特許第6963945号(P6963945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963945
(24)【登録日】2021年10月20日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】タイヤ試験装置およびタイヤ試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20211028BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20211028BHJP
   G06T 7/55 20170101ALI20211028BHJP
【FI】
   G01M17/02
   B60C19/00 H
   B60C19/00 B
   G06T7/55
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-176824(P2017-176824)
(22)【出願日】2017年9月14日
(65)【公開番号】特開2019-52919(P2019-52919A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2020年7月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】細見 和正
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−205963(JP,A)
【文献】 特開2009−250963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
B60C 19/00
G06T 7/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ本体をリムに装着することにより、前記タイヤ本体と前記リムとの間に空気層を形成したタイヤ組立体について、前記タイヤ本体の内面の変形状態を把握するタイヤ試験装置であって、
撮影した画像データを記憶する記憶部を有し、前記タイヤ本体の内面に設定された撮像領域が重複するように前記リムに取り付けられた少なくとも2つの撮像部と、
タイヤ周方向において前記少なくとも2つの撮像部の間に配置され、重複した前記撮像領域を照らす照明装置と、
前記タイヤ本体が載置される路面台と、
前記路面台上の前記タイヤ組立体をタイヤ軸まわりに回転させる回転装置と、
前記路面台に向かって所定の荷重を前記タイヤ組立体に付加する荷重装置と、
前記記憶部に記憶された前記画像データからデジタル画像相関法を用いて前記タイヤ本体の内面の3次元的な変形量を算出する演算部と
前記撮像領域がタイヤ軸の真下および真上に位置したときに前記タイヤ組立体の回転を停止するように前記回転装置を制御する回転制御部と
を備える、タイヤ試験装置。
【請求項2】
前記リムは、タイヤ径方向に前記撮像部の高さよりも深い凹部を有し、
前記撮像部は前記凹部内に配置されている、請求項1記載のタイヤ試験装置。
【請求項3】
前記撮像領域は、前記タイヤ本体の接地領域よりも広い領域である、請求項1または請求項2に記載のタイヤ試験装置。
【請求項4】
前記荷重装置は、X軸,Y軸,Z軸方向の並進力Fx,Fy,Fzと、各軸まわりのモーメントMx,My,Mzとを前記タイヤ組立体に付加できる、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のタイヤ試験装置。
【請求項5】
タイヤ本体をリムに装着することにより、前記タイヤ本体と前記リムとの間に空気層を形成したタイヤ組立体を準備し、
前記タイヤ本体の内面に設定された撮像領域が重複するようにタイヤ周方向に所定の間隔を空けて2つの撮像部を前記リムに取り付け、
前記タイヤ周方向において前記2つの撮像部の間に、重複した前記撮像領域を照らす照明装置を配置し、
路面台に前記タイヤ本体を載置し、
前記前記路面台上の前記タイヤ組立体をタイヤ軸まわりに回転させ、
前記路面台に向かって前記タイヤ組立体に所定の荷重を付加して前記タイヤ本体を変形させ、
前記照明装置によって前記撮像領域を照らした状態で前記2つの撮像部によって前記撮像領域をそれぞれ撮影する際、前記タイヤ本体の変形前後の2つの状態を撮影し、
前記2つの状態を撮影した各画像データからデジタル画像相関法を用いて前記タイヤ本体の内面の3次元的な変形量を算出し、
前記撮像領域がタイヤ軸の真下および真上に位置したときに前記タイヤ組立体の回転を停止する
ことを含む、タイヤ試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ試験装置およびタイヤ試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに使用される空気入りタイヤでは、制動性能およびトラクション性能などについての試験の際、タイヤの変形状態を確認することがある。試験は実際の内圧および荷重などの実使用に近い条件下で行われることが好ましく、試験装置によってこれらの条件を再現して変形状態を確認することが好ましい。しかし、この変形状態をタイヤの外側から把握することは困難である。具体的には、タイヤの踏面部は接地領域となっているため変形状態を可視化し難く、さらにタイヤの踏面部と路面との境界線が曖昧であるため、精度良く踏面部の変形を測定できない。これに代えて、歪ゲージまたはレーザ変位計などの計測機器を使用してこの変形状態を把握する方法も考えられるが、これらの機器は大変形に対応していないことが多く、大変形を伴うゴム材質のタイヤに対してこれらの機器を使用しても正確に変形状態を把握できないおそれがある。
【0003】
非特許文献1には、レーザ変位計を用いたタイヤの変形量の計測方法と、デジタル画像相関法(Digital Image Correlation Method:DIC法)を用いたタイヤの変形量の計測方法とが開示されている。DIC法は、2つのデジタル画像データの差異に基づいて変形量を算出する方法であり、タイヤに荷重を与える前後でのデジタル画像データの差異に基づいて変形量を算出する。特に、DIC法を用いた計測方法では、CCDカメラによってタイヤの内面を撮影し、撮影したタイヤの内面のデジタル画像データから変形量を算出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】平岡直樹他著、「デジタル画像相関法を用いたタイヤの面内ひずみ・面外変位同時計測」、日本機械学会論文集(A編)74巻746号(2008-10)、論文No.08-0182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に開示されているレーザ変位計を用いた計測方法では、タイヤの変形量が大きくなると正確な変形量を計測できず、測定精度が不足するおそれがある。また、DIC法を用いた計測方法では、正確な変形量を計測し得るが、タイヤの実使用の条件を再現することが困難である。非特許文献1では、タイヤの実使用の条件を再現した試験方法については検討されておらず、より詳細には、タイヤの実際の内圧と荷重の条件下でのタイヤの変形状態を把握する方法について検討されていない。さらに言えば、タイヤの試験では、タイヤの実使用の条件下で3次元の変形状態を把握できることが好ましいが、3次元の変形状態を把握するためには、複数の撮像機器が必要となることが多い。タイヤの内部空間の大きさは限定されていることから、タイヤの内部への複数の撮像機器の設置は容易ではない。
【0006】
本発明は、タイヤの実際の内圧および荷重でのタイヤの3次元的な変形量を正確に測定できるタイヤ試験装置およびタイヤ試験方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、タイヤ本体をリムに装着することにより、前記タイヤ本体と前記リムとの間に空気層を形成したタイヤ組立体について、前記タイヤ本体の内面の変形状態を把握するタイヤ試験装置であって、撮影した画像データを記憶する記憶部を有し、前記タイヤ本体の内面に設定された撮像領域が重複するように前記リムに取り付けられた少なくとも2つの撮像部と、タイヤ周方向において前記少なくとも2つの撮像部の間に配置され、重複した前記撮像領域を照らす照明装置と、前記タイヤ本体が載置される路面台と、前記路面台上の前記タイヤ組立体をタイヤ軸まわりに回転させる回転装置と、前記路面台に向かって所定の荷重を前記タイヤ組立体に付加する荷重装置と、前記記憶部に記憶された前記画像データからデジタル画像相関法を用いて前記タイヤ本体の内面の3次元的な変形量を算出する演算部と、前記撮像領域がタイヤ軸の真下および真上に位置したときに前記タイヤ組立体の回転を停止するように前記回転装置を制御する回転制御部とを備える、タイヤ試験装置を提供する。
【0008】
この構成によれば、タイヤ本体とリムが組み合わされた実際のタイヤ組立体を使用しているため、空気入りタイヤとしての実際の内圧を再現でき、路面台と回転装置と荷重装置とを使用しているため、自動車に取り付けられた際に実際にかかる所定の荷重を再現できる。そのため、実使用状態に近いタイヤの変形状態を把握できる。また、少なくとも2つの撮像部は、リムに取り付けられており、タイヤ本体の内面を少なくとも2つの撮像部によって撮影できる。特に、少なくとも2つの撮像部は、撮像領域が重複するように配置されている。重複した撮像領域で撮影された2つの画像データを確認することで、タイヤ本体の内面の3次元的な変形状態を確認できる。このとき撮影された画像データは、記憶部に記憶される。記憶部に記憶された画像データから、演算部によってDIC法を用いた変形量の算出が実行される。従って、タイヤの実際の内圧および荷重でのタイヤの3次元的な変形量を正確に測定できる。また、接地状態と非接地状態のタイヤ本体の内面形状の変化を対比して把握できる。具体的には、撮像領域がタイヤ軸の真下に位置したときが接地状態となり、撮像領域がタイヤ軸の真上に位置したときが非接地状態となる。そのため、回転制御部によって回転装置を制御し、撮像領域がタイヤ軸の真下および真上に位置したときにタイヤ組立体の回転を停止して撮影することで、接地状態と非接地状態のタイヤ本体の内面形状の変化を対比して把握できる。従って、この構成では、静止状態での荷重に対するタイヤの変形状態を確認できるため、例えば自動車の停止時のタイヤの変形量を測定できる。
【0015】
前記リムは、タイヤ径方向に前記撮像部の高さよりも深い凹部を有し、前記撮像部は前記凹部内に配置されていてもよい。
【0016】
この構成によれば、リムの凹部内に撮像部を配置しているため、タイヤ組立体を組み上げる際にも撮像部がリム組みの邪魔にならず、タイヤ本体を容易にリムに装着できる。
【0017】
前記撮像領域は、前記タイヤ本体の接地領域よりも広い領域であってもよい。
【0018】
この構成によれば、タイヤ本体の接地領域の外側の変形過渡領域の変形状態を撮影できる。タイヤ本体の接地領域は、地面と接触している部分であるため平坦な形状となっている。そのため、接地領域自体を撮影しても平坦面の画像データが得られるのみである。換言すれば、接地領域のわずかに外側の領域が、湾曲面から平坦面へと変形する過渡領域である。測定結果として欲しい情報は、この過渡領域の変形状態であることが多い。上記構成では、接地領域より小さい領域または接地領域と同じ領域を撮像領域としておらず、少なくとも過渡領域の一部を含むように接地領域よりも広い領域に撮像領域を設定している。そのため、接地領域だけでなく過渡領域の変形状態をも確認できる。
【0019】
前記荷重装置は、X軸,Y軸,Z軸方向の並進力Fx,Fy,Fzと、各軸まわりのモーメントMx,My,Mzとを前記タイヤ組立体に付加可能であってもよい。
【0020】
この構成によれば、荷重装置が6軸方向に荷重を付加できるため、旋回時の状態や傾斜路面走行時の状態などのような様々な状態を再現できる。
【0021】
本発明の第2の態様は、タイヤ本体をリムに装着することにより、前記タイヤ本体と前記リムとの間に空気層を形成したタイヤ組立体を準備し、前記タイヤ本体の内面に設定された撮像領域が重複するようにタイヤ周方向に所定の間隔を空けて2つの撮像部を前記リムに取り付け、前記タイヤ周方向において前記2つの撮像部の間に、重複した前記撮像領域を照らす照明装置を配置し、路面台に前記タイヤ本体を載置し、前記前記路面台上の前記タイヤ組立体をタイヤ軸まわりに回転させ、前記路面台に向かって前記タイヤ組立体に所定の荷重を付加して前記タイヤ本体を変形させ、前記照明装置によって前記撮像領域を照らした状態で前記2つの撮像部によって前記撮像領域をそれぞれ撮影する際、前記タイヤ本体の変形前後の2つの状態を撮影し、前記2つの状態を撮影した各画像データからデジタル画像相関法を用いて前記タイヤ本体の内面の3次元的な変形量を算出し、前記撮像領域がタイヤ軸の真下および真上に位置したときに前記タイヤ組立体の回転を停止することを含む、タイヤ試験方法を提供する。
【0022】
この方法によれば、前述のようにしてタイヤの実際の内圧および荷重でのタイヤの3次元的な変形量を正確に測定できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、タイヤ試験装置およびタイヤ試験方法において、路面走行時の条件を模してタイヤ内面の変形状態を2つの撮像部によって撮影し、得られた画像データからDIC法を用いて変形量を算出するため、正確な変形量を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係るタイヤ試験装置の側面図
図2】タイヤ試験装置の正面図
図3】タイヤ試験装置に取り付けられたタイヤ組立体の模式的な横断面図
図4】タイヤ試験装置に取り付けられたタイヤ組立体の模式的な縦断面図
図5】撮像領域と接地領域との関係を示す模式的なタイヤ本体の展開図
図6】2つの撮像部の同期方法を示す模式図
図7】第2実施形態に係るタイヤ試験装置に取り付けられたタイヤ組立体の模式的な縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0026】
(第1実施形態)
(タイヤ試験装置の構成)
図1は本発明の第1実施形態に係るタイヤ試験装置1の側面図であり、図2はタイヤ試験装置1の正面図である。タイヤ試験装置1は、試験タイヤ100の変形状態をタイヤ内部から把握する装置である。試験タイヤ100は、タイヤ本体110をリム120に装着することによりタイヤ本体110とリム120との間に空気層を形成した空気入りタイヤである。以下では、試験タイヤ100を載置する路面台10が延びる方向(図1および図2では試験タイヤ100の転動方向)をX方向とし、路面台10の上面の路面内にてX方向と直交する方向をY方向とし、路面台10の路面に垂直な方向をZ方向とする。
【0027】
図1および図2に示されるように、タイヤ試験装置1は、試験タイヤ100を載置する路面台10と、路面台10上の試験タイヤ100をタイヤ軸Lまわりに回転させる回転装置20と、路面台10に向かって所定の荷重を試験タイヤ100に付加する荷重装置30と、制御装置40とを備える。
【0028】
路面台10は、試験タイヤ100を載置して転動させる台である。路面台10の上面は、X−Y方向に広がる平坦面となっており、試験タイヤ100が転動する路面となっている。路面台10は、後述するように路面駆動装置35によってX軸、Y軸、Z軸まわりに回転駆動可能である。
【0029】
回転装置20は、試験タイヤ100を、タイヤ軸Lまわりに回転させ、路面台10の路面上で転動させる装置である。回転装置20は、動力源となるモータ21と、モータ21からタイヤ軸L方向に延びるタイヤ支持軸22とを備える。タイヤ支持軸22は、一端部に試験タイヤ100を取り付けるタイヤ取付部23を備える。試験タイヤ100は、タイヤ取付部23を介してタイヤ支持軸22に取り付けられている。つまり、タイヤ支持軸22は、モータ21と試験タイヤ100とを機械的に接続する軸部材である。
【0030】
荷重装置30は、試験タイヤ100に路面台10に向かって所定の荷重を付加する装置である。ここで、所定の荷重とは、試験タイヤ100を図示しない自動車等に取り付けた状態で受けうる荷重である。荷重装置30は、タイヤ支持軸22の一端部に取り付けられたL字金具24によってタイヤ支持軸22と機械的に連結されている。荷重装置30は、骨格となるフレーム31と、フレーム31上に配置されたモータ32と、フレーム31内をZ方向に摺動する摺動部材33とを備える。摺動部材33は、下端においてL字金具24と接続されている。摺動部材33は、上端において図示しないギアを介してモータ32と接続されており、モータ32によってZ方向に移動される。摺動部材33がZ方向(下向き)に移動されることによって、荷重装置30からL字金具24およびタイヤ支持軸22を介して試験タイヤ100に荷重が付加される。
【0031】
また、荷重装置30は、図1および図2に概念的に示された並進移動装置34を有している。並進移動装置34は、フレーム31とモータ32と摺動部材33とを合わせてX,Y方向に並進移動させることができる。従って、試験タイヤ100には、X軸,Y軸,Z軸方向の並進力Fx,Fy,Fzを付加できる。例えば、並進移動装置34は、ロボットアームであってもよい。さらに、荷重装置30は、図1および図2に概念的に示された路面駆動装置35を有している。路面駆動装置35は、路面台10をX,Y,Z軸まわりにそれぞれ回転させることができる。従って、試験タイヤ100には、X軸,Y軸,Z軸まわりの曲げモーメントMx,My,Mzをそれぞれ付加できる。よって、本実施形態のタイヤ試験装置1は、試験タイヤ100に対し、6軸方向に荷重を付加できる。
【0032】
制御装置40は、CPU、メモリ、記憶装置、および入出力装置を備えた周知のコンピュータと、コンピュータに実装されたソフトウエアとにより構成されている。制御装置40は、タイヤ試験装置1の動作を統括的に制御するものである。
【0033】
図1および図2に概念的に示されているように、制御装置40は、回転制御部41と、荷重制御部42と、演算部43とを備える。
【0034】
回転制御部41は、回転装置20による試験タイヤ100の回転を制御する部分である。具体的には、回転制御部41は、回転装置20を制御して、試験タイヤ100の回転速度を調整する。
【0035】
荷重制御部42は、荷重装置30、並進移動装置34、および路面駆動装置35による試験タイヤ100への付加荷重を制御する部分である。具体的には、荷重制御部42は、荷重装置30を制御して荷重の大きさを調整し、並進移動装置34および路面駆動装置35を制御して荷重の付加の向きを調整する。
【0036】
演算部43は、後述するように、記憶メモリ(記憶部)51に記憶されたデジタル画像データからデジタル画像相関法(Digital Image Correlation Method:DIC法)を用いてタイヤ本体110の変形量を算出する部分である。
【0037】
図3は、タイヤ試験装置1に取り付けられた試験タイヤ100の模式的な横断面図である。なお、図3は断面図であるが、図示が煩雑となるため、断面を示すハッチングを省略している。試験タイヤ100は、タイヤ本体110と、リム120と、空気を注入するリムバルブ121とを備える。
【0038】
タイヤ本体110は、一対のビードコア111間にカーカス112を掛け渡し、カーカス112の中間部の外周側に巻き付けたベルト113によって補強し、そのタイヤ外径方向にトレッド部114を有する構成となっている。トレッド部114に使用されるゴム材料については任意の材料であり得る。タイヤ本体110は、タイヤ径方向内側(図中A方向)にビード部115を有し、ビード部115においてリム120と接続される。
【0039】
リム120は、図3に示す断面(タイヤ子午線断面)において、タイヤ本体110の2つのビード部115をそれぞれ配置する2つのフランジ部122と、タイヤ幅方向(図中B方向)において2つのフランジ部122の間でタイヤ径方向内側に向かって凹形状を有する凹部123を有している。リム120は、アルミ合金製、マグネシウム合金製、または鋼鉄製などの金属製であり得る。
【0040】
タイヤ試験装置1は、リム120の凹部123内に配置されたカメラ(撮像部)50を備える。カメラ50の高さ(タイヤ径方向の大きさ)は、凹部123の深さよりも小さい。従って、カメラ50を凹部123内に配置すると、カメラ50が凹部123内に収容される。カメラ50は、リム120に固定された状態で図3の破線で示すようにタイヤ本体110の内面を撮影する。カメラ50は、記憶メモリ(記憶部)51を内蔵しており、撮影したデジタル画像データを記憶メモリ51に記憶する。
【0041】
図4は、タイヤ試験装置1に取り付けられた試験タイヤ100の模式的な縦断面図である。本実施形態では、2つのカメラ50が、本実施形態では同じものであり、タイヤ周方向に間隔を空けてリム120に取り付けられている。2つのカメラ50は、図4に破線で示すように重複した撮像領域IAを有するように配置されている。
【0042】
タイヤ周方向において、2つのカメラ50の間では、照明装置52がリム120に取り付けられている。照明装置52は、上記重複した撮像領域IAを照らすように配置されており、リモコン(図示せず)などからの外部信号によって点灯/消灯を切り替え可能である。
【0043】
本実施形態では、タイヤ周方向において、間隔を空けて2つのカメラ50を配置し、その間に照明装置52を配置したが、配置態様はこれに限らない。例えば、タイヤ幅方向において、間隔を空けて2つのカメラ50を配置し、その間に照明装置52を配置してもよい。その場合でも、2つのカメラ50は重複した撮像領域を有し、照明装置52は重複した撮像領域を照らすように配置される。
【0044】
図5は、上記の撮像領域IAと接地領域GAとの関係を示す模式的なタイヤ本体110の展開図である。接地領域GAは、タイヤ本体110の内面のうち路面台10に接地することによって平坦となっている領域を示している。接地領域GAの外側の領域は、試験タイヤ100の元の湾曲形状から平坦形状へと変化する過渡領域TAとなっている。本実施形態では、上記の重複した撮像領域IAは、過渡領域TAを含むように、この接地領域GAよりも大きく設定されている。特に、図5では、過渡領域TAの外形と、撮像領域IAの外形とは、一致している。なお、接地領域GAおよび過渡領域TAは、図5ではタイヤ幅方向(図においてB方向)に長半径を有しタイヤ周方向(図においてC方向)に短半径を有する楕円形状となっているが、これらの形状や大きさは例示であり、荷重の付加方向や大きさなどに応じて変化し得る。
【0045】
(タイヤ試験装置の作用)
次に、タイヤ試験装置1を使用してタイヤ本体110の内面の変形状態を把握する方法、つまりタイヤ試験方法を説明する。
【0046】
図4に示すように、まず、タイヤ本体110の内面に設定された撮像領域が重複するようにタイヤ周方向に所定の間隔を空けて2つのカメラ50をリム120に取り付け、タイヤ周方向において2つのカメラ50の間に、重複した撮像領域IAを照らす照明装置52を配置する。そして、図1および図2に示すように、試験タイヤ100をタイヤ試験装置1のタイヤ取付部23に取り付け、その後に路面台10に載置する。本実施形態では、回転制御部41によって回転装置20を制御し、試験タイヤ100を連続的に回転させ路面台10上で転動させる。転動している試験タイヤ100の内部では、2つのカメラ50によって一定時間ごとに撮像領域IAのタイヤ本体110の内面が撮影される。撮影のタイミングを決定するこの一定時間は、試験タイヤ100の回転速度に応じて調整されてもよく、例えば撮像領域IAがタイヤ軸Lの真下および真上に位置するときに撮影するように設定されてもよい。即ち、この一定時間は、試験タイヤ100の回転周期の半分の時間に設定されてもよい。これにより、タイヤ軸Lの真下の変形の大きな状態(接地状態)と、タイヤ軸Lの真上の変形の小さな状態ないし無変形状態(非接地状態)とを比較できる。照明装置52は、試験開始時に点灯され、試験終了時に消灯される。これにより試験中の撮影は明るい状態で行われ、後述するように2つのカメラ50を同期させることができる。撮影された画像データは、時系列データとして各カメラ50内の各記憶メモリ51(図3参照)に記憶される。このようにして記憶メモリ51に記憶された画像データは、制御装置40の演算部43に送られる。
【0047】
図6は、2つのカメラ50の同期方法を示す模式図である。上段に示すのは一方のカメラ50で撮影した記憶メモリ51内の画像データであり、これらの画像データが時系列に沿って並んでいる。下段に示すのは、他方のカメラ50で撮影した記憶メモリ51内の画像データであり、これらの画像データが時系列に沿って並んでいる。図6に示すように、2つのカメラ50の撮影開始のタイミングが異なると、2つのカメラ50で撮影した各画像データのうち、どの画像データが同じときに撮影されたものかがわからない可能性がある。3次元的な形状データを得るためには、図4に示すように撮影角度の異なる撮影によって実質的に同時に撮影された1組の画像データが必要である。そのため、図6に示すこれらの画像データから実質的に同時に撮影された1組の画像データをそれぞれ抽出する必要がある。即ち、2つのカメラ50で実質的に同時に撮影した画像データ同士を対応させる必要がある。ここでは、2つのカメラ50で実質的に同時に撮影した画像データ同士を対応させることを、画像データ間で同期をとるともいう。以下では、照明装置52を利用した同期をとる方法を説明する。
【0048】
本実施形態では、照明装置52の点灯と消灯の際に2つのカメラ50で撮影した画像データ間で同期をとっている。具体的には、2つのカメラ50で撮影した画像データのうち、点灯時の画像データを対応させ、消灯時の画像データを対応させている。これにより、点灯から消灯までの間に2つのカメラ50によって撮影された画像データ間で同期をとることができる。本実施形態では、より正確な同期をとるために点灯と消灯の両方で同期をとっているが、単に同期をとるだけであれば点灯と消灯のいずれか一方でのみ同期をとってもよい。いずれの場合であっても、このように同期をとった2つの画像データを使用することで3次元的な形状データを得ることができる。
【0049】
次に、演算部43において、タイヤ本体110の変形状態の画像データと、当該画像データとは異なる時間に撮影された非変形状態の他の画像データとを比較して、DIC法によってタイヤ本体110の内面の変形量を算出する。DIC法は2つのデジタル画像データの差異に基づいて変形量を算出する方法であるが、DIC法自体は公知の方法であるため、ここでの詳細な説明は省略する。特に、本実施形態では、一つのカメラ50で撮影した時系列的に異なる2つの画像データにDIC法を適用するだけでなく、これらと同期をとったもう一つのカメラ50で撮影した時系列的に異なる2つの画像データにもDIC法を適用する。従って、3次元的な変形量を算出できる。
【0050】
(タイヤ試験装置の効果)
本実施形態によれば、図1および図2に示すように、タイヤ本体110とリム120が組み合わされた試験タイヤ100を使用しているため、空気入りタイヤとしての実際の内圧を再現でき、路面台10と回転装置20と荷重装置30とを使用しているため、自動車に取り付けられた際に実際にかかる所定の荷重を再現できる。そのため、実使用状態に近いタイヤ本体110の変形状態を把握できる。また、2つのカメラ50は、リム120に取り付けられており、タイヤ本体110の内面を2つのカメラ50によって撮影できる。特に、2つのカメラ50は、撮像領域が重複するように配置されている(図4の撮像領域IA参照)。重複した撮像領域IAで撮像された2つの画像データを確認することで、タイヤ本体110の内面の3次元的な変形状態を確認できる。このとき撮像された画像データは、記憶メモリ51に記憶される。記憶メモリ51に記憶された画像データから、演算部43によってDIC法を用いた変形量の算出が実行される。従って、タイヤの実際の内圧および荷重での試験タイヤ100の3次元的な変形量を正確に測定できる。
【0051】
また、本実施形態によれば、回転制御部41によって回転装置20を制御し、試験タイヤ100を連続的に回転させて撮影できるため、連続的な変形状態を把握できる。従って、例えば自動車の走行中のタイヤの変形量を測定できる。
【0052】
また、本実施形態によれば、試験開始とともに照明装置52を点灯し、試験終了とともに照明装置52を消灯することによって、2つのカメラ50を同期させることができる。従って、正確なデータ処理が可能となり、3次元的な変形量の測定の精度が向上する。
【0053】
また、本実施形態によれば、図3に示すように、リム120の凹部123内にカメラ50を配置しているため、試験タイヤ100を組み上げる際にもカメラ50がリム組みの邪魔にならず、タイヤ本体110を容易にリム120に装着できる。
【0054】
また、本実施形態によれば、図5に示すように、タイヤ本体110の接地領域GAの外側の過渡領域TAの変形状態を撮影できる。タイヤ本体110の接地領域GAは、地面と接触している部分であるため平坦な形状となっている。そのため、接地領域GA自体を撮影しても平坦面の画像データが得られるのみである。換言すれば、接地領域GAの外側の領域が、湾曲面から平坦面へと変形する過渡領域TAである。測定結果として欲しい情報は、この過渡領域TAの変形状態であることが多い。上記構成では、接地領域GAより小さい領域または接地領域GAと同じ領域を撮像領域としておらず、過渡領域TAを含むように接地領域GAよりも広い領域に撮像領域IAを設定している。そのため、接地領域GAだけでなく過渡領域TAの変形状態をも確認できる。
【0055】
また、本実施形態によれば、荷重装置30が、X軸,Y軸,Z軸方向の並進力Fx,Fy,Fz、および、X軸,Y軸,Z軸まわりの曲げモーメントMx,My,Mzのように6軸方向に荷重を付加できるため、旋回時の状態や傾斜路面走行時の状態などのような様々な状態を再現できる。
【0056】
(変形例)
回転制御部41は、上記のように試験タイヤ100を連続的に回転させることに代えて、撮像領域がタイヤ軸Lの真下および真上に位置したときに試験タイヤ100の回転を停止するように回転装置20を制御してもよい。この場合、試験タイヤ100の内部では、試験タイヤ100の回転が停止したタイミングでカメラ50によってタイヤ本体110の内面が撮影される。すなわち、撮像領域がタイヤ軸Lの真下および真上に位置したときの合計2回、タイヤ本体110の内面が撮影される。このようにして得られる画像は、時系列に沿った連続データではないため、同期をとる必要はない。よって、照明装置52は点灯状態のままであってもよい。
【0057】
撮像領域がタイヤ軸Lの真下に位置したときの1組の画像データ(変形状態のデータ)と、撮像領域がタイヤ軸Lの真上に位置したときの別の1組の画像データ(非変形状態のデータ)とから、演算部43によってDIC法を用いて3次元的な変形量が算出される。
【0058】
本変形例によれば、接地状態と非接地状態のタイヤ本体110の内面形状の変化を対比して把握できる。具体的には、撮像領域IAがタイヤ軸Lの真下に位置したときが接地状態となり、撮像領域IAがタイヤ軸Lの真上に位置したときが非接地状態となる。そのため、回転制御部41によって回転装置20を制御し、撮像領域IAがタイヤ軸Lの真下および真上に位置したときに試験タイヤ100の回転を停止して撮影することで、接地状態と非接地状態のタイヤ本体110の内面形状の変化を対比して把握できる。この構成では、静止状態での荷重に対するタイヤ本体110の変形状態を確認できるため、例えば自動車の停止時に対応したタイヤの変形量を測定できる。
【0059】
(第2実施形態)
図7に示すように、本実施形態のタイヤ試験装置1は、4つのカメラ50と、2つの照明装置52とを備える。これらに関する構成以外は、第1実施形態のタイヤ試験装置1の構成と同様である。従って、第1実施形態の構成と同様の部分については同様の符号を付して説明を省略する。
【0060】
前述の第1実施形態では、2つのカメラ50がリム120に取り付けられていたが(図4参照)、以下の第2実施形態では、4つのカメラ50,53がリム120に取り付けられている。詳細には、2つのカメラ50が一組にされ、重複した撮像領域IA1を形成し、別の2つのカメラ53が一組にされ、重複した撮像領域IA2を形成している。一組のカメラ50の重複した撮像領域IA1は、別の一組のカメラ53の重複した撮像領域IA2とタイヤ軸Lまわりに位相が実質的に180°ずれている。即ち、一組のカメラ50の重複した撮像領域IA1がタイヤ軸Lの真下に位置するとき、別の一組のカメラ53の重複した撮像領域IA2はタイヤ軸Lの真上に位置する。
【0061】
タイヤ周方向において、一組のカメラ50の間には照明装置52が設けられ、別の一組のカメラ53の間には別の照明装置54が設けられている。照明装置52は撮像領域IA1を照らし、別の照明装置54は撮像領域IA2を照らす。
【0062】
本実施形態によれば、接地状態の変形部位と、非接地状態の非変形部位とを同時に撮影することができる。このように、タイヤ試験装置1に使用されるカメラの数は特に限定されず、撮像領域を重複させた2つのカメラを一組として任意の組数設けることができる。また、カメラ50,53の相対的な配置も特に限定されず、タイヤ軸Lまわりに位相が実質的に180°ずれた配置以外に、例えばタイヤ軸Lまわりに位相が実質的に120°や240°ずれた配置等を採用してもよい。
【0063】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 タイヤ試験装置
10 路面台
20 回転装置
21 モータ
22 タイヤ支持軸
23 タイヤ取付部
24 L字金具
30 荷重装置
31 フレーム
32 モータ
33 摺動部材
34 並進移動装置
35 路面駆動装置
40 制御装置
41 回転制御部
42 荷重制御部
43 演算部
50,53 カメラ
51 記憶メモリ(記憶部)
52,54 照明装置
100 試験タイヤ(タイヤ組立体)
110 タイヤ本体
111 ビードコア
112 カーカス
113 ベルト
114 トレッド部
115 ビード部
120 リム
121 リムバルブ
122 フランジ部
123 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7