(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記物理量は、前記容器内に供給される原料ガスのガス流量、前記原料ガスのプラズマ化に用いる発熱線に流す電流、前記発熱線に加える電圧、前記容器を収容する真空チャンバー内の圧力、前記原料ガスの温度のうちの何れか1つ又は複数である、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の成膜良否判定装置。
前記変化率算出部は、前記監視期間を所定の長さの時間ごとに区切ってできた単位期間のうち、1つの単位期間の前記物理量の代表値と、その単位期間に隣接する単位期間における前記物理量の代表値とから、前記物理量の変化率を算出する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の成膜良否判定装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態による成膜良否判定装置を
図1〜
図6を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態におけるバリア膜形成装置を示す図である。
図1に示すバリア膜形成装置30は、CVD(chemical vapor deposition)法によってDLC(Diamond Like Carbon)等のガスバリア膜を容器10の内表面に成膜する装置である。
図1のバリア膜形成装置30は、プラスチック容器(以下、単に容器と称することがある。)10を収容する空間を有する真空チャンバー11と、原料ガスを吹き出すための原料ガス供給管12と、原料ガスの流量を計測するガス流量計13と、発熱により原料ガスをプラズマ化する発熱線14と、発熱線14に電力を供給する電源15と、発熱線14に流れる電流を計測する電流計16と、配管Q1を介して真空チャンバー11へ流入する大気の流入量を制御する大気バルブ17と、図示しない真空ポンプにより排気されるガスの排気経路である排気管Q2および真空チャンバー11の内外を隔離する真空バルブ18と、真空チャンバー11の内部圧力を計測する圧力計19と、成膜良否判定装置20と、を備えている。
【0018】
バリア膜形成装置30を用いて容器10の内表面にガスバリア膜を成膜するには、例えば、以下のような工程を実施する。まず、真空チャンバー11内に容器10を挿入し、容器10内のガスを排気管Q2経由で図示しない真空ポンプにより排気して、規定の真空度に到達した後、原料ガス供給管12を通して、原料ガスを容器10内に供給する。次に、電源15から発熱線14に電力を印加する。このとき、バリア膜形成装置30は、定電圧制御を行って発熱線14に電流を流す。電流が流れることにより、発熱線14の温度が例えば所定の高温付近まで上昇すると、原料ガスがプラズマ化し、成膜種が生成される。この成膜種が容器10の内面に堆積して炭素膜(ガスバリア膜)を形成する。ガスバリア膜が所定の膜厚まで形成されると、電圧の印加および原料ガスの供給を停止する。次に、配管Q1から残留ガスの排気をして、真空チャンバー11内を大気圧に戻す。最後に容器10を真空チャンバー11から取り出すと、バリア膜が形成されたプラスチック容器10が得られる。これで1つの容器10に対する成膜処理が終了する。1つの容器10に対する成膜処理が終了すると、真空チャンバー11内には次の容器10が収容され、同様の工程を経て成膜処理が行われる。それと並行して、成膜良否判定装置20は、成膜処理が終了した容器10について、成膜品質の良否判定を行う。
なお、
図1に示すバリア膜形成装置30のうち、本実施形態に固有の成膜良否判定装置20を除いた構成は、一般的なバリア膜形成装置の基本的な構成例を示したものであって、この構成に限定されない。また、ガスバリア膜の成膜処理についても、上記で説明した方法に限定されない。
【0019】
成膜良否判定装置20は、バリア膜形成装置30が成膜したガスバリア膜の品質の良否を判定する装置である。上記した方法により、1つの容器10に対する成膜処理が終了すると、成膜良否判定装置20は、成膜処理中に計測された各種の物理量を用いて、成膜処理によって生成されたガスバリア膜の品質判定を行う。
【0020】
次に
図2を用いて成膜良否判定装置20について説明する。
図2は、本発明の一実施形態における成膜良否判定装置の機能ブロック図である。
成膜良否判定装置20は、例えばマイコン等のコンピュータ装置である。成膜良否判定装置20は、物理量取得部21と、変化率算出部22と、範囲比較部23と、温度推定部24と、良否判定部25と、記憶部26と、入出力部27とを備えている。
【0021】
物理量取得部21は、バリア膜形成装置30におけるガスバリアの形成時の物理量を時刻とともに取得する。具体的には、物理量取得部21は、電流計16が計測した電流値、ガス流量計13が計測した原料ガスの流量、圧力計19が計測した真空チャンバー11の内部圧力をそれぞれの計測時刻とともに取得する。また、物理量取得部21は、電源15が印加した電圧値を、電圧を印加した時刻とともに取得する。物理量取得部21は、取得した物理量および時刻の情報を記憶部26に記録する。
【0022】
変化率算出部22は、成膜処理の開始を指示する情報が入力された時刻以降であって、成膜処理が終了するまでの間の所定の監視期間における(物理量取得部21が取得した)各物理量の変化率、および後述する温度推定部24が推定した原料ガスの温度の変化率を算出する。
【0023】
範囲比較部23は、物理量取得部21が取得した各物理量および温度推定部24が推定した原料ガスの温度の各々と、各物理量(推定した原料ガスの温度を含む)別に予め定められた各物理量が取るべき値の範囲とを比較する。
【0024】
温度推定部24は、発熱線14に流れる電流値および電源15が印加する電圧値に基づいて、発熱線14による発熱量を計算し、その発熱量に基づいて原料ガス温度を推定する。
【0025】
良否判定部25は、変化率算出部22が算出した変化率に基づいて成膜の良否を判定する。例えば、良否判定部25は、変化率が所定の閾値を超えた場合に、成膜不良(成膜品質が不良である可能性あり)と判定する。また、良否判定部25は、範囲比較部23による比較の結果に基づいて、成膜の良否を判定する。例えば、良否判定部25は、範囲比較部23による比較の結果、何れかの物理量が所定の範囲内に収まらない場合、成膜不良と判定する。
【0026】
記憶部26は、物理量取得部21が取得した各物理量や、範囲比較部23が比較に用いる各物理量別の所定の範囲を規定する値(上限値、下限値)、発熱線14の抵抗値を算出するための発熱線情報などを記憶する。発熱線情報とは、例えば、発熱線14の直径、長さ、接続方法、材質特性などである。発熱線情報は、ユーザが事前に登録する。
入出力部27は、ユーザによる成膜良否判定装置20への発熱線情報や成膜処理の開始を指示する情報の入力の受け付けや、良否判定結果の出力等を行う。
なお、変化率算出部22、範囲比較部23、温度推定部24、良否判定部25は、成膜良否判定装置20が備えるCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)が、記憶部26からプログラムを読み出して実行することで実現される機能である。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態における成膜処理に関する物理量の推移の一例を説明する図である。
図3は、物理量取得部21が取得した各物理量や温度推定部24が推定した温度のグラフを示している。
図3の横軸は時間を、縦軸は各計測値の大きさを示す。
グラフL1は、圧力計19が計測した真空チャンバー11内の圧力の推移を示している。図示するようにバリア膜形成装置30は、真空チャンバー11内の圧力が低下してから成膜処理を開始する。成膜処理中は、真空チャンバー11内の真空値は所定の値以下に制御される。
【0028】
グラフL2は、ガス流量計13が計測した原料ガスの流量の推移を示している。図示するようにバリア膜形成装置30は、成膜処理中は、ほぼ一定量の原料ガスを容器10に供給する。
グラフL3は、電源15が印加する電圧値の推移を示している。図示するようにバリア膜形成装置30は、成膜処理中は、ほぼ一定の電圧を印加する。なお、バリア膜形成装置30は、発熱線14の発熱量の増加に応じて上昇する温度に対応する発熱線14の抵抗値を算出し、各温度に応じた抵抗値を用いて、電流計16が計測する電流が所定の値となるよう印加すべき電圧を算出する。
【0029】
グラフL4は、電流計16が計測した電流値の推移を示している。図示するように電流値は、成膜処理の進行に伴い徐々に低下していく。成膜処理が進行すると、原料ガスの反応が盛んになり発熱量が増加する。発熱量が増加すると発熱線14の抵抗値が大きくなり電流値は小さくなる。
【0030】
グラフL5は、温度推定部24が推定した原料ガスの推定温度の推移を示している。温度推定部24は、電源15が印加した電圧と、電流計16が計測した電流とから発熱量(Q=VIt)を計算する。温度推定部24は、計算した発熱量から原料ガスの温度(推定温度)を推定する。なお、例えば、記憶部26には、発熱量から原料ガスの温度を算出するために用いる数式、関数などが記録されており、温度推定部24はこの数式を用いて、原料ガスの温度を推定してもよい。
【0031】
従来から成膜処理中のグラフL1が示す圧力(真空値)、グラフL2が示すガス流量、グラフL3が示す電圧、グラフL4が示す電流の各値を取得して、各値が所定の範囲以内に収まっているかどうかを監視することによって、容器10の内表面に形成された成膜品質を判定することは行われていた。しかし、この判定によって品質が良好であると判定された場合でも、実際にガスバリア測定装置で酸素透過率などを計測すると、必ずしも品質が良好では無い場合があることが分かった。
そこで、本実施形態では、従来から行われていた品質判定方法に加え、各物理量の変化率に注目し、単位時間における変化量が大きい場合は、品質が不良である可能性があると判定する。これにより、さらに正確な品質の良否判定が可能になる。
【0032】
また、本実施形態では、温度推定部24が原料ガスの温度を推定し、その温度に基づいて成膜品質の判定を行う。推定温度についても、推定温度が所定の範囲内に収まっているかどうか、また、変化率が所定の値以下かどうかによって品質の判定を行う。これにより、真空チャンバー11内に温度計を設ける必要が無く、且つ、ガスバリア膜生成時の熱触媒(発熱線)の反応に直接的に関係する温度に基づいた判定が可能となる。
【0033】
図4は、本発明の一実施形態における成膜処理中に計測した圧力値の推移の一例を説明する図である。
図3で例示した物理量のうち、圧力を除く、電流、電圧、推定温度、ガス流量については、そのグラフの形状が矩形や台形で表される。つまり、それらの物理量は、安定して一定の値を取る定常期間を有し、次に
図5で説明するように、良否判定部25は、この定常期間における各種物理量の値に基づいて成膜品質の判定を行う。真空チャンバー11の圧力の場合、
図4に図示するように成膜処理の進行に伴い緩やかに低下する曲線を描く。まず、容器10を真空チャンバー11に収容し、真空引きを行う。次に、所定のタイミングで原料ガス供給管12から容器10へ原料ガスの投入を行う。次に電圧を印加し、容器10の温度を事前に昇温しておく。これらの工程では、真空チャンバー11内の圧力は徐々に低下する。その後、原料ガスの投入から若干遅れてガス流量計13が計測する値に影響が表れ、圧力は上昇する。原料ガスの投入は成膜処理の終了まで続くため、真空チャンバー11内の圧力も成膜処理の終了まで上昇したまま維持される。
【0034】
範囲比較部23は、成膜処理開始(時刻T1)から成膜処理終了(時刻T3)までを監視期間として、監視期間に計測された圧力と、圧力について予め定められた範囲(例えば、
図4のP1〜P2)とを比較し、圧力値が所定の範囲内に収まっているかどうかを判定する。例えば、真空チャンバー11からリークが生じている場合、圧力値が所定の範囲の上限値であるP2を超える可能性がある。リークが生じ圧力が高くなると、膜の形成に影響が及ぶ。良否判定部25は、比較の結果、圧力値が所定の範囲内に収まらない時間帯があると、容器10に形成されたガスバリア膜の品質は不良の可能性があると判定する。
なお、成膜処理開始(時刻T1)とは、成膜処理の開始を指示する情報が入力された時刻である。
【0035】
また、変化率算出部22は、監視期間(時刻T1からT3)に計測された圧力について、所定の長さの時間(単位期間)ごとに代表値を算出し、隣接する単位期間の代表値を用いて変化率を算出する。代表値とは、例えば平均値、中央値などである。
図4に単位期間の一例(単位期間1、2、3)を示す。単位期間は、ガス流量計13によるサンプリング周期に応じて、1つの単位期間に複数回の計測が含まれるように設定する。変化率算出部22は、単位期間1に計測された圧力の平均値と、単位期間1に隣接する単位期間2に計測された圧力の平均値から、単位期間1〜単位期間2における圧力の変化率を算出する。同様に変化率算出部22は、単位期間2に計測された圧力の平均値と、単位期間3に計測された圧力の平均値から、単位期間2〜単位期間3における圧力の変化率を算出する。変化率が大きい場合、成膜環境に予測しない急激な変化が生じたと考えられる。良否判定部25は、変化率が所定の閾値を上回る場合、容器10の内表面に形成されたガスバリア膜の品質は不良の可能性があると判定する。
【0036】
次に定常期間を有する物理量の良否判定について、電圧を例に説明を行う。
図5は、本発明の一実施形態における成膜処理中に計測した電圧値の推移の一例を説明する図である。
定常期間を有する物理量の良否判定についても、
図4で説明した圧力の判定の場合と同様である。つまり、範囲比較部23は、物理量取得部21が取得した、時刻T1から時刻T3までの間(監視期間)の電圧値について、電圧値が取るべき値の範囲と比較し、電圧がその範囲内に収まっているかどうかを比較する。比較の結果、電圧値が所定の範囲を超えている場合、良否判定部25は、成膜品質が不良の可能性があると判定する。
また、変化率算出部22は、単位期間ごとの電圧の代表値を算出し、隣接する単位期間の代表値を用いて変化率を算出する。良否判定部25は、変化率が所定の閾値を上回る場合、成膜品質が不良の可能性があると判定する。
【0037】
ところで、成膜処理を実行する期間には、原料ガス投入後に速やかに膜形成を行うために予め真空チャンバー11内の温度を高めておく事前昇温期間と、事前昇温の後に、実際に容器10の内表面に膜形成を行う成膜期間とが存在する。
図3で例示したように、事前昇温期間に印加する電圧と、成膜期間に印加する電圧とを同じ値に制御しても良いが、事前昇温期間と成膜期間とで異なる電圧を印加するように制御しても良い。この場合、良否判定部25は、事前昇温期間と成膜期間とで別々に良否判定を行う。
【0038】
例えば、範囲比較部23は、事前昇温開始(T1:成膜処理開始)から事前昇温終了(T2:膜形成開始)までの間の電圧値と、事前昇温期間について定められた電圧値の許容範囲V1〜V2とを比較し、その比較結果を良否判定部25へ出力する。事前昇温期間で印加した電圧値が適切でないと、容器10内の温度が不適切となり、後の成膜期間において印加する電圧値が適切であったとしても成膜の形成に影響が出る可能性がある。従って、良否判定部25は、事前昇温期間における電圧が所定の範囲V1〜V2内に収まらない場合、成膜品質が不良の可能性があると判定する。
また、変化率算出部22は、時刻T1からT2の間の電圧値について、例えば、単位期間1に印加した電圧の平均値から単位期間0に印加した電圧の平均値を減算して、単位期間0〜単位期間1における変化率を算出する。事前昇温期間において電圧値が大きく変動する場合、例えば、発熱線14の接触に異常が生じた等の変化が生じたと考えられる。この場合、事前昇温期間での制御が良好ではない可能性がある。従って、良否判定部25は、事前昇温期間での変化率が所定の閾値(事前昇温期間用の閾値)を上回る場合、成膜品質が不良の可能性があると判定する。
【0039】
同様に成膜期間(時刻T2〜T3)では、範囲比較部23は、電圧値と所定の範囲V3〜V4とを比較する。良否判定部25は、成膜期間における電圧値が、その期間の電圧許容範囲V3〜V4を超えている場合、成膜品質が不良の可能性があると判定する。
また、変化率算出部22は、成膜期間の電圧値の変化について、例えば、単位期間2に印加した電圧の平均値と、単位期間3に印加した電圧の平均値の差(変化率)を算出する。
図5の場合、単位期間2の電圧の平均値と単位期間3の電圧の平均値にはΔV程度の差がある。このような急激な電圧の変化が生じている場合、例えば原料ガスの熱反応にも急激な変化が生じている可能性がある。すると、容器10の内表面へ形成される膜の性質についても、単位期間2に形成された膜と単位期間3に形成された膜との間ではその質に差があると考えられる。電流、推定温度(電流に基づいて計算される)の急激な変化についても同様である。つまり、電圧、電流、推定温度に急激な変化がある場合、形成される膜の性質が一定でない可能性がある。膜の性質が急激に変わっていると、そこに異常が生じている可能性がある。このように成膜期間での変化率が所定の閾値(成膜期間用の閾値)を上回る場合、良否判定部25は、成膜品質が不良の可能性があると判定する。
【0040】
図5では、電圧を例に説明を行ったが、他の物理量(電流、推定温度、ガス流量)についても同様である。つまり、事前昇温期間と成膜期間のそれぞれについて、範囲比較部23は、各期間(事前昇温期間と成膜期間)における物理量と各期間について設定された所定の範囲とを比較する。また、変化率算出部22は、期間別(事前昇温期間と成膜期間)に物理量の変化率を算出し、良否判定部25は、その変化率と期間別に設定された閾値とを比較して良否判定を行う。
なお、事前昇温期間について設定された所定の範囲の値と、成膜期間について設定された所定の範囲の値とは同じであっても良い。また、事前昇温期間について設定された変化率の閾値と、成膜期間について設定された変化率の閾値とは同じ値であっても良い。
また、事前昇温期間と成膜期間とで印加する電圧の大きさは同じであっても良いし、事前昇温期間により高い電圧を加えるようにしても良い。
また、判定の対象となる監視期間については、成膜処理開始(時刻T1)を起点として、物理量ごとに異なる長さを設定してもよい。
【0041】
図3から
図5に例示した物理量のうち、圧力、ガス流量については例えば、真空バルブ18の故障、ガス流量を制御する流量調整バルブ(図示せず)の故障等の要因が無ければ、概ね設計したとおりの値を示し、変化が生じることは少ない。しかし、電圧、電流、推定温度の各物理量については、例えば発熱線14の切断などの故障の他にも、熱触媒の反応状況の影響により比較的変動しやすく、特にこれらの物理量に注目して良否判定を行うことで、より精緻に良否判定を行うことができると考えられる。
【0042】
次に
図6を用いて本実施形態の成膜良否判定処理の流れについて説明する。
図6は、本発明の一実施形態における成膜良否判定装置の処理の一例を示すフローチャートである。
まず、ユーザ(成膜処理の管理者等)が、成膜良否判定装置20へ発熱線14の直径、長さ、接続方法、材質特性等の発熱線情報を入力する(ステップS10)。発熱線情報は、記憶部26に記録され、抵抗値の算出に用いられる。次に、バリア膜形成装置30では、容器10を真空チャンバー11へ収容し、真空引き、電圧投入、原料ガスの投入を行って、容器10の内表面へのガスバリア膜の成膜を開始(成膜処理開始)する。このとき、バリア膜形成装置30は、ステップS10で入力された発熱線情報を用いて発熱線14の発熱により変化する発熱線14の抵抗値を算出し、算出した抵抗値を用いて所定の電流を流すのに必要な電圧を求め、電源15の出力電圧を制御する。
【0043】
成膜処理の実行中、物理量取得部21は、各センサにより計測された物理量を取得する(ステップS11)。より具体的には、物理量取得部21は、所定のサンプリング周期で、電源15、電流計16、ガス流量計13、圧力計19からそれぞれ電圧値、電流値、ガス流量、圧力値の各々を時刻情報とともに取得し記憶部26に記録する。また、温度推定部24が、電流値と電圧値を乗じて、発熱線14による発熱量を算出し、その発熱量に応じて推定した原料ガスの推定温度を対応する時刻とともに記憶部26に記録する。物理量取得部21は、記憶部26から推定温度を時刻とともに読み出して取得する。このとき物理量取得部21は、少なくとも成膜処理の開始から終了までの各物理量を取得する。
成膜処理が終了すると、バリア膜形成装置30では、大気圧戻し、容器10の取り出しを行う。以下、成膜良否判定装置20は、取り出された容器10について、成膜処理中に取得した物理量に基づくガスバリア膜の品質判定を行う。
ステップS11の処理により、
図3で例示した各物理量の推移が得られる。
【0044】
次に範囲比較部23は、圧力、ガス流量、電流、電圧、推定温度の各物理量について、成膜処理中の各値が各物理量別に定められた所定の範囲内かどうか判定する。例えば、記憶部26には物理量ごとに取るべき値の範囲を規定する上限値と下限値の情報が記録されていて、範囲比較部23は、この情報と、ステップS11で取得した物理量とを比較する。このとき、範囲比較部23は、各物理量に紐付けられた時刻情報を参照し、その時刻が成膜処理開始後であって、監視期間に含まれる時刻のデータのみを比較対象とする。範囲比較部23は、比較の結果を良否判定部25へ出力する。
【0045】
良否判定部25は、各物理量について、所定の範囲内かどうかを判定する(ステップS12)。全ての物理量のうち、1つでも所定の範囲内に収まらないものがある場合(ステップS12;No)、良否判定部25は、当該容器10の成膜品質は不良である可能性があると判定する(ステップS16)。
【0046】
成膜処理中における全ての物理量の値が所定の範囲内に収まる場合(ステップS12;Yes)、変化率算出部22が各物理量の変化率を計算する(ステップS13)。例えば、変化率算出部22は、成膜処理の開始から終了までの期間(監視期間)を、所定時間ごとに区切った単位期間別に各物理量の平均値を算出し、連続する単位期間の間での平均値の差を求めて変化率を算出する。変化率算出部22は、算出した変化率を良否判定部25へ出力する。なお、変化率算出部22は、各物理量に紐付けられた時刻情報を参照し、その時刻が成膜処理開始後であって、監視期間に含まれる時刻のデータのみを処理対象とする。
【0047】
次に良否判定部25は、変化率算出部22が算出した各物理量の変化率を取得し、その変化率が閾値以下かどうかを判定する(ステップS14)。例えば、記憶部26には各物理量(圧力、ガス流量、電流、電圧、推定温度)について閾値が記録されており、良否判定部25は、これらの閾値に基づいてステップS14の判定を行う。全ての物理量のうち、1つでもその変化率が所定の閾値を上回る場合(ステップS14;No)、良否判定部25は、当該容器10の成膜品質は不良の可能性があると判定する(ステップS16)。良否判定部25が、成膜品質は不良の可能性があると判定した場合、成膜良否判定装置20は、入出力部27を介してエラーメッセージ等を出力する。ユーザは、不良可能性ありと判定された容器10を廃棄する等の処理を行う。
一方、全ての物理量について変化率が所定の閾値以下の場合(ステップS14;Yes)、良否判定部25は、当該容器10の成膜品質は良好であると判定する(ステップS15)。
【0048】
本実施形態によれば、PETボトル等の内表面へのガスバリア膜の生成において、成膜処理に関係する物理量が管理値内に収まるかどうかに加え、各種物理量の単位時間あたりの変化量を監視することにより、成膜環境・成膜処理状況の変化を捉えることができる。この変化量の監視において判定に用いる閾値の大きさは、管理値(物理量が取るべき値)の範囲を規定する上限値と下限値の差以下の大きさに設定することができる。これにより、物理量が管理値以内に収まっていて、一見、問題が無いように見える場合でも生じ得る品質不良への検知能力を高め、より高品質で安定した成膜処理を実現することができる。
また、膜の形成に強く影響する複数の物理量を対象に監視を行うので、より包括的で適正な品質管理を行うことができる。また、本実施形態では、原料ガスの温度を監視対象とすることができるが、温度推定部24が温度を推定することで真空チャンバー11内に温度センサを設ける必要が無い。
【0049】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。なお、バリア膜形成装置30は、成膜装置の一例である。推定温度は、原料ガスの温度の一例である。