号W1,W3及び第2音響信号W2,W4をより確実に取得することができるため、第1音響信号W1,W3と第2音響信号W2,W4との相互相関値をより適切に算出することが可能となる。よって、嚥下音判定装置10は、咽喉音が嚥下音であるか否かをより精度良く判定することができる。
【0081】
嚥下音判定方法は、対象者Pの咽喉部Tにおいて生成された咽喉音が対象者Pの嚥下による嚥下音であるか否かを判定する嚥下音判定方法であって、対象者Pの頸部Nの第1部位において集音された咽喉音を第1音響信号W1,W3として取得すると共に、対象者Pの頸部Nの第1部位とは異なる第2部位において集音された咽喉音を第2音響信号W2,W4として取得する信号取得ステップと、第1音響信号W1,W3と第2音響信号W2,W4との相互相関値を算出する算出ステップと、相互相関値に基づいて、咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する判定ステップと、判定ステップにおける判定結果を出力する出力ステップと、を備える。
【0082】
嚥下音判定方法によれば、対象者Pの頸部Nの第1部位において集音された咽喉音が信号として取得された第1音響信号W1,W3と、対象者Pの頸部Nの第2部位において集音された当該咽喉音が信号として取得された第2音響信号W2,W4と、の相互相関値が算出される。咽喉音が嚥下音である場合と咽喉音以外のノイズである場合とでは、算出された相互相関値は互いに異なる傾向を示す。そこで、嚥下音判定方法では、算出された相互相関値に基づいて当該咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する。よって、嚥下音判定方法では、咽喉音が嚥下音であるか否かを精度良く判定することができる。
【0083】
嚥下音判定方法では、算出ステップにおいては、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、互いに異なる遅延時間τだけ遅延させた複数の遅延音響信号を取得し、複数の遅延音響信号のそれぞれと第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方とに基づいて相互相関I(τ)をそれぞれ算出し、複数の相互相関I(τ)のうちの最大値、又は、複数の相互相関I(τ)の平均値を相互相関値として用いる。これにより、嚥下音判定方法では、咽喉音の生成位置と第1部位との距離と、咽喉音の生成位置と第2部位との距離と、に差があることの影響を効果的に抑制することができる。
【0084】
嚥下音判定方法では、判定ステップにおいては、相互相関値に基づいて、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定し、咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音であると判定し、咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音でないと判定する。咽喉音が嚥下音である場合、対象者Pによる嚥下の動作の段階によって(すなわち、対象者Pが嚥下しようとしている嚥下対象物の咽喉部Tにおける位置によって)、咽喉音の生成位置が経時的に変化する。咽喉音の生成位置が経時的に変化すると、咽喉音の生成位置と第1部位との位置関係、及び、咽喉音の生成部位と第2部位との位置関係が経時的に変化するため、第1音響信号W1と第2音響信号W2との相互相関値は比較的小さくなる傾向を示す。一方、咽喉音が嚥下音以外のノイズである場合、対象者Pによる嚥下の動作の段階によって、咽喉音の生成位置が経時的に変化しない。咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと、咽喉音の生成位置と第1部位との位置関係、及び、咽喉音の生成部位と第2部位との位置関係が経時的に変化しないため、第1音響信号W3と第2音響信号W4との相互相関値は比較的大きくなる傾向を示す。そこで、嚥下音判定方法では、相互相関値に基づいて咽喉音の生成位置が経時的に変化すると判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音であると判定し、一方、相互相関値に基づいて咽喉音の生成位置が経時的に変化しないと判定した場合に、当該咽喉音が嚥下音でないと判定する。よって、嚥下音判定方法では、咽喉音が嚥下音であるか否かを精度良く判定することができる。
【0085】
嚥下音判定方法では、判定ステップにおいては、相互相関値と予め設定された閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定する。これにより、相互相関値との比較対象として予め設定された閾値が用いられるため、嚥下音判定方法では、咽喉音が嚥下音であるか否かを簡便な処理により判定することができる。
【0086】
嚥下音判定方法では、信号取得ステップにおいては、第1部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第1音響信号W1,W3として抽出し、第2部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第2音響信号W2,W4として抽出する。これにより、咽喉音を含む全区間に亘って取得された音響信号のうちから咽喉音に対応する区間の音響信号を手動で抽出する必要がないため、嚥下音判定方法では、処理の自動化を図ることができる。
【0087】
嚥下音判定方法は、判定ステップにおいて嚥下音であると判定した咽喉音の数を計数する計数ステップを備える。これにより、嚥下音判定方法では、例えば対象者Pの嚥下機能の状態を把握するための検査等の自動化を図ることができる。
【0088】
嚥下音判定方法では、第1部位は、対象者Pの頸部Nの側面において中咽頭部B2に対応する部位であり、第2部位は、対象者Pの頸部Nの側面において下咽頭部B3に対応する部位である。これにより、嚥下音判定方法では、第1音響信号W1,W3及び第2音響信号W2,W4をより確実に取得することができるため、第1音響信号W1,W3と第2音響信号W2,W4との相互相関値をより適切に算出することが可能となる。よって、嚥下音判定方法では、咽喉音が嚥下音であるか否かをより精度良く判定することができる。
【0089】
上述した実施形態は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。
【0090】
例えば、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値は、算出部13により以下のように算出される値であってもよい。すなわち、「第1音響信号に基づく信号系列値」とは、第1音響信号を正規化した信号を表す系列値、又は、第1音響信号を互いに異なる遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を正規化した信号を表す系列値であってもよい。「第2音響信号に基づく信号系列値」とは、第2音響信号を正規化した信号を表す系列値、又は、第2音響信号を互いに異なる遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を正規化した信号を表す系列値であってもよい。この場合、算出部13は、取得した複数の遅延音響信号のそれぞれを正規化した信号系列値と、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方を正規化した信号系列値と、に基づいて正規化相互相関(相互相関)I
NCC(τ)をそれぞれ算出してもよい。
【0091】
より詳細には、第1音響信号に基づく信号系列値及び第2音響信号に基づく信号系列値がベクトルと考えられる場合、正規化相互相関I
NCC(τ)は、例えば、第1音響信号に基づく信号系列値と第2音響信号に基づく信号系列値とのコサイン類似度(余弦類似度)の値であってもよい。第1音響信号の平均値がμ
f、第1音響信号の標準偏差がσ
f、第2音響信号の平均値がμ
g、第2音響信号の標準偏差がσ
gとそれぞれ表される場合には、正規化相互相関I
NCC(τ)は、下記の式(2)のように示されてもよい。正規化相互相関I
NCC(τ)は、互いに異なる遅延時間τに応じた値であってもよい。以上により、算出部13は、複数の正規化相互相関I
NCC(τ)を算出してもよい。
【数2】
【0092】
次に、算出部13は、算出した複数の正規化相互相関I
NCC(τ)のうちの最大値を取得し、当該最大値を相互相関値として用いてもよい。このように正規化相互相関I
NCC(τ)が最大となる値に遅延時間τが設定される場合、咽喉音の生成位置と第1部位との距離と、咽喉音の生成位置と第2部位との距離と、に差があることの影響が抑制される。或いは、算出部13は、算出した複数の正規化相互相関I
NCC(τ)の平均値を取得し、当該平均値を相互相関値として用いてもよい。以上により、算出部13は、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値を算出してもよい。
【0093】
また、算出部13は、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、所定の遅延時間τだけ遅延させた遅延音響信号を取得し、遅延音響信号と第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方とに基づいて相互相関を算出し、相互相関を相互相関値として用いてもよい。或いは、算出ステップにおいては、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方を、他方に対して、所定の遅延時間τだけ遅延させた遅延音響信号を取得し、遅延音響信号と第1音響信号又は第2音響信号のいずれか他方とに基づいて相互相関を算出し、相互相関を相互相関値として用いてもよい。
【0094】
この場合、「第1音響信号に基づく信号系列値」とは、第1音響信号そのものを表す系列値、又は、第1音響信号を所定の遅延時間だけ遅延させた遅延音響信号を表す系列値であってもよい。「第2音響信号に基づく信号系列値」とは、第2音響信号そのものを表す系列値、又は、第2音響信号を所定の遅延時間だけ遅延させた遅延音響信号を表す系列値であってもよい。一例として、「第1音響信号に基づく信号系列値」が第1音響信号そのものを表す系列値であるときには、「第2音響信号に基づく信号系列値」は第2音響信号を所定の遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を表す系列値であってもよい。一方、「第1音響信号に基づく信号系列値」が第1音響信号を所定の遅延時間だけ遅延させた複数の遅延音響信号を表す系列値であるときには、「第2音響信号に基づく信号系列値」は第2音響信号そのものを表す系列値であってもよい。
【0095】
算出部13は、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値を算出する際に、まず、第1音響信号に基づく信号系列値と第2音響信号に基づく信号系列値との相互相関又は正規化相互相関を算出する。そして、算出部13は、算出した相互相関又は正規化相互相関を相互相関値として用いてもよい。以上により、算出部13は、第1音響信号と第2音響信号との相互相関値を算出してもよい。
【0096】
このような嚥下音判定装置10又は嚥下音判定方法によれば、咽喉音の生成位置と第1部位との距離と、咽喉音の生成位置と第2部位との距離と、に差があることの影響を簡便な処理により抑制することができる。
【0097】
また、上記実施形態では、算出部13は、第1音響信号又は第2音響信号のいずれか一方のみを遅延させたが、算出部13は、第1音響信号及び第2音響信号の両方を遅延させてもよい。この場合、算出部13が第1音響信号を遅延させる遅延時間と第2音響信号を遅延させる遅延時間とは、互いに異なってもよい。
【0098】
また、判定部14は、第1音響信号W1,W3と第2音響信号W2,W4との相互相関値を含む複数の特徴量を用いた機械学習により咽喉音が嚥下音であるか否かを識別するモデルを学習し、当該モデルに基づいて咽喉音が嚥下音であるか否かを直接的に判定してもよい。すなわち、判定部14は、相互相関値と閾値とを比較せず、咽喉音の生成位置が経時的に変化するか否かを判定しなくてもよい。特徴量としては、例えばMFCC[Mel-Frequency Cepstrum Coefficients]及びその動的特徴量等が挙げられるが、これに限定されない。また、機械学習としては、公知の機械学習が適用可能であり、例えばSVM[Support Vector Machine]、GMM[Gaussian MixtureModel]、DNN[Deep Neural Network]等が適用されてもよい。
【0099】
この変形例に関し、判定ステップにおける咽喉音が嚥下音であるか否かについての判定処理について説明する。以下に説明する判定処理は、
図6のステップS18に対応する。
【0100】
図8は、変形例に係る判定ステップの処理を示すフローチャートである。
図8に示されるように、ステップS40において、嚥下音判定装置10は、判定部14により、第1音響信号W1,W3と第2音響信号W2,W4との相互相関値を含む複数の特徴量を用いた機械学習により咽喉音が嚥下音であるか否かを識別するモデルを学習し、当該モデルに基づいて咽喉音が嚥下音であるか否かを判定する。判定部14により咽喉音が嚥下音であるか否かが判定されると、判定ステップの今回の処理は終了する。
【0101】
この嚥下音判定装置10によれば、相互相関値のみならず他の特徴量も用いた機械学習により咽喉音が嚥下音であるか否かが総合的に判定されるため、嚥下音判定装置10は、咽喉音が嚥下音であるか否かをより精度良く判定することができる。同様の理由から、嚥下音判定方法では、咽喉音が嚥下音であるか否かをより精度良く判定することができる。
【0102】
また、判定部14は、第1音響信号W1,W3と第2音響信号W2,W4との相互相関値、第1音響信号の特徴量、及び第2音響信号の特徴量を組み合わせることで新たな特徴量を取得すると共に、当該特徴量を用いた機械学習により咽喉音が嚥下音であるか否かを識別してもよい。
【0103】
また、嚥下音判定装置10の第1信号取得部11は、第1部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第1音響信号W1,W3として抽出しなくてもよい。すなわち、嚥下音判定方法の信号取得ステップ(ステップS14)においては、第1部位において集音される全区間に亘って取得した音響信号のうち、有音区間における音響信号を第1音響信号W1,W3として抽出しなくてもよい。この場合、例えば、第1音響信号W1,W3を抽出する作業が手動で行われ、第1信号取得部11は、手動により抽出された第1音響信号W1,W3を取得してもよい。
【0104】
また、嚥下音判定装置10の第2信号取得部12は、第2部位において集音される全区間に亘って取得された音響信号のうち、有音区間における音響信号を第2音響信号W2,W4として抽出しなくてもよい。すなわち、嚥下音判定方法の信号取得ステップ(ステップS14)においては、第2部位において集音される全区間に亘って取得した音響信号のうち、有音区間における音響信号を第2音響信号W2,W4として抽出しなくてもよい。この場合、例えば、第2音響信号W2,W4を抽出する作業が手動で行われ、第2信号取得部12は、手動により抽出された第2音響信号W2,W4を取得してもよい。
【0105】
また、嚥下音判定装置10は、計数部15を備えていなくてもよい。すなわち、嚥下音判定方法は、計数ステップ(ステップS20)を備えていなくてもよい。
【0106】
また、第1部位は、対象者Pの頸部Nの部位であって第2部位とは異なる部位であればよく、対象者Pの頸部Nの側面において中咽頭部に対応する部位に限定されない。第2部位は、対象者Pの頸部Nの部位であって第1部位とは異なる部位であればよく、対象者Pの頸部Nの側面において下咽頭部に対応する部位に限定されない。