(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963885
(24)【登録日】2021年10月20日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】ブランケット胴の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B41F 35/06 20060101AFI20211028BHJP
B41F 33/16 20060101ALI20211028BHJP
B08B 1/00 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
B41F35/06
B41F33/16
B08B1/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-158354(P2016-158354)
(22)【出願日】2016年8月12日
(65)【公開番号】特開2018-24191(P2018-24191A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230113
【氏名又は名称】日本ボールドウィン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕紀
【審査官】
長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−266649(JP,A)
【文献】
特開平09−085940(JP,A)
【文献】
特表平05−505153(JP,A)
【文献】
特開2017−100343(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0211599(US,A1)
【文献】
特許第2893449(JP,B1)
【文献】
特開2009−202472(JP,A)
【文献】
特開2009−095990(JP,A)
【文献】
特開2007−098734(JP,A)
【文献】
特開2006−168348(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0145020(US,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102006033790(DE,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102006014990(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 31/00−35/06
B08B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴(2)と、ブランケット胴(3)と、前記版胴(2)に湿し水を供給するスプレー(12)を含む湿し水供給機構(4)と、前記ブランケット胴の表面を必要に応じて洗浄布(17)によって洗浄する自動洗浄機構(5)と、を備えたオフセット印刷機(1)のブランケット胴の洗浄方法であって
インクの供給を停止するステップと、
前記湿し水供給機構(4)の前記スプレー(12)によって前記版胴(2)に湿し水を供給する湿し水供給ステップと、前記版胴(2)に付着した前記湿し水を前記ブランケット胴(3)に転写する湿し水転写ステップと、
転写された前記湿し水によって前記ブランケット胴(3)の表面に堆積した紙粉を軟化させるステップと、
前記自動洗浄機構(5)によって、予め洗浄液を含浸させた含浸型洗浄布(17)を用いて前記ブランケット胴(3)を洗浄するステップと、
を備えかつ、
前記湿し水供給機構(4)の前記スプレー(12)は、ブランケット胴(3)の洗浄を行うために湿し水を供給する場合は、印刷時の湿し水の供給量よりも多くの湿し水を供給することを特徴とするブランケット胴の洗浄方法。
【請求項2】
版胴と、ブランケット胴と、前記版胴に湿し水を供給するスプレーを含む湿し水供給機構と、前記ブランケット胴の表面を必要に応じて洗浄布によって洗浄する自動洗浄機構と、前記版胴にインキを供給するインキ供給機構とを備えたオフセット印刷機のブランケット胴の洗浄方法であって、
前記ブランケット胴から印刷用紙を離すとともに、前記インキ供給機構からのインキの供給を停止し、
前記湿し水供給機構の前記スプレーによって前記版胴に湿し水を供給し、かつ、前記スプレー(12)は、ブランケット胴の洗浄を行うために湿し水を供給する場合は、印刷時の湿し水の供給量よりも多くの湿し水を供給し、
前記版胴に付着した前記湿し水を前記ブランケット胴に転写し、
転写された前記湿し水によって前記ブランケット胴の表面に堆積した紙粉を軟化させ、
前記自動洗浄機構によって、予め洗浄液を含浸させた含浸型洗浄布を用いて前記ブランケット胴を洗浄することを特徴とするブランケット胴の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機のブランケット胴の表面を洗浄するためのブランケット胴の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新聞印刷や商業印刷では、印刷機の形式として、オフセット印刷機が使用される。オフセット印刷機は、版胴とブランケット胴を備える。版胴には、親水性の非画線部と親油性の画線部によって印刷する画像を形成した版が装着される。
【0003】
版胴には、まず湿し水を供給する。そうすると、親水性の部分は水膜が形成される。この湿し水とは、水あり式オフセット印刷向けに成分を調製した水である。印刷機によっては、水道水などをそのまま使用することがあり、その場合は、湿し水と一般的な水とは成分自体は異ならないことになる。次に版胴には、インキが供給される。そうすると親油性の部分にインキの膜が形成される。すなわち、版胴の表面には、インキの領域と水の領域に分かれて印刷する画像が形成される。
【0004】
ブランケット胴は、印刷用紙に接する胴である。版胴とブランケット胴が接触すると、版胴のインキ画像は、ブランケット胴に転写される。ブランケット胴は、このインキ画像を印刷用紙に転写して印刷物が完成する。なお、版胴からブランケット胴にインキ画像を転写する場合に、ブランケット胴には、版胴の湿し水も転写される。
【0005】
オフセット印刷機は、ブランケット胴の表面を洗浄するための構造を備えている。ブランケット胴の表面は、版を交換したり、ブランケット表面に異物が付着したりした場合は、その都度洗浄しなければならない。ブランケットの表面に付着しているのは、インキと紙粉等である。インキは、親油性である。紙粉等は、どちらかと言えば親水性である。紙粉等は、印刷用紙から剥離した紙粉や炭酸カルシウムなどの印刷用紙の填料の総称である。
【0006】
ブランケット胴に付着したインキは、水と混じると乳化する。しかし、水に溶けるわけではない。インキを洗浄するには、洗浄液として炭化水素系の溶剤が適している。インキは、炭化水素系の溶剤にはよく溶ける。紙粉等も、炭化水素系の洗浄液で、いくらか軟化させることはできる。しかしながら、溶剤では、十分軟化しないことがある。紙粉等は、水を含ませると速やかに軟化する。インキも紙粉等も溶解又は十分に軟化すれば、洗浄布で容易に拭き取ることができる。
【0007】
特許文献1には、ブラシ式の自動洗浄装置を使用したブランケット胴洗浄装置が記載されている。ブランケット胴の洗浄は、回転ブラシで行う。回転ブラシには、親水性の洗浄液と親油性の洗浄液の2種類を選択的に供給できる。回転するブラシに供給する2種類の洗浄液は、ブランケット胴の表面に付着したインキや紙粉等を効率的に除去する。
【0008】
特許文献2には、洗浄布とブラシを併用したブランケット胴洗浄装置が記載されている。ここに記載のブランケット胴洗浄装置は、乾いた洗浄布(ドライ洗浄布)を使用する。洗浄布には、別途設けたスプレーによって洗浄液を供給する。ブラシには、水の供給が可能である。
【0009】
特許文献3には、印刷用紙の紙粉除去装置が記載されている。これは、ブランケット胴の洗浄装置ではなく、事前に印刷用紙の紙粉を除去しようとするものである。そして紙粉の除去には、湿し水を利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−192870号公報
【特許文献2】特開2010−082834号公報
【特許文献3】特開2009−226630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のブランケット胴洗浄装置は、ブランケット胴の洗浄に時間がかかったり、構造が複雑になったりするという課題があった。すなわち、ブランケット胴に付着したインキは、予め炭化水素系などの洗浄液を含浸させた含浸型洗浄布で比較的容易に拭き取りできるものの、紙粉等の除去には時間がかかることがあった。そこで、紙粉等を短時間で除去するために、水をスプレーすることも考えられたが、構造が複雑になっていた。
【0012】
本発明は、一般的なオフセット印刷機の構成を変えることなく、ブランケット胴に付着したインキと紙粉等を短時間で除去可能なブランケット胴の洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、版胴と、ブランケット胴と、前記版胴に湿し水を供給する湿し水供給機構と、前記ブランケット胴の表面を必要に応じて洗浄布によって洗浄する自動洗浄機構と、を備えたオフセット印刷機のブランケット胴の洗浄方法であって、前記湿し水供給機構によって前記版胴に湿し水を供給する湿し水供給ステップと、前記版胴に付着した前記湿し水を前記ブランケット胴に転写する湿し水転写ステップと、転写された前記湿し水によって前記ブランケット胴の表面に堆積した紙粉を軟化させるステップと、前記自動洗浄機構によって、予め洗浄液を含浸させた含浸型洗浄布を用いて前記ブランケット胴を洗浄するステップと、を備えることを特徴とするブランケット胴の洗浄方法とした。
【0014】
さらに、本発明のブランケット胴の洗浄方法は、前記自動洗浄機構は、前記湿し水転写ステップ以降に洗浄動作を開始することを特徴とした。
【0015】
さらに、本発明のブランケット胴の洗浄方法は、前記オフセット印刷機は、インキの供給機構を備えており、前記湿し水供給ステップの前に、インキの供給を停止するステップを備えることを特徴とした。
【0016】
さらに、本発明のブランケット胴の洗浄方法は、前記湿し水供給機構は、ブランケット胴の洗浄を行うために湿し水を供給する場合は、印刷時の湿し水の供給量よりも多くの湿し水を供給することを特徴とした。
【0017】
また、本発明のブランケット胴の洗浄方法は、版胴と、ブランケット胴と、前記版胴に湿し水を供給する湿し水供給機構と、前記ブランケット胴の表面を必要に応じて洗浄布によって洗浄する自動洗浄機構と、前記版胴にインキを供給するインキ供給機構とを備えたオフセット印刷機のブランケット胴の洗浄方法であって、前記ブランケット胴から印刷用紙を離すとともに、前記インキ供給機構からのインキの供給を停止し、前記湿し水供給機構によって前記版胴に湿し水を供給し、前記版胴に付着した前記湿し水を前記ブランケット胴に転写し、転写された前記湿し水によって前記ブランケット胴の表面に堆積した紙粉を軟化させ、前記自動洗浄機構によって、予め洗浄液を含浸させた含浸型洗浄布を用いて前記ブランケット胴を洗浄することを特徴とした。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、現行のオフセット印刷機の構成をほとんど変更しないで、洗浄方法のみを変更したものである。すなわち、ブランケット胴に付着したインキの洗浄のための自動洗浄機構に、予め洗浄液を含浸させた含浸型洗浄布を使用し、かつ紙粉等の洗浄のために湿し水を利用するようにした。
その結果、インキや紙粉等が堆積したブランケット胴が、短時間で洗浄できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】本発明によるブランケット胴の洗浄方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を用いて本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の態様を示す説明図である。
図1に示す1は、オフセット印刷機である。一般的にオフセット印刷機は、印刷原理は同じであっても、さまざまな構成がとられる。
図1に示すオフセット印刷機1は、新聞印刷を想定した構成である。2は、版胴である。3は、ブランケット胴である。4は湿し水供給機構である。5は、自動洗浄機構である。
【0021】
7は、インキ供給機構である。8は印刷用紙である。9は、ブランケット胴3に対向して印刷用紙8の裏側に配置された裏側ブランケット胴である。裏側ブランケット胴9も、印刷用紙8の両面に同時に印刷できるように、ブランケット胴3に付随する印刷に必要な構成を備えるが図示しない。
【0022】
印刷用紙8が、矢印10に示す方向に走行する場合は、ブランケット胴3、版胴2等は、それぞれ矢印で示した方向に回転する。
【0023】
湿し水供給機構4は、水着けローラ11の表面に湿し水をスプレーするスプレー12と、多くの場合2本以上の複数のローラ群13から構成されている。スプレー12からスプレーされた湿し水は、ローラ群で均一な水膜とされて、版胴2の表面に水膜として転写される。湿し水の供給源にスプレー12を用いる利点は、湿し水の供給量の調整範囲が広いところにある。例えば、スプレー12は、印刷時は、少量の湿し水を供給し、ブランケット胴3の洗浄時には多くの湿し水を供給することができる。なお、本発明において、湿し水とは、オフセット印刷の印刷に使用する水という意味であって、成分の構成を問わない。
【0024】
インキ供給機構7は、インキパン14とインキローラ群15から構成されている。インキは、インキパン14から供給される。多数のローラからなるインキローラ群15は、インキパン14から供給されるインキを均一なインキ膜として版胴2に供給する。
【0025】
図2は、自動洗浄機構の説明図である。自動洗浄機構5は、回転するブランケット胴3に対して進退動作可能である。
図1で示す位置は前進位置で、洗浄状態を示し、
図2では、後退位置で、待機状態を示している。16は洗浄パッドである。17は、洗浄布である。18は、供給ロールであり、19は、巻取ロールである。洗浄布17は、供給ロール18から供給され、洗浄パッド16とブランケット胴3の間を通り、巻取ロール19によって巻き取られる。自動洗浄機構5は、必要に応じて洗浄パッド16によって洗浄布17をブランケット胴3に押し付ける。
【0026】
洗浄布17は、予め洗浄液を含浸させた含浸型洗浄布が適する。含浸型洗浄布は、布全体に均一に洗浄液を含浸保持できる。洗浄液としては、インキの溶解ができる溶剤であって、インキが油性インキの場合は、炭化水素系の洗浄液が良い。なお、洗浄布17が、含浸型洗浄布の場合は、洗浄液は、揮発速度の遅いものが必要である。そうしないと、揮発にともなって、洗浄性能が変化するからである。
【0027】
図3は、本発明によるブランケット胴の洗浄方法の流れ図である。ステップ20は、ブランケット胴3の洗浄動作の開始のステップである。
ステップ21は、準備のステップであり、紙離し及びインキ停止のステップである。紙離しとは、ブランケット胴3に印刷用紙8が接触しないように引き離す動作である。
【0028】
印刷用紙8が新聞用紙の場合は、湿し水で濡れると破断する可能性が高い。従って、印刷用紙8が新聞用紙の場合は、ブランケット胴3の表面に洗浄のための湿し水が存在する間は、ブランケット胴3から離れている必要がある。なお、印刷用紙8をブランケット胴3から離す動作は、特別な機構は必要とせず、単に印刷用紙8をオフセット印刷機1から取り外すことでも実現可能である。インキ停止とは、インキ供給機構7から版胴2に供給するインキを停止する動作である。
【0029】
ただし、印刷用紙8の素材によっては、ブランケット胴3に湿し水が供給されても破断しないものもある。オフセット印刷機1の構造によっては、印刷動作以外は、印刷用紙8はブランケット胴3から強制的に離れるようになっているものがある。また、インキ供給機構7からインキの供給を停止しなくても、ブランケット胴3の洗浄には差支えない場合もある。この場合は、ステップ21を省略することができる。また、オフセット印刷機1の構造上ステップ21が存在しないこともある。
【0030】
ステップ22は、版胴2に湿し水を供給するステップである。湿し水供給機構4から供給された湿し水は、版胴2の表面に供給される。湿し水供給機構4から供給される湿し水の量は、本発明の洗浄方法を実施するときは、印刷時に比べて多くするようにしても良い。
【0031】
ステップ23は、版胴2からブランケット胴3に湿し水を転写するステップである。このステップでは、版胴2からブランケット胴3に転写された湿し水は、ブランケット胴3の表面の紙粉等にも染み込む。なお、印刷用紙8が新聞用紙のように水を吸い込みやすい場合は、ブランケット胴3から印刷用紙8を離すか、オフセット印刷機1から取り外す必要がある。
【0032】
ステップ24は、ブランケット胴3の表面の紙粉等を軟化させる紙粉等軟化のステップである。このステップは実際には、経験値に基づいたタイマーで実現することができる。ブランケット胴3の表面の紙粉等は、洗浄できる程度まで軟化すれば足りる。例えば、湿し水を供給し続ける時間を、経験値として10秒程度から3分程度までで設定することができる。
【0033】
ステップ25は、自動洗浄機構5の動作を開始するステップである。このとき、ブランケット胴3へは、湿し水は供給され続けてもよいし、紙粉等が十分軟化していれば、湿し水の供給は停止されていてもよい。ステップ25には、
図2で説明した通り含浸型洗浄布によるインキの除去も含まれる。
ステップ26は、洗浄方法の終了である。
【0034】
以上のような本発明を実施した洗浄方法によれば、現行のオフセット印刷機の構成をほとんど変更しないで、ブランケット胴3の表面の紙粉等が早期に除去されるために洗浄効果高くなる。そのため、洗浄時間の短縮だけではなく、1回の洗浄に使用する洗浄布の使用量を節減することができた。
【符号の説明】
【0035】
1 オフセット印刷機
2 版胴
3 ブランケット胴
4 水供給機構
5 自動洗浄機構
7 インキ供給機構
8 印刷用紙
9 裏側ブランケット胴
11 水着けローラ
12 スプレー
13 ローラ群
14 インキパン
15 インキローラ群
16 洗浄パッド
17 洗浄布
18 供給ロール
19 巻取ロール